◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
空気を突き破って何かが進む音が連続し、その一瞬後に壁を爆砕し、大きな穴を作りあげる轟音が響く。密室だった部屋の壁には、他の道へと出る
レベル5の第四位、麦野沈利の能力だ。これは本来、粒子と波形のどちらかに属する筈の電子を、その中間の『曖昧な』状態で固定し、強制的に操作する能力。その曖昧なままの電子を白い光線として放つ事が出来、それは絶大な破壊力を持つ。なにせ、分厚い金属の壁ですら紙の様に打ち貫き、融解させてしまうのだから。
その破壊力が、今の状況を作っていた。磁力で壁や天井に逃げ回る御坂美琴を追い詰めながら、次々と破壊の限りを撒き散らす。また、これは御坂とは違った形だが電子を操る能力だ。つまり、御坂美琴の電撃に干渉し、曲げる事も可能。圧倒的に御坂美琴が不利だった。
そして、それだけでもピンチな御坂美琴に、更なる追いうちが掛かる。それが、滝壺理后の存在だ。彼女の能力は【
その効果は、『AIM拡散力場を記憶し、追跡すること』。この能力を使えば、例え地球の裏側へ逃げようと位置情報を捉えられる。また、AIM拡散力場に干渉して相手の能力を乗っ取ることも可能。とはいえ、乗っ取りに関しては高位能力者に成功する確率が低いので、そこまで多用出来る代物では無い。
とにかく、今御坂美琴を追い詰めるのはその追跡能力の方だ。逃げても壁を気にせず攻撃出来る麦野と、その攻撃対象の位置情報を把握出来る滝壺。この連携はかなり強力だった。
「―――ターゲット、まだ消えてない」
「ちっ……立体に逃げる敵ってのは厄介ね」
とはいえ、そんな連携攻撃に逃げない訳にも行かず、御坂美琴は普通に大穴から逃げた。今この場には姿が無いモノの、その攻撃は未だに続いている。御坂美琴はその攻撃の系統が電子を操る能力故に、その瞬間を察知出来る。それ故になんとか避け続けられているのだが、そこにフレンダの導火線爆破攻撃も加われば厄介以上に敗色が濃過ぎる。
「あれ? 珱嗄?」
フレンダが珱嗄の姿を探す。御坂美琴と同様に、珱嗄の姿は此処に無かった。
◇
「くるっ………なっ!?」
御坂美琴は通路を走りながら、麦野の攻撃を察知した。そしてその察知通り、右の壁を融解させて白い光線が迫りくる。が、それをジャンプすることで躱す。
「まだまだ」
しかし、そんな声が通路に響いた瞬間。躱した光線は何かに曲げられ御坂美琴にもう一度迫った。
「このっ……!」
御坂美琴はそれに能力で干渉して軌道を逸らし、事なきを得る。着地してその声の方を見ると、そこには珱嗄が立っていた。今のは珱嗄が【
「やぁみこっちゃん。こんな所で奇遇だね」
「……アンタ……どうやって私の居場所を……」
「決まってるじゃないか。お前の後ろにぴったりくっ付いてきたんだよ………ずうっと、ね?」
「ストーカーかよ」
「嫌だな、そんな言い方は止めてくれ。言うなら
Run of moneyな逃走中ではない。決して、御坂美琴の背後から……ハンター……! とか思ってなんかいない。
ともかく、珱嗄が麦野達の攻撃パターンに組み込まれた事で、更に追いこまれたのは確かだ。
「てゆーか、みこっちゃん」
「みこっちゃん言うな……っていうかあたしが御坂美琴だってことはもうバレてんのね……」
「え、そうだったんだ。適当に呼んでただけだから知らなかったよ。へぇ、お前ってレベル5の第三位の御坂美琴だったんだ~……なるほど、つまり【
「こいつ腹立つっ………!!」
珱嗄は人を馬鹿にする事に関しては超一流。それが例え学園都市が誇るレベル5の超能力者であっても、例外ではないのだ。
だが、この場合状況が状況だ。珱嗄は御坂美琴とそんなやりとりをする間でも、迫りくる光線を御坂美琴の方へと修正している。とはいえ、珱嗄の方から自分の方へ向かってくると分かっていれば、御坂としても躱すのは容易かった。
「うーん……中々当たらないなぁ」
「……アンタの能力、あのレベルの攻撃を折り曲げられる位だし……相当のレベルね。念動力か、光学操作系の能力か……それは分からないけど、どうやら発動には触れる必要があるようね」
「大正解。飴ちゃんをやろう」
「……要らないわよ」
「何だその間は。迷ったな? ちょっと迷ったな?」
「うっさい!」
珱嗄から投げ渡された飴を、全力投球で投げ返す御坂。こんなところでも無駄に体力を使っていた。
「ん―――?」
『ザ―――ザザ……珱嗄? 貴方今何処にいる訳?』
「みこっちゃんの目の前にいますが」
『……私の能力を曲げたから察してはいたけど……やっぱりそいつ、御坂美琴なのね?』
「そうらしいよ? 今さっき馬鹿正直に自分から名乗ったから確かでしょ」
『ふーん……案外間抜けなのね……まぁいいわ。珱嗄、フレンダ達はもう離脱させたから貴方も離脱しなさい。絹旗の方を援護して頂戴』
「へーい、了解。リーダー」
麦野から無線を利用してやってきた通信を切って、珱嗄は警戒する御坂美琴に視線を移動させて、ゆらりと笑った。
「良かったね、みこっちゃん。こっから先は一対一だってよ。二人っきりで存分にラブって頂戴。んじゃ」
珱嗄はそう言って、御坂美琴に背中を向けて去っていく。御坂美琴は、珱嗄の背中が見えなくなるまで、警戒を緩めず視線を逸らさなかった。
恐らく本能か、勘かで察していたのだ。本当にヤバいのは麦野沈利でも、滝壺理后でも無く、他でも無い珱嗄なのだという事を―――
◇ ◇ ◇
「あ、珱嗄! 何処行ってた訳よ、もう!」
「悪かったよフレンダちゃん。そうぷりぷりしないでくれ」
「ふん!」
「珱嗄……ターゲットは……?」
「んー……しばらくは麦野ちゃんと戦うんじゃね? ま、運が良ければ逃げ切ると思うよ? ヒロインだし」
メタ発言だった。二人とも珱嗄の発言に首を傾げるが、早々にボックスカーに乗り込んで絹旗の待つ施設へと向かう事にした。
「そういえばフレンダちゃん。爆弾の方幾つか回収しといたぜ」
「あ! ありがとう! 忘れてた訳よ」
「まぁまだ幾つか残ってたけど……どうせみこっちゃんが使うでしょ」
「う……全部回収してくれたわけじゃない訳ね……結局、麦野が怒らないか不安な訳よ……」
フレンダはそう言って肩を落とした。珱嗄はフレンダから滝壺の方へと視線を移動させる。見れば、かなり消耗している様だった。息も荒く、顔も青白かった。
これが『体晶』の副作用。身体に多大な負荷を与えるのだ。故に、このまま使い続ければ勿論能力は使えなくなり、身体を動かすことすら出来なくなる。今はまだいいが、早々に治療を行なわなければならないだろう。
「……ま、そういうのは主人公とかがやってくれるでしょ」
「?」
「なんでもないよ。ちょっと横になったら? 滝壺ちゃん」
「うん……大丈夫。ありがとう、珱嗄」
珱嗄はそういう滝壺に対して、ゆらりと笑って頭に手刀を落とした。
「寝てろアホめ」
「……きゅう」
珱嗄はフレンダを自分の隣に座らせ、空いた長椅子に滝壺を寝かせた。
「確かにその方がいいかもと思ったけど、問答無用すぎる訳よ……」
フレンダは一人、そう呟いたのだった。