◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
それから、大覇星祭は何も無いままに終わった。四日目、五日目、六日目、そして七日目、一週間の大騒ぎは、何者かの暗躍や魔術サイドの介入、学園都市の闇等の行動もあったが、無事に終わった。
何かあったかと言われれば、特に何も無い。島風ちゃんらと一緒に回ったり、レベル5勢とちょいちょい会ったり、弄ったり、此処までの大覇星祭でやった事の焼き直しの様な日々を過ごした訳だ。アイテムの仕事でとある研究施設をぶっ潰したり、ファミレスで久々に五人一緒にテーブルを囲んでグダグダしたり、上条ちゃんの家に乗り込んで大量に買い込んだたこ焼きを振る舞ったり、常盤台中学の競技に出ているみこっちゃんを見て鼻で笑ったり、屋台の品物を打ち止めにせがまれているセロリを見かけたり、とまぁほんの日常を楽しんだ訳だ。
魔術サイドの暗躍については、たこ焼きパーティの際に上条ちゃんやインデックスちゃんに聞いた。どうやら大覇星祭初日の話らしく、木原幻生とあれこれやりあってる最中に終わってたようだ。残念だけど、過ぎたことを気にしても仕方が無い。
とはいえ、今日は大覇星祭最終日の翌日。時間が跳んだ、と言われればまぁその通りだけども、何のイベントも無いんじゃ仕方が無い。
でだ、そんな訳で大覇星祭も終わったこの日に、俺はというと特に何もしていなかった。場所は何処か知らないけど窓も何も無いただ長方形に伸びた黒いコンクリートの塊の様な建物の屋上で、ぐでーっと寝っ転がっているだけだ。
この窓の無いビルの中に統括理事長であるアレイスタークロウリーが引き籠ってそう、とか思ったりして。まぁ確証も何も無いし、いた所で用も無い。
「暇だ……」
ぼけーっと空を眺めていると、白い雲が一つ二つと流れていくのが見えた。ついでとばかりに飛行機が上を飛行している。見た限り、アレはイタリア行きの飛行機らしい。鍛え上げられたというか、特典として与えられたこの信じられない視力は、遥か上空を飛んでいる飛行機の便や柄までもをはっきりと認識してしまう。改めてチートだなぁと思い直すことこの上ないな。
「イタリアか……」
イタリア。女性に優しいイタリア紳士なんかが蔓延っている芸術にも深く浸透している国だ。水の都とも呼ばれるヴェネツィアや、本場のイタリアンなんかはきっと飽きることなく楽しめるだろう。多少スリなんかの危険性があるが、それでもきちんとした対策を取っていれば日本と大差ない。というか、そもそも俺からスリで財布を取ろうとしたものなら、無意識か反射的にその場で捻りあげてしまうだろうな。
つっても、今の季節じゃイタリアもかなりの猛暑だろう。言語の壁なんかもありそうだし、どうしても行きたいかと問われれば否だ。
ただ、魔術サイドに関わる可能性は学園都市より高いだろうなぁ。イタリアといえばローマ正教の本拠地である可能性大だし、そうでなくとも何とか大聖堂とか魔術っぽい建造物も多い。魔術サイドが全く関与していないとは言えない国だ。ちなみに一番魔術っぽいのは世界最小の国、バチカンだな。
「……どうしようかな」
今も上空で俺の視界を横切ろうとしているあのイタリア行きの飛行機。ぶっちゃけアレにひっついていけばイタリアに旅行に行く事など簡単だ。金も使わないし、手頃な旅行だろう。
と、そんな考えを浮かばせていた時。携帯の着信音が鳴り響いた。画面には『あんぶっ♪』との表示。アイテムに入ってから、麦野ちゃんらが暗部用と私用で携帯を使い分けている事は知っているのだが、それだって情報管理がしっかりしていて、プライベートに関わって欲しくないというだけだ。俺的にはプライベートに掛かって来ようがやりたくなければぶっちぎるからそんな必要はさらさらないわけだ。
学園都市のやみーとか言って生活出来ないように人生お先真っ暗と言われても、正直力づくでなんでも出来てしまうようになってしまったので、全然怖くない。玩具のナイフを突き付けられている様なものだ。
「はいもしもしー」
『泉ヶ仙珱嗄、だな?』
「そうですけど? どちらさまでしょうか」
『ふ、やはり噂に聞く通りだな。情報管理も疎らで隙だらけとは』
「あ、そうっすか。それはどうも、んじゃ」
電話を切った。どうやら間違い電話だったらしい。俺の名前を知っていたけど、多分同姓同名の誰かだろうな。つっても、俺の名乗っているこの名前っつーか名字? 泉ヶ仙なんて名字は存在しないんだけどさ。ハンターハンターの世界の時に作ったからなぁ……やっぱもう少し名字について知ってから作った方が良かったかもしれないなぁ。まぁ、もう慣れたからいいけど。
すると、また着信が鳴った。今日は良く電話の鳴る日だな。
「はいもしもしー」
『電話を切るな。次切ったらお前を監視している者がお前を殺す』
「また間違い電話だよ……ったく、この携帯どうなってんだよ……」
『待て待て、間違っていない! 今日はお前に依頼があるんだ!』
「依頼? ああ、すいませんねぇ撮影はNGなんですよ。事務所通して貰えます?」
『何処だよ事務所』
「統括理事長室に決まってんだろ何言ってんだお前」
『統括理事長室って暗部を学校みたいに言うな!?』
「学園都市だから学校でいいだろうが!」
『お前暗部舐めてんのか!?』
電話を切った。どうやら悪戯電話だったらしい。
このご時世、こんな電話もあるもんなんだな。さて、そんな電話をしている間に上空を飛行していたイタリア行きの飛行機は通り過ぎてしまった。仕方ない、イタリア旅行は諦めるか。
また電話が鳴った。今度は悪戯じゃなければいいけど。
「はいもしもしー」
『…………………あのn――――』
電話を切った。どうやら無言電話だったらしい。
間違い、悪戯、無言、とバリエーションに尽きない連中だな。もしかして俺の電話番号って結構有名? インターネットとかに貼られてたらどうしよう。そうなったら携帯自体解約して今度から梟便を使うかな。やっぱりこの時代携帯なんて時代遅れなのかもしれない。最先端は手紙だよ手紙。一周回ってやっぱり最初に戻るんだよ。すごろくみたいに。
電話が鳴った。今度はなんだ?
「はいもしもしー」
『これで通算四度目だな、こっちの話聞いてるかお前?』
「通算四度目なのに監視しているって人達が遊びに来ないんだけどどういうこと?」
『聞いてんじゃねぇか』
「で、依頼って何?」
『やっとこの話に入れる……依頼というのはだな、実はお前個人に統括理事会から指令が下っているんだ』
「へぇ、ってことはアレイスターからの指令って事か。事務所通ってんじゃん」
『イタリアに行け。日帰りで旅行して来いとのことだ』
「はぁ? 具体的に何かする事は無い訳?」
『詳しくは知らない、が……とにかくイタリアに行けとの指令だ』
イタリアに行け、ねぇ……アレイスターからの指令なら上条ちゃんが関わってそうだけど、多分魔術サイドも関わってるんだろうなぁ……もしかしてさっきの飛行機に上条ちゃんが乗ってたりして、なんてね。
「はいはい了解。それで、どちら様?」
『お前は知らなくても良いことだ』
「はいはい了解。イタリア旅行は無しっと……理由は……そうだな、仲介人がうざかったからで」
『お、オイ待て! そんな理由だと俺が殺される! 分かった! 俺は
「白いモナカ? なんだ美味そうな名前だな
『括弧笑いって口で言う奴初めてだよッ!!』
電話を切った。付き合ってられないわ、何だアイツは。ボイスチェンジャーも使わずに野太い声でキンキン喚きやがって。一体何にイライラしてるんだろうか。カルシウム足りてないんじゃないかな。
「よっと……さて、それじゃイタリア行きますか……」
そういえば、イタリアへはどうやって行くんだろうか? 飛行機用意してんのかな? というわけで、再度電話をしてみる。
「あ、もしもしアレイスター? ちょっと俺イタリア行くんだけどさ、飛行機持ってる?」
『ちょっと金貸してくれない? みたいな言い方で言うんだな、イレギュラー。心配せずとも此方で超音速旅客機を用意している。学園都市から一時間ほどでイタリアに辿り着く事が出来るだろう』
「あ、そう」
『飛行時に少し苦しむ羽目になるだろうが、頑張りたまえ』
「重力なら逸らせば問題ないけど」
『………なら大丈夫だろう。イタリア旅行、楽しみたまえ』
「悔しかったんだ? ごめんね空気読まなくて」
『……………君は私を馬鹿に―――』
電話を切った。さて、それじゃ空港に向かうとしよう。