◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第一競技終了

 珱嗄が気障な彼を倒したことで、向こう側の作戦は完全に瓦解した。

 とはいえ、諦める訳にはいかない。こちらが如何にペイント液塗れになろうが、子供役である汐見栞さえ無事であるのならゴール出来るのだ。故に、敗北したとはいえまだ動ける彼らが取った行動は、即時退却だった。

 

 彼は立ち上がり、珱嗄から距離をとりながら彼女と汐見栞の下へと駆けた。撤退し、珱嗄達より早くゴールすることを目指したのだ。だが、それは失敗に終わる。走り出した先、彼女達は食蜂操祈によって敗北していたからだ。捻り上げられ、地面に組み倒され、その上に女王として君臨する食蜂が座っている。完全に、余裕淡々と、勝利をもぎ取られた光景だ。

 失敗は、食蜂に身体能力を与えてしまったことだろう。気障な彼は食蜂の身体能力が低いと踏んで、能力の阻害が出来るのならば女子二人でも何とでも出来ると思ったのだが、運が悪かった。跳び掛かった二人は、食蜂にゆらりゆらりと攻撃を躱され、簡単に捻子伏せられたのだ。それはもう、美紀が呆然とするほど鮮やかに、綺麗に組み伏せられた。

 

 そしてトドメとばかりに、美紀はペイントボールで栞の体操着を汚した。顔面や身体を汚さなかったのはやはり、珱嗄とは違って純粋かつ思いやりの深い子だからだろう。

 

「あらぁ、妖怪蛍光ピンク男の登場よぉ? 美紀ちゃん、とりあえずあのピンクで汚されないように離れてなさい」

「あ、はい」

「っ……っはぁ……負けたよ。完敗だ、流石はレベル5、能力だよりで終わる訳は無いか」

「と、当然よぉ……」

 

 食蜂は目を逸らしながら冷や汗交じりにそう言って、肯定する。ぶっちゃけ大覇星祭のみでのこのスペックなのだが、敢えて言うべきことでも無いだろう。

 

「ふぅ、それじゃあ僕らは大人しく脱落だ。もう君達しか残っていない訳だし、最後の障害物で躓くなよ?」

「当然だよ。こっちは楽しむ為に来てんだよ。負けるのは面白くない」

 

 気障な彼の背後から、珱嗄が近寄ってそう言う。すると、彼は食蜂の下の彼女やむーっと不満気な表情の汐見栞を連れて去って行った。

 こうして、珱嗄達はこの競技において全ての参加者を脱落させたのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そして、最後の障害物は『高速ペイント』。ガラスによって囲われトンネルを通り抜けるのだが、そこに一定の間隔で隙間なく高速でペイント液が飛来するのだ。そして、中でも一番酷い仕掛けが『AIMジャマー』。能力を使えなくする仕掛けだ。このトンネル内では能力は一切使えない。

 身体一つで少女達を守らなければならないのだ。

 

「こういうのってアリ? ぶっちゃけ能力の有無関係無くね?」

「うーん、多分能力を使えなくなった能力者っていうのが良いんじゃないかしら?」

 

 珱嗄の問いに答える食蜂。とはいえ、此処を越えなければならないのだから仕方ない。

 

「このAIMジャマーの中じゃ逸らす能力は使えないからなぁ……触れる方は使えるけど」

 

 ぼそっと言う珱嗄。原石故に、AIM拡散力場による能力では無い『触れる』能力は使えるのだ。とはいえ、触れるだけでは意味が無い。この能力ではこの状況を切り抜けられないだろう。

 

「と、いうわけで……」

「どうするんですか?」

「どうするのぉ?」

「俺らが護らなきゃいけないのは美紀ちゃんであって、俺らはペイント液塗れでもオーケーってことだ。だから、こうしてっと……」

 

 珱嗄はそう言いながら、自分のパーカーを美紀に着せる。サイズが大きいので、美紀の頭から足首までをすっぽり収まってしまった。フードによって頭まで隠せるのは、幸運だっただろう。そして、そのまま上半身裸の珱嗄は引き締まった無駄のない肉体を晒しながら、その腕で美紀を抱きかかえた。

 美紀は今までと違って、全身を珱嗄に包まれている様な感覚に陥り、少しだけ顔を紅潮させ、何も言えなくなる。

 

「さて、行こうか」

 

 珱嗄は向かってくるペイント液に対して背を向けて、バック走の体勢を取る。食蜂は汚れるのを嫌ったが、仕方ないと諦めてせめて珱嗄を盾にしようと、珱嗄の前に立った。すると、目の前に珱嗄の剥き出しの身体が視界を占めて、逆に集中が乱れるのだった。

 

「じゃ、スタート」

 

 珱嗄はそう言って、後ろ向きで走りだす。トンネルに入ると、早速ペイント液の隙間の無い散弾が高速で飛んできた。それは珱嗄の背中を、足を、頭に当たり、容赦なくペイント液でピンク色に染めていく。それは食蜂も同じで、金髪は所々ピンク色になり、体操服もピンク糸に染まっていく。美紀だけがパーカーに守られて、ペイント液から逃れる。

 

「―――ふッッ!」

 

 弾が切れ、一旦ペイント液が止まった瞬間に珱嗄は食蜂の腕を掴んで全力でバックステップ。トンネルを一気に抜けた。そして、第二射が発射される前に跳躍、第二射を躱しながらその先にあるゴールへと、着地した。

 

「っと……ふぅ、美紀ちゃんもういいよ」

「ぷはっ……ありがとうございます!」

「ねぇ、私いきなり引っ張られた上に第二射躱せてないんだけど。何コレ? 虐め?」

「ははは、真っピンクじゃん。操祈ちゃん」

「珱嗄さんだってっ……あれ? なんでペイント液付いてないの?」

「ああ、全部落とした」

「どうやってよ!?」

 

 実際には、珱嗄は触れる能力でペイント液を全て受け止めていた。故に、勢いを失ったペイント液は全て珱嗄の身体に付着する前に地面に落ちていたのだ。結局の所、この障害物でピンク色になったのは食蜂だけだった。

 

「なにはともあれ―――俺らの勝ちだ」

 

『ゴーーーーール!!! この恋人繋ぎ第一競技、唯一ゴールしたのは、泉ヶ仙珱嗄・食蜂操祈ペアだぁああああああ!!』

 

 歓声が巻き起こり、珱嗄は楽しそうにゆらりと笑った。

 

 

 


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