◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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マイペース珱嗄

 学園都市という都市には、学生のほぼ全員が認識している、確固たる上下社会が出来上がっている。それは、同じ学校の先輩後輩とか、同じ部活の先輩後輩とか、先生と生徒とか、そういう一つのグループ内の年功序列というわけではない。

 

 超能力があるか、ないか、という事だ。

 

 まず最初に言っておくが、学園都市に存在する230万人の学生達の内、その6割は無能力者(レベル0)である。

 つまり、学園都市ではっきり効果を発揮しているのが分かる程の能力を保有している学生は、実は全人口の半分にも満たないのだ。学園都市のカリキュラムの大半は能力の開発という事もあって、学園都市内では能力者が無能力者を虐げる事も少なくない。逆に、無能力者も能力に憧れるので、才能が無いと烙印(レッテル)を貼られる事で非行に走る者も数多くいる。

 そしてそういう非行に走った無能力者達、所謂不良と呼ばれ、学校にも行かない様な生徒達を総称して、武装無能力集団(スキルアウト)と呼ぶのだ。そしてスキルアウトと対象的に、都市内の犯罪を取り締まる能力者で構成された組織を、風紀委員(ジャッジメント)と呼ぶ。

 

 こういった要素と生徒達の認識から、学園都市内で、能力者と無能力者の無意識下の上下関係が出来上がっている。また、レベルの高い能力者ほど、自分の力に酔いしれ、無能力者を見下す事が多い。

 

 

 だが、

 

 

 けして、無能力者(レベル0)超能力者(レベル5)に適わないというわけではない。

 結局の所、能力を持っている者が、能力を持っていない者に確実に勝っているのは、言ってしまえば超能力だけだ。裏を返せば無能力者はその分身体を鍛えて身体能力面で能力者より上に行く事も出来るし、一芸を極めて能力者に差を付ける事も出来る。何も能力だけが勝負の方法ではないのだから。

 

 そういう意味では、能力者との戦闘で無能力者が勝つ事も、方法と戦略によっては可能なのだ。

 

 つまり――――

 

 

 フレンダ(無能力者)御坂美琴(超能力者)を追い詰めていた。

 

 

「学園都市特製の気体爆薬―――『イグニス』。吸っても身体に害はないけれど、室内に解放されれば一気に拡散して部屋中を満たし、火花の一つで連鎖爆発を起こす。謂わば、この部屋自体が強力な爆弾という訳よ。もし、電気なんか起こしたらどうなるか―――……」

「っ………!?」

 

 追い詰められたフレンダは、入口を塞ぎ、室内を密室へと変えた後、配管工の中に仕込んでおいた大量の爆弾入り人形と、あらかじめ仕込んでおいた導火線ツールを組み合わせ、退路の無い状況を作りあげた。だが、走る火花は御坂美琴が磁力で持ち上げられた床によって打ち切られ、爆弾は爆破されなかった。

 だが、その後もスタングレネードによる五感封じおよび小型ミサイルを使った攻撃で善戦するも、電磁波で空間把握が出来る御坂美琴はそれをなんなく回避。逆に油断したフレンダの背後を取る事に成功していた。

 

 だが、その後もフレンダは諦めず、小瓶に入った気体爆薬を投擲。御坂美琴はこれを電撃で対処するも、電気に触れた気体爆薬は普通に爆発した。といっても少量故に、御坂にはなんのダメージも入らなかったが。

 

「どう? 能力を封じられた気分は?」

 

 だが、彼女はそれを"ハッタリ"として利用する。配管の中に詰めていた窒素ガスで部屋を満たし、それを『気体爆薬』と嘯く事で、御坂美琴の能力を嘘で封じたのだ。

 まんまとその嘘に引っ掛かった御坂美琴は、電気を出す事は出来ず、磁力で鉄塊を操るのも摩擦で火花が出る事を恐れ、使えない。全面的に能力を封じられたのだ。

 

「じゃ………ゆっくりやらせて貰う訳よ!」

 

 フレンダは爆弾を使わず、単身で近接戦闘を開始した。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 そんな中、珱嗄はというと

 

「回収回収全回収っと……」

 

 フレンダの爆弾入りぬいぐるみを回収していた。その数は数十を超えるのだが、御坂美琴のせいでフレンダの労力は無駄に終わってしまった。まぁ次の依頼で使用すれば良いので、爆弾費用や労力の成果は次回に持ち越しになっただけなのだが。

 

「んー……フレンダちゃんは中々上手いハッタリを使って追い詰めてるみたいだし……爆弾使って援護も止めといた方がそさそうだし……ぶっちゃけ暇だな」

 

 此度の戦闘において、特に戦闘らしい戦闘はしていない。軽い援護はしているものの、やはりフレンダが一人で殆どの戦闘を進めているのだ。とはいえ、珱嗄の状況把握はこの場の誰よりも正確だった。

 

「麦野ちゃんと、滝壺ちゃんはもう施設内に入ってるみたいだし……直に此処に来るだろ……フレンダちゃんがみこっちゃんを倒せば最良、負けても麦野ちゃん達が来ればどうとでも出来る……まぁ俺の手助けはいらないかね?」

 

 気配とは、微かな足音や息遣い、話し声、空気の動き、体温等から感じ取る事が出来るものだ。珱嗄の鋭い五感はそれを壁越しの振動や空気の動きを察知して感じ取る事が出来る。故に、この施設に入った時から研究員がいない事を察知していたし、麦野と滝壺が歩いて来ている気配を察知する事も出来たのだ。

 

「……いや、違うな。仮にもレベル5、戦闘じゃ勝つ事はないだろうけど、俺達から逃げる事はギリギリ可能、か?」

 

 珱嗄はフレンダと御坂美琴の勝負を見る。現在、フレンダがいっちょ前に習得した体術で御坂美琴を圧倒しているものの、御坂美琴もそこそこ体術の心得があるのか躱し続けている。珱嗄からすれば拙い体術ではあるものの、拮抗した勝負はやはりどこかで崩壊する。

 

「お?」

 

 御坂美琴が攻勢に出た。電気を起こせず、また踏み込み等の摩擦を恐れ、取った手段は絞め技。フレンダの首を背後から腕で絞めて呼吸困難による気絶を狙う。

 

「だぁらっしゃああいい!!」

「うぐっ……!」

 

 だが、フレンダもただ絞められてる訳にもいかない。背負い投げの要領で御坂美琴を投げ飛ばした。

 

 が、その拍子に導火線ツールに火を付けていた工具がスカートの中から幾つか零れ落ちた。そして、それは地面に張り巡らされていた導火線ツールの上に落ち、火を付けた。

 

「なっ……!?」

「よっとー」

 

 珱嗄はフレンダを抱き上げ、その導火線上から退避させる。浮いた足の下で火花が通過していくのを見て、フレンダはぞっとする。少しでも遅れていれば下半身が吹き飛んでいたのだから。

 

「あ、ありがと珱嗄」

「おうよ」

「―――は、はははは……」

 

 だが、これによって御坂美琴に対して吐いた嘘は、見破られる。気体爆薬は、火花を散らしても気体爆薬として機能しなかった、爆弾とは幻想で、その幻想は殺されたのだ。つまり、御坂美琴は存分に能力を使っても良いという事になるのだ。

 

「結局、私も詰まらないハッタリに騙されたって事か……ははは、結局だって、移っちゃったかな?」

「いや知らねーけど」

「………アンタは?」

「最初から居たんだけどなぁ……電磁波で空間把握ってもそんな確かなもんじゃねーのか」

「……まさか……アンタ……あの時の!?」

 

 御坂は珱嗄の顔を見て、公園で会った一般人だと理解する。だが、一般人であった珱嗄は、もはや一般人では無くなってしまった。常識の世界にいた光の人間は、一転して非常識の世界の闇の人間に変わっていた。

 

「どうも、昨日ぶり、俺の名前は――――まぁ教えちゃいけないんだけど」

「どうでもいいわよ。アンタの名前なんて………やっぱり、あの実験に関わる人間だったのね」

「いーや? 俺はお前の言う実験に付いては何も知らないし、知るつもりも無い。ただ、クライアントから要求された依頼をこなすだけだ。つまり、お前から此処を守れば俺らはそれで良い訳だ」

「……なるほど、つまりはまぁ頼まれれば何でもやる裏の組織的な奴な訳ね」

 

 御坂美琴はその手にビリッと電気を発生させ、威嚇する。

 

「裏の組織的な奴とかお前中二病か。ああ、確か中学二年だもんね」

「違うわよ!?」

「いやいや、拒否すんなって。さっきお前爆弾入りぬいぐるみの中にあったカエルの人形に反応してたし、その年で子供向けファンシーグッズが好きなのはちょっと成長遅いかなって思うけど、その上中二病まで患ってたらまぁ手遅れ極まりないよね。最早手の付けようも無い子だよ。やれやれコレだから子供は……」

「えーとこの状況って確かシリアスなバトルシーン突入じゃなかったっけ? なんでこんなほのぼのした掛けあいしてるんだろう?」

「お前何言ってんの?」

「アンタがそれを言うの!?」

 

 珱嗄はそんな威嚇にも動じずに御坂美琴を弄り始めた。所謂時間稼ぎだ。麦野や滝壺が此方へ援護に来ている以上、珱嗄が無理に戦闘する必要はないのだから。とにかくここは時間を出来るだけ稼いでどうにか場を繋ぐに限るのだ。

 

「お、珱嗄。アイツ、知ってるの?」

「ああ、まぁ知ってるね。公園で良く缶蹴りした仲だよ」

「貴方三日前に学園都市に来たばっかで何してんの!?」

「私はアンタと缶蹴りした覚えはない!!」

「何言ってんだ。俺もお前と缶蹴りした覚えはねーよ」

「「アンタが言ったんでしょうが!」」

 

 フレンダと御坂の息がぴったり合った。そして興奮した御坂美琴がガシガシと頭を掻きながら電撃を放ってきた。威力は全力とは程遠いけれど、人の意識を奪う程度には力を持っている。

 だが、それは珱嗄達にぶつかる寸前で真横から襲い掛かって来た薄緑に光る光線に掻き消された。

 

「あ、来た」

「なっ……私の電撃が……っ!?」

「はーい、時間稼ぎ御苦労さま珱嗄。貴方も結構やるじゃない」

「まぁ無理に戦闘しなくてもいいかなって思って。後は全部投げるからよろしく」

「私も結構我が強い方だけど、貴方はそれ以上にマイペースよね!」

「俺の個性なんで、これからもこんな感じで行かせて貰おうと思ってます」

「知らねぇぇええええ!!!」

 

 珱嗄のせいでシリアスが台無しだ。御坂美琴はもうこの隙に先に進んじゃえば良いんじゃね? と考え始めている。勿論そんな事は許されない。

 

「ほら、みこっちゃんが呆然としてるよ? そろそろ相手してあげないと。案外構ってちゃんな所があるから寂しくて死んじゃうよ?」

「私はウサギか!?」

「はぁ……まぁいいわ。とにかく……アンタに好き勝手やられるのはこっちとしても困る訳。ともかく、死んでもらうわよ。謎の侵略者(インベーダー)さん♪」

「っ……」

 

 麦野と御坂は向かい合う。学園都市の誇るレベル5の序列第3位と第4位が、何やら微妙な空気の中、衝突しようとしていた。

 

 


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