◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
それから、脱落した初瀬遊里達を置いて進む珱嗄達を、自意識を持って追い掛けているペアは4組。ペイント液の雨、ペイントボールの空間は、思いの外多くの参加者を脱落へと追い込んだ。能力の相性というのもある訳で、やはりペイント液の雨はまだしもペイントボールを対処出来るペアはそう多くなかったようだ。
とはいえ、順位としては珱嗄達が一位を不動のものにしている。二番手にはなんと、追い上げて来た島風沙耶らのチームがいる。レベル3の身体強化能力を持つ男が、珱嗄と同様にペアの女子と島風沙耶を抱きかかえて走っているのだ。その速度は、珱嗄を除けば参加者中トップを誇る。そして、その速度でギリギリ追い付ける程度の速度を保って走っている珱嗄からすれば、直に追い付こうとしている彼らのチームは、中々に期待の出来るチームであった。
そして先んじて辿り着く、第三の障害物。『○☓通り抜け』。
設置された○と☓の壁のある道があり、そのどちらかを通り抜けていくのだ。○と☓の壁は障子紙であり体当たりすれば破れる脆さだ。当たりの道はそのまま進む事が出来、外れの道はペイント液の沼が用意されている。無論、外れを選んでも能力や何かしらの方法で沼を回避するのはアリだ。
「どっちに行く?」
「○ですかね?」
「いや、☓よぉ☆」
走りながら問う珱嗄に、背負われている二人は対照的な答えを出す。珱嗄はそれを聞いて、☓へと突っ込んだ。理由は簡単、食蜂の言葉には確信があったからだ。周囲に判定員として配置されていた監視員の心を読んで、どちらが当たりなのかを知った訳だ。珱嗄的にも、勘で☓を選んでいたので迷うことは無い。
突っ込んで、抜けた先には普通の道が続いていた。となりには○を抜けた際に用意されていたペイント液の沼が見える。だが、外れではないので、関係無い。
「なんで分かったんですか?」
「操祈ちゃんが監視員の心を読んだんだよ」
「ああ……なるほど……」
美紀が納得した様子で頷いたのを一瞥しながら、珱嗄は更に先へと走る。
だが、そこで危険を察知。珱嗄はバックステップでその場を後退する。刹那、先程まで居た場所を炎の弾が攻撃し、辺りに熱風を撒き散らした。
「………追い付いてきたなぁ……お嬢ちゃん達」
「はぁ? アンタすっごく弱そうね! 跪いて私の靴でも舐めてるのがお似合いよ!」
「その発言は不特定多数の大きなお友達が歓喜の悲鳴を上げるから止めておいた方が良い」
「意味分かんないし……ほんっと見た目通りの貧弱男ね、はっ倒されたくなければそこを退きなさい!」
さて、追い付いてきたのは島風沙耶のいるチーム。珱嗄に向かってこんなドSな言葉を吐いているのは弱冠9歳の小学三年生、島風沙耶その人である。シュシュで黒髪を括った彼女は、縞々の白黒ハイニーソックスで包まれた細くもしなやかな足を大きく開いて仁王立ちだ。小馬鹿にした吊り目の瞳は生意気に此方を見ており、にやりと吊り上げられた口元はとてもイラッとくる。
だが、彼女はそれ以上に女王様気質だった。気に入らない相手は須らく平伏させると考えている。そして、自分こそが最強なのだと言わんばかりの自信が漏れ出ていた。
「なぁ美紀ちゃん、あの子何なの? 社会でやってけないタイプの子だよアレ」
「と、言われましても……沙耶ちゃんはいつもあんな子なので……」
「こっちにはマジもんの女王がいるけど………あっちはなんというか、真性の女王様タイプだな。足蹴にして泣かせてやろうか」
「止めてあげてぇ!?」
珱嗄は食蜂のツッコミを無視して島風を見る。男女ペアは彼女に口を挟めない様で、力のヒエラルキーは完全に彼女が頂点らしい。能力的に言っても、彼女が一番強いのだろう。
「はぁ……面倒な子だな。よーし各個撃破な、操祈ちゃんはあの男、美紀ちゃんはあの女を、俺が島風沙耶とかいう小生意気な小娘をやろう」
「まぁ身体強化なら私の敵じゃないしねぇ」
「女の人は分かりませんが……頑張ります!」
珱嗄の言葉に、向こう側の意図を理解したのかそれぞれ散開して各自対峙する。珱嗄の目の前に佇む仁王立ちの少女、島風沙耶は意地の悪そうな笑みを浮かべて闘志を瞳に燃やす。対して珱嗄はゆらりと馬鹿にした笑みを浮かべて、嗜虐心を滾らせながら少女を見下した。
人外は、良く人を弄る。からかって、時にやり過ぎる時もあるけれど、悪びれない。だが極稀に、意図的にやり過ぎる様に弄る時がある。相手をマジで泣かせようとしている時だ。その理由は様々だが、気まぐれや思い付きがほとんどの理由を占める。
今回の理由は、生意気で女王様気質な少女を、跪かせて見下しながら、泣かせてやりたくなったから。
戦闘とは違う。ただ弄る為に、珱嗄はその嗜虐心を持って、老若男女関係無い平等で平等な鬼畜の所業を開始する。