◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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一歩先んじて

 さて、全参加者の中で先んじた珱嗄達は、ペイント液の雨を珱嗄の能力で通り抜けた後、抱えられた食蜂と美紀を下ろし、三人で走っていた。三人の速度は基本的に一番足が遅く、体力の無い食蜂の速度に合わせられており、その速度は走っているというよりは最早早歩きだった。といっても、食蜂は既に荒々しい息遣いで、へろへろと前のめりにゾンビの様だった。

 とはいえ、その精神力と鋭敏化された感覚は健在であり、支配した参加者の大多数は全てペイント液の雨によって脱落させられたようだ。残ったのは、結局食蜂の支配を抵抗出来た十数組のみ。その中にはあの島風沙耶もいた。

 

 順位で言えば、珱嗄達はぶっちぎりの一位であり、島風沙耶が付いているペアは九位となっている。差は歴然だ。

 

 そして、続いての障害物に珱嗄達は辿り着く。この競技内では、全部で5つの障害物があり、その全てをクリア出来れば基本的には走力の勝負である。よって、障害物を如何に利用しつつ、相手より速くゴールするかが重要になって来るのだ。

 ちなみに、この競技中でペイント液に当たり、汚れてしまった服は運営委員会の方で同じものが買い与えられることになっている。

 

「次の障害物は……あれか」

「ぜぇ……ぜぇ……つ、次は……何?」

「大丈夫? 操祈お姉さん……」

「だ、大丈夫よぉ……!」

 

 どう見ても大丈夫では無い様子だが、とりあえず強がりを言っている間はなんとかなるだろう。珱嗄はそう考えて、障害物を確認する。そこにあったのは、ランダムにペイントボールが飛び交う空間。ボールの射出機が至る所に配置され、発射されたペイントボールは学校側が用意した念力能力者によってランダムに空中を飛び交っていた。どうやら、今度は機械的な障害物では無く、人の意思が介入した、人による妨害らしい。

 

 名付けて『雑踏色災(スーパーカラーボール)

 

 珱嗄はまた逸らす能力を使えばいいかと思ったのだが、その前に長峰美紀が一歩前に出た。

 そういえば、小学生達も競技に手を出していいのだったな、と珱嗄は思い直す。そして、一歩前に出たということは、何か手段があるということなのだろう。

 

「珱嗄お兄さん、私を肩車してくれますか?」

「ん、いいよ」

 

 珱嗄は大きく足を開いた美紀の股の間に頭を入れ、そのまま立ち上がる。美紀は少しふらついたものの、なんとかバランスを取って丁度座りやすい位置にその腰を下ろした。珱嗄と美紀の肩車はなんというか、危ない絵面だった。

 食蜂もぴしっと固まってしまっている。

 

「操祈お姉さん、珱嗄お兄ちゃんの後ろをぴったりくっ付いてきた下さいね?」

「え、あ、うん」

「では進んでください。珱嗄お兄さん」

「あいよー」

 

 珱嗄は指示に従って歩く。珱嗄の服を掴んで文字通りぴったりとくっついて歩く食蜂は、少しだけ顔が赤くなっていたが、しかしそれを珱嗄は見ることが出来なかった。

 そして、そのまま三人がペイントボールの飛び交う空間に入った瞬間、念動力者は一斉に珱嗄達へペイントボールを殺到させる。その数は時間が経つごとに増えていく―――が、

 

 

 しゅぼっ!

 

 

 ライターで火を付けた様な音が響いた。そして、その瞬間珱嗄は見た。自分達に迫っていた全てのペイントボールが、

 

 

 

 

 光と共に消滅したのを

 

 

 

 

「迫って来るペイントボールは全て私が撃ち落とします。なので、珱嗄お兄さんは気にせず進んでください」

 

 美紀はそう言って、小学生とは思えない真剣な瞳で未だ目の前で飛び交うペイントボールを見据える。どうやら、彼女の能力『光力掌握』によって生成された『光線(レーザー)』によって、ペイントボールが全て消し飛ばされたらしい。簡単に言えば、虫眼鏡で日光を集めて一点を焼く実験の凄い版だ。見た目的にはレベル5の第四位『原子崩し(メルトダウナー)』に似ているが、その光はまさしく純白であり、一切の影も色の存在も許さない。

 そして、その光に触れたものは容赦なく焼き、消滅させる。文字通り光を掌握した能力と言えよう。

 

 ただ、凄まじい能力ではあるものの、それには多大な集中力が必要になる。未だ小学生である彼女は、この能力を発動している間一歩も動けないのだ。更に言えば、未だ身体も脳も未発達である彼女は、あまり長い間能力を発動出来ない。ぶっ続けなら5分と持たない。休み休みならば30分は持つが、それ故にレベル4。

 現存する学園都市に存在するレベル4の中で、レベル5に達する可能性を持った者の一人である。

 

 とはいえ、能力の操作性、威力、物量、どれにおいてもレベル5級の効果を発揮する彼女は、今の肩車のように移動を手助けしてくれるパートナーがいれば、文句なしにレベル5と同等の実力を発揮出来る。

 

「凄い能力だな……それに、綺麗だ」

 

 珱嗄は進みながら、目の前をキラキラと走る光のラインが綺麗に残光を残している光景に、そう感想を漏らした。まるでイルミネーションの芸術みたいで、眼を離せない程に美しく、景色を幻想的に彩っている。

 

「私の光は全てを焼きつくします。あまり胸を張って自慢出来る様な能力ではないんですけどね」

 

 美紀はそう言って、少し辛そうに苦笑する。どうやら、この能力のせいで何かしらのトラブルがあった様だ。いや、未だにそのトラブルに苦しんでいる最中なのかもしれないが。

 

「さ、進みましょう! このまま一気にゴールです!」

「……はいよ、じゃあペイントボールは頼んだよ」

 

 だが、ここで指摘することでも、ましてや深入りするようなことでもない。今は祭の最中だ、存分に楽しもうじゃないか。

 

 


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