◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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人間関係

 さて、大覇星祭三日目。抽選結果が発表された後、珱嗄と食蜂はとりあえず競技は四日目ということで、勝ち抜く為にお互いの事を知っておくことにした。理由としては、恋愛……というより恋人との絆を競う競技な訳で、おそらくは恋人のことをどれだけ知っているか、などを競うことがあるかもしれないからだ。

 好きな食べ物、嫌いな食べ物、誕生日、年齢、スリーサイズ、出身地、初デートの場所、出会った場所、お互いの呼び名、どれくらい相手が好きか、等々、おおよそ必要になるであろう知識は全て教え合う。

 

 とはいえ、いまや地獄巡り茶によって大覇星祭の間、珱嗄と同等の感覚を手に入れている食蜂。勘で答えても大体当たるようになっている。珱嗄の勘は、アレイスターへ繋がるコール番号を引き当てる位なのだから。

 

「呼び名は『しいたけ』と『貴方』でいいのかね?」

「それは恋人とは言い難いんじゃないかしらぁ……」

「斬新でいいんじゃね?」

「私が嫌なの!」

 

 ということで、現在珱嗄と食蜂はちょっと小奇麗で洒落た喫茶店で、お茶しながらそんな話をしていた。周囲には本や新聞を読んでいる教師達大人や、所謂お嬢様学校と呼ばれる常盤台の様な学校の生徒達がお茶会をしていた。

 しかし、物静かでとても落ち付く雰囲気の喫茶店では、食蜂と珱嗄の様な存在は少しだけ目立つようだ。

 

「まぁ、無難に名前がいいか」

「う、うんまぁ……そうねぇ」

「……こんなもんか、とはいえ『恋人繋ぎ』でどんな競技をするのかねぇ……」

 

 恋人繋ぎ、は例年違った競技種目が行われる。例えば、男が女をお姫様抱っこで400m競争、とか……まぁどことなくハズレ競技もあったりするけれど、基本的には男女の絆を試す競技が行われる。

 だが、今年の恋人繋ぎ担当である大覇星祭運営委員は、生徒にもかなり有名な強引で我儘な人物らしく、競技もかなり強引なものになる可能性があるとの噂だ。普通の発想では予想が付かない可能性大だ。

 

「普通に恋人の事をどれだけ知ってるかとか……じゃないの?」

「いや、強引な運営委員らしいし、恋人の為に参加者全員倒せとかありそうじゃね? ラブバトルロイヤル、みたいな?」

「凄まじい発想ねぇ……そんなことになったら私の能力で一発じゃない?」

「そうだな。まさか120人程の参加者の中にレベル5が混ざってるとは誰も思わないよな」

「というか御坂さん以外のレベル5にそういった話は一切聞かないもの。大体が暗部に関わってるのもあるんでしょうけどぉ」

 

 食蜂はずずーっと音を立てながらメロンソーダをストローで飲み切る。カラン、と氷が音を立てた。珱嗄も注文したコーヒーをぐいっと飲み干す。

 一息ついた所で、二人は椅子の背もたれに身を任せた。話すことは全て話したし、これからどうしようという段階に行きついたからだ。

 

「大覇星祭も佳境に差しかかったわけだし……出店や出展物にはあまり興味ないからなぁ……」

「競技は明日だしねぇ、競技に参加しない親類や貴方みたいな人からすれば、七日間の大覇星祭は途中で飽きちゃうものなのかしらぁ」

「俺は応援するべき子供もいないし、競技を開催し、進行するべき教師でも無いし、かといって能力や最先端の科学を物珍しく物色するにはこの環境には慣れてしまっている。出店や出展物が楽しめないとなれば、最早大人しくこうしてコーヒーを飲んでのんびりしているのが、ある意味正解なのかもしれないな」

 

 珱嗄はもう一杯、店員を呼んでコーヒーを頼んだ。食蜂も同様に紅茶を頼み、ついでにエクレアを数個注文した。どうやら、食蜂はエクレアが好物らしい。これも、先程の話し合いの中で恋人として、ちゃんと把握している。

 といっても、何もやることが無い二人は最早有り余る金を使って、この日何十杯ものドリンクを飲みながらこうして喫茶店に屯する以外の過ごし方が思い付かない。珱嗄は基本的にイベントが起こるのを待つタイプのスタンスを持っており、自分から何かするようなことは案外稀である。木原幻生の件だって、食蜂や御坂妹が引っ張ってきたようなものであり、珱嗄はそれを利用して暇潰しをしただけのことなのだ。

 

「じ、女王?」

「え?」

 

 と、そこに少女の声が聞こえた。珱嗄の背後、つまり食蜂からは正面に配置する所に、食蜂と同じ体操服を着た少女達が二名ほど佇んでいた。その表情は驚愕、そして困惑だ。

 それもそのはず、彼女達は食蜂の創った派閥に所属する生徒であり、食蜂を女王と崇め、慕う生徒だ。それなのに、その女王が物憂げな表情で珱嗄(男性)と二人、お茶をしているというのは、中々少女達に衝撃を与えた。

 

 食蜂はその少女達を見ながら、焦った様な様子で珱嗄と少女達を交互に見る。珱嗄はそんな食蜂ににやりと笑った。どうやら、少女達が近づいて来ているのは察知していた様だ。それを敢えて黙っていたのは、きっと食蜂が焦る姿を見て楽しむ為だろう。

 食蜂は珱嗄と同等の感覚を手にはしているものの、それを使いこなせる訳ではない。周囲の人の気配を感じることは出来るが、漠然といると感じるだけで、その距離感は掴めないのだ。とはいってもそれだけ分かれば奇襲云々だって余裕で対処出来るのだが。

 

「そ、そちらの殿方は……?」

「いや、あの、違うのよ!」

 

 食蜂は焦っていて能力を使うことを忘れていた。これが珱嗄ではなく、別の男性であれば落ち付いて対処出来たであろうが、生憎と目の前にいるのは自分の片思いの相手……かつ現在偽物の恋人である。動揺するのは無理は無いだろう。

 

「どういうこと、でしょうか……?」

「う……だから……」

 

 翌日の競技を目の前にして、食蜂には違った難問が立ちはだかったようだ。

 

 


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