◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
恋人繋ぎ
あの後、珱嗄達によって徹底的に潰された木原幻生は、半ば放置気味にその研究施設に置いていかれ、後々御坂美琴がよこした
そして、レベル5の五人はそれぞれ珱嗄に色々言ってから各々の反応を浮かべながら帰って行った。
「じゃあな、二度と呼ぶンじゃねェぞ」
「また困った時は呼んでって言ってるんだよ! ってミサカはミサカは通訳してみる!」
「余計なこと言ってンじゃねェぞクソガキィ!!」
そんな風に第一位と打ち止めは騒ぎながら雑踏に混じってその姿を消した。
「アイテムを超使いっぱしりですか、良い身分ですね」
「そうよ! 結局、私達を呼ぶような大した用事でも無かった訳よ!」
「帰っていいかな? 眠い」
「お疲れ、悪かったよ。埋め合わせはちゃんとするさ」
「じゃあ今度映画鑑賞に超付き合って下さい」
「鯖缶とぬいぐるみを買いに行くのにも付き合って貰う!」
「はいはい、映画館破壊と鯖缶のぬいぐるみな」
「超破壊してどうすんですか!?」
「鯖缶のぬいぐるみって何よ!?」
「あーはいはい、行くわよ三人共。ああ珱嗄、この借りは今後の仕事で払いなさいよ?」
「あいよ」
アイテムメンバーはそう言って、麦野の引き摺られて行った。
「俺……必要だったか?」
「ぶっちゃけいらなかったね」
「てんめぇぇええ!!!」
「ほら、参加賞」
「あん? ……なんだこりゃ」
「こんにゃくだ」
「絶望的にいらねぇもん渡すんじゃねぇよ!! しかも生身!」
「いいから懐に入れとけって」
「入れんな入れんな! これ結構高い服なんだぞオイやめ、うああああ!! ぬるぬるで気持ち悪ィ!」
「じゃ、もう帰って良いよ」
「………ああ、帰るよ………もう二度と関わるなこの野郎……!!」
垣根提督はそう言って、とぼとぼと肩を落としながら胸元をぬめぬめにして歩いて行った。
「で、お前らはどうすんの?」
「………どうしようかしらぁ」
「帰るわよそりゃ……その前にあの子はどこにいるのよ」
「ああ、みこっちゃん二世なら病院だ。カエル顔のトコ」
「……ならいいわ……それと、今回の事は別にお礼は言わないから」
「別に良いよ。暇潰しだったし」
珱嗄がそう言うと、御坂美琴はふん、と鼻を鳴らして踵を返し、帰って行った。残ったのは、珱嗄と未だに横に佇んでいる食蜂操祈の二人だけ。珱嗄はとりあえずこれからどうしようかなと考えつつぼーっと突っ立っており、食蜂は両手の指を身体の前で絡ませながらチラチラと珱嗄を見ていた。
「さて、と……どうしようかね」
「あ、あのね、最初に言ってたでしょ? 大覇星祭を案内するって、だから……一緒に回らない?」
「…………ふむ、まぁいいか。それなら案内してくれ、この競技の参加券も確か今日発表だったしね」
食蜂の提案に、珱嗄は少し考えた後頷いた。ちなみに、競技の参加券とは珱嗄が食蜂と一緒に購入した抽選券のことだ。覚えていない人は大覇星祭編最初の方を見直そう。
珱嗄がそう言うと、食蜂は眼に見えて目をキラキラと輝かせた。元々キラキラしていたから余計に眩しい。
「じゃ、じゃあ行きましょ! この私に掛かれば大覇星祭を楽しむなんて余裕よぉ!」
珱嗄の腕をぐいぐい引っ張って、食蜂は歩きだす。その白い手袋で包まれた指が指すのは、大覇星祭の雑踏の中。彼女は今、ようやく闇の世界の重荷を少しだけ、下ろすことが出来た様だ。
◇ ◇ ◇
で、やってきたのはあの抽選券を購入した売り場。そこでは当選者の能力者が電光掲示板によって表示されていた。抽選券を持った男女二人組がさながら、受験の合格発表を待っている緊張感を放っている。珱嗄と食蜂は周囲を見渡すと、何故か男女ペアの二人組が数多くその場にいた。何故だろうと思いながらも、その競技の当選者の番号を覗いてみる。珱嗄と食蜂の買った抽選券の番号は『009182』、何故か二人とも同じ番号だ。
「あー、と……あ、あったあった」
「本当? 良かったわねぇ」
「というか、これってどういう競技?」
「さぁ……えーと……」
珱嗄の問いに、食蜂は大覇星祭のパンフレットを取り出し、情報を得ようとする。珱嗄もそれを覗きこみ、二人でパンフレットを見る形になった。
「!」
食蜂はページを捲りながら、隣にある珱嗄の顔にドギマギする。緊張で身体が強張りながらも、ようやくその競技に付いて載っているページに辿り着く。そして、それを二人して黙読する。
そして、読み終わった時、珱嗄は成程と身体を放し、食蜂は顔を真っ赤にしながら眼を見開いた。そこには、こう書いてあったのだ。
『抽選競技:恋人繋ぎ』
これは、男女一組で参加する競技であり、とある筋では有名な恋愛イベントだ。この競技で優勝した男女は、生涯幸せに付き合っていく事が出来るというジンクスがあるのだ。故に、競技名はそのまんま恋人繋ぎ。
内容は、三つの試練を男女の絆でクリアしていくものである。そして、大覇星祭に参加する学校の代表者が、数多くのペアの中から一組、この組が優勝するだろうと予想し、競馬の様にして点数を賭け合う。そして、見事正解した学校にはそれぞれ点数が入るシステムだ。
そして、参加したペアには参加賞として簡単な金券が与えられ、優勝したペアには大覇星祭運営委員会から、何かしらのプレゼントが用意されている。例年では、遊園地を貸し切って一日デートを決行したこともある。
つまり、これは恋人達の為の競技なのだ。
「………な、ななな!」
「なすび?」
「違う! どうするの!? だって! これ! 歩3お8s2え!」
「落ち付け、何言ってんのか分からない」
「恋人って!」
「ああ、うん……まぁ仕方ないだろう。それに、俺としては一つでもいいから競技に参加したい所なんだけど」
「あ………うー……うー………分かったわよぉ……!」
うーうー唸りながら、食蜂は赤く染まった顔で上目づかいに珱嗄を睨む。よっぽど恥ずかしいのだろう。何故なら、この競技に出た、というだけでペアの相手が恋人だと周囲に知られることになるから。それが事実であろうとなかろうと、周囲の認識は恋人で確定してしまうのだ。
だから、事実ではない上に片思いな食蜂としては、それがとても恥ずかしかった。
「じゃ、頑張ろうぜ? 『操祈ちゃん』?」
「ッッッ……!」
珱嗄は恋人として、食蜂を名前で呼ぶ。大覇星祭の内は、恋人を装う必要があるだろう。だからこそ、途中で競技から降ろされないように、偽物であろうと本物のように振る舞う。
食蜂は名前を呼ばれて、赤かった顔に更に熱がこもるのを感じた。最早熱でもあるのではないかと思う位、身体がふらふらと蒸気しているのが分かる。そして、またうーうーと唸りながら、珱嗄をバッと見上げる。
「行くわよぉ! お、ぉぉ、ぉおお珱嗄さん!!」
珱嗄の腕に自分の腕を絡ませ、歩きだしながら勢いだけでそう言った食蜂。珱嗄はそんな彼女に対して、苦笑を浮かべながらただ引っ張られてあげた。