◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
珱嗄のせい、もとい珱嗄のおかげでこの一件には多くのレベル5が関与することになった訳だが、麦野沈利に関しては暗部ということもあって協力は得られなかった。というか、仕事があるらしく一旦帰ってしまった。協力が必要ならアイテムの仲間ということで手伝ってやらないでもないと言って帰って行ったので、実質戦力は減っていないだろう。
そこで、珱嗄達は一旦解散することにした。レベル5同士が集まって組めば、それはそれは強力なチームに見えるのだろうが、実はそれは違う。元々、彼らは個々が一騎当千の強大な力を持っている。それはつまり、力を合わせるという行為が難しいということになる。個人個人で戦った方がやりやすいのだ。
という訳で、それぞれに別れてこの一件の解決に務めることにする。お互いのフォローは必要最低限で行えばいいのだ。そこで少し変わったのは、珱嗄と打ち止めをペアにするということだ。一方通行も自身が動けばまず間違いなく打ち止めも危険に晒すことになることを理解している。故に、珱嗄の下に預けていればとりあえずは大丈夫だろうという訳だ。そして、ミサカネットワークをフル活用出来そうな食蜂もこのペアに組み込まれた。
状況を説明すると、珱嗄と打ち止めと食蜂のチーム、一方通行、お助けということで麦野がそれぞれ三者三様のやり方で解決に動くという訳だ。この一件の解決の為だけにレベル5が三人動く、という事実は黒幕にとっても非常に辛いものになるだろう。
そして、それが決まった後、全員はそれぞれ店を出た。一方通行は原作とは違って完全な能力を保有している。時間制限など無い故に、その能力を使ってその場を離れて行った。麦野は普通に歩いて去って行き、残ったのは珱嗄達のチーム。
「それにしても、ぶっちゃけ面倒臭くなってきたんだけど」
「さっきまでの雰囲気ぶち壊しなんだけどぉ?」
「つってもなぁ……しいたけ、お前はなんか当てあんの?」
「まぁあると言えばあるって所かしらぁ☆」
「じゃあさっさと吐けよこの野郎」
「いたたたたたた! ごめんなさいごめんなさい! 思わせぶりの方が雰囲気出るかなってぇぇ!」
食蜂の言葉に、珱嗄はアイアンクローで答えた。化け物染みた握力によるアイアンクロー(弱)は、常人なら普通に痛い。頭が潰れるんじゃないかと思う程だ。
「全く、そういうの良いから」
「はぁ……調子が狂うわぁ……」
「大丈夫? ってミサカはミサカは心配してみたり」
「御坂さんとは違って純粋ねぇ……」
打ち止めが食蜂を心配していると、食蜂はその子供特有の純粋さに少しだけ感動した。特に普段のがさつで大雑把で何でもかんでも能力による力押しな所がある御坂美琴を見ていると、それがやけに大きな印象を受けた。
だが、そう言うと本人が黙っていない。
「誰が純粋じゃないってぇ……?」
そう、御坂美琴だ。どうやら母親とは別れたようで、一人店から出て来た。そして丁度そこにいた珱嗄達に近寄って来た、という訳だろう。
食蜂の何気ない言葉に苛立ちを覚える所はかなり子供っぽいが。
「あら御坂さん、もう母親への言い訳は良いの?」
「おかげさまでね! 全く、変なホラ吹かれて困ったじゃないの!!」
御坂美琴はそう言って地団駄を踏んだ。だが、その言葉に対して食蜂たちは首を捻り、真剣な表情で疑問を抱いた。
「ホラ……?」
「つまり嘘……?」
「それは違うよ、ってミサカはミサカは反論してみたり!」
「なっ……!?」
そう、ホラでは無い。
「今、お姉様はホラって言ったけど、それならそれでお母さんに反論出来た筈だよ! ソレが出来なかったという事は、少なくともお姉様の中に心当たりがあったってこと! つまり、この人がお姉様のお母さんに言った事は嘘じゃないんだよ! ってミサカはミサカのダンガンロンパ!」
「うぐっ………!?」
「どうなんだみこっちゃん。本当に嘘か?」
「どうなのよぉ?」
「………う……ぐ………はぁ……すいませんでした……嘘じゃないです」
美琴はそう言って、肩を落として項垂れた。珱嗄達はその姿を見て三人でハイタッチする。
さて、茶番は此処まで。御坂美琴が出て来たのはこんなやり取りをしたくででは無い。珱嗄達が何故全てのレベル5の半数を揃えて話していたのかを聞きたいのだ。
それに、会話の端に出て来た御坂妹。それは自分の妹だ。彼女が何か変な事件に巻き込まれているのなら、姉として、見過ごすわけにはいかない。とかいう無駄に小奇麗な責任感で動いているのだろう。珱嗄はそれをしっかりと理解している。人の気持ちに対して異様に鋭くなったのは、めだかボックスでスタイルを習得してからだろう。
「とはいっても、みこっちゃん二世がどんな輩にどんな目的でどんなことをされたのかは知らないんだけどね」
「あの子、襲われたの!?」
「まぁそういうことになる。俺らは暇潰しにその一件を解決しようかなというスタンスで動いてる」
「暇潰し……また?」
「そう、お前が無駄に命を掛けようとしたあの実験と同じように、暇潰しでこの一件を解決しようと動いているんだよ。おk?」
「………まぁいいわ。私は私で解決に動くから……ああ、それとアンタ」
御坂美琴が指差したのは、食蜂操祈。彼女はその指を見て、無表情に次の言葉を待った。
「この件、アンタが黒幕ってわけじゃないのよね?」
「……ハッ……そんな訳無いじゃないの。それに、私が黒幕ならこの時点で貴方達の記憶を改竄してるわよ。まして、こうして自分自身を矢面に出す筈が無いわよぉ☆」
「……まぁいいわ。それじゃあ私はもう行くから」
御坂美琴はそうして去ろうとする。だが、珱嗄は話はまだ終わってないとばかりに美琴の足を掛けた。
「ぎゃふん!?」
「何勝手にシリアスムードで去ろうとしてんだみこっちゃん」
「なにすんのよ!」
「喧しい。俺は今お前に聞きたいことがあるんだ」
「何よ!?」
「………それは」
「っ………?」
珱嗄が珍しく真剣な表情を浮かべていた。美琴はそれを見て、息を呑む。いつだってふざけて軽快な雰囲気を持つ珱嗄が、ここまで重く、真剣な雰囲気を放っている。そこから吐き出される疑問とは、何処までの物なのか。
「今までしいたけ、セロリ、麦米と食べ物関係であだ名つけて来たんだけど、お前は何が良い?」
「どーでもいいわああああああああ!!!!」
美琴はそう叫んで、走り去って行った。
「アイツ、絶対学園都市の闇を甘く見てるよな」
「まぁ……今までずっと小さな揉め事で悩んでいた様な子だしぃ」
珱嗄と食蜂はそう言って、少しだけ御坂美琴に嘲笑した。