◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、続きだが。実の所、この大覇星祭の記念すべき初日には、かなり多くの事件が引き起こっている。それこそ、科学的にも、魔術的にも、だ。
珱嗄が現在近い方にあるのは、魔術的事件ではなく、科学的事件の方だ。というより、魔術的な事件を解決するには、人材が十分に揃っているのだ。珱嗄が関わる必要もない。まぁ関わっても良いのだけれど、今回に至っては珱嗄が関わる事件は科学側の方が強い。
何故なら、その事件の主要人物として挙げられる少女、食蜂操祈が隣にいるのだから。
「お前は何か競技には出ないの?」
「まぁ私の出場する競技もあるにはあるんだけどねぇ……」
あの後、長峰美紀ちゃんにお礼を言われ、表彰もされた珱嗄達は、普通に観光ルートへと戻っていた。とはいえ、食蜂も生徒という身分にいる訳だから、競技には出なければならない。つまり、四六時中珱嗄と共に居ることは出来ないのだ。
という訳で、食蜂操祈は競技に出る為に戻らなくてはならなくなった。
「……次の競技が終わったら合流しましょ、1時間後にあの喫茶店に集合☆」
「あいよー……っと、ほらこれ飲んで行きな。ちょっとした感謝の印だよ」
「何コレ? 水? 匂いは紅茶みたいだけどぉ……?」
食蜂は、渡された紅茶――――地獄巡り茶のあたりを飲んだ。滅茶苦茶美味いその味に、珱嗄の紅茶を入れる腕前を悟った食蜂。女子として少し負けた気がした。この分なら料理も上手いのだろうと思ったのだ。
「う……じゃあ行ってくる……」
「いってらー」
食蜂が雑踏の中に紛れて見えなくなった。そして珱嗄はゆらりと笑う。感謝の印と珱嗄は言った。それがあの地獄巡り茶の当たりな訳だが、その効果は感覚を珱嗄と同等にするというもの。
今の食蜂は運動神経を取った珱嗄みたいなものなのだ。これならば食蜂の武器であるリモコンを取りあげられても十分戦えるだろう。今の食蜂は無敵なので。効果はかなり伸びて、今では一週間となっている。つまり、大覇星祭の間……食蜂は感覚的に珱嗄と同等である。
「さて、と……暇になったな……」
珱嗄は若干騒がしくなった雑踏の中で、頭を掻いた。そして、iphone89sを起動させ、電話帳を開いた。少し迷った後、一つの電話番号に電話を掛けた。
「あ、もしもし? メルメン?」
『メルメンって何だオイ』
「メルヘンな男って言いにくいじゃん? 長いし、名前でも無いじゃん?」
『………まぁそうだな』
「だから、メルヘンな男、メルヘンなマン、メルメン」
『殺すぞお前マジで! 妙なあだ名つけんじゃねぇよ!』
此処まで来れば分かるだろう。相手は垣根帝督、学園都市の第二位だ。何故暇潰しに第二位に電話を掛けるのか少し問いたいものだが、まぁそこは珱嗄だからで終わるだろう。
「でだよメルメン」
『……なんだよ。なんか用か?』
「と思うじゃん?」
『あ?』
「まぁ何も無いんだけど」
『じゃあな』
プツッと電話が切れた。おそらく、垣根帝督も電話切った後キレた。珱嗄はそれを想像して笑った。まぁ暇つぶしにはなったし、特になにかしらのアクションを求めた訳ではないからいいか、と次の電話番号をプッシュした。
「もしもーし」
『なンだ?』
「お前さ、いつになったら約束護ってくれんの?」
『はァ? 何の話だよ?』
次の相手は一方通行。珱嗄は打ち止めを救った時の約束がまだ守られていないことを思い出したのだ。
「あのほら、ジェンガ」
『冗談で済ませとけよそれ位!!』
「10秒で此処に来い。ラストロリ連れて。ジェンガも持ってこいよ」
『ラストロリってなンだオイ。最後の幼女か? それに、なンで俺がそンなめンどくせェことを……』
「良いのかな? そんな事言って」
『アン?』
珱嗄の言葉に、一方通行は少し嫌な予感がした。珱嗄が本気になれば、確実に人の嫌がることを人の嫌がる方向で実行してくるだろうと確信しているからだ。
この場合、
「なぁ一方通行……バックアップって知ってるか?」
『………ソレがなンだよ』
「分からないか? 俺はお前の弱みになりそうなことを写真に撮ったことがある」
『……ま、まさかテメェ……!?』
そう、珱嗄は撮ったことがある。一方通行と打ち止めが最初に出会ったあの時のこと、一方通行が打ち止めの身体を隠していたボロ毛布を剥ぎ取って、街中で裸にした瞬間を。
確かにあの時、珱嗄は写真を消した。だが、バックアップは自動で取られる物なのだよ。
「10秒だ、良いな?」
『ちくしょおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
一方通行が叫び、電話の向こうで打ち止めの声が聞こえた。え、何? どうしたの!? と慌てふためいている。そして、電話は切れた。珱嗄は一通り聞いた後、携帯を仕舞う。
そして、およそ10分後。一方通行と打ち止めはかなり荒い息を吐いた状態で珱嗄の下へ登場するのだった。