◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、結果的にオルソラはローマ正教の修道女達、言ってしまえばそのリーダーであるアニェーゼ=サンクティスの攻撃を全て躱し、堂々と逃げ切って見せた訳だ。かといって、外で珱嗄を警戒していた天草式が、彼女を逃がす筈も無い。当然捕らえようとオルソラへ掛かって行ったのだが、やはりというかなんというか、オルソラのチートな感覚で動きが全て読まれ、全て躱されてしまった。
珱嗄と同じ威圧感を放つ彼女と、それをゆらりと笑って見ている珱嗄。この二人を目の前にすると、当麻が危惧していたものとは別の方向性で、組ませてはいけない二人だという事が分かった。
「さて、話し合いと行こうか。天草式のクワガタ頭」
「……何が言いたい」
「簡単な事だよ。俺はただ知りたいんだ、お前がどういう立ち位置で、どういう考えで、どういう行動で、どういう目的で、オルソラちゃんを手中に収めたかったのか」
「……我らは別に、オルソラ=アクィナスの持つ解読法や法の書なんかに興味はねーのよ」
珱嗄の言葉に、建宮斎字は語りだす。天草式がどういう目的で動いているのか、そしてローマ正教がどういう目的に動いているのかを。
「そもそも、我ら天草式は本来『隠密』を優先して行動する組織なのよ。法の書とかおおっぴらに目立つものを欲しがる理由は無い。俺達がオルソラ=アクィナスを助けようと思ったのは、俺らのリーダー……
「へぇ」
「救われぬものに救いの手を、それがあの人の信念であり、この天草式の信念だ。だから我らは困っていたオルソラを助けようと動いたし、オルソラが助けを求めて来たから助けようと思ったのよ。故に、オルソラが我らを拒絶しようと、我らは救われないままのオルソラを放ってはおけなかったのよ」
珱嗄はその言葉を聞いて、あーそういうことかと拍子抜けした様な表情で明後日の方向を向いた。
「そうかいそうかい。あーなんだ、そういうことかい。で、ローマ正教はどういう目的でどういうアレな訳?」
「ローマ正教の目的はオルソラ=アクィナスの抹殺だ」
「……へぇ」
珱嗄はその言葉を聞いてそっちの方が断然おもしろそうとばかりにゆらりと笑った。
「いいか、法の書というのは解読されれば十字教の終焉が訪れると言われている。故に強大な力を持った魔導書と呼ばれている訳だ。だが、考えてもみろ。十字教最大魔術組織であるローマ正教が、十字教のトップであるローマ正教が、十字教の終焉を望んでいるとでも思うのか?」
「なるほど、だから解読されちゃ困るって訳かい。保護なんて言って、あの腹黒ロリはまぁ中々面白いモン抱えてんじゃねーか」
珱嗄は心底楽しそうに笑った。その姿は、主人公とは言えず、悪党とも言えなかった。人を救うにはそれだけの善意も正義感も持ち合わせておらず、人を殺すにはそれだけの悪意も敵愾心も持っていない。そんな人間とも言えない存在に見えた。
傍から見れば、正義である天草式をつまらないと言い、悪であろうローマ正教を面白いと言った。とはいえ、珱嗄からすれば善悪問わず面白そうだという理由で括れる。
言ってしまえば、人を救いたいから己の正義を振るう天草式も、自分達のトップである地位を失いたくないから自分達に害を与えるオルソラを排除しようとするローマ正教も、等しく違う正義なのだ。
自分を殺そうとする者を逆に殺した場合、それは完全に悪と言えるだろうか? 人を救う為に別の人を殺した場合、それは本当に正義なのだろうか?
つまりそういうことだ。珱嗄にとって、正義という観点から見るのなら天草式もローマ正教も正義なのだ。それが面白い正義感なのか、つまらない正義感なのかが重要なのだから。
「へぇ………この場合俺はどういう行動を取るべきなのかな? その十字教とやらを終わらせてみるのも手だと思うのだけれど、ここはオルソラちゃんの意志に則って彼女を助けてみるのも楽しそうだ。いっそ、ローマ正教ってのに全面的な喧嘩を売ってみるのも面白そうだ」
「お前さんならやりそうで怖いな……まだ会って少ししか経っていないものの、会話すらこれが初めてだというものの、お前さんという人柄は中々分かりやすい」
分かりやすいが故に、怖いのだ。単純だからこそ、分かりやすいからこそ、複雑ではないからこそ、変えられない。人生を生きるのなら、シンプルな思想だけで十分なのだから。
「ま、そういうのは色々と面倒だ。魔術サイド各教の相関関係を知っているわけではないのだし、俺が魔術を使えるという訳でもないし、果たして俺の持ちうる手札で魔術サイド上位の実力者を相手取る事が出来るのかすこーしばかり分からないしね。まぁ、身体能力じゃ負ける気がしないけれど、何も知らないまま喧嘩を売っても良いのだけれど、まだ時期じゃないかな」
「それで、お前さんはこれからオルソラ嬢をどうするつもりなのよ?」
「んー……まぁローマ正教のロリシスターはオルソラちゃんが直々に叩きのめしたようだし……ぶっちゃけコレってイギリス清教がせかせかと裏で手を回せばいいんじゃねーの? 元々、俺の目的は友達の友達から頼まれた友達の奪還だった訳だし」
「ややこしいなオイ!」
友達の友達から頼まれた友達の奪還。元の目的はこれだったのに、どこで捻子曲がったのやら。
「さて、色々遊んで楽しめたし……インデックスちゃんもどうせちゃんと返してくれんだろ? ならもういいや。オルソラちゃんは此処に置いてくから……好きにしてくれ」
珱嗄は欠伸を一つ漏らすと、パーカーのフードを被って歩きだす。学園都市に向かって帰るようだ。そして、珱嗄が進む先には丁度良く上条当麻達のチームが見えた。これで三竦みの集団が一挙に集まり、重要人物であるオルソラもいる。後は好き勝手にやってくれるだろう。
「それじゃ、オルソラちゃん。戦闘になったら全部躱してどうにかしといて頂戴」
「あ、はーい。お疲れ様でございました」
「バイトかッッ!!!」
こうして、オルソラの一件はなんやかんやあって珱嗄は離脱した。
その後、珱嗄が事情をごにょごにょと説明し、ローマ正教側VS天草式&イギリス清教&上条当麻で戦闘が起こったのだが、全陣営の魔術攻撃が全て中心にいたオルソラに躱されて、喫茶店を中心にほぼ全員が膝から崩れ落ちて自信を失ったのだった。
これが法の書事件の顛末。最終的にオルソラは上条当麻によってイギリス清教の十字架を首に掛けられ、イギリス清教による保護を得られる事となり、オルソラの解読法が偽物だと判明した。
「全く、十字教とか……キリストちゃんの信仰も随分と歪んだもんだ」
この一件に対する珱嗄の感想は、そんなモノだった。