◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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一方、その頃は

 珱嗄がオルソラを連れ去った後、天草式のメンバーは自分達が空けた穴からゆっくりと這い出て来た。ステイル達はそれに対して警戒したが、なにやら数名黒い笑みを浮かべている。更には嫌な汗も出ていた。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふふ……あの野郎、ぶち殺してやるのよ……!」

 

 その中の。黒髪をクワガタの様に逆立たせた男が嫌な汗を滲ませながらそう言う。後ろではその言葉に賛同する様に長い槍を持った二重が特徴的な少女や、その他数名のメンバーが怒りに武器を構えていた。どうやら珱嗄の地獄巡り茶を喰らったメンバーの様だ。全員が青白い顔をしながら殺気を放っていた。

 

「天草式、ですね。オルソラ=アクィナス奪還に関して、少し話があるので、話し合いと行きませんか?」

 

 すると、その天草式に対してアニェーゼが警戒しつつそう提案する。ここでオルソラを取り返すにせよ、法の書の情報を得るにせよ、天草式を味方に付けておくことは有益と見たのだ。

 ローマ正教としては、その方が効率が良いのだ。

 

「……まぁいいだろう。だが我らは天草式十字清教、オルソラ=アクィナスの身柄は此方が保護したいと考えている。話し合いの結果、協力関係になったとしても、それはオルソラを奪還した時までだ」

「……いいでしょう。では、お互い警戒しながらというのもなんですので、代表同士の話し合いと行きましょう。此方は私、アニェーゼ=サンクティスが代表として話し合いをしましょう。其方はどうしますか?」

「俺が出るのよ。教皇代理、建宮斎字だ」

「では、こちらへ」

 

 アニェーゼと建宮が二人、話し合いを開始するべく広い場所へと移動していく。そんな中で、上条当麻やステイル達は情報の整理をしていた。

 

「上条当麻、あの男は何者だ? 僕達プロの魔術師でも反応出来ない気配を察知し、オルソラが攫われる前に攫って行った。しかも、空を駆けて行く始末だ。飛行する魔術なんて、早々出来る芸当じゃないぞ。そういう超能力でも有しているのか?」

「……いや、アイツの能力は良く知らねぇが……俺が知っているのは、ただ能力での強化であれなんであれ、アイツの身体能力は化け物ってことだな。名前は珱嗄だ」

「ふむ……珱嗄、ね……魔術的な関係があるのか……? 漢字はどう書くんだ?」

「え? えーと……」

 

 ステイルの問いに上条当麻は考える。普通に考えれば桜に夏と書いて桜夏なんかが当たるだろうが、それが当たっているかは分からない。

 だが、その問いにはインデックスが答えた。

 

「珱に嗄と書いて珱嗄、だよ」

「お前なんで知ってるんだよ」

 

 インデックスがコンクリートの地面に転がっている石でガリガリと書くと、当麻がそう聞く。すると、インデックスは意外な答えを出した。

 

「ひょうかの一件が終わった後、とうまを病院に連れて行ったでしょ? その時受付の名前記入欄におうかの名前が書いてあったんだよ」

 

 そう、インデックスは珱嗄が垣根帝督を病院に連れて行った後、当麻を連れて同じ病院にやって来ていたのだ。そこで、珱嗄が受付に書いた名前を見た。そして、持ち前の完全記憶能力でその漢字を一字一句残さず覚えていたのだ。

 

「ふむ……特に魔術的意味はなさそうだ」

「あ、でもおうかはこの『歩く教会』を直してくれたんだよ」

「何!?」

「本当かは分からないけど、おうかは神の子イエス・キリストと友人関係にあったらしいんだよ。そこでこの『歩く教会』の原点である聖骸布を作ったらしいの。だからか正確な魔術的記号までも修復してみせたんだ。証拠と言ってはなんだけど……おうかはイエス・キリストが処刑された際に被らされていた聖遺物、『いばらの冠』のオリジナルを持ってたんだよ。私の見た限りでは本物だったかも」

 

 インデックスの言葉にステイルは目を見開いて驚く。それが本当ならば、新約聖書に名を残していてもおかしくは無い偉人だ。神の子と友人、ならば神の子と対等な立場であったという事だ。聖人どころでは無い、もっとそれ以上の神話的意味を持っているという事になる。

 

「よくわかんねーけど、それが本当なら珱嗄さんは紀元前位から生きてたって事か?」

「いや、それは分からないよ。キリストの誕生と共に紀元が始まったと言われているが、正確にはキリストの誕生は紀元前4年頃となっている。その時代から現代まで生きているというのなら、それ以上前から生きていてもおかしくは無い。それこそ、恐竜がいた時代から生きているのかもしれないね」

「恐竜……!? それって、え? 魔術には不老不死になれる魔術でもあんのか?」

「とうま、そんな魔術は歴史上一つも存在していないんだよ。過去には何人か不老不死の魔術を研究した人もいたけど、どの研究者も何の結果も残さずに挫折していったんだよ。似た様な魔術として、幾つか魔導書が私の頭の中にあるけれど、歴史上で完全な不老不死は不可能とされているんだよ」

 

 インデックスの言葉に当麻はなるほど、と一応理解した。だが、問題は珱嗄がどれほどの長生きかではない。珱嗄は何者で、自分達と同じ人間なのか、そして人間でないのならどういう存在なのか、だ。キリストとの関係、接点など、そういった情報が少しでもあればという状態なのだ。

 

「でも、神の子との関係があっただけで、特に聖書的な行動を取っていた訳じゃないと思うよ? 正直、おうかは神を信仰している訳じゃなさそうだったし、神の子をあいつ、とか言ってたから神聖視してた訳では無いかも。純粋に、生きてきた中で神の子と会って、友達になっただけって言う方が正しいのかも」

「なるほど……奴にとっては神の子と出会い、友人関係になったのも別に神への信仰とかではなく、特に深い意味は無い、か……まぁそれほどの怪物なら、その方が逆に納得出来る……か」

 

 ステイルが煙草の煙を吐きながらそう言う。とはいえ、問題は解決していない。珱嗄が強いのは変わりないのだから。どう対策を練るか、それが問題なのだ。

 

「? 上条当麻、そのポケットから出ているのはなんだ?」

「え?」

 

 当麻はそう指摘されてポケットからそれを取り出す。すると、それは珱嗄からの手紙だった。

 

「珱嗄からの、手紙?」

 

 上条当麻は珱嗄の手紙を開き、ステイル達にも分かる様に、読み始めた。

 

 

 


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