◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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法の書編
学園都市の外へ


 第二位と戦ってから一週間後、九月八日の事。

 珱嗄は風斬氷華に再会した。場所は、学園都市の出入り口である。彼女は学園都市の能力者によって作られているので、学園都市の外にはおおよそ出る事が出来ない。能力による補正が効かないからだ。だがそれ以前に、彼女は一週間までの九月一日、珱嗄と話した後その姿を消した筈なのだ。その姿を実体化出来なくなり、風斬氷華という現象は視覚化出来なくなった筈なのだ。

 

 さてここで、舐め回す様に見られる、や、視線に触れる、という表現をご存じだろうか。まぁどっちにせよ見られるという訳だが、ここで重要なのは他人が他人に対して視線を送ると、その視線は相手に触れるという事になるのだ。故に、別に触られてもいないのに視線を感じる、という感覚を得る。

 つまり、珱嗄は本来見えない筈の風斬氷華を『触れる』能力で視覚化したのだ。視線で『触れる』ことで。つまり、珱嗄はその身体で『触れる』ことや、他のものに能力を付与させて『触れさせる』以外にも、視線や聴覚等の感覚部分でも『触れられる』様にすることが出来たのだ。

 

 

 文字通り、見て、聞いて、それに『触れる』

 

 

 子供でも分かる事だ。故に、珱嗄は見えないがそこに存在する風斬氷華を見る事が出来たし、当然の様に『見えない』という性質を無効化してその身体に触れる事も出来た。

 また、直接触れていないことからこれに関してはどうやら時間制限は無いようだった。

 

「………何してんの?」

「な、なんで見えるんですか」

「化け物だから?」

「そ、そうですか……あ、近寄らないでください」

 

 珱嗄におっぱいを触られた経験から、風斬氷華の珱嗄への警戒心は鰻登りだった。

 

「はいはい、で、何してんの?」

「えと……私約束通りあの修道服の子のそばに居たんですけど……あの子が学園都市の外に連れ去られてしまって……でも私は学園都市からは出られないから……」

「どうしようって?」

「……はい」

 

 どうやら、風斬氷華は消えてから一週間ずっとインデックスの傍にいたらしい。なんというか、完全なステルスでのストーカーだな、と珱嗄は感想を抱いた。そして苦笑気味に頭に手を乗せた。

 

「ふぇ?」

「インデックスちゃんが連れてかれたって事は、上条ちゃんも動くでしょ。仕方ねーから俺も助けに行ってやるよ。全く、友達思いなこった」

 

 珱嗄はそう言うと、学園都市を囲っている高さ5m、厚さ3mの壁を見上げた。どこかの巨人アニメなら全員駆逐されてる。

 そして、珱嗄はその壁を普通に跳躍で乗り越える。そして氷華を見下ろして、手を振ると、インデックスを探すべく学園都市の外へと去って行った。

 

 

「まぁ、それは建前で、本当は面白そうだからだけどね」

 

 

 珱嗄は空中を蹴りながら、そう言った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 上条当麻は、学校帰りに土御門元春の義理の妹、土御門舞夏に出会った。そして、インデックスが身長2mほどで、赤髪で、咥え煙草で、頬にバーコードの刺青、そして神父の様な格好をした怪しい奴に連れ去られたと伝えられた。

 この作品ではまだ出て来てはいないが、この特徴は上条当麻がインデックスを救った時に共闘した魔術師の一人、ステイル=マグヌスの特徴に他ならない。神裂火織もそうだったが、彼もそうとう怪しい格好をしているのだ。

 

「はぁ……学園都市の外出許可証に定規で書いた脅迫状……なんつー古典的な」

 

 という訳で、上条当麻は舞夏がその誘拐犯から渡された封筒を受け取り、その中に入っていた外出許可証と脅迫文にため息を吐いていた。

 

「まぁ……助けに行くかぁ……」

 

 上条当麻は現在、学園都市の外を歩いていた。地理も分からないので、地図を見ながらだが、とりあえずは徒歩で脅迫文に書いてある場所へと移動している。

 そして、学園都市からしばらくあるいた場所、一つのバス停が見えた。そこにはインデックスとは違って黒い普通の修道服を着たシスターが運行表を見ながら首を傾げている。上条当麻としては、そういうものに関わりたくなかったので、スルーして通り過ぎようとするものの、不幸な彼にその選択肢は無い。

 

「あの、少しよろしいでしょうか」

「………はい」

「バスの運行表はどのようにして見ればよろしいのでございますか?」

「えーと……何処に行きたいんですか?」

「ああはい、私、学園都市行きのバスに乗りたいのでございます」

 

 修道女はそう言った。だが、学園都市行きのバスは無い。何故なら、学園都市に入るにはそれなりの手続きと許可証がいるからだ。バスでは学園都市の中には入れない。

 

「えーと……学園都市行きのバスは無いですよ?」

「あらあら、そうなのでございますか? ありがとうございます、では」

 

 修道女はやってきたバスに乗り込んだ。

 

「待て待て!! 話し聞いてましたか!?」

「え? あら、違いましたか?」

「学園都市行きのバスは無いの! だからこのバスに乗っても学園都市には行けねーの!!」

「そうなのでございますか……ありがとうございます。では」

 

 修道女はバスに乗り込んだ。

 

「だから待てっちゅーに!!」

「あらあら、どうやら少し汗を掻いているようでございますね。少し動かないでくださいますか」

 

 修道女はまたバスから降りて来て、汗だくな上条当麻の汗をレースのハンカチで拭う。徹底的に話を聞かない修道女に上条当麻はたじたじだ。

 

「くそ……このシスター……珱嗄と同じ位めんどくせぇ……!」

 

 修道女は面倒臭さにおいて珱嗄と同レベルになったようだ。まぁ珱嗄はわざとで彼女は天然なのだが。その点は特に違いは無いだろう。

 

「お茶を飲みますか?」

「え、ああ……ありがとう」

 

 当麻は修道女から差し出された水筒のコップを受け取る。そして、中に入っているお茶を口に含んだ。すると、そのお茶はこの真夏日にも関わらず、ホットだった。

 

「あっつぁ!? なんでホット!?」

「熱い時には温かいものの方が良いのでございますよ」

「お前はおばあちゃんか!?」

「あら、それでは飴玉をどうぞ」

「………ありがとう」

 

 上条当麻は飴玉を口に入れた。好意は受け取らなければならない。オレンジ色の飴玉なので、オレンジ味かと思っていたのだが、その実全然違う。

 

「何味コレ……?」

「渋柿味でございます」

「本格的におばあちゃんだな! オイ!」

 

 上条当麻は頭を抱える。なんだこの女版珱嗄みたいな存在は、と苦悩した。そして感覚的に直感した。この修道女と珱嗄を、一緒にしてはならない、と。

 

「えーと……学園都市行きのバスは無いんだ。此処まで良いか?」

「はい」

「……で、俺は学園都市から来たんだ。どんな理由があるか知らないけど……とりあえず一緒に来るか?」

「では、そうさせていただくのでございます」

「はぁ……不幸だ」

 

 上条当麻はそう呟く。

 

「ああそうだ。俺は上条当麻、よろしくな」

「ええ、私はオルソラ=アクィナスと言います。よろしくお願いします」

 

 そして、その修道女の名前は、オルソラ=アクィナスといった。

 

 


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