◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
垣根提督をカエル顔の医者の病院へ連れて行ってからしばらく、珱嗄は病院から『触れる』能力の練習も兼ねて、空中を継続的に蹴りつつ移動していた。そうしている内に気付いたのだが、珱嗄の『触れる』能力は発動後、3秒ほどのインターバルが必要になっていたのだが、今の珱嗄はそのインターバルが限りなく少なくなっていた。おおよそ1秒から0.5秒ほどだが、それでもかなりの進化だろう。やはりレベル3とレベル4では出来ることに大きな差があるようだ。
また、珱嗄はこの『触れる』能力を自分以外のものに15秒程度だが付与出来るようになった。それは言ってしまえば15秒間無敵の盾を作りあげる事が出来るという事だ。御坂美琴の
「―――でも、なんか違うんだよなぁ」
珱嗄は呟く。
この『触れる』能力に関しては、超能力でも魔術でも無い全く別の力だ。何せ、神から直接貰った能力なのだから。アレイスターはこの能力を神の力であるテレズマと表現したし、幻想殺しとも違うと言った。解明出来ない別次元の力。
珱嗄はこの能力の、現在の使い方に少しだけ疑問を抱いていた。これまで数々の能力を使いこなしてきた珱嗄だが、この能力に関してはただ『触れる』だけというわけではないと感じているのだ。
「ま、不自由はしてないし……いいか」
珱嗄はそう結論付けて、一旦着地しようと能力の発動を止める。そして、工事現場の鉄骨の上に着地点を定めた。そして、少し考え事をしつつ足を伸ばすと―――
「え」
ガシャン、という音と共に珱嗄は何かを踏みつぶした。陶器を壊した様な音は、何処か人間にも似ていて、少しだけ違和感を感じる。
「いったぁぁぁ!!」
そして響く悲鳴。珱嗄は冷静にその場からどいてその悲鳴の発生源を見た。
「ぐぅぅ……!」
すると、そこには上半身と下半身が割れた様に分断された少女が転がっていた。だが、血は出ていない。本当に身体が陶器の様に割れていた。だが、痛みは感じているのか苦しんでいる。そして、中身は空洞だった。
「………どういうアレだ、コレは」
「ふぅぅ……!」
「あ、直った」
すると、苦しんでいた少女の身体は時間が戻ったかのように元通りに直った。すると、少しだけ自嘲気味に笑みを浮かべて立ちあがった。
「あ、あはは……痛いですよ、もう」
「ごめんね。ちょっとぼーっとしてて。ところでお前誰?」
「あ、か、風斬氷華っていいます」
「へー、で、その身体はどういう構造?」
「あ………その、これは……私は化け物だから……」
「へー」
「へー、って……それだけですか?」
「ゴメン、俺見た目人間なら取り敢えず関わるタイプの人間だからさ」
珱嗄の言葉に、風斬氷華という名の少女はひくっと口元を引き攣らせた。それはつまり、人間の姿をしていれば中身がどうであれ関係無いという事ではないか。例えば中身が妖怪でも、例えば中身が悪魔でも、例えば中身が―――空洞でも。
「でも流石に中身が無い奴に会うのは初めてだ。ちょっと触らせてー」
「え」
むにゅん、珱嗄の手が風斬の豊満なおっぱいに触れた。中身が空洞だというのに、何故か柔らかい。しかも中身が無いのに弾力まである。どういう構造なのだろう、と珱嗄は顎に手を当てて更にむにむにと揉んだ。
「え? え?」
風斬はその行動に呆然としていて反応出来ていない。そして、珱嗄が手を放した頃にばっと胸を抱えて顔を赤くした。遅い、反応が遅すぎる。
「なななななん、なにをするですか!」
「おっぱいを揉んだ」
「ハッキリ言わないでください!」
「母性の象徴に触れて、刺激を与えた」
「遠回しも駄目です!」
「感想言おうか?」
「い、言わなくていいです!」
珱嗄の言葉に先程まで落ち込んでいた様子の少女が涙目で慌てだす。
「さて……どうでもけど此処で何してんの? おかげでふんづけちゃったじゃないかどうしてくれる」
「え、これ私が悪いんですか?」
「普通こんな所に人がいるなんて思わないって」
「あ、はい、すいませんでした……?」
珱嗄は謝罪を受け取ると、踵を返す。そして、顔だけ振り返って少し少女を見る。
「………俺の名前は泉ヶ仙珱嗄だ。じゃあまたね、氷華ちゃん」
「あ、は、はい!」
氷華が嬉しそうに笑うと、珱嗄はゆらりと笑ってその場から跳躍し、去って行った。
◇ ◇ ◇
珱嗄は宙を跳び回りながら、先程であった少女の事を考えていた。
「―――中々面白そうな存在だったね。会えたのは運が良かった」
彼女、風斬氷華は人間では無い。この学園都市に存在する230万の超能力者達の放つ、AIM拡散力場の集合体だ。所謂、生物では無く現象と言った方が正しいのだ。故に、先程のおっぱいを揉んだ時に珱嗄が感じた感触は、念動能力の力で作られた感触、体温は熱操作系の能力者の力等々、様々な力によって作られているのだ。
だが、彼女はつまり能力の塊の様な物で、異能の力の塊。それは上条当麻の『
「俺の勘だと、今後また会う気がする。まぁその時は――――この世界がどうなってるか分からないけれど」
珱嗄の勘は良く当たる。嫌な予感も当たってしまうのが傷だが、逆に良い予感も当たるのだから結構便利である。
「さて、どうなるかな?」
珱嗄は空気を蹴って、ゆらりと笑いながら、そう言った。空は既に茜色に染まっていた。