◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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第二位対人外

 珱嗄と垣根の戦いは、実の所かなり接戦だった。何故なら、垣根は空を飛べて、珱嗄は空を飛べないからだ。珱嗄が一回地面を蹴って飛べるギリギリの高さよりも上に滞空する事が出来れば、珱嗄の得意分野でもある先手必勝が出来ないのだ。勿論、その高さまで移動する事は出来る。以前の天使戦の様に、空気を『触れる』能力で足場にすれば何度か蹴った後に肉薄する事が可能。弱体化しているとはいえ、珱嗄の速度は人よりもかなり速い。接敵すれば確実に先手を取れる。

 しかし、幾ら珱嗄だからといって、地面を蹴る、というプロセスを踏まない限り進む事は到底出来ないのだ。つまり、地面を蹴るという行為を始めて、終わらせるまでの僅かな瞬間が、垣根が攻撃を躱すだけの余裕を持たせる要素になっていた。

 

 翼を使って飛行するということは、地面を蹴る一瞬の間も移動出来るという事だ。珱嗄の攻撃は基本的に身一つなのだから、近づけさせなければ勝つ事はあれど、負ける事は無いのだ。

 だが、負ける事は無い垣根もまた、決定打に欠けていた。珱嗄の攻撃を躱す中、珱嗄に翼による攻撃を仕掛けているのだが、その全てが珱嗄に当たる前に逸らされるか、珱嗄に弾き飛ばされてしまう。『超能力による干渉を防ぐ性質』を持つ未元物質(ダークマター)を作って攻撃すれば、逸らされる事は無いものの、やはり弾き飛ばされてしまうのだ。珱嗄の『触れる』能力に関しては、垣根の演算能力を持ってしても演算出来なかったのだ。何故なら、超能力では無いのだから。

 

 そして、物理的に攻撃するのでは駄目ならばと、『翼で回折した太陽光を殺人光線に変える性質』を使って、焼き殺そうとしてみたものの、珱嗄の『触れる』能力は身体全体に及ぶので、進化した能力は30秒間珱嗄の身体を護る。そして、その30秒間の間に珱嗄は接敵してくるのだ。故に、その太陽光線を維持するのは接敵してくる珱嗄を対処しながらでは無理だった。

 同様の理由で、斬撃や暴風を起こしてみたりもしたのだが、斬撃も暴風も珱嗄には全く効果を現さなかった。

 

 故に、かなり接戦だった。というか、均衡状態だった。お互いに無傷、体力は減って行くものの、飛行している垣根はそこまで体力を消費していないし、珱嗄が体力切れなどあり得ない。

 だが、ここで確実に勝敗を付けるのは、垣根が能力を使えなくなった時だ。学園都市の超能力者は総じて能力を使い続けられるわけではない。あの一方通行でも永遠に能力を使っている訳では無く、やはり何処かである程度脳を休めている。垣根としても同じこと。永遠に能力を使おうとすれば、演算を繰り返す脳が疲弊し、能力は強制的に使えなくなるのだ。例えるのなら、パソコンの電源を付けっぱなしにして計算を円周率を永遠計算させていれば、オーバーヒートして強制シャットダウンする様なものだ。

 

 だが、珱嗄の『触れる』能力は演算で成り立っていない。永遠に使い続けられるのだ。それでなくとも、珱嗄は身体能力だけで圧倒する事が可能なのだから、勝負は時間の問題だった。

 

「ッ……くそっ!!」

「おいおいどうした、その羽、段々動きが鈍くなってるぜ?」

「!」

「珱嗄式―――『断刀(タチガタナ)』!」

 

 一瞬の油断。珱嗄はその一瞬で垣根の上を取った。そして、真上から真下に振り下ろす様に踵を垣根の頭目掛けて落とす。その攻撃はなんとなく、ギロチンの様だった。

 そして、その踵落としを躱そうと羽を動かして横に移動する垣根だが、一瞬遅く、珱嗄の踵が垣根の右肩を抉った。

 

「―――ギッ……!」

「まだ――――まだぁ!」

「なっ……!」

 

 そして、右肩の関節をゴキッという鈍い音と共に脱臼させた珱嗄は、振り抜いた足の先に『触れる』能力を発動し、空気の足場を作る。そして後退する垣根に追随した。距離を放そうとした直後に距離を詰められ、身体が硬直する垣根。珱嗄はその硬直を見逃さず、垣根の腕を掴んだ。

 

「落ちろメルヘン天使!」

「うぉ――――――!!?」

 

 珱嗄は背負い投げの要領で垣根を担ぎあげ、地面目掛けて投げる。そして、落ちて行く垣根は羽を使ってどうにか勢いを落とそうとするが、珱嗄はそれを許さず、また空気を蹴って高速で落下していき、垣根の羽を掴み、地面に引き寄せて再度叩き付けた。

 

「ガッ……ぐぎっ……!」

 

 すると、先程からの戦いのせいか、廃墟だったせいか、床が壊れる。そして、そのまま地下通路に落ちた。そして落ちた先、そこには―――――

 

 

「え?」

 

 

 上条当麻が居り、その後ろに警備員(アンチスキル)が銃器を構えており、そしてその前には土や瓦礫で作られた様な巨大なゴーレムが対峙しており、その傍には金髪に黒いドレスを着た女がいた。

 

「何この状況」

 

 珱嗄はそう呟きながら、垣根をゴーレムに向かってぶん投げた。すると、垣根は飛びそうな意識を繋ぎとめ、ゴーレムをその翼で破壊する。そしてそのまま一旦地面に着地した。

 

「げはっ………くそ、肩外れた……! それに、アバラも何本か逝ったか……?」

 

 垣根は脇腹を抑えつつ、未元物質で右肩を固定し悪化を防ぐ。そして手早く応急処置を済ませた垣根は珱嗄を睨んだ。

 

「んだコイツら……ぺっ」

 

 垣根は口内の血を吐きつつそう言う。

 

「なぁ上条ちゃん。これどういう状況?」

「いやこれは……ちょっと魔術師が入り込んできて」

「なるほど……でもゴーレム壊れたけd……なるほど、再生可能な訳か」

 

 珱嗄の視線の先、垣根の姿を隠す様にゴーレムが復活した。そして、横に居た金髪の褐色女がゴーレムを操る。

 

「とうま!」

「っ!? インデックス! どうしてここに!?」

 

 すると、破壊された床……この場合は天井からインデックスが姿を現した。どうやら珱嗄達の戦闘の音を聞いてやって来たようだ。

 だが、ゴーレムはインデックスに気を取られた上条当麻達を狙って拳を振りかぶった。

 

「しまっ―――」

「インデックスちゃん、跳べ!」

「!」

 

 珱嗄の言葉に吃驚して咄嗟に飛んだインデックス。そして、珱嗄は落ちてくるインデックスを受け止めて迫るゴーレムの拳の盾にした。

 

「あぶね」

 

 ギィン! という音と共に拳がインデックスの『歩く教会』によって防がれる。流石は珱嗄特製の霊装、その防御力は折り紙つきだった。

 

「な、なにするの! 『歩く教会』があっても怖い物は怖いんだよ!?」

「知らない。俺の作ったものを俺がどう使おうが勝手でしょうが」

「一番勝手なのはおうかかも!!」

「どうでもいいけど俺も忙しいの、とりあえず此処は任せた」

 

 珱嗄はそう言うと、ゴーレムに向かって駆け出し、擦れ違い様、一瞬でゴーレムをバラバラにした。そしてその先に居る垣根に接近する。

 

「このっ……!」

「地下に入れば空も飛べねーだろ」

「ウギッ――――く――――そーーーっ!」

 

 咄嗟に三対の翼を腹の前で重ねて盾にすると、そこに珱嗄の蹴りが容赦なく叩き込まれた。その威力に羽ごと吹き飛ぶ垣根。転がりながらもなんとか体制を立て直そうと翼をがむしゃらに動かした。

 

「が………ハァ……ハァ………!」

「どうした、もう終わりか?」

「確かに……第一位を倒したってのも分かるな………化けモンか、テメェ……!」

「一時期そう呼ばれてた事もあったな」

「げほっげほっ……あ゛ー……くそ、もう限界か」

 

 垣根がそう言うと、白い翼はボロボロと崩れて消えた。右肩を固定する未元物質はまだその姿を消してはいないが、どうやら垣根は演算能力の限界のようだ。戦闘する為に最低限の能力が発動出来なくなったらしい。まぁ珱嗄の止まらない攻撃と接近に対して休むことなく頭を回転させて即座に判断し、躱し、能力の演算を行なっていたのだ。こうなるのも分かる。

 

「お前、俺を殺す気は無いんだろ?」

「まぁね」

「なら、降参だ。………胸糞悪ぃが、流石に勝てそうにない。引き際は心得てんだよ」

「そうか、さて」

「んだよ」

「携帯、出せよ」

 

 珱嗄のにっこりとした笑みに垣根は大人しく携帯を差し出した。珱嗄はそれを弄り、アドレスと電話番号を交換する。そしてそのまま携帯を垣根の手に握らせると、珱嗄は垣根を抱え上げた。

 

「お、おいどうするつもりだ!」

「病院へ連れてく」

「別に良い! 余計なお世話d―――っ痛……!」

「大丈夫、暗部にも優しいお医者さんがみてくれまちゅからねー」

「ブッ殺すぞお前!!」

「わはは、出来ない癖に何言ってんだメルヘン頭」

「クソ、他のレベル5がどんな気持ちになったのか分かるわ………やりづれぇ」

 

 珱嗄はその言葉を聞いて、ゆらりと笑った。

 

「いいのかな? そんな事言って」

「は?」

 

 珱嗄の笑みを見て垣根は顔を青褪めさせた。何をされるのか予想は付かないが、悪い予感しかしない。

 

「はい、じゃあこの状態で病院まで徒歩で運んでやる」

「待て待て待て待て待て!!!! 悪かったから! 謝るから! マジで止めろホントごめん止めてくれ!!」

 

 珱嗄は垣根を『お姫様だっこ』して運び始めた。空いた天井から外へ出る。騒ぐ垣根を珱嗄は無視しながら歩く。そして、廃墟から出ようとした所で、垣根が最後の力を振り絞って翼を出し、珱嗄の腕から逃れ、全力で土下座を行なった。

 

「冗談だよ」

 

 珱嗄はそう言って、ゆらりと笑った。

 

 

 


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