◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
翌日、珱嗄と打ち止めのジェンガ騒ぎによって寝不足な一方通行は、眼の下に隈を作って朝を迎えた。寝ようとした所に落ちてくるジェンガは、何故か反射しているにも関わらず一方通行の頭を攻撃してくるのだ。二度と珱嗄とこのミサカモドキを家には呼ばないと心に決めたのだった。
(……天使との戦いから『触れる』能力になんか違和感があるなぁ)
対して、珱嗄は自身の『触れる』能力に違和感を感じていた。別に悪い方向ではない。何か別の使い方が出来る様になったというべきか。試しに珱嗄はジェンガに触れて、手の中で弄ぶ。そして、のそのそと立ち上がり、部屋を歩く一方通行に向けて投げ付けた。
本来なら、反射されて珱嗄の下へ戻ってくる筈だ。だが、そのジェンガは一方通行の頭をスコーンと打ち抜き、普通に地面に落ちた。
「………なるほど」
珱嗄はその事象を見て確信する。レベル3程度の効果しか発揮して無かった『触れる』能力が、明らかに強くなっている。恐らく、今測ればレベル3からレベル4へと上がっている筈だ。そして、珱嗄がレベル4の『触れる』能力になって出来る様になった事は、『発動時間の延長』と『能力付与』だ。
珱嗄は能力を自分の手に発動させて、そのまま維持する。すると、その効果は30秒程経って消えて行った。つまり、5秒だった効果時間が30秒まで延びていた。
そして、『能力付与』。この『触れる』能力を珱嗄以外の物に付与させる事が出来る様になったのだ。故に、『触れる』能力を付与されたジェンガは一方通行の反射の効果を無効化し、攻撃を与えた。とはいっても、付与が維持出来る時間は15秒程だが。
明らかに進化した『触れる』能力に、珱嗄はゆらりと口元を歪める。レベル5になったらどうなるのか、見物だった。
「どうしたの? ってミサカはミサカは笑ってる貴方に問いかけてみる」
「ん、なんでもないよミサカモドキちゃん。ほら、ご飯にしようか」
「わーい! 外のご飯は初めてかも! って、ミサカはミサカは期待を膨らませてみたり!」
「そうか、じゃあ君の初めてのご飯はファミレスだ。良かったな、水が飲めるぞ」
「ファミレスな上に水のみ!? ミサカはミサカはその鬼畜っぷりに驚愕してみたり!」
「今ならお子様ランチの―――」
「あ、なんだやっぱりご飯をくれるんじゃない、ってミサカはミサカは―――」
「―――旗をやろう」
「ランチプリーズ!! ってミサカはミサカは必死の懇願をしてみたりぃ!!!」
珱嗄の言葉に翻弄されるミサカモドキ。なんとなくその突っ込む様子は、一方通行に似ているものがあった。
「わはは、お子様ランチを食べる一方通行を眺めながら水を啜り、旗を持ってファミレスから出るが良い」
「しかもお子様ランチを食べるのは一方通行なの!? ってミサカはミサカは想像出来ない光景を生み出そうとしている事に驚愕してみる!」
「おいおい良く考えろ。アイツの年はなんだかんだ言って高校生位だぜ? そりゃお子様ランチも食べたくなるって。知らないだろうけどアイツは三食お子様ランチなんだ」
「そうなの!?」
「ああ、大親友の俺が言うんだ。間違いない」
「大親友なの!? ってミサカはミサカは開いた口がふさがらない!」
「オイコラ適当吹いてンじゃねェ!!!」
珱嗄が一方通行の反応に笑うと、ミサカモドキもつられて笑った。一方通行はそんな二人の笑いに頭を掻いてため息を吐いた。その光景は、普通の生徒の、普通の談笑風景に見えた。
◇
さて、それからしばらく。珱嗄達は手近なファミレスへやってきていた。とりあえず三人とも適当にメニューを頼む。ミサカモドキはファミレスの途中で珱嗄が買ってきた普通の服を着用しており、ボロ布は珱嗄がミサカモドキの眼の前でゴミ収集車に突っ込んだ。ミサカモドキは「相棒ぉぉ!!」と叫んで崩れ落ちた。ちなみにミサカモドキが来ている服は原作で来ている様な水色のワンピースに大きめのYシャツ。サンダルは珱嗄とお揃いだった。
「うぅ……ミサカの今までのパートナーが……!」
「……泣くなミサカモドキ。アイツは自分の夢を叶える為にお前から離れたんだ。目指す場所があったんだよ」
「目指す場所って何処? 埋立地じゃん! 夢? 灰になるじゃん!! ってミサカはミサカは糾弾してみる!」
「うるせェよオマエら……」
「あ、さんくーアセロラ」
「ありがとう! ってミサカはミサカはお礼を言ってみたり」
珱嗄とミサカモドキが席で駄弁っていると、一方通行が三つのグラスを持って帰って来た。ドリンクバーを頼み、ジャンケンで負けた一方通行が飲み物を取りに行っていたのだ。
「ったく……つーかよォ、そろそろオマエの説明が欲しいトコなンだが」
「そう言えばそうだな。お前誰だよ」
「今までの友好的な対応が嘘の様に冷たい視線! ってミサカはミサカは変わり身の早さに吃驚仰天!」
「良いからさっさと話せ」
一方通行がスルーして話を促すと、ミサカモドキは自分に付いて話し始めた。
「まず、ミサカは貴方達が思ってる通り、御坂美琴お姉様のクローンで合ってるよ。検体番号は20001号、コードもまんま
「つまりアレか、調整途中でまだ完成してねェって訳か」
「そう。だから実験に協力してた貴方なら研究者の誰かとコンタクトが取れるんじゃないかなって思って。ってミサカはミサカは小首をかしげて頼みこんでみたり」
一方通行と打ち止めがそう言って話している中で、珱嗄はこの会話の不可解な点に気付いていた。
(『20001』号? 確か実験はきっかり2万通りじゃなかったっけ?)
そう、実験はぴったり2万通りだった筈だ。故に、製造されたクローンもぴったり2万体の筈なのだ。なのに、20001体目の最終検体が眼の前に存在している。これは明らかにおかしかった。
(……ま、いいか。面倒だし)
「―――!」
「どうしたの? って、ミサカはミサカは訪ねてみたり」
珱嗄がそう結論を出すと、一方通行がいきなり立ち上がって外を睨んでいた。珱嗄はその方向を見ると、そこには白衣を着た中年の男性がいた。一方通行が反応した、ということはあの実験の関係者だろうと考える。
「天井……亜雄……?」
「お待たせいたしました。ハンバーグ定食のお客様」
「はいはい! ってミサカはミサカは自己主張してみたり!」
「どうぞ」
店員はテーブルに3人分の料理を置くと、そのまま去って行った。
「いっただっきまーす! これ言うの密かに楽しみにしてたりして! ってミサカはミサカは夢の実現に喜んでみたり!」
「いただきまーす」
「……まァいいか……」
三者三様に食事を開始する。打ち止めは初めて食べるからかとても美味しそうに食べるので、珱嗄は少しだけ微笑ましくなった。ちなみに、一方通行は切るのがめんどくさいのか、熱を反射しながら鉄板自体を素手で抑えて乱暴に肉を切っていた。
「野生児かお前」
「うっせェな……面倒なンだよ」
「おいしー!」
一方通行は、クローンを殺しまくっていた自分に、どうしてこうも笑顔で話しかけられるのか、疑問だった。だが、それは敢えて聞かない。どんな理由があろうと、彼女達の命を自分は背負うと決めた。なら、別に今更無為に扱うこともないだろうと思ったのだ。
といっても、彼女達に必要以上に関わろうというつもりはないのも事実だった。
「――――っ」
その時、ガシャン、と音を立てて打ち止めがテーブルに突っ伏した。突然の事で珱嗄も一方通行も少しだけ驚いた。そして、打ち止めが顔を真っ赤にして息も絶え絶えに状況を説明し始めた。
「あ、あはは……こうなる前に、研究者とコンタクトが取りたかったんだけど……ミサカはまだ完成して無い培養途中の固体だから……本来なら培養機からまだ出ちゃいけないの……て、ミサカは……ミサカ、は」
その様子は酷く痛々しく思えた。一方通行も同じ様に思ったのだ。今にも死にそうなのだ。
しかし、一方通行は彼女を助けようと思えなかった。いや違う、助けられると、思えなかったのだ。破壊する事しか出来ないこの能力で、この状況は打破出来ないと考えてしまったのだ。だから、
「あれ……どこか……いっちゃうの……? まだ、ご飯残ってるのに……」
一方通行は席を立った。伝票を取り、レジに向かう。珱嗄はそんな一方通行を横目に黙々と料理を口に運ぶ。
「あァ……食欲無くなっちまったわ」
「そっか……ごちそうさま……ってのもやってみたかったな……」
「そりゃ残念だったな」
一方通行はそう言って、去って行った。ファミレスから出て行き、振り返らない。テーブルには珱嗄と打ち止めだけが残された。
「……ごちそうさまっと」
「……ミサカの前で……敢えてその挨拶するなんて……本当、意地悪だね……
って、ミサカはミサカは……」
「残念なら俺はそういう性格なんだよ」
「あはは………」
「さて、あのアセロラもなんとなーく変わったと思ったけど、まだ駄目だね。ありゃ粋がってた不良がただのヘタレ少年になっただけだわ」
珱嗄の言葉に、打ち止めは答えられない。もはや意識も朦朧としていた。
「ふー………全く、こういう面倒事が起こるのは何処の世界も同じなのかね?」
珱嗄はそう言うと、打ち止めを抱え上げ、おんぶする。
「………?」
「仕方ねーから少しだけ面倒見てやるよ。アセロラはちょいと教育が必要だ」
珱嗄はゆらりと笑うと、ファミレスを出た。