◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
さて、入れ替わりの原因である世界規模級の広範囲魔術『
で、現在だ。小萌姿の珱嗄は上条達とは行動を別にして、旅館『わだつみ』の屋根の上でいつも通りの格好をしつつ、胡坐を掻いていた。吹き抜ける夜風に眼を閉じて、集中している所だ。
珱嗄としては、別に肉体にこだわりはないので、この姿として認識されようが別に構わないのだが、世間の眼からして女性として過ごさないといけないのは少し面倒だった。故に、犯人探しには協力の姿勢を見せている。
というわけで、珱嗄は珱嗄なりのやり方で犯人探しをしているのだ。極限まで集中し、自然とほぼ一体になる。余りにも自然と溶け合っている珱嗄に、普段は警戒心の強い筈の小鳥が近寄り、野良猫が珱嗄の膝の上で丸まっていた。
珱嗄のやっているのは、周辺の警戒だ。元々、様々な世界でスキルや念能力、魔法、ギフトと様々な能力を使って来た珱嗄だ。魔術だなんだと言われても、結局はそれを構成する魔力等の要素がある。それの動きを察知する事くらい、容易い。この場合は魔法だが、元々は珱嗄も魔力を扱っていたのだから覚えがあるのだ。
「――――……」
珱嗄はすぅっと眼を開いた。その視線の先には視界に移る物以外の何かが見えている。
「……世界規模、されど個人にとっては小っせぇ世界だね」
珱嗄はそう呟く。世界規模の魔術、確かに凄いスケールの凄い魔術だ。だが、それは誰から見た凄いなのだと珱嗄は吐き捨てる。珱嗄からすれば、世界規模と言われてもその影響は自分を中心に小さな範囲でしか認識出来ない。神様ではないのだから、結局世界規模だろうが小規模だろうが結局の所、同じ魔術だ。
「さて、犯人さんは随分と予想外な人間みたいだ。全く、拍子抜けだぜ」
珱嗄はつまらなそうに片目を閉じ、退屈そうにそう言った。そしてごろっと寝っ転がり、さも小さな問題とばかりに欠伸を漏らしたのだった。
◇ ◇ ◇
上条当麻と土御門元春、神裂火織はそれぞれ疲れを癒すべく束の間の休息を取っていた。上条当麻は自室で、神裂はステイルの姿である故に、男湯で汗を流し、土御門はその間見張りをしていた。
「あれ? 土御門ちゃん、何してんの?」
「小萌先生……いや、中身は珱嗄、だったか? いやいやねーちんが風呂に入ってる間の見張りぜよ」
「へー、じゃあ私もお風呂に入るのですー。土御門ちゃん、見張りお願いしますねー?」
「はーい! って待て待て! アンタ中身は男だろ!? ねーちんが入ってんだって!」
「大丈夫ですよ。今は小萌先生なので」
「おいおいおいおい、姿が幼女である事を良い事に覗きしようとしてますよこの人!」
珱嗄はそんな中、風呂場へ突撃しようとして土御門に全力で止められた。まぁ冗談なので素直に引き下がったが、土御門はなんとなく珱嗄に対する苦手意識を抱いていた。
「さて、土御門ちゃん。この『
「いーや、皆目見当も付かないぜよ。情報も無し、手かがりも無いわけだしにゃー」
「まぁ俺は犯人分かったけどね」
「やっぱり分からないよn………ん?」
「……じゃ、おやすみー」
「待てオイ。犯人分かったってどういうことかにゃー?」
去ろうとする珱嗄の肩をがしっと掴む土御門。絶対に逃がさないとばかりに力が込められていた。
「簡単な事だよ。とりあえずはヒントをあげよう………上条ちゃんの引っ越し先に行って見ると良い」
「どういうことだ?」
「俺が全部教えたら面白くないだろうが。少しは自分で無い知恵絞れ」
「……世界中の人間が危険に晒されるのかもしれないんだぞ」
珱嗄の言葉に土御門は少し怒った風に言った。だが珱嗄はその苛立ちすらも纏めて面白いとばかりに笑う。土御門はその笑みに少し気圧されたのか、一歩後ろに足を引いていた。
「それがどうした。逆に、それくらいやってくれなきゃ――――面白くないだろう」
珱嗄はただひたすらにこの状況を楽しんでいた。面白くて、嬉しくて、楽しい。この世界の全てが彼にとっては娯楽なのだ。世界規模の魔術事件、随分と楽しげな展開ではないか。これを楽しまずして娯楽主義者は名乗れない。珱嗄の人間性は、こういう物なのだ。
「っ……お前、何者だよ」
土御門は珱嗄のその人格に恐怖を感じた。これはヤバい、人間とは全く異なってしまっている。故に、アレイスター・クロウリーと同様の恐怖を抱いた土御門は、珱嗄が何者かと聞いたのだ。人間では無く、化け物の様な理性を失い、力を振るうだけの存在でも無い。化け物以上の力をその身に宿し、それを理性的に振り回す存在。それはまるで――――
「泉ヶ仙珱嗄。面白い事が大好きなだけの、唯の『人外』だよ」
珱嗄はそう言って、月詠小萌の表情で、ゆらりと吊り上げる様に笑った。