◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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小萌先生、無双

 八月二十八日。実験が止まった一週間後、珱嗄とアレイスターの情報操作によって学園都市外にある海辺の旅館『わだつみ』に、実験のほとぼりが冷めるまで居て下さいという事で、上条当麻とインデックス、そして泉ヶ仙珱嗄はやってきていた。やって来たのは昨日なのだが、着いた時には既に夕方を過ぎていたので、大人しくしていたのだ。

 そして今日はその翌日。なんと、上条当麻の両親がやって来るらしい。学園都市外に来たという事もあって、普段会えない息子に会いに来るとのこと。上条当麻は朝早く起きて両親を旅館前で待っていた。

 

「当麻!」

「ぁ……」

「元気そうだなぁ!」

「あ、ああ……父さんも」

 

 さて、ここで教えておこう。上条当麻は、七月二十八日以前の記憶が一切ない。記憶喪失では無く、記憶破壊と呼ばれ、今後一切記憶が戻る事は無いらしい。

 そんなことになったのは、同居人であるインデックスを救ったのが原因だ。前回言ったが、彼女の頭の中には十万三千冊の魔導書の知識があり、魔術サイドではかなり危険視される怪物なのだ。故に、魔術サイドの上層部は、彼女に首輪の魔術を施し、一年ごとに記憶を消さなければ死ぬという枷を付けた。インデックスは一年ごとに記憶を消され、上層部から厳重に管理されてきたのだが、そこでその首輪を破壊したのが上条当麻だ。

 

 インデックスの喉の奥にあった首輪の術式をその右手で破壊し、暴走したインデックスの攻撃を、彼女の記憶を消しに来ていた魔術師二人と協力して凌ぎ、なんとか首輪の魔術を破壊する事に成功したのだ。だがその結果、暴走した彼女の魔術であり、歩く教会すら突破できる攻撃魔術、『竜王の息吹(ドラゴンブレス)』の余波で生み出された『羽』が上条当麻の頭に触れ、その日以前の記憶を消し飛ばしたのだ。

 故に彼は家族の記憶も、それ以前に知り合った人の記憶も、思い出も全て失っている。故に、父親と再会しても初対面同様なのだ。

 

「母さんたちは?」

「ああ、いとこの乙姫ちゃんと一緒にそろそろ来る筈だ」

 

 父、上条刀夜がそう言うと、上条当麻を呼ぶ声が近づいてきた。そしてその方向を見ると、駆けてくるオレンジのワンピースを来た少女が見えた。その無邪気さに上条当麻は笑みを浮かべたが―――

 

 

 

「おにーちゃーーーん!!」

 

 

 

 その少女は、御坂美琴だった。

 

「はぁっ!?」

「あぁお兄ちゃん会いたかったよぉ~!」

 

 そして抱き着いてくる御坂美琴。上条当麻は戸惑うばかりだ。

 

「な、なんでお前が此処に!?」

「あらあら、当麻さん的には久しぶりに会う乙姫ちゃんに抱き着かれるのは恥ずかしいのかしら?」

 

 そんな上条当麻の後ろからそんな声が聞こえ、彼が振り返るとそこには………お嬢様っぽい格好をしたインデックスが頬に手を当てながらそこに居た。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 上条当麻はとりあえず、戸惑いを抑えつつ父親達を旅館に連れてきた。珱嗄とのやり取りでそういう予想外な出来事に耐性が付いていた様だ。だが、旅館に入ると女将の格好をしたミサカ妹が出迎え、従業員の格好をした、上条当麻と一緒に暴走したインデックスを止めるべく共闘した魔術師の一人、ステイル=マグヌスが土下座で挨拶をしてきたので、もはや上条当麻の頭はパンク寸前だ。

 

「どういうことだ!?」

「ふぁ~……あ、おはようとうま!」

 

 そして、そこへ追い打ちを掛けるが如くやって来たのは、インデックスの修道服を着た上条当麻の同級生で、変態の青髪ピアス。女の子の様な仕草をする背の高い男性というのは、異常なまでに気持ち悪かった。そして、そこへトドメとばかりにやって来たのは――――

 

 

「おはよう上条ちゃん。とりあえずうるせーから黙れ」

 

 

 そんな汚い暴言を吐きながら階段を下りてきた、珱嗄と同じ格好の月詠小萌だった。

 

 

「どういうことだぁぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」

 

 

 上条当麻の絶叫が響き渡った。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 さて、上条当麻が戸惑っている中、珱嗄は自身の身体の変化に気が付いていた。どうやら今現在の珱嗄の姿は他人から月詠小萌に見えるらしい。ついでに、珱嗄からみてもインデックスや上条当麻のいとこの姿はおかしいと感じられている。

 

「ふむ……ま、いっか」

 

 だが、珱嗄は特に気にしなかった。ぐいっと身体を伸ばして欠伸を漏らす。身体に支障は無いのだから、これでもいいと思ったのだ。

 

「さて……この現象の原因は何かな? まったく、面白いことやってくれるじゃないか」

 

 珱嗄はそう言って、小萌の顔でゆらりと笑った。

 

 


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