◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
閑話 禁書目録との邂逅
実験中止のドッキリを伝えた翌日。珱嗄は上条当麻の家で眼を覚ました。時刻は既に午前5時30分、学生達が起きるにはまだまだ早い時刻だ。珱嗄はとりあえず、iphone89sを取り出して操作を始める。情報操作をするのだ。実験が中止になった原因は、珱嗄が一方通行を倒したのではなく、上条当麻が倒したということにするのだ。でないと、後々面倒事が転がり込んでくる事になるのだから。元より珱嗄は実験を止める為に戦ったのではなく、実験が止まったのは珱嗄の予期して無い事態だったのだから。
「~~♪ っと、こんなもんかね? さて、後は……電話電話っと」
大まかな情報操作を終えて、珱嗄は適当な番号を押して携帯を耳にあてた。しばらくコールが鳴り響いた後、ぷつっと音がして相手が応答した。
『……私はこの番号を教えたつもりはないのだがな、イレギュラー』
「俺の勘は百発百中なので」
『そ、そうか……それで、何の用だ? こんな朝早くに』
応答した相手は、アレイスター・クロウリー。珱嗄は適当な勘でボタンを押し、見事に彼の持つ番号の一つを叩きだしたのだ。この現象を、『めだかボックス式番号抽出法』と呼ぶ。あの世界ではパスワード等は全て適当に押せば正解するという現象が多々起こる。それが此処でも起きただけだ。
「情報操作を頼むわ。俺じゃなくて、上条ちゃんがアセロラ倒した事にしといて」
『ふむ、まぁいいだろう……対価はなんだ?』
「対価? そうだな……それじゃあお前の依頼を一つだけ受けてやるよ。何かあるか?」
『成程、仕事には仕事で返そうという訳か。ふむ、それでは依頼しよう。その幻想殺しと共に一時学園都市の外へ旅行へ行って貰おうか』
上条当麻が一方通行を倒した、という事になれば当然各方面で騒ぎになるだろう。そこで、アレイスターは上条当麻は一時的に学園都市の外へ追いやって、ほとぼりが冷めるまで待機させておこうと考えたのだ。故に、それに珱嗄を同行させる。そうして珱嗄を魔術サイドへ関わらせようという魂胆だ。
「オッケー。じゃ、頼んだぜ」
『承った。精々頑張ると良い』
珱嗄とアレイスターはそう言って通話を切った。番号は直ぐに削除され、別の番号へと切り替わる。一つの連絡ルートをいつまでもそのままにしておくほどアレイスターも馬鹿では無いのだ。
「……さて、この事をアイテムの皆と常盤台中学に連絡しとかないと」
珱嗄は再度携帯を取り、アイテムと常盤台中学へと連絡を取り始めた。
◇ ◇ ◇
それから二時間ほど経って、珱嗄に起こされた上条当麻は珱嗄が作った弁当を持って学校へと出発して行った。恐らく、今日中には外出の件を伝えられるだろう。珱嗄は常盤台中学に連絡した所、そう言う事なら今日は仕事も無いので休んで良いと言われたので、今日は休みだ。故に、上条宅で寛いでいる。
ただそれは一人で、ではない。珱嗄の目の前には猫を抱き抱えながら此方を見ている真っ白いシスターがいた。上条当麻曰く、インデックスという名前らしい。
「……インデックスちゃん」
「なにかな? えーと、おうか」
「なんで君はそんな針のムシロを着てんの?」
珱嗄の問いに、インデックスは固まった。
インデックスは普通のシスターとは違って、白地に金色の刺繍の入った修道服を着ている。だが、それは布と布を安全ピンで留めただけの、針のムシロだったのだ、布と布を繋ぎ合わせただけの様なものだ。勿論元々こんな風な訳ではない。インデックスのこの修道服は、魔術的な技術で作られた服だったのだ。正式名称『歩く教会』と呼ばれ、絶対防御の結界を服の形にした最強の防護服だ。
しかし、それは上条当麻が右手で触れた瞬間ビリビリに破れ、結界の機能を失った。結果、安全ピンで縫い合わせてなんとか服の形を取り戻したのだが、それはただの服以下の物になってしまった訳だ。
「それは聞かないで欲しいかも……」
「そう。まぁいいけど……それ、縫い合わせてやろうか?」
「え?」
「いや安全ピンだらけじゃなくて、ちゃんと縫って服にしてやろうかと言ってんの」
珱嗄の言葉に、インデックスは笑顔になった。猫を横に置いてテーブルを乗り出し珱嗄にキラキラとした眼を向けてきた。
「いいの!? 本当に良いの!? ありがとうなんだよ! おうか!」
インデックスはいそいそと服を脱ぎ始める。そして、珱嗄が自身の着ていたパーカーを手渡すと、裸の上からそれを着た。やはりサイズが大きいので下が無くても膝上15cm位の部分まで十分隠れていた。
「ふむ……」
珱嗄は安全ピンだらけの服を見て、とある知識を頭の中から引っ張り出した。
珱嗄が転生する際、最初に神様に頼んだ特典は『人間の習得できる全ての技術』。これは、この世界において魔術や超能力には身体との相性の問題で応用出来ないが、服を作ったり、料理を作ったりといった物においては十分に発揮する事が出来る。
それは勿論――――『歩く教会』を作る『技術』においても同じ事だ。
元々、彼女の『歩く教会』という修道服は、かの聖人イエス・キリストが十字架に貼り付けられ、処刑場で処刑人ロンギヌスに槍によって殺害された時、キリストの死体を包んだ『トリノ聖骸布』を正確にコピーした物なのだ。
ちなみに、その際使用された槍は、使用者であるロンギヌスの名前を取って『ロンギヌスの槍』と呼ばれていたり、槍を刺した部分から溢れ出た血液を受け止めた器があり、それが英霊の出てくるアニメでも有名な『聖杯』と呼ばれていたりするのだが、それは別の話。
まぁそんなわけで、正確な計算と技術によって精巧に縫い合わされた修道服は服単体が魔術的な意味を持ち、法王級の絶対防御を持つ修道服へと変貌する訳だ。上条当麻はその魔術的意味を『
故に、その修道服の繋ぎ目を精確に、精密に、精巧に、魔術的な意味を持たせられる様に縫い合わせることで、『歩く教会』は修復する事が出来るのだ。
「じゃ、始めようか」
「?」
インデックスは珱嗄の言葉に首を傾げる。彼女は『歩く教会』が復活するとは思っていないのだ。服が針のムシロから普通の服に戻る程度の考えなのだ。
だが、珱嗄はその常識をふっとばす。裁縫セットを取り出し、白い糸を針に通して安全ピンで止まっていた部分を縫い合わせて行く。魔術的意味を失わせず、元々の修道服と同じ効力を持たせられる様に、精密に縫って行く。
「!」
それを見つめるインデックスは、縫い合わせた部分から復活していく魔術的要素に眼を見開いた。
(これは……! 歩く教会がどんどん直されてく……!? どういうこと!?)
インデックスがそう考えている中でも、珱嗄の手は止まらない。
そして、珱嗄がパチンと糸を切る音と共に―――『歩く教会』は復活した。
「ほれ」
「う、うん……ありがとう………って違うよ! なんで歩く教会を直せるのか教えて欲しいかも!?」
「知らね」
「嘘つけぇぇ!!」
「いいじゃないか、直したんだから」
「む……確かにそうだけど……はい、パーカー返すんだよ」
インデックスはパーカーを返し、修道服を手早く来た。
「とりあえず、ちょっと殴ってみて欲しいかも」
「はいよー」
ズガァァァァァァアアァァァン!!!!! と轟音と共に部屋が振るえ、寮が振るえた。インデックスの腹を殴った音だ。
「ちょ、ちょっと! そんな軽い返答でめちゃくちゃなパンチは無いと思うんだよ!? 一瞬あ、私死んだと思っちゃったんだよ!!」
「だって殴れっていうから」
「限度があるって言ってるんだよ! というかお腹に少しダメージいってるんだけど!? どんな威力!?」
どうやら珱嗄の8割威力のパンチはインデックスの歩く教会を貫く事に成功したらしい。とはいえ、軽くお腹に子供の突進喰らった程度の威力だったらしいが。
「はいはい悪かったよ。ご飯作ってやっから許せよ」
「む……し、仕方ない、許してあげる。私は心が広いからね!」
インデックスは無い胸を張ってそう言った。
「それに、なんで貴方が魔術的な意味を持ったまま縫い合わせられたのか教えて欲しいかも」
「ああ、それはね。イエス・キリストの死体を包んだトリノ聖骸布を作ったの俺だもん」
「はぁっ!?」
そう、珱嗄は以前イエス・キリストに会った事がある。お忘れだろうか? 世界は違うが、珱嗄は氷河期に生まれ、地球滅亡まで生きた世界がある。そう、めだかボックスだ。珱嗄はこの世界でイエス・キリストに会った事がある。というか友達である。彼が宗教的な
故に、珱嗄は贈り物として死体を包む聖骸布を作った。そしてその三日後、死体を盗み出し、スキルで復活させたのだ。これが、キリスト復活の正体である。その後、聖骸布は誰かに回収され、キリストは何処かへ消息不明となった。
という訳で、珱嗄は『歩く教会』のオリジナルを作っていたのだ。故に、『歩く教会』が聖骸布のコピーだと知識の中から引っ張り上げた時、直せるなと考えたのだ。結果、直った訳だが。
「貴方……何歳?」
「およそ4兆歳? 普通の人間だった頃を含めれば………およそ4兆歳?」
「数が多過ぎて変わってないかも!?」
「証拠もあるよ。ほら」
「こ、これは……!」
珱嗄は懐からとある冠を取り出した。インデックスはそれを見て、驚愕する。
彼女の頭の中には、10万3千冊の魔導書の知識が一言一句存在しており、その知識の中からその冠がとある聖遺物のオリジナルだと理解出来た。
『いばらの冠』
イエス・キリストが処刑される際に被らされた冠である。死体となったキリストを蘇生させた際に回収したのだ。
「ね?」
「納得いかないかも!!!」
インデックスはぶっとびすぎた珱嗄の言動と、それを裏付ける証拠に崩れ落ちた。