◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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レベル5祭

 珱嗄はとりあえず、自分と四人の分のジュースを汲んで戻って来た。一瞬、適当にといった滝壺理后の飲み物を地獄茶にしてやろうかと画策したものの、そんな親しくなったわけでもないので止めておいた。ので、代わりに炭酸水入りのアイスコーヒーを持っていく事に抑えておいたのだった。ちなみに、炭酸水の出し方は、メロンソーダのボタンを長押しでなく連打する事だ。炭酸水だけ出てくれるので、悪戯には持って来い。但し、そんなにリアクションは求められない。

 

「ほい」

「ん、ありがと」

「超ありがとうございます」

「ありがとー……ってあれ? なんか炭酸入って無くない?」

「………ありg……コーヒーがしゅわしゅわしてるんだけど……」

 

 珱嗄はフレンダのメロンソーダの炭酸水をコーヒーに、メロン部分をフレンダの分として入れて来たのだ。つまり、フレンダのは炭酸激薄メロンジュースである。

 

「なんだろうな。ここのドリンクバーちょっとおかしいね」

「いや確実になんかしたでしょ!」

「してないよ。炭酸水の部分だけコーヒーに入れたりしてないよ」

「したんだな? そんな面倒な作業をしたんだな?」

「ああもうそうだよ。悪いか」

「悪いよ、何言ってんの!?」

 

 フレンダが突っ込みながら申し訳程度に入った氷を炭酸代わりにメロンジュースを飲む。ただそんなに不味くないので大した文句も抱かなかった。が、滝壺の方は別の様で、若干嫌な汗を掻きつつ一口飲んでみた。リアクションするにも微妙な味でどうすればいいか詰まった。珱嗄はそれを見て笑った。

 

「いやまぁアレだ。なんというかアレだ。アレなんだよ」

「超説明になってませんね」

「説明する必要、ある?」

「私は被害に遭ってないので超どうでもいいですが」

「………むぅ、別に飲めないわけじゃないから良いけど」

 

 フレンダと滝壺は特に文句は言わなかった。そこに麦野が珱嗄に質問する。

 

「で、珱嗄はなんでこんな時間にこんなファミレスに? 正直、スキルアウトには見えないし……」

「んー……住処が無くてねぇ……財布はあるからしばらくホームレスでもしてやろうかと」

「なのにファミレス入るって……結局、お金の使い方間違えてる訳よ」

「お前は言葉の使い方間違えてるけどな」

「あれおかしいな、私への対応ちょっと冷たくない?」

 

 フレンダの言葉に珱嗄は苦笑した。だが、麦野は珱嗄のホームレス生活に少し引き攣った表情を浮かべている。とはいえ、なにかしてやる程仲が良いわけではないので、何もしないのだが。

 

「こちら、オムライスです」

「あ。あざーす」

「ごゆっくりどうぞ」

 

 珱嗄はやって来たオムライスにスプーンを突き立て、次の瞬間には食べ終わっていた。一瞬の出来事。すぐさま消えたのだ。麦野達はその光景に驚愕し、心の中で早っ、と突っ込んだ。

 

「ごちそうさま」

「もっと味わって食べなさいよ」

「いや、味わって食べたよ。とても美味しかったね」

「へー……ぶっとんでるわね貴方……」

「良く言われる」

 

 珱嗄はぺろっと口周りに付いたケチャップを舐め取って、そう言った。そして珱嗄は立ち上がった。そして、伝票を取ってレジに向かう。

 

「代金は全部俺が払っとこう。女の子と同席出来たお礼だ」

 

 珱嗄は麦野達がどうこう言う前にささっとお金を払ってファミレスを出て行ったのだった。

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 

「なんか、変な奴だったわね」

「超マイペースというか、随分と我が道を超行く人でした」

「でも結局、もう会う事はないって訳よ」

 

 珱嗄が去った後、同席していた四人はそう言って嘆息した。ここで彼女達の素性を公開する前に、この世界の事を語っておこう。

 珱嗄の転生したこの世界は、とある魔術の禁書目録の世界。舞台は超能力開発を行なっており、東京都の西部に作られた、通称『学園都市』だ。この街は出入りを厳重に管理しており、外周を壁で覆われている。そして、なにより特徴的なのはその進歩し過ぎた科学力にある。

 学園都市は科学力が壁の外と30年程の差があるのだ。分かりやすく言えば、外の世界で開発された最先端のハッキングソフトは、学園都市にとっては30年前の作品という事だ。学園都市で使おうものなら速攻で解体され、居場所も掴まれる。

 

 そして、この学園都市の人口の八割は学生であり、その名の通り学生の街となっている。さらに、人口230万人の全ての学生が、学園都市で行なわれている『超能力開発』を受けている。

 人によってその効果に強弱はある物の、学園都市内の学生は全員漏れなく超能力者という訳だ。

 また超能力者はその効果の大きさでレベル分けされる。レベル0からレベル5の六段階だ。

 

 無能力者(レベル0)は、血管が浮き出る程頑張ってようやく効果が出るか出ないかというレベル。

 

 低能力者(レベル1)は、日常では殆ど役に立たないレベル。

 

 異能力者(レベル2)は、レベル1とほぼ同等か少し上程度。

 

 強能力者(レベル3)は、日常生活でも役立つレベル。

 

 大能力者(レベル4)は、軍隊で価値を得られるレベル。

 

 そして超能力者(レベル5)は、単騎で軍隊を相手に出来るレベルとなる。

 

 また、レベル5は学園都市広しといえど、たったの7人。その全員が凄まじい超能力を持っているのだ。そして、その7人の内の1人が、麦野沈利。珱嗄と同席した、3人の少女達のリーダー的な存在である。

 そしてそんな彼女をリーダーとして活動する彼女達四人組は、アイテムというグループ名を名乗る、学園都市暗部の組織である。

 

 学園都市の大部分の学生は、暗部という組織やこの組織が活動する学園都市の裏部分を知らない。残虐な実験や、人間を利用した人体実験等々、学生の暮らしている裏部分では、そういった残酷な世界が広がっているのだ。

 アイテムはその闇とも言える世界の組織の一つ。もちろん、まともな仕事はしていない。人殺し、強奪、施設破壊等々、様々な仕事を依頼されるままに行なってきているのだ。

 

「ん、仕事よ」

 

 そして、そんな麦野沈利の携帯が震えた。相手は、普段アイテムに依頼を持ってくる仲介人。麦野達もこの仲介人の顔を見たことはなく、これからもそれでいいと思っている。

 

「何?」

『仕事よ。どうやらこの学園都市に侵入者が現れたらしいのよねー……で、どうやらその侵入者が『原石』らしいから、アイテムで保護しろだってさ』

「どこからの依頼よソレ……」

『ん、統括理事長から直々にねー』

「はぁ? どういう訳よソレ。ふざけてんの?」

『こいつときたらー! こっちだって結構びっくりしてんのよ! つべこべ言わず働け!』

 

 仲介人はそう言って一方的に電話を切った。そして、耳から電話を離して嘆息する麦野。すると、またも携帯が振るえ、こんどはメールが届く。どうやら侵入者の画像が添付されているようだ。麦野はその画像を開くべく携帯のボタンを押す。画面上で画像を読み込み中と表示されている間に、仕事を説明する。

 

「仕事よ。どうやら学園都市に侵入した奴がいるみたい。そいつ、『原石』らしいからアイテムで保護しろってさ」

「ふーん……どんな奴?」

「ちょい待ち、今画像を――――!」

「超どうかしましたか?」

 

 麦野は読み込みが終わった携帯画面を見て眼を見開いた。そして、その画面をフレンダ達にも見える様に差し出す。三人はその画面に視線を向け、同様に驚愕する。

 

「こいつって……!」

「さっきの人?」

「確か名前は―――」

 

 その画面に映っていたのは、絹旗最愛の小さな口から紡がれた名前を名乗ったあの男

 

 

 ――――泉ヶ仙珱嗄

 

 

 彼女達は先程友好的に話していた相手が捕獲対象と変わる瞬間に、妙な縁を感じたのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 窓のないビル内部

 

 

 ここは、学園都市の中に設置された窓も扉も無いビルの内部である。この中に入るには、案内人である瞬間移動能力者(テレポーター)を介す必要がある。そして、この内部にいるのは、学園都市の最高責任者で、統括理事長の座に付く人物。

 

 その名も、アレイスター・クロウリー

 

 オレンジ色の液体の入った培養機の中で上下逆さまに浮かんでおり、その姿は聖人の様でもあり、囚人の様でもあり、子供の様でもあり、老人の様でもあった。

 

「唐突に出現したイレギュラー……しかも原石と来たものだ。興味深い」

 

 彼の目の前に浮かぶモニター、そこには珱嗄が転生して来てからの行動が移っていた。

 学園都市には、彼のばら撒いたナノマシンレベルに小さい監視用カメラ、『滞空回線(アンダーライン)』が浮遊しており、彼はそれを通して一ヵ所に居ながら学園都市全域を監視している。故に、珱嗄の出現も察知出来たのだ。

 

一方通行(アクセラレータ)を一蹴する能力……一体どのような物なのかな?」

 

 アレイスター・クロウリ―は、そう言って珱嗄が白髪の少年を投げ飛ばした映像を見て笑う。彼は自身の計画に、珱嗄をどう組み込もうかと画策しながら、楽しげに笑った。

 だが、彼は気付かなかった。視界から見切れた監視映像の中で、珱嗄がこちらを見てゆらりと笑っていた事に。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

 転生早々理事長に目を付けられた珱嗄は、道の途中で一人の少女と対峙していた。時刻は午前1時と少し。夜更かしする位の時間帯である。外は夏なのか涼しく、随分と快適な気候だった。

 そして、珱嗄が対峙しているのは、珱嗄も見覚えのある少女。茶髪を肩まで伸ばし、何処の制服なのかは知らないが上質な生地を使った制服を着ていた。違う点があるとすれば、軍用ゴーグルを付けていない事か。

 

「なんでこうなったんだろう」

 

 珱嗄は聞こえない様に呟いた。原因は良く分からないが、珱嗄の言葉を聞いた少女はいきなり珱嗄に電撃をぶつけて来たのだ。とりあえず能力を使って弾き飛ばしたは良いモノの、硬直状態が続いていた。

 発端は、珱嗄が進む方向から歩いてくる少女を見て、「あれ? さっき満身創痍で死にかけてなかったか?」と呟いた事にある。それを聞きとった少女はとんでもない形相になって怒り狂ったのだ。あとは先も言った通り。

 

「アンタも……あのイカれた実験の協力者ね……!!」

 

 そんなものは知らねー、と珱嗄は心の中で突っ込んだ。

 

「あの実験に関わる連中は皆殺す……!」

「あのー、俺は関係ないんですけどー」

「言い訳は良いわ。とりあえず、死になさい!」

 

 またも電撃を放ってくる少女。珱嗄は能力を使って電撃を素手で弾き飛ばした。後方に流れて地面を焼く電撃。少女は珱嗄の行動に驚愕するが、どのような能力なのかと考察を始めた。

 

「……面倒だなぁ……話が通用しない」

「強い絶縁性を持った能力か……念動力か……」

「逃げよう」

 

 珱嗄は彼女の目が追いきれない程度の速度で地面を蹴り、飛び上がった。彼女は珱嗄の姿を見失う。珱嗄はそのまま空中を蹴って二段ジャンプ。隣に立っていた2階建ての建物の屋上に着地し、下できょろきょろと珱嗄を探す少女を見下ろす。

 

「ふむ……この世界はどうやら超能力的な力があるみたいだね……となると、あの白髪の少年、同席してた茶髪美人、そしてあの短髪少女からして……なるほど、とある魔術の世界か。4兆年も昔に読んだ話だから内容はきれいさっぱり忘れたけど……設定はなんとなく覚えてる」

 

 珱嗄はこの世界の舞台設定を転生する以前に読んだ事が有った。内容や登場キャラクターのほとんどは忘れたが、学園都市や超能力、レベル5のメンバー位はなんとなく覚えていた。

 

「となると……あれは御坂美琴か。レベル5の第3位……で、あの白髪少年は第1位、茶髪美人は第4位か。おお、俺ってば転生初日でレベル5に3人も出会ったのか。ラッキー」

 

 珱嗄はそう言って笑う。そして、珱嗄の気配もなく、姿も見えなくなったので諦めたのか、茶髪の少女……レベル5の第3位、発電能力者(エレクロトマスター)で、通称【超電磁砲(レールガン)】の異名を持つ中学2年生、御坂美琴はとぼとぼと去って行った。

 

「さて……流石にもう何も無いだろうし……寝るとしますか。状況の理解はまぁ……明日で良いか」

 

 珱嗄はそう呟いて、屋上に寝転び、ぐーすかと睡眠に入ったのだった。

 

 

 


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