◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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珱嗄の力押し

「――――俺は、お前とは戦わない」

 

 上条当麻は、御坂美琴の電撃にその能力、『幻想殺し(イマジンブレイカー)』を使わずに対峙していた。その焼け焦げた身体には何度も御坂美琴の数十億Vの電撃がダメージを与えている。既に満身創痍だ。だがそれでも上条当麻はその右手を振るわない。彼女を救うため、実験を中止するために、彼は彼女とだけは戦わない。

 

「なん……でよ……私が死ねば、あの子達も少しは気が晴れるわよ……! なんで……邪魔するのよ……! 邪魔するなら拳を握れ! 戦う気が無いなら立ち塞がるな!」

 

 上条当麻を糾弾する御坂美琴は、その感情の暴走から電撃を溢れさせる。そして、最後の通告だとばかりに上条当麻をその鋭い瞳で射抜いた。だが、それでも―――

 

 

「戦わない」

 

 

 上条当麻は彼女に拳を向けなかった。そして、その言葉を聞いた御坂美琴は涙を溢れさせ、その電撃を感情の荒ぶるままに、上条当麻へと叩き付ける。向かってくる閃光と電撃の音、そして遅れてやってきた電撃に上条当麻は眼を瞑った。

 

 

「なーにが戦わないだよ。めだかちゃんじゃあるまいし」

 

 

 だが、その電撃はかくして弾かれる。一人の人外によって、全てが腕の一振りによって薙ぎ払われた。

 

「なっ………!?」

「いいかい上条ちゃん。人を救う事に自分を犠牲にしてちゃ世話ないぜ? 結局お前がやってる事はみこっちゃんと一緒だよ」

「アンタは……!」

「おいおい落ちつけよみこっちゃん。ほら、こうしてる間にも実験は始まっちゃうぜ?」

「っ―――!」

 

 珱嗄の言葉に美琴は携帯の時計を見た。時刻は8時50分。実験開始時刻は9時だ。時期に実験が始まってしまう。そうなれば、またクローンが一人死ぬ。その前に向かわなければならない。

 

「ということで、実験を中止にする為の作戦を伝えてあげよう」

「何…?」

「上条ちゃんが第一位を倒す。これで一応実験は止まるよね」

 

 御坂美琴は先程まで、自分が第一位に負けることで実験を狂わそうと考えていた。今は無き『樹形図の設計者(ツリーダイアグラム)』の計算では、御坂美琴は第一位に対して187手で敗北するとなっていた。だが、ここで彼女が最初の一手で敗北すれば、かのスーパーコンピューターにも間違いはあると思わせる事が出来るという寸法だ。とはいえ、この作戦は彼女が命を落とす事になり、また実験を中止に出来るとは限らない。

 だが、珱嗄の策は上条当麻というデータ上はレベル0の生徒が、最強の第一位に勝利する事で実験の前提の一つ、『一方通行が最強の能力者であること』というものを崩すのだ。これなら、確実に実験を中止に追い込める。まぁあくまで実験が続いていればの話だが。

 

「何言ってんのよ……! そんなことっ」

「やろう」

「アンタ……!?」

「それで実験が止まるのなら……やってやる!」

 

 上条当麻はその話を呑んだ。第一位に立ち向かうと決意した。

 

「場所はまぁみこっちゃんに聞けや。それじゃ、俺は帰る」

 

 珱嗄は実験を中止する作戦を伝えるだけ伝えて帰る事にした。二人を置いて、珱嗄は鉄橋から離れて行ったのだった。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「なーんて、帰る訳がなぁい」

 

 勿論嘘である。そもそも一方通行に実験中止の旨を伝える仕事があるのだ、帰るわけがない。とりあえず珱嗄は一方通行とミサカ10032号の実験場であるコンテナの積まれた砂利場へやって来ていた。どうやらまだ実験は開始されていないようだが、一方通行とミサカの二人は既に定位置についていた。

 現在時刻、20時58分。

 

「さてさて、どんな会話をしてるのかな?」

 

 珱嗄は聞き耳を立て始めた。

 

「なァ、オマエらってよォ……なンで俺と戦ってンだ? 流石に一万近く死ンでく間にちったァ色ンなモン体験して来てンだろ? その体験したモンの中に楽しいだとか嬉しいだとか思ったこたァねェのか?」

「何を言っているのか分かりかねますが。と、ミサカは首を傾げます」

「どォなンだよ」

「……」

 

 ミサカ10032号は、最近上条当麻が出会ったミサカである。まぁそれ故に上条当麻は実験に辿り着く事が出来たのだが。その際、彼はミサカ10032号と黒猫を愛でたり、抱っこしたりと様々な経験をした。彼はそれを嫌とは感じてはいなかったし、ミサカも黒猫に触れた事は少なからず嬉しいと感じていた。

 彼女は一方通行の言葉にその事を思い出す。

 

「……確かに、最近の出来事を挙げればミサカも胸が暖かいと感じる事はありました。と、ミサカは答えます」

「ンじゃオマエはそれを実験だからってなンで捨てられンだ? 俺はそれがさっぱり分かンねェンだわ」

「ミサカは実験の為に作りだされた、単価にして18万円の実験動物ですから。と、ミサカは簡潔に答えます。それより、直に定刻になりますが、準備はよろしいですか? と、ミサカは確認を取ります」

「………ハァ、そォかい。ンじゃいいわもう。アイツとやりあってちったァ俺の目指すモンに対して考えるようになったワケだが……やっぱオマエら相手じゃまともな返事も返って来ねェし」

 

 一方通行は珱嗄と戦ったことで少しだけ考えを改めることを始めたのだが、それでも根底のミサカ達を人形として見るという意識は未だ根深い様だ。といっても、噛みついてくる不良を殺したりしなくなっただけマシなのだろうが。

 

「21時00分。第10032次実験を開始します」

 

 ミサカ10032号はそう言って、武器であるライフルを取り出す。一方通行はそれに対して不満気に首を鳴らした。そして両者が動きだすその瞬間――――

 

 

 

 ぴりりりり

 

 

 

「「………?」」

 

 両者は横から聞こえてきた着信音に動きを止めた。そして、その音の方向を見る。そこには、

 

「あ、ゴメン俺だ。はいもしもしー? え、実験中止っすか? りょーかいでーす。え、一方通行にも伝えとけって? そんな無茶言わないでくださいよー、幾ら俺がアイツと大親友だからって仕事回すのは違くないっすか?」

 

 珱嗄が電話を片手に立っていた。しかも、その電話内容が偉く聞き逃せない内容なのが腹立たしい。

 

「はい。はーい、それじゃ」

「オイ、オマエと俺がいつ大親友になったンだよ。てか今の電話誰だよ」

「え、時報だけど」

「オイマジふざけンなよコラ」

「というより、先程の実験が中止になったというのは本当なのでしょうか? と、ミサカは確認を取ります」

 

 珱嗄の行動に二人とも実験を中断して問い詰め始めた。珱嗄はとりあえずうーん……と考えた後

 

「マジだ」

「……そうですか、とミサカは何故だか肩の力が抜けました」

「つーかまァ予想はしてたけどなァ。俺がテメェに負けた時、実験が続けられンのかどーか考えなかった訳じゃねェし。ま、こんな実験で無敵(レベル6)に至れるのかどうかも分かンねェし、こンなもンか……」

 

 ミサカと一方通行はそう言って実験を続ける気が無い事を言外に伝える。珱嗄はそんな二人にゆらりと笑う。そして、これから此処にやって来るであろう上条当麻と御坂美琴をドッキリに嵌めるべく二人に協力を要求する事にした。

 

「という訳で、実験とか言う辛気臭い爺婆達のお遊戯会が終わった事だし、今から此処にやってくるヒーローさんとヒロインさんをドッキリに嵌めようと思います。はい拍手」

「はァ?」

「どういうことでしょうか? と、ミサカは説明を求めます」

 

 珱嗄は簡単に説明した。

 まず、一方通行とミサカ10032号が戦闘まがいなチャンバラごっこをする。そこに上条当麻と御坂美琴登場、一方通行が上条当麻と徹底交戦。しばらくした所で珱嗄がドッキリネタばらし。有耶無耶にする。で、最後に和解を目的とした打ち上げをファミレスで行なおうという感じだ。勿論、ファミレスはレベル5勢にたかろうという魂胆である。

 

「……くだらねェ」

「何故ミサカ達がそのような考えに加担しなければならないのですか? とミサカは名前も知らぬ貴方に説明を求めます」

「うるせぇいいから黙って協力しろや殴るぞ」

「「はい」」

 

 珱嗄は余りにも理不尽な要望を力押しで通した。一方通行もミサカもその迫力にただただ頷くしかなかったのだった。また、脳波リンクで繋がっているミサカネットワークを通して、生きているミサカクローン全員がその場で恐怖の感情を覚えた事は、別の話。

 こうして、絶対能力進化計画(レベル6シフト)絶対あいつら嵌める計画(レベル6ドッキリ)に変わったのだった。

 

 

 

 

 


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