◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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食蜂操祈

 珱嗄が一方通行と殺し合いならぬ喧嘩をした翌日。原作で言えば上条当麻が一方通行を倒す日、実験は中止作業を進めていた。とはいえ、一方通行も、御坂美琴も、上条当麻もそれを知らない。なんせ、殺される側のミサカクローン達すらもまだ知り得ていないのだ。仕方のない事だろう。

 そんな中、珱嗄はといえば、御坂美琴の登校していない常盤台中学へと講師にやって来ていた。といっても、学び舎の園では男性は基本的に信用されていない。そういう街なのだ。故に、珱嗄は常盤台中学の二年生の体育教師として紹介されたものの、あまり芳しい反応は貰えなかった。

 

「まぁ別にいいんだけど」

 

 だが、元々女子中学生に欲情する珱嗄ではない。乳臭い小娘に何をしろというのだと珱嗄は軽く呟いた。

 現在の時刻は昼休み。生徒達がこぞって食堂やお弁当等で昼食を取る時間だ。珱嗄は下の方で食事を取る生徒達を眺めながら、ぼけーっと屋上で寛いでいた。元々、この学校の食堂の値段からして食事自体食べられないだろうなと考えていたので、昼食はコンビニのおにぎり。それも先程食べ終わってしまったので、やる事が無いのだ。

 

「……そういえばこの学校ってレベル5の第五位居たよな……確か精神操作系の能力者で、リモコンを媒体にしてるとか―――!」

「その通りよぉ」

 

 珱嗄は背後に感じる気配に首だけ振り向くと、そこには金髪を腰のあたりまで伸ばし、瞳を素でキラキラさせた女生徒が立っていた。肩から小さなカバンを掛け、両腕をすっぽり覆うレース付きの白い手袋、それに手袋と同様のデザインのニーハイソックスを履いている。そして、なにより、女子中学生とは思えない発育の良さを持っていた。

 

「食蜂操祈ちゃんかい?」

「ええ、その通りよぉ。そう言う貴方は昨日第一位を倒した珱嗄先生、よね♪」

「へぇ、良く知ってるな。しいたけって呼んでいい?」

「この眼? この眼の事を言ってるの? 怒っちゃうよ?」

「自覚あるんだな。しいたけちゃん」

「よーし怒っちゃったわよぉ? 精神攻撃、えい!」

 

 食蜂操祈はカバンからリモコンを取り出して珱嗄に向け、ボタンを押した。普段、これが彼女の能力使用スタイル。リモコンのボタンを押すことで能力に方向性を持たせてコントロール出来る様にしているのだ。彼女の能力は良くも悪くも応用性が広過ぎるのだ。

 そして、彼女の能力を向けられた者はレベル5の化け物でもない限り、操られるのがオチだ。

 

 だが、

 

「はい没収」

「あっ!?」

 

 珱嗄はその能力を『逸らす』能力を使ってリモコンから発せられる能力を珱嗄に届くまでに逸らしたのだ。故に、彼女の精神干渉は効かなかった。といっても、珱嗄がこの能力を発動していない場合は普通に効くので珱嗄が彼女の天敵という訳ではないが。

 

「ちょ、ちょっとぉ! リモコン返してぇ!」

 

 珱嗄はリモコンを持つ手を上に上げる。食蜂操祈はそれを取り返そうと必死にぴょんぴょんと飛び跳ねるが、珱嗄の身長は平均的に見てもかなり高い。まして女子中学生である食蜂操祈にはその珱嗄の手元にその手を届かせるのは無理があった。

 そして、しばらく飛び跳ねていると、食蜂操祈は息切れし始め、地面にへたりこんだ。どうやら彼女は相当な運動音痴らしい。たったこれだけの運動で息切れするなど、どこの箱入り娘だと思う。

 

「はぁ……はぁ……リモコン……返してよぉ……」

 

 食蜂操祈は若干涙目でそう言った。可哀想になってくる表情をしており、息切れのせいか少しだけ色っぽく見えた。だが、珱嗄にとってはそうではなかった。 

 

「リモコン壊して良い?」

「ここまで弱ってる……! 女子中学生に対して……はぁはぁ……言う事がそれぇ……げほ……!?」

「生徒には飴:0、鞭:10で行こうと思ってるから」

「鬼畜! 鬼畜すぎるわぁ!」

 

 ぷんすかとへたり込みながらそう突っ込む操祈。珱嗄はそんな操祈に対してゆらりと笑う。

 

「全く………もう―――っと?」

「どうしたよ?」

 

 操祈は立ちあがろうとするが、何かに押されたようにまたお尻を地面に付けた。珱嗄はゆらりと笑っている。もう一度立ちあがろうとするが、また倒された。珱嗄を見るが、彼は何もしていない様に見える。もう一度、転ぶ。もう一度、転ぶ。

 実は珱嗄が眼にもとまらない速さで操祈の額を押しているのだが、それに操祈は気付かない。

 

「………手、貸してくれないかしらぁ……」

「……案外子供っぽい所が有るんだなお前」

「ち、違うわよぉ……なんでか立てなくて……」

 

 珱嗄は操祈の手を引っ張って立たせた。ここまで珱嗄がやってきておいて、操祈は全然気付いていない。自分が先程から幾度となく珱嗄の掌の上で弄ばれている事に。

 

「ほれ、リモコン」

「わ、とと……全く、悪戯力が酷いわよぉ?」

「知らないよ。そっちこそ弄られ力がやばいんじゃない?」

「えい」

「効かん」

 

 またもリモコンのボタンを押す操祈だが、珱嗄は先程からずっと『逸らす』能力を発動させている。操祈の能力は珱嗄の『逸らし』の前に何処かへ飛んで行った。

 

「むぅ……なんで効かないのかしらぁ……貴方の能力ってただ『触れる』だけでしょぉ? なのになんで……もう!」

「うわいきなりキレたよ。全くコレだから最近の若者は………」

「貴方と私ってそんな年違わないわよねぇ!?」

「ほれ、次は体育だ。着替えなくていいのか?」

「良いのよ。サボるから」

「ああ、運動音痴だもんな」

「違いますぅー、ただちょっと体力に乏しいだけですぅー」

「しいたけが何かほざいてるな。ちょっと外周しようか、30周位」

「いやぁぁぁああ!!」

 

 まるでムンクの叫びの様な顔で絶望する操祈。珱嗄はそんな彼女を見ながら、ゆらりと笑うのだった。

 

 

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