◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
「珱嗄式、弐の構え――――『
珱嗄は、立ち上がった
「はァ……すゥー………ふっ……!!」
一方通行は珱嗄に向かって駆け出す。ベクトル変換を使ってはいるが、それは若干速度を上げる程度に力を抑えられた物で、実際にはただ走っているようにしか見えない。珱嗄はそれに対して、広げた手をそのまま一方通行に『突き出した』。手刀ではなく、指は開かれているので、五本の指による同時の突きだ。
だが、
「読めてンだよ!」
一方通行はそれを事前に予測していた。珱嗄の五本の突きを体勢を低くすることで躱し、その伸びた腕を両手で『掴んだ』。
「へぇ……」
珱嗄の能力が発動し、触れてられる時間―――否、一方通行の能力を防いでられる時間は残り5秒。
「っ!」
珱嗄はその手を放させようともう一方の手で一方通行の顔を掴み、地面に叩き付けた。が、離れたのは一方通行の片手だけ。もう一方の手は、珱嗄の腕を放さない。そして、その地面に叩きつけられた一方通行は珱嗄をその赤い瞳で鋭く見抜く。残り、3秒
「やるじゃないか一方通行――――じゃあ、こうかな?」
「う――――ォ……!?」
珱嗄は掴まれた腕を振り回して一方通行の身体を振り回す。そして、その腹を身体の流れる方向に歯向かう様に殴った。
「ガッ―――ァア!!」
それでも、一方通行は放さない。掠れる意識の中、珱嗄の腕を掴んだ感触を放さない様に、その手だけに意識を集中させる。放さない、絶対に放さない。ここで放せば勝機はもう訪れない。それが分かっているから。無敵に届く一筋の光明、それを絶対に見失わない様に、一方通行は咆哮を上げた。残り、1秒。
「なるほど、ここまで追い詰められたのは初めてだ。誇れよ第一位、お前はこの俺を死ぬ一歩手前まで追い詰めたのだから」
だが、珱嗄は殴るのを止めて、一方通行の腕を掴んだ。そしてその握力で血液の流れを一時的に遅くする。すると、一方通行の手から力が抜け、珱嗄の腕を―――『放した』。
「な………」
「人間の身体のどうこうを知ってるのはお前だけじゃないぜ、第一位。とはいえ、その根性は気に入った。だから、」
珱嗄は一方通行の腹を蹴り飛ばして無理矢理距離を取らせた。そして、蹴られた事で若干体勢を崩す一方通行の懐に、珱嗄は踏み込んだ。
「思い付きだが必殺技をお見舞いしてやろう」
珱嗄はそう言って、肩幅ほどに広げられていた一方通行の足の間からその奥へともう一歩、踏み込んだ。もう数センチでも進めば身体と身体がひっつく距離だ。そして、その距離のまま珱嗄は右手を一方通行の胸に置いた。
「――――?」
「珱嗄式―――壱の奥義【
珱嗄はトン、と一方通行を押して、擦れ違う。一方通行は疑問の表情で珱嗄の方を振り向こうとして―――
「―――ァ? ガ、ァアアアアアアア!!?」
激痛に倒れた。まるで、内部から内臓が暴れまわっているかのような激痛。そして、その激痛を更に加速させる様な鈍い気持ちの悪さ。あるべきモノが別の場所に収まってしまっている様な感覚。
「周囲の音という音から発せられ、体内を伝わっている振動を、衝撃を通すことで共振させ、結果的に内臓全体を揺らす技だ。身体に傷を負う事はないが、代わりに死にたくなる位の違和感と激痛が体中を駆け巡る」
「が………ァ……ッ!」
一方通行は白眼を剥いて、うつぶせに倒れた。気絶したようだ。
「中々に白熱した勝負だったぜ第一位」
珱嗄はそう言って、一方通行のポケットから携帯電話を取り出し、メアドを強制交換したのだった。
◇ ◇ ◇
「………何? アクセラレータが敗北しただと?」
「ああ」
「誰に? 他のレベル5か?」
「いや、唯のレベル3だ。能力の詳細からすると、戦闘能力はレベル0とそう変わらないがな」
ここはとある上層部。絶対能力進化実験を取り行っている部署でもある。そこが一方通行が敗北した事を知り、色々と慌ただしくしているのだ。
「……えー」
「……どうするよ?」
「……あー……じゃ、止める?」
「
そんな会話を皮切りに、研究者達は伝達を始めた。御坂美琴の襲撃によって引き継がれた130を超える研究施設に、実験中止の旨を。
「今研修に出ているクローンはどうする?」
「とりあえず……あー、今日明日は手が付けられないな……仕方ない。今日明日の実験を行なうクローンは回収しないで明後日以降のクローンは全て回収しよう」
「そうだな。色々と手続きもあるし」
研究者達の行動は早い。こうして、誰にも知られない所で実験が中止になったのだった。
「ところで一方通行にはどう説明するんだ?」
「……………今すぐ一方通行を倒したレベル3を探せェェェェェ!!!!!」