◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

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最強だからこそ、挑む相手

 珱嗄に緊張感を崩されたアクセラレータは興が削がれたとばかりにガシガシと頭を掻き、去って行こうとする。

 

「おいおい待てよ。勝負するんだから携帯買いに行こうぜ? な?」

「うっせェ。お前と話してっと疲れンだよ」

「ああ、じゃあこうしよう。一回一緒に携帯買いに行って、そんで勝負しよう?」

「ああ、成程……って変わってねェよ!」

「流石は第一位。ノリ突っ込みもキレキレだな」

「なンなンだコイツはァアアアアアア!!!!」

 

 遂に叫び出す第一位。周囲の人々がビクッと驚いて珱嗄達を見るが、すぐに通り過ぎて行った。珱嗄はそんな第一位に対して爆笑する。それを見たアクセラレータはぶちっとキレて珱嗄に殴りかかった。

 

「駄目だよアセロラ。不意打ちする最強が何処にいるんだ」

 

 だが珱嗄はその触れただけで人を殺す拳をぺしっと叩く事で弾いた。勿論、『触れる』能力発動済みだ。珱嗄は反射膜に触れて反射膜ごとアクセラレータの拳を叩き落したのだ。

 

「っ………前も思ったがテメェには反射が聞かねェみてェだな……どうなってンだ?」

「俺の能力だよ。まぁお前と似通ってはいるけど、全く別物の能力だ」

「………チッ。わァったよ、携帯買いに行くぞ」

「お、どういう風の吹きまわしだ?」

「勘違いすンなよ? テメェの能力に興味が湧いた、ただそれだけだ」

「………なんだツンデレか」

「ちげェよ!!」

 

 携帯ショップに向かって歩き出す一方通行に珱嗄はそう言って並び、歩く。学園都市第一位の超能力者と誰にも知られない無敵が歩いている光景は、両者を知る者からすれば眼を疑う光景だろう。

 あらゆるベクトルを操る最強の能力者は、あらゆるモノに触れられる無敵の能力者に牙を向けた。

 

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 

「さて……」

 

 携帯を買った二人がやって来たのは、かつて御坂美琴が一方通行と殺し合い寸前になった砂利場。そして、御坂美琴が初めて出会ったクローン、妹達(シスターズ)の一人、ミサカ9982号が死んだ場所でもある場所だ。

 

「約束は覚えてンな? 俺が勝ったらお前は二度と俺の目の前に姿を現すな」

「ああ、俺が勝ったらメアド交換の上に一緒に遊びに行く、でいいな?」

「……なんか増えてっけどまァいい。現代アート風の面白オブジェに仕立て上げてやンよ」

 

 一方通行はそう言って凶悪に笑った。

 

「……さて、マジ戦闘はこれが初か……っつーことはだ。新戦闘術を試す絶好の機会って訳だ」

 

 珱嗄はそう呟くと、一方通行に対して半身になり、後ろに引いた右手で手刀を作り、前に出た左手は握りこんで拳を作る。腰を若干落として――――『構えた』

 

 今までの戦闘において、珱嗄が構えた事は一度もない。何故なら、珱嗄程の実力の持ち主なら自然体の状態から変幻自在の手を打つことが出来るからだ。故に、相手は珱嗄が次に何をするか予測がつかないし、予測がつかないから先手を取られる。そして、珱嗄はその身体能力と異能力からその先手が一撃必殺になったりするのだ。

 故に、珱嗄と戦ってきた全ての敵達はその初手で撃墜される事が多かった。だが、此処に来て初めて珱嗄は『構えた』のだ。さっきも言ったが、構えはある程度の実力者からすれば次の一手を予測させる事が出来るのだ。それはつまり、相手に対して次の手を予測させるヒントを与える様なものだ。

 

 

 これが、珱嗄が考えた―――――『手加減(ハンディキャップ)

 

 

 本気でやれば強過ぎる。なら、手加減した上で全力を出せる様に構えを生み出したのだ。

 

「名前はその時その時考えるか迷ってたけど、まぁ強いて言うならこの構えは―――」

 

 

 

 ―――珱嗄式壱の構え:陽桜(ひざくら)

 

 

 

「ほォ、なンかの拳法的なモンかァ?」

「ま、そんなもんだ。掛かって来いよ第一位(レベル5)、うんと手加減した上で叩きのめしてやるよ」

 

 まだ出来てまもない珱嗄式戦闘術。故に、まだ使いこなせないのだ。更に言えば、規則性のある動きの為に一定以上の速度を出す事が出来ないのだ、大幅に弱体化した状態を自分で作りあげた珱嗄に対して、一方通行は勝算を上げて貰っている事に気付かない。

 

「じゃあまァ……精々足掻けよ三下ァ!」

 

 そう言って始まる殺し合い。一方通行は手近に転がる小石を蹴りとばす。その速度はベクトル操作で力の方向を全て珱嗄に向けられた事から、拳銃以上。だが、珱嗄は構えを崩さずに左の拳で小石を横に弾き飛ばした。

 

「なっ………拳銃並の速度の石ころを捉えるとかどンな動体視力だっつーの!」

 

 一方通行は珱嗄の化け物染みた行動にそう突っ込みながら砲弾の速度で珱嗄に迫る。蹴りだす際にベクトルを操作して速度を上げたのだ。そして、右手を珱嗄の顔に向けて伸ばす。

 

「―――珱嗄式、『凪草(なぎぐさ)』」

 

 珱嗄はその右手を左足を軸に一回転して躱し、その回転のまま右の手刀を下から切り上げる。切り上げた先にあるのは、近づいてきた一方通行の顎。『触れる』能力で一方通行の反射膜に触れて、反射膜を手刀で上へと吹き飛ばした。そして、反射膜が纏っている一方通行の身体もつられて上に吹き飛んでいく。

 

「あがっ……!?」

「続いて、珱嗄式、『突風(とっぷう)』」

 

 真上に吹き飛ばされ、重力に従って落ちてきた一方通行の腹に、切り抜けた右の手刀が流れる様に勢いよく掌底となって襲った。そのまま一方通行は元居た位置へと転がる様に吹き飛ばされ、その衝撃から若干吐血する。

 

「げほっげほっ……! ちィ……反射は効かねェ……が、反射膜が全く効果を発揮してねェ訳じゃねェ、か」

 

 珱嗄の攻撃を二発も貰っておいて、一方通行がまだ戦闘可能な理由は、珱嗄の能力にある。

 

 元々、この【危機処分(ディスパーザルシステム)】という能力は、能力に触れる際、能力自体を無効化する訳ではない。あくまでその能力の持つ性質を一時的に無効化するだけだ。つまり、電撃であれば感電や伝熱等の性質を奪い、ただそこにある『電気』という名の人体が触れられる『物質』に一時的に変換される訳だ。故に、珱嗄は電撃に触れて弾き飛ばす事が出来るのだ、

 一方通行の反射膜の場合は、反射するという性質を無効化して唯の『身体を包む膜』へと変換する訳だ。そして、その膜は珱嗄の手刀と掌底を『反射』しない、が一方通行の身体を『護る』事は出来るのだ。つまり、珱嗄の手刀で上空に吹き飛ばされたのは一方通行ではなく、あくまで『反射膜』なのだ。一方通行の身体は、反射膜が上に吹き飛んだから、同じ様に上空へと投げ出されたのだ。

 

 簡単な例を上げるのなら、石の入った箱。その箱を上空に投げたとしよう。投げられたのは箱、だが中に入っている石はその箱に包まれている故に実際には投げられていないが、結果的には上空へと投げ出される。これと同じ状況が今の一方通行な訳だ。

 

 (反射膜)に包まれた(身体)は、箱が宙に投げられれば当然宙に投げ出されるのだ。

 

 故に、実際ダメージを受けたのは反射膜であって、一方通行では無い。珱嗄の手刀と掌底の衝撃は一方通行の反射膜によって一方通行の身体を傷つけなかったのだ。

 とはいっても、進んでいた方向とは別方向へ吹き飛ばされれば当然身体の方にも多少負担が掛かる。一方通行が吐血する程度のダメージを負ったのはその負担が原因である。

 

「ふーむ……『触れる』能力での一撃じゃやっぱ反射膜を貫けないか……なら」

 

 珱嗄は『逸らす』能力を発動して、地面を蹴る。すると、一方通行と同様に砲弾の様に一方通行の目の前に一歩で迫った。これは、前に進もうとする身体に迫る空気抵抗を『逸らす』事で速度を上げたのだ。前に進む際の邪魔が無くなった事でその速度は空気摩擦も気にする事も無く、音速を超える。

 

「ンなっ……!?」

「珱嗄式:蹴掌(しゅうしょう)

 

 珱嗄は前屈みに立ちあがった一方通行の腰より低く潜り込み、一方通行の足を蹴って体勢を崩す。そしてそのまま一方通行の顔を掴んで地面に叩き付けた。そしてそのまま掌底を一方通行の鳩尾に叩き込んだ。すると―――

 

「珱嗄式:透掌(とうしょう)

「ごっ……ぱっ……!?」

 

 珱嗄が抑えていた口から更に吐血した。珱嗄の手が血で染まる。そして5秒経たない内にその手を放した。

 

「やっぱり、反射膜が機能して無い以上……衝撃通しは効くみたいだな」

 

 珱嗄が使用したのは衝撃通し、または鎧通しとも呼ばれる衝撃伝達法だ。これによって珱嗄の掌底は反射膜を伝わり、一方通行の身体へ伝わり、直に掌底を喰らわせた場合と同様の衝撃を彼の身体に与えたのだ。

 

「ぐっ……がァ!!」

「おっと」

 

 だが、珱嗄は手加減している。実際珱嗄が本気でそれをやっていれば一方通行の腹は潰れ、それこそ一方/通行となっていただろう。だが、珱嗄が手を抜いた事で彼はまだ生きているし、戦闘も続行できるのだ。

 

「が、はァ……はァ……!」

「随分と息が上がってるじゃないか第一位」

「うるせェよ……! はァ……俺はまだまだやれンぞ」

「ははは、そいつは上等だ。だがよ、一方通行(アクセラレータ)、俺はお前に触れられるぞ?」

「? ……だからどォした……どうやらお前の能力、ずっと触れてられる訳じゃねェ様だなァ……さっきから攻撃する一瞬しか触れなかった事から……その時間は大体……3秒から5秒ってトコか……はァ……はァ……」

 

 大した解析力だと、珱嗄は素直に感心する。あれだけやられている中でそこまで解析するとは心底恐れ入る。甘く見ていたが、これが学園都市最強の超能力者(レベル5)。最強を謳うだけはある。

 

「で、それが分かったお前はどうするんだ?」

「決まってンだろ………はァ……はァ……それ以上触れていれば血液逆流させて俺の勝ちだ……!!」

 

 一方通行は諦めていなかった。珱嗄に勝つ事を。最強(レベル5)を超える無敵(レベル6)、それは確実に彼の人生を変える筈だから。

 

 

 ―――だから認めよう。最強(オレ)が手も足も出ねェお前は、無敵だ。

 

 

 ―――だが、だからこそ諦められない。そこは俺が目指した領域だから。

 

 

 ―――お前を倒せば、俺が無敵になれるのだから。

 

 

「諦める訳には……行かねェんだよ……!!」

「ひゅー、かっくいー」

 

 本当なら、死んでいなくても普通に立ち上がれないダメージ。まして、今まで反射のおかげで痛みに免疫の無い虚弱な身体の一方通行ならなおさらだ。

 だが、彼は立ち上がった。まだこの戦いは始まって10分も経っていない。だが、その短い間で実力の差がはっきり分かった。互いに人を殺してきた人間だ。実力の上下位、察する事が出来る。

 つまり、両者は分かっている。珱嗄が上で、一方通行は下なのだ。

 

「愉快に素敵にっ………下剋上してやンよ……! この無敵野郎!」

 

 だが、最強(レベル5)はそれでも立ち上がった。腕で血を拭い、衝撃で倒れそうな身体を無理矢理動かす。

 

「流石はセカンド主人公――――中々どうして、面白いじゃないか」

 

 そんな主人公に対して、珱嗄はいつも通り、ゆらりと笑ってそう言った。

 

 

 

 


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