◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》   作:こいし

103 / 105
週二更新を目指して頑張ります!


最終決戦だ

「――馬鹿な……そんな……!」

 

 ほぼ最終決戦と呼べるこの戦いにおいて、状況、作戦、戦力、全てにおいてフィアンマは優位に立っていた。珱嗄に気づかれることなく準備を終え、珱嗄に気づかれることなく作戦を開始し、気付いた時にはほとんど詰みの状態に追い詰めていた筈だった。

 にも拘らず、彼の作戦は片っ端から無意味化させられてしまった。

 

 たった一つ、珱嗄を食い止めることが出来なかっただけで。

 

 禁書目録を操り強力な戦力としたうえで、大量の魔術師を投入、アレイスターの協力もあって何の邪魔もなく最終段階まで作戦を進めることが出来たというのに、珱嗄はたった一手でそれを覆して見せた。

 その方法とは、

 

「―――"神よ、何故私を見捨てたのですか"」

「ぐぅ……ッ!? 何故能力者であるお前が……!」

 

 ――禁書目録の遠隔操作霊装の奪取である。

 

 フィアンマの歪な右腕は、神の右席として振るう天使の力『神の如き者』の持つ奇跡の象徴である『聖なる右』。

 敵となる対象に対し、適切な出力を自動で発揮する性質を持っているこの右腕は、振れば倒すことが出来る以上破壊力や速度といった倒すために必要な能力が必要ない。原作では上条当麻により、『RPGのコマンドに『倒す』という選択肢があるようなデタラメさ』とすら言わしめた力なのだ。

 

 だが、それを扱うために必要な材料として、幻想殺しや禁書目録などを求めた以上、通常の状態では二三度振るえば空中分解してしまう程脆い。

 禁書目録を奪った段階で、なんとか右腕の固定化に成功していたのだが――

 

「なんだそのデタラメな速度は!!?」

 

 ――珱嗄は単身でその右腕と違う意味で、同じことが出来る。

 

 近づこうと思えば認識できない速度で近づくことが出来るし、倒そうと思えば一撃で倒すことが出来るし、如何に人数を増そうと、間合いを詰めようと、策を練ろうと、護りを固めようと、彼は圧倒的な力でそれを捻じ伏せることが出来る。

 なにせ彼の持つ『触れる』能力は、この世界における神ではなく、正真正銘全ての世界を司る神から与えられた力なのだから、『聖なる右』程度では到底太刀打ち出来はしない。

 

 故に珱嗄はフィアンマの手から容易く遠隔操作霊装を奪い取り、その知識を行使して禁書目録の制御に成功。敵になった禁書目録の猛攻を防ぐべく右腕を振るうも、禁書目録による右腕の固定化を失った以上、その右腕はすぐに空中崩壊して消えてしまった。

 

「ほーれほーれ」

「くそ! こいつ俺様で遊んでやがる!」

 

 珱嗄は禁書目録を操作して、敢えて攻撃範囲を手加減した魔術攻撃(効果がエグイ)でピシピシと攻撃している。

 フィアンマは右腕を失った以上それを防ぐ術がなく、転がるようにその魔術攻撃を躱していた。いや、躱させられていた。完全に遊ばれていると分かっていても、それをどうにかする為には相手が悪すぎた。

 

「あれ、前回の俺のシリアスどこいったんでせう?」

「いつものことじゃん」

「というかインデックス取り返したなら元に戻してくれよ!? なに継続して操ってんの!?」

「盛り上がってるところ悪いけど残念ながら上条ちゃん」

「な、なんだよ」

「これが最終決戦だ」

「これ最後!? こんなグダグダなのが最終決戦!? 今までの戦いもグッダグダだったけど!! 全っ部珱嗄さんが台無しにしてきたじゃん! 多分もうちょい真剣にやってたら本にしたとき、大人気ライトノベルとしてアニメ化までいける超大作になった戦いが出来たと思うんですが!!」

「ごめんな」

「それで済ませるような問題じゃないだろうがあああああ!!」

 

 珱嗄の言葉に上条当麻がメタ発言も混ぜながら全力でツッコミを入れてくる。

 それもそうだろう。此処までの戦い、全て珱嗄が台無しにしてきたのだから、物語としてはかなり破綻してしまっている。起承転結の起の時点で強制終了するような所業を繰り返してきたのだから、当然だろう。

 

 だが思い返してみてほしい。

 珱嗄が行動した結果、なにか悲劇が起こっただろうか?

 

 妹達編から珱嗄の介入が始まり、一方通行は強制的に光の世界へと連れていかれ、打ち止めも無事に救出。御使堕しは引き起こされたが、被害者はなく天使も無事強制送還、土御門元春も重体にならずに済んだ。風斬氷華の一件もレベル5巡りをしていた珱嗄の乱入で魔術師を撃退、風斬自身も無事。法の書の一件なんてただの茶番だったし、それによって引き起こされた女王艦隊も珱嗄の介入で壊滅、首謀者など変な教えを受けておかしくなる始末だ。大覇星祭ではあっちこっちへと無茶苦茶やって、色んな悪事を挫くことに成功し、なおかつレベル5達同士のコネクションすら繋いで暗部を崩壊させるに至る。アレイスターのプランを悉く邪魔をして、神の右席を容易く撃退、挙句の果てに最後の最後で出張ってきた右方のフィアンマすら簡単に弄んでいる。もっと言えば、魔神であるオティヌスも気分でからかっていた。

 

 原作崩壊どころか、原作の事件を悉くうやむやにしてきた結果、被害者が誰一人として存在しないストーリーが出来上がっているのだ。

 

「信念も野望も願いも、正しく叶えなきゃただの傍迷惑だろ?」

「な……そんな理由でこれまで散々邪魔をしてきたと言うのか?」

「別に誰かの為にーとか考えてたわけじゃないよ。ただ、全部阻止したらどうなるのかなーってちょっと興味があっただけだ」

「そんな……」

 

 珱嗄の言葉に、フィアンマは膝を着いた。

 神上に至り、世界の救済を成そうとした――だがそれはただ一人の人外の興味本位で打ち崩された。魔術サイドだの、科学サイドだの、そんな小さなことを意識していたからか、盤外からすべてを滅茶苦茶にされたような気分だった。

 

 事実、珱嗄の行動によって不幸になった者はいない。

 勿論、復讐を遂げられなかったり、目的を達成できなかったものもいるが、それはそもそも多くの命を蔑ろにした上で成り立つ話だ。阻止されても文句は言えない。

 原作という基盤があり、それに沿って進むには、あまりに強大すぎる存在だったのだ、珱嗄という人外は。

 だからこそ――この世界を人間達の物語とするのなら、

 

「まぁ、人生そんなもんだよ」

 

 ――人外(おうか)は物語に干渉してはいけなかった。

 

 

 ◇ ◇ ◇

 

 

 アレイスターは珱嗄とフィアンマの戦いの様子を見て、機械に生命維持を任せているのにも拘らず息を呑んだ。背筋に悪寒すら感じているような気さえした。

 当然だろう、フィアンマの持つ力は『世界を救済する力』。それは不完全な右腕だったとしても十分脅威的な力だ。

 

 珱嗄がいかに人外だと言っても、人の域にいるのならフィアンマの力でどうにか殺せるのではないかと思っていた。仮に殺せずとも、重傷くらいは負わせられるのではないかと思っていた。

 けれど蓋を開けてみればどうだ。

 フィアンマの力を正しい方法で無力化した上で、禁書目録が珱嗄の手に渡ってしまった。しかもどうやらその操作も容易く行っている。

 

「魔術では殺せない、ということなのか……」

 

 呟きアレイスターは逆さの状態のまま天を仰ぐ。見えるのは地面と生命維持機の底のみ。

 此処までくれば嫌でも理解出来る――珱嗄には禁書目録すら凌駕する魔術知識があり、魔術において根幹ともなる様々な魔術的意味を無意味化できるのだ。もっと言えば、禁書目録の『歩く教会』を完璧に修復し、聖遺物である『いばらの冠』の原点を所有していたくらいなのだ。

 他にも聖遺物を持っている可能性はあるし、キリストや十字教の始まり、更にそれ以前の神話の世界に生きていたとしたら、そもそも魔術や魔導の原点に関与している可能性すらある。

 

 つまり、珱嗄はアレイスターの常識から外れた領域に生きる存在であるとすると、最早アレイスターでは殺しようがないのだ。

 

「魔術的な方法では殺せない……科学でも殺せない……」

 

 いや、そうではない。そういうことではない。

 

「そうではない……もはや奴を殺せるか殺せないかの話ではないな」

 

 アレイスターの目的は、プランの目的は、

 

 ――理不尽な悲劇を消し去り、誰もが当たり前に泣いて、笑える世界の創造なのだ。

 

 小さな規模ではあるが、それは今まで珱嗄がやり遂げてきたことだ。

 命が失われることその物ではなく、命が失われることに対して仕方ないで済ませず、素直に憤慨して立ち上がれないことがどれほど悲しいことなのかと思っていた彼に、珱嗄は心のままに立ち上がり、自身の関与する全ての悲劇を阻止してきた。

 それはアレイスターがこうあればと思ったことの体現なのだ。

 

 そんな彼を否定し殺すことは、自身の目的の否定にも等しい。

 

 ならば、アレイスターに珱嗄は殺せない。

 

「……プランの遂行は、不可能か」

 

 アレイスターは素直に笑うしかなかった。

 珱嗄が生きている限り、アレイスターのプランは悉く頓挫する。それはもう今までの経験から理解出来ている。珱嗄が老衰で死ぬのかどうかはわからないが、神話の時代から生きているのであれば、最悪この宇宙が終わるまで生きる可能性すらある。

 

 ならば、

 

「詰んだ」

 

 アレイスターの表情が崩壊した。

 

 

 




なんだか原作知識不足もあって穴だらけな上に風呂敷広げ過ぎた結果、絶賛滅茶苦茶な感じがしていますが、とりあえずあと二、三話くらいで完結まで持っていきます!!(白目)

小説家になろう様で連載しているオリジナル小説、『異世界来ちゃったけど帰り道何処?』が、とても喜ばしいことにマッグガーデン様より書籍化決定いたしました!
皆様の応援もあってのことだと思います!本当にありがとうございます。

今後の書籍情報など、Twitterの方で随時伝達させていただいていますので、よろしければ是非フォローお願いいたします!

こいし@きつね君書籍化 :@koishi016_kata

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。