◇5 とある魔術と科学にお気楽転生者が転生《完結》 作:こいし
9月に入り、時間にも余裕が出来たので、完結目指してちょこちょこ更新していきたいと思います!
今後とも応援よろしくお願いいたします!!
学園都市の統括理事長であるアレイスターは、珱嗄によって悉く破綻したプランを立て直すためには、どうにかして珱嗄の存在を消してしまわないといけないと考えた。
正直な話、まだ彼のプランは終わったわけではない。珱嗄の手によって始まる前に頓挫させられ続けているだけで、必要な材料や存在はまだ健在なのだ。一方通行や打ち止めも死んだわけではないし、レベル5の全員が生存しているし、幻想殺しも虚数学区もなにもかも消滅してなくなったわけではない。
珱嗄さえ死ねば、今まで取りこぼしたものはどうにでも出来るのだ。
そしてそれは、アレイスターだけではなく、神の右席である右方のフィアンマも同じこと。今や珱嗄のせいで無視出来ない程に膨れ上がった上条勢力は、魔術サイドとしてもローマ正教としても邪魔でしかない。
上条勢力を潰す為には、まして神上に至る為には、珱嗄の存在がどうしても邪魔でしかない。
―――敵の敵は味方。
そう、つまりアレイスターと右方のフィアンマはお互いが何を目指しているのかは知らないが、互いの動向を探る事で協調しようと打って出たのだ。
アレイスターはローマ正教が近い内に珱嗄を始末すべく動くことを予想出来ていたし、フィアンマとて珱嗄程の存在が学園都市の手に余ることを分かっていたのだ。
打ち合わせはない。必要もない。
珱嗄を殺した後、お互いの背中を刺せれば、勝者は一人。
アレイスターとフィアンマは互いの動向を探り合い、最適なタイミングで動き出したのだ。
最初に動いたのはアレイスター・クロウリー。
彼はローマ正教の準備が整ったことを知った瞬間、彼らが容易く入り込めるよう学園都市に大きな隙を作りだした。
つまり科学サイドの頂点、学園都市をパニック状態にすることである。
窓のないビルからあらゆるツールを使って学園都市の電気系統を狂わせた。一時的な停電状態を引き起こし、それに対応すべく動く警備員や関連会社のサーバーを一時ダウンさせた。
そうすることで学園都市を照らしていた明かりが全て消え、都市内は一気に暗闇へと落ちる。対応は遅れ、日常から非日常へと叩き落とされた学生達は困惑し、ほんの少しの時間身動きを取ることさえ出来なくなった。
勿論能力を持った者は即座に動き出すことが出来るかもしれないが、それでも更なる緊急事態が訪れれば即時対応することは不可能だ。
そうつまり、停電になった数分間でローマ正教の魔術師が大勢、学園都市に入り込んだのだ。目的は珱嗄の抹殺。
フィアンマのやったことは簡単だ。
まずローマ教皇に無理矢理指令書を書かせ、ローマ正教徒に学園都市への侵攻と上条勢力の討伐――特に泉ヶ仙珱嗄の抹殺を命じた。
さらに霊装であるC文書を使うことで、ローマ教皇の命令に魔術的強制力を持たせたのだ。
こうすることで、ローマ正教の魔術師達は学園都市に侵攻し、アレイスターが隙を作った瞬間に侵入することに成功した。
当然アレイスターもわざわざ都市を無防備にする筈はない。珱嗄を殺す以外の損害は無いに越したことはないのだ。故に、すぐに停電は復旧し、各方面のサーバーも復活する。
さらに侵入者が入り込んでいることを風紀委員や警備員に伝達し、暗部すら駆り出して無駄な損害が出ないように手を回す。
事前に計画していた事ゆえに、タイミングはばっちりだ。大規模災害発生時対策としての、都市全学の避難訓練と銘打って、殆どの一般学生は避難所への誘導がほぼ済んでいる。
戦闘が起これば建造物などの被害はあれど、人命被害は最大限抑えられる。
「だが、それだけだと思うなよ」
しかしアレイスターはこの混戦の中で、自分のプランを大きく進めるつもりでいた。裏で手を回し、更に打ち止めの確保、それによって一方通行の覚醒を促すつもりだったのだ。
侵入者が入り込んだとなれば、一方通行は安全な場所へ打ち止めを連れていく。それはおそらく避難所であり、警備員である黄泉川の手の中だ。一方通行の性格上、侵入者が何者で何の目的なのかを探るだろうが、どちらにせよ不穏分子は排除しにいく可能性が高い。
そうなれば打ち止めを確保することなど容易い。暗部を警備員に紛れ込ませて攫ってしまえばいいのだ。
「もっと言えば、打ち止めを利用し虚数学区の顕現が出来れば上々だろうがな」
アレイスターとて馬鹿ではない。密かに動こうと虚数学区を展開すれば珱嗄は必ず動く。しかも相当頭も回る故に、珱嗄はほんの些細な情報でアレイスターとフィアンマの思考に辿り着くこともありえるのだ。
下手に動けば全てが瓦解してしまう以上、アレイスターも慎重になっていた。
現状、魔術師達は上条勢力の殲滅を目的として動いている。
それはつまり、珱嗄以外に確認されている上条勢力の人物も対象になるということだ。上条当麻は勿論、禁書目録やレベル5で親交のある御坂美琴、一方通行などが対象になってしまうのだ。C文書が使われた時点で、その命令の強制力は絶対――もっと言えば、フィアンマはこの混戦の中で幻想殺しを奪取しようと考えている。
アレイスターもフィアンマも、お互いの最終的な目的がどこにあるのかをまだ知り得ていない状況故に、裏の裏で互いの思惑を交錯させていた。
しかし忘れてはいけない。
その目的を達成するためには、最重要かつ大前提として――
―――珱嗄の抹殺を成し遂げなければならないということを。
◇ ◇ ◇
そういうわけで大勢の魔術師から逃げている珱嗄は、途中で同じく逃げていた上条当麻を抱えて走っていた。
その気になれば全員薙ぎ倒すことも可能なのだが、珱嗄の特典である『人類が習得出来る全技術』の副産物の魔術知識が、襲い掛かってくる魔術師達の身体に刻まれた自爆術式を見破っていた。
その威力は一人が発動させただけでも、この辺りを吹き飛ばせる威力。それが何人も発動させたなら、珱嗄はまだしも直撃すれば上条当麻は無事では済まない。右手で防ごうとしたところで、全方位からの爆発に同時対応は出来ないのだ。
故に、珱嗄は上条当麻を抱えて逃げている。
だが、
「じゃあ上条ちゃん、今から俺が運ぶから、目の前にあの魔術師たちが来たら全部右手で触っていってね」
珱嗄は不可能なことだろうと可能にするだけの力を持っている。
「え、おわああああああ!?!?」
珱嗄は上条当麻を担ぎ直すと、後方へ高く跳躍し、くるりと回りながら追ってきている魔術師たちの後ろへと移動した。
魔術師達の動きが一瞬止まるが、その瞬間に珱嗄は一人一人の合間を縫って通り過ぎていく。その中で、上条当麻は目を白黒させながらも懸命に右手を動かし、目の前に現れた魔術師一人一人の身体に触れていった。
パキィンという甲高い音が響きながら、魔術師達の身体に刻印させていた自爆術式が破壊されていく。
そうして珱嗄が再度魔術師達の先頭へと出てきた瞬間、その魔術師達が全員地面へと倒れ伏した。
「え? え? なんで?」
「上条ちゃんが触れたそばから全員気絶させただけだよ」
「うわー……」
「恐ろしく速い手刀だっただろ?」
「俺じゃ見逃しちゃうから!!」
珱嗄は上条当麻の右手が術式を壊した傍から、それぞれに手刀を叩きこみ、全員を気絶させていたのだ。あまりの早業に、上条当麻は驚きを隠せずとりあえず全力でツッコミをいれるしかなかった。
しかし学園都市に入り込んだ魔術師はまだいる。無限に湧いてくるわけではないが、こう何度も襲撃されては倒しを繰り返すのは、少々面倒くさいだろう。
「元凶は……なんとなくアレイスターかな? でもローマ正教の魔術師がいるってことは、別にもう一人いそうだけど……どちらにせよ目的は俺か上条ちゃん、もしくは両方の抹殺ってとこか」
「察し良すぎてもうそれで合ってる気がする、流石珱嗄さん」
「多分合ってるよ」
「まさか元凶もなんとなくで正体割れるとは思わないと思うんですが! いままで色々な相手とのいざこざに巻き込まれた上条さんでも、今回の元凶には少し同情してしまうですが!!?」
「ツッコミ長い、お仕置きな。ほい目潰し」
「不幸dぎゃああああああああ!! 目がァ!! 目がァ!?」
「さて、アレイスターの居場所は割れてるし……どうせならもう一方の方を探したいところだけど……!」
上条当麻と頓珍漢なやりとりを繰り広げつつ、この事件の真実に辿り着いた珱嗄は周囲を見回しながらアレイスターとは別の元凶、つまり右方のフィアンマを探す。
「おっと、上条ちゃんそこ危ないぞっと」
「え?! 目が見えないんだけどぉおっ!?」
「ふッ!!」
瞬間、珱嗄は目を抑えて転がる上条当麻の襟首をつかんで横へと放り投げると、横から襲い掛かってきた
その青白い光線は殴られたことで強制的に軌道を変えられ、一度その勢いを失い消える。
珱嗄は殴った手の感触から、今の攻撃がかなりの威力が秘められた一撃だったことを理解する。拳を開いてゆらゆらと揺らすと、光線が襲い掛かってきた方へ視線を向けた。
するとそこには、
「正直……今のを防ぐとは思わなかったぞ」
この騒動の元凶の一人、右方のフィアンマが佇んでおり――
「警告……正体不明の力により、術式が破壊されました。逆算、失敗……対象の能力に対し有効となり得る可能性の高い術式を構成します……」
―――かつて上条当麻が対峙した、『自動書記』状態のインデックスがそこにいた。
「一番大事なものを傍に置いておかないとは、不用心だぞ『幻想殺し』……だからこうやって横から掠め取られる」
「イン、デックス……!?」
「あらら、洗脳でもされたかな?」
「そして泉ヶ仙珱嗄……お前はこの世界の異物だ。正直、俺様にとってお前は邪魔でしかない……だから直々に殺しにきてやったぞ」
「へぇ、そのバグってフリーズしたファミコンみたいな腕で?」
「ふん、まだ未完成品なんでな……だが完成の為の材料は此処に揃っている」
インデックスの姿に絶句している上条当麻をよそに、珱嗄とフィアンマは言葉を交わす。片や殺しに来たローマ正教の切り札、片や世界最強の存在。
珱嗄としても、自分を殺す為に此処まで綿密に計画を練ってきた相手は久々だった。流石にローマ正教程の巨大な勢力を敵に回したことは、数える程しかない珱嗄なので、それも当然のことなのだが。
とはいえ、今までの敵の中でもかなりの力を持った相手なのは間違いないだろう。その証拠に、歪な形をしているが、フィアンマの右肩から生えている巨大な右手は、膨大なエネルギーを感じさせている。
「禁書目録を使ってそこの右腕を回収するまでの間、お前は俺様が足止めさせてもらう……そして右腕を回収して、幻想殺しを取り込めば俺様の右腕も完成する。そうなれば、お前とて敵じゃない」
フィアンマは余程自信があるのか、不敵に笑みを浮かべながら両手を広げる。
その左手にはインデックスの遠隔操作霊装が握られており、右には巨大で歪な右手、勝利を確信したようなその笑みに、上条当麻は気圧された。
珱嗄によって様々な事件を引っ掻き回された結果、上条当麻には原作程の経験値がない。対魔術師であれば赤髪の魔術師、ステイル=マグヌスや土御門元春くらいしか経験がないのだ。
そこそこ実力のある魔術師を倒したことがあるからと言って、急に世界をひっくり返せるような力を持った魔術師に敵がレベルアップするなど、理不尽もいいところだろう。
まして、魔神と呼べるほどの力を持った禁書目録を右手一本で相手するなど無理難題にも程がある。
「っ……」
だからこそ、縋るように上条当麻は珱嗄の方を見てしまった。
インデックスは救いたい、けれど襲い来る恐怖心は無視できない。
しかし、視線を向けた先にいた珱嗄は、
「どうしたもんかなー」
「お、珱嗄さん……どうするんだ?」
「え? いやまぁ、どうしたらいいかなって思って」
「なっ……」
上条当麻は珱嗄のその言葉に言葉を失う。
今まであれだけ無茶苦茶してきた珱嗄が、まさか手に負えないと言うなんて、想像も出来なかったからだ。それほどまでに凄まじい相手だというのか、そんな恐怖が彼の頭の中を埋め尽くす。
珱嗄が勝てない相手――それだけで足が震えてしまった。
けれど、そんな上条当麻に対して珱嗄は訂正するようにこう続けた。
「さーて、どうしたら面白くなるかなぁ」
ゆらり、口端が吊り上がり、顔を傾けながら珱嗄は笑った。
「なに……?」
「珱嗄さん……?」
その姿に、フィアンマも上条当麻も困惑する。
それもそうだろう、この状況、圧倒的に優位に立っているのはフィアンマの方であり、彼の左手にある遠隔操作霊装が動けば、即座に魔神の力を行使したインデックスの猛攻が始まる。
如何に珱嗄であろうと、幻想殺しであろうと、その力の猛威を受けて無事で済むとは思えない。さらにはフィアンマの右腕だって、無視できない脅威には違いないのだ。
にも拘らず、珱嗄は笑っている。
だが―――彼らは知らない。
これが泉ヶ仙珱嗄の本質であり、どんな能力も魔術もスキルも魔法も関係ない、最も恐ろしい彼の神髄。
そう、どんな状況になったとしても――
「面白いなぁ」
―――娯楽主義者は恐れない。
改めてご報告させていただきます。
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