ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第五話:一夏、初陣

――放課後、第三アリーナ・ピット――

 

時は流れ、運命の月曜日。

 

「ようやくこの時がきたな椿!」

「……あぁ、そうだな」

「なんだよ、テンション低いな」

「……はぁ」

 

思わず溜め息をついてしまう。

 

(何と情けない)

 

――彼の空元気ぐらい許してあげてください。それに貴方もです。あれは確認を怠った私にも責任がありますし、次になければいいだけです。だからいい加減に立ち直ってください。

 

(……そうか)

 

「少しは落ち着け一夏。そして元気を出せ椿」

 

箒は一夏を諌め、私に慰めの言葉をかけてくる。そもそも、一夏の空元気と私のテンションの低さには理由があるのだ。

 

一夏は本来試合前に専用機を受領する予定だったのだが、その専用機の搬送が遅れていて未だに一次移行(ファースト・シフト)すら出来ていないこと。そして私は、メインブースターに異常が発見されたので現在古鷹と共に修復中だからである。

 

一夏のは仕方ないとして、仮にも技師を目指した人間が試合前日に整備を怠って異常を発見できなかったのはもはや恥である。

 

「えっと……元気、だして」

「そうだよあまっち、元気だして~?」

「あぁ。解った」

 

いつまでもいじけていられない、か。

 

「あ、織斑君!織斑君!織斑君!」

 

声が聞こえた方を向くと、いつも以上にあたふたした山田先生が一夏の前まで駆け寄っていた。よほど急いできたのか、膝に手を突きながら息を切らしていた。

 

「山田先生落ち着いてください、深呼吸です。ほら、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー」

「ヒッヒッフー、ヒッヒッフー……ってあれ?これなんか違いませんか!?」

 

(これは……)

 

――ラマーズ法、日本も含めた世界で採用されている「ヒッ・ヒッ・フー」の呼吸法で知られる(喧しい)

 

「教師で遊ぶな馬鹿者!!」

 

古鷹に対するツッコミと織斑先生の出席簿アタックが重なった。

 

「ち、千冬姉…」

 

スパァンッ!!

 

「織斑先生、だ。いい加減に学習しろ。さもなくば死ね」

 

(……よく今まで教師でいられたな。しかも一夏に特別厳しいときた)

 

――そりゃぁ彼が弟だからでしょう?ですからつい人一倍あたってしまうのです。

 

(そうか。ということは織斑先生はブラコンというこ――ッ!?)

 

殺気を感じたのでしゃがむ。

 

すると頭上を出席簿が高速で通過していった。それを見た一夏はすげぇと感想を漏らし、箒と簪、のほほんさんは唖然としていた。

 

「……何をするのです?」

「それはお前の心に聞いてみろ」

 

何故バレた。

 

――読心術持ちですか。私には気付いていないようですが中々デキますね。

 

とても厄介極まりない能力である。思想の自由はどこに行った?

 

「何の事か解りかねますね」

 

取り敢えず白を切る事にした。

 

「と、とりあえずそれは一旦置いてください!とうとう来ましたよ!織斑君の専用機が!」

 

織斑先生に睨まれていたが、そこに山田先生が助け舟を出してくれた。ありがとうございます。

 

そして山田先生の合図でピットの壁が開き始め、そこから一体の白いISが搬送されてきた。

 

現れたのは飾り気のない、眩しい程の純白に彩られたISである。

 

――正に主人公機ですな。

 

(やはり赤、白、青が主人公のイメージカラーだと相場が決まっているのだろうか)

 

古い鉄の巨人然り、白き閃光然り、書記と学芸の守護者然りである。

 

「これが織斑君の専用IS、『白式』です!」

「これが俺の専用機……白式」

「すぐに装着しろ。時間が押している。フォーマットとセッティングは実戦と並行しながらだ。できなければ負けるだけだ、わかったな?」

 

一夏は急かされながら白式を身に纏とった。

 

そして山田先生と織斑先生は手早く問題がないかを確認する。

 

「……ハイパーセンサーは問題ないようだな。どうだ一夏、気分は悪くないか?」

「大丈夫、千冬姉。問題ない、いける」

「そうか」

 

(思わず家族の会話になっているな)

 

――心配しない姉がいない訳ないでしょう。

 

それもそうか。

 

「箒」

「な、なんだ?」

「行ってくる」

「あ、ああ……行って、そして勝ってこい!」

 

(そしてさり気なく、か。無自覚というのは恐ろしいな)

 

――そうですね。とっととあの唐変木を誰か落とさないですかね?

 

相変わらずの一夏であった。

 

「あれだけ付き合ってやったんだ。無様な姿だけは晒すなよ?」

「わかってるって。……白式、出るぜ!」

 

叫び、一夏はアリーナの空に舞い上がった。

 

 

 

 

――アリーナ――

 

「あら、臆病風に吹かれて出て来ないと思っていましたが……ようやくですか」

 

セシリアが腰に手を当てたポーズで言う。

 

「臆病風に吹かれたつもりはないぜ」

「そんな事はどうでもいいですわ。……最後に、貴方にチャンスをあげますわ」

「どうでも良くないんだが……で、チャンスって?」

「私が一方的な勝利を得るのは自明の理。ですから、今泣いて許しを請えば許してあげないこともなくてってよ?」

 

なんと高慢な態度なんだろうか。

 

「そういうのはチャンスって言わないんだぜ」

 

『警告。敵IS、射撃体勢に移行。ロックオンされています』

 

「そうですか―――」

 

戦闘開始の合図が近づく。

 

「―――なら、堕ちなさい!」

 

開幕と同時にセシリアの『スターライトMk-Ⅲ』から閃光が迸り、一夏も合図と同時に身を横に倒した。

 

すぐ横をレーザーの奔流が駆け抜けていく。

 

初撃の回避は上手くいったようだ、と一夏は安堵する。

 

「よく避けれましたわね」

「お褒めに預かり光栄ですってな」

「ですがこれはほんの挨拶代わりですわ。さぁ、踊りなさい!私、セシリア・オルコットとブルー・ティアーズの奏でる円舞曲(ワルツ)で!」

 

宣言と同時にレーザーが雨のように降り注ぐ。

 

「グッ!?」

 

開幕こそ撃たれるのが分かっていたため、あるていd回避することができた。だがそれだけであり、ある程度回避できたものの、搭乗時間が不足している一夏には全てを回避しきるのは厳しかった。

 

次々と被弾し、シールドエネルギーが確実に削られていく。

 

「このままやられたままでいられるかよ!」

 

反撃しようとして武装を展開をしようとするが――

 

「ブレード一本だけ!?」

 

一夏はそれ以外のものを探すが、見当たらない。射撃センスはないと椿から言われてはいたが、ばら撒くだけでも牽制になると教えられていたのだ。白式に射撃武装があれば早速教えに従って実践しようと考えていたが、それができないとしった。そして今もレーザの雨を浴びせられ続けている。

 

これ以上はジリ貧だった。一夏はやるしかないのだろうと腹を括った。

 

「えぇい、ままよっ!」

 

一夏は刀の形状をした一本の近接用ブレードを呼び出し、距離を詰める。

 

「遠距離射撃型の私に近接戦を仕掛けるなど―――笑止ですわ!」

 

近接に対する適切な対処は近づかれないこと。セシリアは教本通りに距離を離しつつ狙い撃ってくる。

 

一夏は必死の思いで避けながらと距離を詰めようとするが――できない。一夏にはこの距離が永遠のようにも感じられた。

 

(やってやる。負けてもいい、一撃当てて見返してやる!!)

 

しかし一夏は諦めず、弾幕へと突っ込んだ。

 

 

 

 

あれからどれ程の時間が過ぎただろうか。

 

結局その間に一夏は一撃も当てることができなかった。その間にもセシリアは新たに四機のビットを操り出し始めてさらなる猛攻を仕掛けてくる。だが、一夏はそれらをジリ貧になりながらも凌ぎきっていた。

 

そして戦いの中である事に気付いていた。

 

それは、二点あり、一つはビットは必ず自分の死角から攻撃を仕掛けるということ。もう一つはビットを動かしている時は必ず立ち止まっているということである。

 

(タイミングさえ見計らえれば……!)

 

あのビットを無効化できる事も叶うだろう。

 

「では、終幕(フィナーレ)と参りましょう」

 

セシリアは勝負を決する為に動きを止めビットを動かした。そして死角となっている上下にビットを配置し、レーザーを放とうとした。

 

(今っ!)

 

一夏はその動きを予測済みであり、すぐさま回避しそのまま上段からの袈裟懸けで下の位置にあったビットを斬り捨てた。

 

「なんですって!?」

 

セシリアは素人である一夏がこうも的確に対処してきたのに驚きだったのかビットの操作が止まっていた。

 

一夏はそれを見逃さず、返す刀で上に配置してあったビットを斬り上げて破壊する。そのまま次も、と狙おうとしたが、一瞬早く立ち直ったセシリアが残りの二機に指示を出して元に戻させて破壊されるのを防いだ。

 

「やってくれますわね……!」

「俺だってたたやられてるままじゃないんだぜ!」

 

苦虫を噛み潰したような顔をするセシリアを見て、今までの努力が無駄ではなかったと内心喜ぶ一夏。

 

(このままいける!)

 

勝機は見えてきた。

 

(後は集中するだけだ……!)

 

一夏は見えてきた勝利に僅かに心躍らせ、再び距離を詰め始めた。

 

 

 

――ピット――

 

「はあぁ、凄いですね、織斑君は」

 

山田先生が賞賛の声を上げた。

 

確かに、初の実戦としてはかなり動けていた。弱点にも気付き、それを利用して作戦を考えることも出来ていた。内容としては十分ではある。が、しかし――

 

「あの馬鹿者。浮かれているな」

 

織斑先生はそう評価を下したてい。

 

「えっ?どうしてわかるんですか?」

「さっきから左手を閉じたり開いたりしているだろう。あれは、あいつの昔からのクセだ。あれが出るときは大抵簡単なミスをする」

 

だがそれは仕方ないとも言える。素人が経験者相手に大健闘しているのだ。一矢報いる事ができて思わず気が緩んでしまったのだろう。

 

「……そう言えばあまっちの機体はもう大丈夫なの?」

 

のほほんさんが私に声をかけてきた。私はその問いに端末で他に整備ミスがないかを確認し、それが無い事を認識して答える事にした。

 

「あぁどうにか間に合った。しかし、一夏は意外に粘っているようだな」

「そうだねぇ~かんちゃんもそう思うでしょー?」

「うん……初めて対戦してるとは思わないぐらい、よく動けてる」

「しかし此処に来て慢心したらしいが……さて一体どうなるんだろうか」

『アイタタタタタタッ!?!?』

『私はからかわれるのが嫌いだ』

 

何故か山田先生が悲鳴を上げていた。どうやら織斑先生をからかってその報いを受けたようである。なんと言えば良いのだろうか……取り敢えず、ご愁傷様だ。

 

「「アハハハハ……」」

 

一方簪とのほほんさんは乾いた笑い声を発していた。

 

「……試合を見ようか」

「……うん」

「……そうだね~」

 

取り敢えずの三者三様の見解を述べた終わった所で、私は二人と共に試合を見始めた。

 

「一夏……」

 

そんな中、箒が心配そうに呟きを漏らした

 

 

 

 

――アリーナ――

 

――獲った!!

 

残りのビットも撃墜し、残りブルー・ティアーズ本体だけとなったセシリアに対し、一夏は仕掛ける為にレーザーライフルを避けつつ一気に懐まで迫る。

 

絶対に外さない距離、このままいけば――

 

「―――かかりましたわ」

 

にやり、とセシリアは笑みを浮かべる。

 

そして次の瞬間、ブルー・ティアーズの腰部から広がるスカート状のアーマーの先端の突起が外れ、ミサイル型のビットが二機、姿を現した。

 

これは――

 

「あいにく、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 

そして二機のミサイルビットが放たれた。

 

――不味い!?

 

急いで身を捻ることで回避しようとしたが、当然その程度で避けれる訳もなく、ミサイルが直撃して一夏と白式は轟音と共に爆炎に包まれた。

 

 

 

 

――ピット――

 

「一夏ッ……!!!」

 

思わず篠ノ之が声を上げていた。しかし織斑先生は安堵したかのように鼻を鳴らしていた。

 

「……フン、機体に救われたか。馬鹿者め。」

 

モニターの画面からは純白である白式の機体があった。

 

「どうやら一次移行がようやく済んだようだな」

 

白式本来の姿がそこに在った。

 

―――魅せますね、彼。流石は主人公といったところですか

 

(主人公体質の持ち主、か)

 

場を盛り上げるのは天賦の才故か。

 

 

 

 

――アリーナ――

 

高周波の金属音が鳴り響く。

 

気が付くと今まで受けたダメージが消え、白式が新たな姿になっていた。

 

「まさか一次移行!? あの機体は今まで初期設定のままで戦っていたと言うのですか!?」

「あぁそうだぜ。ISの搬入が遅れてろくに準備ができなかったんだ」

 

しかしこれで白式が本当の意味で一夏の専用機となった。しかも姿だけではなく武装――近接用ブレードにも変化が起きていた。

 

――近接特化ブレード・≪雪片弐型(ゆきひらにがた)

 

その雪片という名前には覚えがあった。

 

それはかつて世界最強(ブリュンヒルデ)が使用した一振り。

 

自身の姉、織斑千冬が振るっていた一振り、刀に型成した形名、雪片である。

 

一夏はそれを見てつくづく思い知らされる。

 

「俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

今も昔も、そしてこれからも俺の姉だ、と。けどそろそろ守られる関係は終わりにしよう。だからこそ――

 

「――俺も、俺の家族を守る!」

「……何を言っていますの?」

「取り敢えずは千冬姉の名前を守ってみせるさ。……いくぜ!」

「だから何を―――ッ!おいきなさい!」

 

再びミサイルビットが放たれる。

 

しかし――

 

(見える…!)

 

一夏は飛来するミサイルビット二機を同時に斬り捨てた。

 

「おぉおおおお!!」

 

先程とは比べものにならない速度でセシリアに肉薄する。それと同時に雪片の刀身から光が帯びはじめ、エネルギーの密度が高まっていく。

 

「イ、インターセプ――」

 

セシリアは何かを呼び出そうとしていたが――遅かった。

 

(行ける!)

 

「ハァァアアアアアッ!!」

 

一夏は雄叫びを上げ、下段からの逆袈裟懸けを放つ。

 

「ッ――!?」

 

セシリアは間に合わないと見て身を強ばらせた。そして斬撃が直撃しようとした瞬間――

 

『試合終了。勝者――セシリア・オルコット』

 

――ブザーが鳴り響き、次いで勝者の名前が告げられた。

 

『え?』

 

そしてソレを聞いた当事者二人と観客全員が間抜けな声を上げた。

 

「はぁ……」

 

ため息をついたのは千冬。

 

なんと締りの悪い結末だろうか。

 

 

 

 

――ピット――

 

少しして今回の主役(の予定だった)が帰還してきた。

 

「よくもまぁ持ち上げて突き落としてくれたな、大馬鹿者め」

「面目次第もございません……」

「武器の特性を考えずに使うからこうなったのだ。その結果があれだ。身をもって知っただろう?次もああなりたくないなら訓練に励め、暇があったらISを起動しろ。いいな?」

「解りました……」

「一夏」

 

箒が一夏に話しかけていた。慰めるのだろうか?

 

「なんだ……」

「負け犬」

「ぐはっ」

 

どうやら追撃をしただけだったようだ。

 

(好きになってもらいたいのならそこは慰めればいいものを……)

 

――勿体ないですねぇ。まぁ今回は唐変木が悪いということで一つ。

 

なら私が言うべき事も一つだ。

 

「持ち上げて突き落とした唐変木少年織斑一夏君、今回ははよくやったな」

「お、お前もかよ!?てか唐変木は関係ない!」

「喧しい。だが、大健闘だったと思うぞ」

 

折角だから勝って欲しかったがな。まぁ、あくまで欲を言えばの話だがな。

 

「最初からそっちを言えっての」

「お前がやらかしたからだろうに。……さて次が本来なら俺とオルコットの対戦ではあるが」

 

恐らくないだろう。

 

「そのことだが天枷」

 

織斑先生が会話に割り込んできた。

 

「結果の通り、オルコットは損失した武装補給及び整備が必要になる。今日中には終わるそうだが当然今すぐにとはいかない。よって後日に持ち越しだ。今度は整備を怠るなよ?」

 

予想通りの言葉だった。そして少々耳の痛い話もあったが取り敢えず置いておき、試合中に思いついた提案を話すことにした。

 

「解っています。ですが空いてしまった時間は有効に使いたい。そこで一つ提案があります」

「想像はつくが……一応言ってみろ」

「幸い一夏の白式は一次移行して機体のダメージ自体は消えています。よってエネルギーを補充するだけで戦闘が再び可能となります。そこで俺と一夏で対戦をしよう、と提案しますがどうでしょうか?」

 

戦って見たい、と思うのは男の性故か。

 

「時間的には不可能ではない。元々二戦分の予約をしてきたからな。……織斑、お前が同意するなら許可するが、どうする?」

「全く問題ないぜちふ……織斑先生」

 

出席簿を構えていた織斑先生を見て途中で言い直していた。

 

(……いつ構えた)

 

――私も気づきませんでした

 

「……フン、なら30分後に試合を開始する。天枷は反対側のピットに移動するように」

「解りました」

「はい」

 

私と一夏は了承した。

 

「一夏、次はアリーナで会おう」

「おう」

 

私は一夏が頷いたのを確認して移動を始める。

 

「あまっち待って~」

「待って欲しい……」

 

そして後から場の成り行きを見守っていたのほほんさんと簪が付いてきた。

 

その後、アナウンスで予定変更の知らせが流れた。

 

残っていた観客達がその予定変更に驚き、そしてその観客達から全生徒に情報が行き渡る事となり、瞬く間も第三アリーナは満員となった。

 

それもそうだろう。

 

なんせ史上初の男VS男のISバトルが今始まろうとしていたのだから。

 


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