ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第四話:和解と訓練と勉強

――翌日、朝のSHR前――

 

荷物を一組に置いた後、私は簪に昼休みに屋上に来るよう頼む為に四組に向かっていた。道中、男性操縦者という事で一夏程ではないにしろ、視線がこちらに向けられていたのだが……まぁ、其処は気にせずに行こう。気にするより重要な案件があるのだから。

 

――貴方は意外に世話好きですよね、見た目に反して。

 

(後ろのは余計だ。……まぁ、世話好きに関しては否定しない。それに、友人が辛そうにしてるのをただ見ているだけの人でなしよりはましだ)

 

余程の事情がない場合は別ではあるが。

 

――そうですか

 

あぁそうだとも。それは私が最も嫌いな事だ。断固、認めない。もしそれが私の手で解決できるものであれば、私が解決しよう。何故なら、そうでなくては昔を――

 

(家族を深く思い出してしまうから)

 

そうすると、今までの全てが壊れてしまいそうだから。

 

――何か言いましたか?

 

(いや何も)

 

思わず口が滑ったが、流して四組の扉の前に立つ。

 

「失礼、少し良いだろうか?」

 

ノックをして一言入れ、少しだけ騒がしい教室に入る。

 

『……』

 

私が入ると一瞬にして無言になった。別に其処まで注目しなくてもいいだろうに、と思わずにはいられない。

 

――まぁ無理ですね。

 

そんなものか。一夏程見てくれは良くないのだが……やはり珍しがられるものか。いやはや、実に困ったものだ。

 

「さて……そこの君、少し良いだろうか?」

「へ?あ、はい」

 

取り敢えず身近に居た生徒を呼んで尋ねる。

 

「すまないが、更識簪さんを呼んできてくれないだろうか?」

「それはいいですけど、どうしてです?」

 

どうして、か。

 

「まぁ何だ。少し大事な話がある、と言えば良いのだろうか」

 

詳細は省いたが、あながち間違ってはいないだろう。

 

「だ、大事な話……直ぐに呼んできますね!」

 

何故か頬を染めながら急いで簪を呼びに言っていた。そして私の発言に聞き耳を立てていた周りも何故かざわめき始める。

 

(……何だ?)

 

――貴方は自分の発言をよーく思い出してください

 

発言?特に変な事は言っては……?

 

そこまで考えて私は気付いた。

 

(……思いっきり誤解だろう、それは)

 

何故告白すると勘違いするのだ。

 

――何故って、そりゃ女の子だからでしょう。春は恋の芽吹く季節ですよ?

 

意味が解らん。

 

そうこうしている内に先程声をかけた生徒が簪を連れて来た。ただ、簪は周りのテンションに酷く困惑していた…。

 

「え、えと、どうしたの?」

 

内容を周りに聞かれるのはあまり宜しくない小声で話しかける。それに、これから言う情報は良く事情を知らなければ勘違いされるからな。

 

「あぁ、昼休み、時間は空いているだろうか?」

「空いてるよ?」

「なら昼食後に屋上に来て貰えるだろうか?……少々大事話がある。良いだろうか?」

「解った……ご飯食べたら行くね」

 

了承してくれたか。取り敢えず用件はコレで済んだだろう。

 

「それと……この騒ぎは何?」

 

簪は尋ねてきた。

 

さて、何と言ったものかな。下手な事を言って悟られる訳にもいかなのだ。言葉は慎重に選ぶべきだろう。

 

「そうだな……彼女達は酷く、誤解をしているんだ」

「誤解?」

「そう、誤解をしているのだが……どう言えば良いか」

 

そしてチラリと時計を見るとSHRまで残り僅かとなっていた。

 

「む、時間がもうないので君の方で解いてくれ、頼んだぞ。では失礼する」

「え?……解った。じゃぁね」

 

そう、時間がないのだ。この誤解を解きたいのは山々なのだが、織斑先生の出席簿攻撃と天秤にかけることはできない。私とてあの豪腕から放たれる出席簿を喰らうのは嫌だ。味わった事はないが、友人がよく食らう姿を見ている身としては、な。

 

――正直ですねぇ

 

(背に腹はかえられぬ、と言うだろう)

 

断腸の思いなのだ。察してくれ。

 

そして私は一組へ走って戻った。

 

 

 

 

彼が走って去った後、彼に話かけられていたクラスメイトが話しかけてきた。

 

「ねぇねぇ簪さん」

「な、何?」

「天枷さんと何を話してたのっ!?」

 

何故かクラスメイト――佐々木さんだったかな?――はとても興奮していた。そして周りも何故か興奮しながらこの会話に聞き入っている。

 

彼は誤解を解いて欲しいと言ってたけど、彼女達は一体何を誤解したんだろう?

 

「え、えと、取り敢えず落ち着いて?」

『これが、落ち着けられるかぁっ!?』

「ッ!?」

 

取り敢えず宥めようとしてみるが何故か全員に叫ばれてしまった。

 

「ど、どうして……?」

 

何を誤解してるのか、本当に解らない。

 

「だって、天枷さんが『大事な話がある』って言ってきたのよっ!?」

「だ、だから佐々木さん、落ち着いて……」

「じゃぁ何て簪さんに言ってたの?」

「え、えっと……」

 

確か彼はこう言ってた筈。

 

「昼食後に屋上に来て貰えないだろうか?少々大事な話が……あっ」

 

聞いたままの台詞を殆ど喋って気付いた。これって、小声で話かけてきたから周りに聞かれてが拙い話、だよね?

 

でも、そう思ったころには全て遅かったみたい。

 

『キャァアアアア!!!』

 

何故か黄色い歓声が上がった。

 

「……???」

 

本当にどうしたのだろう。

 

「えと……簪さんは解ってないの?」

 

佐々木さんが再び話しかけてきた。

 

「……?何が、解ってないの?」

 

正直に答えた。

 

「これはね、簪さん……」

「こ、これは?」

 

佐々木さんは一息吸って宣言する。

 

「これは天枷さんが告白つまりなのよっ!!」

 

そうかそうか私に告白を……?

 

「え?」

 

今、佐々木さんは何て言ったんだろう?

 

「だから簪さんに天枷さんが告白するつもりなのよっ!!」

 

今度は周りも頷いていた。どうやら幻聴ではないみたい。

 

そして同時に彼が言っていた事を思い出した。

 

(……これが誤解)

 

そうであれば誤解を解く必要がある。

 

「えと、違うよ?」

「じゃぁ何だってのよ!?はっ!?もしかして愛の語らいですかそうですか!?」

『まさかの付き合ってる!?』

 

……これは少し解くのに苦労しそう。

 

(でも、少し残念かな――って、私は何を考えてるのだろう?)

 

残念、思ってしまった事に困惑しつつ私は担任の先生が来るまでの間、皆の誤解を解く作業に努めた。

 

 

 

 

――昼休み、屋上入口前――

 

さて、私は現在のほほんさんと共に屋上入口前に来ている。

 

――ここからは私は静観します。

 

(お前には珍しく殊勝な態度だな)

 

――殊勝は余計です。流石に空気ぐらい読みますよ。

 

まぁ、確かに。

 

「さて、お膳立てはしたぞ?」

「うん……」

 

のほほんさんは未だ不安がっている。

 

「後は君が一歩を踏み出すだけでいい」

「解ってるよー」

 

彼女は大丈夫だと言う。だが、その一歩が中々踏み出せない様だ。確かに思う事はあるのだろう。だが立ち止まっていては何も変わらない。寧ろ状況は悪化するだろう。それは彼女も理解している。後はほんの少しだけ勇気が足りないだけ。だから私は、その背を押してあげることにする。

 

本音(・・)、行くぞ」

 

以前彼女が要求したように頭を優しく撫でながら言う。

 

「……うん。ありがとー」

 

緊張しすぎたのだろうか、私が名前で呼んだ事に気付いてない。まぁ、勢いで言ってしまったので此方としては好都合だが。

 

そしてのほほんさんは意を決して簪の前に出た。私もその後に続く。

 

「待たせただろうか?」

 

一声かけると風景を眺めていた簪は此方を向いた。

 

「待ってな……本音」

「かんちゃん」

 

そしてのほほんさんの姿を確認すると、少し、暗い顔になった。

 

「話がある、と言ったな」

「うん……」

「だが、俺が話す訳ではない。彼女が君に話があるんだ」

「……そう、なんだ」

「彼女の話を最後まで聞いてくれるか?」

「……解った」

 

簪は頷いて同意を示した。

 

「なら、後は君の出番だ」

「わかったー」

 

のほほんさんは更に一歩踏み出して簪の前に立つ。そして意を決して口を開いた。

 

「かんちゃん、私は今まで言えなかった事をいうよ」

 

のほほんさんは言った。今までちゃんと簪の事を理解してなかったと。ただ、言われた通りに従者として振舞おうとしてたと。

 

しかし、のほほんさんは離れた事で理解した。そう、只言われた通りにしようとしてのではなく、自分から簪の助けになりたいと、友達として助けになりたいと。

 

今までの事情は私が知る由もない。だが、言いたい事は解った。

 

「だから、だから、私と友達になって下さい。従者という関係ではなく、只の一人の人としてそして私にもかんちゃんのお手伝いさせて欲しいな」

 

のほほんさんは普段の雰囲気を引っ込め、真摯な態度で簪に言い切った。

 

簪はそれを聞いて、ゆっくりと口を開いた。

 

「……私も、本音と離れてから思った。寂しいって、思った。でも、私はその事をちゃんと伝える事ができなかった。勝手に周りに壁を作って、本当に理解している友人さえ拒絶してた。でも、その壁はもう要らない。私はもう、独りは嫌、だよ。だから私も今まで言えなかった事を言おうと思う」

 

そしてそこで一旦区切りを入れて宣言した。

 

「私と友達になって欲しい……弍式の事も、手伝って、欲しいな」

 

簪もまた、今まで心の奥底に押し止めていた気持ちを吐き出した様だ

 

「勿論だよかんちゃん!」

「私も、だよ本音」

 

お互いに自然と手を取り合い、笑みを交換していた。

 

「ふむ……コレで、解決と言ったところか?」

「うん!あまっちありがとー!」

「ありがとう」

 

二人は私に感謝の意を示してくれた。

 

「何、気にするな。折角ギクシャクしていた友人同士が再び良くなったのを見れたのだ。だからまぁ……何だ、これからも仲良くしろよ?」

 

月並みの言葉だが、今はそれが相応しいだろう。

 

「もちのろんだよ~」

「当然」

 

良い返事だな。

 

「ところで、のほほんさんに聞きたい事があるが」

「なになに~?」

「失礼を承知で言うが、その手の知識は大丈夫なのか?」

 

流石に無知な素人、と言う訳ではないだろうが。

 

「私は整備科志望だから~おべんきょーはしてるよ~?」

「む、そうか。なら問題はないか」

「そうそうもーまんたいだよー」

 

そのもーまんたい、と言うのは良く解らないが、取り敢えず彼女の言葉を信じようか。

 

「まぁ、それでももし何かあったら手を貸そう」

「ういうい~」

「えと……ちょっと、いい?」

 

簪が話しかけてきた。

 

「どうした?」

「良ければ……貴方にも手伝って欲しい」

 

あぁ、私は昨日彼女に言ったな。

 

『もし頼れる『誰』かが見つからなかったら俺を頼れ。無論、見つけたとしても頼っても構わないぞ』

 

今にして思い出せば何ともクサイ台詞だ。まぁ、それも偶には良いものか。

 

「だ、ダメ?……」

 

少し、間を空けてしまったのでもしかしたらダメと思ったのだろう。

その証拠に簪は表情を曇らせていた。

 

「ダメではないさ。その解答はYES.俺も手伝おう」

「ありがとう……」

 

簪は私の言葉に顔を明るくしていた。

 

「まぁ、そうは言っても来週には代表者決定戦と決闘が控えている。それが終わるまでは参加できないが、それでもいいか?」

「問題無い、よ」

「なら、終わったら整備室に向かおう」

「解った……待ってる」

「そうか……さて、俺はコレで教室に戻らせてもらう」

「あれ?もう、時間だっけ?」

 

簪は尋ねてくる。

 

「いや、時間はまだ充分ある」

「じゃぁ、どうして?」

「ここから先は親友同士水入らずに話すといい。積もる話もあるだろう?」

「……ありがとう」

「礼を言われる程でもない。ではまた後で」

「ばいば~い」

「……ばいばい」

 

私は彼女達に見送られながら屋上を後にする。

 

だってそう言うものだろう?

 

親友同士の心温まる会話に外野は必要ない。

 

 

 

 

尚、椿が去った後に屋上から仲良く教室に戻った簪と本音の姿を四組の生徒に見られ、簪が未だ誤解が解ききれていない者からは『簪さんに百合の花が咲いた』と変な勘違いをされていた。

 

だが、それを椿は知る由も無かった。

 

 

 

 

――放課後、第四アリーナ――

 

 

全ての授業を終えたあと、一夏を伴い打鉄を借りて訓練を開始することにした。

 

「さて、これからやるのは基本動作だ。先ずは普通に歩くぞ」

「おう。てか椿のISは何で全身装甲なんだ?絶対防御だっけ?それがあるのに装甲は無駄じゃないのか?」

 

全身装甲はカッコイイんだけどな、と付け足して疑問に思っているようである。

 

――私も同意します。やはり全身装甲で無骨な機体はいいものですよ。好みは別として、やはり男なら惹かれるものがあります。

 

(まぁ……否定はしないな)

 

あくまでも趣味と浪曼ですが、と古鷹は言っていたが、私もまた昔は空にそびえる黒鉄の城や連邦の白い悪魔に憧れたものだ。

 

「コレは有事の際の実戦仕様の試作機だ。実戦において、シールドエネルギーが切れて動けません、では話にならないかな。だから絶対防御がなくても弾丸を防ぐ必要がある。これはそのためのものだ。硬さは保証しよう」

「……そうなのか」

 

有事の際、という事に一夏は顔をしかめていた。

 

「あぁそうだ。だが別に今すぐ戦争が起きるのではないから気にするな。ほら、とっとと歩け。今のお前にはそっちの心配の方が重要だ」

 

私は発破をかけ、共に歩き始める。途中転ぶと思っていたがそれも杞憂に終わり、暫くすると一夏が走り始めたので後ろを付いていく事にした。

 

まぁ、元々鈍重な機体なので追いつくのが非常に億劫ではあったが。

 

――火力、装甲はあっても速さが足りない!

 

古鷹が何かを叫んでいた。気持ちはわからないでもないが、全部が全部求めれるわけではないだろうに。まぁ、それを成す為に現在絶賛設計中ではあるが。

 

そう、防御力も火力も機動力もある夢の様な機体を、な。

 

そして暫くすると一夏のどことなく違和感のある走り方が自然体となってきた。

 

「慣れたか?」

「あぁ、もう大丈夫だぜ」

「そうか。だがこれは準備運動代わりだから次回からもやるぞ。では次に飛行訓練に移る」

 

私は一夏に対して飛ぶよう指示をしたが、中々飛び出そうとしなかった。イメージができないのか、と問いただすと、一夏は素直に答えてきた。

 

「……おう。飛ぶ感覚がよくわからないんだ。ついでに言うと理論で語られても解らないぜ」

 

まぁ、確かに。正直に言えば説明するのも面倒だがな。

 

「正直な自己申告をどうもありがとう。後で解りやすく解釈してやるからそのつもりで。さて、先ずイメージに関してだがだが、お前は自分がスーパーマンかウルトラマンになったつもりで腕を伸ばして見ろ、そして彼らの様に飛ぶイメージをしろ」

 

男なら誰でも解りやすい例えであれば、恐くこれがベターだろう。

 

「えっと……こうか?」

 

疑問符を浮かべつつも両腕を伸ばしてイメージし始めたすると機体がゆっくりとではあるが、垂直に上昇し始めた。

 

「おぉ!飛べた!」

「一夏、イメージが掴めない時は身近な物に置き換えて想像しろ。そしてそこから自分に合うイメージを探すのを忘れるなよ?」

「分かったぜ。しかし結構癖になりそうだ…暫く自由に飛んでもいいか?」

「構わない。その後に指定したコースを飛んでもらう」

「了解ー」

 

その後アリーナの使用時間ギリギリまで訓練は続けられた。

 

そして訓練終了後、一夏に打鉄の返却を指示した後に私は部屋に戻り、一夏と篠ノ之にISの基礎知識を教える為の準備をする。

 

「ねぇねぇあまっちー」

 

偶々居たのほほんさんが話かけてきた。

 

どうやら簪は少しクラスの方で用事があるらしく、今日の作業は速い段階で終わりらしい。

 

「どうした?」

「私もね、あまっちに色々教えて欲しい事があるんだー」

「ほう、何についてだ?」

「お昼に私が整備科を希望してるって言っよねー?」

 

あぁ、成程。

 

「つまり、ある程度の知識はあるが、それでも現実として足りないので、俺が合流するまで一夏達に教える次いでに色々と教えて欲しい、という事だな?」

「おぉーあまっちすごいねーその通りだよ~」

 

まぁ、この程度であれば簡単に推理できる。

 

「まぁ問題無いさ。優先的に一夏の面倒を見ることになるが、それでも構わないな?」

「全然OKだよ~」

「そうか……あぁ、思い出した。確かアレを持ってきてたな。少し待つといい」

「アレ?」

 

私は自分の本棚からとある一冊を取り出し、のほほんさんの前に持ってくる。

 

「コレだ」

 

タイトルにはこう書かれている。

 

『私が思うISマニュアル録』

 

名前こそ変哲もない普通の本ではあるが、これは既に引退している有名な技師が書いた既に市場に出回ることのない本らしい。

 

高校生一年の時にコレをIS関連の懸賞で当てたので活用していたのだが、先輩技師から言わせればこの本は中々手に入る代物ではなく、また数年経った今でもこの本にある知識は現場で通用する、と言ってた。

 

ならば今知識を必要としている彼女に渡せばこの本を有効に使ってくれるだろう。そう思ってのほほんさんに手渡した。

 

「あまっち~これ何処で手に入れたのー?」

 

本のタイトルを見ながらのほほんさんは尋ねてきた。

 

「あぁ、以前懸賞で当ててな。一応持ってきたのだ。元々持ち物は少なったからかさ張る事もなかったからな」

「……ホントに読んでもいいの~?」

「あぁ良いぞ。それと作業する時にも持ち込んで構わない。ただし使い終わったら本棚に戻す様に。それが条件だ」

「わかった~。あまっち、ありがと~」

「さて、時間も時間だし一夏達が来る前に先に夕食を済ませよう」

「あいあい~」

 

私はのほほんさんを伴い、食堂で夕食を摂った。

そして部屋に戻り暫くすると扉が叩かれる音が鳴った。

 

『おーい椿ー、来たぜー』

 

ふむ、来たようだな。

 

私は扉を開けて、一夏達に対して一言告げる。

 

「ようこそ1045室へ。歓迎しよう……盛大にな」

「なんかスッゲェ含みがあるような歓迎の仕方だな」

「気にするな、何となく言ってみたかっただけだ……それと篠ノ之さんもいらっしゃい」

「あぁ、ではこれからよろしく頼む」

 

篠ノ之はそう言って頭を下げた。

 

「礼儀正しい事は結構だが、些か硬すぎないか?」

「……そう思うか?」

「あぁ、思うな。もう少し砕けても構わん」

「そうか……なら私の事は箒と呼んでも良い、そっちの方が気が楽だ」

 

篠ノ之束関係か。まぁそうなのだろうな。

 

「解った。では箒、これから宜く。俺のことも好きに呼んで構わ無い」

「あぁ宜しく、椿」

 

お互いに挨拶を済ませ、一夏と共に中に入れる。

 

「むー……」

 

何故かのほほんさんは先程貸した本を手にしながらジトーっと睨んできた。

 

「どうかしたか?」

「なんでもなーい」

 

本当に、どうしたのだろうか?気にしてもしょうがないので二人を並べておいた椅子に座らせ、私はその対面に立つ。まぁ、何故この配置か、と言うのはちょっとした配慮である。

 

「さて、一夏、箒……始めようか―――」

        

――勉強を、な。

 

「だからその間は何だよ!?」

「そんな事よりもさっさと今日の一時間目にやったページを開け、ノートは取ってるな?」

「そんな事って……あ、あぁ、勿論だぜ」

「宜しい、では早速だが、先ずこの部分は―――」

 

それから2時間程一夏や箒の勉強に付き合いながら、本音に整備や技師としての必要な知識を教えていった。

 

そしてそれらを見て解った事だが、一夏と箒は共に物分りは良い方らしい。解釈の仕方を教えると直ぐにコツを掴んで覚えていった。このペースなら残りの期間も苦労する事はないだろう。

 

次にのほほんさんの方だが、元々勉強している甲斐もあってか貸した本を読みながら、私の解釈を教えると、どんどん知識を吸収していった。

 

「そういえば俺と一夏、箒は例外とはいえ、IS学園は超難関高だったな」

 

ふと思ったのだが、IS学園は競争率が世界一と言っても過言ではない。故に才女ばかり集まるのだろう。そして何故か容姿も総じて良い。何か裏でもあるのだろうか?

 

「おういぇー私はゆーしゅーだよ~」

 

……何と気の抜けた自慢だろうか。

 

「左様ですか」

「む~、そこは流さないでよ~」

「悪いが世辞は余り好きではない。どちらかと言えば言いたい事ははっきりと言うな」

 

まぁそれが中々できないのが世の中ではあるが。

 

「そうなんだ~」

「まぁ気にすることのない話だ……さて、これで今日の勉強は終わりだな」

「おう!解りやすくて助かったぜ!」

「感謝する」

 

まぁ、私としては物覚えが良くて然程苦労はしなかったがな。

 

「そいつはどうも。ではゆっくり休めよ?お休み」

「お休みー」

「お休み」

 

そして二人は出て行った。

 

「さて、取り敢えず今日やるべき事は済んだな」

「そうだね~。あ、そういえば思い出したんだけどね~」

「ん?どうした」

「たかちーが言ってた――」

 

それから雑談に花が咲き、暫く話し込んだ後、私達は就寝した。

 




のほほんさんに貸した本はパワ●ロでいう野●超人伝です
きっと色々と特殊能がついたでしょう(笑)

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