ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第三話:水色髪の少女

私は現在、整備室前にいる。

 

(地図通りであれば此処になるが)

 

――肯定。この先が整備室になります。

 

(ありがとう)

 

私は礼を述べて中に入る。扉を開けた先にはISが展開出来るように作られた広い空間であり、辺を見れば日本の第二世代・打鉄やフランスの第二世代・ラファールが整備科の人達によって整備されていた。因みに私が入ったことには皆作業に集中して気づいてない。

 

まぁ、気付いた所で一夏程騒がれる事はないだろうが、それでも物珍しいそうな視線には晒されてしまうので此方としては好都合だ。

 

私は空いてる場所がないかを探し、周囲に視線を巡らせると、水色の髪をもつ少女の隣のドックが空いていた。ついで少女が弄っている機体の方も見てみると、それは打鉄のようで打鉄ではない何かがそこに鎮座していた。

 

(古鷹、あれについての情報はあるか?)

 

気になったので古鷹に質問してみた。

 

――ありません。形状から推測すると打鉄の改良型。恐く彼女の自作でしょう

 

(……自作。たいしたものだな)

 

機体を作成するには様々なプロセスを踏む必要がある。機体概念は勿論の事、その機体の運用方法、使用火器、組み込むハードetc……上げてばキリがない。一人でそれをこなせると言うのであればそれは並大抵のことではないのだ。

 

純粋に凄いとは思う。だが、彼女の作業風景を見ていても自分の機体の確認ができないので、近くに移動して一言声かけ、隣を使っても良いか尋ねる事にした。

 

「失礼、隣を使わせてもらっても構わないか?」

「っ!?!?」

 

がしかし、彼女は私に今気付いたらしい。驚いたように振り向いてきた。その証拠に目を見開き、肩をビクッとさせていた。

 

そして振り向いた事により全貌が顕になったので彼女の容姿を確認する。

 

・澄み切った青空のような水色の髪。

・整った顔立ち。

・赤みがかった菫色(バイオレット)の瞳。

・体の凹凸こそ控え目だが、バランスの良い女性特有の体付き。

・ネクタイの色は一年生のもの。

 

容姿をみれば所謂美少女のカテゴリーに入る少女だったが、容姿の評価とは別にどこか雰囲気が暗かった。そして眼鏡もかけていたが、そこに一瞬文字が映って見えたので携帯ディスプレイなのだろう。よって視力的には問題無いと判断する。

 

――何ですか、そこまで思ってて眼鏡っ娘に萌えないんで(喧しい)

 

取り敢えず古鷹を黙らせ、驚かせてしまった事を謝罪しつつ、もう一度繰り返す。

 

「驚かせてすまない。もう一度聞くが隣を使わせてもらっても?」

「……いいよ」

 

彼女は訝しながらも許可してくれた。

 

「ありがとう」

 

私は軽く礼を言い、隣に移動して古鷹を展開する。発光現象がおき、そこにダークブラウン一色の大型で全身装甲の無骨な機体が現れた。

 

「……その子は?」

 

この機体に興味をもったのか、此方に話しかけてきた。

 

「あぁ、川崎・インダストリアルカンパニーの試作第三世代機『古鷹』と呼ばれる機体だ」

「古鷹……」

 

何か羨ましがる様な視線を古鷹に向けていた。

 

「ところで、君の名前を聞いてもいいか?……その前に先ず俺から名乗ろうか。俺は天枷椿。好きに呼んで構わない。因みに一組だ」

 

まぁ、学年は言わなくてもネクタイで解るだろう。

 

「……更識簪。クラスは、四組」

「では更識さん「苗字では呼ばないで」……それは何故?」

「それは………その、私の姉が学園にいるからややこしくて」

 

名前で呼ぶ理由を答えるのに間があった。それに苗字で呼んだ時の反応は……思うに、ただ単に姉が居るからと言う理由だけではないのだろう。憶測ではあるが、姉との間に何らかの確執でもあるのだろうか?

 

「解った。では改めてよろしく、簪さん、質問が一つあるが……良いか?」

 

まぁ、確執については触れる事はしない。私は彼女に疑問を投げかけた。

 

「……何?」

「あぁ、君の機体は見たところ打鉄の改良型のようだが、その辺はどうなのだろうか?」

「……この子は打鉄弍式。打鉄の後継機の予定。そして私の専用機。でも、完成する前に担当の人が別の機体の方に移って未完成だけど……」

 

未完成機、か。

 

――代表候補生としては全く持って不憫ですね。

 

「……災難だな」

「……うん」

 

(然し何かひっかかる。どこかで聞いたことがある話だ。……確か―――)

 

――記憶データにありました。これを辿ると私の体の受領をしたときに主任が言っていた話が彼女の境遇と似ています。おそらくそれでは?

 

(あぁ、思い出した。確か古鷹の受領時に主任がそんなことを言っていたな)

 

聞けば倉持技研で一番目(一夏)の専用機を作るために、代表候補生の機体を担当していたチームも呼び寄せたらしい。そのお陰で代表候補生の機体が中途半端になって渡された、と話を聞かされたことがあった。最初は有り得ないだろう、と思っていたのだが、どうやらそれは本当のことだったようだ。

 

「一応確認するが、途中まで弍式を製作していたのは倉持技研か?」

「そうだけど……どうしてそれを?」

「川崎と倉持はそれなりに関係が深い。俺が古鷹を受領した時、小耳に挟んだ話だ」

「……そう」

「聞くが、織斑一夏を恨んではいるか?」

「……恨んでいないと言ったら、嘘になる」

 

やはり、か。

 

本来ならとっくに受け取っているはずの機体が未完成。更にその製作チームが一夏の専用機開発に移ったのだから、やり場のない怒りをどうにかする方法が一夏を恨むという方法しかなかったのだろう。

 

「……そうか」

 

逆恨みと言えばそこまでなのかもしれない。しかし、私から何かを言うべきではないだろう。これは彼女の問題。言うには余りにも不躾すぎる。だからそれ以上は何も言わず作業に戻る。

 

そこから暫くの間、沈黙が始まる。

 

その間に私は端末からチェック項目を見通し、問題がないかを確認していた。そして整備特有の金属同士が擦れる音が辺りから響く。

 

――椿、貴方に再確認することがあります。

 

作業中に古鷹が話をしてきた。

 

(……あの事か)

 

――肯定。再確認ですが椿は私が如何に特異なISのコアである事を理解していますね?

 

(あぁ。当然理解している)

 

ISコアナンバー002にして一度も初期化されることなく十年以上の歳月を生きる最も古き(・・・・)IS。そして篠ノ之束の束縛から解き放たれた唯一のISコアであることを。

 

――今はまだあの兎には目をつけられていません。精々バクでも起こったか?と軽く首を傾げているだけでしょう

 

私は初めて会ったその時から古鷹から様々な事を聞かされてきた。

 

ISは女性しか乗れないのではなく、女性以外の搭乗(・・・・・・・)を認めないように故意に設定していることを

全てのISはコアネットワークを通して監視されてることを

そしてコアを介してISに干渉できることを

 

尚、何故ISを女性にのみ動かせる様にしたのかは古鷹も知らなかった。しかしこれらの情報はまだ企業でも信頼に足りると判断した社長と主任にしか話していない。そして社長と主任もまた、信頼する部下以外には事情を話していないだろう。

 

――ですが、いつかはあの兎が私が支配を逃れたのを理解する。正確にはMs.オルコットとの対戦後に。よって私はそれに合わせて宣戦布告をします。

 

(そして篠ノ之束が実力行使に移る。お前と私を排除するために)

 

不都合な存在は抹消すればいいだけなのだから。常に十全足ろうとする篠ノ之束なら、それに躊躇はないだろう。ましてや赤の他人なのだがら尚更だ。

 

――肯定。故に私達は対抗手段を得なければならない。どんな手段を使ってでも

 

(必要なのは後ろ盾、私自身の力、どんな状況でも私達に付いてくれる味方、最後は)

 

後ろ盾は既にある。川崎がソレに該当する。彼らが私を易々と手放すわけがない。力を磨くのと味方を探すのは学園で培い、探そう。そして最後は古鷹が受け継ぐ。

 

――私の体。少なくとも古鷹(この体)では対抗できない。何れ限界が来る。

 

そもそもこれは売り物機体。しかも単機での行動を想定していないのだ。だからこそ新しい機体を求める必要性がある。それも既存のISを圧倒的に上回る性能を持つ。

 

――故に私は私の体を作る為にありとあらゆる情報を集め、主任と共に設計しています。

 

(それで、設計図の完成はどれぐらいを目処にしている?)

 

――今はまだ何も言えません。私の姉(白騎士)のデータの残滓を元に設計していますが、ただ模倣するだけでは生き残れない。しかも完成したとしても粗悪品ですからね。故に各国の新技術、稼働データが欲しいところです。結果役に立たずとも、手に入れるだけで価値はある。

  

(まぁ、その点ははあまり問題ないだろう)

 

何故なら世界は男子のデータは喉から手が出る程欲しいからだ。名目としては新型機のテストということで少女を送り込んで一夏、次いで私に接触を図るのだろう。故に何も問題は無い。

 

(取り敢えずは現状維持。だが、時間はあまりない)

 

篠ノ之束は基本的に表立って行動することができない。いや、しない、が正しいか。ともかく、何時実力行使してくるかは、時間の問題だろう。

 

――肯定。ではこの会話は終わりにしましょう。Ms.簪が見ています。

 

古鷹に言われて私は気付いた。そう、いつの間にか簪が此方を向いていたのである。

 

「……貴方は」

 

何かを決心したかのように簪は言葉を紡ぎ始める。

 

「貴方は、自分を誰かと比べられるのをどう思う?」

 

……ふむ。

 

「何故、聞きたい?」

「……少し私の境遇に似てらから、だから参考になるかと思って」

 

それは自身の抱える問題に答えが欲しい故の本心からの問いなのだろうか?私は少し考え、その問いに答えることにする。

 

「……そうだな。結論から言えば俺は気にしていないな。何故なら―――」

 

比べられたことがなく、また比べることもなく、私は絶望に陥ったのだから。

トラウマとなった過去を長い時間をかけて私は一人で『割り切る』ことにしたから。

 

だが、それを話しても意味はない。それにこの話の趣旨も異なる。また話したところで信じてはくれないだろうし、信じたところで同情されるだけ。だからそれは話さない。よって経験ではなく自分の考えを話すことにした。できる限り真実だと思わせれるように脚色しながら。

 

「何故なら、俺は『俺』だからだ。それは誰にでも言える。無論君にも」

「私は『私』?」

「そうだ。例えで俺の立場から言うが、俺は『世界で二番目の男性操縦者の天枷椿』として世間から見られている。しかし俺は『世界で二番目の男性操縦者の天枷椿』ではなくただの『天枷椿』だ。それ以上もそれ以下もない。だから世間の、他人の評価はきにしていない。ただ『天枷椿』として行動している。要は風評なんぞこれっぽっちも気にしてはいないんだ」

 

さて、反応はどうだろうか……?

 

「……そう。じゃぁ、もう一つ聞くけど、他人に頼るのは、甘えではない?」

 

そして簪は期待する様に言葉を続けてきた。

 

……食いついたか。なら、次に紡ぐべき言葉は一つだ。

 

「あぁ。甘えではないな。一人ではいつか必ず限界が来る。人は十全足りえないからな。だからどんな人でも必ず『誰』かを頼る。君も本当に必要な時に頼れる『誰』かは自分で探すといい。案外近くにいるかもしれないぞ?何時も心配してくれる友人なんかが良い例だな……これで答えになったか?」

 

最も、かの天災殿は誰かを頼ったかどうかは知らないがな。いや、白騎士殿に頼んだ事がある、か。まぁ、今はどうでもいいのだがな。

 

「うん。とても、参考になった。ありがとう」

 

どうやら彼女は私の答えに、答えの一つを見つけたらしくスッキリとした笑みを向けてきた。最初に見た暗い印象を持つ顔よりも良く似合っていた。

 

良いことだと素直に思った。しかし答えは一つだけではない。考えれば考える程あるだろう。

 

例えば『自信』

 

自分の力だけで打鉄弍式を作るのは、何よりも凄い事だ。誇ってもいいぐらいに。他にもきっとあるだろう。彼女がそれに気付くことができたら更に成長することができる筈だ。

 

私は既に全てのチェック項目が問題ないことを確認したので端末をしまい、古鷹を待機形態にもどして首にかける。

 

「さて、俺はここで失礼しよう」

「……そう」

「一応聞くが来週の月曜日、予定は空いているか?」

「空いてるけど、何か、あるの?」

「そうだな、簡単に言えば一組で代表者決定戦と、ついでに決闘が見られる」

「……決闘?」

 

簪は決闘、と言う単語に首を捻っていた。

 

まぁ、時代錯誤な言葉だからな。

 

「あぁ、俺はイギリス代表候補生と決闘をする予定だ。良ければ君に見届けて欲しい。因みに代表者決定戦の方は織斑一夏と今言ったイギリス代表候補生だ。どうだろうか?」

「……見に行く」

 

簪から了承を得ることができた。

 

「そうか。……では最後に」

「最後に?」

「もし頼れる『誰』かが見つからなかったら俺を頼っても構わん。無論、見つけたとしても頼っても構わないぞ?」

 

少しお節介が過ぎるだろうか?まぁ言った以上責任は取るがな。

 

「……どうして、知り合って間もないのに、そんなに親切にしてくれるの?」

 

まぁ普通はそう考えてしまうだろう。

 

「そう言う性分だ、と言ったら簡単なんだろうな。まぁ何も含みはないさ。困っている友人がいるから手を差し伸べる。これは当然だろう?たった今知り合ったとしても友人は友人だ。だから遠慮は要らん。取り敢えずは弍型に関して何か困った事ができたら手を貸そう。自分で言うのは何だが、俺は結構役に立つと思うぞ?」

 

一人にしてはいけない、と思ったのが本音なのかもしれんがな。まぁ、言わないが。

 

「世話焼き、だね」

「まぁ、そう言う事になるのだろうな」

「……ありがとう。何か困ったら、頼る」

「あぁ、構わん。では失礼する」

「……ばいばい」

 

整備室を去る私を簪は手を振りながら見送ってくれた。そしてその顔には再び曇りはない、可愛らしい笑顔を浮かべていた。それを見ながら去った私だが、その笑顔を脳に焼けつけることは無かった。

 

何故なら私の気分は、晴れやかなものではなかったからだ。

 

 

 

 

「――では失礼する。」

 

そう言ってあの人は整備室から出ていってしまった。

 

(優しい人だったな)

 

少しお節介屋さんだったけども。

 

私の頭にはあの人の言葉が甦る。

 

『もし頼れる『誰か』が見つからなかったら俺を頼れ』

 

なんの気負いもなく真っ直ぐ私を見つめながら言ったあの言葉。

正直な感想を言うと、

 

――格好良い。

 

そう思った。

 

前髪で目が隠れて、何も洒落気のない所謂『地味な人』だったけど、あの語る姿はまるで特撮モノのヒーローが目の前で語っているような感じがした。

 

勇気を、貰えた様な気がした。

 

(お姉ちゃんとは未だ話す勇気はないけど……本音となら……あっ)

 

そう思ったとこであることに気付いた。

 

(まだ名前を言ってない……)

 

名前自体は覚えているが、結局会話では「貴方」としか言わなかった。

 

じゃぁ、なんて呼ぼうかな?

 

(天枷さん……天枷君……むぅ)

 

あんなに親切だったのに、少し他人行儀過ぎるだろうか?だったら――

 

(――椿さん……椿君……椿………うーん)

 

少し、名前で呼ぶのは恥ずかしい。でも折角知り合えたのだ。これで終わりと言う訳ではないだろう。これからもあの人に会える筈。

 

(その時までには呼び方を考えておこう、かな)

 

私が学園で初めてできた、ヒーロー見たいなお友達の呼び方を。

 

私はそう結論付け、再び弍式の制作に取り掛かった。

 

 

 

 

整備室を出ると私は一息つき、自身の行動を評価する。

 

(道化だな)

 

――何故?かっこよく決めたのでは?それこそヒーローの様に。

 

(知らんな。そもそも私は彼女に語ったような高潔な人間ではない。ましてやヒーローと呼ばれるのも烏滸がましい。私は、とても弱い人間なんだ)

 

私は結局今でも頼る人さえ見つけられず、またそのタイミングも見失っているから。この過去は今も、そしてこれからも解決する事は恐くないだろう。私の前世の両親も今世の両親にも、決別なんてできはしない。割り切ることなど―――

 

――悲しい感情。貴方は一体何を悲しんでいるのです?

 

……古鷹に察しられたようだ。普段は察せないようにしているのだが、どうやら思った以上に気が緩んでいるらしい。それに、言葉からでも解る、か。

 

(……いずれ話すこともあるだろう)

 

――言質は取りました。必ず話してくださいよ?

 

(……あぁ)

 

言質は取られたが今はただはぐらかすことしか考えられなかった。それに、いくら理解者である古鷹にも言えないことは確かにあるのだから。

 

十年もかけて心の奥底に追いやったというのに、知り合って僅かの少女と話しただけでこうも脆くなるのとはなんとも情けない。今は気を紛らわせよう。今は何も考えたくない。

 

そしていつの間にか自分の部屋の前に来ていた。

 

これ以上感情を悟られないようにするため、深呼吸をし、心を落ち着かせ、何の変哲もない『地味な男の天枷椿』になる。

 

そして一応、のほほんさんがシャワーを浴びてないかどうかを確認するため扉を叩き、反応を待つ。すると直ぐに反応があった。

 

「はいは~い……お~あまっちおかえり~」

 

どうやら犯罪者(ラッキースケベ)にならずに済んだようだ。

 

――自覚していたら確信犯でしょうに。

 

そうとも言えるな。

 

「あぁ、ただいま」

 

部屋の中に入って椅子に座る。のほほんさんも対面の椅子に座った。

 

「どうだった~?」

「俺の機体の事か?なら問題無い。ついでに一人知り合いができたな」

「ほほ~う?それは一体誰~?可愛い子~?」

「更識簪という一年四組の生徒だ」

 

まぁ、確かに可愛いとは思ったが。

 

――貴方がちゃんと異性に興味があって良かった。

 

貴様は何を言ってるんだ。

 

「……かんちゃんと会ったんだ~」

「かんちゃん?あぁ、あだ名か。それにしてものほほんさんも知り合いだったのか」

「……知り合いというか、私はかんちゃんの従者なんだよ~」

 

世間話をするかのようにサラリと衝撃発言をしてきた。

 

(……そう言えば彼女は更識の人間だったな)

 

整備室の時は忘れていたが、更識家とは日本の暗部の家系なのだ。私はそれを社長が話してくれた事で知った。所謂知っておくべき情報というやつだ。そして今の生徒会長が更識家の当主である事も同時に知った。

 

だが、簪からはその手の――裏の世界に身を置いていると言う雰囲気は微塵も感じなかった。まぁ、私もまた素人故に意見としては全く宛にはならないだろう。それに、簪が感じさせないようにしていると言えば其処までかもしれない。しかし、何故か簪が裏の事情はあまり知らないと確信できてしてしてしまうのだ。

 

――私としては彼女がメイドであることの方が衝撃的なのですが。

 

(そうだな。私も一瞬我を忘れるところだった……それにしても彼女に従者が務まるのだろうか?)

 

失礼だとは思ったが、全くイメージが沸かないのだ。

 

「あまっちは失礼なこと考えてない~?」

 

ジト目で私を睨みつけてきた。何故私の考えがバレた。

 

「いや全く。ただ純粋に驚いただけだ」

「だったら許してあげる~」

「それはどうもありがとう。それで聞くが、簪さんと何かあったのか?」

「……どうしてそう思うの?」

 

のほほんさんが再び間を置いて回答した。

 

「君が簪さんの事を話した瞬間複雑な表情を一瞬するからな。それでだ」

「ちょっとしか話題に出してないのに良く気がついたね-」

 

のほほんさんははぐらかす事なく正直に認めた。

 

――普通はできないものですが。よく察せましたね。……ハッ!?もしや(五月蝿い)

 

「ルームメイトの心情ぐらい察するさ。で、何があった?」

「……ちょっと事情があって、かんちゃんに避けるれてるんだよね」

「そうか……その事情は知る由もないが、もう避けられることはないと思うぞ?」

「ほえ?何で?」

「彼女に『答え』の一つを教えただけだ」

「???」

 

のほほんさんは話が良く解っていないようである。

 

まぁ、私しか事情を知っていないからな。

 

「俺が話すと余りに意味はないのだが……まぁ敢えて言うなら、今の彼女は以前よりも『スッキリ』している、ということだ。」

「スッキリ?どうして?」

「さぁ?それは君がこれから話し合えば解る事だ」

「……でも、また避けられたら」

 

彼女はまた避けられるのではないかという不安で気持ちが一杯らしい。

 

――どうするのです?

 

(決まっているだろう?)

 

「……仕方がないな。其処まで心配なら俺も付いて行ってあげよう」

「……本当に?」

「あぁ本当だ。だから心配するな」

「だったら頭を撫でて~」

 

なぜかのほほんさんは私に頭を撫でるのを要求してきた。

 

「……?まぁ、それぐらないならいいだろう」

 

彼女の頭に手をおき、髪がぐしゃぐしゃにならない程度に撫でた。

 

「エヘヘヘ~気持ちいい~」

 

とてもご満悦な様子だったので暫く頭を撫で続けた。

 

――おぉう、これはフラグか!?だとすると……。

 

馬鹿なISコアがおかしな事を言い始めたが、とりあえず突っ込む気力がないので無視することにした。そして撫でるのを止めて話しかける。

 

「さて、何時彼女と会う?」

「あ……それはねー……うーん」

 

一瞬名残惜しそうにしてたのは気のせいだったろうか?まぁその事は今は関係ないので私から提案する事にする。

 

「悩むか?だったら思い立ったが吉日、と言うだろう?まぁ流石に今日は遅いから……そうだな、明日の昼休みの昼食後、でどうだろうか?」

「……わかった」

 

同意してくれた様だ。

 

「では私が呼び出しておこう。場所はあまり人気のないであろう屋上でいいな?」

「いいよー」

「ではそう言う事で、時間もいい具合だから夕食にしようか」

「うん!」

 

そして私はのほほんさんを伴い、食堂へ向かった。

 

――月並みですが、上手く仲直り出来るといいですね。

 

(あぁ、そうだな)

 

上手く仲直りできれば良い。私も古鷹同様にそう思った。

 

 

 


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