ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第二話:同居人と約束と

昼休み等々の好奇心の視線を耐え抜いた放課後。

 

「うぅ……い、意味が分からん。なんでこんなにややこしいんだ……?」

 

私の視線の先には机に張り付きながらボヤく一夏がいた。そしてそのベッタリと張り付く姿は海辺にあるアレを想像させられる。

 

(……ヒトデだな。岩にはりついてたりたまに浜辺に打ち上げられたりしてるアレだ)

 

――ヒトデ。それは棘皮動物門のいくつかの綱の総称。ヒトデ綱、クモヒトデ綱と、いくつかの絶滅綱からなる。これらは(そんなことは聞いていない)

 

私はどうでもいい豆知識を披露し始めた古鷹を止めた。

 

――……最近私の扱いが酷い気がしますねぇ。改善を要求する!

 

(気がするだけなら問題無い。現状維持だ)

 

私は古鷹と下らないやり取りを終え、一夏に話しかけた。

 

「一応参考書は貸してやったが、参考書を捨てたのがそもそもの間違いだぞ、一夏ヒトデ」

「ヒトデ言うな!そしてなぜヒトデ……。けどやっぱりキツイ。なんで椿は解るんだ?」

 

何故、と言われてもな。

 

「朝にも言ったが、俺は元々IS技師の育成枠で就職してたので知識はある。最も、整備や開発の方が専門だが……まぁ、基本も問題ないな」

「あぁマジか~…なら今度教えてくれないか?千冬姉に叩かれるのはもうゴメンだ」

「本来それは教師に頼んで補講してもらうのが筋だろう?山田先生が適任だと思うが」

 

まぁ、教えられないことはないがな。

 

「う~~やっぱそうだよなぁ……はぁ」

 

ふむ、色々とお悩みか。

 

――青春ですねぇ。

 

少し違う気がする。

 

「あぁ、お二人はまだ教室にいたんですね。よかった」

「はい?」

 

聞き覚えがある声の方向に振り返ると、予想できる通り山田先生だった。そしてその後ろには織斑先生が居た。

 

「何かご用で?」

「はい。寮の部屋が決まりました」

「あぁ、そう言えば部屋の場所はまだ訊いてませんしたね」

「あれ? 一週間は自宅から通学してもらうって話だったけど」

 

ほう、一夏は自宅通勤なのか。

 

「そうなんですけど、事情が事情なので一時的な措置として、無理やり部屋割りを変更したらしいです。……その辺り政府から何か訊いてますか?」

 

一夏は知らないと首を振る。

 

聞けば色々と協議した結果、政府の命令で寮に入ることを最優先にしたらしい。これは男性操縦者を保護、監視下に置く為だと推測できるが……通達が遅いな。

 

「はぁ、まぁ事情は取り敢えずわかりましたけど、荷物は一回持ち帰らないと準備できないですから、今日はもう帰っていいですか?」

「あ、いえ、荷物なら――」

「私が手配しておいてやった。ありがたく思え。後、天枷の荷物は既に部屋に運んである」

 

どうやら斑先生が一夏の分を用意したようだ。

 

「解りました」

「ど、どうもありがとうございます……」

「まぁ、生活必需品だけだがな。着替えと、携帯電話の充電器があればいいだろう」

 

(本当に生活必需品のみか)

 

――欲求不満になっても知りませんね

 

日々の潤いがなければ腐ってしまう、とでも言いそうな表情を一夏はしていた。

 

「それでは時間を見て部屋の場所を確認してくださいね。あ、それと各部屋にはシャワーがありますけど、大浴場もあります。学年ごとに使える時間が違いますが……実はこの大浴場、織斑君と天枷さんは今のところ使えません」

「え、なんでですか?」

「織斑、お前はアホか?」

「欲求不満もここに至れり、か?」

「……あー」

 

今更に思い出したような表情を出す一夏。そして山田先生はあわてふためきはじめる。

 

「おっ、織斑くんっ、女子とお風呂に入りたいんですか!? だっ、ダメですよ!?」

「い、いや。入りたくないです。入りませんって」

 

そこまで過剰反応すると女性に興味をもってないと取られるだろうに。

 

「ええっ!?女の子に興味が無いんですかっ!? そ、それはそれで問題のような……」

「……一夏、君とは短い仲だったが、良い友人関係だったと思うぞ。俺は君の趣味は否定するつもりはない。だからこれ以上近づかないでくれ」

 

私は掘られるつもりはないんだ。

 

「山田先生は変な勘違いをしないでくさだい!?後椿!俺は至ってノーマルだ!」

 

露骨に距離をとってみせると一夏は涙目になっていた。

 

(弄り甲斐があって非常によろしい)

 

――いつからサディストになったんですか

 

気にするな、この場合は面白いほどいい。

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで失礼しますね。後、はい、これが部屋の鍵です。短い間ですが、ルームメイトとは仲良くしてくださいね」

 

そう言って鍵をそれぞれに渡して山田先生と織斑先生は立ち去った。

 

「え~と1025室か。じゃぁ行こうぜ椿」

 

私と一緒の部屋だろうと思っているようである。勿論私も同じ部屋だと思っているが、一応渡された鍵を確認する。

 

……ふむ。

 

「待て、俺は1045室だ。……どうやらルームメイトはお互いに女子らしいな」

 

実に困った話だ。孤児院で過ごしたからこそ解るのだが、なかなかどうして、年頃の娘と言うのはどうにも接しにくいのだ。無論、男女同室というのも大概ではあるがな。

 

「えぇっ!?普通は同じ部屋だろうに……マジかよ」

「あぁ、大マジだ。間違っても若気の至りでナニやらかすなよ?」

 

(私にも変なとばっちりが来るかもしれん)

 

――もしかしたら彼の場合それさえ受け入れられるのでは?

 

……。

 

否定できなかった自分がここにいた。流石に今のは冗談で言った事だとはいえ、もし相手側がそれを目的としていたら(・・・・・・・・)どうだろうか?俗にいうハニートラップなのだが……どちらにせよ、学園側がハニートラップを仕掛けて来る様な者を同室にする訳が無いだろうがな。あくあでも学園は中立の立場なのだがら。

 

「何がナニやらかすなよ?だ!そっくりそのまま返してやる!」

「それは無いな」

 

私は企業の看板も背負っているんでな。

 

(しかし、幾ら急でも男同士が筋だろうに……リスクの分散か?だとしても教育上宜しくない筈。個室を用意する筈だが……一体何を考えているのか解らんな)

 

――そりゃ何を考えているってナニで(五月蝿い)……オォウ。

 

もし遺伝するのであれば、と言う考えでこうなったのであればすんなりと当て嵌る話だ。最も、それは先程も言った通り有り得ない話なのだがな。

 

私は馬鹿を沈黙させ、一夏と共に宛がわれた部屋に向かい、1025室にたどり着いた。

 

「さて、俺の部屋は更にその先だ。とっと行って荷を解いている」

「あぁ解った。じゃぁ椿、また後でな」

「あぁ」

 

その後、私に宛てがわれた部屋へ入った。

 

暗い部屋。

 

どうやら同居人は未だ来てないらしい。まぁそれはいいとして、送り届けられた元々多くもない荷を解きつつ2時間目の出来事を思い出して古鷹に話しかける事にした。

 

(これでテスト項目を消化するいい相手を見つけられたわけだが)

 

――同意。流石にシミュレーターと実機では訳が違いますので

 

(そうだ。で、聞くがイギリスの第三世代はどうなっている?情報を提示してくれ)

 

――端末に転送開始……転送完了。どうぞ

 

荷物の中に入っていたタブレット端末を取り出し閲覧する。

 

機体名:蒼雫(ブルー・ティアーズ)

 

世代:第三世代

 

分類:遠距離射撃型

 

武装:BTエネルギーライフル『スターライトmk-Ⅲ』

   近接ショートブレード『インターセプター』

   BT兵器『ブルー・ティアーズ』(レーザービット×4/ミサイルビット×2)

 

特殊:BT偏光制御射撃(フレキシブル)

詳細:操縦者の適正がA以上で、BT兵器稼働率が最高状態時に使用可能な能力。これにより射出されるビーム自体を精神感応制御によって自在に操ることができる。

 

というものだった。

 

(本来注意するべきはBT偏光制御射撃。しかしそれはあくまでも最高状態……察するにオルコットはまだ使いこなせていないだろう?)

 

――肯定。偏光制御射撃は未だ成功していないということになっています。無論、Ms.セシリアにもそれが当て嵌るでしょう。よって驚異度は低いかと

 

(では、それを踏まえて聞くが『アイアスの盾』でどれだけ防げる?勝率は?)

 

――盾は本来対実弾向けですが、レーザに対してもある程度問題ありません。また、マインド・インターフェースの扱いにも貴方に分があります。ですが、勝率は高くありません。理由は射撃経験の不そ(お前が弾道予測と射撃補正をしてくれるのだろう?なら今はまだ問題ない)台詞を途中で遮らないでください。

 

(いつも喧しくしているからだ。さて、取り敢えず―――)

 

コンコン、と扉をたたく音がした。

 

私は端末をしまい、これから共に過ごす者に挨拶をする為に扉を開いた。

 

「おぉ~あまっちがルームメイトなんだねぇ」

「ふむ。のほほんさんがルームメイトか。これからよろしく頼む」

 

彼女は……何と言うべきか、まぁ別にいいか。初対面の女子と同室になるよりかは遥かにマシだ。これ以上の贅沢はいうまいて。

 

――全国の男子にあや(煩い)

 

「俺の荷はもう解いてあるから、今から君の分を解くといい」

「はいはい~」

「では少し外に出ている」

 

私はのほほんさんと入れ替わりで廊下に出た。

 

……どうしようか。

 

いざ出たのはいいが、何もする事がなかったので一夏の様子でも見ようかと思い、1025室がある方向へ振り向くと視線の先には尻餅を着く一夏が居た。

 

早速トラブルが発生したらしい。

 

「なんだ一夏、早速手をだしたのか?あまりの仕事の早さに思わず110番を押しそうなのだが」

 

私は歩きながら携帯を見せびらかし、話しかける。

 

「違うって!?しかも警察呼ぼうとするな!」

 

一夏が携帯を取ろうとしてきたので仕方なく携帯をしまい、会話を続ける。

 

「では何をしている?」

「……取り敢えず付いてきてくれか?」

 

了承すると一夏が扉に向かい何言か語りかけ――直ぐに扉が開いた。今更気付いたのだが扉に視線を向けるとそこに穴が空いていた。何故?

 

疑問に思いながら一夏と共に部屋に入ると、中には道着を来た篠ノ之が居た。

 

――ふむ。ここが彼の房室で(それ以上言ったら回線を切る)……sorry

 

その後状況を確認する為に二人から順々に事情を聞いた。

 

(成程、理解した)

 

――私も理解しました

 

「つまり、夫婦の痴話喧嘩か。お熱い事だな」

 

――つまり、夫婦の痴話喧嘩ですか。……爆ぜろ

 

私と古鷹の解釈が一致した。

 

「なんでそうなる!?」

「ふ、夫婦っ!?」

 

篠ノ之は赤面していたが、一夏は――無自覚。

 

その反応は一途な女子にとって酷だろうに。

 

「一夏よ、俺は面倒が嫌いなんだ。痴話喧嘩に俺を巻き込んでくれるなよ?それと篠ノ之さん、こいつはアレだから分かっていると思うが、今一度察してやってくれ」

「むぅ……解った」

 

篠ノ之も納得してくれたようだ。

 

「アレってなんだよアレって―――」

「皆まで言うつもりはない。では夫婦よろしく仲良く話せよ?俺は部屋に戻る」

 

一夏がまだ何か言っていたがそれを無視して部屋を出る。そしてノックをしてから部屋に戻ると、のほほんさんの荷解きが終わったのか、手持ち無沙汰にしていた。

 

「あ、おかえり~これからどうするの~?」

 

時間を確認するとただいま6時。夕食には丁度いい。

 

「あぁ、取り敢えず夕食にしようと思う。食堂は何処だったかな?」

「じゃぁあまっち、私が案内してあげる~次いでに一緒に食べよ~」

 

そう言いながらのほほんさんが私の袖を引っ張りながら廊下に出る。

 

――おや、積極的ですね

 

(何がだ)

 

――いえこっちの話です

 

古鷹が良く解らない事を口走っていたが、取り敢えず流してのほほんさんに語りかける。

 

「一緒に食べるのはいいとして、別に引っ張らなくても付いていくのだが?」

「まぁまぁ気にしな~い」

 

それは無理な相談だ。見てみるといい、周りからの視線を。私は動物園のパンダの様になるつもりはないんだが。

 

――良いザマで(黙れ)

 

結局、のほほんさんには私の切実な願いは通じず、最後まで引っ張られてしまった。途中例の部屋から夫婦の痴話喧嘩が聞こえた気がするが、取り敢えずスルーする。

 

 

 

 

――翌日――

 

私はきっかり6時に起床していた。

 

「う~ん…むにゃむにゃ」

 

横を見るとルームメイトは未だ着ぐるみの寝間着で就寝中である。何故着ぐるみなのか、とツッコミたいが、それは昨日の時点で我慢した。まぁ、私としては彼女が寝ているのは都合が良いの起きるまでに身支度を済まそう。

 

シャワーを浴びた後、手早く着替えて古鷹を首にかけた。

 

――おはようございます。

 

(あぁ、おはよう)

 

――昨日はおたのしみでし(朝からとはいい度胸だな)失礼、これからの予定は如何しますか。

 

(アリーナと一夏用に訓練機の使用許可を取ろうと思う。そして申請後、機体のチェックをする。整備室のルートをいつでも呼び出せるようにしておけ)

 

――了解しました。ではそろそろ彼女を起こして朝食を摂ることを推奨します。

 

(言われるまでもない)

 

会話を打ち切り、のほほんさんを起こしにかかる。

 

「のほほんさん、そろそろ起きたほうがいい」

「あと5分~」

「あぁ解った……とでも言うと思っていたか?――フン!」

 

私はのほほんさんから布団を奪い、朝の空気を吸わせる。

 

「ひゃぁっ!?」

「目覚めのいい朝だな。のほほんさん」

 

――いたいけな少女になんという仕打ち。そこに痺れないし憧れない。

 

言ってろ。

 

「むぅ~~あまっちの意地悪~……おはよ~」

 

若干ジト目で睨んできたが挨拶をしてくれた。

 

――彼女をいじ(Shut up(黙れ))……Yes,sir.

 

「あぁおはよう」

 

布団を返してのほほんさんに尋ねる。

 

「俺はこれから食堂にいこうと思う。君は?」

「私も付いてく~」

「なら着替え「このままで行く~」……そうか」

 

――意外と有無を言わせない雰囲気を出しますねぇ。もしかして、着ぐるみがアイデンティティだったりするんですかね?

 

(そこまでは知らん)

 

孤児院で培ったノリでうまく行けるかと思っていたんだがな。

 

「では行くか」

「はいは~い」

 

二人で部屋をでて食堂を目指す。そして歩いている途中、1025号室からも一夏達が出てきた。

 

「おっ、椿とそれから……のほほんさん?おはよう」

「あぁおはよう一夏、篠ノ之さん」

「おりむーとしののんおはよ~」

「……おはよう」

 

何故か篠ノ之が不機嫌そうにしていた。何故だろうと思いつつ一夏達と食堂に向かうと、途中で相川と鷹月にも出会ったので最終的に6人で食堂に向かうことになった。そして食堂に着いた後、メニューを選んだあとに何故不機嫌なのかと篠ノ之に問いただした。

 

「椿の言うとおりだぞ箒。朝っぱらからそんなに怒ってると」

「……別に怒ってなどいない」

「いや、顔が物凄く不機嫌そうじゃん」

「生まれつきだ」

 

この唐変木めが。いい加減察しろ

 

――彼にとってはど真ん中の直球以外全部ボール判定なんでしょうね

 

「おいおい夫婦で熱くなるなよ?こっちの朝食まで熱くなる」

「わ、私と一夏はそ、そんな不埒な関係じゃない!」

「そうだぞ椿。箒とはただの幼馴染なんだから」

 

その言葉にキッと篠ノ之は一夏を睨みつけていた。

 

「なんでいきなり睨むんだよ箒…」

 

「「あははは……」」

 

相川や鷹月も苦笑いを浮かべていた。

 

今思い出したが男性操縦者が来て『二日目』である。当然注目される訳で――

 

『織斑くんってフリーなんだ』『いい情報ゲットー』

『まだ大丈夫。焦る段階じゃない』『私も話しかければよかったー』

 

――などという声も聞こえてきたが、無視する事にした。

 

そうこうしている内に一夏が状況を不利と判断したのか話題を変えてきた。

 

「そ、そう言えばのほほんさん達はあまり食べてないけど、昼までもつの?」

 

篠ノ之以外の朝食はそれぞれで多少は違うが、飲み物一杯にパン一枚、そして少なめのおかず一皿といったものである。本当に足りるのだろうか?

 

「わ、私達は、ねぇ?」

「う、うん。平気かなっ?」

 

(疑問形になっているぞ)

 

――体重とは女性にとって永遠の敵。栄養学的にはよろしくないですがね

 

「それに、お菓子よく食べるしー」

「間食は……まぁ程々にしておくように」

 

嗜好品が無ければ味気ないだろうからな。

 

「わかった~」

 

本当に分かっているのだろうか?

 

その後時間が経ち、織斑先生が現れ、急ぐように発破をかけられ、各々慌ただしく食事を片付け、食堂を後にした。

 

 

 

 

――教室――

 

 

相変わらず一夏と私は注目の的だった。

 

だが、私は見た目地味なので注目されない。実に助かる。

 

私はそんな事を思いながら視線の先にある人だかり――質問攻めの刑に処されている一夏とその周りの様子を眺めていた。

 

「普段何してるの?」「今日のお昼?放課後暇?夜暇?」

「好みのタイプはズバリ?」「攻めと受け、どっち派?」

 

「いや一度に訊かれても……って何か最後の質問がおかしいんだが!?」

「そう言えば天枷さんは――」

「ん?あぁ、それは――」

 

私にも何言か質問しに来る女子がいたので当たり障りのないように受け答えした。

 

「織斑君、千冬姉様って普段家ではどんな感じなの!?」

「え、案外だらしな――」

 

パン!パン!

 

「休み時間は終わりだ。散れ」

 

出席簿を叩きながら現れた織斑先生。そしてソレを見た女子達は蜘蛛の子を散らす様に慌てて席に戻っていった。

 

「ところで織斑、お前のISだが、準備まで時間がかかる」

「へ?」

「予備機が無い。だから少し待て。学園が専用機を用意する」

 

状況を飲み込めていない一夏に織斑先生が説明する。

 

要約すると、本来なら国家や企業に属する人間にしか与えられないが、事情が特殊なのでデータ収集の為にも専用機が用意されるとの事だ。

 

「じゃぁ椿のは?」

 

疑問に思ったのか私を話題に上げる。

 

「教科書を読め。専用機は個別で様々な待機形態に変わると書いてるだろう?俺の場合はヘッドフォンだ。そもそも、ヘッドフォンをかけていて注意されない時点で気づいて欲しかったものだがな」

「う、そうだったのか……」

「さて、授業を始めるぞ。山田先生、号令を」

「は、はい!」

 

織斑先生の合図で授業が始まる。

 

元々山田先生は教えるのが上手かったが、予習しなければそれも意味をなさない。今回は一夏も貸した参考書をしっかり読んでいたらしく授業についていけた。

 

そして授業が終わると、再びオルコットが現れた。

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

(来たか)

 

――来ましたねぇ

 

「まぁ?それでも勝負は見えていますけど」

「やってみなきゃわかんないだろ」

 

(まぁ、普通に考えれば素人VS経験者では勝敗が丸見えなのだが)

 

――余程高スペックで更に相手が慢心してミスを多発させるでもしなければ無理ですね

 

「無理ですわよ。なぜなら私はエリートなのですから」

「へー……」

 

(……半眼になっているな)

 

「貴方、馬鹿にしてますの?」

 

――清々しい程にあてつけですね

 

「そんなことはない」

 

嘘を付け、棒読みだったろうに。だが、私も同じ立場なら棒読みになるがな。

 

「……まぁ、どちらにしてもクラス代表にふさわしいのはこの私、セシリア・オルコットであることをお忘れでなく」

 

ついで私を睨みつけて一言。

 

「貴方は泣きながら這い蹲って許しを請うても決して許しませんわ。覚悟しなさい」

 

(敵意を剥き出しだな。その分動きが雑になってくれれば楽なのだが)

 

――流石にそれはないでしょう。仮にも代表候補生ですし

 

確かに。

 

「そうか。それよりもだ、一夏。お前にこの訓練機の使用申請の書類を渡しておく。後で目を通して記入しておけ、訓練しながら色々教える」

「ん?あぁ解った。って多いなこれ……」

「ちょっと貴方!私の話を『キーンコーンカーンコーン』」

 

チャイムが鳴った。

 

どうやらタイミングには恵まれない体質らしい。

 

「~~~っ!覚えてらっしゃい」

 

その後の昼休み(私が職員室に行っている間に何かあったらしい)等々を一夏や篠ノ之、のほほんさん達と共に過ごした。

 

 

 

 

放課後。

 

アリーナの使用申請を出し、明日から使えるという報告を受けて職員室を後にした。

 

私は一夏に訓練は明日からだ、という旨を伝える為に教室に戻ってみると、一夏が居なかったので近くにいた女子に話しかけみた。

 

「篠ノ之さんと織斑君は剣道場に行ったよ?」

 

とのことだったのでそちらに向かうことにした。

 

 

 

 

――剣道場――

 

「――鍛え直す!IS以前の問題だ!これから毎日、放課後三時間私が稽古を付けてやる!」

 

剣道場に訪れると篠ノ之が正座している一夏に何かを言っていた。

 

近くに丁度のほほんさんがいたので何があったのか尋ねると、一夏の剣道の腕が相当訛っているとの事でお説教タイム、とのことらしい。

 

「というかISの事は椿にだな」

「だからそれ以前の問題だと言って「それ以前ではない」何!?」

 

突然の乱入者に驚く篠ノ之。

 

「篠ノ之さん。確かに基礎体力は必要だし心構えも必要だ。だが冷静に考えてみるといい。一週間やそこらでどうこう出来るモノではないだろう?それは君自信が良く解っているはずだ」

 

『練習を一日さぼると、三日前の技量に戻る』とは良く言ったものだな。

 

「それは――」

「それに、空を飛ぶ感覚を知らなければいかにアシストがあれどまともな一撃を出せれる訳がない。慣れない感覚では普段できる動作もままならないぞ?」

 

そんなのでは幾ら何でもダメージとしてあまり高くはならないだろう。

 

「確かにそうだが……」

「椿の言う通りだぜ箒」

 

一夏は水を得た魚のように言うが、篠ノ之はまだ不服そうにしている。……もうひと押しするか。今度は声を潜めて一夏に聞こえないように話しかける。

 

「何もできずにただやられる一夏を君は見たいのか?」

「……見たくない」

 

――腹黒いですねぇ。

 

(これぐらい言わなければ納得しないだろう)

 

「なら今回は一夏にISの基本訓練をさせる。その後は好きにしても構わない。一夏、書類に記入しておいたな?」

「あぁ。いつでも出せるぜ。ところで一体何を話していたんだ?」

「気にするな。ついでだがこれからお前には朝練を課す。篠ノ之さんと稽古をするといい。――これでいいかな?篠ノ之さん」

「っ!!解った。一夏、明日の朝の5時から始めるぞ。いいな!?」

 

(これで埋め合わせは十分だろう)

 

――やっぱり腹黒いで(くどい)

 

「うげぇ…って睨むなよ!ちゃんとやるって!?」

「あぁ、後次いでに」

「ん?椿、次いでにって何だ?」

「俺が特別に対抗戦まで夜にお前の勉強を見てやろう、山田先生の補講とは別に」

「つ、追加……マジですか?」

 

凄まじく嫌そうな顔をしていたが……逃がさん。

 

「本気と書いてマジと読む。お前が悪いんだ、当然だろう?」

「そ、そうだけどさ……」

「なに、別段キツい物をやらせる訳ではないから安心しろ。練習後に山田先生が補講として今までの復習+参考書の内容をやるだろうから、俺は今までの分の注釈+基本操作部分の理論だ。逃がさないからそのつもりで」

「わ、解った……」

「あぁ、だから夜に俺の部屋に来い……のほほんさん。そういう事だがいいだろうか?」

 

取り敢えずルームメイトには許可を取っておかなくてはな。

 

「いいよ~」

「ありがとう」

 

これで許可は取れた。しかし、篠ノ之は少々不服な所があるらしい。

 

(……一夏と一緒にいる時間が減ってしまう事に不満あり、と言ったところか?)

 

――まぁ、そんなとこでしょう。

 

なら対処は簡単だ。

 

「篠ノ之さん、良かったら君も一緒にどうだろうか?」

「……行く」

「決まりだな。一夏と共に来るといい」

 

これで大部分の用事は済んだだろう。

 

「さてと、俺は機体整備をするのでここらで失礼する」

「……そうなんだ~じゃぁまた後でね~」

「椿、また後でなー」

「あぁ、また後でな」

 

一瞬のほほんさんは何かを言いたそうな顔をしていたが、気にしない様にして別れを告げた後、私は一路整備室へと歩を進めた。

 


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