ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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ヒロインは本音と更識姉妹にしてみようかと思っています




第一話:ファースト・コンタクト

視線、視線視線視線―――

 

ありとあらゆる方向からの視線が彼――織斑一夏を包囲していた。

 

概ね予想通りである。教室の真ん中の席に陣取るから尚更だろう。彼は女子生徒達+私の視線を受け、非常に辛そうな顔をしていた。その心境は推して測るべきだろう。

 

因みに私は窓側のに席があるためあまり視線は向けられていない。まぁ、目の保養なら彼の方がいいだろうし、こちらとしては好都合である。

 

しかし思ったのだが、何故、世の女性は男同士が会話するだけで騒ぐのだろうか?

 

素朴な疑問。

 

私が以前高校生をやっていた時は工業高なので女子率こそ低かったものの、男子が親しげに話したりじゃれていた時に騒いでいたのだ。

 

(古鷹、どう思う?)

 

聞いてもしょうもないだろうが。

 

――何故騒ぐのか。それは一部の女性が男性同士の絡みを同性愛として定義。所謂boys love、略してBLと呼び、それに対し激しく興奮するとデータに。無論イケメンに限られますが

 

古鷹がトンデモ理論を展開してきた。

 

(……聞いて損をした)

 

呆れて私は会話を打ち切り、教師が来るのを待った。暫くすると扉が開き、小柄な女教師が教室に入ってきた。

 

「全員揃ってますね。それじゃぁSHRを始めますよー」

 

その女性教師は教卓に移動して自己紹介をする。

 

「わたしはこのクラスの副担任の山田真耶です。みなさん、一年間よろしくお願いしますね」

 

山田真耶、と名乗った教師の容姿を改めて確認する。

 

・身長は女子生徒とほぼ同じで、寧ろ低い部類。

・サイズがあっていないのか服がだぼっとしている。

・緑髪で顔は幼く学生といってもおそらく通用するだろう。

・眼鏡をかけている。

・服装の上からでも解る2つのソレが自己主張をしていた。

 

ここから結論に至るのは――

 

――所謂ロリきょ(黙っていろ)

 

とんでもないことを口走りそうになった古鷹を黙らせた。

 

その後自己紹介が始まり、暫くして彼の出番となった。

 

しかし、当の本人は出番がきたのにも関わらず気づいておらず、山田先生が何度か声をかけたことでようやく状況に気付いていた。

 

それを見ていた何人かの女子生徒がクスクスと笑っていたが……まぁ、仕方がないとはいえ、人の話を聞いていないのはあまり関心できなんな。

 

「あっあのゴメンなさい…お、怒ってる?怒ってるかな?ご、ゴメンね!で、でも自己紹介は織斑君の番なんだよね。だから自己紹介してくれるかな?だ、だめかな?」

 

凄まじくおどおどしていた。昨今の女尊男卑社会では珍しい部類の女性だと言えよう。まぁ、分け隔てなく接するのが普通な筈なのだが。

 

「いや、あの、そんなに謝らなくても……っていうかちゃんと自己紹介しますから先生も落ち着いてください」

「ほ、本当? 本当ですか? 本当ですね? や、約束ですよ。絶対ですよ!」

 

山田先生はがばっと顔を上げて織斑の手をとっていた。

 

……それは少々オーバーリアクションではないか?と思う。見ろ、織斑が困った様な顔――雰囲気で判断――をしているだろう。

 

そしてその事に気付いた山田先生は慌てて手を離していた。

 

「えー……えっと、織斑一夏です。よろしくお願いします。」

 

先ずはベターな挨拶。しかしそれ以上のモノを期待しているのか、キラキラとした目で彼をみる生徒が複数居る。さて、彼はどうでるのだろうか?

 

しかし現実は非常であった。

 

「以上です!」

 

織斑はどこかやりきったかのような清々しい顔でそう宣言した。

 

そしてそれに思わずずっこける生徒が複数いた。

 

彼女達はドリ●でもいけるな。中々のキレだ。

 

――予想外でしたね。ソニックブームぐらい起きると思っていたのですが。

 

(もう知らん)

 

そしてそんな彼に近づく影があり、そして――

 

「もう少し察して挨拶できんのか、貴様は」

 

――頭を出席簿でを叩かれていた。

 

そして痛そうに頭をさすりながら織斑が振り向くと、そこには織斑先生がいた。

 

「げぇ!?関羽!?」

 

――ジャーン!ジャーン!ジャーン!

 

「誰が三国志の英雄か、馬鹿者」

 

古鷹が銅鑼の音を出し、織斑先生が再び織斑を叩いて撃沈させる。

 

(……何故その音源を確保している)

 

――企業秘密です

 

何だそれは、そんな事にメモリを使うんじゃない。

 

――お断りします

 

何故断るんだ。訳が解らん。

 

私と古鷹のそんなやりとりをしていると、いつの間にか話が進んでいた。

 

「あ、織斑先生。もう会議は?」

「あぁ、山田先生。クラスの挨拶を押し付けてすまなかったな」

「さて諸君、私が織斑千冬だ。君達新人を一年で使い物になる操縦者に育てることが仕事だ。私の言うことは良く聴き、そして理解しろ。出来ない者は出来るまで指導してやる。返事はYESかはいだ。いいな?」

 

どこぞの軍隊よろしくな自己紹介をする織斑先生。

 

私は何故か嫌な予感がし、急ぎ古鷹を耳に装着する。そして――

 

『―――――――――――――――――――――――――――――ッッッ!!!!!!!!!!』

 

咄嗟に耳を防いだので何を叫んでいるのかはよく解らなかったがおおよそ理解できる。

 

――凄まじい。このままいけばソニックブームを起こせるのでは?やはり彼とは一味違いますね・

 

(五月蝿い……若さは時としてに非常に困るな)

 

正直に言えば、ついていけん。

 

――貴方もまだ18才でしょうに。老ボケはまだ早いですよ?

 

お前もお前で五月蝿い。こちとら転生前と合わせれば66だ。騒ぐのは…まぁ…好きだが、こういう時は静かな方を好む。

 

暫くして騒ぎが収まった。

 

そして自己紹介が進み、遂に私の出番が来た。

 

此処に来て私に視線が集中し、思わずたじろぎそうになるのを抑えつつどうやったら波風立てずに自己紹介するべき考え始める。

 

――ここは一つ、ウィットに富んだ決めゼリフを言いながら自己紹介をしましょう。その方が女の子受けが良い筈です

 

(誰がするものか)

 

私は女子にモテたくて来たわけじゃない。

 

――はいはい。ですがモテるモテないはさいておき、好印象は大事ですよ?

 

……好印象を持たせるにも色んなやり方はある。

 

――ほう、それはそれは。なら、見せてもらいましょうか。

 

あぁ、だから黙って見てろ。

 

「じゃぁ次、天枷さん。お願いできますか?」

「はい」

 

私が返事を返し、臆さずに自己紹介を始める。

 

「川崎・インダストリアルカンパニー所属、天枷椿。年は18で皆とは年が離れているが、同学年のよしみだ、敬語はいらない。趣味は読書。1年間よろしく頼む。以上だ」

「いいぞ。座れ」

 

可もなく不可もない自己紹介をしたあと席に着く。

 

「ほえー」「……織斑君よりはカッコよくないよね」

「……地味だね」「……あの前髪、ミステリアス」

 

周りからヒソヒソ声が聞こえたが、特に批判的な言動は見受けられなかったので聞き流す事にした。

 

暫くして自己紹介が終わり、SHRの終わりを告げるチャイムが鳴った。

 

号令を終えた後、私は特にする事がないので暇つぶし代わり外の風景を眺めていると、不意に人影が近づいてきたのでその方向を向いた。

 

人影の正体は織斑一夏だった。おそらくは親睦を深めようと来たのだろうと予想できる。まぁ、こちらとしても仲良くはしておきたい。

 

「えぇっと、天枷さんだよな? これからよろしく頼むよ」

「ああ、こちらこそよろしく織斑」

 

ファースト・コンタクト。先ずは軽く挨拶。

 

「一夏、でいいですよ。たった二人の男なんで」

「わかった。では改てよろしく、一夏。まぁ、俺の事は好きに呼んでくれて構わない。それと、敬語を使う必要はないと言ったが?」

「あ、そうで……そうだった。なら椿、よろしく」

 

軽く握手をした。

 

「しっかし助かったよ。俺一人だったら絶対に耐えられなかったかも」

「事情はお察しください、か」

 

軽く周りを見回すとスッと視線を逸らす生徒が何人かいた。まぁ、元々ここは女子高だからな、仕方がない。

 

「……ちょっといいか」

「え?」

 

突然話しかけられ一夏は呆けた様な声を出す。

 

声をかけてきたのはポニーテールの少女、篠ノ之箒だった。

 

――あの兎の妹君ですか。見るからに真逆の性格ですね

 

(そうなのか?)

 

――えぇ、会えば幻滅モノですよ?

 

(……そうか)

 

身内と認めた人物以外は排他的と聞いているが、な。

 

「箒……?」

 

一夏に声をかけられ、篠ノ之は若干頬を染めている。あぁ……成程。

 

「俺の事なら構わない。二人で話してくるといい」

「……すまない。一夏、廊下でいいか?」

「お、おう?」

 

彼女の態度をよく理解していないかのごとく疑問形で答える。

 

(敢えて言おう。察しろ、と)

 

――鈍感ですねぇ

 

一人と一機が同じ結論に達した。

 

「旧知の中なのだろう?なら水入らずだ。さっさと行ってこい」

 

再び急かすと二人して廊下へ向かった。そして教室に居る男は私一人となった。

 

「あの二人って知り合いなのかな?」「そうじゃない? 織斑君も名前で呼んでたし」

「幼馴染かな?」「まさか恋人だったり!?とか?」

 

二人が出て行った後、教室内は少女たちのひそひそ話で溢れ始めた。

 

(……反応に困るな)

 

確かガールズトークと言ったか。下手な言動を取ればあらぬ噂をたてられそうで若干恐怖を感じるな。

 

――さてさて彼が卒業するまで何人堕ちるんでしょうね?寧ろ刺されるんですかね?グサッと。

 

コイツは擬音の部分をそのまま効果音で再現しながら愉快そうにしていた。

 

……余計な知識を身につけれないように通常ネットワークの制限をかける必要がありそうだ。

 

「あ、あのー……」 

 

私に声をかけてくる人がいた。そちらを向くと、3人の女子生徒が立っていた。名前は確か――

 

――データ照合、右から鷹月静寐、相川清香、布仏本音と断定。

 

「……あぁ確か鷹月さんと相川さん。それから布仏さん、だな。何か?」

 

指で指すのは行儀が悪いので、視線で右から順に尋ねる。

 

(余計な事を)

 

――お役に立てたでしょう?

 

ふん、知らんな。

 

「名前覚えてくれたんだ……」

「おぉ……」

「あまっちの以外な特技を発見~」

 

嬉しそうに三者三様の反応を示すが……ふむ?

 

「あまっち?」

「うん。天枷だからあまっち。因みにおりむーは織斑だからおりむーだよ~」

 

のほほんとした雰囲気を醸し出す子だな。……やり方を合わせるか。

 

「そうか。では君の事はのほほんさんと呼ばせてもらおう。で、改めて聞くが何か用かな?」

 

―――あだ名返しですか。これは好感度があ(喧しい)

 

「これといって用があるというわけではないけど」と鷹月。

「これから仲良くしようって言うね」次に相川。

「そうそうよろしく~」締めにのほほんさん。

「あぁ、じゃぁ改めてよろしく。……そして一夏の情報は任せろ」

 

ニヤリと口を歪ませながら言うと、三人は再び三者三様の反応示す。

 

「フフフ……わかってるじゃない、これからよろしく!」

「情報源ゲット!」

「あまっちもわるよのう~」

「いえいえお代官様程でも……まぁそんなことろで、だ。そろそろ予鈴が鳴るから席に着くといい」

 

私の言葉に三人がそれぞれが頷き、自分の席へと戻っていった。どうやら鷹月と相川は席は最前列の辺、のほほんさんは右斜め後ろの席で意外に近かった。

 

――彼女達の好感度が上昇しま(黙っていろ)

 

そして予鈴が鳴った。

 

パァンッ!

 

次になぜか出席簿で叩かれる音が響いた。

 

「とっとと席に着け、織斑」

「…ご指導ありがとうございます。織斑先生」

 

どうやら間に合わなかった織斑が再び叩かれていた様である。

 

その後、山田先生の授業が始まった。

 

しかしここでもトラブルの発生源となる織斑一夏。

 

どうやら授業内容が理解できず、更にはISの参考書を電話帳と間違えて捨ててしまったらしい。案の定、織斑先生に叩かれて撃沈していた。

 

因みに私はもう解っていたので一夏に一応持ってきた参考書を貸して事なきを得た。

 

――卒業するまでに脳細胞が死滅しますね、あれは。

 

(……はぁ)

 

溜め息をこぼすしかなかった。

 

その後授業は進み、一時間目の終了を告げるチャイムが響いた。そして休み時間となり、一夏が再び此方に来て―――が、しかしさらにもう一人此方に近付いてきた。

 

「ちょっとよろしくて?」

「へ?」

「…………」

 

話しかけてきたのはイギリスの代表候補生、セシリア・オルコットだった。

 

―――金髪縦ロールのお嬢様はもうお腹い(いいから黙れ)

 

私はテニスの某婦人しか知らん。

 

「聞いてます? お返事は?」

「あ、ああ聞いてるけど」

「まあ! なんですの、その無礼なお返事は。このわたくしに声をかけられたことだけで光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるのではないかしら?」

 

セシリアの態度に対し、腹にイチモツを抱えている一夏。

 

まぁ、気持ちは分かる。たたでさえ女尊男卑の世の中なのだ。高圧的な態度をとってくる手合いの者は厄介極まりないのである。ここは穏便に済まして欲しい。

 

「なんなんだよいきなり。というか俺、君が誰か知らないし」

「わたくしを知らない? イギリス代表候補生にして入試主席あるこのセシリア・オルコットを知らないと!?……そちらのあなたはどうなんですの!」

「……知っている。自己紹介はSHRにしたはずだが?」

「覚えてたのか?」

「一夏、状況が状況だが、こういう時こそ人の名前ぐらい記憶しておけ」

 

(何かと付け込まれてはたまったものではない)

 

「う……分かったよ。ところで今言った代表候補生ってなんだ?」

 

その瞬間、クラス全員がその場でずっこけた。

 

やはりドリ●か。

 

――これでツッコミがいれば完璧なのですが

 

(同意する)

 

だが、私はツッコミの側に回る気力はない。

 

「はぁ……読んで字のごとく、だ。漢字を思い出して想像しろ」

「え、えーと…おぉ!」

「あなた、今までどうやって生きていましたの!?それは本気でおっしゃってますの!?」

「おう。知らん」

 

返ってきたのは一夏の非常に歯切れの良い宣言だった。オルコットはこめかみに手を当て、ブツブツと呟いている。

 

……一応話しを進める為に私はオルコットに話し掛けた。

 

「……それでその代表候補生が俺達に何の用事だ?」

 

気を取り直したオルコットが再び騒がしくなる。

 

「本来はわたくしの様な選ばれた人間とは、クラスと同じくする事だけでも奇跡、そう幸運なのですのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

(……代表候補生になっただけで選ばれた人間を気取るとは恐れ入る)

 

所詮、ただの候補生。言ってしまえば代わりはいくらでも居る。それに、川崎にはそれ以上の人材がいるのだ。だからどうした、と思う。

 

まぁ、それを口に出して言わないし言う必要もないがな。

 

「そうか。それはラッキーだ」

「一夏、皮肉という言葉を知っているか?もしくは嫌味でも構わないが」

 

案の上、セシリアのこめかみに青筋が浮かぶ。

 

「……馬鹿にしていますの? 大体、あなたISについて何も知らないくせに、よくこの学園に入れましたわね。男でISを操縦できると、散々騒がれてましたから、少しくらい知的さを感じさせるかと思っていましたけど、期待外れもいいところですわね。そしてそちらの方も……地味ですわね。しかも髪が伸び放題……不潔ですわ」

 

(よくまぁ噛まずにまくし立てることができるもんだな)

 

かと言って暴言に悪態をつくことはしないがな。この程度は慣れている。

 

――お嬢様系女子の必須スキルです。こんなのはまだ序のく(古鷹)……。

 

「俺に何かを期待されても困るんだが。しかも初対面の人に向かって不潔って言うなよ」

 

一夏は反論しない私の為に言い返してくれたが……むぅ。

 

(地味なのは否定してくれないのだな)

 

事実ではあるが。

 

――地味で(覚えていろよ)

 

「フンッ、まあいいですわ。わたくしは優秀ですから、あなた方のその無礼も見逃して差し上げます。それと、ISの事で分からないことがあれば泣いて頼まれたら教えて差し上げてもよくってよ。何せ私は唯一入試で教官を倒したエリートですから!」

 

一夏の話をまるで聞いていないオルコットは、唯一という部分を強調して誇らしげに胸をはる。しかしそれは一夏の一言によって態度が覆されることになる。

 

「唯一……あれ?入試ってアレか?ISを動かして戦うやつ。なら俺も倒した筈だぞ、教官」

 

ほぉ?倒したのか、意外だな。やはり、血筋なのだろうか?

 

『戦闘一家織斑~織斑の系譜~』

 

何とも笑えないネタだ。実際は相手方の教官が自滅でもしたのだろう。でなければ、まともに動かした事もない素人に負ける道理がないからな。

 

「は……?わ、わたくしだけと聞きましたが?」

「女子では、ってオチじゃないのか?」

「つ、つまりわたくしだけじゃないと?」

「いや知らないけど」

「あ、あなたはどうなんですのっ!?」

 

オルコットは何を焦っているのか、私にも話しを振ってきた。

 

「……俺は特別入学だ。自己紹介でも言ったが18才だ。既に履修過程を終えていたが再入学という形でここに来ている。よって試験はパスだ。当然試験官とは戦っていない」

 

IS委員会に提出するデータも川崎で行っていたから尚更である。

 

「そ、そうでしたか……って、そうではなく―――」

 

まだ何かを言おうとしていたが二限目の開始のチャイムが鳴る。

 

「っ!また後で来ますわ!逃げ無い事ね!よくって!?」

 

オルコットは捨て台詞を華麗に決めてからこの場を去った。

 

だが、オルコットはその後も何かをぶつぶつ言いながら席に戻っていったのである。絶対に面倒ないちゃもんを付けてくるだろう。うんざりするな。

 

そして次の授業が始まり、織斑先生が話し始めた。

 

「それではこの時間は実戦で使用する各種装備の特性について説明する」

 

この座学は副担任の山田先生も学ぶらしくノートを手にとっていた。

 

「ああ、そうだ。その前に再来週に行われるクラス対抗戦に出る代表者と副代表を決めないといけないな」

 

……嫌な予感がする。

 

「代表と副代表は言うなればクラスの委員長と副委員長だ。中学のソレと内容は特に変わったことはない。尚、クラス対抗戦は代表がでる。これは入学時点での各クラスの実力の推移を図るためのものだ。一度決まると一年間変更はないのでそのつもりで推薦するなり自薦しろ」

 

そこで一息をついて当たりを見回す。

 

「さて、誰かいないか?」

「――はいっ、織斑君を推薦します!」

 

やはり、な。珍しい男を前押しするだろう。可能性は低いが、私も選ばれる可能性がある。ならば対策は早急に打っておくのが吉、と見てもいいだろうな。

 

「私もそれがいいと思います!」

 

次々と同意する意見があがる。

 

「俺も一夏を推薦しよう」

 

そして私も一夏を推薦していた。

 

「な、なんでだよ!?俺は辞退します!」

「自薦、他薦は問わないといったはずだぞ。そして辞退することも許さん」

「そうだぞ一夏。何事も経験だ、せいぜい揉まれろ」

「なっ!?だったら――「先生、俺は副代表として立候補します」っておい!?」

 

そして私はチラリと一夏に視線を向けながら口を歪めて見せる。

 

もっとも前髪で視線が隠れているので意味はないが。

 

――大人げないですねぇ

 

(これが年長者の悪知恵だ)

 

そんなやりとりをしていると突然甲高い声が響いた。

 

「待ってください!納得が行きませんわ!!」

 

(このまま静かに聞き流していて欲しかったのだがな)

 

――プライドが高くて高飛車。それがお嬢様系のデフォなので無理ですね

 

一体そのどこが初期値(デフォルト)なんだ、全く理解できん。

 

軽くげんなりとしながらオルコットの物言いを聞く。

 

「いいですか!?クラス代表は実力者がトップになるべき。それが必然です。それをただ物珍しいというだけで極東の猿に勤めさせては困ります!わたくしはこのような島国までIS技術の修練に来ているのであって、サーカスをする気は毛頭ありませんわ!!」

 

その言葉に一夏と何人かの生徒が顔をしかめていた。そして織斑先生は無表情でそれを眺めている。止める気はないらしい。山田先生はオロオロしていた。

 

実力主義に関しては賛同するが、よくもまぁ外聞を気にせず喧嘩腰でいられるもんだ。あれか、自覚がないのか?それはそれで問題あるな。

 

(……ふむ、いい加減止めるか)

 

――目立たつのは嫌いだと言っていましたが?

 

(状況がそれを許さないのなら甘んじて目立つようなこともしよう)

 

それに、私とて日本人だ。馬鹿にされたままで気分が良くなる訳が無い。

 

――左様ですか

 

「大体、文化としても後進的な国で暮らさなくてはいけないこと自体私には耐え難い苦痛で――」

「イギリスだって「そこまでにしておけよ?オルコット」椿……」

 

一夏とタイミングが若干被ったが、気にせず再開する。

 

「行動と発言には常に責任が付き纏う。偉くなれば偉くなるほどそれは重くなる。だというのにお前は無責任に言いたい放題暴言を喚き散らしている。無責任もいいところだ。その代表候補生の肩書きはいつから装飾品になった?醜態を晒しているお前には似合わん。無自覚にその肩書きを背負っているのなら外すことを勧める」

 

少なくともISは兵器だ。それを自覚してもらわなければ困る。

 

――兵器じゃないんですがねぇ

 

(お前はIS『コア』だろう?なら、問題無い)

 

言葉遊びかもしれんが、私はISをISコアと区別しているのだ。

 

――なら、いいのですがね。

 

「な……!わたくしを侮辱しますの!?」

 

私の持論に対し、オルコットは侮辱とったようだ。これが英国淑女だというのだから中々の笑い草だな。おしとやかさは何処に行ったのだろうな?

 

「この程度で侮辱ならいくらでも侮辱してやろう。そもそも今の代表者選びは自薦・他薦は問わないと言っていたはずだ。不服なら何故自ら立候補しない?実力主義なのだろう?とっとと立候補すればいいだけの筈だ。だと言うのにそれをしないのは一体どういう了見だ?もし理由があるのなら是非とも答えてもらいたい」

「そ、それは……」

 

たじろぐ、か。

 

「言っておくが誰かに自分を選んでもらおう、選ばれて当然などと考えている時点でお前は必要とされていない。英国貴族?知らんな。そんな甘い考えで世の中を渡っていけると思うなよ?そんな身勝手な奢りや甘えた考えは犬にでも食わせておけ。ただ邪魔だ」

 

少なくとも私は自ら行動し、狭き門をくぐり抜け、権利を勝ち取った。オルコットは代表候補生として努力したのかもしれんが、生憎私はそんなのは知らん。一つ言えるとしたら、その努力でこの結果なら、冗談も大概にしろと言いたい。

 

「っ!!さっきから言わせておけば……!!」

 

どうやら沸点もかなり低いらし。

 

「言うのは饒舌で喧しいこと極まりないというのに立場が変わった途端にすぐに癇癪を起こすか?なら初めから暴言を吐くな。不快なのは皆同じだろう」

「っ~~~!!決闘ですわッ!そこの貴方もですわよ!」

「受けて立つ。そして一夏、さっきは台詞をとってすまない。が、お前もそれで構わないな?」

「おう!四の五の言うより解りやすいぜ!」

 

一夏は張り切りながら同意した。

 

「そうか」

 

そこで一旦区切りをつけ、織斑先生に話を振る。

 

「織斑先生、クラス対抗の前に代表者決定戦とついでに決闘を行いたいのですか。それと、おさわがせして申し訳ありません」

「構わん。本来であれば私から言うべきだったからな。今回は不問とする。――では、代表者を決めるため一週間後、第三アリーナにて行うこととする。織斑、オルコット、天枷は各自で準備するように。それでは授業を再開する」

 

織斑先生の宣言に皆返事をして授業を再開をした。

 

「……柄でもない事はあまりするものではないな」

 

大きい声で呟いた訳ではないが周りに聞こえたらしく、「でもかっこよかったよ~」とのほほんさんが返してくれた。

 

そして周りの何人かも此方に軽く笑みを向けてくれていた。

 

――貴方の罵倒は下手すればマイナスですが、今回ばかりはあのお嬢様が言いすぎましたからね。周りも認めてくれた様です

 

(だが私も少々言いすぎた。この件が終わったら謝ろうか)

 

未だ十五歳。

 

知らぬことも多いのだから当然間違う事もある。私だってそうだ。だからこそ、清算はしっかりとしておかなければならない。

 

――それをお薦めしますよ

 

あぁ、そうする。

 

そこで会話を打ち切り、授業に集中することに専念した。

 

 




なんかセシリアが凄く三下にみえる
原作でも大体こんな感じでしたっけ?

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