ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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色褪せず記憶に残る一つの記憶。

優しく微笑む母の首には、太陽の光を反射して輝く銀のロケットが下がっていた――。


第四十四話 I'm yours/You're mine 後編

――ゲームセンター――

 

実を言えばゲームセンターを利用するのはこれが初めだ。前世は言わずもがな、ゲームはプレイしたことすらない。あったとしてもデパートに置いてある筐体でプレイしている友人の姿を眺めただけだけである。

 

(しかし、五月蝿い)

 

入って最初に抱いた感想はこの幾重にも重なったゲームのBGMの五月蝿さである。まぁ、個人的にはそれこそがゲームセンターの醍醐味なのだと思うがな。

 

「――、―――!」

「……?」

 

グイグイ、と服を引っ張られて簪に呼ばれているのに気づいた。私は簪の方へ振り向くが、元々の声が小さく、この様な場所では非常に聞き取りづらい為、耳を近づけた。

 

「最初に、どこ、行く?」

 

……ふむ。

 

「プリクラでも撮ろうか」

 

せっかく来たのだから記念の一つにしておきたい。事後報告にはなるが、買い物の時に買った首に下げる銀色の円柱ロケットに保存しておくのも良いだろう。

 

(丁度良かった、と言うべきか)

 

ロケットを買ったのは思い出に残すため。だが、それだけが買った理由ではない(・・・・・・・・)。寧ろそれは後付けだったのだが……まぁ、本当の理由は言わないでおこう。正直、悩んでいる部分もあるからな。

 

閑話休題。

 

私の提案に簪は頷いて目で行こう、と促してきた。そしてすぐに如何にも女の子が利用する様なデザインが施されている筐体を見つけ、中に入って一息ついた。

 

「……やっと普通に喋れる」

 

確かに、この様に閉鎖された空間なら多少は五月蝿くない。だが、その代償として少し密着せざるおえない状況になるが……何だろうか、役得感があるとは言え場所が違うとどうも意識がそっち(・・・)にばかりに向いてしまう。これも男のサガであるとして素直に受け入れれば良いのかもしれないが、生憎私はそこまで素直な人間ではない。むっつりと言われても仕方がないがな。

 

――むっつりですな

 

この場にいないはずの古鷹の声。いや、これは幻聴か。

 

「……それにしても意外、だね」

「意外、とは?」

 

思わず勘違いしてしまうほど鮮明に再生された幻聴に軽くイラっとしながら鸚鵡返しに尋ねる。

 

「椿は、その、写真を撮られるのあんまり好きそうじゃないと思ってたから」

 

確かに目を髪で隠しているから必然的に被写体としては最悪だ。それに、写った写真は幽霊に見えなくもない。実際、小中高を通してネタにされたので良い気分はしなかった。自業自得とはいえ、それが原因で被写体になるのを自然と避ける様になっていたし、被写体なるとしても集合写真や卒業写真、身分証明用等、必要最低限だった。

 

「まぁ、な。今はそうでもない」

 

プリクラを利用するのは初めてだがな、と付け足す。何より今は簪と二人きりなのだから、抵抗感があるわけがない。むしろどんと来い、とでも言うべきだろうか?いや、口には出さないが。

 

「解った。じゃぁ、私の指示に、ね?」

「……うむ」

 

簪が悪戯っ子が何か閃いた様な笑みを浮かべていたので、思わず警戒してしまったが、すぐにそれもそれでいいかと思いながら簪の言葉に頷き、指示を聞きながら筐体を操作する。

 

(ほう?)

 

一回500円で4枚、と少し割高なような気がしなくもないがその代わり4枚+落書きが終わるまで時間は無制限らしい。利用した事はないが、これはこれで需要がりそうだ。聞けば絵を描くのが得意な者達が結構利用するとか。

 

ここまでで解ったのは簪は普段は空いてるから余裕を持って写真を撮れる方がいいと判断した様だ。まぁ、私としてもレクチャーを受けながらできるのは嬉しいので好都合だがな。

 

「……むぅ」

 

身なりを整える為に改めて画面を見たのだが、どうも被写体が悪い気がしてならない。馬子に衣裳とはまさにこのことか。エメリーさんがコーディネートしてくれた衣服に釣り合ってる気がしない。私に合わせてくれたとは言っていたが……うぅむ。

 

「……サンングラス」

 

首をひねっていた私に対して簪の唐突な発言。

 

「その、頭にかけると、格好良い、かも」

 

私はふむ、と顎に手を当てて少し考えたが、簪の代案以外は全く思い浮かばなかったので指示通りに買い物袋から上縁のスポーツサングラスを取り出して頭にかけ、改めて見出しを整えた。

 

(……ふむ)

 

頭にサングラスを、首にはヘッドフォン(古鷹)を、そして華美ではないものの流行を気取ったファッションを身に纏った姿。

 

ふむ……これが世に言うチャラい、と言うやつなのだろうか?朝の二人組の様にビジュアル面では非常に高くなっている……と思う。ただし、顔を除いて、と前に付くがな。

 

「うん、似合ってる」

 

ありがとう、と私は礼を返し、まずはオーソドックスに、と言う事で無難に横並びで――私は少しだけ屈んで高さを調整して手でピースサインを作った。

 

(……むう)

 

いざとなるとどうにも変に緊張してしまい、うまく笑うことができず顔が引きつってしまう。服も急に気になり出したのもこのせいだろうか?中々思考が切り離せない。前髪で服の良さを台無しにしているのに、これ以上台無しにするとは一体どう言う事なのだろうか?そう己に問いかけるがどうこうする事もできず、そのままいざ撮る瞬間となって―――

 

「とうっ!」

「ぬっ」

 

掛け声と共に簪に体当たりされ、バランスを崩した状態でシャッターをきられてしまった。結果、画像がブレてしまい、残念ながら使いものになりそうにない。

 

「……何をする」

「表情が、硬い」

 

ごもっともだ。

 

「……どうすればいい?」

「思いっきり、はっちゃけてもいい」

「思いっきり、か」

 

意図はわかるが……なかなかどうして、意識するとこれがまた難しいのだ。

 

「うん。だから、次はこのポーズを取ればいいと思う」

 

そう言って簪は日曜の朝にやっている特撮ヒーローのポージングをとってみせた。心なしか何時もより生き生きとした表情になっており、男――レッドがするポージングだったのだが、妙に様になっていた。

 

「本当にヒーロー物が好きなんだな」

「い、いいから早く、ポーズとって」

「了解」

 

私は簪の微笑ましい姿を脳裏に焼き付け、指示通りのポーズをとって―――

 

「全然、違う」

 

む?見様見真似とはいえ我ながらできた方だと思うのだが……細部が違うのだろうか?

 

「こうか?」

「……」

 

無言で首を横に振る簪。

 

……どうやら演技指導に時間がかかりそうだ。いや、私の台詞ではないのだがな。

 

その後、何度も”有難い”指導を受け、数えるのも億劫になった果てに何とか簪の納得がいくポーズを取れて漸く2枚目を撮る事に成功。その時の簪はピンク役のヒロインのポーズをとっており、表情は輝いていた。

 

「じゃ、じゃぁ、次は―――」

 

流石にヒーロー物はこれで勘弁して欲しい、と思ったがそんな事は無かった。普通の、と言うべきかは解らないが、下まぶたを引き下げて舌を出したり、画面いっぱいに顔が映る様にレンズに顔を近付けたりした。

 

この時の簪は本当に楽しそうに笑っており、年相応の活発な笑みを浮かべていた。先程の気まずい雰囲気はもう無い――いや、これを言うのは無粋か。私も楽しかったし、簪が可愛いかった。ならばこれ以上の思考は不要だ。

 

そしてフレームを選んで落書きをする時間になった。

 

正直、私は何も手を加えなくてもいいのでは?と思いつつも其処は醍醐味だからと納得しつつ簪の好きなようにさせようと落書きする様子を眺めていたのだが――そこで簪が思いっきり私の顔を台無しにしてくれた。

 

いや、別に元々から被写体としては悪い部類に入るから頬に赤い丸を付けるとか、ちょっとした落書きならアクセントだから、と納得して何も言わないつもりだったのだが、よりにもよってカイゼル髭を付け足すとは何のつもりだろうか?

 

(これは……後々面倒なことになる)

 

絶対に楯無あたりに弄りネタにされるだろう。面倒だ。ならば、と心の中で呟きながら私は簪も道ずれにする事にした。

 

「あっ」

 

簪が羞恥心に頬を染めた。そう、簪の顔に髭と犬耳を追加してやったのだ。これならばおいそれと他人に見せれまい。うむ、可愛いは正義だな。

 

「ククク……」

 

ニヤリと笑みを浮かべてみせる。

 

だが、それがいけなかったのだろうか?

 

「……お返し!」

 

簪が私の顔に更に落書きを追加、当然の如く私も対抗して――といった具合にだんだんと落書きがエスカレートしていき、最終的に殆どの写真が見るに耐えない程の酷い惨状になってしまった。

 

(前衛的……なのか?)

 

よくわからん。少なくとも素人目でも解るぐらい芸術性がないのは確かだ。

 

唯一まともに残っていたのがヒーロー物のポーズをとった写真のみであり、いつの間にか笑いながら張り合っていた私と簪はあっ、と気づいてどうしようかと相談し、再び撮り直す事になった。

 

「次のポーズはどうする?」

「だったら、その、私と同じ高さになる様に、屈んで」

「……?まぁ、いいが」

 

私は意図が読めず、疑問符を浮かべながら屈んでだいたいの高さを調整した。そうすると――

 

「……んっ」

「ッ!?」

 

不意にもちっとした、柔らかい肌の感触と温かさが頬から伝わってきた。

 

簪が頬をくっつけてきたと認識した瞬間、急激に早まる鼓動と共に、紅潮させる私と、同じく顔を紅潮させながら目を細めて幸せそうに笑う簪が画面に映っていた。

 

「えへへっ……くすぐったい」

 

その声に、感触に、愛おしさ込み上げてくる。

 

もっと密着させたくて頬を寄せた。だが、つい身体ごと寄せしまい、押されるようにぶつかった簪が体勢を僅かに崩しそうになった。私は無意識のうちに後ろから手を回し、腰を抱き寄せて決して離れない様にした。

 

(……っ)

 

反射的に起こしてしまった行動に、どう弁解しようかと思ったが、一方の簪は腰に手を回された時、一瞬だけ驚いていたが、先程よりも笑みを深めていたため、何も言えなかった。見惚れていたから、と言い換えてもいい。

 

「……撮らないと」

 

簪からの最速。本音を言えばずっとこのままでいたかった。だが、そうする訳にもいかない。私は簪の指示に従いながら筐体を操作し、簪と一緒にピースサインを作って写真を撮った。

 

「じゃ、じゃぁ、次、だね」

 

そう言って簪は恥ずかしがりながらパッと離れてしまった。

 

抱き寄せていた手がフリーになるのと同時に深い喪失感を覚えた私は、何も言えず、ただ黙って首を縦に振り、視線を下げて抱き寄せていた手を見つめる事にした。

 

(……抑えきれない、か)

 

何も異性を抱きしめたのは初めてではない。だが、自ら望んで抱き寄せたのは初めてだったのだ。そしてそれが意味するのは……既に解っている事だった。

 

「後ろに、立って」

 

簪の声で私は視線を戻し、指示通りに簪の後ろに立つ。

 

「……良いのか?」

 

次は何の指示がくるのだろうか、とは思わない。簪の意図には気づいた。だが、だからこそと言う言葉がある。このまま、このまま――抱きしめて良いのだろうか?

 

「……うん。思い出、だから」

 

何か意を決した様に目で頷く簪。

 

思い出なら、仕方がない。そう、自分に言い聞かせるように心の中で呟き、覆いかぶさる様に抱きしめ、顔をうつむき加減にして横にずらして美しい水色の髪に顔を埋めた。

 

甘い匂いが鼻腔をくすぐり、背徳感が心を満たす。

 

想い人の華奢な身体が自分の手にあると思うと理性のたがが外れそうになるが、必死にそれを押さえつけながら画面に目を向けると、簪が頬を朱に染めながらも嬉しそうに目を閉じ、私の腕に袖に隠れた手を置く姿が映っていた。

 

「大きくて、ちょっとだけ、怖い」

「……ッ!」

 

怖いと言われた瞬間、私は反射的に嫌われたくないと離れようとした。だが、簪が掴む力を強めて私の腕に顔を埋めたことで言葉通りの意味ではないと気付き、寧ろ逆であると知った。

 

遠慮しなくていいと理解し、先程よりも少しだけ強く抱きしめる。

 

抱きしめれば抱きしめる程この少女の事が好きなのだという想いが強くなる。だが、同時に胸が疼くように痛み出し、その痛みにから逃れようとして抱きしめるのを強くした。

 

この痛みの正体も……もう解っている。

 

「……撮ろ?」

 

簪が目を開けて、嬉しそうな顔のまま催促してくる。

 

「――だ」

 

嫌だ、と思ってしまった。

 

この時の自分ほど女々しい奴だと思った事はない。そう、写真を撮ってしまえば、またすぐに離れてしまう。また喪失感を味わってしまう。だから嫌だと、思わず言いかけてしまったのだ。

 

「……どうしたの?」

「いや……解った」

 

もしかしたら簪に察しられたかもしれないという考えが杞憂だったのが解り、私は安堵した。そしてコンクリートの如く固まって中々動こうとしない左腕を無理矢理前に突き出してピースサインを作る。そうすると簪もそれに習うように右手でピースサインを作った。

 

シャッター音とフラッシュ。

 

先程よりも上手く笑えた。だがそれは、簪が幸せそうに笑っているから私も上手く笑える事ができたのだ。しかしこれで簪が離れてしまうと思うと喪失感を覚え、焦がれる想いがより強く私の胸を締め付けていた。

 

ならば、せめて離れるその瞬間まで――

 

「……簪?」

 

私はすぐに離れると思っていたが、簪は中々離れ様としない。寧ろピースサインをした手を戻し、私の腕を掴んで目を閉じて――写真を撮る前の体勢に戻っていた。

 

「もう少し、このままでいたい」

 

――。

 

「……あぁ、構わない」

 

この期に及んで何を格好つけているのだろう?私の方がそれを望んでいたのに。

 

なんとも小さい自尊心。本音とは真逆の気取った態度を取る自分に呆れてしまった。だが、同時に望んでいた願いが叶った事に対し歓喜していた。

 

私は喜びで際限なく高ぶる気持ちを必死に抑えつつ、手持ち無沙汰になっていた左腕を戻して簪を両腕で抱きしめ、心地よい胸の高鳴りを感じながら目を閉じた。

 

そしてその時は、最初に抱きしめた時に感じた痛みを忘れる事ができた。

 

 

 

 

「……もう、いいよ」

 

閉じた目を開ける。

 

(……もう、か)

 

短い、と思ってしまった。どれだけの時間が経ったのかは知らないが、全然物足りたない。本当は未だこのままでいたかったのだが……仕方がない、か。

 

私は抱きしめるのを止めて一歩下がると、簪は名残惜しそうな表情を浮かべながらこちらに振り返った。思わず正面から抱きしめたくなる衝動をぐっと堪え、次はどの様なポーズを取るのかと尋ねる事にした。

 

「次は、椿が前」

 

先程と逆の事をするのだろう。

 

私はそうであれと期待に心を躍らせ、しかし態度には出さずに了解の意を込めて頷いた。そして簪は身長差を埋めようとしたのか、態々子供用の台を持ってきて設置し、台の一段落目に立って――

 

「……あれ?」

「ッ……ククク」

 

私は今までの雰囲気が消えたのを感じながら思わず笑ってしまった。

 

おそらく簪のイメージでは私を後ろから抱き締める構図になっていたのだろう。私も同じイメージだった。だが、現実はまるで私が簪をおんぶしている様な構図になっているのだ。加えてこの呆けた顔は……良いものが見れた。

 

簪は慌てて二段目に登るが、今度は高すぎて少し前につんのめる様な体勢になっており、構図は微妙だった。その後も一段目でつま先立ち、二段目で屈む、私が屈んで等と色々試して見たがどれこれも違和感を感じ、全くしっくりとこなくて再び笑いが起こる結果となった。

 

「……何か、違う」

 

むぅ、と可愛く唸る簪。

 

一方の私は問えば何となくだが理由が解っていた。いやはや、こんなタイミングで『器』の『中身』がネックになるとは思わなかった。だが、これはこれで悪くない。簪には悪いと思うがな。

 

くすくすと笑い続けていると睨まれたので咳払いをして改善策を言う。

 

「正面からがダメなら横向きになったらどうだ?それなら台も要らないと思うが」

 

これなら台に乗らずに済むし違和感も消えるだろう。押してダメなら横に引けとはよく言ったものだ。いや、違うかもしれんが……まぁ、いいか。

 

簪はふくれっ面になりながらも私の意見に納得がいったようで、いそいそと不要となった台を戻し、私も体を横に向けて準備を整えた。

 

「い、行くね」

 

先程のふくれっ面はどこにいったのやら。いざ抱きしめるとなった時、簪は恥ずかしそうにしながら断りを入れてきた。まぁ、かく言う私も恥ずかしいのだが、悟られぬ様にしながら頷いた。

 

そして簪はおずおずとした仕草で私の腰に手を回してきた。

 

「……やっぱり、大きい」

「まぁ、男だからな」

 

心が浮き立つのを努めて抑えて答える。

 

身長が女性より低いのは個人的にはいただけない方だ。だが、今こうしていると背が低かったらどうなったのだろうか?と妄想してまうくらいには良い気分である。

 

「このままで、いいか?」

 

この問いに簪は何も言わず、抱きしめる力を強める事で答えてきた。私はに愛おしさを感じながら解った、と返し、筐体を操作して写真を撮った。

 

そして写真を撮った後、簪はすぐに離れてしまった。

 

何故、と反射的に簪の表情を伺いそうになったが、早く終わらせる為だから、と無理矢理納得させて体裁を取り繕いながら簪の方へ向き直った。

 

「最後は……どうしよう、かな」

「一番最初のをやり直したいのだが、どうだろうか?」

 

何の捻りもない、只並んでピースサインを取るだけの構図。

 

あの時は顔が引きつっていて失敗してしまったが、今度はうまく笑える。リベンジも兼ねて、最高の一枚にすして見せよう。

 

「うん。いいよ」

 

簪は私の左隣に立ち位置を確保する。

 

「……どうしたの?」

「いや、何でも無い」

 

どうやら少し注視し過ぎた様だ。

 

(……口にだして言えんな)

 

頬をすり合うよりも、抱きしめるよりも、抱きしめられよりも胸が高鳴る事はない。だが、それ以上に隣に居てくれるだけで一番落ち着けるのだ。

 

『ずっと、そばに居て欲しい』

 

この言葉を言ってしまえばその価値が薄れてしまいそうな気がしたのだ。いや、正確には一度言ってしまったが……ともかく、今の私では口にするのに相応しくない。だから、決して口には出さない。

 

「よし、撮るか」

 

私は一度深呼吸をし、居住まいを正す。

 

今はただ、最高の一枚を撮ればそれで良いのだから。

 

「また、硬い」

「そんな訳が無いだろう?」

 

ただ気合を入れていただけ。何も問題は無い。

 

「……力んでる」

「否定はしないな」

 

こんな所で意地を張ってもの意味は無いだろう。

 

「ふふっ……変なの」

「変でもなんでも構わんさ。さ、撮ろうか」

「……うん!」

 

シャッター音とフラッシュ。

 

今度はちゃんと笑う事ができた。写真は完成度もそれなりに高く、これが前髪で目元が隠れているのが惜しまれるぐらいだ。まぁ、それでも大事に保存するのには変わらない。これは大切な思い出だからな。

 

「……良く撮れてる」

「あぁ、有言実行だろう?」

「……ドヤ顔」

「否定はしない」

 

寧ろできない、が近いのだろうか?たかが写真一枚、されど一枚なのだが、反応が幼稚過ぎたかもしれない。いや、大事な写真だからこそ……よし、このまま押し通す事にしよう。そうとも、それがいい。

 

「雰囲気がコロコロと変わる、ね」

「……言わんでくれ」

 

これは……そう、悦に入っているだけだから気にしないで欲しい。

 

「ふふっ……じゃぁ、言わないであげる」

「頼む」

 

そうでないと心が折れそうだ。

 

そしてフレームを選び、再び落書きの時間となったのだが、話し合ってあえて落書きはしないことになった。落書きこそプリクラの醍醐味であるかもしれないが、そうすると先程の様に台無しにしてしまいそうだったから止めたのだ。寧ろ、このプリクラに落書きをする方がおかしいだろう。

 

(まぁ、次の機会があれば、だな)

 

今回は最初ので十分だ。だが、もし次があるとしたらその時は面白おかしく、それでいてやり過ぎない程度に落書きすればいい。だからそれまではお預け、と言う事にしておこう。

 

「さて、次はどこに行こうか?」

 

受け取ったプリクラとサングラスをバックにしまって簪に尋ねる。

 

「……占い、がいいかな」

「占いの筐体があるのか?」

 

占いと言えばやはり運勢占いや相性占いがあるが……どうなのだろうな?いや、確かに簪との相性はどうなのか非常に気になるところだし、占いという発言の意図も気になった。そしてそれとは別に他に占いと言えば何か?とも思った。

 

「うん。変な占いばかり選ばれるから、結構有名」

「変な占い?」

 

疑問に思ったので更に尋ねてみると、その占いの筐体は『ランダム占い』と言う名称で、名前と誕生日、血液型を入力して後は占う種類をランダムで選択、結果を出す方式らしい。そしてそのランダムというのが曲者らしく、まともな占いが選ばれた例が非常に少ないらしい。そして面白いのが不思議な事に内容が必ず当たらずとも遠からずで、挑戦した人は少しドキッとする事を言われるそうなのだ。

 

「ちょっと面白そう、だよね」

「そうだな。その気持ちは分からんでもない」

 

女性は……あれだ、確か占いをかなり気にする方のだろう?まぁ、それは関係ないにしても私も興味はある。例えるなら自販機にあるゲテモノの飲料水につい手を出してみたくなる様な感覚だ。一体どんな突拍子も無い占いを選ぶのか気になるところである。だが――

 

(……残念、か)

 

何が、とは言わない。

 

ただ、私は簪が興味本位で占いの筐体を選んだのが解って残念だと思ってしまったのだ。いや、説明の時点で既に解りきっていた事なのだが、それでも残念である事には変わりなかった。

 

「そう言えば、簪の誕生日は何月だ?」

「後で、教えてあげる」

「そうか」

 

私は頷き、そのまま簪の案内で占いの筐体がある場所まで向かった。そしてたどり着いた時には丁度利用者が居なかったので順番待ちをする事なく筐体の前に立つことができたので、ワンコインを入れて字幕に従いながら操作し始めた。

 

「椿の誕生日は七月、なんだ」

「あぁ。約一か月後に十九歳になる」

 

細かく言えば七月六日が私の誕生日。タイムスケジュール通りに予定が進むのなら丁度臨海学校初日にあたるのだ。そして臨海学校といえばまさに正念場とも言えるタイミングであり、そんな中で歳を一つ重ねる事になる。

 

「プレゼント、用意しないと」

「……いいのか?」

「うん。遠慮しなくて、いいよ」

「なら、楽しみにしている」

 

今までは最早どうでもいいと思っていた誕生日だが、これで楽しみが一つ増えた。

 

「それで……簪は十一月なのか。その時はお返し、というと語弊はあるが、期待してくれ」

 

その時、私達がどのような関係になっていかはわからない。だが、これぐらいなら、許されてもいいはずだ。今は関係がはっきりとする時ではないのだから。

 

簪は今から楽しみ、と言って微笑みながらタッチパネルを操作し、残りの記入を終えた。そうすると画面が切り替わり、如何にも占い屋敷と言う様な空間にデフォルメされた妙に胡散臭そうなキャラクターが現れた。

 

『ようこそ、我が館へ。この繰り返される世界に訪れた時の旅人達よ』

 

妙に芝居がかった口上を如何にもな雰囲気を醸し出すBGMが流れ出すと同時に述べ始め、運命のランダム占いが始まった。

 

(しかしランダム占い、か)

 

妙に長い口上を聞き流しながらこの占いの事を考える。

 

――一体どんな下らない占いとその結果になるのだろうか?

 

――もし、これが王道の占いで、仮に恋愛占いだったらどう反応するべきだろうか?

 

――そして仮に出た結果をどう受け入れるべきだろうか?

 

「ちょっと、長い?」

「ん、そうだな」

 

物思いに耽るのを中断して頷く。確かに簪の言う通り長い。いや、焦らすと言う意味ではそれはそれでありかもしれんが……まぁ、別に良いか。

 

「……あ、飛ばせるんだ」

 

簪がぽつりと漏らした一言で画面をくまなく探してみると、絶妙な位置にスキップボタンが背景に溶け込む様に存在していた。どうやらこれを作った人物はかなり意地の悪い性格をしているらしい。

 

「どうする、飛ばすか?」

「このままで、いい」

 

簪は画面を食い入るように眺めて答えたので私は言う通りにした。まぁ、何度もやっているのなら未だしも、初めてなら何であれ最後まで聞きたいのは当然か。

 

『――さぁ、そんな貴方達に合う占いはこれだ』

 

とうとう来た。飛ばさない、と言う簪の意思をくみ取って待っていると、程なくして終わりが見えてきた。画面には靄の様ななにかでタイトルを隠した枠が現れ、そして徐々に靄が薄れてタイトルが明らかになってくる。

 

私は自然と画面を食い入る様に見つめる。

 

周囲のやかましい音や焦らしてくる様なBGMも何もかもが耳に入らない。ただ、期待と不安、そしてどこか達観めいた感情だけが心の中で混在していた。

 

そしてタイトルが顕になる。

 

『前世の関係』

 

関係、と言うワードもそうだが、それ以上に前世、と言うワードに私はドキっとした。だが、同時に当たらずとも遠からず、という言葉に納得した瞬間でもあった。

 

「関係……」

 

簪のつぶやきを耳にしながらタッチパネルを操作して次に進ませる。そうすると再びデフォルメされた占い師がタイトルと取って代わる様に現れ、内容を語り始めた。

 

『ふむ。これはこれは……少し話はそれるが、どうやら占いによれば違う場所、違う時間の流れにおいても、貴方達は必ず出会うと出ている。いやはや、これは実に興味深い』

 

……必ず出会う、か。随分とロマンスに溢れている。

 

『しかしその関係は様々。過程一つ変わるだけで全てが変わる。そう、恋人、友人、知人……例を挙げればきりがない。だが、必ず出会う。それだけは確かだと言えよう。今がそうであるように。そして本題の前世に置いては……唯一無二の親友の間柄だったそうだ』

 

前世は親友、か。

 

人生はきっかけがあれば幾らでもその『色』を変える。嘗ての私が、そして今の私がそうである様に。簪達との出会いがその証明だろう。過程一つ変わるだけで……あぁ、もし違う出会い方をしたら今の私とは全く違う『私』になっていただろう。

 

(ここは共感できる部分だ)

 

占いも捨てたものではないと思いながら続きを見る。

 

『さて、最後に幸運の色を貴方達に示そう。天枷椿よ、貴方には黒が。更識簪よ、貴方には銀が幸運を呼び寄せる鍵となるだろう。それをどう捉えるかは貴方達の自由。示した通りにするもよし、しなくてもよし。所詮は占い。この繰り返される世界は我の力を持っても見抜けぬ事もあるのだから』

 

黒、か。丁度古鷹のヘッドフォンを身に付けているが、簪は……無さそうだ。

 

(あぁ、あったな)

 

アレを、渡せばいいのか。そうだな、それがいい。

 

『さぁ、これで占いは終わり。ここは時の狭間に埋もれた館。もし数奇な運命の導きで出会うことがあったら、また占うこともあるだろう』

 

そしてスタート画面に戻り、筐体の下部から占いの結果が書かれた紙が二枚排出された。私はそれを取ると、二枚とも先程と同じような文面が書かれている事を確認して一枚を簪に差し出した。

 

「ん……ありがと」

 

紙を受け取った時の簪は心なしか嬉しそうな声音だった。そしてその理由は解る。

 

『必ず出会う』

 

直接関係の発展に関わる様なものではなかったが、この言葉が無性に嬉しいと感じられたのだ。きっと簪も同じ感想を抱いているだろう。

 

「それともう一つ、受け取って欲しいものがある」

「もう一つ?」

「あぁ、これなんだが……どうだろうか?」

 

私は買物袋に入れてある銀色の円柱型ロケットを掲げて見せた。そう、簪のラッキーカラーであるシルバーカラーのロケットである。

 

「……これ、大事な物じゃないの?」

「ふむ、どうしてそう思う?」

「選んでた時に、その、大切そうに触ってたから」

「よく見ていたな」

 

これを見つけた時、私は衝動的に買ってしまった。

 

そう、これは現世の私が、父に選んでもらって母の日に母親にプレゼントしたのと同じ物なのだ。何が入っていたのかは母しかしらない。そしてそれは事故で失ってしまったことで永遠にわからなくなったのである。

 

「だったら――「簪になら」……」

「簪になら渡しても良いと思ったからだ」

 

買った当初は自己満足の為だった。だが、いつまでも過去を引きずったままではいけないと、今日簪と共に過ごす事で改めて思い直したのだ。

 

過去にすがるは、もう終わりにする。

 

少しでも今の自分を変えたい。

 

ならば、行動を起こさなければない。

 

「だから、受け取って欲しい」

 

手放すのに丁度良かったからという理由は否定はしない。確かに心の何処かに存在するのだ。

 

大切な物を大切な人に贈る。

 

しかし、これこそが私の渡す最も強い理由である。これから渡すのは簪の為に贈る物だ。母がどうのこうのは関係ない。詭弁だと言われてもいい。どんな批判も受け入れよう。私にとっては、清濁併せ呑んでこそ意味があるのだから。

 

それこそが、誠実だと私は思うから。

 

「……だったら、お願いがある」

「なんだ?」

「その、椿に、掛けて欲しい」

 

今、ここで、という意味なのだろう。

 

「ありがとう」

 

受け取ってくれて、ありがとう。

 

「……私の台詞」

「いいや、私の台詞だ」

 

私の方が一番嬉しいからな。

 

これ以上は堂々巡りになると思った私は簪に二の句を継がせず、ロケットの商品タグを外して準備に入った。そうすると簪は膨れっ面になったが、すぐにそれを引っ込め、視線で私に準備ができたと投げかけてきた。

 

……。

 

(……馬鹿らしい)

 

もしここで焦らしたらどうなるのだろう?と一瞬脳裏を過ぎったが、すぐに記憶の片隅に投げやった。確かに膨れっ面は可愛いし、嗜虐心をくすぐられるものがあるが、それよりももっと似合う表情があるのだから。

 

私はロケットをかけ終えた後、一歩引いて終わった事を伝えた。

 

「ん……どう、かな?」

「あぁ、よく似合っている」

 

こんな時、己の語彙力のなさが恨めしくなる。今この時こそ気持ちを伝えるべきなのに、それができないのだから。それはそれで良いと言う人もいるかもしれないが……どうも釈然としない。

 

「……ありがと」

 

しかし、そんな私の気持ちとは裏腹に簪は微笑んでくれた。

 

(やはり、いい)

 

そう、これこそが私の見たかった表情なのだ。恥ずかしがってる顔よりも、少し怒った様な顔よりも、膨れっ面よりも、この微笑みが見たいのだ。この表情さえ見れれば、私は何だって出来る気になれる。

 

「さて、次は何をしようか?」

 

釈然としない気持ちはどこかへ吹き飛んだ。気合は十分。今なら私は実力以上のものを発揮できるだろう。

 

 

 

――公園――

 

ゲームセンターで遊んだ後、私達は公園に来ていた。

 

(ちょっと、懐かしい)

 

ここは初めて本音と椿の三人でお出かけして、最後に休んでいた公園。ミックスベリー――苺のクレープとブルーベリーのクレープを三人で食べ合いっこしていた場所だった。

 

「遊び疲れたな」

「……うん」

 

シューティングゲームで椿のカッコイイ所を見たり、クイズゲームで雑学勝負したり、リズムゲームで椿が不器用ながらもちゃんとタイミングよくパネルを踏んでフルコンボをだしたのを驚いたり、とにかく一杯見て遊んだ。ただ、クレーンゲームで私が何度挑戦しても取れなかったヒーロー物のストラップを初めてクレーンゲームに挑戦する椿が一発で取れたのが悔しかった。

 

「それにしても時間が経つのが早い」

「そう、だね」

 

でも、それだけ濃い時間の過ごし方だったという事の裏返しだと思う。けど、振り返ってみると少し勿体無い。とっても楽しい時間だったけど、もっと楽しめれたんじゃないかな?って思ってしまう。

 

たった一日だけなんて、全然足りない。

 

少しでも長く一緒にいたい。

 

もっと色んな事をして、沢山思い出を作りたい。

 

「ふむ……少し時間も余ってることだし、散歩しようか。前に来た時は回らなかったからな」

 

椿の提案で思い出に耽るのをやめて頷く。そして私は椿と腕を組もうとして――止めた。

 

「そ、その、お願いが、ある」

「ん、何だ?」

「手を、繋いで欲しい」

「いや、しかしだな」

「……ダメ?」

「………………わかった」

 

凄く悩んでたけど、いいよって言ってくれた。でも――

 

「その、本当にダメだったらダメで、いいよ」

 

お願いを聞いてくれたのは素直に嬉しい。でも、自分で言うのもなんだけど、ダメならダメでちゃんと断って欲しい。言われたら残念だと思うけど、それも大切な事だと思うから。

 

「そんな事はない」

 

椿は言い切って包帯で巻かれた私の手を優しく包み込む様に握り締めて歩き出した。少しポカンとしてたから出遅れて慌てて歩き出すと、直ぐに歩調を合わせてくれた。

 

ゆっくりと、穏やかな雰囲気で歩く。

 

少しづつ暗くなる景色やじゃれあう子供達の声、遠くから聞こえてくる街の喧騒も全部心地いい。会話が無くても、それだけで十分。何より、この感覚を好きな人と一緒に感じられる事がとっても嬉しかった。

 

そしてそんな中で私は今までの、椿との出来事を思い返していた。

 

初めて出会った事、名前で呼び合う様になった事、そして――

 

(好きになった事)

 

勿論、他にもいい事があったし、悪いこともあった。一日じゃ語り尽くせないくらい色々な事があって、でも未だ二ヶ月ぐらいしか経ってないって思うと、まるで嘘の様だった。でも、それは紛れもない現実で、今も胸の奥が熱くて、ドキドキするそれが現実だって事を証明してくれる。

 

「……えへへ」

 

自然と、笑みがこぼれてしまう。

 

「ん、どうした?」

 

大好きな人の、優しい声。

 

「何でもない、よ」

 

今この時がとっても幸せだから、笑っただけだから。

 

椿はそうか、と呟いて前を向いた。表情を伺ってみると相変わらず前髪の絶妙な位置で目元が全く見えないけど、雰囲気から私と同じ気持ちなんだって伝わってくる。

 

椿は雰囲気で色々と解りやすいって気付いたのは何時頃からだったのかは覚えてない。でも、それは別に思い出さなくてもいいと私は思ってる。だって、嘘偽りなくそれが本当の気持ちだって分かるから。

 

だから、もっと嬉しくなる。

 

「簪」

「え、ひゃ……な、何?」

 

いつの間にか椿が見つめ返して名前を呼んできたから驚いて返しが変になった。同時に足も止まって椿がおっとっと、と苦笑しながら少し遅れて立ち止まった。

 

……恥ずかしい。

 

「その、なんだ。急に呼んですまない」

「だ、大丈夫……」

 

私は恥ずかしくて穴に入りたい衝動をどうにか耐えてどうしたの、と改めて問い返す事にした。すると椿は少し気恥ずかしそうになりながら口を開いた。

 

「あぁいや、ただ、そのロケットをそんなに気に入ってくれたんだな、と言いたくてな」

 

そんなに、と言われて今一ピンと来なかった。でも、椿が台詞と同時に向けてきた指先をたどって視線を下げてみるとそんなに、の意味が分かった。

 

「……うん」

 

私が無意識に椿にかけてもらったロケットを握りしめていたから。

 

「絶対、大切にする」

 

中に入ってるのは特にお気に入りのプリクラ。曲げるの少しはもったいなかったけど、それでも優しく、そして強く抱きしめられて、大切にしてくれているのが言葉にしなくても伝わってきたあの時間を、絶対に忘れたくないから。

 

そして私の答えに椿は安心したような、それでいて嬉しそうな笑みを浮かべて――次にまたバツの悪そうな顔をした。今日の椿は百面相、と思いつつ私はどうしたの、と聞いてみることにした。

 

「いやな、やはり気になってしかたがないのだがそのチョーカーにはどんな秘密があるのか、差し障りがなければ是非とも教えて欲しいのものだと思ってだな……」

 

その事が聞きたいんだ。でも――

 

「教えない」

 

きっぱりと断る。

 

「どうしても?」

「……うん。秘密だから」

 

もし教えてたら……もう、後戻りはできないから。

 

『I'm yours』

 

チョーカーの裏側にはこう書かれている。パンクファッションでデザインとして書かれている中でも珍しい……と思う。それはともかく、この文字こそが椿に教えれない理由。これを見つけた時、思わずあっ、と声に出して椿に気付かれてこれを見られるのが恥ずかしいからと言う理由で買ったけど、今はもう後悔してない。

 

「そこを何とか……とはならんのだな」

「……女の秘密は教えてあげません」

 

ぬぅ、と口にしながらそれでも気になると言いたげな視線を向けても教えてあげない。私はクスクスと笑いながら手を引いて歩き出して少しだけ考え事をする。

 

(今は……今は未だ、こんな関係でもいい、よね)

 

友達以上、恋人未満の関係。

 

今まで自分の気持ちが抑えられなくなった事が何度かあった。でも、その度に理由をつけて見え透いた誤魔化しをしていた。でも、そろそろそれも終わりにする。私は……私は、ちゃんと自分の気持ちを椿に伝えようと思う。

 

何もせずに、後悔はだけは絶対にしたくないから。

 

どんな結果になってもいいから。

 

本当の気持ちを伝えたい。

 

だけどその前に――

 

「椿」

「ん?」

「……今日は、楽しかったね」

「そうだな。だが、まだ終わってないぞ」

「うん!」

 

その前に、今はこの幸せを精一杯感じていたい。

 





プリクラの設定はただイチャつかせるためのオリジナル設定。
しかし色々とやりすぎた気がする。まさかプリクラの話だけで7000オーバー……。
さて、簪が自ら関係を進める事を静かに決意しました。
これで今の関係も加速することでしょう。
次回はIS学園に戻る……と言いたいのですが、一話だけ寄り道する予定です。
話の展開に必要な内容なので、どこに差し込むか悩んだのですが、この話の次に差し込む事にしました。

それでは。



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