ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第四十三話 I'm yours/You're mine 中編

――カフェ――

 

「――ごちそうさま」

「ごちそうさま、でした」

 

私達は買い物の後、何処でお昼ご飯を食べるかを相談しながら歩いている最中、隠れ家見たいなカフェを見つけて、そこでご飯を食べる事にした。そしてたった今、食べ終わった。

 

「……満足?」

「あぁ、偶には良いな」

「偶にじゃ、ダメ」

「……解った」

 

椿は少しだけ口をへの字にしながら頷いた。

 

私は椿が普段、お昼を全然食べないから少し心配していた。だからこれを機にもっと食べる様にして欲しい――ってまるで私がお母さん見たい。でも、それとは関係無しにちゃんと食べないとダメだと思う。それに、私だけ食べるのも……その、私が食いしん坊見たいに見えるのもある、から。

 

因みにお昼に食べたのは私がグラタンで椿はリゾット。飲み物は私がオレンジジュースで、椿はダージリン。勿論、ご飯を食べてる時はお願いしてリゾットを食べさせてもらった。とっても役得だったけど、逆に私が椿にグラタンを食べさせようとするとダメって言われたから出来無かった。怪我を心配してくれるのは嬉しいけど……残念。

 

「しかし、色々買ったな」

 

椿は話題を変えようとしたのか、ぼそりと呟きながら席の横に置いてある買い物袋に視線を向けていた。私も釣られて買い物袋を見ると、大きめの紙袋がそこにあった。

 

椿はこれを持ち運ぶ時に小さな声で重い、と呟いてたから、結構重い筈。少し買いすぎちゃったと今更ながらに思ったけど、色々と買いたいのがあったから、しょうが無い。だって今まではISの訓練とか、弍式に時間を使ってたし、それ以外は……アニメを見てたからお洋服とかは余り持ってないから……うん。つい、ハメ外しちゃったと思う。

 

「……ご、ごめんなさい」

「いや、不満はないんだ。ただ感慨深い、と思っただけだ」

「そ、そういう訳じゃ、ない」

 

慌てて否定すると、椿はでは?と首をかしげる。

 

どうやって伝えよう。私は、椿と二人きりで居られるのが嬉しくて、買い物にも熱が入って遠慮無しになったのを悪いと思って、それを無意識で呟いてしまっただけ。でも、その事をそのまま伝えるのは恥ずかしいし……うぅ。

 

「と、とにかく、椿が思ってる事に対してじゃない、から」

「……そうか。まぁ私も楽しかったよ、色々と知れたからな。そう、色々とな」

 

色々の部分はきっと私のセンスについてだと思う。だって、今の椿はさっきまでは優しい顔をしてたのに、一変してちょっと意地悪な笑みを浮かべた顔になっているから。

 

「……眼鏡好き」

「ダサグラサン」

 

私の言葉に椿は間髪を容れずに切り返してきた。

 

少しむっとした。

 

私のセンスは悪くないもん。だって、絶対に椿はエースパイロット御用達のティアドロップ型のサングラスが似合う筈だから。なのに椿は絶対に合わないって言ったから、じゃぁと思って他の格好良いのを選んできたのに、今度は私は兄貴じゃないって訳の解らない理由で突っぱねて挙句の果てに今みたいにダサグラサンって言われた。眼鏡とかサングラスはタブーかなって思ったから遠慮してたけど、椿が選んで欲しいって言ったから選んだのにあんまりだと思った。結局上縁のスポーツサングラスで妥協したけど……うん。

 

「……熱くなってた」

 

椿は眼鏡を選ぶ時やけに熱心だった。私は普段かけてるのと同じのを選ぼうとしたのに、それは勿体無いって言いながら色んな種類の眼鏡を持ってきたし、心なしか何時もより動きが機敏だったから、眼鏡好きかな?って思った。だから少しだけカマかけしてみたけど、手応えありだったから間違い無いと思う。

 

「簪も、だろう?」

「熱くなってない」

「クククッ、意地っ張りめ」

「……知らないっ」

 

私はそっぽを向きながら残ったオレンジジュースをストローで吸った。でも、元々残ってたのが少ないから、すぐに無くなって気の抜けた音が響いた。

 

……むぅ。

 

「その、何だ。むくれないで欲しい。選んでくれた事は嬉しいかったらな。意外な一面も知れたし、何よりも感謝している」

「……感謝?」

「あぁ。あれやこれやと文句が多かったのはすまないと思っているが……その、なんだ。とにかく、改めて礼を言わせて欲しい」

 

椿は頬を掻きながら言いにくそうにしてたけど、最後は姿勢を正して私をまっすぐ見つめてきた。

 

「付き合ってくれて、ありがとう」

 

そう言って椿は笑った。

 

(……やっぱり、ずるい)

 

今の椿は優しい笑みを浮かべている。

 

この時ばかりは自分が単純なんだな、て思う。私は普段の椿の笑みも好き。でも、今浮かべている笑みが、私に向けてくれる優しい笑みが一番好き。だから、悔しいと思ってそっぽを向いてもその笑みを両目に焼き付けたくて、前を向いてしまう。

 

「だったら、許してあげる」

 

だから、椿はずるい。

 

椿は一瞬だけキョトンとした顔になったけど、また笑みを浮かべてもう一度ありがとうって呟いてカップに残ったダージリンを飲み干して立ち上がった。

 

「さて、次は何処に行こうか?」

「映画館、がいいな」

 

私は少し考えて答えた。

 

「映画、か」

「うん」

「ん……解った。これから今の時間帯に上映中のを調べるから、少し待って欲しい」

 

ちゃんと意図が伝わった。

 

椿は懐から携帯端末を取り出した。少しして調べ終えたみたいで、携帯端末を私に見える様に差し出してきた。私は受け取って画面を見てみると、タイトルが二つあって、一つは私が見たかった勧善懲悪のヒーロー物。もう一つはよく解らないけど、外国の恋愛映画だった。

 

「今の時間に上映しているのはその二つだ。どちらを見たい?」

 

少し意地の悪い笑みを浮かべながら聞いてくる。

 

椿は私がヒーロー物の映画を絶対選ぶと決め付けているから、きっと何か弄るネタを思いついたのかもしれない。そう思うと、このまま意図に乗せられるのは少し癪に障る。だから――

 

「こっちを、見たい」

 

私は恋愛映画を選んだ。

 

本当はヒーロー物の映画を見たい。見たくて見たくてたまらない。映画館だからこその魅力があるから。でも、私だって……その、恋愛映画には興味ある。す、少し参考にしたいのもあるし、何よりこのまま椿の思惑に嵌るのは嫌。だから、意表を突く……!!

 

「本当に、それでいいのか?」

 

笑みを深めて最終確認をしてくる。

 

……うぅ。

 

「こ、今度、DVD買うから、一緒に、見よ?」

 

これは、妥協。だから仕方が無い。……決して負け惜しみじゃない、もん。

 

「あぁ、構わない」

 

椿はしたり顔で頷いた。

 

きっと最初から素直になればいい、と思ってる筈。確かにそうだけど、私=ヒーロー物一択って思われるのは、ほんの少しだけ不満だった。

 

そして椿は会計を済ませて来ると言って席を外した。自分の分は自分で払うって私は言ったけど、払わせて欲しいと押し切られてしまった。

 

私だってちゃんとお金は持ってきてる。だから、今度はちゃんと自分の分は自分で払うって言おう。押しに弱いけど、ちゃんと言わないと、意思を示さないと駄目だから。

 

(……頑張る)

 

椿のお陰で私は前向きになれた。勿論、まだまだ直す所はある。今日だって自分の押しに弱さに痛感された。だから、ほんの些細な所からでもいいから、直していきたい。

 

その後、椿が会計を済ませて戻ってきたんだけど、また意地の悪いを笑みを浮かべていた。

 

これで3回目。

 

私はなんでだろうって疑問に思ったけど、椿が私がガッツポーズをしているぞ、と教えてくれた。私はえっ?て思いながら自分の手を見てみると、椿が言ってたとおり手を握りしめていた。

 

「ッ~~~!?!?」

 

痛い。しかも見られてた……恥ずかしい。

 

椿はそんな私の様子を見て何に気合を入れたのやら、と言って笑っていた。私がむっとして睨むとすまん、と言って肩をすくめた。そして唐突に近づいてきて私の頭に手を置いて――撫で始めた。

 

気持ちいい……ってそうじゃなくて。

 

「な、ななな何……?」

「……嫌、か?」

 

私は撫でられながらも首を横に振った。

 

嫌じゃない。嫌じゃないけど、ちゃんと止めて、と言わなきゃ駄目。頑張るって決めたから。でも、止めて欲しくなくて、言葉が喉の奥で突っかかって出てこない。

 

(……私の、バカ)

 

ちゃんと、止めてって言わないと、駄目なのに。

 

その後、少しの間されるがままになった。

 

椿が止めた時は、もう終わっちゃうの?と、催促しそうになってしまって、とても恥ずかしかった。それに、結局、撫でられてる最中もまともに喋れなかったし……うぅ。

 

(頑張る、もん)

 

私は心の中でもう一度呟いて、椿と一緒にお店を出た。

 

 

 

 

――映画館――

 

私達は映画館にたどり着いた後、それぞれ自分の分の料金を払って入場し、予告を見ながら上映するのを待っていた。そう、席と席の間に定番とも言えるだろうポップコーン(簪は買わなかった)を置いて時折つまみながらである。因みに客数は少なく、どうやらそんなに人気は無いらしい事が薄々と感じられた。そんな中私は少し考え事をしていた。

 

内容は喫茶店での出来事についてである。

 

会計を済ませて戻った時、簪が小さくガッツポーズをしてたのを見て思わずからかいたくなったのだ。実際、私が指摘した時に痛みを思い出して痛がってたのは、悪いとは思ったが少し笑ってしまった。それに、あの時の簪は何処か背伸びしている様に見えて、とても微笑ましかった。

 

だからなのだろう、無意識に頭を撫でてしまったのは。

 

ただ微笑ましくて、愛おしくて。

 

撫でてしまった時はやってしまった、と思った。そして簪に何故と聞かれた時は適した答えが出せず、寧ろ聞き返してしまったのだ。

 

(矛盾している)

 

行動と考えが一致しない。

 

最近の私は、言葉にするよりも行動する方が多くなってきている。行き過ぎた行動で嫌われなくないと思っているのに無意識にその先を、感情が先走って行動に移していた。そしてその後にはいつも何故だろう、と疑問とやってしまったことに対する多少の後悔が最後に残ってしまう。

 

いっそのこと、何もかも吹っ切れてしまえばどれだけ楽になるのだろうか?こんなに悩む必要はないのだろうか?そしてそれを考えている以上――

 

「椿」

 

私は簪に話し掛けられ、思考を中断する。

 

「……何だ?」

「私は、楽しいよ」

「……私の考えは、読まれやすいのだろうか?」

「ちょっと、違う。雰囲気で何となく、解る」

 

雰囲気で解りやすい、か。

 

「なんとなく、犬みたい。……チョーカー、椿の方が似合う、かも?」

「おい」

 

誰が私のチョーカーを付けた姿を見て得をするんだ、と言いながら睨んだら簪はクスクスと笑いながら知らない、と返して前を向いてしまった。どうやら先程の仕返しらしい。

 

まったく、と呟きながらため息をつく。

 

(しかし恋愛映画、か)

 

指摘された事に関しては後回しにするとして、あの時は簪を弄っていたのでそんなに意識していなかったが、この際だからと今からみる映画について改めて考えてみる。

 

私はこの映画に対しては期待半分、いや、本音を言えばそんなに期待してはいなかった。他の客の姿も少ないのも後押ししているだろう。だが、それとなく興味はあるのだ。

 

どの様に想いを育み、そして実らせるのだろうか?

 

ついでに話も面白ければ御の字なのだが……まぁ、期待はしないでおこう。せめて最後までまともに見れるようなものであって欲しいとは思うがな。

 

『本日は、当劇場にお越しいただき、誠にありがとうございます。上映中は――』

 

アナウンスが入り、辺りが暗くなった。

 

私は簪の様子が気になってそっと横に視線を送ってみると、どうやらそれなりに楽しみにしているらしく、表情にこそ出していなかったが、そわそわとした雰囲気が伝わって来た。

 

そして本編が始まった。

 

お昼の時はタイトルしか調べなかったので事前情報は皆無だが、どうやら主人公達は共に二十代で、職場での出会いがきっかけの、所謂大人の恋愛をテーマにした映画らしい。

 

これはこれで面白そうだと思ったのだが、特に彼等の背景に心躍らせる様な設定はなく、恋敵もなければ浮気相手もいない、淡々と互いの心理描写を綴ったものであった。しかも余りにも淡々としすぎていて今一ピンと来ない。

 

退屈であくびが出そうになる、

 

確かに、お互いがお互いを思いやっているのは見ていて解る。解るのだが、映画だからこそ彼等にはぶつかり合って欲しいし、すれ違う事もして欲しい。2時間30分と言う短い時間にありあとあらゆるモノを詰め込んで欲しかったのだ。

 

退屈紛れに私は何となく簪の方に視線を向けてみると、彼女は私とは真逆で、画面を食い入る様に――一挙一動を見逃さんと言わんばかりに見つめていた。

 

気に入った……と言う訳ではないらしい。

 

寧ろ気に入らないからこそ少しでも理解する為に見逃さない様にしているのかもしれない。証拠に時折厳しい視線を向けたり、聞き取るこそできなかったが、何かをボソボソと呟いていた。

 

生真面目だな、と思う。生来の気質なのだろう。押され弱かったり、後ろ向きになっていても、この生真面目さがあるからこそ一本の芯が通った強さ持っていたと言っても過言ではない筈だ。そしてそれは既に行動で示している。

 

(……だからこそ、惚れてしまったのだろうな)

 

その強さに、私は惹かれた。そして時折見せてくれる年不相応の、しかし背伸びした訳でもない大人の笑みが何よりも好きなのだ。無論、今こうして真剣に映画を見てる表情にも惹かれるものがあるし、ずっと見つめていても飽きない。映画を見るよりも有意義だといっても過言ではない。

 

そして簪を見つめ続けると、とある事を思いついた。

 

私はポップコーンをひとつまみして、そっと簪の口の前に差し出してみた。そうすると簪は特に嫌がる素振りを見せず、パクっと食べてよく噛みながらしながら映画を見ていた。おそらく無意識なのだろう。

 

(……うむ)

 

ポッキーを食べさせた時もそうだったが、これは癖になる。何と言うべきか、こう、とにかくグッとくるものがあるのだ。言葉には言い表せないのが本当に残念なくらいだ。

 

私はこの退屈な時間の中、一つの癒しを見つけた。そしてまたポップコーンをひとつまみして簪に差し出した。そして食べる様子を見て癒される。堪らん。

 

しかしそんな時間は長く続く訳もなく、唐突にそれは始まった。

 

所謂一つの―――濡れ場である。

 

『愛してるよ』

『えぇ、私も愛しているわ』

 

捻りのない、ストレートな愛の囁き合いに自然と視線が画面へと向く。

 

私は失念していた。

 

これは恋愛映画、更に言えば海外で制作されたものである。性に対してはこと日本よりもオープンであり、当然の如く濡れ場はあるのだ。

 

そして現在画面では主人公達の気分はいよいよ最高潮に達しており、お互いに抱き締め合いながらディープキス、その後に主人公がヒロインの服を脱がし始め、濡れ場が始まった。流石にアダルトビデオの様に露骨ではなく、薄暗くて大事な部分を見えない様にはなっているが、それでも見えている所は見えているし、行為をしている最中には変わりないのだ。

 

ここで話しはそれるが、私は情事に興味がある。

 

公言すれば世間からの目は冷たくなるしするつもりもないが、男なら寧ろ当然だ。公然の秘密と言い換えてもいい。付き合いは薄かったが高校生時代に猥談に参加もしていたからな。しかし、今こうして異性――簪と居る状況でこれをただボケっとしたまま見る訳にもいかないのだ。

 

言わなくてもわかるだろうが、要は非常に気まずいのである。

 

私は身体中から冷や汗が滲み出るのを感じながら再び簪へと顔を向けた。何故、と問われれば気になったから、としか言いようがない。そして視界には暗がりの中でもはっきりとわかる程に顔から首までを朱に染め、しかし画面から顔を背けず、寧ろ食い入る様に見つめながらあわあわとしていた姿が入った。そして簪はハッとした様な顔をして――私の方へ向いた。

 

向き合って、見つめ合ってしまった。

 

「「ッ!?」」

 

あわてて目を逸らし、気を紛らわせる為にポップコーンをつまもうとして――無かった。何と酷い仕打ちなのだろうか。どうやら簪に与えるのと、次いで自分で食べている内に無くなってしまったらしい。主に私のせいだが。

 

私はどうしようかと内心で焦ってるのを余所に、スクリーンでは未だ行為が続けられており、ヒロインの肢体はダイナミックに揺れて――視界が何者かに塞がれてしまった。

 

「み、見ちゃ、だめ……!!」

 

消え入りそうなほど小さな声。

 

声の主が簪だと理解しするのに少し時間がかかった。そして私が頷くと、手を離す訳でもなく、そのまま行為が終わるまで塞がれ続けた。しかし視界を塞いでも音までは遮断する事は出来ず、ヒロインが恥じらいもなく漏らすあでやかな声に、寧ろ余計な想像を掻き立てられてしまい、状況は悪化の一途を辿っていった。

 

(……どうして、こうなった?)

 

こうなるのならヒーロー物を選んだ方が良かったと思わずにはいられない。策士策に溺れる、とはまさにこのことだろう、と余計な考えが脳裏を過っていった。

 

 

 

 

上映が終わり、私達は外へ出た。結局あの映画には濡れ場が何度かあり、その度に気まずい雰囲気になりながら簪に視界を塞がれ、そしてその度に無駄な想像力を働かせてしまい、気分は至って最悪である。

 

「簪」

「な、なに?」

 

私が名を呼ぶと、簪は相変わらず赤くなりながらも上目遣いで私の方を見た。思わず抱き締めたくなる衝動を理性で抑えつけつつ、私はこの気まずい雰囲気を打破す為に策を弄した。

 

「次は、ゲームセンターに行こう」

「げ、ゲームセンター?」

 

簪は私の切り出しが予想外なのか、恥じらうよりも戸惑う事を優先させて問い返してきた。ここまでは私にとって想定内。私が噛んだり声が上ずっていたら失敗だったが、これなら上手くだろう。

 

そう、私は周りの雰囲気を利用する事にしたのだ。今、こうして映画館の前は静かであり、気まずさを増長させてしまうが、ゲームセンターなら、無論ゲームセンターに限らず人が多く集まり、楽しむ空間に入り込んでしまえば場の雰囲気に感化されるはずなのだ。

 

「一緒に楽しめるものもある筈だが……なんだ、別のところが良いのか?」

「ううん……それで、いいよ」

 

では行こうか、と返し、足早にゲームセンターへと向かう。一方の簪は慌てながら小走りで隣に並ぼうとしており、内心、やはりチョーカーは簪が似合う、と思わず笑みが溢れてしまった。

 

互いに無言で並びながら歩く。

 

「あ、あの……椿」

 

沈黙が気まずかったのか、簪が話し掛けてきた。

 

「どうした?」

「え、映画……どう、だった?」

 

……何と答えようか。

 

答えに詰まる質問だ。つまらない、の一言で切り捨ててしまえば簡単なのだろうが、それでは私とは違い、理解する為に真剣に見ていた簪に申し訳ない。だが、だからと言って強く印象に残るのは濡れ場。気恥ずかしさもある。だが、それ以上に私の解答によって簪に不快を与える事だけはしたくないのだ。

 

記憶を掘り出し、考えをまとめて答える。

 

「少し、淡々としすぎていた。だが……それでもいいと思った」

「どう、して?」

「彼は彼女だけを見ていた。脇目も振らず、ただ愛していた……少々刺激が強かったがな」

 

物語という点で見れば正直すぐに飽きる。実際、私は途中で飽きていたのだが……とにかく、登場人物達に目を向ければどうだろうか?

 

確かにぶつかり合う描写は殆ど無かった。だが、これは彼等がお互いをしっかりと理解し、そして何よりも軸がぶれていなかったからだ、と言う裏返しでもあるはずだ。

 

これは大人の恋愛。

 

そう、未熟な中高生の甘い青春ではないのだ。そしてそう言う視点で見れば、ある意味で彼等の恋愛模様こそが辿るべき理想、と言えるだろう。少なくとも、彼等は最後まで幸せだったのだから。

 

「面白くはなかったが、お似合いの二人ではあったとは思う」

 

私はある種の羨望を感じていた。そう、私に足りていないモノを彼等は持っていたのだ。例え真面目に見ていなかったとしてもそれだけは言える筈だ。

 

「そう、なんだ。……私も、お似合いだと、思った」

「なら、同じだな」

「うん……同じ、だね」

 

そう言って簪は軽く俯いていた。表情はそのせいで少し見えにくかったが、声音を見る限りでは不快に思ってる様子はないと見てもいいのだろう。

 

(私は……いや、やめておこう)

 

登場人物……特に主人公について考えるのを止めた。

 

対人関係は慣れているのに、恋愛の二文字が絡んでくると自分でも解るぐらい恐ろしく不器用だ。それに、やるべきが多く、未だに前世との決着もついていない有様。自分を見詰め直せば見つめ直すほど己の未熟さが露呈してしまうのだから。

 

考えれば今の自分自身と対比してしまう。そしてその度にやるせなくなってしまう。だから、これ以上考えるのを止めた。

 

「……?」

 

唐突に、腕に暖かさを感じた。

 

立ち止まり、視線を横に向けると、簪が私の腕を抱き込んでいた。そしてその顔を見れば、私が一番好きな笑みを――目を優しく細めた淡い微笑みを浮かべていた。

 

「……適わないな」

 

菫色の瞳に魅入られながら呟くと、簪は何も言わず、ただ少しだけその笑みを深めてみせた。

 

「あぁ……全く」

 

今回のデートで私は密かに目標を立てていた。

 

頼りがいのある男でありたい、と。

 

しかし結果はいたるところでぼろが出てしまい、挙句ぼろが出るだけなら未だしも、逆に簪に気を遣わせてしまっていた。本末転倒過ぎて思わず苦笑してしまう。

 

だが、それは自虐だけではない。

 

何が足りないのか、その全てを知る事はできないし、解決する事もまた然りだ。だが、私は私なりの答えを出して、この関係に決着をつけよう。私はそう、決めたのだから。だからこれは自虐だけではなくやる気を出すための笑みでもあるのだ。

 

「……?」」

「いや、こっちの話だ。さぁ、行こうか」

「……うん!」

 

腕を組み直し、ゆっくりと歩き出す。

 

今は只、この腕に感じる温もりに癒されながら、次の場所へと向かった。

 

 

 

 

――裏路地――

 

街の喧騒とは真逆の、どこか寂しさを醸し出す閑散とした裏路地。そんな裏路地の静寂を打ち砕く様な罵声と、複数の足音がどこからともなく響いていた。

 

「畜生……!!」

 

男は悪態をつく。

 

そして悪態をつきながら、どうしてこうなったのかを思考した。

 

彼は元軍人だった。ISの登場により女性から迫害され、果に国に捨てられた、一人の哀れな男である。そしてそんな彼には三つの目的があったのだ。

 

ひとつは女尊男卑の象徴とも言えるIS学園を襲撃し、ISコアを強奪する事。次に女共の頂点に立つ一人である織斑千冬を殺害。最後に篠ノ之束に対するセーフティとして妹である篠ノ之箒を捕らえる事である。

 

全ては復讐と男の地位の回復のため。

 

彼は目的の実現のため、行動へ移した。

 

仲間集めと物資までは順調だった。仲間集めは世に不満を持つ同じ軍人崩れやチンピラに声を掛けるだけ。武器も闇市にいけば純正品が容易に手に入るからである。資金繰りは大義のために多少の犠牲はつきもの。そう、仲間と共に銀行等へ強盗、麻薬の密売をして手に入れていたのだ。

 

しかし計画を進めていくうちに、彼は次第に行き詰まっていった。

 

そう、彼とその仲間達は調べれば調べる程にIS学園の強固さを思い知ったのだ。そして時間だけが過ぎていき、いつしか仲間達は本来の目的を忘れかけ、ただの強盗集団と何も変わらなくなっていった。

 

彼は焦った。

 

こんなはずではないと、このままでは女の影に怯えたままであると嘆いた。そしてそんな中で彼はある日、妙に羽振りの男と出会ったのだ。そして男は彼にとあるモノを渡した。

 

IS学園の詳細な地図と、偽りの身分証明書。そして現在のIS学園の情報。

 

この三つが彼に提供されたのである。彼は始め、男が何者であるのかを警戒した。だが、此処に来て現実味を帯びてきた計画と、男のカリスマ性に自身も当てられ、いつしか警戒心は薄れていった。

 

そして計画は進み、計画の半ばである拠点づくりに入った。

 

彼は日本語が使える――否、今では多くの人が日本語を多少扱えるので日本での生活は苦にならなかった。そう、ISの登場により、各国が義務教育の中に無理やり組み込んだからだ。彼の場合、軍の教育で日本語を使える様になっている。

 

そして彼は仲間と共にホテルの一室を借り――そこで計画がこじれた。

 

いざ最後の大詰めである準備を始めようとした時、件の男が面白いモノを見かけたと言いなが携帯で撮られた写真とPCの画像を見せてきたのだ。

 

PCの方は身分証明に使われる写真。携帯で撮られた方の画像は、荒々しかったがPCの画面に写っている人物と一致していたのだ。そしてその人物の名を彼は知っていた。

 

写真の人物の名は天枷椿。世界で二番目の男性操縦。

 

男はチャンスだ、と言った。

 

彼もまたこれをチャンスだと捉えた。今この二番目を捕らえる事ができれば、自分達の存在を世界中に知らしめ、それによって仲間をより多く集められる事ができる。そしてあわよくばこの二番目を使い、自分たちもISに乗れる様になれるのだ、と考えたのだ。

 

彼はその思いで仲間に提案、多数の賛成を経て実行に移す事にした。最早彼等はこの男を一切疑う事もせず、寧ろ全幅の信頼を置いていたのだ。

 

コイツが居れば、全て上手くいくだろう。

 

そう信じて疑わなかったのだ。しかし結果は真逆で、いざ実行しようとした瞬間、突然謎の集団に襲撃されて散り散りとなり、いつの間にか一人だけになっていたのだ。

 

「畜生……!!」

 

彼は再び悪態をつきながら走る。

 

逃げ切って、再起を図ろうと考えた。仲間は居なくなってもまた集められるし、隠している武器や資金が残っている。望みが薄い訳ではなかった。

 

しかし、現実はそう甘くはない。

 

男の進路方向上に人影がふらりと現れ――何かの構えを取った。

 

(女……?ッ、ここにきて!!)

 

男はその人影が女のシルエットであると認識した瞬間、怒りが沸き上がった。しかし熱くなった思考とは別に鍛えぬき、苛め抜かれた体は染みついた感覚をもとに状況を打開する為の行動に移す。

 

彼は懐に隠しておいたバタフライナイフを抜き、勢いのまま中心線を貫く様に突きを繰り出した。

 

だが、その軌跡は女に吸い込まれる事はなかった。

 

「なっ!?」

 

いつの間にか女が目の前におり、今まさに攻撃の動作に移ろうとしていたのだ。

 

「ご苦労様♪」

 

防御体勢を取る暇も与えずに女は強力な肘打ちを溝内に放った。

 

肺から強制的に空気が出され、一瞬、彼の意識が遠のく。

 

そして続く動作で女はくの字になった彼に対して更に踏み込んで足払いを仕掛け、地面に這い蹲らせる。そして這い蹲った事によって投げ出されていた彼のバタフライナイフを持った手首を踏み抜き、骨を砕いた。

 

「~~っ!?!?」

 

彼は声にならない悲鳴を上げた。

 

「よし、これで怪しいのはあらかた片付け終えたかしら?」

 

女はそう言って軽く伸びをした。

 

「――楯無様、詰めが甘いかと」

 

その声と共に小さな音が鳴り響き、悲鳴が消えた。

 

「別に、油断したつもりはないけど?」

 

女――楯無は沈黙した彼に視線を向け、頚動脈に麻酔針が刺さり、完全に沈黙しているのを確認してから声の主と複数の足音が聞こえた方向に身体を向け、どこからともなく取り出した扇を口元に当てて答えた。

 

事実、楯無はいつ何が起きてもいい様な位置取りと体勢は整えていたのでその通りではあったが、やはり下に仕える者にとっては解っていても気が気ではないのである。

 

「何かがあってからでは遅すぎるでのです。憂いは確実に断つべきです。例えISがあっても」

「その時の為の貴方達でしょう?それに、彼等もいる」

 

楯無は他の部下達にも視線を配ってあっけからんと返す。

 

「当然。その為の我等です。ですが、本来ならば我々のみで行うべき任務。なのに何故あの様な者達を――」

 

(……毎度ながら飽きないわね)

 

部下の小言のような語り草に楯無は心の中でごちる。

 

更識家が川崎と手を組むと決まった時、実は分家や部下から決して少なくない数の反発があったのだ。そして今もこうして何かと付けて小言のように口にしてくる者達も居る。

 

しかし楯無は信用できて且つ、役に立つのであれば関係無いと思っていた。だからこそ現当主として反発を静めようとしたが、それでも反発が強かった。どうしたものかと楯無は考えたが、その時は先々代の『楯無』である更識龍蔵の鶴の一声によって何とか丸く収まったのでる。

 

曲りなりにも古くから日本の暗部を務めていたからこそ余所者に我が物顔で入られるのは嫌ったのかもしれない、と当初考えていたのだが、どうにも様子が違うと感じた楯無は川崎と何かあったのか?と龍蔵に尋ねた。しかし龍蔵は何も答えず、ただ、昔の自分と似て強引だ、と苦笑しただけだった。

 

(……ほんと、何があったのやら)

 

「ですから――」

「あーはいはい、猫の手も借りたい時にそんな事は言わないで頂戴」

 

部下の小言にいい加減聞き飽きたと言わんばかりに楯無は手を振った。

 

「楯無様っ!」

「文句を言う暇があるなら任務に集中しなさい。それこそ取りこぼしがあったら本末転倒。私達の存在意義が問われるわ。今は只、命令を完遂する事のみに集中する様に」

 

楯無は普段の飄々とした態度を消し、当主としての威厳をもって言い放つ。同時にバッと勢いよく開かれた扇には命令、と達筆で書かれていた。

 

「ッ……御意!」

 

そして部下は眠らせた彼を背負い、他の部下達と共に去った。

 

「……徐々出てきても良いわよ?」

 

部下達が去った後、楯無が虚空に向かって呟くと物陰から一人の男が現れた。

 

「不満が多いか、楯無」

「言い訳じゃないけど、前はそうじゃなかったのよ。貴方達だからこそあれほど反発してると思うのだけど……そこのところはどうなの?アーロンさん?」

 

男の正体は先程までジェイソンと行動を共にしていたアーロンだった。そして問いかけられたアーロンは一度楯無の部下が去った方向へ向けてまた視線を楯無に戻し、答えた。

 

「それについては黙秘させて貰おうか」

「なら、知ってるのね?」

「そうだな。まぁ、時が来れば解る」

「……そう。なら、追求はしないわ」

 

当主となり、『楯無』を名乗った今でも教えられていない情報ないし意図的に伏せられている情報が多々ある。ならば自ら調べて手に入れれば良いと考え、その考えのもとに行動してきた楯無だったが、何故かこの時ばかりはそう遠くはない未来に時期が訪れると直感し、素直に引き下がる事にした。

 

「それで、奴らにひっついていたああの男についてはどうだった?」

「ダメね。捕らえた瞬間に急に苦しみだして死んだわ」

 

アーロン達が言う男、とは、先程部下によって連れて行かれた男の仲間の事である。どうやらかなり前から男達の行動は把握していたらしい。しかも仲間の一人を特に目をつけていた様だ。

 

「ナノマシン、か。しかも監視付きの……となると関連した情報は全て使い物にならんか」

「十中八九。一応は辿って見るけど、これでまた振り出しね」

「まぁ、これで尻尾を掴める程奴らも――む?」

 

甘くはない、と言いかけたところでアーロンが身に付けている通信機に連絡が入り、アーロンは通信機越しに幾つか言葉を交わし、最後にため息をついて通信を終えた。

 

「どうしたの?」

「いや、交代要員が来た。よって本来の任務に戻らせてもらおう」

「羨ましい限りね。一体どうやって集めたのかしら?」

「さぁ?其処は社長にでも尋ねる事だな」

「なら聞かないでおくわ」

 

あくまでも協力関係。線引きはあるのだ。ただ、楯無自身、川崎については独力で調べていたのである程度検討はついている。確証までには至ってないが、至る必要もないし、深く調べようと思っていだけだ。

 

「それでいい。さて、何時までも天枷や姫を危険に晒す訳にもいかん」

「……姫?」

「ぬ、口が滑った……聞くか?」

「勿論」

 

まぁ、別に大したことじゃないがな、とアーロンは呟いてから切り出す。

 

「言うなれば冷やかしと希望を込めたあだ名だ。因みに他の連中は天枷を王子様、と呼んでいる。無論、お前も簪嬢同様に姫様、と呼ばれているぞ」

「……冷やかしと、希望」

 

一瞬だけ青い悪魔とアーロンや椿に呼ばれた事がある楯無は微妙な顔をしたが、アーロンの言葉の一つ一つの意味を噛み締める様に呟いた。

 

「最初にそう呼ばれたのは天枷。理由はまぁ、単純だな」

「単純?」

「女尊男卑により行き場を失ったウチの連中は、居場所と未来を示した川崎社長のその手腕にちょっとしたジョークと畏敬の念を込めて『王』と呼んだ。まぁ、社長にばれて全員減給食らってすぐに呼ばなくなったがな」

 

因みに川崎は巨大な企業であり、ありとあらゆる分野にその名を連ねている。最早川崎の名前が無い分野が存在しないと言ってもいい程に、である。そして川崎が所有する土地と社員をかき集めれば小さな国ができあがる程の面積、人口であり、ある意味で国と言っても間違いないのだ。

 

「貴方は違ったのね?」

 

楯無はアーロンの語る言葉をより現実てきなものにする整理をしつつ、一つ気になった事を訪ねた。

 

「そうだ。私はISが出回る以前から付き従っているからな」

 

話を戻すぞ、とアーロンは言う。どうやら長い付き合いである様だが、それ以上を語る気配もなかったので食い下がらずに楯無は頷くことにした。

 

「しかし社長は既に老いた身。この先そう長くないからこそ不安があった。だが、そこに現れたのが天枷椿と言う存在だ。まぁ、此処まで言えば解るだろう?」

「……御旗」

 

例え五十六が斃れたとしても、掲げる希望はある。集うべき場所が、象徴が其処にある。楯無は川崎にとって椿の存在がいかに重要であるかを再認識すると同時に、己の意思に関係なく表舞台に立たされる椿のことを思い、やるせない気持ちが心をよぎっていた。

 

「そうだ。それ故に私達は天枷を王子と呼んだ。まぁ、私はすぐに止めたがな」

「何故?」

「教えんさ。只の戯言だと思って聞き流せ」

 

それともここで止めるか?と、アーロンの問いに対して楯無は首を振って続きを促した。

 

「そして天枷はお前達と出会った。もう解るとは思うが、物語ではよくある話だろう?王子を支えるのは何時だって姫君だ。だからこそお前達を『姫』と呼ぶ」

「……少し、ムズ痒いわね」

 

幼少期に呼ばれたことがあった。しかしそれは身内だからこそであり、只の冷やかしだと思い込んであまり良い気分ではなかった楯無だったが、その名に込められた想いを知り、まるで恥ずかしさを隠す様に開いた扇で口元を隠し、そして目を瞑った。因みに扇には『驚愕』と書いてあった。

 

「嫌ならやめる様に言うが……どうする?」

「好きにすれば良いじゃない。そう呼ばれるのも悪い気はしないわ」

「了解した。なら、今後も期待しよう。色々とな」

 

ニヤニヤと笑うその姿は完全にセクハラオヤジのソレである。しかし楯無はそれに対して特に狼狽える事もなく、寧ろ扇をパチン、と閉じて余裕の笑みを浮かべながら当然、と答えた。

 

(悔しがっても仕方がないからね)

 

実のところ、楯無は昨日からずっと機嫌が悪かった。そう、自分と同じ椿に恋慕の情を抱いている妹が椿とデートをする事に対して嫉妬していたのだ。それに加えて生徒会や暗部でのストレスも相余ってか、椿に対して平静を装うのが中々上手くいかなったのだ。

 

楯無は冷静になって自分を恥じた。

 

納得はできなくても理解はしているのだから。何時までも引きずるのは自分らしくない。ならば帰って来た時に遠慮無く甘えればいいだけだ、と楯無は考えたからだ。理由も考えてある。

 

(文句は言わせないわよ……ふふっ♪)

 

きっと本音も同じ事を考えるだろうと楯無は思いながら、無意識に首にかけた金のペアリングを弄りつつどうすれば少しでも長く一緒に居られるか?と、頭の中で計画し始めた。

 

「……ふむ、余計な世話だったな。では、これで失礼する」

 

アーロンは一瞬だけ目を優しく細め、踵を返した。楯無はそれを見てアーロンの人柄を改めて把握し、仕事に戻ろうとアーロンとは反対の道を歩こうと――

 

「あぁ、一つ言い忘れた。その服、よく似合っているぞ。天枷も気に入るだろう……До свидания」

「ふふっ、ありがと♪До свидания!」

 

アーロンの一言に一瞬だけきょとんとした楯無だが、別れの挨拶を告げた後、早く仕事を済ませよう、と上機嫌にならりながら踵を返し、裏路地を出て人ごみに紛れ込んだ。

 

 

 




大変しばらくお待たせしました。諸事情で更新できませんでした。
勿論、更新できなくなった間にもらった感想は読ませてもらっています。
返信するかどうか迷ったのですが、この場を借りて感想をしてくれた方に御礼申し上げます。
さて、これからはちょくちょく更新できると思うので、これからもよろしくお願いします。
そして残りの後編ですが、これはもうできてるので誤字脱字を確認次第投稿しようと思っています。
再更新の際にどうせならいい加減I'm yours/You're mine編を終わらせようとしてさらに遅れる結果となりましたが、そこはご容赦をば><;

あとはおまけです。
中途半端に空いた時間をちまちま使って描いてみました。


【挿絵表示】


それでは

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