ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第三十三話:起因

――特訓中―― ~対抗戦前日~

 

 

現在、一夏と私はお互いに雪片と大剣型近接ブレードを構えて対峙している。

 

今回は明日の為の最終調整と言う事で、一夏の得意としている(寧ろそれしかない)近接戦闘を最初に行う。……何故か、と言われれば少し理由があるのだが、まぁそれは一旦置いておく。

 

では話は進めるが、今までの訓練とい言う名の模擬戦は一夏の全敗。

 

正確には私とセシリアには、である。しかし箒との戦いは、8-2の割合で勝っており、内容としては純粋な剣術の力量の差で一夏の敗北、である。まぁ、実家も道場で中学の全国大会も優勝している(と聞いた)から当然と言える。だが、そこは9-1までは持って行って欲しかった。

 

次に私やセシリア戦の負けは、私や油断も慢心もしないセシリアにかなり食い下がっているものであった。そしてそんな一夏を見てセシリアは一夏の成長スピードに純粋に驚いていた。因みに、以前に『素敵ですわ、一夏さん……』と呟いていたので冷やかしたら暫くチェルシーの紅茶を奢らないと言われたのは良い思い出である(一応、謝り倒して秘蔵の一夏のbest shot――箒に渡して無いverを渡して解決した)。

 

因みにセシリアが一夏と戦う場合は、モノにし始めた移動しながらのビット操作と、自らが持つスターライトMk―Ⅲで一夏を蜂の巣に、それでも突破してきた場合は弾道型を、最後にインセプターで迎撃、と言う戦い方をしている。まぁ、セシリアはセシリアの方で着実に成長していると言えるな。ただ、未だ偏向射撃ができない事が少し悩みの種らしい。

 

そして私との場合、私は思考加速と盾を駆使(進路妨害)し、それでも突破した場合はパイルバンカーで剣戟を流す、或いはカウンターを喰らわせている。また、それと並行して射出型拡張領域のデータ取りの為に発煙弾やロケット弾をちょくちょく使いつつ勝たせてもらっている。

 

まぁそれはともかく、結論を言えば一夏は確実に強くなっている、と言えるな。

 

一夏もソレを実感している様で、全敗しても不満一つ上げなかった。寧ろ更に食い下がろうとギラギラと闘志を燃やしていた。

 

さて、回想はここまでにしよう。

 

「―――準備はいいか?」

「あぁ。けどよ、何で椿が近接戦をやるんだ?箒が担当するんじゃなかったのか?」

 

ここで私が先程棚に上げた理由を話す事になる。

 

「あぁ、そうだったのだが……それに関しては話を進めながら理由を説明する。一夏、お前はまともな格闘戦を箒以外とした事はないだろう?」

「あー……そう言えばそうだった。でも、問題無いじゃねぇの?」

 

寧ろそれこそが問題なのである。

 

「いや、問題ありだ。まず聞くが鈴の乗るISの武装に青龍刀の様なブレードを装備しているのは覚えているな?覚えていないと言ったら閃光弾を喰らわせる」

 

そしてそれに追加して衝撃砲という空間圧兵器もあるのだが、これに関してはノーコメント。一夏の武装が雪片一本だけ故に対応の練りようが無いのでぶっつけ本番に何とかしてもらう以外には方法がない。

 

「それは止めてくれ……まぁ、勿論覚えてるけどさ、それがどうしたんだ?」

「少し講義をしよう。日本刀と青龍刀――つまり、柳葉刀の違いについてだ。幾ら雪片が高性能ブレードとはいえ結局は日本刀の類だ。そしてお前がよく知っての通り、”引いて斬る”事で真価を発揮する。しかし柳葉刀の場合はその重量と遠心力を活かして斬りつける、簡単に言えば叩きつける、だな。それ故に、日本刀と柳葉刀が打ち合うのでは日本刀が些か分が悪い」

 

日本刀とは、相手よりも髪の毛一本よりも早く斬る事を前提にしている。そして本来の日本刀は耐久性が低いのだ。鈴の青龍刀と切り結べば確実に押されるだろう。それに白式自体がパワータイプではなくスピードタイプなのだから尚更である。

 

「さて、そこでもう一度言うが、お前は格闘戦を箒と”しか”まともにしていない。……ここまで言えば解るだろう?」

「……つまり、俺が箒の基準で鈴と格闘戦をするのは危ない、と?」

 

気付いて何よりだ。

 

飛び道具がないのは目を瞑ったとしても、相手の青龍刀の特性も理解できずに押される、では希望の希の字も見えずに敗北するだろう。

 

「あぁ、だからこそ、柔軟性を養う為に俺と近接戦闘をする。カテゴリーは違えど、俺が大剣型ブレードを引っ張り出したきたのもそんな理由だ」

 

確かにこの大剣は青龍刀とは別物だが、共通しているのはその質量を活かして叩きつける、だ。付け焼刃ではあるが、体で覚えるタイプの一夏ならかなりの経験値になるだろう。

 

「……成程」

「これは俺のミスだ。すまないとは思っている」

「いや気にしないぜ。今までの訓練はスゲー充実してたしな。それに、椿も椿で忙しい筈なのにここまで付き合ってくれたのには感謝してるんだぜ……あと、椿が居なかったら箒とセシリアに酷い目にあってたからな」

 

一夏は最後辺を声を潜めていった。まぁ、気持ちはわからなくでもない。

 

「そうか」

「そうだぜ……因みにその剣なんて名前の剣なんだ?ゲームとかでよく見る形だけどさ」

「これか?これはクレイモアと言うやつだな」

 

因みに、何故このクレイモアがあるのか、と言えば世界中のISの武装扱う企業が是非使って欲しい、との事で学園に無償提供している武装が格納庫にはあるのだ。

 

このクレイモア(スコットランド・ゲール語の「大きな剣」を意味するclaidheamh mór(クラゼヴォ・モル)が語源らしい)もそのひとつである。普通のISに持たせればそこそこ大きい部類なのだが、古鷹にとってはそれ程でもない。

 

因みに青龍刀に酷似した薙刀もあるにはあるのだが、私は使った事がないカテゴリーなので使えない。尚、川崎の提供武装は例のごとくアレなので断られている。

 

……普通の武装を提供すれば良いモノを。色々あるだろうに。

 

「へぇ……因みに、椿は剣術の心得はあるのか?」

「無い。川崎に居た時に基本的な近接戦闘を習ったぐらいだ。後は感覚を鍛える為と護身用に少しだけ護身術を実戦形式で教えられたな」

 

「護身術、ねぇ」

「まぁ、そんなに気にしなくてもいい」

 

千歳さんに生身での対応の仕方も覚えておきなさいと言われ、学んだのだ。そしてやらされた時は……うむ、酷い目にあった。あの人は訓練に関しては全く手を抜かないから、全力で襲いかかってくるのである。何度痛み共に地面の味を噛み締めただろうか?

 

(……思い出したくないな)

 

あれはトラウマに近いモノだった。思考加速して腕を抑えたり脚を抑えたりなんなりしようが、即座に対応、地面に叩きつけられたのである。お陰で嫌でもカウンターが上達した。まぁ、古鷹では流石に習得した動きの再現はかなり難しいので、近接戦時の対処法の参考にしているだけなのだがな。

 

「それに、剣術とは突き詰めれば相手を確実に仕留める為の術だろう?だったら基本的な縦、横、そして突きができれば戦闘では充分だ」

 

基礎こそが究極であり、到達点とはよく言ったものだな。それにISには重さというのが殆ど関係ない。余程へっぴり腰でもなければパワーアシストだけで十分な一撃を繰り出せれる。更に言うなれば、例え剣術を齧っていたとしてもそれが実戦に役に立つとは限らないのだから。

 

所謂アニメや漫画にある様な剣技が戦闘に活かせる機会はそうそうない、と言うヤツだな。

 

「……確かに」

「あぁそうだ。それに、素人の俺に負ければ色々と拙いぞ?言い忘れていたが、今の管制室には織斑先生が居るからな。勿論、箒もお前の行動を見ている」

「うげぇっ、千冬姉までいるのかよ……」

「これで絶対に勝たなくてはいけないだろう?」

 

負ければ対抗戦後に地獄のフルコースを喰らうのは確実だろう。そもそも毎日早朝に箒と朝練しているのだから尚更である。

 

「あぁ、そうだな。遠慮はしないぜ!」

 

一夏は負けた後のお仕置きと言う名の猛特訓を嫌ってか、やる気を出していた。

……現金な奴だな。まぁ、やる気を出させる引き合いとしては丁度いいか。

 

「勿論だとも。さて、そろそろ始めようか」

 

一夏と私は一度距離を離し、一夏は正眼の構え、私は腰を低くしてクレイモアを水平に構え、横一閃、縦一閃のどちらも放てる様にする。

 

そして私が準備完了の合図を管制室に送り、そしてブザーが鳴った。

 

「はぁっ!」

 

一夏が叫び、開幕瞬時加速で一気に距離を詰め、勢いのまま横一閃を放つ。

私は切り結ぶのは無理と判断。素早くクレイモアの切っ先を地面に突き立てる様に縦に構え、初撃を防ぐ。

 

「相変わらず速い。だが、な」

 

私はブースターを全開にし、一気に押し出す。

 

「パワーは此方が上だ」

 

そして勢いのまま振り上げ、空いた胴体に蹴りを放つ。しかし、一夏はそれを予期したのだろう、素早くつばぜり合いを止めて蹴りを避けた。

 

「蹴りもありかよ」

 

距離を取り、再び正眼の構えになった一夏がつぶやく。

 

「当たり前だ。近接戦闘なんだぞ」

 

何もブレードだけが得物じゃない。己の身体も武器になり得る。

 

「それもそうか。けど、俺は俺らしく攻めるぜ!」

 

再び一夏が白式の機動性を活かした一撃を放つ。

 

上段、下段、突き、ありとあらゆる方向から来る斬撃を私はギリギリで防ぎ、斬撃を放つ事で応戦していく。しかし、効果は薄い。

 

「やはり遅いのがネックか」

 

クレイモアを扱い慣れてない、と言うのもあるが、この機体の旋回速度が白式の機動についていけない。防ぐ時にはどうしてもギリギリのタイミングでクレイモアを持っていく形になってしまう。それに、攻める時には一夏が近すぎて振りきれない。

 

……古鷹のリミッターを外せば、多少はどうにかなるかもしれんが、それは特に意味がないのでやらない。それに、近接戦闘は古鷹の最も苦手にている戦い方なのだ。ここから得られるデータは中々に貴重だと言えるだろう。

 

特に相手が篠ノ之束お手製ISとなれば、な。

 

「だからって攻撃の手は休めないぜ!」

「……食い下がらせてもらおう」

 

私は状況を打開する為、一夏が突撃するタイミングに合わせ、クレイモアを無理やり振り、一夏を回避させる。そして素早く私は距離を離し、大剣が最も高い一撃を繰り出せるであろう最適な距離を取る。だが、一夏は私の意図を理解したのだろう、距離を離されない様にグイグイと距離を詰め、私にクレイモアを充分に振り回せる距離にならない様に激しく攻め立ててきた。

 

(……埒が明かない、か。少し、意表をつくか)

 

私は一計を投じる事にした。

 

と言ってもやる事は単純。私は斬り結びあう最中、最も浅いと思われる一撃を防ぎもせずわざと受ける。そして防がなかった分の時間を利用してクレイモアで一夏に横一閃を放つ。

 

「ぐっ!?」

 

直撃した一夏は慣性に従って吹き飛ばれた。

 

「覚えておけ一夏。パワータイプにはこういう戦い方もある。意外に鈴もこの様な手段を取るかもな?」

 

甲龍は中・近のパワータイプだからな。やろうと思えばできるぐらいの装甲はある筈だ。

 

「……覚えておくぜ」

「よろしい……今度は俺から行くぞ」

 

ブーストを吹かし、唐竹割り、横一閃、突き、とにかくペースを崩し、また持っていく為に全力で攻める。

 

「っ!けど、受け流すだけなら!」

 

一夏は何度か斬撃を避けた後、私が放った唐竹割りを正面から上手く流した。だが、甘い。

 

――瞬時加速。

 

「ちぃっ!?」

 

流しの返しで一夏は斬り上げを行おうとしていたらしいが、私は瞬時加速をもって古鷹の質量を活かしたタックルを仕掛けた。結果、大したダメージにはならなかったが、姿勢を崩すし、尚且吹き飛ばすことに成功した。

 

「厄介な!」

「考えろ。でなければ勝てんぞ」

「そうかよ……だったら!」

 

一夏は加速しながら斬撃を加える。そして私が一撃を防いだ後、素早く離脱をし、再び距離をとる。

 

「ほう、一撃離脱か」

 

段々とブリュンヒルデ(織斑先生)の戦い方に似てきたな。しかもコアも白騎士だから戦術の相性は抜群、と言った所か。考えれてみれば厄介な組み合わせだな。

 

「あぁそうだぜ。雪片の方が斬撃が早いから、引っ掻き回して加えれば!」

 

そう言いながら一夏は加速して一撃離脱を繰り返す。しかも今度は離脱する距離も短い。……修正してきたか。これは対処するのに苦労するな。だが――

 

「そう簡単に上手く行くと思うなよ?」

「勿論だぜ!」

 

そして暫くの間、斬っては引いて、斬り結んでは引いて、と一夏のペースで何度も打ち合った。

無論、私も抵抗したのだが、少々分が悪い。徐々にダメージが蓄積していった。

 

これは拙い、と言えるだろう。それに、このままズルズルといって負けました、と言う展開は非常に面白くないし、一撃離脱戦法に味をしめた一夏は慢心するだろう。であれば、少々痛い目に遭わせる必要がある。仕掛けるタイミングは一夏次第だが……まぁ、早い段階で機会が来るだろう。

 

「チェェエエエイッ!!」

 

その後、暫く一夏の攻勢が続いた。そして欲が出たのか、はたまた更に有利な状況へ持っていこうとしたのか、一段と大きい雄叫びを上げながら零落白夜を発動、必殺の突きを放ってきた。

 

(丁度いい、か)

 

そんな事を思いつつ私はソレを見て思考を加速させ、一夏との距離、そして突きの到達点を見極める。普段なら反応が遅れるが、タイミングを図って思考加速を行えばその限りではない。そう、死角が存在しないハイパーセンサーとの相性は良いのだ。

 

故に、敢えて言わせてもらおう。

 

私に対する必殺のタイミング(・・・・・・・・)は存在しない、と。

 

ある意味で私は対格闘機キラーと言える。なんせISで動体視力が強化されてる上に、思考加速のタイミングさえ誤らなければありとあらゆる攻撃が見え、対処を考案、実行した上でカウンターを入れる事ができるのだから。

 

最も、カウンターに関しては初撃必殺限定だがな。一撃をしっかりと当てられなければ熟練者に即座に逃れられるだろう。それに、思考加速ばかりでは全く成長しないので頻繁に使う事はない。

 

そう、頻繁には使わない。そこそこ程度には使うのである。

 

何故なら使うタイミングは行使して慣れ、そして養わなければ見誤ってしまうものなのだから。そしてそれは実戦において死を意味するだろう。例えるのなら、野球部で捕球からの素早く送球を正確にする練習するのと同じ原理だ。あれは練習しないと出来ないプレーだからな。無論、他のモノでも言えるが……とにかく、全く使わない、と言うのは有り得ない話だ。

 

(約30m……位置は……正面を向けば鳩尾か、ならば)

 

私は判断を下し、思考加速を解除して行動に出る。

 

先ず、一夏の一撃を旋回しながら掬い上げる様に下から大剣を振り上げる。

 

「なっ!?」

 

そしてその結果、一夏の腕は――勢いが足りなかったので吹き飛ばせなかった――持ちあがる事になり、必然的に胴ががら空きに事になった。

 

完全なフリー。

 

私は上手くいったと思いながら踏み込み、一気に密着状態にさせる。

 

……奇しくもいつぞやのKIKUを一夏の溝尾に叩き込んだ時と同じ状況になったな。ただ、持っているのがKIKUではなく、クレイモアだがな。

 

「なっ!?」

 

驚愕する一夏。

 

「今までのツケだ」

 

私はそのまま振り上げた大剣の柄頭の部分を一夏の顔面に目掛けて叩きけて一夏を怯ませ、鳩尾に膝蹴りを叩き込む。

 

必然的にくの字になる一夏。

 

それにより現れた後頭部に再び柄頭を叩きつけ、地面と情熱的なキスをさせる。

 

だが、一夏は地面に叩きつけると同時に瞬時加速を発動、無理な態勢でハメ技から逃れていった。

 

「……ほう、やるな」

 

本当は更に踏みつけて止めを差そうとしたが、それが叶う事はなかった。まぁ、これで欲張り過ぎると手痛いしっぺ返しを貰う、と学習できればそれで良いだろう。

 

「グッ……椿!本当に剣術習ってないんだよな!?」

 

一夏は後頭部を抑えながら話しかけてくる。

 

「あぁそうだ。全部反射神経と勘で戦ってる様なモノだ」

 

無論、近接戦闘訓練の経験も生きている。そしてそれとは別に思考加速という他人には無い能力もあるのだ。だが、それらを差し引けば、私は本当に神経と勘だけで戦っている。

 

千歳さんや楯無に扱かれていなかったら、この様に立ち回れる事はできなかっただろう。無論、未だまだ改善すべき点はある。

 

「何だよそれ……じゃぁさっきアレもそうだとでも言うのかよ」

 

一夏は呆れていた。先程のモノは恐く達人でもなければ中々出来ない代物なのだろう。まぁ、種を教える訳にはいかないので奇跡、と言う事で押し通すがな。

 

「あぁ、そうだ。2度も出来たら奇跡だな」

 

勿論、やろうと思えば出来ない事はない。ただ、一夏も学習しただろうから、先程の様に上手く行くかは別だ。

 

「そうかよ……けど、負けねぇぞ!」

「C'moooooooon!!Icika!」

「何故に英語!?」

「気分だ……さぁ、徐々終いにしよう、全力でこい」

「俺は言われる前から全力全開だぜっ!」

 

ふむ、そうだったな。まぁ、斯く言う私も全力なのだがな!

 

一夏は一度高度を取り、瞬時加速と同時に零落白夜を発動させ、決着を付けんとする。

そして私はソレに対し、クレイモアを水平に構えて迎え撃つ。

 

「チェストォオオオオオオオオ!!」

「――瞬時加速には、こんな使い方もある!」

 

私は右足に付いているアンカー(つま先にもあるが今回は踵の部分のみ)で地面に右足の踵を固定し、左側にあるのサイドブースターとスカートアーマーや腰部等の姿勢制御用バーニアを全開にしつつ瞬時加速を発動。その結果、機体が駒の様にその場で超高速回転し始めた。

 

そこで私はその回転勢いを利用し、高速の斬撃を繰り出す。

 

「はぁああああ!!」

 

私は柄にもなく雄叫びを上げる。

 

そして一夏の零落白夜を纏った雪片と、瞬時加速によって剣閃の速さを上乗せされたクレイモアがぶつかりあった。

 

目論見通りであれば、質量、勢い共に此方が優っている。

 

性能にこそ差はあるだろうが、大剣と太刀、比べるべくもなく勝てる筈だ――

 

 

ガキィンッ……

 

 

――そう思っていたのだが、一瞬のつばぜり合いの後、クレイモアが折れて零落白夜が直撃した。

 

「っ!!」

 

……まさか折れるとはな。流石は雪片と言った所か。完全に予想の上を行っていたな。それに、これが零落白夜、か。とんでもない威力だ。シールドエネルギーが一瞬で10分の1以下になったぞ。だが、残り数%とはいえ耐え切った古鷹も古鷹で驚きだが。

 

――うげぇ……一体何が……

 

唐突に古鷹が気持ち悪そうに発言してきた。

 

……あぁ、そうだったな。古鷹は事前にシールドエネルギーが急激になくなると言っておかないと急激に失った時に気持ち悪くなるんだったな。……何故そうなるのかは良く解らんが。

 

(……すまない。零落白夜をモロに貰った)

 

――……珍しい。何をしていたのです?

 

(近接戦闘に付き合ってた。そしてその結果でな)

 

――次からは事前連絡をお願いします……

 

(あぁ、肝に命じておこう)

 

と言っても、どう連絡をすれば――あぁ、戦術支援AIに対近接戦闘モード、と指示を送れば良いのか。今までこのAIは古鷹に任せていたから、全く気付かなかった。これは私の慢心の顕れ、か。気を付けなければ。

 

そして古鷹は気持ち悪そうに『では、戻ります……』と呟いて沈黙した。

 

「……俺の負けだ」

 

私は古鷹が去った後、そう呟く。そしてこれはある意味で専用機持ちに対する初白星である。

 

「やっと勝った……でもスゲェ。よくそんなやり方を思いついたな」

 

恐らく、先程の回転斬りの事を指しているのだろう。まぁ、本来は古鷹の鈍速を補う為に思いついた高速旋回技法を攻撃用に転化させただけだがな。

 

「まぁ、褒め言葉は受け取っておこう。取り敢えず、一応の感覚は掴めたか?」

「おう!バッチリだぜ」

「まぁ、所詮素人の剣だ。鈴はこれ以上と言っても過言ではないだろう」

 

まぁ、代表候補生なのだから当然と言えば当然ではあるが。

 

「そう謙遜するなって、あんなやり方できるのはそうそういないと思うぜ?」

「そう言うモノか」

「そうだぜ。じゃぁ一旦ピットに戻ろうぜ」

 

私はソレに頷き、一夏と共にピットに戻った。

 

 

 

 

――ピット――

 

「フン、途中から後半までのは及第点はやろう。だが、雪片でなければあれは負けていたぞ馬鹿者」

「そ、その通りでございます……」

 

さて、私達がピットに戻った後、織斑先生から頂いた言葉がこれだ。まぁ、何だ。心を強く持て、一夏。

 

「全く、なんたる結果だ。得意分野で、更に言えばしっかり調練を積んでいたのであればもっと有利な形で勝てた筈だぞ」

「しょ、精進します……」

 

箒よ、そこは労をねぎらうべきだろうに。追撃してどうするんだ、全く……まぁ、今回は一夏にはもっと有利な形で私に勝って欲しかったのは確かではあるが、その対応はマイナスだ、と言わせてもらおう。

 

「取り敢えず、よくもまぁあんな技を思いついたモノだな、天枷」

 

織斑先生が話題を変えて、私に振ってきた。かのブリュンヒルデもあの回転斬りに興味を持ったようだ。最も、使い勝手が少々悪いのではあるが。

 

「偶々です。以前川崎で訓練した時に思いつきました」

 

思い出すのは川崎の訓練場で不知火を駆っての楯無と千歳さんを相手の模擬戦。あの時の私は慣れていない不知火の速さに直前で距離を測り間違え、何度も其処を漬け込まれた。

 

そこで対応を練る過程で思いついたのだ。行き過ぎた場合、方向転換を瞬時加速で補う形でどうにかできないか、と。そしてそのまま攻撃に転化できないか、と。

 

そしてその思いつきを千歳さん相手に実行してみたのだ。結果は制御しきれずその場で超高速回転し続けてしまい、非常に気持ち悪かったがな。

 

そして千歳さんから『何の遊びをしてるのかしら?』とツッコミを頂いた。因みに楯無は腹を抱えて爆笑していたので非常にムカついた。

 

その後事情を話し、色々とアドバイスを貰い、学園に帰ってから密かに練習を重ね、ある程度モノにしたのだ。ただ、推力の調整が非常に難しいので空中での成功率は低い。

 

因みに、瞬時加速を使っての方向転換は反転瞬時加速(リバース・イグニッションブースト)、と呼ばれる技法だと千歳さんに教えられた。

 

「……そう言えば、川崎にはあの人が居たな。あの人に操縦を教えて貰っていたのか?」

「そうです。だから射撃が得意なのはそのお陰です」

「そう、か……聞くが、あの人は私の事を何と言っていた?」

 

織斑先生は誰にも聞かれない様に声を潜めて言ってきた。

 

……あぁ、そう言えば楯無と帰る間際に言ってたな。ただ、話すタイミングが見つからなかったのでそのままにしていた。まぁ、内容は覚えているから別に良い、か。

 

「二言程。一つは貴方とは一度全力で戦って見たかった、と。最後は一夏の誘拐のせいで辞退せざる負えなかったのは仕方が無い事だ、との事です」

 

第二回大会での総合部門決勝での織斑先生の辞退による不戦勝。織斑先生が一夏が誘拐されたお陰で辞退しなければ、決勝の相手は千歳さんだったのだから。

 

「……何故、それを知っている?」

 

あぁ、そう言えばこれは一般には伏せられていたな。だが、この一言で充分だろう。

 

「川崎があの一件について何も調べないとでも思いますか?」

「そうなの、か……いや、そうだな」

 

織斑先生は静かに呟いていた。

 

恐く昔の事を思い出しているのだろう。どう思っているのかは知らないが、少なくとも千歳さんはそこまで気にしてはいなかった。あの一件の事情を知っていれば尚更である。

 

「……天枷。あの人にありがとうございます、と伝えておいて欲しい」

「解りました」

 

決勝戦を辞退した事を余程気にかけていたのだろう。逃げた、と恨みをぶつけられても仕方がないと思っていたが故に、当人である千歳さんにそう言って貰えるだけで、安心できた、と言った所か。

 

「……さて、私はこれで職員室に戻る。織斑、お前の成長ぶりは確かに見せて貰った。これからも無理しない程度に、頑張れ。……対抗戦、期待しているぞ」

「……!!解ったぜ千冬姉!!」

 

流石は姉と言ったところか。弟のやる気スイッチを正確に把握しているようだ。見るといい。こんなにも一夏が報われたかの様な清々しい表情をしているではないか。それに、セシリアや箒が羨ましそうに見ている。

 

が、しかしだ。

 

「織斑先生、だ。馬鹿者」

 

スパーンっ!!

 

案の定どっからともなく出してきた出席簿の一撃が一夏の頭に華麗に決まった。

 

「い、イエス、ユアハイネス……」

 

ほら言わんこっちゃない。人は学習する生き物だろうに。いい加減学んだらどうなのだろうか。……そして思うのだが、先生はどっから出席簿を出した?拡張領域でも持っているのだろうか?……生体拡張領域?

まぁ、どちらにせよ―――

 

「――ふっ」

 

思考加速を駆使して状況把握、即座に回避機動を取る。そして頭上を出席簿が高速で通り過ぎていった。

 

「っち!」

 

……まさか本当に来るとは思わなんだ。読心術とは怖いものだ。と言うより、舌打ちしたぞ、それでいいのだろうか?

 

「次はないぞ?」

「肝に銘じておきます」

 

今はそれしか言えなかった。そして一夏、私を畏怖の視線で見るな。ギリギリだったんだぞ。

 

「……フン。では、これで失礼する」

 

織斑先生はそう言ってピットから出て行った。

 

「さて、一夏さん。お疲れ様ですわ。はい、どうぞ」

「ん、セシリア、サンキューな」

「当然ですわ。一夏さんのお役に立てて嬉しいです」

 

セシリアは織斑先生が去った後、水筒とタオルを一夏に差し出していた。随分と献身的だな。まぁ、私がそうした方が良いアドバイスしたからなのだが。以前のプライドの塊であった彼女はもういないだろう。立派になったものだ。そして箒にもこれを見習って欲しいのだがな。

 

「はい、どうぞ~」

 

唐突に誰からタオルとペットボトルを差し出された。……珍しい。私の応援に来てくれた人でも居るのだろうか?まぁ、取り敢えずお礼は言っておこう。

 

「あぁ、ありがとう……ん?本音、簪の所に居たのではないのか?」

 

そう、渡して来た人物は、何時もは簪の応援に行っている本音だった。

 

「今日は偶々だよ~」

「そうか。改めて、ありがとう」

「えへへーどういたしまして~」

 

私は本音に礼を述べ、タオルとペットボトルを受け取った。

 

「そう言えばさ、椿。千冬姉が言ってたあの人って誰だ?」

 

それに、さっきは何か聞きたくても聞きづらい雰囲気だったからさ、と一夏は尋ねてきた。

 

「私も気になるな」

「私もですわ」

「私も~」

 

上から順に箒、セシリア、本音が尋ねてきた。

 

「峯風千歳、と言えば解るか?」

 

「「「あっ」」」

 

「……みねかぜ、ちとせさん?誰だ?」

 

三人は思い出したが、一夏は相変わらずだった。これは仕方がないのか?いや違う。一夏は実際にモンド・グロッソの総合部門決勝戦までは見ていた筈。つまり、各部門の優勝結果も見ている筈なのだ。そして攫われる直前に見ていた決勝戦の相手の名前も。

 

……姉以外のIS関連の事はその頃から無頓着だった、と言う事か?

 

「はぁ……セシリア、説明してやれ」

「解りましたわ。一夏さん、Ms.千歳はですね――」

 

・モンド・グロッソ第二回射撃部門ヴァルキリーである事

・変態武装を使って相手を蹂躙した事から、魔砲使いなる異名を持つ事

・実力は織斑先生と同等だと謳われている事

・決勝戦で織斑先生と当たる筈だった相手である事

・現在は川崎・インダストリアルカンパニーに所属している事

 

セシリアは丁寧に千歳さんの事を教えた。

 

「そ、そうだったのか……」

 

そして自身が辞退の理由であるが故に、複雑な表情をしていた。まぁ、自分の不甲斐なさでやるせないのだろうな。最も、それは一夏のせいではない。しかし一夏はソレを引きずっている。……どううやって決着を付けるのかは見守らせて貰おう。

 

「あの人の名前は一般常識にも入る。少しは頭に入れておけ」

「……わ、解ったぜ」

 

私の一言に一夏はコクコクと頷いた。

 

「さて、次はセシリアと戦え。その後に締めで俺が普通に戦う」

「おう!」

「任されましたわ」

 

そして一夏は一度補給した後、セシリアと共にアリーナへ向かっていった。

 

「そう言えばあまっちは負けちゃったね~」

 

二人を見送りって居ると、本音が先程の戦いについて言及してきた。

 

あぁ、そう言えば学園での黒星はこれで初めてだったな……そしてそれ以外は千歳さん達に数え切れないぐらい敗北を喫しているのだがな。

 

「まぁな。だが、全力勝負だったのだ、勝利への欲こそはあったが、悔いは無いな」

「お~、男らしいね~」

「褒め言葉は受取っておこう」

 

悪い気はしない。

 

「そう言えばおりむーはどんな感じなの~?」

「一言で言えば機動に無駄が多くある」

 

何度か稼動ログを見せてもらったが、中々酷かった。

 

見た目こそそれなりに動かせている様には見えるが、必要ない所でスラスターを全開にしたり、逆に必要な所で全開にしなかったり、と言うのもそうだが、被弾時の姿勢制御のスラスターの配分にもかなりのムラがあったのだ。

 

無論、私はソレを指摘はしたし改善する様にスロットワークのコツも自分の知る限りの事は教えた。だが、如何せん付け焼刃に近いので効果が中々上がらないのが現状なのだ。まぁ、機動系の専門家が居れば楽なのだがな……川崎にも居るには居るが、その話は後の機会、と言う事にしさせて貰う。

 

あぁそれと、前に一夏に白式の整備をさせた。一次移行、もとい白式を受け取ってから一度も自分の手で整備した事が無いらしく、全て白式任せだったらしいので、エネルギー周りの調整も兼ねて整備室に連行した事があった。

 

そうしたら案の定無駄があったので調整したら、エネルギー効率と反応速度がそれぞれ2~3%程上昇した。小さい変動ではあるが、燃費の悪さに頭を悩まされた一夏にとっては嬉しい事だと言えるな。

 

……実は稼動ログやらそれ以外のデータを気付かれ無い様に拝借して川崎に送っていたりしたがな。勿論、悪いとは思っている。だが、生き残る為には手段を選ぶつもりはない。……思い返せば、三流の悪役だな、私は。一夏が困っているのを利用しつつ裏で~とは小物にも程がある。

 

「辛口だね~」

「おや、デザートのフリーパスは要らないのか?」

「……おりむーはもっと頑張らないとねー」

 

食欲(この場合はデザート欲とでも言うべきか?)に素直で宜しい事だ。……最も、素直にクラス別対抗戦が終るとは思わないがな。

 

その後、私と本音は一夏とセシリアの対戦を観戦した。

 

 

 

 

――廊下――

 

 

さて、訓練も終わり、各々解散となった。

 

そして備品担当の教員にクレイモアが折れた事を報告すると少々呆れ顔をされた。だが、雪片の一撃だと説明したら一瞬で納得していた。流石はブリュンヒルデの元愛刀、すんなりといくモノだな。そして現在は本音とも別れ、気分転換をしながらのんびりと廊下を歩いている。

 

因みに生徒会の仕事は今日はない、と昨日の時点で言われたので時間を少々持て余していた。と言っても精々一時間程しかないがな。さて、どうしたものかと考えて、思いだした事があった。

 

そう、主任が今日の夜に時間が空いたら連絡をよこす様に言っていたのだ。丁度いい時間帯でもあるし、屋上にでも言って連絡を取ろうか。

 

そしてそう思いながら歩いていると複数の人影が見えた。別段それは特に珍しいものではない。だが、その中に見覚えのある顔があったのである。

 

「向こうにいるのは……鈴か」

 

そう、鈴が居たのだ。そして周りに居るのはおそらくクラスメイトなのだろう。和気藹々と話している。私はそれを横目に見ながら歩いていると、鈴が私に気付き話し掛けてきた。

 

「あ、椿じゃん」

「あぁ、調子はどうだ。鈴」

「勿論絶好調」

「そうか」

 

しかし、鈴とまともに話すのどれくらい前だったかな。1週間ぐらい前だったか?まぁ、弍式の制作や一夏の訓練に付き合っていると、どうしても会いにくい人物は居るのだ。鈴なんかがいい例だろう。会ったとしても偶に挨拶をするぐらいだ。

 

「あれ?鈴は天枷さんと知り合いなんだ?」

「ん、まぁね。コイツとの出会いは――」

 

鈴は友人達に私との出会いをそこそこに話していた。……少々捏造(恋愛相談、もしくは愚痴の部分)されている。だがまぁ、会話内容に出てくる私は簪や本音と共に親切な友人としての立ち位置になってるので特にツッこむ事はしなかった。

 

「――と言う事よ」

「へぇー、やっぱり天枷さんは優しいんだね」

「それに、あの件のお陰で私達も美味しいし」

「あの件?アンタ、一体何やってんのよ」

 

一人の女子があの件、と言った所で鈴が素早く反応した。

 

……仕方ない。

 

「今、携帯は持っているな?」

「勿論持ってるわよ?」

 

ならば話は早い。

 

「つまりはこう言う事だ」

 

私は普段携帯を全く使わないが、一応簪や本音、楯無、一夏+ラバーズといった面々とはメールアドレスを交換している。無論、鈴とも交換した。そしてアドレス欄から鈴のアドレスを引き出し、ある物を貼付して送った。

 

「どれどれ……あ、一夏の……零落白夜を使ってる写真……かっこいい」

 

鈴は頬を赤くしながら呟いた。そして周りの女子も横合いから見ていた。

 

因みにこれは今日の新作である。訓練が終わった後に携帯に直接送ったのモノで、構図は普通の戦闘中に弾幕をくぐり抜けながら零落白夜を発動させ、突撃するという中々のモノなのだ。……最も、その直後に私がカウンターとして瞬時加速をしながら飛び蹴りを放ち、それが直撃して無様に吹っ飛んで行ったのは秘密だがな。

 

「模擬戦をしてるとな、絵になる写真が何枚も撮れるのだ。だからちょいちょい隙を見つけては激写して裏で取引している。まぁ、今回は挨拶がわりの無償提供だ」

 

ただ、楯無にはバレたがな。でもまぁ思考加速を駆使しての激写は中々良いと思うのだ。古鷹には呆れられたが、使いどころは間違ってない……筈。無論、シャッターチャンスを逃さないと言う点でな。

 

「へぇー……」

「勝手に他に回すなよ?」

 

それだと商売上がったりになる。

 

「しないわよ」

 

そしてその後他の女子からも欲しいと要望があったので後程送る事にした。全く、一夏は最高だな。ボロ儲けじゃないか。写真として提供してくれ、と言う者も――勿論要望には答える――偶に居るが、それ以外は基本的にデータでの取り引だ。所詮数千、数百、数十KBだ。原価?そんなのは無い。

 

あるのは利益だけ。本当に最高だな。

 

「まぁそれはともかく、いい加減あの事件の真相を教えなさいよ」

「あの事件?」

「すっとぼけなくてもいいじゃん。顔面赤面症事件」

 

……あれをまたほじくり返すか。

 

「だから言っただろう。あれはうつ伏せで顔に手を当てながら寝た痕だ、と」

 

午後がまるまる自習時間となったあの日、皆が思い思いに学業やIS、お喋り等に精を出してる最中、私は楯無と屋上に居た。そして内容は少々省くが、私は寝ている楯無に好きだ、と言った。そしたら楯無が寝ぼけて私も、と言って私の胸に頭をすりつけて来たのだ。そして楯無が完全に意識が覚醒した時、お互いに赤くなりながら見つめ合って、そしてチャイムが鳴るまで楯無を強く抱きしめた。

 

あの時は……いや、言わないでおこう。これは胸に秘めておくべき事だ。取り敢えず話は戻すが、教室に帰ると、私が真っ赤になっているのをクラスメイトに指摘されてたのだ。そして当然私の状況をクラスメイトが見逃す訳もなく、何故そうなったのかを本音や一夏を中心に色々と追求された。

 

取り敢えず無理やり誤魔化したり黙秘権を行使したりして有耶無耶にしたが……私の知らぬ所で『顔面赤面症事件』なるタイトルで情報が出回っていたのだ。そして簪にも追求されたから、本当に疲れた。

 

「どう考えても無理やりじゃん。と言うか、今も赤くなってる」

「……これは訓練で体が火照ってるだけだ」

 

結局、こうなるのか。

 

「あっそ。だったらそう言う事にしておくわ。どうせこれ以上行ってもぐらかすのは目に見えているし。まぁそれはともかく……一夏もアンタのお陰で中々の動きになってる様じゃない」

「……まぁ、友人には勝ってもらいたいのが心情なのでな」

 

少々虚を突かれたが、切り替えが早くて助かる。有難い。

 

「じゃぁ私にも?」

 

鈴はそう言って八重歯を覗かせながら口元を歪ませていた。

 

「抜かせ、流石に同じクラスである一夏の方を優先するさ」

「冗談よ冗談。でもさ、何でアンタは代表にならなかったの?一夏よりも強いのに」

 

まぁ、至極当然な疑問だろう。本当に勝つつもりなら私か、セシリアが向かうべきなのだから。

 

「川崎でやる事が多いのでな。副代表に収まっている」

 

それに、裏でやる事がこれから多くなるのだからな。おちおち代表なんぞやってる暇なんぞない。

 

「そう言えばそうだったわね」

「言っておくが、一夏はかなり素質がある。実戦で進化けるタイプだしな」

 

それに機動制御が上手くなれば、絶対に化けるだろう。そしてあの学習能力の高さは目の見張るところがある。直ぐに結果となって現れる筈だ。

 

「ふーん。でも、勝つのは私よ?」

 

鈴は私に対して、大胆不敵に宣言した。

 

「……この場合、一夏が言うべきなのだが、まぁ良い。絶対に此方が勝つ」

「ふふーん楽しみにしてるわ。あ、そうそう。それとは別にアンタとも戦ってみたいから、予定作っておきなさいよ?」

「あぁ、必ず時間を作ろう。では、失礼する」

「じゃぁね」

 

私は鈴とその友人達に別れを告げ、屋上へ向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――では、失礼する」

「じゃぁね」

 

私――鳳鈴音――は椿に手を振りながらクラスの子と一緒に手を振って見送った。

 

ん?あの方向は……二、三年生の部屋がある階だけど、別に用事がある訳じゃないわよね?だったたら椿は屋上に行くんだ?何をしに行くのか良く解らないけど、別にどうでもいいか。それに、今回は思わぬ収穫があったし。この写真、後で現像しておこう。頼めば他のも貰える筈ね。

 

「……?」

 

何か見知らぬ先輩がすぐ横を通り過ぎて行った。しかも髪は水色。簪と同じ色だ。……もしかして姉?水色の髪はかなり珍しいから、きっとそうに違いない。

 

「あ、会長だ」

 

クラスメイトの一人が答えた。

 

「生徒会長?」

「うん。簪さんの姉で、国家代表なんだよ」

 

国家代表!?……規格外ね、簪の姉さんは。

 

「と言うか、鈴の方がその手の情報は詳しいんじゃないの?」

 

まぁ、確かに代表候補生だけどさ。

 

「他人の情報には興味が無いから知らない」

 

一夏だけは別。

 

「相変わらずだねー」

 

うっさい。

 

そして暫くの間話し込んでいると話題が椿の事に移っていった。

 

「そう言えば気になったんだけど、何で天枷さんは前髪で目を隠してるんだろ?」

「あっ、それ私も気になったんだよねー」

 

私もそう言えば気になった。軍の連中からは椿のプロフィールは貰っていたけど、正直興味が無かったのでほっぽり出していた。多分、探せばあるとは思う。もしかしたら其処に理由が書いてあるかもしれない。でも調べるのはよそう。どんな理由があれ、勝手に詮索するのは無粋ね。きっとプライベートに関する事である筈だから。

 

「本当はイケメンだったり?」

「だったら結構いいかも!優しくて頭もいいし!それに強いし!」

「ふーん……ま、頑張れってだけ言っておくわ」

 

生憎、既に二名程かなりアプローチを掛けているからね。椿も満更じゃなさそうだったし。一夏程鈍感じゃなさそうだから、結構早くくっつくかも。……でも、もしあの顔面赤面症の真相が女性関連なら、新たな恋敵の出現になるし……前途多難ね。

 

「更識さんや布仏さんの邪魔はしないよ?」

「そうそう。あんなに熱々だと、ね?……で、鈴は相変わらず織斑君一筋なんだ?」

「そうね」

 

何だ、二人も良く解ってるじゃない。って――

 

「ちょっと何どさくさに紛れて言わせるのよっ!」

「あははー、可愛い!」

「鈴は織斑君にお熱だもんねー」

「言わせておけば……!」

 

くっ、顔が赤くなっているのが自分でも解る。隠したくても隠せない。穴があったら入りたいとは正にこの事ね。……?あ、向こうを歩いてるの簪じゃん。悪いけど、利用させてもらうわ!

 

「簪ー」

 

私は簪に声を掛けた。そして二人からは『あ、逃げた』的な視線を受けたが気にしない。

 

「……鈴?」

「調子はどう?」

 

椿と台詞が同じだが、まぁ、どうでも良いか。

 

「……良い方。鈴は?」

「ばっちしよ!対抗戦は絶対に私が勝つからね!」

 

これだけは絶対に揺らがないわ。

 

「……負けない」

「ふふーん、望む所よ。あ、そう言えばさ、椿が何か屋上の方に行ったんだけど、何か心当たりない?何かふらふら~と向かって行ったから気になったのよね」

 

何時もべったりな簪なら何か知ってると思う……ハッ!?もしかして未だ見えぬ新たな恋敵との愛の語り合いだったり?……な訳無いわね。無いわよ、ね?ヤバイ、肯定する材料もないけど、否定する材料もないわ。

 

「……解らない。どうしたんだろ?普段は仕事の方で渉外部に居るらしいのに」

「あ、そうなの?じゃぁ向かって見れば?」

 

意外な事に簪も知らないらしい。と言うか、アイツ学生生活送りながら仕事してたんだ。

 

「……向かってみる。ありがと」

「はいはい、どう致しまして。……早くつかまえなさいよ~」

「……っ!……わ、解ってる」

 

あら可愛い。簪は真っ赤になりつつ屋上を目指して行った。

 

「更識さんは4組でも色々言われてるよね~」

 

あぁ、そう言えばそうだったわね。

 

「うんうん!皆から可愛がられてたよね」

「それに1組の方では布仏さんも皆の後押し受けてるし」

 

それも聞いた。と言うか、一夏の様子を見に行ったらそんな話をしてた。

 

「「一体どっちとくっつくんだろ?」」

 

アンタ等仲いいわね……。

 

「一方、鈴は篠ノ之さんとオルコットさんに押され気味だと」

「と言うより、喧嘩して素直になれなくて近づけない」

「ツンツンするのも可愛いけどさー」

「偶にデレてあげないと愛想つかれるよ?」

 

「「鈴ちゃんは可愛いんだから!」」

 

「う、うっさいわよ!あとちゃん付けするなっ!」

 

ホント何、言ってくれるよ!

 

その後、色々からかわれたので本当に疲れてしまった。

 

 

 

 

 

――屋上――

 

 

「――それで、アレは一体何ですか?」

私は、前日の夜に突然届けられた妙な装置について主任に問いを投げた。

 

受け取った奇妙な装置は一言で表せば持ち手の短いさすまたの様なモノだった。近接ブレードか何かか?と詳細を古鷹に問いただしたのだが、古鷹は詳細は主任に聞けと言ったモノなのだ。

 

『んーとね、君に渡したのは剥離剤って言うんだ。あの極悪諜報部隊が持ってきた代物らしいよ?」

 

持ってきた……つまり何処かの非合法組織から強奪してきたのか。

相変わらず、裏ではえげつないことをする。

 

「……用途は?」

『この剥離剤はね、ISコアを強制的に奪う、っていう超驚きの代物さ!でも、本来は機体ごと奪うモノらしいよ?君に渡したソレはその試作品。と言っても、ちょっと弄ってコアを奪ったらそのまま拡張領域に収納できる様に弄ったけどね。因みに千歳君達で実験済み。効果はバッチリさ!』

「……どれだけ唖然とすればいいのやら」

 

だんだん頭が痛くなってきた。

 

「それで、何故私に持たせるのです?襲撃があったとしても特に必要無いのでは?」

 

奪ったことが露見して即返還の流れになるのは目に見えてるのだが。

 

『NON.その考えは浅はかだよ?よーく考えてみたまえ。あの兎は部下、つまり手駒がいないんだよ?だったら襲撃する方法は限られてるよね?』

「……つまり、襲撃してくるのは有人ではなく無人のISだと?」

 

ISは無人機としては動かせないとされているが、所詮それは篠ノ之束がそういう風に設定して作れない様にしているだけで、本当は作れる、と言う事か。

 

『うん。そしてそこでその剥離剤を使って完全破壊に見せかけて奪ってしまおう、と言う作戦さ』

「……解りました。やってみましょう」

 

言いたい事はあったが、グダグダ会話するよりは会話を区切った方が良い。

 

『まぁ私としては無人機とは忌むべき存在なので、全て破壊したいのですがね』

 

今まで沈黙していた古鷹が唐突に会話に割り込んできた。

 

「何故、忌むべき存在なのだ?」

『無人機はですね、私達を強制的に動かす代物なんですよ、人が乗るのと違って』

「動かす、と言う意味では余り変わらない筈だが?」

 

違いが解らん。

 

『否定。人が乗る場合、私達は受け入れます。所謂同意の上、と言う奴です。まぁ、今は兎によって制限を受けていますし、選り好み、とはいきませんがね。取り敢えず、無人機とは一緒にしないで貰いたい』

 

古鷹は明確な怒りを顕にしながらそう言った。

 

「そうか……すまない。言い過ぎた」

『いえ、少し熱くなりました。取り敢えず、そんな理由です』

「解った」

 

古鷹は無人機は不快に思っている、と言う事は覚えておこう。

 

『まぁ、そんな所だからその時はよろしくぅ!あ、次いでに言っておくけど、この剥離剤は最重要機密だから楯無君にも教えちゃダメだよ?敵を騙すには先ず味方からってね!』

「……解りました」

 

何故最重要機密だと先に言わないのだろうか?それならそれで場所をもっと選んだのだが。いや、この場合は私が悪いのだろうか?そんな事を思いつつ私は通信を切って部屋に戻ろうとしたが―――

 

「はーい椿」

「~~~~っ。楯無、また、盗み聞きか?」

 

そう、振り返った視線の先には楯無が居たのである。あの日以来、私は楯無と顔を合わせるのが内心恥ずかしいが、楯無はというと全くあの日の事を引きずっていなかった。そのお陰で普通に会話はできるのだが……それはともかく、全部聞かれたか?

 

「偶々よ?偶々」

 

白々しい。

 

「……なら、何処まで聞いていた?」

「んー、無人機がどうのこうのって古鷹が話していた辺りね。嘘じゃないわ」

 

……薄皮一枚で繋がった、か。

 

「はぁ……とにかく、余り盗み聞きはしないで貰いたい。企業秘密の話もあるのだから」

「解ったわ。なるべく努力はする。――それで、無人機って?」

「篠ノ之束だ。クラス別対抗戦の時に無人機が襲ってくるらしい」

「……警備の方はどうすればいい?」

 

私の言葉を聞いた楯無は意見を求めた。

 

警戒態勢を強くするのか、平時の時と同じにするのか、と。

 

『今までのイベント通りの規模でお願いします。いきなり警戒態勢が強すぎると不審に思われますから。索敵は川崎の手の者が担当し、此方で交戦、撃破、と言う流れになります。なので貴方は観戦席で待機。状況開始後、安全性の確保の為に一般生徒の速やかな避難誘導をお願いします』

「という事は戦闘に関しては私の出番はないのね?」

 

楯無は口元を開いた扇で隠しながら尋ねた。因みに扇には『委細詳細』と書かれていた。

 

『肯定。更識家と手を結んでいると言うカードを最初からオープンにするのは得策とは言えません。今はただ、急な事態で対応に手間取っている生徒会長を演じて下さい。下手な動きをしなければ兎は興味を持ちませんから。ですが、ある程度時間が経っても戦闘が続いていた場合は介入は可能です』

 

普通のタイミングで援軍としてくるならギリギリ問題無い、か。ただ、その介入可能なタイミングと言うのが状況に応じて変化するだろう。最も、私が楯無の介入を受ける前に倒せればベストなのだがな。

 

「そう、じゃぁそう言う事にしておくわ」

「話はこれで終わったか?」

『そうなりますね。では、私はこれで』

 

古鷹は再び意識を主任の方へと向けていった。私はソレを確認した後、楯無に語りかける事にした。

 

「……それで、何故此処に居るのが解った?」

「何となく♪」

 

楯無は絵になる様な非常に良い笑みで答えた。

 

……。

 

「つまりはストーカーか」

 

少々頭がフリーズしたが、直感的にそう思った。何となくじゃなくて絶対に後ろをついて来ただろう。

 

「何でそうなるのよ!」

「喧しい。水色の悪魔よ、お前は妹では飽き足らずとうとう私までストーキングをするか……」

 

これは早急に対処する必要があるな。流石にプライベートを全て覗かれる事態は防がなければなるまい。

 

「だから水色の悪魔って言わないでよ!」

「煩い。お前はとっとと簪と仲直りする為の台詞でも考えていろ」

「ちゃんと考えてあるから問題無いわ」

「では私をストーキングした理由は?」

「勿論考えたわ!って、あ」

「ほう……では聞かせて貰おうか」

 

墓穴を掘ったな、楯無。逃げ場はないぞ?まぁ、逃げたら逃げたらでお仕置きを色々考えておこう。ククク……さぁ、どうする?

 

「その笑みがすっごくムカつく……!!」

「そんな事はどうでも良いのだよ。……さぁ、さっさとこの私が納得できる君の考えたとてもとても素晴らしい言い訳を話してみたまえ、ん?」

 

できるものならな。

 

「ぐっ……!!」

 

楯無は悔しそうにしていた。……実に良い状況だ。こうして楯無を弄るのも中々悪くない。

 

「……そうね、私が何となく解った理由わね――」

 

楯無はそう言いながら私の周りをぐるぐる回り始めた。……とういうより、ストーキングと言う単語を認めないらしい。いい加減認めたどうだろうか?

 

「――こう言う事よ!」

「何っ!?」

 

楯無がいきなり後ろから抱きついてきた。

しかも腕ごとホールドされて中々抜け出せない。

 

「ふっふっふーおねーさんを手玉に取ろうなんて100年早いわ」

「ちぃっ!?遂に本性を現したか!水色の悪魔め!」

 

体を振って拘束を解こうとするが――やはりできない。しかも胸を押し付けるな……!!

 

「だから水色の悪魔って言わないでよ馬鹿っ!」

「喧しい!私は馬鹿ではないっ!お前が馬鹿だろう!この馬鹿無め!」

「良くも言ってくれたわね!馬鹿って言った方が馬鹿なのよ!この馬鹿椿!」

「はっ、語るに落ちるとは正にこの事だな。鏡を見て出直すがいい」

 

そして馬鹿とは言い返さないんがこの私。格が違うのだよ!格が!

 

「なによっ!」

「ふっ……」

 

鼻で笑って返してやる。

 

今のお前には、これで充分だ。

 

「もうあったまきた!絶対に許さないんだからっ!」

「ならどうする?」

 

どちらにせよ、倍返しに――

 

「こうするのよっ!」

「ぬぉっ!?」

 

楯無は膝カックンをしてきた。

 

突然の不意打ちだったため、何も抵抗できずに態勢を崩され、膝立ちになってしまった。そして楯無に体重をかけられてる事から、必然的に前のめりになる。

 

そすて手が封じられてる以上、倒れたない様に背筋を使って踏ん張ろうとすると後ろの二つの柔らかい感覚が容赦なく理性を浸食し、心臓の鼓動が早鐘を打ち始めた。

 

なんだ、なんなんだこの生き地獄は……!!

 

とても顔が熱かった。

 

「……椿のえっち」

「っ!!」

 

耳元で甘く囁くな……!!

 

「……さてさて、椿君の更正の為に始まる調教タイム✩いっちゃうわよ!」

 

一体何をするつもりだっ!?

 

しかも相変わらずホールドから抜け出せない。下手に動けばあの感触が容赦なく理性を蝕んでくる。これは最早詰み、なのか?

 

「くっ……だが、覚えておくがいい、その発想が後に災いを引き起こす事をっ!!」

「だったら今の内に災いが起きない様にするだけよっ!」

「おい、楯無!其処は、止め―――」

「ふふっ、たーのしっ!!」

 

その後、屋上に一人の男の裏側った悲鳴と女の楽しそうな笑い声が誰の耳にも届かずに響いた。

 

 

ただ一人の目撃者を除いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

椿がお姉ちゃんと通信機越しに知らない誰と話していた。

会話はよく聞き取れなかったが。だた、幾つかの単語はギリギリ聞き取れた。

 

『イベント』

 

『川崎』

 

『更識家』

 

『戦闘』

 

何の事だろう、と疑問に思った。いや、更識家、と出た以上、何か深刻な事態に陥って居るのかもしれない。そして、椿がそれに関わっている事を。

 

(……お姉、ちゃん)

 

驚いた。

 

椿がお姉ちゃんと既に知り合っていたのかと。

 

痛かった。

 

椿がお姉ちゃんと楽しそうに、それでいて今まで話した事が無い一人称で話していたのが。きっと、あれが本当の椿の素なんだろう。

 

悲しかった。

 

椿は、お姉ちゃんは、無力な自分は役に立たないから何かを黙っているのだと。

 

「……っ!」

 

暫く楽しげに会話をしていたけど、お姉ちゃんがいきなり後ろから椿に抱きついた。椿は抵抗した様だけど、お姉ちゃんから逃れられないでいた。そして少しして椿はお姉ちゃん態勢を崩されて膝立ちになっていた。

 

そして見てしまった。

 

お姉ちゃんが真っ赤にしながらも、今まで見たことない――昔、私と仲が良かったくらいの――笑顔になっていたのを。

 

解ってしまった。

 

同じだ。お姉ちゃんも、私と同じく椿に恋をしている。

 

見たくない。

 

ここに、居たくない。

 

戻ろう。

 

ここに居たら、悲しくなるだけ。この事は忘れたい。……今、胸が切ない。私は、お姉ちゃんに嫉妬してる。私が持ってないモノを持っていて、欲しいのモノは自分の力で手に入れれる。とても羨ましく、とても妬ましい。

 

そしてこんな浅ましい自分が嫌いになってくる。

 

私は走って自分の部屋に向かった。そして帰った後も、ベットに飛び込んでさっきの事ばかり考えていた。夕食なんて要らない。今は何もしたくなかった。

 

ぐちゃぐちゃ。

 

悲しみも羨望も嫉妬も恋心も何もかも、色んな感情がぐちゃぐちゃ。

 

お姉ちゃんと仲直りはしたい。

 

でも、椿は盗られたくない。

 

お姉ちゃんは私が知ならない椿の一面を知っている。

 

私だって、もっともっと椿の事を知りたい。

 

(いやだ……)

 

離れたくない。

 

ずっと傍にいたい。

 

ずっと一緒に居たい。

 

私が好きな、ヒーロー。

 

夢やお伽話なんかじゃない、本当のヒーロー。

 

私がとっても大好きな、大切な人(ヒーロー)

 

(……お姉ちゃん)

 

嫌いだ。

 

色んなモノを持ってるのに、椿を取ろうとしてる。

 

大嫌い。

 

他の人を選んで欲しい。

 

私は何も要らない。

 

椿がいてくれれば、それ以上は望まない。

 

(……でも)

 

もう、一方的な思いで、否定的な考えだけで、自分の殻に閉じこもったままでお姉ちゃんを突き放したくない。もう、不仲なんは、嫌だ。だけど、ソレを差し置いたとしても、お姉ちゃんだけには取られたくない。

 

(……辞めよう)

 

不意に思い出した。

 

椿は私に前向きになれ、と言い。私が前に進もうとしたのを祝福してくれたのを。そして椿がそこに込めてくれた純粋な思いを。

 

(だから私は、決めたんだ)

 

私は、前向きに考えるって。

 

私は私だって。

 

もう、コンプレックスは抱かないって。

 

私は、お姉ちゃんと仲直りするって。

 

だから、先ずは私は椿が今まで黙っていた事を聞く。そして本当の意味で、分かり合いたい。

 

(……でも、どうやって聞こう?)

 

解らない。

 

そもそも、先程お姉ちゃん達は思いっきりじゃれてたけど(その後どうなったのかは解らない。けど、普段の椿からは想像できない裏返った悲鳴は聞こえた)、その前は知らない人と何か重要な話をしていた気がする。

 

とっかかりが掴めない。

 

(どうしよう……)

 

少し、考える必要がある。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




はい。浮気(?)現場がバレました。一体どうなる事やら。まぁ、重い話にはなりませんが。
そして漸くクラス別対抗戦に入ります。文字数的には三巻分ぐらい使って原作一巻相当。
色々と書きたいけど展開が遅すぎるなぁ、と思っていたり。

まぁそれはともかく、ちょっとだけ補足。
原作のモンド・グロッソの部門数とか色々と不明だったんでこの作品におけるモンド・グロッソはこんな感じにしました。

『格闘部門』近接兵装オンリー
『射撃部門』射撃兵装オンリー
『機動部門』レース
『技巧部門』機動の美しさを競う。所謂ダンス的な競技
『総合部門』モンド・グロッソ参加者全員で行うトーナメント形式のバトル

と言う感じになります。なので千冬は第一回と第二回の格闘部門のヴァルキリーになっている事にしておきます。原作八巻でイタリアに世界第二位がいるとか書いてありましたが、これは無視します。千歳に変態武装で蹂躙された、とでもしておきます。……せめてテンペスタの資料があればなぁ。

それでは次回もお楽しみに!

感想・コメント・指摘・誤字報告等をしてくれたら嬉しいです。

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