ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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Hallelujah!!椿の首に掛かってる毎度お馴染み、古鷹です。

さてさて、皆様は『ブルマ』と言う聖遺物をご存知でしょうか?
そう、語り尽くせない浪曼(ブルマ)は、紳士の帽子のことを指しますが、元来は100年ほど前にアメリカで発明された女性の運動用着衣にして、至高の芸術品であります。因みに代型として完成したのは1960年代。野郎共の目線を集め、ナニの実用性は勿論ですが、履いた本人に俊敏な機動力を実現させる事も視野に入れているのです。それに、実際に履いた娘達からは「恥ずかしいけど動きやすい」といった声が多かった、と言う資料があります。そして中にはその俊敏な機動力によって相手をポルナレフ状態にした娘もいるとか。そして汗まみれになったブルマはフェロモンがたっぷり詰まっていおり、それを狙った変態紳士達によって餌食にされる事も多かったとか。 ですが、近年はブルマが減少傾向にあり、スパッツやショートパンツに切り替わりつつあります。これは由々しき事態であり、一部地域では絶滅の恐れさえ叫ばれ始め、レッドデータブックへの登録申請もあったとか無かったとか。 ですが、変わったことにブルマの減少とまるで反比例するかの様にミニスカートが増加傾向にあるようです。そこには「卵を割らずにオムレツは作れない」つまり、「何かを得るためには何かを失わなくてはならない」という等価交換の力が働いているのかもしれませんね。言い替えれば「二兎を追うものは一兎をも得ず」とも言えるでしょう。見えざる神の手は、今は捲る方にご執心のようですね。

……ふぅ。語り尽くしました。って、話が脱線しましたね。申し訳ございませんでした。ですが、ブルマ、と言う単語を聞いた瞬間、察した方もおられる様ですね。……全く、訓練されすぎでしょう。ごほんっ、そう、今回のお話は体育のお話。

IS学園はブルマを学校指定体操着にしている以上、これは語らなければいけないでしょう。そしてそれを堪能する権利を有する男性二名が全くもってうらやまけしからん。とっとともげて欲しいですね、相棒とワンサマーには。

それでは、三十一話兼特別編第二話、ごゆるりとご堪能あれ。

あと、どうやら投稿者はブルマはぺたん座りしてる時の食い込みがどうのこうの呟いてました。
ま、どうでもいい話ですがね。



第三十一話:girls be ambitious!! ~更識簪編~

私――更識簪は授業が終わった瞬間、とある考え事をしていた。

 

『二人の雰囲気が凄く良くなってる』

 

そう思ったのは何時もの様にご飯を一緒に食べようと誘った時。あの時の二人はとても雰囲気が良かった。だから何かあったのかな、て思った。でも、どうやって聞こうかな?って思ってたんだけど、食堂までの道中も、食事の時も、終わった後の教室に向かう時も聞きそびれてしまった。と言うか、椿のお得意な舌先三寸のせいでそのきっかけを作ろうとしていたのに、ことごとく話題をすり替えられた事に今更気付いた。しかも本音もそれに協力してる節があった。

 

(……むぅ)

 

なんか、悔しい。

 

違う。

 

なんか、じゃなくて凄く、悔しい。

 

(……嫉妬してる)

 

本音は部屋も一緒だしクラスも一緒。私よりも長く椿と一緒に居られる。だからこそ、私の知らない椿を本音は知ってるんだろう。

 

だからこそ、私は嫉妬してるんだ。

 

(私だって、知りたい)

 

それも、まだ本音も知らない様な椿を。本音よりも、私の方が椿の事をよく知ってるって証明したい。

 

(……止めよ)

 

凄く、ネガティブな思考になった。

 

私はそんな気持ちで好きになったんじゃない。私は、私を前へ前へと、歩みを促してくれた椿を、まるで御伽話の中から出てきたヒーローの様な彼を好きになったのだから。それなのに、私は凄く偏屈な考えで、この想いを汚そうとしてる。

 

絶対に駄目。

 

だから、やめる。もうネガティブな思考は、後ろ向きになるのはもう止めると決めたのだから。でも、悔しいと思ってしまったのは紛れもない事実。

 

(……どうしよう)

 

考えても、答えは―――

 

「ねぇねぇ簪さん」

 

考え事をしててたら誰かが話し掛けてきた。

 

……佐々木さんだ。

 

佐々木さんは4月頃に椿が用事(実際には本音との仲直りだったけど)があると言った時にちょっと知り合って、今では結構な仲であったりする。そしてその佐々木さんの周りにも何人か居た。

 

「……えと、何?」

 

何か、用事でもあるのかな?

 

「んーとね、簪さんは天枷さんと何処まで行ったのー?ってね」

「気になる気になるぅ~」

「そうそう、だからYOUとっとと吐いちゃいなYO!」

 

これは尋問、もとい恋バナ、なのかな?でも、私は恋バナは苦手だ。

 

先ず、話についていけない。

 

今まで私は代表候補生になる為の訓練や、倉持から未完成の状態で送られた打鉄弍式の制作、家の方で暗部の家の者として最低限の事を教わっていたから、男の人の話題なんで先ず出てこない。それに、中学校の頃は女子校に通ってたから、男の人は家の人以外は殆ど会った事が無い。更に言えばIS学園での恋バナ、引いては男の人の話題ともなれば十中八九あの二名に絞られる。

 

一人は織斑一夏。

 

ブリュンヒルデと言う世界最強のIS乗りの称号を手に入れた姉を持つ、ある意味で私と境遇が似通っている、世界で最初に発見されたISの男性操縦者。以前は弍式の制作を白式のせいで放棄されたから恨んでいてたけど、もう気にしてない。それに、接してから解ったけど、彼は人当たりの良い性格の持ち主だったから、普通に知人として関係を築かせて貰っている。

 

女子からの評価は『まっすぐでかっこいい正統派の男の子』

 

確かに容姿は整ってるし、初めは王子様みたい、と思った。それに、何度かお話もした事があるけど、性格も素直だった。ある意味評価通りの人だと思う。でも、凄く女の子の好意には鈍感で、鈴や箒、オルコットさんがヤキモキしてたのをよく目撃していた。

 

もう一人は天枷椿。

 

世界中に支社を持つ大企業、川崎・インダストリアルカンパニーのテストパイロットにして世界で二番目に発見された男性操縦者。後ろ向きな考えで、誰にも手を借りようとせずに制作を続けていた私を、まるでヒーローの様に、手を差し伸べてくれた、私のヒーロー。私の、大好きな人。

 

女子からの評価は『地味だけど頼りがいのある、偶に子供っぽい人』

 

確かに前髪のせいで地味に見えるけど、私にとっては充分かっこいいから訂正して欲しい部分。でも、他の部分にはその通りだ、と思った。弍式の制作でも、豊富な専門知識を持ってたからとても助かった。それに、本音や箒も椿か技師の知識や勉強を教えて貰った、って聞いてる。そして椿がちょくちょく織斑君を弄って遊んでいる事も。……あと、個人的には椿はとっても優しい、って評価に付け加え欲しい。

 

……少し脱線した。取り敢えず、男の人の話題と言えば、だいたい椿と織斑君の話に集約される。

 

彼等の特徴、趣味、特技、行動、発言、友人関係、過去。

 

とにかく話題性は豊富で、恋バナもその一つだった。因みに織斑君の場合、その候補に上がるのが鈴、箒、オルコットさん。そして偶に織斑先生。

 

……なんで織斑先生が出てくるんだろう、って思ったけど気にしないことにした。

 

そして椿の場合は本音と私。

 

別に隠す気は無いけど、その、面と向かって言われると反応に困る。だからこそ、苦手。恋バナになれば、ほぼ確実に私に興味の矛先が向くから。

 

「……どこまでって?」

 

取り敢えず、先程の質問には疑問で返すことにした。

 

「またまた、とぼけなくてもいいんだよ?」

「そうそう!」

「この前の出来事」

 

「「「忘れたとは言わせないよ?」」」

 

「っ!?!?」

 

妙に連携しながら言われたから思わず驚いてしまった。

 

それに、この前って、まさか昼休みの出来事、なのかな。……あれって見られてたんだ。

 

凄く、恥ずかしい。

 

だんだん頬が熱くなってきた。

 

「あの時の簪さんは天枷さんに顎に手を添えられてたよね~」

「見ててこっちが熱くなったよねー」

「そして天枷さんの手が離れていった瞬間、名残惜しそうに手を掴むその仕草っ!」

 

「「「萌えるっ!!」」」

 

「……し、知らないっ!!」

 

(恥ずかしい、恥ずかしい……!!)

 

頭を振って事実を否定したけど、見られていたのなら覆る訳が無い。それでも、否定せざる負えなかった。

 

「さぁ、とっとと白状するのだ簪君」

「故郷で待ってるおふくろさんが泣いてるよ?」

「……ポッキー、食べるかい?」

 

……そこはカツ丼じゃないんだ。取り敢えず、ポッキーは食べよ。

 

私は差し出されたポッキーを、顔を近づけてそのまま食べる。

 

ポリポリ。

 

……美味しい。

 

「もう一本?」

 

どうやら私の顔にはもっと頂戴、と書いているらしい……欲しかったのは事実だから再び差し出されたポッキーをそのまま咀嚼する。

 

パクッ。もぐもぐ。

 

……うん。甘くて、美味しい。

 

「「「ぐはっ!?」」」

 

「……?」

 

何故か佐々木さん達は鼻を押さえていた。

 

どうしたんだろ?

 

「……これが、進化の現実だと言うのっ!?だったら私はっ!?」

「戦争は変わった……」

「ビューティフォー……」

 

……何を言ってるのかよく解らない。でも、何だか身悶えてるから、これ以上椿と私の関係を追求される事がない、かな?

 

『―――失礼する。次の授業で使う教材を持ってきた』

『天枷さん、ここまでありがとうございます』

 

……あ、椿だ。それに山田先生。荷物、持ってあげてたんだ。でも、このタイミングだと―――

 

「噂をすれば影」

 

佐々木さん達が騒ぎ出す。と言うか、騒ぎ出した。

 

「愛しの彼が来たねぇ」

「ちょっと呼んでくる!」

「ちょ、ちょっと―――」

 

待って、と言いたかったのに、言い切る前に佐々木さんが凄いスピードで椿の下に向かった。

そして椿はそんな佐々木さんに戸惑いいつつも私の席の前まで来た。

 

「あー……なんだ、中々どうして、クラスの皆との関係は良好の様だな」

 

椿は周りの様子を見ながら言った。

 

「……う、うん」

 

私は頷く。皆とは、仲良くできてるのは、本当だから……偶にじんも――恋バナに付き合わされるけど。そして周りの人もうんうん、と頷いてた……こんな時だけ変に騒がないで、応援してます、見たいな感じになるのは、ずるい。あと、山田先生も微笑ましいしくも羨ましそうにしている顔で見ていないで欲しい。

 

「それで、佐々木さん、だったな。俺を此処に連れてきた理由は?」

「それはですね~論より証拠!ささっ、これをどうぞ」

「ん?ポッキーか、どうすればいい?」

 

まさか、人前で……?。

 

(……恥ずかしから、いや)

 

さっきは普通にやってたけど。でも、あれとこれは違う。さっきのは友達だから何とも思わなかったけど、その、椿がするのとは訳が違う。

 

「そのまま簪さんに差し出すのです!」

「それは……むぅ、解った」

 

椿は少しだけ迷う素振りをしたけど、雰囲気に押されたのか直ぐに首を縦に振っていた。そして私の前にポッキーを差し出して来た。

 

「……その、なんだ。簪、食べてくれるか?」

 

心なしか恥ずかしそうに言ってきた。

 

皆が注目してくる中でやるから、当然の反応、だよね。私も、凄く恥ずかしい。でも、断る雰囲気じゃないから、答える変わりに食べ始める。

 

もぐ、もぐ。

 

……恥ずかしい。けど、やっぱり美味しい。

 

『ほわぁー……』

 

何か、皆が凄く和んでるような顔してる。中には頬に両手を当てた人も居た。でも、実行した私は、そして椿は、そんな所じゃない。顔がさっきよりも熱くなってるのが解る。そしてちょっと椿がどうなってるのかが気になって、椿の方を向いてみる。

 

「…………」

「……椿?」

 

何か惚けてた。凄く、珍しい。

 

「む。あぁ、いや、すまない……佐々木さん、もう一本、貰えるだろうか?」

「遠慮なくっ!」

「っ!?」

 

(……恥ずかしく、ないの?)

 

「簪、その、ダメか?」

 

椿が佐藤さんからポッキーをもう一本貰ったところで尋ねてきた。そこで私は少し考えて、答えを出すことにした

 

「……いい、よ」

 

本当は凄く恥ずかしいけど、椿がお願いしてくれたから、食べる。でも、恥ずかしさに耐えられないから、目を瞑って食べる事にした。

 

ぽり……ぽり……。

 

ゆっくり、ゆっくり食べ進める。

 

ぽり……ぽり……がっ―――ん?

 

何か、変なモノを齧って――これは、指?

 

……。

 

……!!

 

「……簪、指を咥えるのを、止めてくれないだろうか?」

「ご、ごめんなさい……」

 

私は直ぐに噛むのを止めて指――人差し指を自由にする。

 

……そんなに強く噛んでないつもりだったけど、椿の人差し指は赤くなっていた。

 

「あぁ、いや、そんなに申し訳そうにしなくてもいい。別に痛い訳でもないからな」

「で、でも」

 

誤ってやったけど、噛んだのは事実だから。

 

「いやなに、とても良いモノが見れたからな。これはその必要経費、と言う事にする」

「……良い、モノ?」

 

一体、何の?

 

「あぁ。簪の咀嚼してる仕草がとても可愛い――しまった。後生だ、忘れてくれ」

「っ~~~!?」

 

椿はあぁ、言ってしまった、見たいな感じになってた。

 

(でも、可愛い、って言ってくれた)

 

それだけで頭が沸騰しかけた。

 

普段は全く言わない台詞。

 

それを聞けたから、私はそれで充分だった。

 

「……ずっと覚えておく。ふふっ」

 

だから、これだけは言っておく。……最後の最後で笑っちゃったけど。でも、これが私の、ちょっとだけの嫌がらせ、かな。ううん、嫌がらせじゃなくて、素直な気持ち。

 

絶対に忘れない。

 

「っ~~!!……とにかく、用事はこれで済んだ。俺は教室に戻らせて貰う」

「あ……またね」

「……あぁ、また後で」

 

……うん。やっぱり、一緒のクラスの本音が羨ましい。

 

一杯、お話できるもん。

 

本当に、ずるいよ。

 

『あ、天枷さん。急な事ですみませんが、1組の皆さんに授業変更を伝えてくれませんか?』

『構いませんが、どの時間を、ですか?』

『午後の授業です。3組の担任からのお願いで明日の時間と交換する事になりましたので、5、6時間目は4組の皆さんと体力測定をやります。なので、お昼休み中に体操着を用意して下さい、と』

『解りました。では、失礼しました』

 

あ、午後は1組と体力測定するんだ。

 

……。

 

…………え?

 

『えぇぇぇぇええええええええっ!?』

 

「ひゃっ、ひゃいっ!?み、皆さん、どうしましたかっ!?」

 

山田先生は皆の声に驚いてたけど、この授業変更を驚かない方が無理だと思う。だって、合同授業は鈴の、引いては2組の特権だったから。他の組は半ば諦めモードだった。私だって、椿と一緒に授業を受けれないと思って諦めてた。でも、こうやってチャンスが巡ってきた。とっても嬉しい。

 

だから、皆も、私も嬉しくも驚いた。

 

比率で言えば嬉しさ7割、驚き3割、かな。

 

「良かったね、簪さんっ!」

 

隣の席の子が話し掛けてくる。

 

「……う、うん」

 

私は素直に頷いた。だって、本当のことだから。

 

だから早く、五時間目になって欲しいな。

 

 

 

 

――体育館――

 

お昼休みが残り僅かとなっている時間。

 

着替え等で授業に遅れるのを考慮した一夏と椿は、昼休みの途中え体操着に着替える事にし、着替え後、体育館で女子達を待っていた。因みに椿は長袖長ズボン。一夏は半袖短パンである。

 

「――しっかし、何で女子の体操着は『ブルマ』なんだろうな?」

 

一夏は椿と手持ち無沙汰に待っている最中、最もらしい疑問を呈した。

 

それもそうだ。元々は学校指定の体操着であったブルマは、女性の社会進出の拡大と共に、通常体育の授業時は男女別服装である合理的理由はなく、男女平等教育の観点に照らして男子・女子とも同じ運動着を着るべきである等の意見により消えていった代物なのだから。しかも今の世の中は女尊男卑であるから尚更だと言えるのかもしれない。だがしかし、このIS学園にはブルマが確かに存在しているのだ。

 

何故だろうか?

 

そしてその疑問を聞いた椿は少しだけ顎に手を考え、解答した。

 

「何だ、もう見慣れたと思っていたのだが……今更欲情でもしたか?」

 

凄まじく見当違いな回答である。

 

「何でこの疑問でその解答になるんだよっ!?」

「一夏、隠すのはよくないぞ?……あぁいや、むっつりだったか。すまんな」

「ちげぇからっ!そして謝るな!てか話を聞けよ!?」

 

一夏は椿の肩を掴んでガクガク揺さぶり始めた。

 

「えぇい、離せ馬鹿者」

「だったら真面目に答えてくれ……」

 

一夏は半ば懇願する様に言った。そして解放された椿は乱れた服を軽く直しながら答える。

 

「つまり、一夏はバックショットが堪らんの口なのだろう?尻フェチ……やるな」

 

其処まで言い切った椿は華麗にサムズアップを一夏に向けて決めた。きっと今なら椿の周りにはお星さまが瞬いてるのかもしれない。

 

「つぅ~ばぁ~きぃ~?」

 

がしかし、サムズアップを向けられた一夏はこめかみに青筋を浮かべていた。きっと今の一夏の背後からはお星さまの代わりに阿修羅が見えている事だろう。

 

「解った解った。真面目に答えてやるから、な?どうどう」

 

だが、椿は一夏の怒りを軽く流し、まるで馬を制御するかの様に宥めていた。

 

「っ~~~!!……頼むぜ」

「そもそも、何故ISスーツの露出が多いと思う?無論、俺達は例外だが」

 

椿の言った事は最もである。男性物(と言っても、今のところは彼等のみの特注品なのだが)はダイバースーツに近しいが、女性物は所謂スク水に近い形状であり、露出度もブルマに引けをとらないのである。

 

これは何故だろうか?

 

「……それは、絶対防御があるから着込む必要が無いからじゃないのか?」

「だとしても、態々羞恥心を誘う様な形状にする訳が無いだろう?」

「そう、だけどさ。……じゃぁ何が正解なんだよ?」

「簡単に言えば野郎共の趣味だ」

「は?」

 

一夏はポカンとして口をあんぐりとしていた。

 

「以前、本音から借りた漫画で得た知識だ。何でも、メカ娘と言う、ISに近いモノがあってな、そのメカ娘もスク水に近しいモノを着用していたのだ」

 

だから、と椿は続ける。

 

「俺はISスーツを作った連中、引いてはISの生みの親である篠ノ之束はメカ娘と言う萌えジャンルを引き継いだ、と確信している。有り得ないとは否定できんぞ?寧ろ、これを論破できるのなら是非ともして欲しいモノだ」

 

そして椿は思った。

 

篠ノ之束はもしかして織斑千冬のスク水姿を拝みたかったのではないか、と。

 

が、直ぐに下らない考えだとして記憶の片隅においやった。

 

「なんか、頭が痛くなってきたぜ……」

 

一方の一夏はと言えば、ガシガシと頭を掻いていた。

 

目の毒な光景にはそんな背景があったのか。

 

そう心の中でつぶやきながら。だが、そんな一夏を気にぜず、椿はさらに言葉を続けた。

 

「そして話は戻すが、ブルマはお前も知ってる通り、露出が多いから当然女子達には羞恥心が存在する。だが、それはISスーツにも言える事だ。よってブルマは『ISスーツを羞恥心無く着込む為の予行演習になる』と考えればいい。だからブルマが採用された、と言えばお前も納得できるだろう」

 

そして椿は学校指定のスク水も似た様な理由だろうな、と言って締めた。

 

「へぇ~」

 

一理あり、と言った感じで一夏は感嘆の声を漏らした。

 

「まぁ、そんな所で、だ。誰の体操着姿がお好みなんだ?」

「だから何でその流れに持っていこうとするんだよっ!?」

「つまり、興味が無いと?」

「いや、そういう訳じゃ――」

 

一夏は否定する。そして其処に重ねる様に椿は言葉を続ける。

 

「あるのだろう?大丈夫、今は俺しかいない。だから正直に言え」

「……あります」

 

一夏は素直に頷いた。

 

そう、彼とて異常な鈍感(好意限定)を差し引けば正常で健全な一人の男児。

 

男子(椿)がもう一人居るとはいえ思春期の女子と同室。廊下を歩けばだらしなく着崩した女子が居たりするし、そんな女子と目があった暁には真っ赤になりながら顔を逸らされる。そしてそんな女子に一夏がトギマギ、もといムラムラしない訳が無いのだ。そして勿論であるが、一夏とて彼女等の体操着姿を見ればムラムラぐらいはする。更に言えば箒とセシリアのISスーツ姿を間近で拝んでいるのだから当然の帰結である、と言えるだろう。

 

故に、一夏は決してホモではない。

 

ただ、若さ故の衝動の落としどころが見当たらないので持ち越しているだけなのである。

 

多分。

 

「では一体誰のだ?Erotica(エロチカ)先生」

「エロチカって言うなっ!てか、そう言う椿はどうなんだよ!」

「さぁて、誰だろうな?」

 

椿は軽く流す要領ではぐらかす。

 

そもそも椿は転生者。見た目は青年。中身はおっさんな男であり、ブルマが普通に存在していた頃の時代で生活していた人物なのである。正直に言えば見慣れているのでそれ程ドキドキしない、と言うのが本音らしい。最も、無自覚に好いている3人の姿を見てどう思っているのかは……お察し、である。

 

「どうせのほほんさんか更識さんだろっ!?」

「……お前は箒、鈴、セシリアだろう?選り取りみどりじゃないか」

「ぐっ……話しを逸らしたのは肯定だ、と言う事にするぜ?」

「はっ、語るに落ちるとは正にこの事だな。お前”が”そうなのだろう?」

 

お互いに核心を突かれながらの会話のデッドボール、もとい敬遠のしあい。

 

正に不毛な会話である。

 

「……一度きっちりと決着を付けた方が良いな、一夏よ」

「勿論だぜ、測定の時に覚悟しとくんだな!」

 

そして女子達が来るまでの間、静かに決戦の時を待っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あぁ、そうだ。因みに、Eroticaとはな、性愛に関する文学、絵画を指すぞ」

「やっぱり、今、ここでっ!決着を付けてやるっ!!」

「笑止っ!」

 

……決戦前に二人は決闘と言う名の準備運動をした。

 

 

 

 

私は歩きながら考え事をしてた。

 

(……今更だけど、恥ずかしい)

 

着替える時に思いだしたけど、このIS学園はブルマが指定体操着。理由はよく解らないけど、そう言う事になってるらしい。……男子のハーフパンツが羨ましい。

 

(……昔の人からは、好意的に受け止められてたらしいけど)

 

あの頃は確かバレーの人気のお陰だったからなのかな、と思った。でも、裾からお尻が見えたり、太ももが全部露出するからあまり好きになれない。……最も、それはISスーツにも言えるけど。

 

(……椿が見たら、どう―――何考えてるんだろう)

 

一瞬だけ変な事を考えたけど、直ぐに首を振って打ち消した。そもそも、本音が居るから、もう見慣れていると思う。それに……胸も大きい。

 

どうやったらあんなになるんだろうと思った。

 

虚も、お姉ちゃんも皆大きい。でも、私だけ何故か小さい。一般的な大きさだと思うけど、3人と比べればどうしても小さいと思ってしまう。

 

……。

 

…………まだまだ大きくなるもん。なる、もん!

 

ちょっと視界が歪んだ。

 

そして皆が集まってる一角に辿りついたけど……あれ?

 

「……その、何で椿と織斑君、ボロボロなの?」

 

話し掛けるのがちょっと恥ずかしかったけど、何故か二人の体操服がボロボロだったから、そっちが気になったので我慢して聞いてみた。

 

「……一夏が悪いんだ」

「お前だろっ!?」

 

何か、織斑君が椿に突っかかってた。

 

そしてその様子を見て理解した。

 

「……えと、程々に、ね」

 

また、椿が織斑君を弄ってたんだ。でも、嫌がってる訳じゃないから本当に仲が良さそう。……けど、偶にクラスメートが受けとか攻めの話になってるけど、流石に其処まではいってないよね?……いってないよね?

 

「そうだぞ一夏。程々にしてくれ」

 

……本当は違うのに。

 

「今の絶対椿に向けて言っただろう!?」

「では簪に真相を聞こう。――どうなんだ?」

「……どっちも」

 

あ、間違えた。でも、訂正しようとしたら――――

 

「見ろ、非はお前にあるではないか」

「いや、さっきどっちもって言ってだろっ!すり替えるなよ!?」

 

――何か楽しそうにしてたからいいや。

 

「かんちゃ~ん」

 

間延びした声、そしてあだ名。それだけで誰が来たのかが解ってしまう。そして振り返ってると、予想通り本音が駆け寄って来た。

 

……むぅ。

 

「……なんで睨むの~?」

「別に、睨んでない」

 

別に、揺れてたから睨んでた訳じゃない。

 

……睨んでないもん。

 

「そ、そうなんだ~……でもでも、漸くかんちゃんと一緒に授業を受けれるね~」

「……うん」

「私はとっても嬉しいよ~」

「私も、嬉しい」

 

小・中学校は何時も一緒だったし、皆を敬遠してた頃は何も感じ無かったけど、仲直りしてからはクラスが離れてた事に一種のもの悲しさがあった。だから、こうやって一緒になれたかのが素直に嬉しかった。

 

「――ほう、それは良かったなじゃないか」

 

椿も会話に入って来た。どうやら織斑君との話し合いも終わったみたいで、箒やオルコットさんが織斑君の方に寄って話し掛けていた。

 

「うんうん!」

「……そう、だよ」

 

私と本音は一緒に頷いた。

 

「聞くが、中学校の頃は何時も一緒だったのか?」

「うん。クラスもずっと一緒だったから」

「ほう、聞かせてくれないか?興味がある」

「……いいよ。本音、言ってもいい?」

「ぜんぜんおっけ~」

 

そして少しの間だけ雑談を続けていると――

 

「皆さん、全員揃ってますね?外靴は持ってきていますよね?」

「……忘れた馬鹿者は居ないようだな。さて諸君、これより授業を始める。さっさと並べ」

 

山田先生と織斑先生がやってきた。

 

「「「はいっ!」」」

 

そして準備運動の後に体力測定が始まった。

 

……本当は椿と一緒に測定したかったけど、其処は男子と女子。基準が違うから織斑君と組むのは当然だよね……ちょっと残念。でも、本音と一緒に測る事にしたから差し引きしてちょっとだけプラス、かな。ただ、少しだけ気になった事と言えば――

 

「一夏、俺の握力は幾つだ?」

「んーと……おぉ、49だぜ。んでもって、俺は?」

「くくく……俺の勝ちだ。お前は48.1だ」

「チクショー!!」

 

椿と織斑君があんな感じで妙なテンションになりながら体力測定で勝負てた所かな。だから、少し、驚いた。長座体前屈の時は、何か段々プロレス見たくなってて、二人して呆れた織斑先生の出席簿の餌食になってたのもそうだけど、外に一旦でての50m走はほんのちょっとの時間だったのに皆が凄い盛り上がるぐらいの勝負だった。

 

それを見てた私はやっぱり男の子なんだな、て思った。

 

(ふふふっ)

 

少しだけ笑ってしまう。でも、体操着の姿に目もくれずに勝負してるのがちょっと悔しい。けど、競い合って楽しんでる姿がとっても眩しく見えたからそれでもいいと思った。あ、それと気になる点以外に、一つ疑問に思った事があった。

 

(何で、待機形態の古鷹身につけっぱなしなんだろ?)

 

私は指輪だし、織斑君はガンドレッド。オルコットさんは……話したことが無いから解らないけど、きっと邪魔にならないモノだと推測できる。でも、椿の場合はヘッドフォンで、大きくて動きの邪魔にならないの?と、先生に預ければいいのに、と思ってしまう。

 

(……まぁ、いいの、かな?)

 

椿が邪魔そうにしてる様子はないから、それでいいのかもしれない。

 

「……まぁ、真面目にやってる分には未だ救いようがある、か」

「青春ですねー」

 

織斑先生は苦笑し、山田先生は微笑ましそうに椿達の様子を眺めていた。そして他の皆も、笑いながら眺めていた。

 

「ちくせうっ!」

「甘い、甘いぞ一夏。その程度で勝てると思うてか」

「たかだか1mm差!絶対に越してやる!」

 

そしてそんな視線を他所に椿達は白熱した勝負を繰り広げていた。

どうやら今度は立ち幅跳びらしい。

 

「……頑張れ」

 

勿論応援するのは椿。私は一言だけ、そう呟いた。

 

 

 

「――さて、最後はシャトルランだ!前半後半の順番は問わんが、キビキビ並べ!」

 

前半の体力測定も終わり、後半も殆ど消化。最後はシャトルランのみとなった。

 

「「「はいっ!」」」

 

先生の指示で皆が適当に前半組と後半組で並んだ後、シャトルランが始まった。そしてシャトルの最中に、未だ待機してる椿の所に向かい、話し掛ける事にした。

 

「……椿」

「む?簪か、どうした?」

「……何となく。隣、座っていい?」

「あぁ、構わん。で、本音の測定は?」

「ちゃんと見てるから、問題無い」

「そうか」

 

私は隣に座りながら表情を伺ってみると、心なしかとても楽しそうに見えた。そして少しだけ、名残惜しそうにしていた。まるで、もう遊びは終わり、親に言われて残念がってる子共の様に。

 

「……楽しそう、だね」

「む?あぁ、一夏との対決の事か。その通り、これが中々面白い」

「……勝率は?」

「総合得点は知らんが……まぁ、勝ち数で言えば6:4で俺が優勢だ」

「そう、なんだ」

「だが、このシャトルランで勝負を決着をつけさせて貰う。そうなる様に記録係の代役も頼んだからな。……ただ、正直に言えこのシャトルランは一夏に分があるから厳しい。まぁ、それでも食い下がらせてもらうがな」

「……頑張って」

 

私は、椿に勝ってほしい。

 

負けるかもしれないと解ってても、それでも勝とうとしてる。

 

とっても前向きでかっこいいと思った。

 

「何だ、簪は張り合わないのか?」

「どう、して?」

 

よく解らない。

 

「この後半組、なんの縁か、箒を始めとする体育会系組や代表候補生のセシリアとお前が居るんだぞ?そして其処に俺と一夏だ。これは勝負しなければ損だろう」

「そういうモノ、なのかな?」

「そうだとも」

「だったら……負けない」

 

私だって、代表候補生になる為に頑張ったからそれ相応の体力はある。それに、椿から挑戦状を叩きつけられたから、その挑戦を受けようと思う。

 

だから、負けない。

 

それに、椿は織斑君に分がある、つまり自分の分野じゃない、って暗に示してたから、私が椿に勝てる可能性も充分高い。だからこそ、私は提案する事にした。

 

「……罰ゲームありで」

「ほう……面白い。何がいい?」

 

どうしよう。色々思いつくけど……自分で受ける時の事も考えないと。

……あ、そうだ。いい事思いついた。ちょっと恥ずかしいけど、別にいいよね。

 

「決まったか?」

「……うん。でも、秘密」

「なんだそれは……まぁ、内容を伏せるのも一興か」

「そう、だよ」

 

だから、楽しみ。

 

 

 

 

暫くして前半組が終わった。因みに本音は52で、凄く疲れたかの様にぺたんって座ってた。

私と椿はそれを見て少しだけ苦笑してたけど、椿が不意に視線を逸らしてた。何でだろう?と思ったけど、本音を見て直ぐに解った。

 

――汗で下着が薄らと見えてる。

 

本音は胸が大きいから、女の私でもその姿は扇情的に見える……羨ましい。じゃなくて、いや、羨ましいけど――

 

「――椿」

 

きっと不可抗力だと思う。それでも、睨まずにはいられない。

 

「……ノーコメントだ」

「ほえ?どうしたの~?」

「ううん、何でもない」

「……?」

 

本音には、無自覚のままでいて貰わないと、だめ。

 

「さて簪、徐々並ぼう。並んでおかないと織斑先生にどやされる」

 

椿も同じらしく、なるべく本音の方向を向かない様に、それでいてあたかも自然な流れであるかの様に前を向いて私を促してきた。……こう言う時の誤魔化し方は本当に上手い。

 

「うん」

 

私は頷いて椿と一緒に立ち上がる。

 

「かんちゃんもあまっちも頑張って~」

「無論」

「……頑張る」

 

私の考えた罰ゲームの成否も関わるから、負けられない。……負けても、それはそれで得になるんだけどね。でも、勝負は勝負。やっぱり、勝ってこそ、だよ。

 

「椿、最終決戦だぜ!逆転勝利してやる!」

「やれるものならやって見せろ。―――っとその前に、箒、セシリア、ちょっと良いだろうか?」

「なんですの?」

「どうした?」

 

……どうしてこのタイミングで箒達を呼んだんだろう?ここに来て、箒達にも挑戦状を叩きつけるのかな?それとも、何か励ましの言葉でも送るのかな?

 

「いや何、一夏はどうやらお前達の後ろ姿にそそられるそうだ。気をつけるといい」

 

只の妨害だった。

 

「「なっ、なななな!?」」

 

二人はやる気を出してたのに、一瞬でゆでダコ見たいになってお尻に手を当てていた。仕草は色っぽいから効果覿面、なのかな。でも、その原因が椿だから……本当に、子供っぽい。

 

「椿ぃ!?」

「一夏、これが戦術だ」

 

……只のズルだと思う。

 

「だったら――「箒、セシリア。これは少しお話するべきじゃないか?」なっ!?」

 

しかも反撃を許さない。何か、織斑君が凄く可哀想に見えた。

と言うか、織斑君は何を言いかけたんだろ……?

 

「そ、そうですわね……」

「そ、そうだな」

 

二人は赤くなりながら織斑君をチラチラと見ていた。

 

「いや、その、あのですね?」

 

織斑君が凄い引きつった顔になってる。……普段、どんな仕打ちを受けてるんだろ。と言うか、今は未だしも、箒達はもうちょっと織斑君に優しくしてもいいと思うのは私だけ?

 

「ククク……」

 

そしてこういう時にいっつも悪い顔になってる椿。

 

「……卑怯」

 

この台詞を言わずにはられなかった。

 

「気にするな。こうすれば少しは鈍感一夏も異性を意識する様になるのだからな」

「……そう、なの?」

 

どうやらこれは箒達の事を意識させる策、らしい。でも、あれは効果が薄いと思う。それに、その、体操着の姿を意識する余裕は無いと思うんだけど……?

 

「なんだ、信じられんか。本当は根拠を言ってもいいのだが、実際に見たほうが早い。ほら、注意深く見てみるといい、一夏の様子を」

 

私は椿に促されて織斑君の様子を注意深く見てみる。

 

(……あ、微妙に目を逸らしてる)

 

椿の言う通り、織斑君は二人を意識してた。

 

……体型が豊かだからか、ジロジロ見ない様にしている(それでも偶に見てる)のもそうだけど、二人に何かを弁解している顔が少しだけ赤くなっていた。

そしてそれは単純に恥ずかしがってるから、だけじゃくて別の要素も入り混じっていた……ほんのちょっとだけ。

 

「どうだ?前はあんな素振りも見せなかったのでな。まぁ、スローペースではあるが着々と一夏の脱唐変木計画は進んでいる」

「……椿が言った通りだと思うけど、それでも、卑怯」

 

勝負前なのに。

 

「ふむ……では、勝負前にそんな卑怯な手を使う俺はヒーロー失格か?」

「違う」

 

私は直ぐに否定した。だって椿は、私のヒーローだもん。それだけは、変わらない。

でも、その問いは本当に卑怯、だよ。

 

「む、悪い。意地悪な問いだったな」

 

私の表情から読み取ったのかな?だったら――

 

「……勝っても負けても、罰ゲーム決定」

 

利用させて貰う。

 

「ぐっ……まぁ良い。さぁ、徐々始まるぞ」

「……ふふっ」

 

思わず笑ってしまった。

 

『それでは―――始め!』

 

織斑先生がプレーヤーを操作して電子音を響かせた。

 

10~30

 

余裕。

 

31~50

 

まだまだ。

 

51~70

 

息が上がってきた。

 

71~80

 

ここまでくるともう、キツイ。それに、脱落者も60を過ぎてから続出していた。現在残ってるのは私、椿、箒、オルコットさん、織斑君+3人。現在の先頭は箒と織斑君が、そしてその後に私を含めた残りが追従してる形になっていた。

 

「も、もうダメ~」

 

また、一人脱落した。

 

(……まだ、まだ)

 

83

 

「つ、疲れましたわ」

「わ、私も~」

 

オルコットさんと1組の人が脱落。

 

84……85……87

 

「ここ、まで、か……きゅぅ」

 

さらに脱落者。

 

(これで……あとは私、椿、箒、織斑君)

 

でも、本当にキツイ。これ以上は、無理かな。

 

(……諦めない)

 

折角の勝負、やるからには行けるとこまで行きたい。罰ゲームとか、そんなのは一切関係無く、限界までやり通したかった。だから、走り続ける事にした。

 

88……89……90

 

漸く90の大台に乗った。ここまで来ると、すぐ隣で走ってる椿も息が荒くなっていた。そして未だ前を走ってる箒と織斑君の肩も上下していた。

 

このままいけば、もしかしたらも、在り得る。

 

91……92―――

 

「っぅ!?」

 

足をひねって転んでしまった。しかも、走る姿勢が悪かったらしく、変にひねったらしい。全然力が入らなかった。そして今までの疲労も相余って、中々立ち上がれなかった。

 

痛いし、動けない。どうしよう。

 

そう思っていると、不意に黒い影が出てきて、手を差し伸べてきた。

 

「……全く、転ぶ程限界まで走るか、普通?」

 

手を差し伸べてきたのは、一緒に走ってた椿だった。

 

「……だって」

「言い訳は後で聞く。――ほら、手を貸すから、立てるか?」

「う、うん」

 

私は差し伸べられた手を掴んで立ち上がろうとして―――失敗した。やっぱり、力が入らなくて直ぐにバランスを崩して椿に寄りかかる形になった。

 

「ご、ごめん……」

「いや、気にしなくてもいい。そうか、足を挫いて立ちにくいか……」

「かんちゃん、大丈夫?」

 

何時の間にか本音が心配そうに駆け寄ってきた。そしてその他にも、山田先生や佐藤さん達が駆けつけてくれた。そしてそれを見た椿は指示を出していた。

 

「……誰か、簪の肩を担いでくれるか?」

「あまっち、私がやる」

「じゃぁ、私が片方担ぐね」

 

立候補してくれたのは本音と佐々木さんだった。

 

「では頼む」

 

そして私は本音達に担がれて端に降ろされてシャトルランが終わるまで待機してた。因みに結果は箒が124で織斑君が115だった。

 

 

 

 

一度皆が先生達の前に集合していた。

 

そしてそんな中で私――天枷椿は、正直に言えば、早く簪の下に向かいたかった。

 

簪が捻挫をした。

 

それだけで、心穏やかでは居られない。……我ながら過保護だな。悪い癖、なのかもしれんな。だが、こればっかりはどうにも、直せそうにない。

 

最初は只、簪がやる気を出して張り合ってくれるのを私は純粋に嬉しがっていた。それに、あの時は少々意地悪な質問をしてしまったが、勝っても負けても罰ゲーム、と言う有難いお言葉と共に笑って許してくれた(と思ってる)から尚更だった。

 

そしてシャトルランが始まり、80を過ぎた頃でも付いて来ているのが驚きだった。セシリアや他の者達は音を上げてギブアップしていたのだが、どうやら少々意地っ張りな一面もあるんだな、と思って隣を走っていた。しかし、85を過ぎてからは走る姿勢が悪くなっていたので、もう止めて置いた方が良いのでは?このままだと倒れる、と思っていた。そしてその予感は辺り、92の途中で簪は倒れてしまった。

 

最初はあぁ、やっぱりと思いつつ直ぐに立ち上がるだろうと見越して93に入っていたが、簪は直ぐに起き上がれる様子は無かった。

 

様子がおかしい、そう思った私は一夏達との張り合いを途中で止め、手を差し伸べた。だが、簪は私の手を掴んだまではいいものの、バランスを崩していた。本当はおぶって運んでも良かった。だが、その時は本音や佐々木が居たので、彼女達に任せる事にした。

 

そして今に至る。

 

あの時、私が煽って勝負を持ちかけたから簪が無理をして付いて来た結果だと、今思い返せば見当違いな方向で自分を攻めていた。だが、同時に簪の自業自得と言う言葉も頭を過ぎていった。……どちらにせよ、私は内心穏やかでは無かった。

 

(どう、声を掛けたものかな)

 

よく解らない。

 

「――さて、全ての測定は終わったな?各人、用紙にはしっかりと記入して提出する様に」

「それと、汗の処理はしっかりとして、風邪を引かない様にして下さいね」

 

私が思考してる最中、織斑先生と山田先生は指示を出していた。

 

……今は考えるのは止めるか。

 

それに、終わったら簪の所へ向かえばいいだけなのだから。

 

「「「はい」」」

 

その後、用紙を記入し終えた後にチャイムが丁度良く鳴った。

 

「よし、では4組の生徒の誰かは、更識の為ににHRでの授業連絡を伝えるのと一緒に服を部屋に届けておくように。それでは授業はこれで終了とする。解散っ!」

 

織斑先生の声で解散し、私は織斑先生や本音達と共に簪の所へ向かった。そして織斑先生が簪の患部を触って様子を見た後、矢継ぎ早に指示をだした。

 

「……軽い捻挫、と言った所か。明日には治るだろが、疲労のせいで立ち上がれないと。ふむ……運ぶ人手が必要だな。天枷、お前が保健室まで運んでいってやれ」

「俺、ですか」

 

普通、私ではなく先程の様に本音や佐々木に任せれば良いと思うのだが、な。

 

「そうだ。男だろう?おぶって運んでやれ。あぁ、それとHRはどうせ遅れるのだから参加しなくてもいい。授業連絡は布仏が、お前の服は織斑に運ばせるからな」

「……解りました。本音、一夏、後を頼む」

「解ったぜ……更識さん、お大事に」

「わかった~」

 

二人は頷いて体育館から出て行った。そしてその後に続く様に織斑先生と山田先生が出て行こうとしていたのだが、織斑先生は不意に振り返ってニヤりとしながら一言。

 

「あぁ、それと、保健室の先生は今日は所要で外してる。鍵は空いてるが……取り敢えず、間違っても学生の領分を超えた様な事はするなよ?」

「……巫山戯た事を言わないで下さい」

 

何をいきなり言ってくれるんだろうか。

こればっかりは、茶化されては困る。

 

「すまない、冗談が過ぎたな。……更識、お大事にな」

「……は、はい」

 

織斑先生の言葉に簪は返事を返し、それを確認した織斑先生はもう振り返る事なく体育館を去っていった。そして漸く体育館は私と簪の二人きりとなった。

 

 

 

 

「―――お大事にな」

「……は、はい」

 

椿と二人きりになった。

 

正直に言えば、さっきの織斑先生の言葉で、すごく意識してしまった。

 

―――『間違っても学生の領分を超えた様な事はするなよ?』

 

つまり、その、そう言う事、だよね?でも、椿は直ぐに批判した。茶化さないで、と慌てふためくんじゃなくて、冗談は止めて、と言葉に剣幕を乗せて。

 

(……それだけ、心配してくれたんだ)

 

嬉しいと思った。そしてその分だけ、申し訳無いと思った。折角、織斑君と勝負してたのに、水を差す様な形で終わらせてしまったから。

 

だから――

 

「……ごめんなさい」

 

私は謝る事にした。

 

「何故、怪我人が謝る必要がある?」

「だって、勝負に水を差したか――あうっ」

 

台詞の途中で頭を小突かれた。……何で?

 

「全く、そう言う事で謝る必要はない。アレは俺の意思でやった事だからな」

 

椿はそれに、と続けた。

 

「僅差ではあるが総合得点では俺が勝っていた。少々あっけない終わりだが、問題は無い」

「……解った」

 

少し、納得はいかなかったけど、言う通りにした。

 

「さて……あれだ、保健室に行くぞ」

「う、うん」

 

……今から、椿の背中におぶさるんだ。少し、緊張する。ううん、さっきの織斑先生の言葉もあって、凄く胸がドキドキして、緊張する。

 

「それで、だが、如何せん汗で服がかなり濡れてるのでな。正直、濡れてる背中におぶさるのも不快だろう?だから―――」

 

……あれ?何か、様子が変?

 

そう思ってると、椿が私の側面に回って体育座りしてる足の間に手を入れて持ち上げた。

 

「きゃっ!?」

「――横抱きになるが、我慢して欲しい」

 

所謂お姫様抱っこの態勢になった。

 

(か、顔が近い……)

 

夢にまで見たお姫様抱っこ。何時も見ていた漫画や、アニメにも何度も出てきた、ヒーローがヒロインをお姫様抱っこして運ぶシチュエーション。

 

何度も何度も頭の中でヒロインを自分に置きかえて、その度に羨ましい、と、自分もされたい、と思っていたシチュエーション。

 

漸く叶った。とっても嬉しい。けど、それと同じくらい凄く恥ずかった。

 

「……いきなりで驚かせてすまない。だが、これは色々と考慮した結果だ」

「う、うん」

 

チラッと表情を伺えば、頬をほんのり赤くしているのが見えた。

 

(……意識してくれてるんだ)

 

椿が私を異性として意識して、そして今してるお姫様抱っこの意味も理解している。そう思うと、自分の頬もさっき以上に熱く、そして胸も凄くドキドキしてきた。

 

けど、同時に気付いた事があった。

 

(……バランスが、取り辛い、のかな?)

 

そう、椿は歩くときちょっとだけフラフラしていた。

 

けど、それもそうかもしれない。椿はついさっきまで、織斑君と全力で勝負し続けたのだから。だから、体力はあまり残っていないんだろうと思った。

 

「その、バランス、取り辛い、よね」

 

私はそう言ってから先ず、左腕を椿の首――待機形態のヘッドフォンの下――に回して、その手首を自分の右手で掴んだ。そうすると凄く密着度が上がってとても気が気じゃなくなるけど、椿の負担を少しでも減らせるのだから、それでもいいと思った。

 

「……簪?」

 

椿が少し目を見開いた様な気配がした。

 

「……こうした方が、負担は減るよ」

「そう、だな」

 

それに、凄くお得な気が――って、私は何を思ってるんだろう……取り敢えず、保健室に着くまでの間、ずっとこのままの体勢だった。因みに目撃者は奇跡的に居なかった……と思う。椿が途中、凄くキョロキョロしてたから、確証はないけど。

 

 

 

 

「さて、一旦ベットに降ろすぞ」

「うん」

「ではずは汗拭き用のタオルを……あぁ、これか、投げるぞ」

 

椿は私をベットに降ろしたあと、保健室にある備品を物色し始めて、先ずはタオルを私の方に投げて来た。そして受け取った私は手元に置いておく事にした。

 

「後は湿布……氷袋……あとは予備の体操着。まぁ、こんな所か。先ずは患部に湿布を貼ってしまおう。今から触るから、痛い所をちゃんと教えて欲しい」

 

そう言って椿は患部の近くを触り始めて、ここか、と何度か尋ねてきた。けど、私はその度に違う、もうちょっと下、と言った後、無事的確な場所に湿布を貼り終える事ができた。

 

「後はこの氷袋を患部に当てていればいい。だが、その前に体を拭いた方がいいだろう。風邪を引いて貰っては困るからな。では、一旦退出させて貰う」

「解った」

 

椿が出て行った後、私は上着を脱いで先程受け取ったタオルで体を拭き始める。汗の方は時間が経って殆ど乾きかけてたけど、それでも風邪を引く要因はできる限り消しておきたかったから、念入りに汗の処理をした。

 

そして処理が終わって予備の体操着を着た。

 

これで濡れた体操着の不快感はなくせた。でも、汗で濡れた下着の方の不快感は拭えない。けど、流石に下着の予備は保健室には無い様だ。

 

(贅沢は言えない、よね)

 

私はそう思いつつ自分の体操着と使ったタオルを畳んだ後、椿を呼んだ。

 

「―――取り敢えず、今日は自室で安静だ。軽い捻挫で済んで良かったな」

「……うん」

 

椿を呼んだ後、少しだけ事務的なお話をした。

 

患部の容態、使用した備品の報告、着替えの返却、今後の予定。

 

その一通りが終わったあと、私はある事を思い出していた。

 

「……椿」

「どうした、何か欲しいモノでもあるのか?」

「あるといえばある」

「そうか、では何が欲しい?」

「……罰ゲームの実行」

 

シャトルランが始まる前に約束した罰ゲーム。内容は色々と考えて、勝っても負けてもどっちでも得できるモノを選んだ。……最も、勝っても負けても椿には罰ゲームを受けて貰う事になったんだけどね。

 

「ぐっ……思い出していたか」

「……忘れない」

 

椿が苦虫を噛み潰した様な顔をしてるけど、私は逆に口元が綻んでしまう。

 

「まぁいい。足の負担にならないモノにしておけよ」

「……うん。じゃぁ、先ずはベットの上で正座して」

「解った」

 

椿はそう言って素直に頷いてたけど、何故かブツブツ言いながらベットに正座していた。

ブツブツ言ってるのは微妙に聞き取れなかったけど、また正座か、と言ってた様な気がする。

 

でも、今はそんな事はどうでも良かった。

 

私は椿が正座したのを確認して、私も位住まいを正して、そして椿の膝の上に頭を預けた。

 

「これが、罰ゲーム」

 

俗に言う、膝枕。しかも仰向けだから、椿の顔を下から見れる……それでも何故か前髪とその影で絶妙に素顔が隠れていたけど。

 

(……鉄壁の前髪?)

 

不覚にもそんな事を思ってしまった。それに残念、とも思った。でも、それを差し引いたとしても、お釣りが出るくらいとっても嬉しかった。

 

お姫様抱っこからの膝枕。しかも逆膝枕。

 

もう、これは夢じゃないかと思うくらい、幸せな状況だった。

 

でも、これは現実。痛みもあるし、患部に当てている湿布と氷袋の冷たさも感じる。更に言えば、後頭部を通して椿の体温も感じる事ができる。だから、これは夢じゃない。

 

もう、最高だ。

 

「……この場合、どんなリアクションをすればいい?」

 

椿は無表情にそんな事を言っていた。でも、頬が赤くなっていたから、内心はとても慌ててるんだと思う。そしてそう思うと、今の椿は何だかとても可愛いく見えた。

 

「頭を撫でればいいと思う」

 

寧ろ撫でて欲しい。

 

「そういうモノなのか?」

「うん」

 

そして椿は優しい手つきで私の頭を撫でてくれる。そしてその手つきは不思議と懐かしさを覚えるし、そしてなによりも、とっても暖かかった。

 

「……えへへっ」

 

嬉しい、嬉しい。

 

「……何だか、乗せられている様な気がするな」

「気のせい、だよ」

 

うん、絶対に気のせい。

 

「そうか。だが、只罰ゲームを受け続けるのも性分ではない」

「……?」

 

何を言ってるのかよく解らない。でも、椿は何故かニヤりと笑っていた。

そして撫でるのを止めて手を両サイドから伸ばして来て―――

 

「……にゃにふるの?」

「ククク……何となく、だ」

 

――私の頬をふにふにしてきた。しかもツボに来たらしい。上下左右は勿論、伸ばしたり寄せてアヒルの口見たくして遊んでいた。

 

私は止めて、と言おうとしたけど、頬で遊ばれてるせいで変な言葉になるし、言おうとしてる事は伝わってる筈なのに、態と伝わってないフリをしていた。

 

少しだけムッときた。

 

(……お返ししなきゃ)

 

「……ひぇいっ」

 

掛け声は変になったけど、されるがままなのは癪だから、椿の腕と腕の間から両腕を伸ばして頬を掴んでやって同じ様にやり返した。

 

「……おにょれ」

「……おかひいこひょば」

「かんひゃいもだろ」

 

……むぅ。

 

「はにゃひて」

「みひにおにゃひく」

 

そしてお互いに睨み合う。

 

絶対に譲らないもん。

 

……。

 

…………。

 

「「あははっ!」」

 

同じタイミングで頬から手を離して、同じタイミングで笑ってしまった。

 

今までにないくらい、おかしくて、お腹が痛くなった。

 

思わずお腹を抑えてしまう。それに、笑いすぎて目尻に涙も溜まっていた。

 

「ククク……この意地っ張り娘め」

「……意地っ張りじゃない」

「いいや、意地っ張りだ。俺が関わるまで、一人で弍式を作ろうとしてるわ、対抗戦で俺に負けないと言ってくるわ、さっきのシャトルランだってそうだ。これを意地っ張りと言わなくて、何を意地っ張りと言うんだ?」

「……椿見たいなのを言う」

「言ったな、この」

 

そう言って椿は私の頭をわしゃわしゃと掻き回してきた。それに対して、私は反撃しようと腕を伸ばしたけど、頭を後ろに引いて簡単に避けられた。

 

「……ズルい」

 

それだと、私からじゃ、何も出来ない。

 

起きれば出来るけど、膝枕が気持ちいから起き上がりたくない。

 

だから、ズルい。

 

「これが膝枕してる人間の特権だ。……だがまぁ、別に意地っ張りを否定しなくてもいいだろう?つまりは、簡単には折れない、強かな心の持ち主、と言う事だからな。だから、俺は簪のそう言う所は、とても好ましく思うぞ」

「……卑怯」

 

……さっきからズルいとか、卑怯って言葉を何度も言ってばかり。でも、このタイミングであの台詞だと、それしか言えなかった。勿論、とっても嬉しい。少し、こそばゆいけど、私をちゃんと見てくれるから、嬉しい。

 

「褒めた筈なのに何故そうなるんだか……」

「椿だから」

 

今なら、この言葉で全部済むと思う。

 

「訳が解らん」

「ふふっ」

「笑うな……が、まぁ、いいか」

 

そう言って椿はまた私の頭を撫でてきた。

今度は、今までよりも優しく、まるで愛おしむかの様な手つきだった。

 

とっても気持ち良くて、とっても心が安らいだ。

 

穏やかな静寂。

 

二人だけの空間。

 

二人だけの時間。

 

このまま――

 

「ずっと、この時間が続けばいいのに」

 

……あ。

 

(い、言っちゃった……!!)

 

無意識に、自分の本音を言ってしまった。

 

恥ずかしい。

 

さっきまで安らいでいたのに、また心臓がバクバクしてきた。

そして、椿の方を恐る恐る伺って見ると、雰囲気が変わっていた。

 

「……そうか。だが、始まりがあれば終わりは必ずある」

 

今の椿からは、悲しさと諦めをを混じり合わせた様な雰囲気がにじみ出ていた。

 

(……何で?)

 

何で、悲しそうにしてるの?

 

何を、諦めたの?

 

「……椿」

「あぁ、いや、気にするな……なに、今度は大丈夫だから、な」

「何が……大丈夫なの?」

「ぬ……すまないが答えられない」

 

確かな拒絶。

 

これは、触れちゃダメなプライベート、なのかな。

 

「……あの、ごめん」

「いや、俺こそ悪かった。すまないな、締りの悪い終わり方で。……来るぞ」

「……?」

 

何が来るの?と思ってたら、突然、保健室の扉が開かれた。

 

「かんちゃ~ん、お見舞いに来たよ―――ほえっ!?」

 

そう、本音がHRを終えてお見舞いに来たのだ。そして何故か素っ頓狂な声を上げていた。

何でだろうって思ったけど、直ぐに自分が置かれてる状況を思いだした。

 

・膝枕をして貰ってる

 

・頭を撫でられている

 

つまり、そう言う事。

 

「むぅ~~~~!!」

 

あ、本音が凄く不機嫌になった。でも、私が本音の立場になったら多分、同じ事になってる……だからと言って譲る気も退く気もないけど。

 

「いや、その何だ。……あぁ、そうだ、パフェで手を打とうじゃないか」

 

椿はさっきまでの雰囲気を一切消して、代わりに冷や汗をだらだらかきながらパフェを奢ると言って本音を懐柔しようとしていた。

 

何だが、とってもかっこ悪い。

 

「一週間よーきゅうします」

 

……それで妥協しちゃうんだ。本音は凄く悩んでだけど、やっぱり甘いものには目がないみたい。そして何だかとっても締まらない雰囲気になってきた。

 

椿はその後も本音を宥め続けてるし、本音は本音で不機嫌さを隠さない。そして私は、この状況を椿の膝に頭を乗せたまま本音と椿を交互に眺めていた。そしてそんな中、私は思う事は一つあった。

 

(……今は、これでいいかもしれない)

 

椿の先程滲ませてていた悲しそうな雰囲気。

 

あれは、一体何が理由なのかは解らない。

 

もしかしたら、椿が抱えてる暗い部分なのかもしれない。

 

もしかしたら、視線恐怖症が其処に関わってるのかもしれない。

 

知りたい。

 

知って、少しでも負担を減らしてあげたい。

 

だから、私は笑おう。

 

そうしたら、椿も笑ってくれるから……今は困り顔だけど。

 

でも、笑っていれば、迷いは少しだけ晴れる。

 

私はそれを椿から教えて貰ったから。

 

だから、笑おう。

 

「……ふふっ」

「笑わないでくれ、頼む」

「かんちゃんはいい加減に起きて!」

「いや」

 

これは、私の特権。

 

「むぅ~~~~!!」

「えぇい……どうすればいいんだ」

「私にも、パフェを奢ればいいと思う」

 

そうすれば、頭を”仕方なく”どいてあげなくもない。

 

「何故そうなる……」

「ふこーへいっ!だったら私はそれ以上をよーきゅうしますっ!」

 

あ、何か椿が手を空中で……そろばん?だったら私は――

 

「……倍プッシュ」

 

そして椿はそろばんを止めて電卓を打つ仕草。でも、そろばんの方が早い様な……?

 

「かんちゃんはだめっ!」

「……いや」

「だったらもっと!」

「上乗せ……!」

 

……とっても楽しい。

 

「もぉ~~~~!!」

「……もう、どうとにでもなれ」

 

あ、何か計算するの放棄した。

 

それに、何か段々カオスな空間になってきた。……原因は私にあるかもしれないけど、でも、とっても楽しいから別に首謀者でも何でもいい。

 

頑なに拒否して今の状況を楽しむ私。

 

私と椿を交互に見て不機嫌に頬を膨らます本音。

 

諦め顔で、でも嫌がってる訳ではない椿。

 

此処は暖かい空間。

 

とっても暖かい空間。

 

(……楽しい)

 

もしかしたら何時かこんな空間も、突然終わりが来るかもしれない。

 

でも、それでも何時までも続きますようにと願いたかった。

 

だから願う。

 

(何時までも一緒に居られますように)

 

それが私にとっての、一番の願い。

 





……もしかしたら、古鷹にこれ言わせたいだけの為にブルマをネタにしていただけかもしれない。
どうも、ブルマはぺたん座りの時こそが至高のベストアングルと考えてるecmです。
異論がある奴、カカッテコイ!(震え声)

……嘘です、ごめんなさい。

さて、今回は簪がメインでしたが、いかがでしょうか?

本音の様に積極的に攻めさせてもアリだとは思ったのですが、少し合わない様な気がしたのでこんな感じになりました。

ちょっとでもほんわかとしていただければ幸いです。

さて、次回は特別編の締め、楯無編です。

ちょっぴりえっちぃそしてほんわか。なら、最後の締めはやっぱり激甘かと。

と言うことで、頑張って激甘を皆様にお届けいたします。

それでは。

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