ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

34 / 54
どうもこんばんわ。ベットのとっかかりの部分に立てかけられてる古鷹です。初見の方は初めまして。何時も見てくださる方は何時もありがとうございます。

さて皆様、と言う言葉をご存知でしょうか?

そう、幼い子供に親や家族が一緒に寄り添って眠ったり、恋人・夫婦同士が同じ寝床で就寝している様を指すアレです。

添い寝している組み合わせは異性・同性を問いませんが、同性同士で添い寝している場合は上記の組み合わせ以外だと親密な仲の者同士で添い寝している、という事もあります。

また、枕を共にしながら互いの顔を眺めたりじゃれあったり、事後や就寝中であれば互いの無防備な寝顔を眺める、というケースがありますが、家族間であれば、親子で川の字になって寝るさまも添い寝のパターンの1つでもあります。

或いは似たような事例として、親密な兄妹(姉弟)や幼馴染同士が寝ている相手の布団の中に潜り込み、目が覚めて気が付くと誰かが布団の中へ添い寝していた、というシチュエーションも見受けられます。

ですが、添い寝をしているのは姉妹や女の子が専ら多いものの、野郎に同じ事をやらせたら絵面やイメージが著しくよろしくないと思われるので、しょうがないかもしれませんがね。

例えその野郎がイケメンであろうとも、言ってしまえば※自主規制※ですから。

……失礼、暴走しすぎましたね。

さて、何故この様な事を藪から棒に言い出したのか説明しましょう。
と言うより、お見せした方が早いかもしれません。

「すー……すー……」
「むにゃむにゃ……」

ご覧の通り我が相棒こと椿とMs.本音が一緒のベットで寝ています。全く、うらやまけしからんですねぇホント。これで事後の朝チュンじゃないんだから驚きですよ。
毎日見てる私の立場にもなってみください、発狂しましすよ?冗談抜きで。なんでルパンダイブしないのかが本当に不思議に思います。皆様はどう思います?

……まぁそれは置いておきましょう。そして気を取り直しましょうか。今回は三十話到達、と言う、投稿者の個人的な記念と言う事で、本作の主人公こと、椿の一人称ではなく、girls side、つまりは普段はあまり描写されていないMs.本音、Ms.簪、Ms.楯無の視点で本編が進みます。なので、何時ものとはちょっとだけ違う雰囲気のお話になります。

では、ごゆるりとご観覧ください。






第三十話:girls be ambitious!! ~布仏本音編~

何時もよりもちょーっとだけ早く起きた。

 

と言うより、前の自分では考えられない時間に起きた。

 

時計を見れば5時50分。

 

あと10分は寝れるかな?でも、それ以上はあま――じゃなくて、つばきにごーいんに起こされちゃうんだけどね。ただ、日曜日のお休みの時だけは見逃してくれるらしいけど、私は一緒に起きたいから自然に目が覚めちゃうんだよね。

 

……はっ!?もしこれが全て計算されていた事だったとしたら……つばきめ、中々策士よのう。それにしても……うーん……まだ、恥ずかしくてつばきの事を名前で呼べない。こんな時ばかりはあだ名ばっかで呼んでいる自分が恨めしいし、もう名前で呼べてるかんちゃんが羨ましいな……。

 

何時かちゃんと名前で呼びたい……心の中で呟くんじゃなくて、ちゃんと声に出して。

 

うん、そうしよう。そうするべきだよね。取り敢えず、この事は一旦置いておこう。

 

だって、目が覚めたら、正面につばきの顔があるから。

 

顔が近い。

 

すごくドキドキする。

 

でも、おりむーとのイケナイ疑惑を晴らす証拠として(利用して)後ろからぎゅーって抱きしめてもらった時の方がとってもとってもドキドキした。

 

あの時は本当に嬉しかったな~。

 

思わずおねだりしちゃったけど、つばきはなんにも言わないでもっとぎゅーっとしてくれた。ほっぺたもくっついて、とっても恥ずかしかったけど、幸せだったな~……ちょっと話が脱線しちゃった。でも、言いたい事は、こう言うのも悪くないよねって事だよ。

 

(だけど顔が見えない~)

 

そう、絶妙な角度で前髪が素顔を遮っているんだよね~……。

 

あっ。

 

私はとある事に気付いた。

 

つばきから視線恐怖症だから他人と直接目を合わせないように前髪で隠してるのは教えてもらったけど、要は、つばきが他人と直接目を合わせた、って思わなければいいんだよね?

 

ここでちょっと状況整理。

 

・今、つばきは目と鼻の先で眠ってる

・ちょっと前髪をどかせば素顔が顕になる

・眠ってるから視線が合う事はない=つばきは息苦しくならない

・見てみたい

 

……うん、今ならチャンスだよね?つばきは何時も同じ時間帯に起きるから、未だ起きない筈。だったら見ちゃおうかな。ちょっとだけ罪悪感はあるけど、好奇心には勝てないもん。

 

「……かんちゃん、ごめんね」

 

先に素顔見ちゃうね、と謝罪を言いながら心の中で呟いておく。

そして今よりももう少しだけ近づいて、そろ~りとつばきの前髪に右手を伸ばす。

 

「……んんっ……すぅ……」

 

ビクっ!!

 

つばきの呻き声を聞いて思わず右手を引っ込めちゃった。

 

……このまま起きちゃうのかな?

 

と、思ったけどまた直ぐに寝息を立てた始めてた。

 

とってもスリル満点。

 

(それにしても、一体どんな顔なんだろ~?)

 

正にミステリアス。

 

学校の話題の中でも上位に入る話題。

 

『天枷椿の普段は前髪で隠されたその素顔』

 

これが気にならない人は多分いないと思う。かっこいいのかな?それともフツーなのかな?けど、どっちにしても私が抱いてる想いは変わらないんだけどね。

 

好きだから。

 

これだけは変わらない事実。

 

……うん。さぁ、やる気は出た、後は手を伸ばして前髪をめくるだけ。今この時だけでもいいから、神様にも味方して欲しいな。

 

(てひひー……あと少し♪)

 

ドキドキ。わくわく。

 

二つの意味で胸が高まる。

 

右手が段々と前髪に近づいていく。

 

あと少し、あと少しで前髪に……!!

 

そして前髪に触れようとした瞬間にアクシデントが発生しちゃった。

 

ぎゅぅっ!!

 

「ふぇっ!?」

 

つばきにいきなり抱きしめられた。

 

もしこれが起きていたのなら私も抱き返しているかもしれなかった。と言うか絶対にする。でも、それはつばきが起きていたらの話。

 

しかし悲しきかな、今のつばきは眠っているんだよね……むねん。それに、前に似たような展開があったなぁ、と脳裏には浮かんだけど、余りにも突然だったからもの凄く驚いてしまった。

 

けど、驚いてしまった理由はそれだけじゃない。

 

その、つばきが左手で抱き寄せたまでは良かった(それだけでも凄く驚いた)んだけど、次に股の間に足を入れてきたんだよね。

 

……なんかえっちぃ。って、そんな事考えてる場合じゃなかった。

 

(ぬ、抜け出さないと)

 

上へ、上へと逃れようとする。

 

ごちんっ!

 

痛い。そうだった、普通に壁があるよね……。

 

むにゅん。

 

「ひゃうっ」

 

つ、つばきが私の胸に顔を埋める感じになっちゃった……はわわわ。く、くすぐったいし、変な感じがする……も、戻らないと。

 

そして下がる時に気付いた。

 

普通に後ろへ下がって抜け出せばいいと。幸い、あんまり強く抱きしめられてないし、距離も充分あるから下がり過ぎて落ちる事もない。

 

うん、そうしよう。

 

あと少しで素顔を見れたかもしれないのに、もう少し頑張れば見れるかもしれないのに、と思わなくもないけど、羞恥心には勝てないよね、うん。

 

それに、また次の機会にやればいいのだ。ヒジョーに遺憾だけど、仕方がないよね。

 

そう思いつつ私は抜け出そうとしたんだけど……。

 

「……いかないで」

「つ……あまっち?」

 

思わず抜け出すのを止めてしまった。

 

寝言……だよね?でも、すごく悲しそうな声音。昔の事、思い出してるのかな?……つばきのご両親は事故で亡くなった、って教えてもらったし、孤児院で生活していた事も教えてもらった。やっぱり、寂しいんだよね。

 

何時もはすごく頼りになるし、優しい。

 

……偶に悪戯してくるけど、それはそれで愛嬌。それに、少しぶっき棒な物言いの時もあるけど、大事な時にはちゃんと真摯に接してくれる。

 

けど、弱い部分は中々見せてくれなかった。前は嗤う事しかできなくて笑えてなかったし、偶に雰囲気でそういうのも出すけど、口で言うのは全く無かった。

 

悲しい。

 

私はつばきの心の拠り所になりたいと思ってる。ううん、今はもっと、それ以上存在になりたいとも思っている。……未だ、口に出しては言えないけど。

 

頼って欲しい。

 

勉強も、運動も、操縦も、整備の腕も劣ってるけど、それでも頼って欲しい。

 

色んな事をしてあげたい。

 

つばきが笑ってくれるなら、つばきが安心してくれるなら、どんな事でもしてあげたい。

 

(だから、今できるのは……これぐらい)

 

つばきに寄って、布団の中で空いてる左手でつばきの右手を握る。

 

……うん、ほんのちょっとだけ、私の手よりも冷たい。

 

そして同時にどくんっ、どくんって身体の奥から音が響いてくる。

 

でも、とっても心地よい胸の高鳴り。

 

「えへへ……」

 

あ、つばきが笑った。

 

しかも、普段の口調からは想像もつかないくらい幼く、子供っぽい笑い声。

 

(……可愛い)

 

そんな事を思ってしまった私は悪くない。だってホントの事なんだもん。かんちゃんだって聞けば絶対にそう思う。……つばきはものすごく嫌そうな顔をするかもしれないけど、事実なのだからしょうが無い。あ、これは記憶に保存しておこう。

 

(……ちょっとだけ、得しちゃった)

 

早起きは三文の徳、ってことわざはホントの事だったんだね。本来の意味は違うらしいけど。……ってあれ?でも、それならそれで三つの徳があるんだよね?

 

・目が覚めた目の前に寝顔があった

・すっごく可愛い笑い声が聞けた

・???

 

あれ、一つ足りない……じゃ、じゃぁあと一つ、何かあるのかな?

 

そう思っていたら―――

 

ガバァっ!!

 

「っ!?!?」

 

つ、つばきがお、覆いかぶさってきちゃった……!!

 

そしてさっきよりももっと心臓の鼓動が早くなった。

 

でも、重いし、苦しい。

 

色々と嬉しいけど、さっきも言った通り寝てるし、それに、男の人の体重は女の子には重過ぎる。でも、抜け出せない。さっきとちっがってがっしりとホールドされた。

 

(う、うぅ……)

 

早く、起き―――

 

「……だいすき」

 

――不意打ちで耳元でそんな寝言が聞こえた。

 

「っ~~~!!」

 

卑怯っ!卑怯過ぎるよっ!!

 

ホントに卑怯過ぎる。さっきの笑い声よりも凶悪なまでに可愛い声もそうだけど、だ、大好きの一言は禁じ手だと思います!……でも、夢の中で、誰に向かって言ってるんだろう。わ、私かな?それとも、かんちゃんなのかな……。

 

解らない。

 

私に向けて言ってると思いたい。でも、あの言葉を誰に向けて言ったのかは夢の中に居る本人しか解らない。……でも、私の前でその言葉を言って欲しい。そうしたら私は――

 

「……はむっ」

「ひゃぅぁっ!?」

 

こ、今度は耳たぶを甘噛みされちゃったっ!?

 

ほ、ホントに起きてないのっ!?

 

しかも耳たぶに甘く歯が立てられた瞬間、背筋がゾクってした。

 

何だろう、この変な感じ。

 

……癖になる?って、そうじゃなくてっ!!

 

は、早くつばきには起きて欲しい……!

 

今の状況は役得だし、嬉しいけど、重いし、耳も何回も甘噛みされるし、寝息で耳を等間隔でふーふーされて変な感じがする……もう、ホントに色々限界だよぅ。

 

 

 

 

懐かしい夢を見た。

 

あれは……そう、私が天枷椿ではない、■■だった頃の夢。

 

家族と過ごした――それも幼い頃の――懐かしい夢だ。

 

そしてそれは幾つかの場面に別れていた。

 

一つ目は父が私と母を置いて出張へ行く時の出来事。

私は幼い頃、極度の甘えん坊だった。何時も、父と母にべったりで、どちらか片方が居なくても直ぐに泣きそうになるくらいの甘えん坊だったのだ。だからこそ、父が出張で何日か家を空けると解った瞬間の駄々のこねまくった。思い返せば当人の私でさえ苦笑できるモノだったな。

 

二つ目は幼稚園のお遊戯会で主役を演じていた頃の夢。

まぁ、褒められて嬉しくない子供なんて居ないだろう。当時の私だって嬉しかったのだから。そしてあの時は父と母が私の頭をこれでもか、というくらい撫で回した後、母は私を思いっきり抱きしめ、父は私を抱き上げてぐるぐる回していた。少々息苦しくなったり、目が回ったりしたが、私はとても嬉しいがっていたな。

 

本当に懐かしい。

 

そして余談だが、夢の中の筈なのに、何故かとても温かい感覚がしたのだ。少し疑問にも思ったが、まぁ、そう錯覚できるくらい楽しい思い出だった、と言う事にした。

 

次の三つ目なのだが……正直微妙だった。いや、悪い夢、という意味ではない。寧ろ分類で言えばこの上なく良い夢、と言える類のモノである。

 

容姿的には小学生の時期だったと思う。それに、学校に通っていたシーンもあった。だが、これはホント過去か?と同時に思った。記憶を漁ってみたが、どの出来事にも全然合致していなかった。それに少なくとも、普通は記憶に残るであろう程の印象を持つ三人の少女に会った事はなかった。……記憶力には自身があったのだがな。

 

そして出会った三人の少女には、それぞれの個性があった。

 

一人目は飄々とした、とても活発的な茶目っ気のある女の子。

 

二人目は小動物の様な雰囲気を持つ、庇護欲をそそる女の子。

 

三人目は独特の癒しの雰囲気を持つ、おっとりとした女の子。

 

つい最近会った感じがしないでもないが、まぁ、それは置いておこう。そして夢の中での私は学校での生活を通して、この少女達をとても好きになっていた。愛している、と言っても過言ではないくらいに。

 

……小学生でそれはどうかとは思ったが、個人的には恋愛に年齢など関係はないと思っている。故に私はロリコンを否定するつもりはない……どうでもいいことか。

 

そして私はある日、溢れんばかりの思いを抱いて三人を屋上に呼び出し、そして来てくれた三人を同時に抱きしめて大好き、と言っていたな。そして三人はソレを受け入れてくれて笑顔で抱き返してくれた。

 

……思うのだが、あの頃の私はこんなにプレイボーイだったろうか?というか、幾ら何でも荒唐無稽過ぎるぞ、これは……だが、それも悪くない、と思う私も存在していた。

 

夢だから。

 

それ以上の理由はないだろう。

 

現実は一人しか選べないのだから。

 

三人と幸せになれるなど、只の夢物語でしかないのだから。

 

だが、そう思うと何故か胸がえぐられたかの様な鋭い痛みを感じる。

 

何故、と思ったが、次の場面に切り替わると同時にその痛みも消えた。

 

……後味が悪い。夢の癖に。

 

そして最後の場面は小学生になったばかりの頃の夕食の時の出来事だったな。箸の扱いこそある程度慣れていたが、如何せんまだまだ甘えん坊だった私は父と母にあーんして、と何度もせがんでいたな。それに、丁度運悪く前歯や左右の奥歯が抜けていた時期であったので何度も苦戦しながら歯茎が痛くなら無い様に噛んでいた。

 

三番目を抜かせばどれもこれも懐かしいモノだった。

 

そして私はあの頃に戻りたい、と思った。

 

だが、戻れないと言う事はもう知っている。

 

時間なら未だしも、世界さえ違うのだから。

 

だが、直ぐにその考えを訂正した。

 

何故なら、私は、今の生活のままでも良いと思ったから。

 

失われてしまった事は悲しくはあるが、今は過去を上回るくらいの幸せに満ちているのだから。

 

これは紛れもない事実。

 

だから、もう戻れなくてもいい。

 

さぁ、起きよう。

 

今日も今日とて、幸せな一日が始まるのだから。

 

では一先ず本音に朝の挨拶でもしようか――

 

「……?」

 

――そう思いながら私は目を覚ましたら目の前に髪が、本音の髪が広がっていた。

どうやら私は何時の間にか仰向けになっていたらしい。さらには自分の口元には耳たぶがのぞいており、何故かテカって赤くなっていた。そして、何だろうか?ベットにしては鳩尾辺りの部分が随分と柔らかいな。

 

と言うか、そもそもこれはベットなのか?それにしては随分と凸凹して……?

 

……。

 

…………!?

 

私は最悪の事態に気付いた急いで腕に力を入れ、体を浮かせる。

そして広がった視界の先に見えたモノは―――

 

「……つばきぃ」

 

最大限に頬を上気させながら荒く息を吐き、目尻に涙を貯めつつ上目遣いで私の名前を呟く本音の姿がそこにあった。

 

一体どう言う事だ……?

 

教えてくれ、アーロン。この状況、どうしたらいい?

 

私は暫くの間、冷や汗をダラダラと流しながら硬直し続けた。

 

あぁそれと、一つだけ言わせてもらいたい。

 

寝起きの理性で襲いたい、と言う衝動を抑えれた自分を褒めたい。

 

ただ、それだけだ。

 

 

 

 

あの後、すっごく気まずい雰囲気が流れてから朝の準備を終えた。そしてつばきは私の方に向いて話し掛けてきた。

 

「……その、すまなかった」

 

ペコリと頭を下げてきた。

 

「……あまっちはケダモノだったんだね~」

 

もう、ホントに色々と危なかったんだから……ホントは私がちょ~っといけない事をしようとしてたんだけどね。でも、それは私だけの秘密。

 

何故なら寝ているつばきの、普段は見れない色んな姿が見れたから。

 

理由はこれで充分。

 

「どうすれば許して貰えるだろうか……」

「う~む……」

 

どうしようかな?して貰いたい事はある。それも、選ぶのが迷うくらいあるんだよね。

 

……キス?これは違うかな。付き合ってからじゃないといやだもん。

 

じゃぁ、お姫様抱っこ?うーん……これはいいと思うけど、かんちゃんに見られるし、絶対に何があったのって根掘り葉掘り聞かれる。よって不採用。

 

うーむ……ホントにどうしよう。

 

色んな事が思いつくんだけどなぁ~……あ、そうだっ!

 

寧ろつばきに悪戯をすればいいんだ!うん、これならこの部屋の中でもできるし、何よりも誰にも見られないでやれるもんね。これはめーあんだよねっ!

 

早速考えて、直ぐに思いついたので実行する事にした。

 

「じゃぁじゃぁ、あまっちは地面に正座をするのです」

「わかった」

 

私はつばきが正座をした所で移動を開始する。

 

目標はつばきの背中。

 

「……てひひー」

 

思わず笑い声が漏れてしまった。

 

「……一体、何をするつもりだ?」

「教えないよ~?それに、こっち向いちゃだめ~」

「ぬぅ……解った」

 

さぁ、つばきの背中に立った。……ちょっと、つばきの専用機が邪魔かな?

 

「あまっち~一旦ヘッドフォン外して~」

「あぁ」

 

つばきは頷いてヘッドフォンを一度外した。

 

……でもなんだろ、普通に外してたように見えるけどなーんかヘッドフォンに爪を立てながら外しているかの様な感じがした。そしてそれと同時に男の人の断末魔の様な声も聞こえた様な気がする。……幻聴だよね?ま、いいか。ってあれ?

 

そして外してもらったのはいいだけど。更に気付いた事があった。

 

「この銀のチェーンは何~?」

 

そう、新たに銀のチェーンが首にかかってるのが見えたんだよね。……ロザリオ、かな?うーん……よくわかんないや。でも、つばきってこんなお洒落をしてたっけ?少なくとも、デートとお仕事の時以外は殆ど味気ない黒のジャージ姿で、お洒落なんて殆どしてないからなぁ。

 

うん、デート時の服装はとってもレアだった、と今更ながらに思った。

 

きっとはぐれ●タル並みの出現率の低さかも。

 

「少しな。まぁ、あまり気にしなくてもいい」

 

あ、はぐらかしてきた。

 

「……解った~」

 

一体何を隠してるんだろ?色々聞きたいけど、絶対にあの手この手で話を逸らしてくるだろうからな~……うん、後回しにしよう。今はこっちの方が大事だもんね。それに、言い合いで絶対に勝てそうにないし。おりむーが被害を受けてる様子を見て私は学習したのだ!えっへん!

 

「じゃぁ早速あまっちに罰を下すのです」

「……受け入れよう」

 

つばきの肩がちょっとだけ強ばるのが見れた。

 

やっぱり緊張するのかな?でも、そんなに強ばってると効果はありありなんだぜ~?

 

「はむっ!」

「っ!?」

 

私はつばき首を後ろから抱きしめ、そして耳をはむはむした。所謂朝の仕返し、だね!うーむ……やっぱ風呂上りだからちょっとだけシャンプー(もしくはリンスー?)の味がする、かな?でも、耳たぶはとっても柔らかい。癖なるかも?

 

「な、何をするっ!?」

 

てひひ、慌ててる、慌ててる~。

 

「お仕置きだよ~」

 

一度噛むのを辞めて耳元で言う。

 

「それは、解っている。だが――」

 

次の台詞を言わせない為に更に耳をフーフーしながらペロって舐めてみる。

 

「っ~~!?!?」

 

おぉ、良い反応~。これは効果覿面、だね。それに、現在進行形で顔も熱いし、胸がドキドキするけど、つばきのこんな反応がみれるなら何回もやりたくなるな~。

 

「えへへー」

 

楽しい。

 

とってもとっても楽しい。

 

「おのれ……」

 

つばきはそんな事を言ってるけど、ホントに嫌そうにしている雰囲気はない。

 

ふむふむ。だったら~……さっきは左だったから、次は右だね~。

 

「はむっはむっ!」

「っ~~!!」

 

あはは、ジタバタし―――きゃっ!?

 

「あ、あまっち……?」

 

いきなり私の手に手を掛けてごーいんに解いて方向転換、正面を向いてきた。

 

「本音」

「は、はいっ!!」

 

普通に名前を呼ばれただけなのにビクって肩強ばった。

……やっぱり、嫌だったの、かな。

 

「やりすぎた、とは思わないのか?」

「……はい」

 

素直に頷く。

 

「宜しい、自覚はある様だな。―――では聞くが、『目には目を、歯には歯』と言う言葉は知っているだろうか?まぁ、正確には『目には目で、歯には歯で』だが」

 

勿論知ってる。

 

昔の王様が作った法典に書かれてる条文の一つ。

 

でも、目には目を、が違うのは初めて知ってたけど――ってあれ?

 

「あまっ「本音、俺はな」……」

 

つばきは私の言葉を遮って話し続けた。

 

「俺は普段から信賞必罰を心がけてる。褒める所は褒めるし、悪い事をしたらそれ相応の報いを受けさせる事にしている。だから、其処で引き合いにだすのがさっきの言葉だ」

 

そしてがしっ、て肩を掴んできた。

 

そして視界いっぱいにつばきの顔が近づいてきて―――

 

 

「目には目で。―――耳たぶには、耳たぶで、だ」

 

 

――その一言と共に耳たぶを甘噛みされた。

 

「ひゃうっ!?」

 

また背筋がぞくってきた。

 

しかも、さっきよりも凄く。

 

ぞくってきた。

 

「――まぁ、これで充分か」

 

そう言ってつばきは直ぐに離れていった。

 

――それでやめちゃうの?

 

――足りない。

 

「もっ――」

 

――もっとして。

 

反射的にいいかけたけど、直ぐに口をつぐんだ。

 

でも、つばきは言いかけた言葉を理解したと思う。

 

恥ずかしくて顔をつばきの方に向けれない。

 

下を向いてまう。

 

下を、向いてしまった。

 

「本音」

「な、何~?」

 

また、呼ばれた。

 

そしてどんどん足音が近づいて来て、その足音が私の目の前で止まった。

 

今度は何だろう……。

 

「行くぞ」

「ふぇ?――わわっ!?」

 

つばきが私の手を握って立ち上がらせた。

でも、顔を合わせたくないから、直ぐに下の方に顔を向けちゃった。

 

「そう、顔を背けないで欲しい」

「……だって」

 

どんな風に顔を向ければいいか解んないもん。

それに、調子に乗ってつばきが本当に嫌がってたのを気付かないで平気で続けたのに。

 

嫌われたくない。

 

でも、恥ずかしくて顔を向けれない。

 

向かないと、呆れられるかもしれないのに。

 

解らない。

 

解らないよ……。

 

「全く……」

 

つばきがため息をつきながら空いてた手を頭に乗せてきた。そして前に撫でてくれた時とは違って少し強めにわしゃわしゃされた。

 

……おかげで髪が乱れちゃった。でも、暖かいし、気持ち良かった。

 

「……あまっち?」

 

恐る恐る顔を上げてみた。

 

相変わらず前髪で目が隠れて表情がわかりにくいけど、あの台詞とため息をついてのを見れば、その表情にはやれやれ、といった感じが浮かんでいるのが何となく解った。

 

「先ず始めに言うが、俺は怒った訳ではない……やりすぎだとは思ったがな」

「……うん」

 

そこは反省しなくちゃいけない。

 

「それと、まぁ、何だ?いや、何と言えば言いいか……少々語弊が……うーむ」

 

なんかつばきの歯切れが悪い。

 

何が言いたいんだろう?でも、どんな言葉であっても、しっかり聞きたい。

 

「あぁ、あれだ。実を言うとだな、本音が俺に甘噛みをしてる時に、だな……見えたのだ」

「見え、た?」

 

よく解らない。

 

「だから、見えたのだ。鏡越しに、本音が俺の耳を甘噛みしてくる姿が……もっとも、そうなる様にしたのは俺だが。……理由は何をされるかを確認したかったからだな」

 

……あ、そう言えばつばきは鏡の前に居た。

 

素直に正座してたから意識の外に置いてたけど、何かズルい。

 

「それでな、その、俺の耳に甘噛みしてくる姿がな、とても可愛かった」

「~~っ!!」

 

何て言ったらいいのか解らないけど、これだけは言える。

 

可愛いって言ってくれた。

 

何時もは似合ってる、とか、らしい、とかしか言ってくれなかった。でも、初めて面と向かって(前髪で視線が隠れてるからちょっと違うけど)可愛いって言ってくれた。

 

……ホントはお出かけの時に言ってくれたらもっと良かった。

 

でも、とっても嬉しい。

 

けど、今度は照れ隠しで下を向いちゃった。真っ赤になった顔を見られない様に。でも、直ぐに顔を並行に向けられた。

 

何故なら、つばきが私の顎に手を添えて並行にしてきたから。そしてつばきは少し屈んで、私と同じ視線の高さになるよう調整してきたから。

 

見られた。

 

真っ赤になった顔を。

 

直ぐ正面から。

 

恥ずかしい。

 

「だから、顔を背けないでほしい、と言っただろう」

 

だって、だって。

 

嬉しくて、恥ずかしくて、いろんな気持ちが混ざってつばきを見れなかったんだもん。

 

「あ、あまっちぃ……」

 

つばきのあだ名しか声に出なかった。

 

本当は名前で呼びたいのに。

 

言いたい事は一杯あるのに。

 

嬉しい、て伝えたいのに。

 

「あぁ、やっぱり、可愛い、な」

 

……やっぱり、つばきは卑怯だよ。

 

どんな気持ちで言ってるのかは、解らない。

 

でも、一つだけ解る事はある。

 

それは前よりも、

 

さっきよりも、

 

好きになっちゃった。

 

「……ばかぁ」

 

でも、なんで、こんな言葉がでちゃうんだろう。

 

好きだって、言いたいのに。

 

もう、自分でも訳が解らないよ……。

 

「誰が馬鹿だ……全く」

「あぅっ」

 

でこぴんされた。ちょっとだけ痛い。

 

「ほら行くぞ、徐々簪も来るんだ。何時もの様に、何時もの様に、な。あぁ、それと」

 

つばきは其処で一旦区切って屈むのを止めて笑いながら言う。

 

「さっきの出来事は、俺と本音の秘密だ」

 

まるで悪戯を成功させようとする少年の様な笑みで言った。

一瞬、ぽかんってしちゃったけど――

 

「うんっ!!」

 

――直ぐに意味が解って、私は今できる最大限の笑みで答えた。ホントはちょっと残念に思ったのもあるけど、今の私達の関係なら、丁度いいと思った。

 

(でも、ちょっとづつ、進めればいいよね)

 

つばきと私の関係を。

 

だから、握りっぱなしだった手を、今度は腕も絡める事にした。つばきはちょっとだけ驚き顔になっていたけど、何も言わずに笑ってた。

 

そしてそんな笑顔を見て、再び思いだした言葉があった。

 

早起きは三文の徳。

 

正にその通り、だね!

 

一つ目は目が覚めた瞬間につばきの寝顔を見れて

 

二つ目はすっごく可愛い笑い声が聞けて

 

最後の三つ目はつばきと私だけの秘密ができた

 

とってもとっても嬉しい!

 

さぁ、やる気は満タン。

 

何時もの様にかんちゃんに挨拶して朝ごはんを食べに行こう。

 

そしていっぱいいっぱいつばきとお話しよう。

 

(頑張ろ~私)

 

私は心の中で意気込んで―――ある事を思いついた。

 

「ねぇねぇあまっち~」

 

つばきに話し掛けながら空いてる手の小指を差し出す。

 

「どうした?……あぁ、いいだろう」

 

つばきは直ぐに意図を理解して自分の小指を差し出して絡めた。

 

「「嘘付いたらハリセンボンのーます」」

 

その後、色々あったんだけどそれはまた別のお話。

 

早くつばきに大好きって言える様になりたいな。

 

……その前に、名前で呼べる様にしないとね。だから――

 

『girls be ambitious』

 

――乙女よ、大志を抱け、だね!

 

かんちゃんには、絶対に負けないもん!

 

「「指きった!」」




さて皆様お久しぶりです。エロセンチメートルことecmです。
エタってた訳じゃないです。すんごくリアルが忙しくて書けませんでした(´;ω;`)

まぁ、投稿者の愚痴はともかく、見ての通り特別編です。そしてご安心を(?)。
この調子だとまた一ヶ月とかそんな時間が経つんじゃね?と思ったかもしれませんが、ちゃんと残りの二人分も書き上げていますので、最終的な誤字脱字(時間的に一日一話ですが)を確認してから投稿します。


さて、今回はちょいと本音にえっちぃ役割を押し付けました。……ホントはもっと書こうとしたのですが、何故か朝のひと時で一万を越してしまったし、何か区切りも良かったのでこういう形になりました。どうでしたか?

取り敢えず、もげろ。

私が言いたいのはこれですねはい。

次回は簪の視点でお送りします。どうぞ、お楽しみに。


あと、前書きの古鷹の下りはどうでしたでしょうか?

試験的に導入してみたのですが……ご意見をお待ちしております。

勿論、感想もWelcome.

それではまた(`・ω・´)ノシ

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。