ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第二十八話:得られた物

――ロシア山岳地帯上空――

 

「……相変わらず、ロシアの空は日の光を閉ざす陰鬱な空なのだな」

 

私――ノアム・アインシュタイン――は、思わず呟いてしまった。先程まで吹雪いていたが、現在はピタリと止んで雲で太陽が分厚い雲で覆われている。そして私の呟きに反応する者が居た。

 

「随分と詩的なこった。詩人に転職でもするか?」

 

反応した者の名はオータム。アメリカの第二世代軍用ISアラクネと呼ばれる蜘蛛に似た多脚型のISを操る私と同じ亡国機業の実働部隊に務める男勝りな口調の女性だ。

 

「それもありかもしれない。ただ、売れない詩人どまりだろうがな」

 

まぁ、豪遊しなければ余生を穏やかに過ごせるだけの金はあるので問題無い。最も、亡国機業から足を洗うその時、私が五体満足でいられる保障などありはしないが。

 

陽の光に背を向けた以上、二度と陽の光は私に振り向くなどしないのだから。

 

故に私は死ぬ最期のその時まで、裏に身を置き続けるのだろう。

 

「それは預言者様の予言ってか?」

 

視覚の制限が無いハイパーセンサーでオータムの表情を見てみると、とても愉快そうに口元を歪ませていた。会心の一言とでも思ってるのだろうか?

 

「……オータム、私をおちょくりたいのか?それとも、私に対する新手の口説き文句か何か?だとしたら返答は期待しない方が良い」

 

生憎、私は同性愛者ではない……最も、恋愛対象となる相手も居ないがな。そう、居ないのだ。決して行き遅れなどではない。

 

「は、勝手にそう思ってろ!」

「それに愛しのスコールはどうする?私に乗り換えるのか?」

「だ、誰が乗り換えるかよっ!つーか任務に集中しろ!」

 

それは自分を鏡で見てから言ったほうがいい。

 

……口に出して言うとがっつかれるのが解っているので言わないがな。

 

「もとよりそのつもりだ」

「……そうかよ」

 

さて、状況を再確認にしよう。

 

現在、オータムのアラクネと私のGid`on (ギドゥオーン)は、4機のハインドDと共に施設へと急行していた。何故、オータムと私が向かったのか、と言えば、偶々襲撃されている施設と近い施設に居たからである。そしてこの施設の指揮官が救援に向かう様に指示してきたのだ。それを聞いたオータムは不満ありな顔を隠さず、私は無表情のままで居たが、内心はオータムとは別の理由で不服に感じていた。

 

通信内容にあった正体不明のISや謎のパワードスーツ部隊の存在は驚異なのは勿論だが、そもそも、歩哨に気付かれずに攻め入られた時点で詰みなのだ。救援はほぼ無意味だ、と言える。しかも現在、Gid`onに搭載されていたプラズマ砲は解析の為に取り外している。火力が些か不足するのは否めないだろう。

 

一応、スコールにもプライベートチャンネルを通して指示の是非を問いだ出してみたのだが、彼女からはこう答えが返ってきた。

 

『無駄だ、って言いたいのは解るわ。私もそう思うもの。でも、今回は今まで襲撃される訳が無いと高を括っていた私達に非がある。だからこの犠牲は必要経費と言う事にしておくわ。少し高すぎるのだけど。まぁ、それはいずれきっちり精算するから置いておきましょう。それでなんだけど、貴方も知っての通りオータムはあの性格だから確実にパワードスーツの相手をする筈、だから貴方はISの相手をして頂戴。そして出来る限りその機体情報を集めなさい……正直、あの(・・)試作品を取られるのは痛手なんだけどね。じゃぁ頑張って頂戴ね』

 

との事だった。あの試作品、というのは良く解らなかったが、彼女も私の意見に賛成していた事は解った。だが、それでは何も解らない仕舞いになるので仕方なく今回は援軍を差し向け、所属不明組織――情報通りの規模を管理、運用、維持できる組織など、直ぐに検討はつくが――の戦力把握と今までの慢心に対する教育料の支払いをすると言った所である。支払い内容はハインドと襲撃された施設、か。ままならないモノだな。

 

因みに、オータムの方はオータムの方で、スコールにこう言いくるめられていた。

 

『オータム、頑張ったらご褒美をあげるわ』

 

この一言でオータムがガッツポーズをしていたのを私はよく覚えている。先程も言ったが、、私はレズビアンには興味が無い。だが、オータムはソレを聞いていつも以上にやる気を出していたので、士気が高くて非常に結構だ、とは思った。

 

そしてそんな事を思いつながら隊列飛行を続けていると、手前のハインドから通信が入って――

 

『預言者、徐々つ――!?』

 

交信していたハインドが突然爆散した。

 

「これは――」

「はっ!おいでなすったか!」

 

オータムは口をそう言って最大限に歪ませながら高度を下げ、アラクネを加速させていた独断専行は許されないのだが、今はそれを悠長に諌める暇が無い。

 

「各機、急いで高度を下げろ!」

 

私は生き残っているのハインドに指示を出す。

 

正直、全く砲撃のタイミングが解らなかった。そもそも、発射音が聞こえないのは何故だ?いや、まさな……?

 

『畜生!?一体どこか――!?』

 

今度は右方向へ回避行動をとりながら高度を下げていたハインドが食われた。しかし、それでも発射音は聞こえない。だが、これで確信に至った。

 

「サプレッサー、か」

 

恐く敵は攻撃ヘリを一撃で破壊する程の砲弾を放つ兵器に消音器をつけているのだろう。事実、戦車の主砲にも消音器を付ける事ができるのだ。今まで目にする機会が無かっただけ、ISの狙撃砲についていても何ら不思議ではない。

 

そしてもう一つ気がついたのだが、狙撃してきたISの姿も依然として見えないのだ。

 

そう、ISのハイパーセンサーを持ってもしても見えないのだ。そもそもハイパーセンサーは宇宙空間において、遠く離れた場所からでも相手を見つけるものであり、たかだか2、3Km離れた程度で隠れて居たとしても、狙撃した後の痕跡一つ見えないと言うのは有り得ない話だ。

 

なら、可能性はただ一つ。

 

「……光学迷彩、だとでも言うのか?」

 

かつて白騎士が夕焼けと共に姿を消した様に。

 

敵もまた、白騎士に搭載されている技術と同等の技術力を持っている、か。非常に厄介な組み合わせだ。これではまともな戦闘行動も取れない。

 

『く、くそったれ!一体何なんだってんだよ!?』

『見えない敵なんてありかよ……』

 

ハインドDの隊員達は動揺して半ば錯乱状態になっている。

 

……使い物にならなくなったか。仕方が無い。

 

「射線が読めてしまえば!」

 

単一仕様能力『ラプラスの悪魔』を発動させ、高度を上げて格好の的になってみせる。

 

相手を捉えてない攻撃に有効かどうかは解らない。だが一か八か、試す価値はある。いや、試さなければならない。そうでなければ、ISのデータ収集など、夢のまた夢なのだから。そして高度を上げ続けていると望んでいたモノが来た。

 

赤い予測線。

 

そう、自らを射貫く様に赤い予測線が突如現れてきたのだ。

 

「――読めた!!」

 

一手先の未来を読み、回避機動をとる。

 

すると、数拍置いて今まで居た位置を高速の砲弾が過ぎていった。

 

運命の女神は私に微笑んでくれた。であれば――

 

「このまま接敵する!」

 

読めさえすれば、避ける自信はある。

 

私はGid`onを加速させ、目的地に急行した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

あれから俺達は隊長の指示の下、亡国機業の残存戦力を手早く片付け、ISの襲撃に備えた。

 

と言ってもやる事は単純。待ち伏せだ。

 

そしてそれにあたり班を二手に分ける事にした。

 

一つは後衛班。

 

武器庫から鹵獲したRPGや地対空ミサイル、そしてHGTELCを持った後方支援部隊だ。これは建物の屋上か、入口の方で潜んでもらっている。ISならRPGや簡単に避けられるだろう。だが、当たれば無傷とはいかない。それに光学兵器であるHGTELCを有しているのだ。使用のタイミングは慎重に見極めるべきだな。

 

そして最後は勿論前衛班。叢雲の標準装備である対IS様突撃砲を持った主力部隊だこれは死体の下や雪の下に潜る、もしくは手近の木に潜んで、最初の不意打ちをかます。そしてその後は真正面からの連携を組んでの相対となる。

 

振り分けは後衛7人、前衛30人

 

因みに残りの3人の内1人は負傷者で、2人は見張りだ。尚、ソフィーは遠距離からの狙撃と一機のISを引き受けるらしい。

 

『S.G……解っているとは思うが、落ち着け。アーロンが居なくてもできるな?』

『……解ってる』

『宜しい。では敵影を確認したら連絡を入れろ』

 

……ソフィーは亡国機業と何かあったのだろうか?まぁ良い。今は余計な詮索は不要だ。

 

そして暫くしてソフィーからが連絡が来た。

 

『IS及びハインド確認。狙撃開始』

 

その連絡と同時に狙撃が始まった。

 

と言っても何発撃っているのかが解らない。そもそも銃声音が限りなく小さくて聞き取りづらいからだ。因みに後に聞いた事だが、ソフィーの乗っているISの名はshadow of the moon. 日本語表記名『月影』で、使用している狙撃砲の名は『Silent Ghost』と呼ばれる自分のコードネームと同じ135㎜消音器付無薬莢弾及び電磁迷彩対応大型狙撃砲と呼ばれるご大層な名前のモノらしい。

 

尚、無薬莢弾(ケースレス)とは、文字通り薬莢の排莢を必要としない、と言う意味であり、H&K G11がこの無薬莢弾を使用している。

 

少しして2度、遠くから何かが爆散する音が聞こえた。

そしてソフィーから連絡が入る。

 

『ハインド2機仕留めた。残りハインド3、IS2。けどこれ以上は無理。当たらない』

 

ソフィーの報告を受けた隊長は次の指示を出した。

 

『では、S.Gは其処からpointγに移動、其処で待ち伏せて預言者とハインドの相手をしろ。――――さて諸君、ここで我々の出番だ。害虫退治と洒落込むぞ。各員、抜かるなよ?』

 

『『『Yes..sir!!』』』

 

『後衛、準備は出来ているな?』

『無論だ。何時でも撃てる』

『よろしい。此方の指示に合わせろ』

『Yes.sir』

 

そして隊長は自らが率いる前衛に指示を出す。

 

『全員、ちゃんと伏せたな?汚いケツは丸出しではないだろうな?』

『隊長、その場合ビスティスのオカマ野郎が掘りに行くんでそれはないですぜ』

『マックス、後でじっくり話そうじゃないか。泣いたり喚いたりできなくしてやる』

『おぉ、怖い怖い。何時ものオカマ口調はどうした?えぇ?』

『はぁ……全く、貴様等は……』

 

開始直前になってもやはり二人は二人だった。隊長はそんな二人に溜め息をついていた。だが、俺はそんな二人に感謝している。お陰で緊張して肩に入り過ぎた力が抜けた。

 

『さて、私の合図でバッテリー駆動をONにし、一気に仕掛けるぞ』

 

『『『Yes.sir』』』

 

俺達は隊長の言葉に雄々しく応えた。

そしてソフィーからまた連絡が入った。

 

『残り距離1500』

『此方も確認した』

 

支援班からも連絡がくる。

 

もう徐々、か。

 

自然と汗がにじみ出てくるのが解る。

 

『よし、カウント、5、4、3、2……Fire!!』

 

隊長の合図と共に建物や物陰に潜んでいた支援班の攻撃が始まった。ロケット弾や地対空ミサイルが放たれる音が雪の上から聞こえる。

 

しかし爆発音はない。

 

『対空ミサイル第一射、効果なし。続いて第二射、開始』

 

やはり当たらない、か。

 

再び飛翔音。

 

だがそれでも爆発音は聞こえない。

 

『ちっ、やはり効果は認められない。pointを移動する。後は任せる』

『ご苦労。今度は我々の出番だ――――――諸君、神様にお祈りは済ましたか?』

 

隊長が唐突に尋ねた。そして俺以外が応える。

 

『『『我らの信仰は我らが女神に!』』』

 

『諸君等の忠誠は何処にある?』

 

その次に続く言葉は俺にも解る。

覚えるまで何度も復唱させられたんだ、思いっきり言ってやるさ。

 

『『『川崎五十六と誉れあるK.I.C.PASOGに!!』』』

 

……やはり、これは滾る!

 

『よろしい!では……かかれっ!!』

 

ドミニクの合図と共にバッテリーをONへ、そして死体を押しのけて突撃砲を構えて―――――――

 

「何っ!?」

 

――目の間には大蜘蛛が居た。そしてその大蜘蛛は私を見下ろしていた。

くっ、ついてないっ!?

 

「早速だが死ねよ!」

 

そしてその一言共に二本の脚を振り下ろそうとしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「はっ!当たらねぇよ!」

 

迫り来るロケット弾や地対空ミサイルを軽やかに避けてみせる。

そもそも、この程度の攻撃でISが当たるわけがないのだ。

そして避けた上で射撃でも加えようかと思ったが、直ぐに隠れてしまった。

よって仕方なく一度地面に降り立つ事にした。

 

「とっと片付けてご褒美をもら……ん?」

 

突然、自分の近くにあった死体が転がり、雪の中から人型の何かが現れた。

あぁ、これが件のパワードスーツって奴か。

 

「早速だが死ねよ!」

 

二本程脚を振り下ろそうとして――辞めた。直ぐに回避機動を取る。

そして一瞬まで居た所を複数の砲撃が飛んでくる。

 

「はっ、ここがパワードスーツの巣ですってかぁ?」

 

何故、避けたか。

 

それは視えたからだ。

 

複数のパワードスーツがうじゃうじゃと雪の中やら木陰から現れ、そしてISに有効ダメージを与えられる様な口径を持つ砲を持っているのが。

 

だからこそ回避を選んだのだ。こんな相手にこのアラクネが傷付けられるのは癪だ。

 

『オータム、出過ぎた』

「うっせぇ!此処は私の狩場だ!てめぇはとっととISでも見つけやがれ!」

 

ノアムの堅物女なんぞの言葉はどうでもよかった。

今はコイツ等をどうやって調理するかが重要だ。

 

『……解った。ハインド、追いつき次第援護しろ』

 

『『り、了解!』』

 

「ちっ」

 

正直、あのガラクタも要らないが、まぁ来る前に片付ければいいか。

 

「さぁ、楽しませてくれよぉ!!」

 

四方からくる火線を掻い潜り、手近に居た一体のパワードスーツに接近する。

対するそのパワードスーツは銃を―――――――捨てた。一体なんのつもりだろうか?

 

「まさかの命乞いってかぁ!?――そのまま串刺しにしてやるよ!」

 

2本の装甲脚を操り、貫こうとする。このままいけば素敵なオブジェが出来上がるだろう。

 

が、結果は違った。

 

『――三流だな』

「何っ!?」

 

あろうことかこのパワードスーツは己を貫こうとした脚を跳躍して躱し、あろうことかそのまま繰り出した脚を踏み台にして飛び越えて見せたのだ。

 

『舐めすぎた、女』

 

そしてパワードスーツは反転、その一言共に脚の一本――脚部固定砲の砲身――を持っていった。見ればそのパワードスーツの腕にはブレードが突き出ていた。

 

どうやらそれで脚を持っていったらしい。次いで脚をもいでいったパワードスーツが後方に跳躍したと同時に再び火線が襲いかかってくる。

 

「ちぃっ!?」

 

一度避け、マシンガンを展開。手近に居た二機に狙い撃つ。――当たらない。

いや、正確には人以上の跳躍力で避けられた。やはり、パワードスーツである以上、身体能力を人間のソレと見る訳にはいかない。そしてその後も回避しながら狙うが、やはり当たらなかった。

幾ら慣れない相手とはいえ、当らないのは一体どう言う事だ?

無論、射撃が下手なつもりはない。であれば――

 

「タイミングを見切られている!?」

 

――そう思わざるおえなかった。

 

一連の動作を注意深く観察してみると、トリガーを引くタイミングが読まれ、撃つ前に回避行動を取られている。これでは当たるものも当たらなくなる筈だ。だが、だからと言ってタイミングを変えようとしても、慣れないことは直ぐに表にでてしまう。

 

やり辛いことこの上ない。

 

そして行動を制限する様に四方八方から絶え間なく火線が襲いかかる。

ソレを不規則な動きで避けようとするが、今度は避けきれずに被弾してしまった。

 

「何!?」

 

何故、パワードスーツ風情に動きを読まれる!?

 

『タイミングが解りやす過ぎる』

『それで回避機動だと?舐めるなよ女』

『貴方、美しくないわ。出直してらっしゃい』

『そんな射撃、ウチラの姉さんに比べれば欠伸がでらぁ』

 

周りから罵倒や嘲笑が届いてきた。

 

今この瞬間、私は完全に奴等に遊ばされていた。

 

「っ……舐めるなぁああああああ!!」

 

瞬時加速を発動させ、先程脚を持っていったブレード持ちのパワードスーツを狙う。

 

何故狙ったのか。

 

それは此奴こそが一番厄介だと判断したからだ。しかも周りが此奴の動きに合わせている。恐く隊長機なのだろう。だからこそ、驚異対象は優先的に排除しなければならない。

 

『速い。が、銃弾よりも速くなければ避けるのは容易い』

 

一瞬で間を詰めた筈なのに、此奴は完全に視ていた。

だが、もう止められない。

 

「くっ!」

 

装甲脚の一本を勢いのまま横なぎで振るう。だが、案の定身を低くする事で避けられた。

そして―――

 

『Fire!!』

 

――その一言と共に、エネルギーの奔流がアラクネに襲いかかってきた。

 

「がぁっ!?」

 

光学兵器、だと……!?馬鹿な、IS以外に持てる訳がっ!?

……まさか、もう一機ISが居るのか!?

 

「っ!」

 

いや、違った。

 

見れば建物の上で見た事が無い大型のライフルを構えていたパワードスーツが何時の間にか居た。恐く、光学兵器を使ったのはあのパワードスーツと見て間違い無いだろう。

 

「拙い……!」

 

あれを優先的に潰さなければ、幾らアラクネでも、ISでも保たない。

 

多脚を自動にし、脚元に居るパワードスーツの相手をさせて、砲撃を開始。

両手のマシンガンで光学兵器持ちを狙うが、直ぐに射線から外れていった。

 

「逃げんな!」

 

追撃をかけようとしたが、それを遮る様にロケット弾と地対空ミサイルが飛んできた。

それによってソレを迎撃、または回避する為の動作を強制的にせざる負えなかった。そしてその動作の間にも、隙なく弾幕が降り注いでくる。

 

「ちぃっ」

 

ペースを完全に握られた。

 

下手に空に上がれば30以上の火線にさらされる。

 

かと言って二次元機動で挑んでも恐ろしい連携で対応してくる。

 

拙い。

 

このままでは、押し切られる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大蜘蛛がロケット弾とミサイルを迎撃している隙に隊長は手際良く脚の攻撃を受け流し、もしくは避けながら引いていき、周りがソレを援護している。

 

『得物を一つ破壊した』

『次だ。Uncle2、側面牽制射、Sugar4、後ろを振り向いた瞬間に一撃をくれてやれ』

『Yes.sir』

 

的確な指示。そして一切無駄の無い動きと連携。

 

「……凄いな」

 

戦闘中であるのに、突撃砲で狙い続けながら思わず呟いてしまう。

 

確かに俺は対処マニュアルを読んだし対IS訓練を積んで合格してきた。しかし此処は戦場。

被害が出なくてもおかしくない。最低でも数人は狩られると踏んでいたのだ。

だが、結果は違った。そう、あれ程圧倒的有利とされていたISを、パワードスーツだけで押しているのだ。これは心の声を漏らさずにはいられない。

 

最初に目の間に大蜘蛛が居た時、正直に言えば其処で終わったと思ってしまった。

だが、直後に援護が入った。そして何とか逃れる事ができた。

そして其処からの流れは圧倒的だった。

 

何だ、あの隊長の動きは?

 

何だ、あの不規則な動きに対応できる第一小隊の射撃の腕は?

 

何だ、あの連携の良さは?

 

圧倒的だ。

 

これがPASOGの、第一小隊の実力。

 

『まぁな。っとあぶね』

 

マックスがそう言いながら大蜘蛛の銃撃をギリギリ避けていた。

ソレが当たれば死ぬと言うのに、何故こんなにも余裕でいられるのだろうか?

 

「何故、こうも手馴れている?」

 

愚問であっても、そう尋ねざる負えなかった。

 

『んーと、アレだ。俺達はな、ブリーフィングで隊長が言った通りスペシャルな部隊だ』

『そうだ。それに練習相手にはかのヴァルキリーが居るのでな』

『千歳ちゃんと比べたら温いわ。それに光学兵器が無いのや第三世代ではないのも理由ね』

 

マックス、副隊長、ビスティスがそれぞれ俺の問に答えた。

 

「……羨ましいな」

 

こんな化け物じみた部隊に、俺は居るのか。

 

あぁ、欲しい、あの技術が。

 

あぁ、欲しい、あの力が。

 

「俺も、その高みで戦いたい」

 

そう呟かずにはいられない。

 

『んだよ、お前戦闘狂だったのかよ?』

「そうかもしれないな」

 

否定する要素が見つからなかった。

 

『戦闘狂なのは大いに結構、だが未だ連携を取れない以上、一人だけ突出する事だけは避けろ。貴様は貴様のできる仕事をしろ』

『まぁ、そういうこった。7、ちょいとこのビッチの動きを一瞬だけを抑えてくれ』

 

随分と無理難題を押し付けてくる。

無理しなくていいとさっき言ったんじゃないのか?だが――

 

「――了解だ!」

 

やれないことはない。方法は頭に浮かんだ。であれば、出来ない仕事は任せ、出来る仕事はきっちりとこなしてみせる。そして何時か絶対に俺も第一小隊と同じ土俵に上がってやる。

 

(脅かしてくれたお礼だ!)

 

心の中でそう叫んでM67破片手榴弾をピンを抜いて機動を読んで投擲、そして素早く突撃砲で手榴弾に狙いをつけて放つ。そして狙い通りに大蜘蛛の頭で爆発、要求通りに動きを止めた。正直、ハイパーセンサーで見られている以上、バレるかと思ったが、第一小隊の張る弾幕が凄まじいかったのか、気付かれずに実行する事ができた。

 

『niceだ。位置もドンピシャ。――ポチッとな』 

 

そし誰かがそう言って何かを押す擬音を発していた。

 

そして次の瞬間―――――――

 

 

ドッカァアアアアアン!!!

 

 

――派手な爆発音と共に大蜘蛛は爆炎に飲まれた。

 

『ハッハッハ、マジで引っかりやがったぞ』

 

マックスや部隊員達が煙に包まれたのを――警戒は解かず――笑っていた。

 

「……なんだそれは」

『ククク……んぁ?ありゃ対戦車地雷だが?遠隔操作式に改造した奴らしいけど』

 

マックスが笑いながらと答えた。

遠隔操作式に改造した対戦車地雷、か。

 

「何時仕掛けた?」

 

狙って出来るもんじゃないはずだが。

 

『雪の中に潜る時にだ。意外にいけるもんだ』

 

対戦車地雷を仕掛けた本人――後にカメラを持ってきたOliver1と判明――が会話に介入してきた。

 

「それで、あの大蜘蛛は?」

『あの程度で死ぬんならISなんぞ俺等で殲滅できる』

 

それもそうか。シールドエネルギーが切れない限り、搭乗者は絶対防御に守られている。

例えそれが爆炎の中であっても例外ではない。

 

『私語は其処までだ。後衛班、追加だ。殺れ』

 

そのドミニクの指示で別のpointで支援を行っていた後衛部隊が残りのロケット弾や地対空ミサイル、HGTELCを発射した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

第一小隊がオータムを集団で有利な展開にする一方、ソフィアとノアムは施設とはかなり離れてた山中で戦闘を繰り広げていた。

 

……拙い。射撃の予測線は視えるが、如何せん姿を拝める事がきていない。それに、オータムに援護に向かおうとした後続のハインドは結局見えないISに全て撃墜された。そして偶に聞こえるオータムの悪態を聞けば押されているのが解る。どうやら完全に侮っていて足元を掬われた様だ。だからあれ程突出するなと言ったのに。

 

だが、それを口にした所で何も変わらない。今すべきはこの状況をいち早く打破する事だ。

 

「厄介だなっ……!」

 

また警戒の薄い所から予測線が現れた。

 

身を捻ってそれを避けて射撃を躱し、直ぐさま予測線が現れた方向の周囲にマシンガンを散蒔く。しかし手応えが相変わらず無い。普通なら避ける為にブースターやスラスターの駆動音が聞こえてもおかしくないのだが、生憎、周囲に――恐く奴が戦闘前に予めばら撒き、現在進行形でも散蒔いているのであろう――強力なジャミングのせいで区別がつかない。

 

現在奴について解ってるのは三点だけ。

 

一つは光学迷彩。そしてもう一つは強力な電子戦用の装備をしている、と言う事だ。

 

そしてこれらで導きだされる解は奴が隠密戦に長けているISである可能性が高い、と言う事だ。逆を言えば白兵戦では此方が上回る可能性が高い、とも言える。

 

だが、どうする。今は完全な後手。このままでは殺られる。

ラプラスの悪魔は燃費はいいが、搭乗者である私の集中力はそうでもないのだ。

流石に常時気を張り続ければ、鍛えていても参ってしまう。

 

「……一度森に潜むしかない、か」

 

あまり密閉した空間での戦闘はISは不向きであり、本来は避けるべきなのだが、この際贅沢は言ってられない。障害物の多い空間なら、何かの拍子でぶつかる筈。それに上を取られたら取られたで対策のしようはある。私はそう結論付け、急降下した。

 

そして木の枝を折りながら地表に着地、素早く木々の合間を縫いつつ、深く深く森の中へと進みむ。そして追撃が来ないので振り切ったと判断。手近にあった軽く出来た小山の様な雪の塊にGid`onを寄せ、出力を最低限にしコアを潜行モードに移行、相手の出方を待った。

 

(どう来る?)

 

光学迷彩のまま突っ込むのは愚の骨頂。そして上からは木々が邪魔して此方は確認出来ない。

この戦闘は勝つことは出来ないだろう。いや、厳密に言えば勝つ必要はない。要はこの正体不明のISの情報が手に入ればいいのだ。そして、この先どう転ぼうとも其処から撤退出来る自信がある。

別に撤退する事に恥はない。生きて次があるのなら、対策のしようもあるのだ。

 

(……!!)

 

そしてその時が来た。そう、木々の枝が折れる音がしたのだ。

私はその音がした方向に素早く身を乗り出し、マシンガンを構える。

そこで私は少々驚いた。

 

「……貴様が、光学迷彩持ちのISか」

 

そう、光学迷彩を切ったISが堂々と正面に居たのだからである。

 

見た目は全身装甲で一切の無駄が無い、流形のフォルム。

 

そして肩の非固定浮遊ユニットには何かを射出する穴がある球体が二機あった。恐く、ソレでジャミングユニットを事前に配置していたのだろう。それに、あのISは何処かで見たことがある。……あぁ、そうだ。確か、日本の忍者、と呼ばれる奴だな。いや、女だからこの場合はくノ一なのか?まぁそれは置いておく。そしてフルフェイスマスクの目の部分に当たる所から緑のラインが光を洩らしている。

また、左手には消音器付きの突撃砲、右手には小太刀型のブレードが逆手で握られていた。

 

『…………』

 

答えない。だがそれは肯定と取っても良い筈だ。

それに、随分とキツい殺気を放ってくれる。亡国機業に何か恨みでもあるのだろか?

だが、それは私の知った事ではない。

 

それに、今やる事はただ一つだけだ。

 

「その性能、確かめさせて貰う!」

 

光学迷彩無しの性能を、この手で確かめる。もしくは撃破させて貰おう。

私はその思いと共にマシンガンとは別の手にシャムシール(湾曲した片刃の剣)型のブレードを展開、マシンガンで弾幕を張りつつ一気に距離を詰める。

 

『…………』

 

敵ISはその攻撃をまるでダンスのステップをするかの様に避け、後方に下がるかと思ったが、逆に突っ込むらしく、助走を付けてスラスターを噴射しながら距離を詰め始めてきた。

 

「はぁぁ!!」

 

そして距離が詰まり、シャムシールが最大威力を発揮する位置で私はシャムシールを上段から振るった。そしてそれに対して相手は逆手に持った小太刀で立ち向かってくる。そして刃同士がぶつかり、激しい火花を散らした。

 

「力は此方が上の様だな!」

『…………』

 

最初こそつばぜり合いだが、徐々に此方が押していった。

 

出力に関してはGid`on以下、これは電磁迷彩の為おエネルギーを確保する為の代償、と見ても良いか。

それに、スラスター音も吹いている見た目の噴射炎に反して、異様に静かだった。

 

さぁ、どうする?このまま叩き斬られるか?

 

『……!』

 

相手は私の力を利用する様に後方へ下がり、消音器付きの突撃砲で弾幕を張ってくる。

私はソレを攻め時と見て、射線をラプラスの悪魔で視みながら最低限の回避機動で躱し、近づこうとする。時折何発か被弾してしまうが、最低限だから問題無い。

 

無視して更に距離を詰める。

 

「むっ!?」

『……!!』

 

唐突に相手は突撃砲を高速で格納、一つの武器を取り出した。

 

―――あれは、鎧通し、か。

 

鎧通し。確か、戦場で組み打ちの際、鎧を通して相手を刺すために用いた分厚くて鋭利な短剣だったな。確証は無いが、もしアレが名の通りの性能を持つとしたら、ISの絶対防御を貫く性能を持っているのかもしれない。いや、もしかしたら通常兵器に対するモノかもしれない。

全て推測だ。だが、今取り敢えず言えるとしたら、それは奴が二刀流だ、と言う事だ。

 

「面白い!」

 

私はそれに応じる為にマシンガンを格納する。

この近接戦において、銃器は無用の長物だ。

 

「はぁああ!!」

『……っ!!』

 

私は上段からの勢い良くシャムシールを叩きつける。

 

だが、相手はソレを片方の刀で受け流してきた。そしてもう片方の短刀――鎧通しで機体の中心を狙う様に突きを放ってくる。

 

それに対し、私は焦らずにタイミングを見計らってから鎧通しの腹を殴る。

 

ガンッ!

 

鈍い音を立てて鎧通しは私の横に逸れた。

 

「ふっ!」

 

私はそのまま膝蹴りを腹に叩き込む。

 

『っ!』

 

相手がくの字に折れ曲がったのに対し、追撃をかける様にもう逆の足で蹴りを放つが、手をクロスする事で防がれてしまった。

 

このまま更に追撃を仕掛けたかったが、如何せん私と奴の距離は短剣が最も有利な場所。カウンターを貰われない様にする為に一度距離を取った。

 

この一連の動きで更に奴について解った事がある。

現在の奴は少々動きが少し単調、格闘技術は同等と見ても良いが、冷静でないが故の雑さが見受けられた。そしてこれを上手く利用すれば、より深く相手の性能を確かめる事が出来るだろう。それに、奴が頭に血が上っているのでればこのまま撃破する事も視野に収める事ができる。

 

やって見せよう。

 

そう心に刻み、再び加速する体勢に入るが―――

 

『ノアム、スコールの命令だ!撤退するぞ!』

 

どうやらスコールはオータムのモニタリングをしている様だ。

であれば、私とこのISの戦闘行動も見ているのであろう。

 

「……今回は此処まで、か」

 

まぁ良い。要求通りのデータはほぼ調べれた、と言えるのだから。

私はシャムシールを収納、マシンガンを2丁展開して弾幕を張りながら森を突き破って撤退した。

 

『……今度は、倒す』

 

そして撤退する最中、そう聞こえてきた。一瞬誰の声か解らなかったが、直ぐに解った。

恐くあの光学迷彩持ちのISの搭乗者のモノだろう。意外に幼い声だったな。

まぁ、何にせよ――

 

「――受けて立つぞ、光学迷彩持ち。次は冷静な状態でかかってくるのだな」

『っ!?』

 

まさか返答が来るとは思わなかったのだろう。息を呑む気配がした。

まぁ、良い。今回の任務に不服があったが、その代わりに一つの楽しみはできた。

 

何れ狩らせてもらおう。

 

その時まで、更なる実力を付けてくるといい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

「……退いた、か」

 

結局、追撃として後衛が撃ち込んだロケット弾とミサイル、そしてレーザー砲をあの大蜘蛛は耐え切った。そして反撃せずに瞬時加速を発動させて空へと逃れていったのだ。

 

追撃したい所であったが如何せん此方はパワードスーツ。空を飛ぶ事は出来ない。無論撃ち落とそうとしたが、避けられてしまった。だが、これでこの作戦は終了となるだろう。

 

『諸君、ご苦労だった。もう少ししたら迎えが来る。その前に、出来る限りこの施設を調べる。各員、元のチームに戻り、施設内の捜索に入る準備をしろ』

 

隊長が指示をだした。俺はそれに了解、と返してドミニクの下へ向かった。

そしてドミニクの下へ向かうと既にBeyondのメンバーは集まっていた。

 

「おう、お疲れ」

 

そしてマックスの言葉を皮切りに皆で労いの言葉を掛け合った。

 

「さて、ライル。どうだった?今回の対IS戦闘は」

 

隊長が尋ねてきた。

 

「正直開いた口が閉じれませんよ。凄い、その一言でしか表現できません」

「ふん。戦場でソレか。まぁ、それだけ暢気ならこれからもいけるな?」

「勿論です。やってみせます」

 

暢気とは心外だが、俺はソレを不快には思わなかった。

あれだけ対等にやれたのだ。然るべき訓練、座学、戦術を更に覚えたら俺ももっとISと戦えれる。そう、この第一小隊と共にISと対等に戦えれるのだ。

 

この叢雲を駆る事で。

 

これは奢りや慢心から来るモノではない。本当にそう思えるのだ。

それだけの実力を、彼等は実戦を持って示したのだ。これは心躍らずにはいられない。

 

「良い返事だ。此処まで言い切れる奴は最近の若者ではこうはいかない」

「見込み通り、か。訓練キャンプの連中共は人選を間違えていない様だな」

 

隊長と副隊長は俺をそう評価を下した。

 

「よかったな、高評価じゃないか」

「まぁ、な」

 

マックスは俺の肩をバシバシと叩きながらそう言ってくる。が、俺はこの評価を嬉しいとは思っていない。所詮新兵のきつけ薬なのだ。何れしっかりとした評価を貰う。

 

戦果を、上げてみせる。

 

俺はそう意気込んだとことで――唐突に最初の事を思いだしたのでマックスに尋ねてみた。

 

「マックス」

「ん?何だ?」

「ソフィーに何かあったのか?隊長が落ち着け、とは言っていたが……」

 

気ならない、と言えば嘘になる。

 

「あー、あれか。お前知らないんだったよな。けどまぁ、何だ。俺の口からはダメだ。聞きたきゃS.Gに直接尋ねるか話してくれるのを待つんだな。因みにお前以外は全員事情を知ってる。なんせ、ここに居る連中の半数はISが出る前からの編成で、しかもS.Gが子共ンの頃からの付き合いだからな。んで、残り半数はお前の前任のアーロンの旦那から教えてもらった。因みに俺はアーロンの旦那に教えてもらった内の一人だ」

 

幼少時代からの付き合い……しかもIS登場以前からも、か。

 

「そうか。……まぁ、俺から聞くこともないだろうよ」

「そうかい?」

「あぁ、プライベートな事はずかずかと入る訳にはいかんだろう」

「変な所で紳士だな。まぁ、お前がそれでいいならいいさ―――ん?」

「む?」

 

マックスとの会話の最中、何かの駆動音が聞こえてきた。

 

「お、女神様が戻ってきたな。どうやらあっちも終わったらしい」

 

どうやらソフィーが帰って来たらしい。

 

「何処だ?」

「あっちだな」

 

マックスが指をさした方向をみるとISが一機此方に近づいてきていた。

そしてBeyondのメンバーや他のチームもソレを見上げていた。

 

そしてそののISは見た目は何と言えば良いのだろうか?あぁ、思い出した。アレだアレ。

日本のAssassin。確か名前は―――

 

「―――SINOBI?」

 

そう、何度か日本通の友人に写真で教えられた事がある。確か女の場合はKUNOICHIと言ってたな。そしてソフィーのISはその姿に酷似しているのだ。

 

「良く知ってんな」

「まぁ、日本通の友人が居たからな」

「へぇ。……因みに、王子様のgirl friendはSINOBIの家系らしいぜ?」

「……なんだそれは」

 

ツバキ・アマカセ。一体何者何だ……?Assassinを篭絡する程のヤリ手なのか?

写真を一度見た時はそんな様子は微塵も感じ無かったのだが。

 

「あぁ、しかもさっき言ったSINOBIの家系のgirl friendはな、実は姉妹で、その両方のハートを射止めたらしい。そして妹の従者もズキューンとか何とか。随分と可愛い子らしいぜ?」

 

ハーレムで姉妹丼だと!?本当にあの地味男は何者なんだ!?

 

「……ツバキ・アマカセの人物像がだんだん解らなくなってきた」

「まぁ、これだけ上げれば相当なキザ野郎なんだけどな。実際はかなりの真面目君だぜ?しかもかなり態度が良くてな、女神様を含めてウチらのIS乗り全員から可愛がられてる」

「女たらしで真面目は想像がつかん」

 

と言うより、ソフィーはツバキ・アマカセと面識があったのか。いや、それも当然と言えば当然か。ツバキ・アマカセが俺達の存在を知らない訳が無いのだから。

 

「まぁ、何れ会えば解るだろ。――さぁ、我らが女神様の凱旋だ」

 

マックスと話し込んでいたら何時の間にかソフィアが着陸しようとしていた。

 

「さぁ諸君!我らが女神様の凱旋だ!!」

 

「「「うぉおおおおおおおおお!!!」」」

 

隊長の言葉に第一小隊のメンバーは一斉に雄叫びを上げていた。

中には突撃砲を空に向かって撃っている奴もいた。

何というか、アレだな。此処までいけば―――

 

「……宗教か何かか?」

「ある意味な。因みにDiana派閥と千歳の姉御派閥、他にも二つ程派閥が分かれているな」

 

ディアナ……月の女神、か。まぁ、ソフィーにはお似合いだろうな。

そして射撃部門ヴァルキリーのチトセ・ミネカゼとその他二人、か。

 

「んで、お前はどの派閥だよ。やっぱ女神様か?」

「……知らん」

「ま、早めに決めておくんだな。勧誘が激しくなるぞ?」

 

訳が解らん。何が勧誘だ、アイドルじゃあるま――そう言えば企業に所属しているIS乗りは広告塔の役割をしていたな。ある意味アイドル、か。そして宗教かどうかはこの際考えないようにしよう。頭が痛くなるだけで無駄だからな。

 

そしてそんな事を考えながらソフィーの方を眺めていたら彼女はISを解除していた。……ISスーツのみになるのでは?と思ったが、解除された瞬間、普通の服(毛皮のコートと帽子)になっていた。やはり、拡張領域と言うのは色々と便利だな。とっととこの叢雲にも搭載して欲しいものだ。そして彼女はキョロキョロと何かを探して―――俺の方を見て近づいてきた。

 

どうやら俺に何か用があるらしい。先程のマックスとの会話の後なのでどうすれば良いか、とは思ったが、何も考えは浮かばなかったので何時も通りの態度で接する事にしようとした。

 

そう、したのだか――

 

「ライル、生きてたんだ」

「……失礼な」

 

――出会い頭にそれはあんまりだろう。

 

「クスクス……」

「口で言うもんじゃないだろう」

 

そう思うだろう?違うのか?

 

「死ね」

「ん?マックス、何か言ったか?」

「んや~何も」

 

空耳、か。空耳なら仕方ないな。

 

「話は聞いてる」

 

俺がマックスと会話をしてる最中、唐突にソフィーはそう切り出してきた。

 

「何をだ?」

 

主語がないと解らん。

 

「捜索。一緒に行こ」

「……敵が潜んでいたらどうする」

 

生憎、パワードスーツ有りと無しでは生存率では天と地の差がある。

 

「だったらこうすればいい」

 

そう言ってソフィーは頭と胸の部分だけ部分展開してみせた。

どうやら急所は最低限守れるらしい。だが、はっきり言おう――

 

「――不格好だな。そんなんじゃモテないぞ」

「ライルは失礼。そんなんじゃ女の子にモテない」

 

速攻で切り返されてしまった。だが、な。

 

「生憎、彼女は何度か作った」

「そして別れたんだ」

「喧しい。ソリが合わなかった、ただソレだけだ」

 

と言うより、切り返しが早すぎるだろう。

 

「……ふふっ」

「笑うな」

 

……思わず笑みに見惚れてしまったのは秘密だ。

 

「「「死ね」」」

 

「……皆、何か言ったか?」

 

「「「いや、何も」」」

 

おかしい。少々イラッとくる単語を聞いたんだがな。……やはり空耳か?

だとしたら俺は相当耳がイカれてるんだろう。検査が必要だな。

 

「クックック……まぁいい。――諸君!捜索を開始するぞ!」

 

そして何故か隊長は笑っていたが、捜索開始の宣言を出した。

 

「「「「Yes.sir!!」」」」

 

俺達は一斉に応えた。

 

「よし、では行け!―――何だ。……ほう。中々面白そうなのを見つけたな。宜しい、貴様等には特別手当を出す。そしてソレは主任の下に送るから大事にしろ。後、他にもないか探しておけ」

 

そして隊長は宣言後に急に通信機で何かを話し込んでいた。

特別手当、と言ってたから相当な事なのだろう。

 

「隊長、どうしたんですか?」

 

気になったので思わず尋ねてしまった。

 

「あぁ、お守りの6と8が面白い物を見つけた」

「面白い物?」

「……気になる」

 

俺とソフィーは興味津々だった。

強奪品とはいえ、未知なるものに対する好奇心とはいつまでたっても衰えないのだ。

 

「ククク、まるで少年の目そのものだな。ん?焦らすな、とでも言いたい様だな二人共。なぁに心配するな、ちゃんと教えてやる。実はだな―――」

 

まるで孫に語りかける祖父の様な口調で語る内容に、俺とソフィーは驚愕する事になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――――――――――――――――

 

 

――主任ラボ――

 

其処は、変態科学者の住処。諸悪の根源(?)。夢と希望と浪曼と野望が詰まったラボ。

そう、此処は川崎・インダストリアルカンパニーIS技術及び研究開発部主任兼第一研究所局長吾妻晴臣のラボである。

 

そしてそんなラボのお昼の時間帯に、一本の電話が鳴っていた。

 

『~~♫……~~♫……~~♫』

「はいはい24時間何時でもマッド思考、貴方の真後ろ吾妻晴臣です✩」

 

主任は横チェキをしながら何時もの態度で電話に出た。

 

『ガチャッ、ツー、ツー』

 

だが、ソレがダメだったのだろうか、直ぐに電話を切られた。

 

「あるぇー?」

 

主任は切られた事に理解できずに首を傾げていた。

だが、再び電話が鳴ったのでワンコール目の途中で出て、少しだけ真面目に応対した。

 

「はいはい吾妻晴臣だよ」

『……ドミニクだ。最低限その態度で出ろ、馬鹿者』

「それはちょっと酷くないかい?」

 

主任の通話相手はK.I.C.PASOG第一小隊隊長ドミニク・サンダースだった。因みにだが、この通話に置いての使用言語は日本語であり、主任が英語を喋っているのではなくドミニクが日本語を喋っているのである。

 

更に余談だが、PASOGの者達は最低限、日常会話レベルでの日本語の教育が義務付けられている。理由は単純であり、緊急時の重要人物の護送を円滑にする為の必要な処置である。そしてごくまれにではあるが、日本語にはまって日本の文化に傾倒している者も居たりする。

 

『自業自得だ。さて、今回の報告をしよう』

「おんやぁ?先に社長じゃなくて、私にかい?」

『あぁそうだ。面白い物を見つけたからな、先に貴様に報告した方が早い』

「ほほぅ、面白い物、かい?」

 

主任は面白い物、と聞いて目を輝かせ始めた。

 

『そうだ。明日明後日には其方に届くだろう。期待しておけ』

「でも、君の事だから名前と概要は此処で教えてくれるんだろう?」

『あぁ、その通りだ。でなければ好き好んで貴様になんぞ連絡など寄越さん』

 

ドミニクは主任の言葉に頷いた。

 

「寄越さんって……まぁいいや、じゃぁ早速聞かせておくれ!」

『名前は剥離剤。リムーバーとも言うらしいな。用途はISコア(・・・・)を装甲と共に強制的に奪うものらしい。今から送るのはコアのみを奪う試作品だとか』

「へぇ、中々面白いじゃないか」

 

そう言う主任は口元を最大限に釣り上げていた。

 

『貴様なら、有意義に使えるだろう?』

「勿論さぁ。……うん、決めた。これは椿君に渡そう」

『あぁ、確かクラス対抗戦とか言うお遊びがあったな。その時に奪うのか?』

 

ドミニクは主任の考えを一瞬で理解した。

 

「そうだね。どうせあの兎は無人機を何機か差し向けてくるだろうからそのうちの一つを周りには完全に撃破したかのに見せかけてありがたーく貰うとするさ」

『それはそれで別に良い。だが何故、貴様は篠ノ之束が無人機を送って来ると言い切れる?もしかしたら有人機かもしれない、とは考えないのか?』

「それはないね。何故ならあの兎はぼっちだからさっ!」

『……そうか。いや、そうだな』

 

主任は元気良く答え、ドミニクは呆れながら納得した。

それもそうだ。篠ノ之束は身内――妹――と気に入った人物以外に興味を示さない人物なのだから。故に篠ノ之束には協力者など存在しない。

 

もし居たとしても、それは彼女が作ったAIぐらいだろう。

 

『だが、バレたら使えなくされるだろう?』

 

それに、少しでもコアに異変があったら、即座に対応されるだろう、と暗に示した。

 

「そんな時はバラして徹底的に解析でもするさ、古鷹には悪いけどね」

『そうか。まぁ、ソレは貴様の分野だから口は挟まんがな』

「まぁね。……あ、そうそう。聞きたかったんだけど捉えた連中はこの後どうするんだい?」

 

主任はドミニクに捕虜の、科学者の行く末を尋ねた。

 

『指揮官はIS委員会の信頼できる人物へ。それ以外は後程処分する』

 

つまり、研究員は全て殺すと言う事だ。

 

「態々殺さなくてもいいんじゃないの?」

『吐かせるべきモノは吐かせる。それに、リムーバーに関するデータも幸いな事に全て押さえる事ができた。であればもう利用価値は無い。ならば機密の為に殺すのは当然だ』

「相変わらず極悪非道だねぇ、震えが止まらないよ」

 

おぉ怖い怖い、と言って主任は肩を震えるアクションをとった。

無論、ドミニクに見える訳が無いが。

 

『息を吸う様に嘘をつくな馬鹿者。その程度で貴様が震える訳がないだろうに。そして貴様の様なマッドサイエンティストが言っても説得力に欠ける。団栗の背比べと言う言葉を知ってるか?もしくは五十歩百歩なんかでもいいが。……まぁとにかく、貴様には何れリムーバーに関する研究を引き継いで貰う事になるから、そのつもりで」

「おぉう……重労働だねぇ、私。機体作りもそうだけどさ、新動力の作製、強化外骨格の強化及び改修、特殊武装の開発etc……うーん、過労死しそう✩」

 

主任はツッコミ不在と分かりつつも華麗に横チェキを決めた。

こんな時、千歳が居ないのを心寂しくでも思っているのだろうか?

因みに彼女は現在お食事中。川崎の食堂で好きな食べ物に舌づつみをうっているだろう。

 

「抜かせ、お前の生きる理由は研究だろう?ならばそれで死ねるなら本望だと言えるな。だからとっととISに対抗できる兵器を作り上げて死ぬが良い」

 

ドミニクは何て事もない様に主任に死ねと言った。

どうやらドミニクはあまり主任が好きではないらしい。

 

「ひゃー相変わらず酷い言い草だねぇ。私じゃなかったらとっくに激おこぷんぷん丸だよ?まぁ、そんな事はどうでもいいんだけど。それで、なんだけど、私はたかだかISに勝てる兵器を作っただけで死ぬ気は更々ないね。もし作って死ぬんだったら次元を破壊するぐらいの超兵器を作らないと。まぁ、期待して待ってるといいよ。ISが持つアドバンテージなんてのは、直ぐに無くして対等にまで持ち上げてあげるさ。それに、その為の下準備は着々と出来上がりつつあるしね」

 

主任は自信たっぷりに、そして饒舌にまくし立てた。

 

「ふん、ではその言葉に期待させて貰おうか」

「ふっふっふーまかせたまえ」

 

「要件はこれで終わった。通信を切らせてもらうぞ』

「ちょっとソレ酷いねぇ。まぁいいや、またね~」

 

そして通話は終わり、主任は自分の仕事に戻っていった。

 




……まさかの二話分のボリューム。
はい、漸くできました。


今回の戦闘は第一小隊に軍配が上がりました。
勝因は4つ。

・一対多だったから
戦力比率はPASOG全部隊の平均で1:30。
第一小隊は過剰戦力で挑みました。……過剰でも何でもないのかもしれませんが。

・第二世代だったから
これは特殊武装を積んでないからこそ、制限を受けずに戦えれたからです。

・光学兵器を積んでいない。
言わずとも。光の速さの一撃はトリガーのタイミングを見切っていたとしてもパワードスーツの速さでは避けれません。

・初見だったから
第一小隊は最初から対IS戦の訓練を行っていました。一方オータムは対パワードスーツ戦を視野に入れてません。だから慣れていなかっただけです。次回があったときはそう、上手くはいいかないでしょう。

とまぁ、こんなものです。次に機体関連

月影(shadow of the moon/つきかげ)

分類:第二世代

黒づくめの全身装甲の機体。無駄をできるだけ省いた、限りなく人型に近い形状をしている。
ステルス性を高めるため、レーダー波を吸収するステルス塗装、赤外線放射抑制の為の排熱処理、脚部には徒歩移動時の音を消す為に衝撃吸収ゴムを装着している。

また、機動力に関してはステルス性確保の為、ブースター類は静音性を重視したモノしか取り付けられていない。よって機動力は低め。

尚、この月影はスペック自体は川崎の最新鋭機ではあるが、第三世代の基準であるマインド・インターフェースを搭載していない(搭載する必要が無い)為、分類上第二世代となる。


武装

・45口径135㎜消音器付無薬莢弾及び電磁迷彩対応大型狙撃砲〈Silent Ghost〉
月影の最大攻撃力を有する消音器を付ける事を前提よした大型狙撃砲。
装填数は20+1発。アウトレンジ、もしくは不意打ちからの一撃を想定している。
尚、Silent Ghostは名の通り光学迷彩が起動中は透明化する事ができ、無薬莢弾との相乗効果によって一部の例外を除いて相手に狙撃位置を察知される事は無い。

・消音器付77式汎用突撃銃
サプレッサーが付いただけで、基本的な性能はほぼ変わらない。

・アーマーピアーズ
貫く事に特化した近接ブレード。鎧通しなどとも呼ばれる。
ただし、性能は不明。ノアム曰く、シールドを突破できるかもしれないとか。

・90式戦術短刀
小回りの利くIS用小太刀。非常に高い耐久力を誇る。

特殊

・光学迷彩
視覚的に対象を透明化する技術。
以前、古鷹が集めた白騎士の残滓データを下に主任が再現したモノ。

・電子戦用ポッド
左右に浮いた丸い非固定浮遊ユニット。
対IS戦を考慮したレーダーと音を妨害する非常に強力なジャミング効果を発揮するユニットを散蒔く事ができる。

統合電子戦システム(IEWS)
脅威警戒・識別機能、目標/脅威評価機能、脅威対抗実施機能などを有し、ECM(電子対抗手段)/ECM(電子支援対策)に対抗する。


Gid`onのラプラスの悪魔について
ぶっちゃけて言えばSAOのゲームにあるGGOのシステムである射撃予測線。
違うのはスナイパーの一撃も最初から見える(自分に襲いかかってくるの限定)
あと、見ようと思えば剣の軌跡も見えます。ただ、格闘戦においては邪魔なだけなのでノアムは使っていませんが。

しっかし、主任の登場率ハンパねぇ。……動かしやすいキャラだからかもしれませんが。
設定上最強の千歳さん、普段は研究所の防衛と武装テストだから待機勢。
影が薄い……!まぁ、何れ出番は回すのですけどね。

さて、奪う物も奪ったし、本編に戻ろう都思います。
ただ、対抗戦まで二話程挟みます。

……連続で戦闘描写を書くのが疲れた訳じゃないですよ?
甘い日常を書きたいだけです。

色々暴走するかもしれませんが、次回もお付き合い頂ければ幸いです。
それでは、感想、ご意見等を心よりお待ちしています。

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