ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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さて、今回の描写に辺り、R-15と残酷な描写タグを追加しました。
不快に思われた方はブラウザバックを推奨です。

それでは、お楽しみ下さい。



第二十七話:制圧戦

 

――施設正面――

 

「ったく、今日もよく吹雪きやがる……」

 

もう勘弁だ、と言いながら亡国機業の構成員であるこの男はこの吹雪に辟易していた。そう、運が悪いことにこの地域で丁度低気圧が発達しているのだ。それ故に日に何度も吹雪く。そしてそれでは屈強な男達も流石に士気が低下するのである。彼もそんな者の一人であった。だが、突然味方車両が爆散した事で男は意識が戦闘へと切り替わった。

 

「なっ!?」

 

男は動揺するのを抑え、偶々近くに居た同僚に話しを掛けた。

 

「て、敵襲です!!敵はパワードスーツ部隊!数は……40!!」

「なっ!?パワードスーツ部隊だと!?歩哨の連中は一体何を―――」

「ひっ!?」

 

してるんだ、と言いかけた男は頭を撃ち抜かれ、銃弾によって砕かれた頭骨と共に脳漿を撒き散らしながら即死した。そして間髪を入れずに悲鳴を上げた同僚もまた眉間を撃ち抜かれ、先程撃ち抜かれた男と同じ末路を辿った。そしてパワードスーツ――叢雲が突撃してきた。

 

同時に施設のサイレンが鳴り響く。

 

敵襲あり、と。

 

先程まではただ肌を刺すような寒さと吹雪で視界を塞がれた施設は、一瞬で血と硝煙で塗れた凄惨な戦場へと変貌した。

 

 

 

 

「く、効かねぇ!?誰か、誰かRPGを!!重火器を持って来い!」

 

物見台からパワードスーツ部隊――叢雲を軽機関銃で掃射してした男が通信機越しに叫んだ。そう、この叢雲は軽機関銃程度の銃弾ではダメージを与えられないのだ。故に男は倒しきれるだろう重火器による支援を要求した。

 

ただ生き残る為に。

 

ただ抵抗するが為に。

 

だが、通信機からの返答の代わりに空から突然羽きり音が外から響いてきた。

 

「え……?」

 

男は何故羽きり音が突然響いてきたのが理解出来無かった。

 

そして次の瞬間、男が居た物見台はその男共々大型の砲弾によって粉々に吹き飛ばされた。男は身体をミンチにされ、脳の一欠片となり、意識を失うその瞬間に漸く理解した。

 

これは大型の砲弾が大気を切り裂く事で奏でる死の羽きり音だ、と。

 

そして再び響いた死の羽きり音によって男の意識は完全に失われた。

 

『――物見台破壊。次、歩哨を制圧』

 

死の羽きり音とくぐもった銃声が無慈悲な破壊と殺戮を伴う中、この戦場には不釣り合いな程の美しく、そして透き通った声が叢雲の通信機越しに聞こえてきた。

 

「よし、そのまま頼む。――第一小隊、このまま手早く片付けるぞ!奴等に一片たりとも反撃の機会を与えるな!手筈通り、この施設を制圧する!!」

 

そしてその声を受けたドミニクは第一小隊に発破をかけた。

 

「「「Yes.sir!!!」」」

 

雄々しい掛け声と共に40機ものパワードスーツが空からの不可視の援護射撃を受けながら迎撃に出てくる者を射殺しながら突撃を開始、一路入口へと向かった。

 

 

 

 

――施設内部――  ~入口~

 

 

俺達は無事施設内部への侵入を成功させた。そして内部に侵入すると同時に周りから続々とテロリスト共が徒党を組んで迎撃しにきた。

 

「おうおう、団体様ご到着ってか?」

「どちらかといえば私達が団体様側、でしょ。家主はあっち」

「そういやそうだったな」

 

マックスとビスティはそんな軽いやり取りをしながら迎撃に来たテロリストの一人の頭を一発で確実に撃ち抜いて行く。随分と手際の良いことだ。まぁ、銃弾が効かない分、照準にも余裕があるから当然と言えば当然か。

 

「っ!?効かない!?」

 

そして効果が無いと悟ったテロリスト共は驚愕に満ちた声を漏らした。

 

「俺達を殺したきゃあ50口径かRPGでも持って来いよ!」

 

マックスはそう叫びながらテロリストが塊となっている場所に大型自動小銃に取り付けられたグレネードランチャーを発射、複数の戦闘員を纏めて吹き飛ばした。そしてマックスが放ったグレネードランチャーの爆発跡の周りや壁には飛び散った肉片や血がこびりつき、赤黒く彩っていた。

 

「はっ!汚ねぇボルシチだな!」

「止めろ、食えなくなるだろうが」

 

マックスの戯言に思わず俺は切り返してしまった。ボルシチ、結構美味かったんだが、暫くは想像してしまって食えそうにない。

 

「へいへいっと」

 

マックスはそう言いながら物陰から撃ってくるテロリストの頭へ一発叩き込む。そして他の部隊員達もまた迎撃してくるテロリスト共を次々と射殺していった。

 

此方に相手の銃弾が通じる訳がないので被害は出る訳がない。

 

程なくして正面入口近くの戦闘は終了した。圧倒的だ、これなら今後の制圧もスムーズに行えるだろう。

 

「よし、しらみつぶしだ。マッピングをONにするのを忘れるなよ?尚、通信の使用は緊急時と定時報告以外は最低限にしろ。……Move!!」

 

「「「Yes.sir!!」」」

 

その隊長の指示に全員が応え、幾つかの通路に解かれていった。

 

「我々はこのルートを進む。途中分岐点があるのでその時は何時もの三人ひと組に分かれろ」

 

隊長はそう言って指で一つの通路を示した。

 

「そしては溢れた7は私について来い」

「はっ!」

 

隊長は俺が返事を確認した後、出発、と一声掛けて移動を始めた。

 

……隊長の後ろに付けばよい、か。

 

俺はソレを頭の隅に入れて他のメンバーと共に後をついていった。

 

 

 

 

暫くして分岐路に入り、事前に連絡していた様に素早く三人ひと組に別れ、そして俺は指示通りに隊長とBeyond2――後々解った事だが、彼は第一小隊の副隊長だった――と3と共に行動し、扉という扉を片っ端から開け、制圧を続けていた。

 

「7、正面の物陰に居る手合いに美味しい手榴弾(アップル)を食わせてやれ」

「了解」

 

俺は副隊長の指示で腰に下げた対弾仕様のタクティカルバックから手榴弾――M67破片手榴弾を取り出し、小指で安全ピンを抜いてオーバースローで投げた。

 

……どうせなら専用の手榴弾を作って欲しかった。何故、叢雲用の大型自動小銃はあるのにこういった手榴弾なんかが後回しなのだろうか?……ソレを気にしてはいけないと言われればそれまでなのかもしれないが、せめて規格の合うモノは作っておいて欲しいもんだ。

 

「――ストライク、と言った所か?」

 

隊長は手榴弾の放物線を見ながら呟いた。そして手榴弾は俺が狙った通りの放射線を描き、一度奥の壁に当たってからバウンド、物陰に隠れていた戦闘員達の方へと転がった。

 

僅かな間を置いて爆発。

 

半径5m以内の敵は悲鳴を上げる間も許されず即死した。そしてそれ以上に居た敵も破片によって重傷を負ったようで、呻き声が聞こえてくる。だが、直ぐに銃声が鳴り、その呻き声も聞こえなくなった。

 

……どうやら自決した様だな。

 

「ふむ。ここも粗方終わったな。残りは7が仕留めたこの正面通路だけだ」

 

隊長はそう言って残りの残弾を確認していた。

 

「――残弾には未だ余裕がある。2、3、7はどうだ?」

「問題無い」

「未だ充分余裕があります」

「問題ありません」

 

実際、無駄弾を殆ど使ってないのだ。一人に多く使ったとしても精々2、3発。それに、グレネードランチャーや手榴弾で纏めて吹き飛ばしたりしているのだ。下手な事が無い限りは充分戦える。

 

「そうか。……では制圧を再開する。だが、地図通りあれば――」

 

隊長は死体を避けながら進み、話をしていた。だが、それも長くは続かなかった。

 

それは何故か?

 

「――エレベーターと地下階段が此処にある」

 

直ぐ奥に大型貨物輸送用エレベーターと地下階段があるからだ。予想だが、此処に指揮所や研究施設があるんじゃないのか?恐く、この先を進めば目標である指揮官や科学者を確保出来るかもしれない。一応、エレベーターのボタンを押してみたが、反応はなかった。電源を切ったのだろう。まぁ、当然か。

 

「定時報告の時間を待つ。だがその前に――Beyond4、8応答しろ」

 

隊長はこの場で待機を指示し、通信機能を使ってマックス達と連絡を取り合っていた。そして通信を終えた隊長は手短に状況を話し始める。曰く、殆ど制圧は終わったので直ぐに其方に向かうとの事だった。そして定時報告の時間になり、各チームリーダーから報告が入って来た。

 

《定時報告、此方Uncleリーダー、我々が進んだ区画はほぼ制圧完了。だが、仮眠部屋や遊戯部屋しかなかった。それと、科学者と指揮官の存在は確認できなかった》

 

《此方Sugarリーダー、武器庫を制圧。RPGや9K38、RPKなんかの分隊支援火器を確認。一応RPGは幾つか持っていく。後々使える筈だ》

 

《此方Oliverリーダー、食料庫とバスルームを確保、途中でテロリスト共と戦闘が発生、これを制圧した。だが、その結果トマトソースが尊い犠牲になった。あと、風呂上りの美女はいなかったぞ。本当は激写してやろうかとカメラを持ってきたんだがな》

 

最初の二人は真面目に報告してきた。しかも武器庫を抑えれたのは僥倖だった。無論、地下にもあるのかもしれないが、コレで施設内部の驚異度は下がるだろう。だが、Oliverリーダーのその発言は、何というか、あれだった。場を和ませるジョークのつもりだったのかもしれないが、幾らなんでも風呂上りの美女を探してたとは……しかもカメラも装備済みとは恐れ入る。はっきり言おう、馬鹿だな。取り敢えず贈る言葉を一つ、日本ではこの場合たしかこう言うのだろう?

 

(ご愁傷様でした)

 

次いでに合掌してやる。クリスチャンだがな。

 

「……Oliverリーダー、貴様等のチームはこの任務が終わったら訓練だ」

 

案の定、制裁と言う名の訓練が課されていた。

 

《うげっ!?》

《リーダー、後で秘蔵のAVを奥さんにバラしてやる》

《やめろぉおおおおおおお!?》

 

「喧しいぞ馬鹿共」

 

副隊長は呆れながら突っ込みを入れていた。隊長同様、気苦労が絶えなさそうだな、本当に。それに、今此処が戦場の真っ只中だと言うのに、随分とまぁ緊張感にかけている。まぁ、笑っている俺が言っても説得力は皆無だがな。

 

「さて、今度は此方の報告だな。地下へ通じるエレベーターと階段を発見した。ルートは今から送る。ソレを下に到着し次第、直ぐさま地下を制圧しろ」

 

《Yes.sir!!》

 

そして隊長は通信を終えた。

 

「さて、Beyond4と8のグループが合流したら行くぞ」

 

「「「了解」」」

 

その後、Beyond4と8のグループが合流し、先程通達した通りに地下階段を降り立った。

 

 

 

 

――施設・地下―― 階段入口手前

 

「……待て」

 

隊長の指示で全員が階段を下りる途中で止まった。

 

「まぁ、定石だな。恐く、RPG持ちがいる」

「……確かに」

 

入口を制限するのであれば、当然の策だろう。そして火力が高い装備を持ってくる筈だ。

 

「見たところ、通れるのは一人、地図通りであれば入口を抜けた瞬間三方向に別れる……ふむ、足の速い奴を二人選抜するぞ。足に自信を持つ者は挙手をしろ」

「強行突破、ですか」

 

隊員の一人が呟く。

 

「あぁ、それしかない。だが、連続で通れるのは二人が限界だろうな。一応聞いておこう。この案に反対し、尚且代案がある者は居るか?」

 

反対する者も、代案を提案する者も居なかった。

 

「よし、決まったな。では早速選抜する―――」

 

そして隊長の指示の下、二人の足の速い隊員を選抜した。結果、選ばれたのは俺と意外な事にビスティスだった。オカマの癖に足は速いらしい。

 

……オカマは足が遅いってのは偏見かもしれないがな。

 

「しかし、走って射手の所まで行け、か」

 

作戦は簡単だ。先ず、開幕に発煙弾を投げ込み、攻めてきたと思わせて無駄弾を使わせる。

そしてそ次弾を装填する前に肉薄、殲滅するといった寸法だ。

この強化外骨格がなければ只の自殺行為だな。

 

「銃弾は効かないのだから、当然できるでしょ?」

「……まぁ、確かに、な」

 

12.7㎜以上は耐えられないと俺は技師から聞いている。ISの様な絶対防御がない以上、それは死を意味する。まぁ、普通はそれ以下の口径でも生身なら死ぬのだがな。

 

「それじゃ、行きましょう」

「あぁ」

 

俺は頷いて走る体勢に入り、バッテリーを駆動させる。

 

先頭は俺、素早く潜り抜け無ければならない。

 

「じゃぁ――On your mark!」

 

マックスは発煙弾を投げながら言う。だがまぁ、それもありか。ある意味これは短距離走。

 

ゴールはRPGの射手。

 

そして発煙弾が投げいれられた瞬間銃声音と爆発音が聞こえてきた。案の定引っかかった。先ず、心理戦は制したと言える。であれば、タイミングは今しか無いだろう。

 

次弾を装填される前に終わらせる。

 

「Get set……Go!」

 

「「っ!」」

 

マックスの合図と共にスタートダッシュを決め、後ろにビスティスが付いてくる。短い助走距離でも、メインバッテリーからのアシストを受けた俺は一瞬でトップスピードに乗った。

 

既に慣れてはいるが、やはりこれは凄まじい。

 

そして濃い煙が立ち込める入口を潜り抜けた瞬間、正面と左右それぞれでRPG持ちと軽機関銃を持った敵が居る事を確認した。しかもご丁寧にバリケードまで作っていた。

 

「正面、任せろ」

「OK」

 

俺はそう言って正面に居る敵の集団に向かって突っ込んだ。

 

「は、早く撃て!」

 

テロリストの誰かが撃つように発破をかけ、RPGの射手はRPGを発射した。だが、俺はスライディングをする事でRPGの真下を潜り、直撃を避けた。

 

背後で三つの爆発。

 

ビスティスも躱したと信じ、すぐに立ち上がって突撃を再開する。

 

「なっ!?」

 

まさか避けられるとは思っていなかったのだろう、射手は驚愕していた。

 

俺はこのまま制圧する為にバリケードを体当たりで粉砕し、大型自動小銃のトリガーを引いて手当たり次第に腰だめでばら撒く。

 

「あがっ!?」「っぎぃ!?」

 

正面からの撃ち合いで叢雲に勝つには、テロリストが持つ自動小銃では余りにも非力だった。相手の銃弾は全て弾き、俺が放つ銃弾は相手を確実に射抜いていった。

 

「畜生ぉおおお!!!」

 

最早自棄糞になったのか、生き残った一人が既に弾が切れた銃を鈍器に見立てて殴りつけに来た。

だが、その程度では叢雲にはかすり傷一つつく訳がない。

 

そして態々素直に受けるつもりもない。

 

一度銃を捨て、大上段から振り上げられた銃の軌跡にバッティングさせる様に右手の内蔵型単分子カッターを展開、横一閃で銃身を斬り裂いた。そして左手のブレードも展開、心臓を胸骨ごと一突きする。

 

「がはっ」

 

テロリストは口から大量の血を吐き出した。そしてその吐き出した血は雪上迷彩の叢雲を赤黒く染めた。

 

「……」

 

俺は無言で左手のブレードを引き抜き、止めとして右手のブレードで首の頚動脈を切って完全に絶命させた。そしてテロリストの首から噴水の様に出てきた血で叢雲を更に赤で染め上げた。

 

「まぁ、あの時よりかはマシか」

 

あの時の状況よりは、な。

 

「――そっちは終わったかしら?」

 

何時の間にかビスティスが分岐路のとこから話し掛けたてきた。そして見れば幾つかの瓦礫――先程の三発のRPGでできた――が階段を塞いでいた。まぁ、叢雲なら直ぐに取り除ける、か。

 

「……あぁ、終わった」

 

俺はそう言いながら先程捨てた銃を拾い、バッテリーをOFFにしてから分岐地点に向かう。そして左右をみれば綺麗にテロリストを片付けたようで、等しく急所を撃ち抜かれて血の海に沈んでいる敵が幾つも見受けられた。……どんな手品を使ったのかは知らないが、俺とほぼ同じ時間で二方向を片付けるとは恐れ入る。やはり最精鋭の名は伊達じゃないらしい。平隊員でもこれ程のレベル、か。

 

「あらら、中々のスプラッタね。それが貴方の趣味かしら?」

 

ビスティスが血に染まった俺にそう言ってくる。

 

「まさか。突っ込み過ぎて止む終えず、だ」

 

俺は軽く弁解しつつ銃に異常が無いかを軽く確かめる。

 

「そう。――Beyond1、終わったわよ」

 

《ご苦労。瓦礫の撤去後、このまま正面の通路を通る。合流後、そのままついて来い》

 

隊長が軽く労いの言葉をかけ、付いてくる様に指示を出してきた。

 

「了解」

 

俺は頷いてその場に待機し、隊長等が瓦礫を崩しながら来たのを確認して隊列に戻った。

 

 

 

 

その後、通路で待ち構える敵を一切の慈悲もなく殲滅していく。そして他のチームも着いた様で、次々と戦闘に入ったと報告がくる。

 

戦況は圧倒的に此方が有利。

 

「こ、降参だ!」

「お願い、どうか命だけは!」

 

中には恐れをなして武器を捨て、両手を上げて降伏してくる者達も居た。だが――

 

「貴様等にくれてやるのは慈悲ではない。この鉛玉だ」

「やっやめ――!?」

「ひっ!?」

 

副隊長は既に戦闘の意思が無くなった者達の頭を撃ち抜く。

 

「必要なのは科学者と指揮官だけだ。それ以外は全て―――」

 

殺す。

 

当初からの目的は変わらない。生かすのは利用価値がある者だけなのだ。

 

其処に一切の例外はなかった。

 

老いも若きも、男も女も確保対象でなければ等しく殺していった。もっとも、子供は居なかった、がな。

 

「――どうした、Beyond7。何か思う事でもあるか?」

 

副隊長が降伏してきた者の処理を終わらせ、次の場所へと歩みを進めながら話し掛けてきた。

 

「いえ、何も」

「言いたい事があるのならはっきり言え。戦場において、迷いはそれすなわち死を意味すると習わなかったか?それとも何だ。今更この仕事に躊躇いでも覚えたか?」

 

どうやら隠し事は通じないらしい。

 

「まさか。只、洗脳された子供が居なくて良かった、ただそれだけです」

「ほう、ではその子供が現れたら貴様はその手に持つ銃の引き金を引けないのか?」

 

そしてそれによって自分が死ぬかもしれなくてもか?と、副隊長は尋ねた。

 

「……生き残るのと天秤にかける事はしません。ただ、トラウマなだけです。戦えますがね」

「ふむ。其処まで頭が腐った訳ではない様だな。まぁ良い、深くは詮索はしないでおく。もっと任務に集中しろ。うっかりで指揮官で殺した、ではたまったものではない」

「Yes.sir!」

 

俺はそう言って任務に集中した。

 

 

 

 

少し、昔話をしよう。

 

これは俺がデルタでの作戦で人を殺した時の話と、IS乗りを殴った時の話だ。

 

先ずは人殺しの話。

 

俺は必死の思い出大学において飛び級をしながらROTC、つまり予備士官養成コースを出てから士官として21歳で陸軍に少尉として入隊。そして一年後にデルタの試験を受けて合格し、6ヶ月の訓練と18ヵ月間はOJT――教育訓練――の立場での勤務に勤しんだ。そしてOJTの期間が終わった頃には24歳だ。

 

因みに今は28歳、ギリギリ20代だ。顔は若く見えるから20代前半に見えるがな。

 

まぁそれは置いておこう。そして初めて殺した場所はA国。其処はISのコアも割り振られず、そして大した特色もない寂れた国だった。だが、それ故に不穏分子――つまり、テロリストも集まり安かった。

 

そして俺の所属していた部隊は非公式にA国に潜入、アメリカに害なす武装ゲリラを殲滅せよとの命令が下ったのだ。

 

その命令自体は何も問題無かった。

 

祖国に害する存在は、等しく殲滅するべきなのだから。

 

当時の俺は国に対する忠誠心が高く、そう思っていたのだ。アメリカ至上主義者、と言っても過言ではなかっただろう。そして俺はISに対してとある考えを持っていた。

 

戦わない兵器なんぞ、ただの鉄クズと何ら変わりがない。

 

そう思っていたのだ。他にも思っていた事はあるが、今は省こう。当時の俺は、俺がアメリカを守る。俺が糞どもを殺して守ってやる。そう、思っていたのだ。

 

そしてしてテロリストの殲滅するにあたり、敵の指揮官を暗殺せよ、との命令を受けた。当時の部隊長指揮の下、俺と他の隊員達はその武装組織の裏切り者から入手した地図を元に施設に潜入した。まぁ今第一小隊がやってる事とあまり変わらない。

 

そして潜入に成功し、俺は部隊長から一人の隊員と共にある部屋の制圧を頼まれた。始めて人殺しをするのだ。緊張がしないわけが無かった。そして俺は手に持つ消音器付きのM4で部屋に隊員と共に部屋に押し入った。

 

押し入って、理解した。

 

この部屋は、武装組織によって洗脳された少年兵の部屋なのだ、と。

 

俺は躊躇ってしまった。

 

何故、と。

 

確かに、紛争地帯や武装ゲリラは年端もいかない少年達を集め、洗脳している事は分かっている。

だが、それでも、認めたくはなかった。

 

初めて殺すのが、子供である事を。

 

選んで殺すのが上等ではないのは解っている。解ってはいた。だが、心では認めたくはなかった。

 

しかし理性は叫ぶ。

 

殺せ、と。

 

コレはアメリカ害なす存在だと。

 

殺さなければ、自分が殺されるだけだと。

 

そして俺はその叫びに従い、引き金を引いた。

 

幼き柔肌を5.56㎜が貫き、その儚き命が散っていくのをこの目で焼き付けた。そして少年兵を射殺していく中、生き残った一人ががナイフを持って突っ込んできた。

 

恐れの感情もなく、死んだ目のまま、雄叫びさえ上げずに突っ込んできたのだ。

 

M4は丁度弾切れ。このままでは刺されるだろう。だが、俺は焦ら無かった。訓練時代に脊髄反射レベルで叩き込まれた近接戦闘術を無意識に行った。

 

手首を抑えて刺されるのを防ぎ、素早く足払いを掛けて組み伏せる。次に肩の関節を外し、ナイフを奪った上でその奪ったナイフを首に突き刺した。

 

人の肉を斬る感覚。

 

何と表現して良いのか解らなかった。だが、あぁ、斬ったんだな、とだけは思った。そして頚動脈を切り裂いた事により、血が大量に噴きでて、それを浴びてしまった。

 

血まみれ。

 

そして俺はこの少年兵を殺した後、自分のやった事に対して罪悪感に襲われた。次いで胃の中にある内容物も堪えきれなくなって吐き出した。

 

その後、行動を共にした隊員に付き添って貰いながら任務終え――勿論成功した――、俺は基地に戻った後に精密検査を受け、医者からPTSD――心的外傷後ストレス障害を診断された。

 

あの時はひどかった。

 

子供を見るだけで、少年兵をナイフで殺した出来事が蘇り、吐き気を催すのだから。だが、何とか薬物療法の結果、子供を見るだけではそんな事は無くなった。俺が子供が居なくて良かった、と言ったのはそう言う理由があるのだ。

 

これで初めての人殺しのは終わり。次にIS乗りをぶん殴った時の話だ。

 

俺はあれ以来、少年兵が居る可能性の高い武装ゲリラの殲滅の任は――PTSDの再発を防ぐ為――受けず、国内のテロリスト――反IS主義の過激派やマフィア――を相手していた。本来なら、PTSDを診断されればデルタからはお払い箱だったかもしれない。だが、技能ではデルタでもなまじ上位に位置する立ち位置が故に、手放しにはしたくなかったのだろう。薬物療法での治療中、何度も教官の補佐として訓練キャンプに呼ばれたから尚更そうおもう。

 

まぁ、それは置いておこう。

 

俺は不穏分子を殺し続ける事で、国に忠誠を尽くしてきた。ISにより女尊男卑が浸透しても、変わらず、腐らず、尽くし続けたのだ。

 

そのお陰か俺のは知るところではないが、俺は上から小隊の隊長を任され、そして国連が作っていたEOSの試作機にも一時期テストパイロットとして搭乗させて貰った事もあった。そしてEOSに乗って思った事がある。

 

何故、ISは其処まで優遇する必要があるのか、と。

 

所詮は只の兵器。ISの開発者――篠ノ之束はそうではないと言い張ったそうだが、全くもって説得力は皆無だ。白騎士事件がいい例だ。ISは宇宙へ出る為のマルチ・フォーマルスーツと言いながら既存の兵器を圧倒する性能を持ち、機動はPICによって限りなく自由、当時の技術では実現不可だったエネルギーシールドや光学兵器を持つ事ができる。これが兵器でなければ何を兵器と呼べば良い?少なくとも俺は知らない。

 

もう一度言うが、ISは所詮只の兵器だ。

 

それも、性別と適性で操縦者を選ぶと言う、兵器として致命的な欠陥を持つ。

 

そしてそれが何故女尊男卑につながるのかが全く持って理解不能だった。人は学習する生き物だ。然るべき戦略を構築し、然るべき戦術を練り、対抗する為の兵器を生み出す。EOSや、現在俺が着ている叢雲なんかが良い例だろう。無論、既存の兵器でも少なからず対処マニュアルは研究されている。それにISとて無敵ではない。エネルギーが切れれば只の鉄クズになる。そしてISをエネルギー切れにさせ、鉄クズに変えるだけの物量を軍は、アメリカは、ひいては世界は持っているのだ。

 

確かにISは他を圧倒する程の高性能だろう。

 

だが、それがどうした?

 

絶対数に不足し、操縦者を選ぶ兵器に、一体どれだけの価値がある?

 

戦争の勝敗を分かつのはただ物量の差だ。質は付加価値に過ぎない。

 

戦場で最も生き残れるのは、誰よりも長く走れる兵士だけ。

 

戦闘中に心が折れないのは、歴戦の兵士だけだ。

 

そして最も気高いのは、殺す覚悟と殺される覚悟を持つ者である。

 

だが、IS操縦者はどうだ?

 

確かに、中には俺と同じように国の為に殺しを経験した者もいるかもしれない、彼女らなりに矜持を持っているのかもしれない。そして覚悟を決めている者も居るだろう。俺と同じだ。だが、ISの搭乗者の選考はIS適正なのだ。それ故に殺しを知らない、性格的にも不安がある者がただISの技能訓練を受け、一人前の兵士を気取っている奴が多い。そしていつしか古強者を弱者と呼ぶ輩まで軍内に現れ始めたのだ。

 

巫山戯るな。

 

実戦に出たことも、命を賭けたことも、直接人を手にかけた事もない、只ISの力を自分の力だと思い込んでいるIS乗り風情が、俺達の誇りを、忠誠心を汚すな。

 

そして相次いで軋轢を生み、IS乗りといざここざがあった者は辞めさせられるか(表向きには名誉除隊になっている)、または左遷させれられていった。

 

皆、考えているのは同じだ。

 

俺達の誇りを汚すな。

 

俺達を舐めるな。

 

俺達の忠誠を最期のその時まで尽くさせろ、と。

 

だが、そんな願いは否定された。そう、国は自分に忠誠を誓った兵士達よりもISを選んだのだ。

そう、俺が27歳の時、軍規にIS操縦者を優遇する項目が追加される形によって。

 

俺はアメリカという国に失望した。

 

今まで尽くしてきた忠誠は何だったのだと。

 

今まで犠牲になってきた戦友達は何だったのだと。

 

俺は新たに追加された項目を眺めながらそう思った。そして間が差してしまった。そう、IS乗りを殴ったのだ。それも二度と元の顔に戻れないくらい徹底的に。

 

憎かった。

 

目の前に、俺の部下に対して威張り散らし、蹴り倒すIS乗りが。

 

恨んでいた。

 

ISの力を自分の力だと思っているIS乗りが。

 

情けなかった。

 

ISを見せびらかせられて、悔しそうにするだけで抵抗一つしない部下が。

 

許せなかった。

 

俺達の誇りを踏みにじった女が。

 

何時の間にか俺はIS乗りに駆け寄り、勢いのままぶん殴っていた。そしてISの待機形態であるアクセサリー――見せびらかしながら威張ってたので直ぐに解った――を奪い、遠くへ投げ捨て、マウントを取った。

 

その時のIS乗りの表情は何と怒りを掻き立てられたことか。

 

そう、怯えたのだ。

 

巫山戯るな。

 

たった一発殴られた程度で、たかだかISが奪われたぐらいで、もう諦めるのか?

 

舐めるな。

 

俺達はそれ以上の事を経験し、そして生き残ってきた。

 

だと言うのに、もう諦めるのか?

 

だったらば許すつもりも、慈悲を与えるつもりも無い。

 

死ね。

 

ただ死ね。

 

何も残さずに死ね。

 

そして俺は部下や憲兵達に止められるまでIS乗りを殴り続けた。あの時の頃の俺は相当な事をやらかしたらしい。だが、俺にとっては部隊内での乱闘の一つにしか思っていたのだ。

 

そして下った処分だが、当然俺の身分は剥奪。そのまま務所行きかと俺は思ったが、そこは今までの功績で何とか免れた。だが、その代わりかは知らないが、かなり法外な慰謝料を請求された。

 

因みにあのIS乗りはムカつく事に生き延びたらしい。そして心が折れて軍を辞めたとか。聞けば顔が他人に見せられないぐらいに歪んだとかなんとか。

 

ざまぁみろ。

 

ある意味で俺は世界で初めてIS乗りに勝った、と言える。そして数週間後俺は路頭に迷っていた所を川崎からヘッドハンティングを受けて現在に至る。

 

俺は川崎には感謝している。

 

資金繰りに困っていた慰謝料の支払いを引き受けてくれたから。

 

俺に、新たな戦場を用意してくれたから。

 

無論、慰謝料を払うために長く付ける職を探したし、その間にパートもした。だが、上手くいくことも、長く続く事もなかった。

 

結局、俺は殺すこと以外、あまり得意ではないのだ。

 

尚、一応言っておくが、俺は全てのIS乗りが嫌いな訳ではない。ISの力を自分の力だと思い込んで威張るIS乗りが嫌いなのだ。ソフィーや叢雲の訓練で戦った川崎のIS乗り達は別だ。しっかりと現実を見ている目を、態度をしていた。故に嫌いではない。

 

まぁ、そんな所で俺の過去話を終えよう。

 

 

 

 

地下の戦闘も佳境に入っていた。

 

「リロード!」

 

正面にいるBeyond6が叫び、下がる。

 

「カバーする!」

 

隊長が前に出て、正面で必死に弾幕を張るテロリストの頭を撃ち抜く。そして撃ち抜かれた戦闘員は脳漿を辺に撒き散らしながら崩れ落ちた。

 

「へいへい!掃除だ掃除!」

 

マックスは若干コンバットハイになりながら制圧を進める。

 

「喧しい、右通路、数4!」

「あいよ、貰ってきな!」

 

マックスは正面入口での戦闘同様に自らが持つ自動小銃に取り付けられたグレネードを発射。応戦しようとしたテロリストを吹き飛ばした。

 

「次は左通路に重装歩兵確認!RPGだ!」

「任せろ!」

 

丁度左通路側にいた俺は重装歩兵に素早くバースト射撃で射手の手を撃つ。

 

「ぐがぁ!?」

 

そして今正にRPGを撃とうとした射手は手を撃ち抜かれた事により、RPGを誤って直上に発射。激しい爆発と共に消し飛んだ。

 

「ハッハー!流石は元デルタ、いい腕してんじゃんか」

「やるじゃない。流石は私の見込んだ男ね!」

 

マックスとビスティスが制圧を進めながら賞賛してくれた。

 

「だが、少々詰めが甘い様だなBeyond7」

「――おぉおおお!」

 

そう言って俺の隣にに居た副隊長はRPGでできた煙の中から突如として叫び声を上げながら現れたテロリストに対し、腰のホルスターにある叢雲の標準装備の一つ、対重装歩兵戦闘用13mm拳銃を素早く抜いて発砲、一瞬で物言わぬ肉塊へと変えた。

 

「だろう?」

 

このまま見逃していたら、バッテリーパックを破壊されたかもしれない。

 

……危ない所だった。

 

「精進します」

 

副隊長の指摘に対し、俺は素直に認めた。思い込みは戦場において死を意味する。叢雲に頼っていたら、つまらない所であっけなく死ぬだろう。

 

「そうするといい。――さて、隊長、状況はどうなっている?」

「極めて順調だ。今の所負傷者は1名。どうやらRPG持ちを仕留め損ねた結果、瓦礫で脚をやられたらしい。幸い、他の者には被害が無かった様だがな」

「……其奴は訓練が足りん様だな。まぁいい、次はどうする?」

 

隊長と副隊長は歩きながら会話をし、その後を俺と他のメンバーが続く。

 

「次は――待て」

 

隊長の一言に全員が止まった。見れば通路の奥に研究室と書かれたプレートと出入り口があった。

 

「あそこから先は研究室らしいな。ならば火事場泥棒と洒落込む」

「しかしどうする?隔壁で閉じられているぞ?」

 

副隊長の言う通り、出入り口は分厚い扉で閉ざされていた。

 

「問題無い。3、4、5、アレを組立ろ」

 

「「「Yes.sir!!!」」」

 

指示を受けた三人の隊員は自分達が背負ってきたモノを組立始めた。

 

「……これは何です?隊長」

 

俺は三人が組み上げている大きなモノを指差して質問をした。

大きさで言えば叢雲+頭二つ分ぐらいの大型のライフルにも見えなくはない。

 

「あぁ、これは本来ISが持つ装備なんだが、名をHGTELC、高出力汎用戦術エネルギーレーザー砲と呼ばれる光学兵器だ。しかも只の光学兵器じゃない。マガジン式を採用、つまりやろうと思えば生身の人間でも撃てる代物だ。ただし、持ち上げれれば、の話だがな。勿論叢雲を装備している我々は撃てる。ただ、バッテリーを駆動させなければ持ち上げれれないがな」

「……川崎の技術力は底無し、か」

 

まさか、これがレーザー砲だとは思わなかった。てっきり川崎製の大口径ゲテモノライフルかと思っていた。それに、奴等なら叢雲専用ゲテモノライフルを作りかねん。

 

「私もそう思う。奴等は変態だからな……どうだ、撃ってみるか?」

「お言葉に甘えて」

 

嬉しい提案だった。と言うより、光学兵器に魅力を感じない者は誰もいないだろう。それに、ISで女性は光学兵器を撃つ事ができても、男はISに乗れないから撃つ事ができない。これ程屈辱的な事はなかった。だが、今こうして撃つ事ができる。まさに夢の様だった。まぁ、この叢雲も夢の様な代物ではあるのだが、やはり嬉しさで言えばこのHGTELCだな。

 

そ俺は叢雲のバッテリーを駆動させ、組み上がったHGTELCを持ち上げた。

 

ずっしりとした重みが伝わってくる。

 

この重みは、嬉しい重みだ。

 

「四隅を狙え」

「了解……Fire!!」

 

思わず叫びながらHGTELCの引き金を引いてしまった。そして引き金を引いた瞬間、超高密度の光が銃口から放たれ、扉の右の上に穴を開ける。それに手応えを感じ、更に3発発射。四隅に大穴を開け、扉を崩した。

 

「7、それは其処に立てかけておけ、どうせ奴らは使えん」

「了解」

 

言われた通りHGTELCを立てかけ、バッテリー駆動をOFFにする。

 

「では……突入!」

 

隊長の合図にBeyondのメンバーは一斉に突入を開始した。そして俺達が中に入ると、通信機を片手に連絡を取り付けていた男と、何人かの研究員、そして戦闘要員が見受けられた。そして彼等は全員呆然としていた。

 

まぁ、まさか隔壁がレーザー砲で撃ち抜かれるなんてのは想像だにしてなかっただろうな。

 

「あの男とホワイトカラーは生かせ」

 

隊長は通信機を持った男を指揮官と判断。そしてそれ以外は不要と指示。Beyondチームはブルーカラーは射殺し、指揮官らしき男の足を撃って行動不能へ。そして逃げまどう研究員達もまた、指揮官らしき男同様に脚を撃ち抜いて行動不能に、もしくは徒手格闘で沈黙させていった。

 

 

 

 

制圧は淀みなく終わった。

 

研究員は一纏めにし、五月蝿くしている者は殴って気絶させた。そして足を撃ち抜いて行動不能にした通信機を持った男を椅子に座らせて隊長は問い詰めていた。

 

「貴様が指揮官だな?」

「…………」

 

だが、男は答えない。

 

「答えんか。まぁいい後でじっくりとお話しをしよう」

 

そう言って隊長は次の指示を出そうとしたが――

 

「……無駄だ」

 

――唐突に男が口を開いたことによって中断された。

 

「ほう?」

「あと少しで、預言者とオータムが援軍を連れて来る。貴様等はそれで、終わりだ。たった一機のISとその鉄クズで敵うと思うなよ?」

 

男は強気で言っていた。だが、それに対して隊長や他の隊員達の反応は薄かった。

 

「預言者とオータム、か。資料で読んだな。……ふむ」

 

隊長は独り言の様に呟き、次に朗々とした声で通信で一斉に呼びかけた。

 

「諸君、栄えある第一小隊諸君!遂に敵ISが現れる事となった!それも2機だ!!今こそ我々の真価が試されるだろうっ!」

「……何を」

 

男の言葉を無視して隊長は更に続ける。

 

「――既にホワイトカラーと指揮官は抑えた。即刻ゴミ処理を終わらせ、対IS戦闘の用意に入れ!」

 

『『Yes.sir!!』』

 

通信機越しからは男達の勇ましい声が返ってきた。

 

「な……正気か、貴様!」

「正気だとも。どの道、預言者を退けなければ生き残る道はない。ならば、退けるのみだ」

「そうそう、てめぇら三下に俺達がやられる訳がねぇ」

「それに、預言者?なにそれヒゲを蓄えたオジ様かしら?……それもそれでありわね」

 

隊長の言葉にマックス、ビスティスが仲良く続いた。が、しかし―――

 

「黙れオカマ。ミンチにしてやろうか?」

「五月蝿いわねタコ。風穴がご所望かしら?」

 

―――この二人は相変わらずだった。そしてその様子を見ていた俺を含めた他のBeyondのメンバー達は肩を揺らしていた。これから迫り来る驚異があるというのに、随分と和やかな雰囲気であった。まぁ、その雰囲気の中で馴染んでいる俺も俺だがな。

 

「……狂っている」

 

男はそう呟いた。

 

「それは褒め言葉だ。後で貴様等は仲良く尋問専門の連中の所に送る。痛い思いをしたくなくば今の内に自白する内容を整理しておくことだ。――6、8。悪いが貴様等にはお守りをしてもらう」

「問題ありません」

「お任せあれ」

 

隊長の指示にBeyond6と8は了承した。

そしてそれを確認した隊長は残りのメンバーに対し、指示を送っていた。

 

「3と4と5はHGTELCを回収しろ。貴重な火力だ。――行くぞ」

 

「「「「Yes.sir!!」」」」

 

そして隊長率いるBeyondチームは他のチームと連携してISを迎撃する為、急ぎ来た道を戻った。




あれだ、むさい。

今回は女の子のおの字もでない回でした。……ソフィアは最初だけ発言したけどね。

さて、次回は精鋭パワードスーツ部隊+IS1機 VS IS2機+α!
そして次の次で主人公sideの方に戻ります。

次回もなるべく一週間以内に投稿できる様頑張ります。
それでは次回もお楽しみに!

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