ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第二十六話:K.I.C.PASOG

―???― 廃墟

 

既に人が住んでいない、記憶から忘れさられて久しい街。

 

そんな廃墟の街中を一つの黒い影が駆け巡っていた。

 

そしてその黒い影は人の形を型どっており、見れば手には銃を所持している。

大きさは約2.5m程。その黒い影が人であればかなりの体格の持ち主である。

 

だが、黒い影は人ではなかった。

 

その黒い影はその全身を角張った装甲と滑らかな曲線を持つ、黒光りする鋼鉄の装甲で全身を覆っているのだ。そしてそんな黒い影を世はこう呼ぶのである。

 

――Powered exoskeleton(強化外骨格)

 

そう、この黒い影は俗に言うパワードスーツと呼ばれる存在であった。

 

 

 

 

『Check point β-32の通過を確認。目標タイム、マイナス1.5』

 

通信機能を通して男の声が響く。

 

(ノルマは順調に消化。目標地点までで残り僅か、か)

 

「このまま記録更新させて貰う」

 

強化外骨格を着用し、廃墟を駆け巡るた男――ライル・アークスは呟いた。

そしてその呟きに反応する者が居た。

 

『慢心するなよ』

「するわけがない。軍人上がりで実戦も経験済み、さらに言えばどれだけ教官(アンタ)にしごかれてきたと思ってるんだ。この程度、どうとでもなる」

『さーて、どうだか』

 

自信ありげに言うライルに対し、通信機能を介して会話する教官は信じていないに様である。

いや、寧ろ何かニヤけながら答えていた。

 

(何を仕組んだのか……まぁ、何にせよ解らせてやろう。何時もの様にな)

 

暫く走っていると、セントリーガン付きの複数の標的が突然現れた。

そして中には銃に似た紛らわしいモノを持っている非標的も含まれていた。

 

(軽いな)

 

ライルは心の中でそう呟きながらセントリーガンの射線をスライディングで避け、手に持つ大型自動小銃で照準、素早くトリガーを引く。

 

そして放たれた弾丸は標的の急所を的確に撃ち抜いていった。無論、非標的を撃つなどという初歩的なミスはしない。そう、ライルは射撃に関してはかなりの腕前の持ち主であるのだ。

 

『excellent』

「教官、おだててもミスはしない」

『そう言いながら自爆すれば中々の笑いネタになるのだがな』

「言ってろ」

 

そんな会話をしながら更に続けて現れてきた標的を走りながら連続で撃ち抜く。

そして撃ち抜かれた標的は全て急所の部分に穴が空いていた。それは常人であれば、決して簡単ではないだろう。例え強化外骨格を着用し、身体能力を底上げしていたとしても。

だが、ライルにとって、それは造作もない事だった。

 

(ラスト。このまま―――っ!!)

 

押し通る、とライルは思ったが、突然目の前にたっぷりとホイップクリームが塗られている皿を持った標的が不意打ちのタイミングで現れた。

しかもご丁寧に顔面にパイが当たるように調整されている。このままいけばハプニング大賞に送れそうな痛快な映像が出来上がるだろう。機密満載だが。

 

恐くこれは教官が仕組んだ悪戯心がふんだんに入った最後の罠。

 

だが、ライルはその罠に焦ることなく冷静に腕部に内蔵されたブレードを展開。

そのまま標的を真っ二つに切り裂いてパイと顔面の正面衝突するのを防いだ。

 

「これで終わりだ!」

 

ライルはそう叫び、最後に残った標的を撃ち抜き、目標地点に辿りついた。

 

『っち……おめでとう、ライル・アークス訓練兵。貴様は見事最終試験をクリアした』

 

ゴールした瞬間、教官から舌打ちと共に目標タイムの更新と賞賛の声が贈られる。

そしてそれと同時にヘリの音も聞こえ、遠くの空から黒い点がだんだんと近づいてきた。

 

「それはどうも」

 

ライルは息を整えながら男の賞賛を受け取った。

 

『そして貴様に良い話がある』

「なんだ?」

 

ライルは教官の『良い話』、と言う単語に興味を示した。

 

『貴様の実技及び書類審査の結果、正式にとある部隊への配属が決まった』

「……それは何処の部隊だ?強襲班か?諜報班か?それとも拉致か強盗?」

 

最初の二つ以外は明らかにまともではない。

 

『まぁ聞け。貴様にはその部隊が居るロシアに飛んでもらう。そして其処で貴様が所属する部隊の隊長が直接詳細を話す手筈となっている』

「ロシア……シベリア送りかなんかか?俺は行きなくないんだが」

 

主な任務は日光を眺める事と木の本数を数えること。運河を掘削する作業だ。

肉体労働者である俺にとって満足に体を動かせる場所なのだろう。

しかも就寝時には天然の大理石の上で直接寝れると言うお墨付きときたもんだ。

何と平和な部隊なのだろう。絶対にいきたくない。転属許可書があったら破り捨ててやる。

 

『別に赤い指導者が居る訳じゃぁない。それに、ロシアが貴様がこれから所属する部隊の本拠地でもないから安心しろ。まぁ、着けば解るさ、着けばな』

 

男は軽く含み笑いをしながら話す。

 

「気になるな」

『まぁ、着いてからのお楽しみだ。……ではライル・アークス。貴様のこれからの活躍に期待する。卒業おめでとう』

「今までお世話になりました!!sir!!」

 

ライルは自然とヘリに向き、今まで世話になった敬愛すべき教官に敬礼をした。

 

『うむ。……では荷物を整え次第、此処を発て』

「Yes.sir!!」

 

 

 

 

――ロシア・川崎支部地下施設ブリーフィングルーム――

 

ザワザワ……

 

ブリーフィングルームには40人近くの屈強な男達が集まっていた。

少なくとも、これは気質の人の集りではない。そして彼等は思い思いに会話をしている。銃器、紛争、ギャンブル、金、女、酒、世界情勢、様々である。

 

そして彼等は皆、特徴が違っていた。

 

具体的に言えば先ず人種が違う。黄色人種、白色人種、黒色人種、茶色人種、赤色人種。ほぼ全ての人種が集まっていた。

 

次に出身国。アメリカを初め、ドイツ、ロシア、イスラエル、インド、日本etc.と様々である。まるで統一性が無い。だが、そんな彼等には共通しているモノがあった。

 

そしてその共通部分と言うのは、皆同じ企業に所属している、と言う事だ。

 

そう、彼等は表舞台に立つ事のない川崎五十六の私兵達である。

 

「――傾注!!」

 

その一言と共にブリーフィングの扉が勢いよく開かれ、齢50を超えた白人男性と20歳を半ば過ぎた若い白人の男が現れた。

そしてその白人男性の言葉を受けた男達は一瞬で黙り、沈黙の空間を生み出した。

 

「さて、今回の作戦を説明する前に、諸君らに新しい仲間を紹介しよう。――名乗れ」

 

白人男性に促された若人は敬礼をしながら答えた。

 

「はっ!名はライル・アークスであります!sir!」

「古巣は?」

「アメリカ・第1特殊部隊デルタ作戦分遣隊出身であります!」

「ここに来た経緯は?」

「糞ったれなIS乗りのあばずれ女の顔をしこたまぶん殴ったのがバレてクビにされました。そしてその際に再就職先として連れて来られました、sir!」

 

『『ハハハハハハハハハッ!!』』

 

ライルの経緯もとい、クビになったネタを聞いてに屈強な男達が大笑いを始めた。

中には口笛を吹いたりする者や手を叩く者、果てはブラボーと叫ぶ者までいる。今まで女尊男卑で苦しんできた経験を持つが故に、余程痛快な話だったのだろう、其処に皮肉の笑いは無かった。

 

「……ふむ。若いというのはやはり良いものだな。それだけで無茶が効く」

 

白人男性もまた、肩を揺らしながら静かに笑っていた。まるで昔を懐かしむかの様にも見える。そして暫く笑い続けた後、咳払いを一つして場の雰囲気を元に戻した。

 

「ゴホン。――さて、諸君。ライルはデルタフォースの若手だったが、既に実戦は経験しているそうだ。無論強化外骨格の訓練過程も終えた。よってこれから行う作戦にも参加して貰う」

 

そしてその言葉を聞いた彼等は各々「了解」や「ウーッス」等と返事をしながら頷き、ライルの参加を認めていた。

 

「うむ。それでは正式に貴様を歓迎しよう。ようこそ、Kawasaki Industrial Company(川崎インダストリアルカンパニー) Private Armed(私設武装)Special Operations Group(特殊作戦郡).通称K.I.C.PASOGへ。貴様の所属はその第一小隊。川崎が誇る最強の精鋭部隊の所属となる。これからの働きに期待する」

 

白人男性の男と、そして周りの男達は一斉に敬礼をした。

そしてライルもまた敬礼を返した。

 

「さて、取り敢えず私の自己紹介を改めてしよう。私の名はドミニク・サンダース。この第一小隊で隊長をしている。よろしく頼む」

 

そう言って白人男性――ドミニクは右手を差し出した。

 

「よろしくお願いします」

 

そしてライルはドミニクが差し出して来た手を握り返した。

 

「では、ブリーフィング後にでも他の者達ともスキンシップでもするといい」

 

その言葉を聞いて黒人の男が手を後ろに組みながら発言する。

 

「気を付けろよ、中にはホモが混じってっからな。気を許してベットで掘られるなよ!」

「ちょっと!誰がホモよ!?失礼しちゃうわ!!」

「てめぇの事だよオカマ野郎」

「んだとコラァ!?」

 

黒人の男の一言に別の白人の男が過剰反応していた。一瞬でドスの聞いた声になっている。

その様子を見てライルはふむ、と軽く頷き、白人の男の顔と特徴を刻む。

 

あの男はホモだ、と。

 

そして周りの男達はその二人の様子を見て再び笑い始めた。

 

パンッ!パンッ!

 

「―――静粛に。話が進まん」

 

ドミニクが手を叩き、静かにする様促す。そして男達は、水を打ったように一瞬で静かになった。

どうやらドミニクの統率力はかなり高いらしい。

 

「ライル、貴様は其処に座っておけ、これからブリーフィングに入る」

「解りました」

 

ドミニクの指示通りにライルは手短な椅子に座り、此処に来るまでに渡された資料を閲覧する。

そして全員が聞く体勢になったのを確認したドミニクは口を開いた。

 

「さて、諸君等にも既に通達した通り我らがMr.五十六は日本の暗部、そして一部のIS委員と秘密裏に手を組んだ。目的はこの世界を狂わせた原因を作った張本人の篠ノ之束の確保、もしくは殺害。及び亡国機業に関しての情報収集、そして殲滅だ。そして今回の作戦を説明するにあたり、今から映し出される写真を見ろ」

 

ドミニクはスクリーンを表示させ、衛星から撮られたであろう写真を映し出した。

 

「この写真は手を組んだIS委員会の者より提供されたモノだ。場所はこの支社から少し離れた山岳地帯。資料を見れば分かるが、此処は旧ソ連の秘密研究所だった場所、と記されている。そして其処を占領しているのは亡国機業と見ても間違いではないとの事だ」

 

見れば映しだされた写真には明らかに人工的な構造物が森の中から僅かではあるが不自然に露出していた。そして何故、今までテロリストの施設を放っておいたのか、それはIS委員会とて一枚岩ではないからだとドミニクは補足する様に語った。

 

そう、亡国機業とは第二次世界大戦以前から存在が確認さている古くから生き残っている組織。であれば、その手先もIS委員会に入り込んでいる可能性がある。そしてそれが本当だとしたら下手に軍を動かせば気取られる。

 

例え攻めたとしても既にもぬけの殻となっているだろう。

 

だが、こうして川崎という国に縛られない大企業の実働部隊を手に入れた。

そう、亡国機業の手が決して手が及ばない唯一無二の部隊を手に入れたのだ。

だからこそ、現状を憂いた一部のIS委員は行動を起こしたのだろう。

 

過去の亡霊を駆逐する為に。

 

今回の作戦もその内の一つなのだ。

 

「では作戦目的を説明する。今回の目的はこの施設の完全制圧だ。頭脳労働者(ホワイトカラー)が居た場合は出来るだけ生かせ。そして肉体労働者(ブルーカラー)は指揮官以外は生死を問わん」

「――潜入方法は?」

 

そこまで聞いて一人の男が質問を始めた。

 

「途中まではトレーラーに偽装した輸送車である程度まで進み、其処から徒歩で目的地まで進む。そして施設を発見し次第、資料に載っている地図通りに進み制圧をして貰う。まぁ、流石に地図通りとはいかないだろうが、臨機応変に動け。必要なのは豪と柔、二つが合わさった手際の良さと判断力だ。尚、制圧完了後は諸君らには快適な空の旅を楽しんでもらう」

「最後に。今回我々の装備と今回の作戦を支援する部隊は何処ですか?」

「今回は対IS戦闘を想定し、パワードスーツでの作戦行動が認められている。だが、支援部隊の方は精々輸送車の操縦者ぐらいだ。なので今回我々に協力するのは――」

 

其処まで言って再びブリーフィングルームの扉が開かれた。

 

「遅れた。皆、ゴメン」

 

そしてその一言共に一人の女性が現れた。

美しい銀色のロングヘアー、全てを見通すかの様な銀の瞳。そして整った顔立ち。

誰が見ても絶世の美女だ、と言える美貌の持ち主だった。

 

因みにだがこのブリーフィングルームには男しかいない。

よって男女比率は必然的に99:1となる。

 

正に紅一点。

 

「――我らが女神様だ」

 

「「「「ウォオオオオオオオオオオ!!」」」」

 

ドミニクの言葉を聞いた瞬間、男達は一斉に野太い咆哮と喝采を上げた。中には感涙している者や十字を切って祈りを捧げる者までいた。

 

「……?」

 

だが、ライルだけは首を傾げていた。どうやら事態を上手く飲み込めていないらしい。

 

「ライルは初対面だから解らんか。では紹介しよう」

 

ドミニクは其処まで言って女性に目を向けた。

その視線を受けて女性は口を開いた。

 

「ソフィア・ヴェールヌイ・グラズノフ。コードネーム、サイレント・ゴースト。皆からはS.Gって呼ばれてる。そしてISのパイロットをしてる」

 

つまり、川崎の裏世界における最高戦力。女性――ソフィアの淡々とした自己紹介に戸惑いつつ、ライルも挨拶を返した。

 

「あぁ。……よろしく頼む」

「名前」

「ん?」

「貴方は自分の名前を言ってない」

 

ソフィアはライルに名乗る様に促してきた。

 

「……ライル。ライル・アークスだ。好きに呼んで構わない」

「そう。じゃぁライルって呼ぶ」

「あぁ、ではよろしく、S.G「ソフィーでいい」……ソフィー」

「ん、よろしく」

 

ソフィアはライルにソフィー、と呼ばれた瞬間、一瞬だけ微笑んでいた。

そしてそんなソフィアの微笑みを正面から拝んだライルは少しトギマギしていた。

 

「「「「……野郎」」」」

 

そしてその様子を見ていた男達は一瞬で嫉妬と殺気を織り交ぜた視線を一斉にライルに向けていた。一方、ドミニクはと言うと、二人の様子を面白そうに眺め、少しして再び口を開いた。

 

「ライル、一応言っておくが、S.Gは幼少の時から訓練されて来た。実力は我々と同等なので問題無い。しかもIS乗りだ。大船に乗った気持ちでいるといい」

「Yes.Sir!」

「……さてS.G、既に作戦目的は知っているな?」

「知ってる」

 

ソフィアはコクりと頷いた。

 

「宜しい。では装備の点検後、輸送車に乗り込め。以上、解散!」

 

「「「「ライル、貴様ちょっとこっち来いやぁっ!!」」」」

 

「うぉっ!?」

 

ドミニクが解散を宣言した瞬間、間髪を容れず男達はライルを呼び出した。寧ろ掴んで連行した。これは所謂新人に対する手厚い歓迎という名のO✩HA✩NA✩SIである。

そしてソレを見たドミニクはほどほどにな、と呟いてブリーフィングルームから出て行った。

その時のライルの絶望感と言ったら……いや、彼の名誉のためにこのお話はよそう。

 

その後げっそりとしてライルが輸送車に乗り込んでいたのは言うまでもない。

 

※因みにではあるが、PASOGの平均年齢は30オーバー。

理由はその殆どがISの登場により部署から切り捨てられた者達を社長が集めてきたため、10年経った今、当時20代だった者は30代、30代だった者は40代、という風になっている。因みにマックスもその一人であり、34歳。ライルやソフィアの様な20代はPSOGでは少数である。

よって何れ来るであろう部隊の老朽化による能力低下を防ぐため、現在社長はPASOGに対して秘密裏に後継者を育成、及び若い世代の人材発掘を指示している。そしてライルはその人材発掘で引き抜かれた一人である。しかも元デルタフォース。かなりの優良物件、と言えるだろう。

 

「……面白い人」

 

ソフィアはそんな彼と彼等の様子を見て密かにクスクスと笑っていた。

 

 

 

 

輸送車:移動中

 

 

俺は輸送車の1号車の端の奥に座っていた。周りにはドミニクやソフィーを含めた5人程が乗っている。ただ、ソフィーだけ毛皮のコートでそれ以外は強化外骨格なので浮いていた、とだけ言っておこう。

 

「……やはりこの強化外骨格は不思議なモノだな」

 

俺は雪上迷彩のカラーリングが施された強化外骨格を触れながら呟く。

未だ俺がアメリカ軍に在籍していた頃、国連が開発していた外骨格攻性機動装甲――Extended Operation Seeker.通称EOSの試作品にテストパイロットとして乗ってみた事があった。

だが、この川崎の強化外骨格はEOSとは違った。

 

川崎製試作強化外骨格:叢雲〈ムラクモ〉

 

その初めて着た感想がソレだった。

 

先ず、大きさが違う。EOSはどちらかというと乗り込む、に近かった。

だが、この叢雲は違う。着込むのだ。そう、限りなく人の等身大の大きさなのだ。

そして大きさは平均で2.5m。頭二つ~三つ分大きくなった、と言えば簡単か。

 

しかもEOSはその機動能力をランドローラーに頼っているのに対し、叢雲は完全なる主脚。

機動性はEOSが上。装甲に関してもEOSに軍配が上がるだろう。

正直に言えば、叢雲の方がEOSよりも劣っているのではないか?と思う。

 

しかし乗り心地、もとい着心地は叢雲に軍配が上がった。

理由は只一つ。そう、何故か力が湧いてくるのである。だから不思議だ、評したのだ。

まぁ、今はもう殆ど慣れてしまったのだが。

 

「おう、気になるか?」

 

先程、オカマ――現在奴は右斜めに座っている――をからかっていた黒人の男――マックスと名乗っていた――が隣から話し掛けてきた。

 

「あぁ、何故着るだけで身体強化がされるのだろうか?バッテリーが駆動してる訳ではないのに」

 

そもそも、駆動なしで何故人の力のみでこの鉄の塊を動かせるのだろうか?

初めてこの強化外骨格の説明を受けた時、技師がやたら長く熱弁をしていたので原理を覚えてないのだ。無論、扱い方は、訓練して体で覚えたんだがな。

 

「いや、少しはアシストの為のバッテリーは働いているぞ?」

「そうなのか?」

「あぁ、メインのとは別のがあるんだ。それに、人体には秘こ……ツボがあるだろう?」

「……それがどうしたんだ?」

 

と言うか、一体何を言いかけたんだ。まぁ、それはいいか。

 

「この叢雲はな、装着した瞬間とあるツボを押す様にできてるんだぜ」

「とあるツボ?」

 

俺はマックスのその言葉に首を傾げる。

 

「あぁ、詳しい事はわかんねぇけどな、そのツボを押されると人が普段体にかけているリミッターを解いて30%から80%まで引き上げるんだとよ。お前が不思議だ、て言ったのはそれに慣れてないかっただからだな」

「リミッターを解除……」

 

所謂常時火事場の馬鹿力が働いている状態、か。

それにこの強化外骨格自体にメインバッテリー以外のバッテリーが積んでていたのは初めて聞いた。いや、技師の話が長すぎて覚えていなかっただけか。

 

「あぁ、だから普段は撃てない様な大口径銃なんかを撃てる様になるな。叢雲を着て動けるのもその辺が理由だな。そして其処に普段はOFF設定のメインバッテリー駆動による機械的なアシストがかかって倍プッシュ。そん時はISと腕相撲が出来るな。そして国連が必死こいて作ってるEOSよりも動けると思うぜ?まぁ、徒歩だし絶対防御なんてもんはついてねぇし、飛べないけどよ。密閉した空間ならイーブンだと思うぜ?」

 

マックスはまるで夢見る子供の様に饒舌に喋っていた。そしてその語りを俺は興味深く聞き入っていた。少なくとも技師の熱弁よりはとても聴きやすく解りやすい。

 

「凄いな」

 

純粋にそう思う。

 

「あぁスゲェよ。此奴を作ってくれた変態共には感謝しねぇとな。ただ、話が長いから奴等の前だと感謝の気持ちがおきないんだけどな。だがまぁ、コイツには唯一の欠点があるんだぜ」

「欠点?……あぁ、そうだったな」

 

アレがあったな。

 

「知っての通り、叢雲は人体のリミッターを解除するからよ、体にすげぇ負担が掛かるんだ。流石に筋肉繊維が引きちぎれる、と言う訳ではないんだがな。……痛ぇよな、あの筋肉痛。それもとびっきりに。お前もそう思うだろ?」

「あぁ、そうだな」

 

正直、あの筋肉痛は勘弁だ。何度ベットに寝込んだことか。

 

「まぁ、第一小隊にいる以上、この叢雲を着る機会も多くなるんだ。この川崎製の超強力湿布がお世話になるぜ。……早くバッテリーを改善して欲しいもんだ」

 

そう言ってマックスは俺に向かって幾つかの湿布を投げ渡した。

 

「あぁ、そうだな。これは有り難うもらっておく」

 

ありがたい。正直持ってきてなかったから助かった。俺はマックスにそう礼を言って受け取った湿布を腰のタクティカルバックにある緊急キットの中に入れた。

 

「まぁ、次はやらねぇけどな。次から支給申請しとけ」

「そうしよう」

 

俺は頷いた。そして会話が一通り済んだとみたドミニクが話し掛けた。

 

「さて、ライル。貴様に伝える事がある」

「何でしょうか?」

「作戦中のコールサインについてだ。貴様にはBeyond7が与えられる。覚えておけ」

「了解」

 

Beyond、つまり果て。もしくは彼方、か。

 

俺は心の中で呟く。

 

「へぇ、やっぱアーロンの旦那の後任なのか」

「……前任は死んだのか?」

「いや生きてる。世界で二番目の操縦者を知ってるだろ?」

「ツバキ・アマカセだな?知ってる」

 

TVで何度か紹介されていた。イチカ・オリムラ程報道されなかったがよく覚えている。

髪で目線が隠れた、何とも不思議な青年だと思った。

 

「俺らでは王子様って呼んでるんだがな。んでよ、前任のアーロンの旦那は今は他の部隊から引き抜かれた連中と一緒に王子様の護衛に付いてるんだ」

「護衛に、か」

 

護衛と言うのはいう程簡単なモノではない。

ソレが出来るというのであれば、相当な強者なのだろう。

 

「まぁな。他にも川崎の重要人物には第一小隊から引き抜かれたのが何人かいるんだぜ。そしてお前ももう聞いてると思うが、俺らは社長の直属部隊なんだぜ」

「あぁ、そうだな」

 

そう、この第一小隊は社長の直属部隊なのだ。只ひたすらに社長に付き従い、社長と共に行動し、社長の指示で動く、ある意味での近衛部隊。

 

護衛と殲滅を兼ねるプロの殺し屋集団なのだ。

 

因みに、この第一小隊がこういった活動中は別の部隊が社長の護衛を務めているとか。

始めに隊長から話を聞いた時は思わず驚いてしまったものだ。そして改めて理解したのだ。

教官が何か面白そうに着けばわかる、と言った言葉の意味を。

 

「さて諸君、後1時間後に輸送車は我々と言う積荷を降ろす。銃器が凍って使い物にならんように注意しろ。使い物にならなくなった場合は後で徒手格闘をみっちり教え込んでやる。いいな?」

 

「「「「Yes.sir」」」」

 

隊長の発言に、俺を含めて乗っていた者は一斉に返答した。

 

 

 

 

「……マックス」

「ライル、どうした?」

「気になったんだが、隊長の徒手格闘訓練ってのは厳しいのか?」

「そりゃそうだ。じゃなきゃ罰にしねぇよ。それにさ、ドミニクさんもう50過ぎてんのによ、まるで勝てる気がしねぇんだ。ある意味化け物と言っても過言じゃねぇぜ」

「流石に言い過ぎだろう……?」

 

例え技術が劣っていても、肉体的に優っているのなら、ある程度はどうにかなる筈だが。

それに、此処に居る連中は精鋭中の精鋭なのだろう?在り得るのだろうか?

 

「あら、逞しくて強いオジ様は素敵じゃない。化け物なんて言葉は不相応よ」

 

オカマ――ブリーフィングの後、ビスティスと言う名前と共に無駄な個人情報をとても熱心に教えてきた――が俺達の会話に割り込んできた。

 

「うるせぇよオカマ野郎。とっととゲイバーにでも行ってろ」

「黙らっしゃいタコ助。貴方にはスラム街のあばすれがお似合いよ」

 

「「あぁん?」」

 

「……取り敢えず、肉体面で劣っていても恐ろしく強い、と言う事か」

 

二人が再びいがみ合いを始めていたのを他所に、俺はそう判断する。

どれほどの技術を持っているのだろうか。正直に言えば気になる。

 

「五月蝿いぞマックス、ビスティス!貴様等は後で訓練だ!覚えておけ」

 

「「うげぇ……」」

 

そのドミニクの一喝により、二人は一瞬で静かになり、そして顔には絶望が覗いていた。

まぁ、自業自得だと思うがな。

 

「……てめぇのせいだ」

「……あんたのせいよ」

 

お互いに罪をなし付け合う。最早団栗の背比べである。

 

「……今日の戦果次第で何か奢れ。負けたら奢るから」

「……OK乗ったわ」

 

ライルは意気消沈しながら話合う二人を見て、何だかんだいがみ合ってて仲が良いんだな、と思っていた。そして暫くすると輸送車が止まった。どうやら着いた様だ。

 

「さて、マスクを被り、銃を持て。任務開始だ」

 

『『『Yes.sir!!』』』

 

 

 

 

「寒さを余り感じない……それにやはりこのマスクも凄いな。周りが良く見える」

 

現在の時刻は夜。暗視モードを作動させながら呟く。

今まで暑い、とは言わないが雪の降らない所で訓練していたのだ。若干の不安があったがどうやらそれは只の杞憂だったようだ。それに普通の暗視ゴーグルでも此処まで景色は見えないモノなのだが、今はよく見えていた。そしてマスクに映るレーダーやMAPには仲間を表す緑の光点のみ映っていた。

 

まぁ、地形データを入れてないから当然か。

 

「視覚強化付きだからな。今使ってる暗視モードの他にも望遠やサーモグラフィもあるんだぜ?」

 

其処にマックスが補足をしてくれた。正直、この叢雲の概要を全て覚えていないので助かる。

 

「便利だな。後追加すべきは感覚を鋭敏にする機能と。全方位視界接続だけか?」

「まぁ、何れ開発して機能に追加されるだろうよ。目指せハイパーセンサーってな」

「そうか。……所で、ソフィーは?」

 

マックスの補足を理解した所でソフィアは何処にいるのか尋ねてみた。

そう、先程まで同じ一号車に乗っていたのだが何時の間にか居なくなっていたのである。

 

「任務中ぐらい女神様かS.Gって言えよスカタン。……結論からいえばS.Gはもう先行して偵察しに行ったぜ?後々MAPも更新されるからな」

「そうなのか。しかし、飛び去ったのは見なかった筈だが……」

「そりゃ後のお楽しみって奴だ。行くぞBeyond7。因みにBeyondは10人居る。と言うより乗った号車の人間がそのままチームの人員だ。そしてお前のマスクにも既に表示されていると思うが、俺は9だ。覚えておけよ?」

「OK.Beyond9」

 

進み始めた部隊と共に一路、山奥にある亡国機業の施設へと向かった。

 

 

 

 

――山中――

 

山を上り始めて約一時間。先程まで晴れだった天気が急に怪しくなり、雪が降り始め、次第に吹雪となった。そして必然的に視界が悪くなり、2m先が全く見えなくなり、進行が止まった。

すると先行しているドミニクがヘッドギアに内蔵されてる通信機で伝えてきた。

 

『好都合、やはり我らには女神様の祝福があるな。それに、送られてくる地形情報も順調に更新されている。各員、サーモグラフィに切り替えろ。そしてこの通信だが、念の為に傍受を避ける為、施設到着まではハンドサインのみでいく』

 

その通信を聞いた後、各員が暗視モードからサーモグラフィに切り替える。

周囲には人型の熱源が複数現れ、ハンドサインが見えるかどうかを確認して進行を再開した。

 

 

 

 

暫く歩を進めると、進行が急に止まった。

そしてハンドサインによって素早く情報が伝わってくる。

 

――歩哨発見。迂回して進められたし

 

 どうやら施設へと段々と近づいて来たらしい。歩哨がいるというのは、つまりそう言う事なのだろう。今見つかれば後々厄介になる。無力化すれば定時報告で悟られる。

 

手を出す訳にはいかない。

 

ライルは頷き、後ろの隊員にも同様のサインを伝え、周囲を警戒しつつ、木々の合間を縫って迂回路を通った。その後も先行した隊員から歩哨発見の報告が次々と伝わり、またその頻度も多くなってきた。そして幾つかのセンサーやトラップも発見、随時無力化されていった。ここまで歩みは順調らしい。何度か歩哨が近くを通り、ライルは冷や汗を欠いたが、それでも一度も見つかる事はなかった。

 

吹雪は視界を悪くし、足跡を直ぐさま隠す。

 

この吹雪は正に僥倖、と言えるだろう。

 

そしてまた、進行がとまり、再び情報が伝わる。だが、今度の情報は違った。

ドミニクの言葉が直接響く。――そう、通信機能を使ってきたのだ。

 

つまり、目的地に辿りついたのだ。

 

『偵察戦闘車両を正面に2台確認。車種はBRDM-2U……全員配置につけ』

 

これ以上の戦闘回避は不可能。ならば当初の予定通り奇襲をかける。

吹雪で周りが良く見えず、サーモグラフィでの視界の中、第一小隊は共通の叢雲専用対人武装――大型自動小銃の安全装置を解除した。そしてライルも安全装置を解除した。

 

そして各チームから配置が完了したとの通信が入った。

 

『ではタイミングを合わせろ。4、3、2、……Fire!!!』

 

ドミニクの一言と共に突然死の羽きり音が響き、そして正面に配置されていた2台のBRDM-2Uが搭載された対戦車ミサイルもろとも爆散した。

 

「S.Gか!?」

 

ライルそれを見ては叫ぶ。しかしソフィアの操るISの姿は確認できない。

 

「これがお楽しみって言ってた奴だ。S.GのISには光学迷彩が積まれてる。行くぞBeyond7!」

「了解!」

 

そして第一小隊が一斉に突撃を開始。これが開戦の狼煙となった。

 

 

 




さて、オリジナルストーリーに入りました。
このお話はこれを含めて三話ぐらいを予定してます。
彼等のメインは亡国機業との戦い。
そして彼等第一小隊はある意味世界初の対IS用パワードスーツ部隊でもあったりします。


そして登場人物紹介

ライル・アークス
ラテン・アメリカ人。デルタフォース出身。コールサイン・Beyond7。
本作における裏主人公的な立ち位置な二十過ぎの男性。
軍に在籍していた頃、IS乗りを殴ってクビにされ、路頭に迷っていた所を川崎に拾われた。
若手であるが故に少々経験不足であるが、第一小隊に付いていける能力はある。
射撃の腕はかなりのもの。彼女は過去に何度か作ったらしいが、ソリが合わずに皆別れたとか。尚、ソフィア関連で部隊の野郎共に簀巻きにされることもあるらしい。


ソフィア・ヴェールヌイ・グラズノフ
川崎のIS乗りの一人。裏のメインヒロインな女性。
コードネームはサイレントゴースト(通称S.G)。
帰属は第一小隊だが、基本的に単独行動での諜報活動に従事している。口数は少なめだが、感情の起伏は普通。新しく入隊したライルの事を人目見て気に入っている節がある。曰く、面白い人との事。尚、どの様な経緯で川崎のIS乗りになったのかは不明。
因みに、部隊の者達からは女神様、もしくはS.Gと呼ばれ親しまれ(崇められ)ている。

名前の元ネタは吹雪型駆逐艦響のロシア名ヴェールヌイから。
因みにヴェールヌイとは「真実の、信頼できる」といった意味ロシア語の形容詞である。


ドミニク・サンダース
第一小隊隊長。PASOGの最古参の一人。コールサインはBeyond1。
少数精鋭主義の第一小隊を率いる指揮官。高い統率力を誇る。既に50を過ぎた老兵ではあるが、叢雲の身体強化アシストの下、非常に高い近接戦闘能力を持つ。

登場兵器
強化外骨格・叢雲(ムラクモ)

見た目はソルテッカマンや地球製ソリッドアーマーに近い。

川崎が開発した軍事用強化外骨格。大きさは身長+頭二つ~三つ分。
装着時には人体のツボを刺激する事で人体のリミッターをある程度解除させ、身体能力を強化する。そして、バックパックに背負った大型バッテリーを稼働させる事で更に強化も可能。
その時はISと力の差はかなり埋まり、EOSと機動力が同等となる。そして密閉空間ではISとほぼ対等に渡り合えるとの事。ただし、大型バッテリーは試作品の為、駆動時間は1時間。

尚、装甲自体はISの装甲を応用したもので、対人狙撃銃クラス(9mm)までは耐えられる設計である。そしてヘッドギアには視覚強化やレーダーは勿論の事、望遠モード、赤外線暗視モードがある。無論IFF(敵味方識別装置)も装備済み。

ここまで良い上げれば、そこそこ良い線を行くパワードスーツではあるが、叢雲には欠点がある。それは使用後に筋肉痛に悩まされる事である。しかもかなり酷いモノらしい。
理由は人体のリミッターを外した事による肉体の異常酷使。慣れるには時間がかかるとか。
尚、輸送には専用の大型車両や航空機が必要となる。

武装

対人用大型自動小銃
7.62mmNATO弾を使用。 叢雲用に持ち手が大型化されている。
装弾数はドラムマガジン使用で1+75発。
また、任務に応じてはグレネードランチャーやマスターキーが装備されている。


対IS用突撃砲
25mm口径弾。装填数は30+1発。叢雲専用対IS用銃。
背中のバッテリーの横にあるガンラックに装備。
対IS用と銘打たれているが、勿論通常兵器にも効果がある。


腕部内蔵型単分子カッター
IS用近接ブレードを応用したもの。
装甲車の装甲やISの装甲をも斬り裂く斬れ味を持つ。

対重装歩兵戦闘用13mm拳銃
腰のホルスターに装備。パワードスーツ無しでは撃てない超大型マグナム。
装填数は10+1発。
威力は重装歩兵を一撃で肉塊に変える程。
元ネタはHELLSINGのジャッカル


他分隊支援火器等多数。
役割ごとに対人用兵器や重火器、爆発物をバックパックの横に設けられらているガンラック(突撃砲が右に置いてある場合なら左)に携帯する。

組織名
Kawasaki Industrial Company Private Armed Special Operations Group
通称K.I.C.PASOG(川崎・インダストリアルカンパニー私設武装特殊作戦郡)

社長の子飼いの正式名称
ISの登場により、部署の縮小によって爪弾きにされた軍人達を社長が集めてできた組織。
その後も女尊男卑でトラブルを起こして厄介払いされた軍人、または優秀な傭兵を雇って集め、統制・訓練をさせて私兵としている。また、用途に応じて部隊を幾つかに細分化している。普段の任務は諜報活動や川崎の重要人物の護衛が主であるが、場合によっては敵対した組織を殲滅する任を請け負う。





しかし……中々書く時間が見つからない。
頭に浮かんだ構想的なのはメモしてるのに書けない現実orz

それでも気長にお付き合い頂ければecmは感謝感激です。
あ、あとUA40000越え&お気に入り数600越えありがとうございます!

それでは次回もお楽しみに!

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