ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~ 作:ecm
「「あーん」」
現在、私は二人からパフェ、ケーキが一口づつ差し出されている。それも二つ同時にだ。
どうするべきか。と言うよりは何故、この公衆の面前でそんな恥ずかしい事をしなければならないのかを答えて欲しい。さっきまでのどかに雑談を交えつつ過ごした時間は何処へ行った?それに見ろ、つい30分程前に入って来てそれなりに近い場所に座った外国人男性三人の内二人が凄まじい殺気で見ているのだが。正直、威圧感が他の男性客の比じゃない。なんだ、この威圧感は?尚、残り一人が凄まじい早さでデザートを消化しているのは見なかった事にしておく。
「何故……」
自然と心の呟きがもれる。
しかし、やはりやらなければいけないのか?
そっと彼女達の顔を伺えば何かを期待する様に見ている。
……逃れる事は不可能か。
「「……」」
二人は無言で私を見つめ続ける。
……決めた。いいだろう。私はこの状況受け入れ、ソレを食べよう。
私は取り敢えず、丁度真ん中の位置に顔を近づけ、そして――――――
「動くなっ!!」
「「ッ!?!?」」
「……!!」
突然、複数の男が押し入ってきた。
そしてその拍子に二人のスプーンとフォークが手から滑り落ちた。次いで周りの和やかな会話が途切れ、一瞬で沈黙する。そして店内に流れていた陽気なBGMのみ、不気味に響いていた。だが、私はそんな事は気に止めなかった。何故なら―――
「下手な動きをしたら殺す!!」
何故なら、ショットガンを天井に一発撃ち込むサングラをかけた男が、私のすぐ近くにいたのだから。そして現状を飲み込み始めた他の客が悲鳴を上げ始める。
「黙れっ!!」
男は更に天井に一発撃ち込む。そして周りが再び沈黙した。
「……兄貴、どうします?囲まれましたよ」
拳銃を手に持つ帽子を被った男がサングラスの男に話しかける。私はその言葉聞き、窓の方に視線を向けると、@クルーズの入口を警察が固めていた。
どうやら、そう言う事らしい。
「……っ!」
……つくづく見放されてるな、私は。
何故だ?何故、今になってそうなるんだ?
また、失ってしまうのか?
また、何もできずに?
「ちっ、俺も焼きが回ったば。銀行襲ってとっととずらかる予定だったんだが……まぁ問題ない。人質は幾らでもある。人質の安全第一の警察まら強行突入なんて度胸ある訳が無い。適当に条件だして、そっから足を作って海外へ高飛びするぞ」
「じゃぁ交渉人が来るまで待機っすか?」
私の葛藤を他所に、もう一人の拳銃を手に持った丸刈り男が周りを見ながら話し掛けていた。
「あぁ、そうだ。それまでは……そうだな。腹ごしらえだ。丁度喫此処は喫茶店らしいからな」
「喫茶店の前にメイドが付くっすけどね。是非ともご奉仕してもらいたいっす」
「お前は何を言ってるんだ?」
「いや、いいじゃないっすか……どれどれ~?」
そう言って丸刈りの男は舐め回すように店員を見回していた。
そして舐めまわす様な視線を受けた店員はヒッと小さく悲鳴を上げて後ずさっていた。
「ありゃりゃ、皆怯えちまってるっす」
「オメェの丸刈りが怖いんじゃねぇの?」
帽子の男が一言かえす。
「そりゃねぇよっすよ」
ギャハハハハと男達は下卑た笑いを響かせる。
「ん~~……お、いいじゃんいいじゃん、此処に可愛い子がいるじゃん。しかも二人」
「「……うぁ」」
そう言って帽子の男が私達の席の方を見る。
そしてその視線を受けた本音達は本能的な恐怖に囚われていた。
……目をつけてきたか。
本当に、本当に私は呪われているな。
何故、私ばかり不幸な目にあわなければならない?
何故、私ばかり奪われる?
何故、私ばかり悲しまなければいけないのだ?
どうか私の大切な人達を、巻き込まないで欲しい。
傷つけるのなら、私だけにしてくれ。
奪うのなら、私の命にしろ。
それでも尚、私の大切な人達を奪おうとするのであれば
それでも尚、私の願いが聞き入れられないのであれば
私は、私は、私ハ―――――――
「ん~~?もしかしてカップル?しかも二人。ムカつくなぁ……あんちゃん、退けよ」
「…………」
帽子の男は私を威圧してくる。
「何だ?ビビってんのかコイツ?カッコ悪いねぇ。二股してる癖に度胸はミジンコ以下ってか?」
「…………」
私は何も答えない。
否、この状況に嘆き、恨み、憎み、そして怒って何も答えたくないのだ。
「黙ってないで何か言ったらどうだ!」
帽子の男は私が無言なのにイラついたのか唐突に銃床で私を殴り、私はそれを無抵抗に受けた。強い衝撃で頭が揺れ、軽く脳震盪になりかけるが、問題はなかった。
この程度の痛みなど、今まで受けてきた苦しみより軽過ぎるのだから。
「「椿!!」」
簪と本音が私の名前を呼ぶ。
「……大丈夫だ。安心して欲しい」
「けっ、ならとっととどきやがれ!」
帽子の男は私の襟首を掴み、席から放り出す。私は受身を取らず、そのまま倒れ込んだ。そして帽子の男は私が居た席に座る。
「おっ、いいっすね。俺も座らせて貰うっすよっと!」
そう言って丸刈りの男は私を踏みつけながら帽子の男の隣に座る。
「おいおい……まぁ、悪く思うなよ青年。今回は運が悪かったな」
サングラスの男は二人の男達の行動を呆れていたが、止めるつもりはない様だ。
「それで、君達の名前は何て言うっすか?」
「なんだ?出来もしねぇナンパのつもりか?」
「失礼っすねぇ、フレンドリーに接しているだけじゃないっすか。それに今の世の中女尊男卑っすよ?こうやって面と向かって話すのも中々できるもんじゃないっすよ?」
「まぁ、それもそうか。で、お前らの名前は?」
「「……」」
二人はキツく目と口を閉じている。全て拒絶するとでも言うように。
「答えろよクソ女!」
帽子の男はしびれをきらしたのか。テーブルを強く蹴り上げた。そして料理やデザートが床へ落ち、皿が音を立てて割れていった。だが、それでも尚二人は肩を一瞬だけビクッとさせただけで、再び拒絶の態度を取った。
「んだぁ?IS無しじゃぁ強く出れねぇってか?腐ってんなぁ、おい!」
「まぁまぁ、落ち着くっすよ」
丸刈りの男は帽子の男を宥める。
「すまんっす。コイツ、女上司に嫌われて会社辞めさせられたんっすよ」
「けっ、勝手に人の過去ばらすなよハゲ」
「悪かったっす、だから落ち着くっす。どうどう」
「解った、解ったっての。俺は馬じゃねぇから止めろ」
帽子の男は、丸刈りの男に対して煩わしそうに手を払った。
「しっかし、何でこんな野郎がモテるんだ?」
帽子の男は私を見ながら吐き捨てる。
「さぁ?解らんっす」
「あぁわかった。アレだろアレ、夜の帝王なんだろ」
「下ネタ厳禁っすよ」
「うるせぇ、強ち間違いじゃねぇだろ。そしてコイツらは相当淫乱だってことになる」
帽子の男は下卑た笑いを再び響かせる。
……侮辱したな?私の大切な人達を、侮辱したな?巫山戯るな、巫山戯るな……!!
その言葉を聞いて私は怒りが頂点に達しようとしてた。
「…………」
「おっと、変な動きはするなよ?変な動きをした瞬間、ご先祖様に合う事になるからな」
私が立ち上がると、サングラスの男が気付いて素早く私の背にショットガンを突きつけた。その様子を見た本音達を含めた客達と店員達が息を呑んだ。
だが、私はその程度で恐るつもりはなかった。
一度は死んだこの身。今更死のうがどうでもいい。
死ねば所詮、其処までの男だった
只それだけなのだから。それに、貴様が私を殺す前に、私が貴様等を殺せばよいだけだろう?だったたら簡単だ。今すぐ実行してみせよう。
そして私は懐にあるワルサーと古鷹の部分展開も意識に置く。
――何時でも殺せる様に。
守れるのなら、救えるのなら、どんな手段も厭わない。そしてその結果、例え世間から殺人者と罵られようが、例え彼女達が私から離れようが、そんなのはどうでもいい。私は今度こそ力を行使しなければならない。その為の技術は手に入れた。ならば、後は力を行使するだけ。
「ん?何だ。コイツ、何か企もうとしたのかよ」
「だったらお仕置きが必要っすね」
様子に気付いた男二人が立ち上がり、私に近づいてくる。私は殺す為のタイミングを計り始める。
「殺すなよ、あとが面倒だ」
「問題ないっすよ」
「あぁ、要は死ななきゃいいんだろ?」
「……はぁ。好きにしろ」
そう言ってサングラスの男が私を男達二人の方へ突き飛ばし、身を翻した瞬間、事態が動いた。私は男達に殴られるのではなく誰かにそっと抱きとめられた事により、古鷹の部分展開と銃を抜こうとした動きを封じられた。
「がっ!?」
「ぐっ!?」
「――っ!?お前ら、どうし、ッ!?グォオオ!?!?」
「おっと、動くなよ糞ジャップ。動いたらお前の脳漿をぶちまけるぞ」
……誰だ。
状況が解らない。だが、一つ言える事があった。それは恐くあの外国人達が三人を制圧した、と言う事だけだった。
一瞬の早業。
息を付く間もなく行われた一瞬の出来事だった。
……何故。
「……もういい。大丈夫、大丈夫だ。その懐にあるのから手を離しなさい」
顔を上げて声の主を見てみると、やはりあの外国人三人組の一人だった。容姿から推定するに50代を過ぎた外国人男性、妙に殺気を放っていた内の一人だ。そして彼は私を安心させる様に小さく呟いていた。
「……誰だ」
「これを見なさい」
外国人男性私にだけ見える様にある物を見せてきた。
そして見せてきたのは川崎の社員章とドッグタグ。
ただし、それは表向きのモノではない、裏の世界における社員章。もしくは部隊章。そしてドッグタグにはこう書かれていた。
『flying squad Aaron・B・Glazunov』
特務隊 アーロン・B・グラズノフ
……ソウ言ウ事カ。
つまり、彼等は私の護衛と言う事か。そして――
「その姓は……もしかしてあの人の……?」
「あぁ、そうだ」
「……もう、良いのですか?」
「勿論だ」
勿論だ、と聞いた瞬間、自然と肩の力も抜けていった。そして私は大きく息を吐いて手にかけたワルサーから手をそっと離した。
「そうだ、それでいい」
アーロンは私にゆっくりと微笑んだ。
「もう、大丈夫です」
「解った」
……落ち着けば、つい先程までのあの激情が嘘の様に感じられる。あの時こそ、冷静にならなければならない筈だったのに。何故、あぁも過剰反応してしまったのだろうか。いや、何故そうなったのかは解る。
一番嫌いな事だったからだ。
大切な人を失うかもしれないと思った瞬間、思考がドス黒くぬりつぶされたのだ。
やはり、私の心は弱い。
私は自分の心の弱さに悪態をつきながら立ち上がり、サングラスの男の方へ振り向いた。
「グゥゥゥ……誰だ、貴様等はっ!?」
サングラス男はそう言いながらも痛がる動き以外は、抵抗する素振りは見せなかった。どうやら諦めたらしく、せめて正体だけでも知っておこうとでもしたのだろう。
「俺等か?じゃぁ俺はなぁ、通りすがりのスティーブン・セ●ールだ」
「通りすがりのジャック・バ●アーです」
「ビック・パパと呼べ」
押さえつけていた男が最初に、次に二人を昏倒させた男が、最後にアーロンが名乗った。
「な、何だそれは、ふざ「うるせぇ、てめぇは寝てろ」グフッ」
男は奪ったショットガンの銃床で殴りつけ、サングラスの男を気絶させた。これで全て無力化された。後は警察が引き取るだけだろう。
「さて、連絡方法は後でPCに送る。そこから連絡を取る様に」
「……解りました」
「最後に、今まで黙ってはいたが、これかはお前達が外に出歩く間は常に私達がお前達を守る。だから、次も安心して出掛けるといい。私達が何とかする。だからもう誰かと外に出掛けないとは思わない事。良いな?」
「……はい」
……まるで父親の様な人だ。いや、父親だったな。だからこそビック・パパと名乗ったのか。そしてアーロンは私に優しく語りかけてきた。
「よし、ではさっさと彼女達の元に行きなさい。そしてこのまま出掛けながら慰めるのが君の任務だ。周囲の安全は確認されているから、安心して遂行しなさい」
最後にアーロンは私の頭をワシャワシャと撫でてから男二人に素早く指示を出す。
「制圧完了。撤退するぞ」
「トンズラするぜぇ!」
「アデュー」
外国人三人組はさっさと裏口から出て行った。
……普通、裏口にも警察がいるのだが、大丈夫だろうか?
そして皆が突然の事態に今までポカンとしていたが、徐々に事態を飲み込み始めた。
「た、助かったのか?」「こ、怖かったよう……」
「かっこいい……」「す、すげぇ……」
各々が様々な感情を込めて感想を述べる。だが、全員が共通して認識しているものがあった。
それは只一つ。
もう命が脅かされる事がない
と言う、安堵感だった。
――椿、大丈夫ですか
突然古鷹が話し掛けてきた。
(……古鷹か。あぁ、見ての通り、大丈夫だ)
――貴方からドス黒い感情が流れ込んできました。お陰で私も危うく飲まれかけました
(飲まれかけた、だと?)
私の感情が古鷹に伝染ったとでも言うのか?
――恐らく、貴方の考えている通りです。主任も興味深くしていました。……まぁ詳細は後程聞かせてもらいましょう。良いですね?
(……解った)
こればっかりは言い訳も逃げもしない。
端的に言えばキレて周りを見失った。
そしてそれに至るまでの経緯を時間を掛けて詳細に明かす必要がある。私は古鷹との会話を打ち切り、先程の言葉に従って二人に詰め寄り、一言かける。
「本音、簪。大じょ――」
私は一言掛けようとしたが、二人が抱きついて来た事で中断される。
彼女達は酷く震えていた。
「……大丈夫か?」
「それは、こっちの台詞……!!」
「……心配したんだよ」
彼女達は私に抱きいついたまま、顔を上げようとしたない。私は安心させる様に優しく背中を撫でながら囁く。
「本音と簪が無事なら、それでいい……」
自分の手では守れなかったが、確かに生きて此処に在る。私はそれで十分なのだ。例え自分が殴られようが、そんなものは些細な事だ。私の傍にいてくれる人が、これからも笑ってくれるなら、私はそれだけでいい。
「行こう。此処は少し、五月蝿い」
「ケガは……」
本音が顔を上げ、私が殴られた箇所を見て呟く。いつもはおっとりとしている目は少しだけ濡れていた。
「大丈夫だ、と言ったろう?俺はな、こう見えて結構石頭なんだ」
「……その理屈は、おかしい」
簪が弱々しくではあるが、ツッコミをしてきた。
「気にするな。ほら、警察に事情聴取されるのも面倒だ。会計は済ませる」
私は伝票を持ち、適当に五千円札と共にカウンターに置いておく。正直、釣り銭が勿体ない気もするが、どんな状況であれ、無銭飲食はしたくない。そして今は手間暇をかける余裕はない。
「裏口から行こう。あの外国人の三人組もそこから行けたようだしな」
「……うん」
「……解った」
今度は私が二人の手を握り、さっさと裏口から出た。その後に表口から、無事だった客達が出てきたのを確認して警察が保護しに行っていた。
◇
あれからどれ程の道のりを歩いただろうか。
私は依然として二人の手を握り、前を歩き続けている。
その間、一切の会話は無かった。
ただ無言で見知らぬ街中を連れ回し、そしていつしか見知らぬ公園に辿りついていた。
「座るといい。疲れただろう?」
私はそう言って、二人を座らせた。そして私はゆっくり背を伸ばし、体をほぐす。
あれ程怒りを感じたのは久方ぶりだった。お陰で体が変に凝り固まってしまった。
「……椿」
「何だ?」
簪が話し掛けてくる。
「……ん。やっぱり、何でもない」
簪は何か言おうとしたが、口を噤んで何も言わなかった。そして本音もまた何か言いたそうにしていたが、やはり何も言わなかった。
再び沈黙が訪れる。
小鳥のさえずりと、遠くから聞こえる街の喧騒だけがよく響いていた。
「……おや」
そんな無言の中、状況を打開しようと考えながら改めて公園内の様子を見回していたらクレープ屋があるのに気付いた。そして私はそれを見て、一つ策を見出した。
先程はあの一件で全てが台無しになったが、これで仕切り直しが出来るかもしれない、と。私は、この日の終わりをこんな形で締めたくない。終わらせるなら、別の形で終わらせる。
そう思い立ち、クレープ屋へ向かい始めた。
「椿?」
「……あまっち?」
後ろから二人が話し掛けてきた。
私は一度立ち止まり、振り返りる。
「仕切り直しだ。だからクレープでも買おうか、とな」
私は只、平穏な日常を求めるが故に。
私が只、
私が只、笑っていて欲しいと望むが故に。
私はその意味を込めて微笑みながら言う。全てが伝わらなくてもいい。今は只笑って欲しい。
そして私の意味が伝わっただろうか、本音と簪はお互いに顔を見合わる。
「……私も、選ぶ」
「私も~」
そして何時も通りの笑顔で私の隣に立った。
あぁ、やっぱりそうだ、そうでなくては。
暗い顔は似合わない。
何時もの二人の、暖かな表情。
私はそれを見てつくづく思う。
「……好きだ」
「「ほえっ!?」」
「君達の笑顔は、よく栄える。俺はとても好ましく……どうした?」
何故か二人は顔を真っ赤にして立ち止まり、次いで妙にがっくりと肩を落としていた。
本当にどうしたのだろうか?
「な、何でも~」
「……残念」
「……?まぁいい、行くぞ」
私は二人の考えている事がよく解らなかったので、そのまま歩いて行くことした。そして二人は気を取り直したのか、とことこと追いかけて来た。
「へい、いらっしゃい!ここから好きな物を選んでいきな!」
クレープ屋の前に立つと快活そうな親父がメニューを指を差してくる。味はストロベリー、ブルーベリー、チョコ、プレーンだった。因みに中には共通してバナナが入っているらしい。
「どれにする?」
「ん~あれ?ミックスベリーがないね~」
「そう言えば、そう」
「ミックスベリー?」
メニューを見ればミックスベリーなるモノは無いが……それがどうしたのだろうか?
「ほう……青年、少し向こう行きな」
「……?解りました」
何故かクレープ屋の親父に一時的に離れる様に言われたので取り敢えず引き下がる。しかし、何故私だけなのだろうか?そもそもミックスベリーには一体何の意味が?暫くして――3分程たった――もう来てもいいと手招きされた。そしてクレープ屋の親父が満面の笑みと共に一事。
「さぁ男の甲斐性の魅せ時だ青年。ブルベリーとストロベリー、二つづつ買っていきな!」
「……どうしてそうなった?」
私は詳細を求めようとしたが、本音と簪はフイッと顔を逸した。
何を……一体何を言われて丸め込まれたんだ?
「男はあーだーこーだ言わずに考えるな!感じろ青年!」
「いや、まぁ、はぁ……解りました。買わせて貰いましょう。用意して下さい」
この親父の言葉には何故か断れない強制力を秘めている。
……簪や本音もこれにやられたのか?
「ガッテン承知の助!!」
クレープ屋の親父は私のオーダーを快諾し、手早くクレープを仕上げていく。そして暫くしてクレープが人数分出来上がった。因みにクレープの大きさは実物を見ると以外に大きかった、とだけ言っておこう。
味は……まぁ、期待しよう。
「さて青年、200万よこしな」
「はい、200万」
私は懐かしいやり取りを思い出しつつ財布から千円札を二枚渡す。そして簪はブルベリーを、本音はストロベリーを、私は残った二つを持つ。
「おう!じゃぁ……頑張りな!嬢ちゃん達!」
「お爺ちゃんありがと~」
「……ありがと」
クレープ屋の親父は本音と簪にサムズアップを向け、本音と簪もそれに応じていた。
……何を頑張れというのだろうか?理解できんなんだ。
「じゃぁ早速あっちで食べよ~」
「椿、行こう?」
「あ、あぁ……」
私は先程とは打って変わって、本音たちにベンチに誘われた。
そして私の両隣に本音と簪が座る。
何時もよりも若干感覚が狭い様な気がする。
「じゃぁ、早速」
「食べさせっこだ~」
やはり、そうなるか。だが、ソレ置いておくとしてだ。
「何故、2個づつなのだ?」
「気にしちゃ、だめ」
「うんうん」
簪の一言に本音は頷いていた。
まぁ、いいか。
「そう、か。……早速いただこう」
「うん!」
「……いただきます」
先ずは一口、いや、私の場合は二口か。
自分の分のブルベリーとストロベリーの酸味を味わう。
「美味しい~」
「美味しい」
「あぁ、美味いな」
そして味の感想を言いながら思い出す。これは食べさせ合いなのだと。なら、偶には先手を取っても構わないだろう。
「本音、簪……あーん」
私は簪にストロベリーを、本音にブルーベリーを差し出す。
そして簪と本音は同時に食べて、そして満足そうにしていた。
……壮絶に恥ずかしい。だが、それで満足してくれるなら、別に良い、か。
「じゃぁ……」
「今度は……」
「「あーん」」
さて、以前は邪魔されたが、今度はもう大丈夫。
私は先ず、本音のストロベリーを、口の中へ、そしてそのまま簪のブルーベリーも口の中へ入れ、同時に咀嚼して味わう。ストロベリーとブルーベリーが程よく合わさり、とても良い調和を生み出していた。そして咀嚼しながら私は気付いた。
「……これが、ミックスベリーと言う事か」
「うんうん。あまっち正解~」
成程、通りで本音がミックスベリーが無いと言っていた訳だ。しかし、何故ミックスベリーを初めからメニューに置かなかったのだろうか。何か意味があるのか?しかし、ソレを本音達に尋ねてみたが、答えてくれなかった。
そしてその後も最後の一欠片まで食べさせ合いをした。
◇
食べ終わった後、私達は腹ごなしを兼ねて街を再び出歩いた。
今度は引っ張られる訳でも、引っ張る訳でもなく、自然と同じ歩幅で歩きながら手を繋ぎ、他愛もない会話を楽しみながら街を練り歩いた。嫉妬の視線も、羨望の視線も何もかもが気にならなかった。
今はただ、確かに感じる心地よい胸の高鳴りと共に、この散歩を満喫していた。
本当なら、ここで内容語ってもよかったが、まぁこれは私達の思い出だ。私の好きにさせて貰う。
だって、そういうモノだろう?
何にも変える事の出来ない”幸せ”と言うのは、な。
◇
――主任ラボ――
「いやはや、興味深いね。正直、展開装甲よりも君の状態の方を調べる方が有意義だよ」
主任は展開装甲の基礎理論に手をかけながら古鷹に話し掛ける。
『そう言われても……正直、私も自分に何が起きたのか解りませんよ』
「だろうねぇ、正に狂気と言っても過言ではなかったね」
主任は先刻の古鷹の状態を思い出していた。
それは突然だったのだ。何時もの様に冗談を交えながら展開装甲を組み込みんだ新たな古鷹の体の設計図を弄っていたら、唐突に古鷹の言葉が途切れたのだ。そして暫くして古鷹は同じ事を呟き始めた。
殺す、殺す、と。
何度も何度も同じ事を呟き、意味不明な記号を羅列させていたのである。そしてそれを見た主任は下手に刺激を与えてはいけないと判断し、古鷹の異常な状態の記録に努めたのだ。
「それにねぇ、軽く調べて見たんだけど、その時の君に単一仕様能力の兆候が見て取れたんだよ」
『単一仕様能力の兆候が?しかし、私は二次移行をしていない筈なのですが』
少なくとも、古鷹にそんな記録はないのだ。
「其処が不思議なんだよねぇ。君が元に戻るまでにざっと考えられたのが四つ。一つ目は白式のコンセプトを君が無意識にコアネットワークを介して取り込んだ。二つ目は君が気付かない内に二次移行していた。三つ目は
主任は自分が考えれた可能性の話をした。
『本来形態移行を必要としていない……ですか』
「面白そうとは思わないかい?」
『まぁ、それはそうですが……それで、最後のは一体どういう事です?』
「椿君が何か特別な力を持ってるかもしれない、と言う事かい?まぁ、君も考えてもみたまえ。そもそも何で彼が君に触れた事で打鉄を身に纏ったと思う?」
『私と相性が良かったから。無論、あの兎からの枷が外れ掛けていましたから』
古鷹は椿との接触をそう結論付けていた。だが、どうやら主任は別の見方をしていた様である。
「それなんだけどねぇ。整備の方の部下達と君の相性を調べて見た時にね、A判定を出してた部下が何人か居たんだよね。勿論搭乗者が居なくなった打鉄に居た時も触れていたよ?」
なのに君は反応しなかったと主任は言った。
『……それが本当なら、特別な力がある、と言う事に説得力がります』
何故彼だけに反応したのだろうか、と。そしてそれは相性がSだからだと言う事かもしれないが、SならSで、反応に至るまでの何らかの要素があるのだろう。
それに古鷹は椿の持つ思考加速については知っていた。初めは驚いていたのだ。人が自分達のこの思考の速さについていけることが。
だが、それ以外に彼は力を持っていたのだろうか?
古鷹はソレを知らなかった。否、椿本人も知らないだろう。
「まぁ、これは全部憶測だから今議論しても仕方がないんだけどね」
『そう、ですね』
「取り敢えず今言える事としたら、君の単一仕様能力はドス黒い何かって事だろうね」
主任は古鷹から詳細を聞いたときに古鷹はドス黒い感情に飲まれた、と言っていた。ならば単一仕様能力もその手のモノなのだと推測できる。
『恐らくは。もしそうだとしたらロクな事にはならないでしょう』
「だろうね。取り敢えずはクラス別対抗戦の際の有事に備えるといいよ」
『えぇ、そうしましょう』
あの兎がイベントで何もしないで見ている訳がないのだから。
「あ、そうそう。君達に渡しておきたいものがあるんだよね」
と言っても送るのに時間は掛かるけどね、と主任は言った。
『何ですか?』
唐突に話を変えてきた主任に対し、古鷹は疑問符を並べた。
渡したい物とは何か?と。
「いやね、最近あの極悪諜報部隊が面白い物を見つけたんだ」
『面白い、ものですか?』
「聞いて驚かないでおくれよ?」
『はぁ……まぁ、いいですが』
「じゃぁ発表しよう!今回手に入れた物はね――――――――――――――」
そして次に語られる言葉に、古鷹は驚く
忙しい、暑い、PCあんまり触れない、の三重苦に悩まされてるecmです。
このままだと一週間に一話が限界かもしれませんorz
貯金作っておけば良かったかなぁ……(´;ω;`)
さて、そんな愚痴をこぼしつつも漸く書き上げてました。いかかでしょうか?
主人公の内面を書くのがとっても難産でした。
そして伏線の様で伏線じゃないものを幾つか用意。
そして前回・今回と登場したオリキャラで覚えて欲しい人物。
アーロン・B・グラズノフ
特務隊 ATWMT 隊長
50代を過ぎた椿の護衛部隊隊長。能力的には非常に優秀らしい。
カミさんとは3回程別れているとかなんとか。
どうやら一人娘がいるらしい。
次回は川崎の裏部隊編を予定!
主人公勢は名前以外は殆どでません。
所謂裏主人公が登場?
ソレでは次回もお楽しみに!
……一週間で書き上げれればいいなぁ(遠い目)