ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第二十四話:3人ひと組のデート。一方裏では……

――日曜日・朝――

 

何時もの様に私は目覚が覚めた。

 

そして隣を見てみると……はぁ、また(・・)か。そう、また本音が私のベットで寝ているのだ。あの日以来、頻度は高くないのだが、偶に私のベットに何時の間にか潜ってきているのだ。初めの頃は私は酷く狼狽し、対応に困ってしまっていたが、慣れというモノは恐ろしいな。だんだんと動揺しなくなってきている。だが、如何せん心臓に悪い。これはどうしようもない事実なのだ。不快ではないのだが……正直、勘弁して欲しい。

 

「すぅ……すぅ……」

 

そして本音は相変わらず幸せそうに寝ている。約束の日だというのに、暢気なものだな。まぁ、幸せなのであれば、それで良い、か。

 

そして私は、ゆっくりと本音の頭を撫で、サラサラとした髪ざわりを少しだけ堪能した後、起こさない様にベットから抜け出し、シャワーを浴びに、洗面所へ向かった。

 

そして暫くして出かける為の支度がすんだ。

 

「……未だ、寝ているのか」

 

相変わらずの様だ。学習しないのだろうか?

 

――まぁまぁそう言わずに、今日ぐらいは優しく起こしましょうよ

 

(偶には、な)

 

――えぇ、お願いしますよ

 

私は古鷹の提案を受け入れ、早速本音の肩を揺さぶりながら語りかける。

 

「本音、起きろ」

「むにゃむにゃ……」

 

一応優しく起こそうとしたものの、奇妙な声――寝言と言うべきか?――を発しただけだった。

 

(……ふむ。試してみる価値はあるな)

 

私は本音の寝顔を拝見していると、とある事を思いついた。

 

――何をするつもりです?

 

(それは見てのお楽しみだ)

 

私は手始めに本音の髪を避け、次に耳元に顔を近づけ、最後にある一言を発する。

 

「おはよう、本音。今日も今日と良い朝だな」

「ひゃぁっ!?……ってあれ~?」

 

本音は驚きの声を上げて起き上がった。だが、布団が上げられていないのに気づき、疑問符を浮かべていた。

 

……やはり、か。私の何時も目覚めの時に言っている一言はかなり凶悪なのだろう。

 

目論見通り言葉のみで本音を起こすことに成功した。

 

(うむ、穏便だな)

 

――おぉう……とうとうトラウマに

 

(このまま自発的に起きる様になれば何も問題無いな)

 

――問題無いって……それはそうとして、責任、取って下さいよ?

 

一体何の責任を取れというのか?

 

(喧しい。とっとと設計に戻れ)

 

――ちっ、はいはい解りましたよ。それでは失礼しますよっと

 

古鷹は私に舌打ちを一つ打ってそれっきり沈黙してしまった。まぁ、相変わらずのやり取りだったので、割とどうでも良いがな。

 

「おはよう」

「む~~?あ、おはよ~」

 

本音は未だ頭に疑問符を浮かべていたが、私が挨拶をしてきたのに気づき、何時もの様に挨拶を返した。

 

……しかし、アレだ。

 

「何故何度も注意したのに私のベットで寝る?」

「だって気持ちいいんだもん~」

 

……私は安眠枕か何かか?訳が解らん。とにかく、私の精神衛生上、非常に良くないのでどうにかして欲しい。下手をすれば間違いを犯してしまうかもしれない。私とて男なのだ。決して聖人君子ではない。欲望は確かにある。

 

「子供か?」

「子供でも良いと思う~」

 

ソレは高校生にもなってどうなのだろうか?

 

「はぁ……取り敢えず置いておく。さっさと準備してくるといい」

「はいは~い。あ、それと~」

「何だ?」

「その格好、良いセンス、だよ~」

 

本音は一言私の服装を評価してくれた。……ただ、良いセンス、の発音が変だったが。因みに江戸茶色のダンガリーシャツと黒のタートルネック、藍色のデニムである。

 

楯無が買ったモノの中でも比較的落ち着いた服装だったので、試しに着てみたのだ。そして勿論、中にはISスーツを着込んでいる。拳銃程度なら防げる優れ物だからな。

 

次いでにペアリングも首に掛けて行こうかと思ったが、アレは楯無との思い出。楯無と出掛けるならまだしも、本音と簪とで出掛けるには必要ないと思った。なので一度は手には取ったが、また箱に大切にしまい直した。

 

「まぁ、褒め言葉は受け取っておく」

「あ、あと~」

「今度はどうした?」

「先に行って待って欲しいなぁ、と思ったりして~」

 

何故だろうか?いや、そうか。アレか、おめかしは見せたくないという奴か。まぁ、そこは女性の感覚だから私は解らないが、取り敢えず要求通りにしよう。

 

「解った。朝食を兼ねて暫く街で暇を潰そう。集合は9時に街の噴水前で良いのだな?」

「おっけーだよ~」

「では、先に待っていよう。誘った手前、遅れるなよ?」

「あいあい~」

 

私は本音に一度別れを告げ、寮を出る。そして脇のホルスターに備えた拳銃の感触を確かめる。主任に渡された後、この拳銃にいついて調べて見たが、この拳銃はワルサー P99と言う名称らしい。因みに映画ではジェームズ・ボ●ドが愛用していた銃だとかなんとか。まぁ、心底どうでも良いが、せめてこれを使う機会がこない様に、と思った。

 

 

 

 

――???―― ~車両内~

 

『此方α1.HQ,聞こえるか?王子様が校門を出た。どうやらご出勤の様だ』

「此方HQ.感度良好、異常なし。準備は出来ているな?」

『勿論だ。これより我々は王子様の護衛に入る』

「あぁ、王子様に悟られない様、留意しろ」

『解っている……とっとと爆発しろ』

 

α1は椿のこれからの予定――買い物という名のデート――を思い返して毒を吐いた。

 

『あれ?アーロンさん、またカミさんに振られたんですか?もう3度目じゃないでしたっけ?』

『通信に割り込むなジェイソン。……そしてこれから任務に入るのだが?』

 

ジェイソンが思わず、といった形で割り込む。そしてα1――アーロンはコールサインで呼べと暗に示す。まぁ、彼もまたジェイソンをコールサインで呼んでいないので説得力は皆無であるが。

 

『いや、今ままで暇でしたから。いいじゃないですか、任務が始まる前ぐらい』

『そうだそうだ、俺ら毎日暇だったんだぞ』

『そうだぞ、俺は腹が減ったんだぞ』

 

若干一名だけおかしな発言をした。

 

『……ダールお前さっき食っただろ』

『キース、俺は一日6食だ。一食も抜かすつもりはない』

『……五月蝿い』

『貴様等全員の頭を撃ち抜いてやろうか?』

『伊藤は相変わらず口数がすくねぇな。後アードル、お前の冗談は洒落にならん』

 

アーロンはジェイソンに注意したが、ジェイソンを含めた部隊員は気に止めるつもりはなかった。まぁ、アーロンの吐き捨てた台詞が原因でカオスな状況になったのではあるが。

 

「はぁ……私語は慎め馬鹿共。今回は王子様に同伴するお姫様達も如何なる状況であれ守りぬけ。散々良い給料貰ってるんだ、それぐらい働け、You.copy?」

 

『『『『『『I.copy』』』』』』

 

散々喧しくしていた部隊ではあったが、HQの指示に全員が頷く。

 

「宜しい。『天枷椿を守り隊』、状況を開始せよ!」

 

『……此方α3、マリウスの旦那、もといHQ,あんたが優秀なのは知ってるが、そのネーミングセンスはちょっとどうにかならないか?』

 

キースは部隊名に大いに不安ありであった。他の者も、声には出していないが、恐く不満に思っているだろう。はっきりと言えばダサい。

 

「喧しい。とっとと行け。さもなくば減給だ」

『……へーい』

 

どうやらマリウスはこの部隊の給料の査定もしているらしい。キースのやる気の無い返事共に交信が終了し、ATWATは王子様達の護衛の為に暗躍し始めた。

 

※ATWMT(Amakase Tubaki Wo Mamori Team)

メンバー総勢7名

α1=アーロン、α2=ジェイソン、α3=キース、α4=ダール、α5=伊藤、α6=アードル、HQ=マリウス

 

 

 

 

――街―― ~噴水前~

 

私は朝食を街の喫茶店で済ませ、約束の時間近くになったので噴水前で待機している。ちなみに、元々地味な姿と出勤ラッシュと言う事も相余って女性に絡まれる事はなかった。自意識過剰だろう、と問われると微妙なラインだが、まぁ其処は気にしないでおこう。

 

「そろそろ、か」

 

本日の予定は全て本音と簪任せだ。正直に言えば第一研究所の近くの街以外は地理に疎い。このIS学園の近くの街も例外ではなく、最低限知っておくべき公共施設の場所以外は知らない。よって、この際だから今回で色々覚えておこうと思った。

 

そして暫くして本音達がやってきた。

 

「お待たせ~」

「……待った?」

「大丈夫、そんなに待ってない」

 

私は一言返してから、彼女達の服装を確認する。

 

本音は上にだぼだぼのニットで白いシャツ。そしてホットパンツで、白のニーハイソックス。

 

……前々から思うのだが、袖が長いのはポリシーなのか?

 

そして簪は麻調のジオメトリックプリントカシュクールワンピースに黒タイツだった。落ち着いた服装であり、彼女のイメージ通りだ。まぁ、詰まる所、だ。

 

「二人共、よく似合っている」

 

これが私の素直な感想だ。……何?可愛いとかそんな世辞はないか、と?知らんな。私がそんな事を言える訳がない。言えない理由?言う訳がないだろう。

 

「えへへへーありがと~」

「ありがと……椿も似合ってる、よ」

 

本音と簪は嬉しそうにしていた。そして簪は私の格好を褒めてくれるが……まぁ、なんだ。

 

「精一杯着飾っただけだ。そんなに似合わんだろ」

「そんな事、ない」

 

簪は即否定してくる。まぁ、私とてはっきり言ってもらえると悪い気はしない。

 

「そう、か。で、今回は君達に全ての予定を任せるが、これからどうするつもりだ?」

「んとね~先ずは~」

「アニ●イト、かな」

 

ふむ?確か色々なアニメや漫画のグッズやらなんやらを取り揃えている店か。本音が良く日曜日に行くとかなんとか言ってたな。

 

「解った。では案内を頼む。如何せんこの街の地理には疎いのでな」

「あいあい~」

「解った」

 

本音と簪は返事をした後、お互いの顔を見て頷き、私を挟む様に並んだ。

そして歩き出すと同時に私の手を引いた。

 

「……本音、簪?」

 

二人の柔らかい手と、体温が手を通してダイレクトに伝わってくる。

 

少し、恥ずかしい。一体何のつもりなのだ?と言うか一斉に私達に視線が集中してきたのだが。そしてその中に殺気も含まれているので余計困るのだが。

 

「気にしない気にしない~」

「気にしちゃ、ダメ」

 

二人は私の方に振り向かずに答える。

 

「そう、言われてもな……」

 

結局、私の願いは聞き入れて貰えず、結局店に着くまで手を引かれてしまった。

 

それと思ったのだが、後ろの方が煩かった様な気がしたのだが、気のせいか?

 

 

 

 

――噴水前―― ~それぞれの監視場所より~

 

『『ちくせうっ!!』』

 

『……五月蝿いですよα1、α3』

 

通信機越しに叫んだ二人をジェイソンは諌める。

 

『これを黙っていられるかっ!何がお手々つないで仲良しだくそったれ!』

『そうだっ!お姫様が二人とか聞いてないぞこのブルジョワが!』

『……待てα3』

 

二人で散々文句を垂らしていただが、突然アーロンが待ったをかけた。

 

『何だっ!?』

『そう言えばもう一人、王子様に意中なお姫様がいた』

『なん……だと!?』

『以前王子様を護衛していた仮編成の部隊の連中から聞いた話なんだが、名前はTatenasiと言ってな。今王子様が手を繋いでいる水色の髪のお姫様の姉で、妹同様に相当な別嬪さんらしい』

『し、姉妹丼かよ畜生ぉおおおおおおお!!』

 

アーロンの思い出した一言に、キースは魂の慟哭を響かせた――通信機越しに。

 

『だから五月蝿いって……』

『黙れ妻子持ちが、ぶっ殺すぞ』

『裏切り者はここに居たか。それで、α1コイツを料理する方法は?』

『50口径をケツにしこたまぶち込む』

『OK,乗った』

『はぁ……』

 

何この二人、面倒すぎる、とジェイソンは思わず溜め息をつかざる負えなかった。そしてそんな中、割り込む形でダールから通信が入ってきた。

 

『あー、あー、此方α4。そのTatenasiだっけ?さっき隊長が言った容姿にめっちゃそっくりな人物がワナワナしながらpoint02にいるんだけど。そして今にも突撃しそう。どうするー?王子様とイチャイチャしてるお姫様二人に味方するー?あー腹減った』

 

ダールは相変わらず腹減ったと呟きながらも指示を待つ。

 

『……二人のお姫様の味方をする。α4、足止めをしろ……この鬱憤、Tatenasiに晴らす』

『α1、俺も合流する。さぁ待っててくれよTatenasi!!』

 

アーロンの指示を聞き、キースはそれに同調した。しかし、胸の内にある黒い感情が含まれているのを隠しきれていない。はっきりと言おう、アホである。

 

『女の子一人相手に三人掛りで何しようとしてるんですか……』

 

二人の馬鹿の様子にジェイソンは思わず頭を抑える。

 

今、何も発言をしていないマリウスも最大限に溜め息をついて頭を抑えているだろう。本当に、何故こんなのが隊長やってるんだと思わざるおえない。この組織は能力評価制なので隊長という役についている以上、実力は充分ある筈なのだが。

 

『侮るなよα2。TatenasiはJapanの暗部である更識家当主だ。戦闘能力は我々ないしそれ以上と見ても間違いはないだろう。更識家とは協力関係にあるが、此方の都合を優先させて貰う』

 

主に私怨であるが。

 

『……勝手にやってて下さい。α5、私達は護衛を続行しますよ』

『承知』

 

ジェイソンはもうつっこむ気力が切れたようだ。

 

『……此方HQ。α2、無理してバレない様に護衛しようとは思うなよ』

 

そして今まで沈黙していたマリウスが通信してくる。

 

『大丈夫ですよ、元々二人でも充分やれる任務ですから。それに、狙撃屋のα6もいますので、問題ないです。隊長も解ってて任せたんですよ、多分。そしてやってることがアレですが』

『……解った。取り敢えずα1とα3は減給しておく』

『当然の報いですね。……それでは』

『あぁ、頼む』

 

そしてマリウスとジェイソンの通信は終わった。

 

 

 

 

さて、10分程歩くと見るからに熱血漢だと思える男性店員のイラストが描かれている看板がある店に辿りついた。恐く、此処がアニ●イトとやらなのだろう。しかし、入った瞬間近くにいた男性にリア充爆破しろと毒づかれた。別に、付き合ってはいないのだが……。

 

「……中々、独特な雰囲気を持っているな」

 

見回すとデフォルメされたキャラクターのタペストリーやポスターが貼ってあった。そう、可愛い系からカッコイイ系まで様々ある。中にはカッコイイ系の主人公機のロボット等のポスターも混じっている。

 

空想の中の世界。

 

……まぁ、ありじゃないか?こういったモノも。

 

「でしょでしょ~」

「そう、だよ」

「それで、俺に薦める、と言うのは何だ?」

 

見渡せば多種多様な小説、漫画等々が並んでいる。先ず何から見れていけば良いのだろうか?

 

「ん~とね~」

「……こっち」

 

グイッグイッ。

 

「……痛い」

 

本音と簪は見事に逆方向に行こうとしたので、必然的に私はT字になってしまった。そしてこの光景は他の客にも見られる。次いでに毒を吐かれる。勘弁して欲しい。

 

「む~」

「ん……」

 

何故だか本音と簪はお互いを牽制している。私をどちらの派閥に取り込むか、とでも思っているのだろうか?まぁ良い。これを語っても拉致があかないので、ここからはダイジェストで送らせてもらう。

 

さて、なんやかんやで本音が最初に私に薦める事になった。

 

「それで、何がお薦めなんだ?」

「んとね~先ずはこれ何てどーでしょー?」

「ふむ、これか?」

 

彼女が先ず私に勧めてきたのが所謂学園コメディ系の漫画である。

 

例えばグレートなティーチャーのとある男のお話だったり

例えば一番最強なのが用務員なとある戦争男の話だったり

例えば選りすぐりの不良達が揃う高校で繰り広げられる話だったり

 

まぁ、他にも幾つか興味のあるタイトルがあった。そしてその幾つかのを纏めて買い物カゴに入れた。面白ければ続けて購読するのも視野に入れておこう。

 

「それで、他は?」

「じゃぁじゃぁこっち~」

 

そして次に薦めてきたのジャンルが所謂アクション系のモノの小説だった。まぁ、詳細はこの際省くが、幾つか興味のあるタイトルがあったのでそれも買い物カゴに入れた。

 

一つだけ上げるとしたら、剣で芸術なオンラインゲームの話だったりとか、な。

 

そして本音にお金は大丈夫なの?と聞かれたが、全く問題はないので大丈夫だ、とだけ答えた。まぁ、以前に少々浪費したが、それを差し引いても余裕は充分ある。因みに本音も新刊だ、とかなんとか言って買っていた。しかも普段より生き生きとしている。

 

所謂通常の3倍、とでも言うべきか?普段からそうすれば良いものを、と思ったりもするが、まぁ何だ。何時もののほほんとした雰囲気の彼女の方が私は好ましい。

 

……?私は何を言っているのだろうか?まぁ、別に良いか。

 

次は簪の番。

 

「やはり、ヒーローモノが好きか?」

「う、うん……」

 

そう、ジャンルこそアクション系であるが、所謂ヒロイズム調の強いモノである。仮面●イダーから戦隊ヒーローモノ、異世界の英雄譚、果ては中世のものまで何でもござれだ。

 

「その中でも、これがお薦め」

 

そう言って簪が差し出したのは二冊の本だった。帯に上巻、下巻と書かれていた。どうやら二部構成らしい。

 

「これは?」

「……普段は売れない吟遊詩人と、第二王女との恋の物語」

「ほう、中世ものか。しかし、普通ではない、と言うとやはり裏は?」

 

しかも第一王女ではなく第二王女との恋と言うのが斬新だな。王位継承権の話はこの際置いておくが、妙に生々しい様な気がする。

 

「それは読んでからの、お楽しみ」

 

簪は少し恥ずかしそうにしつつも、はにかみながら言った。まぁ、最初から全部が全部解っていたらつまらないか。

 

「そうか。では上巻下巻纏めて買わせて貰おう」

「……気に入った?」

「あぁ、中々興味深い」

「そう……良かった。じゃぁ私も、選んでくる」

「解った」

 

そして暫くして簪も選び終った。どうやらお眼鏡にかかったモノが幾つか見つかったらしい。ただ、眼鏡だけに、と寒いギャグを思い浮かべてしまったのは一夏の影響だろうか?まぁ、どうでも良い事ではあるがな。いや、良くないのか……?取り敢えず、置いておこう。

 

「それで、次は何だ?」

「じゃぁ今度はあっちのグッズをのコーナーを見に行こ~」

 

どうやらグッズの方は奥のブースにあるらしい。

 

「そうか……む」

 

本音は空いている手の方で私の空いてる手を握り、引っ張り始めた。

 

「ま、待って……」

 

そして簪は私の後ろの部分を少しだけ引っ張って付いてくる。

 

ダボダボした服を着たのほほんとしている少女と、その少女に手を引かれている見た目地味な男。そしてその男の服の端を掴んで付いている落ち着いた服装をした儚げな少女。

 

何と表現すれば良いのか解らない、珍妙な光景が出来上がった。だが、取り敢えず言える事は、周りの男性陣からは嫉妬の視線を腹いっぱい浴びた、と言う事か。

 

 

 

 

――噴水前―― ~point02~

 

一人の女性と三人の男性は、裏路地で対立していた。

 

「……α3、4。Japanの水色の悪魔にジェットストリームアタックを仕掛ける」

「よし来たぁ!」

「マッハで蜂の巣にしてやんよ!」

 

アーロンは部下の二人に指示をだす。

 

「誰が悪魔よ!……かかってきなさい!今この瞬間は、力こそが全てよっ!」

 

そして楯無は男達三人組の攻撃に対して、備える。

 

「行くぞ!」

「Lalalalalalaala!!!」

「ヒャッハー!!」

 

そして男達は雄叫びを上げ、一列になって突撃を開始した。

 

「ふっ!」

「ぬわーーっっ!?」

 

先ず楯無は先頭のアーロンを、突撃の勢いを利用して右足を後ろに投げ飛ばす。

 

「はっ!」

「ちょばむっ!?」

 

そしてお次のキースに対し、回し蹴りの要領で金●に蹴りを喰らわせる。

 

この攻撃によりキースは悶絶し、前屈みになった。

 

「ラストッ!!……何ぃ!?」

「甘いわ!」

「お、俺を踏み台にしぎゃぁあああ!?」

 

最後のダールは前屈みのキースを踏み台にし、高く跳躍した。そして楯無はダールにラストアタックを決めようとしたが、跳躍によって躱され、その一撃はキースに直撃し、敢え無く吹き飛ばされ、沈黙する。

 

楯無はほぼ無防備。

 

ダールは好機と見て空中で十字の体勢になりながら高らかに宣言する。

 

「喰らえ!南斗●凰拳奥義!天●十字鳳!! 」

 

だが、楯無は素早く体勢を立て直し、宣言する。

 

「まだよ!北●神拳究極奥義!無●転生!!」

 

色々とアウトな技名をお互いに言い合った後、交差した。

 

そして楯無は一言。

 

「お前はもう、死んでいる」

「うわらばっ!?」

 

奇妙な断末魔を上げてダールは倒れ込んだ。

 

「はぁ……はぁ……悪は滅びるのよ!」

 

そしてその三人を鎮圧した楯無は、勝利の余韻に浸っていた。

 

「雌伏の内に果てるとは……」

「うぉぉ……俺だけひでぇ……」

「腹減った……」

 

敗北したアーロン、キース、ダールはそれぞれ負け台詞を呟く。ただし、ダールは相変わらずの発言であったが。

 

「それで、貴方達は何者かしら?」

「川崎の手の者、とだけ覚えて貰えればいい。任務は王子様の護衛だ」

 

アーロンは隠す事は何も無いと判断して素直に答えてきた。それに彼女は暗部の人間なのだ。詳しく言わなくても伝わる部分はある。

 

「じゃぁ何でここに居るのかしら……今、椿の護衛は?」

「二人行かせてある。いや、正確には三人だ。狙撃兵、全体を見回せる位置にいる」

「問題は無い、と言ったところね」

「あぁ」

 

アーロンは頷いた。三人とも能力的には充分問題無いのだ。この部隊は全員、元特殊部隊の出身だった。護衛や周辺警護などはお手の物だ。

 

「じゃぁ何で私を妨害したのかしら?」

「それは鬱憤を晴ら……二人のお姫様に楽しんで貰いたいからに決まっている」

「そうそう、別にうさば……それに、アンタは二人きりでイチャイチャしたんだろ?」

「腹減った……」

「カロリー●イトやるからテメェは黙ってろ」

 

楯無の質問にそれぞれが素直に答えた。ただし、若干私情がダダ漏れしていたが。そしてキースはダールにカロリー●イトを手渡していた。

 

「そ、そう……」

 

楯無はあのデートは見られてたのか、と若干恥ずかしくなりながら呟いた。

 

「全く、王子様もワンサマーの事は言えんな」

「織斑君と?」

「あぁ、王子様もああ見て中々のフラグ建築士だろう?」

「……そうね」

 

なんやかんやで椿は気配りができており、周りの人に信用されている。普段の態度や姿勢、様子が評価された結果なのだろう。偶に織斑君に対して茶目っ気を出している様で、苦笑いされている部分もあるが、それは男同士のコミュニケーションなのだから、仕方がないだろう。一部に人間にとってその絡みは需要があるのだから。

 

「取り敢えず、今日の所は引いてくれないか?」

「あぁ、さっきも言ったが、今日ぐらいお姫様二人、三人水入らずで楽しませてやってくれ」

 

アーロンとキースは楯無に再び提案してきた。

 

「むぅ~~~~~……仕方がないわね。今日は帰るわ」

「あぁ頼む」

 

このままでは只の嫉妬深い女、と思われてしまうかもしれないとでも思ったのだろうか?楯無は渋々といった形で了承し、駅の方へと向かっていった。

 

「では我々も任務に戻ろう」

「うーっす」

「……もぐっ……あらほらさっさー」

 

そして愉快な三人組も任務へ戻っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば王子様はどこに行った?」

「さぁ?……HQ~~HQ~~王子様の現在地ドコー?」

「カロリー●イト、美味すぎる!」

 

……任務に戻っていった。

 

 

 

 

―街中――

 

「一杯買ったねぇ~」

「今日は、大漁」

「あぁ、そうだな」

 

私は少し大きめの肩にかけるタイプのカバンに確かな重みを感じながら呟く。ちなみにグッズは女性化した円卓の騎士が描かれたファイルを買わせてもらった。後で本音に聞いて見たが、元はゲームの中々人気のあるキャラらしい。そして本音達もストラップ等々を買っていた。

 

「それで、次は何処にする?」

「街を散策してからのお昼だね~」

「時間的にも、そうなる」

「そうか……では頼む」

 

因みに時間を確認してみると10時を半ば過ぎたあたりだ。

 

……ふむ。アニメ●トには1時間以上いたのか。意外に楽しめた、と言った所だろうな。

 

「じゃぁれっつごー」

「……ゴー」

 

そして二人は再び示し合わせた様に私の手を握る。

 

……まぁ、良いか。

 

私は泣く泣く嫉妬の視線に耐えながら温かく、柔らかい二人の手の感触を感じながら歩き出す。因みにこの散策では特に何も無かった、と言えば語弊はあるが、取り敢えず時々ある二人の補足と日常会話を交えながら街並みを記憶していった、とだけ言っておこう。尚、終始私の手を離してくれることはなかった。

 

そしてお昼の時間帯になり、本音がお薦めする店へと案内された。

 

 

 

 

「いらっしゃいませ、@クルーズへようこそ!何名様でしょうか?」

 

そして本音のお薦めした店に入ると、一人のメイド服を着た店員が応対に出た。

 

「三名で」

「三名様ですね。では、席にご案内します」

 

そして案内された席に私達は私が手前に、簪と本音は私の対面に並んで座った。

 

「……しかし、メイド喫茶か」

 

正直、男女で来るのはどうかと思うが、見たところ女性客やカップルらしき男女も普通に居たので別段おかしい、という訳ではない様だ。

 

「うん、そうだよ~」

「ここのデザートは、美味しい」

 

やはり女の子、と言った所だな。

 

「そうか、では好きな物を頼むといい。今回案内してくれた礼だ。遠慮はしなくていい」

「やった~」

「ありがと」

 

そして彼女達は思い思いのメニューを選び始める。私もまた、メニューを開いて品選びを始める。そして見てみると、意外に多彩な品揃えだった。

 

定番であろうオムライス。そしてカレー、パスタ、サンドイッチ、炒飯といった主食系、そして各種ドリンクにデザートだ。正直、私は偏見を抱いていた。所詮萌えばかりで料理はおざなりだろう、と。だが、私はこの@クルーズに来て、大幅な上方修正を加える必要があった。

 

その理由がこの紅茶の一種であるウバの存在だ。

 

本音には感謝するべきなのだろう。私は普段、食堂では咖啡ばかり飲んではいるのだが、実は紅茶派なのだ。しかし運命の悪戯かどうかは知らないが、食堂のメニューには載っていなかったのだ。あるのは自販機のモノだけ。それは紅茶好きとしては許せなかった。そこで以前セシリアに相談してみたのだが、彼女の付き人であるチェルシーと言う人物を紹介され、チェルシーに紅茶を淹れて貰ったのだ。そしてそれはもう至福の一時だったのだ。

 

……さて、私の紅茶に対するささやかな熱意はここまでにして置くとして、徐々彼女達もメニューは決まっただろうか?

 

「簪、本音。決まったか?」

「決まったよ~」

「私も、決まった」

「そうか、では押すぞ」

 

私は二人が決まったのを確認してワイヤレススイッチを押す。そして独特の呼び出し音が鳴り、少しして店員が来た。

 

「お決まりになりましたか?」

「このアニマルチョコパフェ・スペシャルとトロピカルドリンクで~」

「私はエッグガレット、店長お薦めケーキセット、カプチーノ」

 

本音はデザート+飲み物。スペシャルエディションだから量は相当なのだろう。それにアニマル、と書いてあるのだから、恐く動物を模したパフェと推測できる。

 

簪はガレット+デザート+飲み物か。因みにガレットとは、フランスの料理・菓子の名称で。「円く薄いもの」を意味している。所謂豆知識、と言ったいう奴だな。

 

「サンドイッチセットと手作りクッキー、飲み物はウバで」

「かしこまりました。では確認していきます―――」

 

私達のメニューを淀みなく、読み上げていた。

 

「――以上でよろしいでしょうか?」

「はい、お願いします」

「では少々お待ちください」

 

そう言って店員は厨房へと向かって行った。

 

「ねぇねぇあまっち~」

「ウバって、何?」

 

店員が去った後、本音達が質問してきた。

 

「君達は紅茶の一つにダージリンというモノがあるのを知ってるだろう?」

「うん」

「知ってる」

 

まぁ、有名だから当然か。

 

「そしてダージリンは世界三大銘茶の一つでもあるんだ。このウバもその一つでな、スリランカで生産されている高級茶だ。因みに最後の一つはキーマンと言う。是非覚えておくといい」

「詳しいんだね~」

「あぁ、実は俺は紅茶が好きなんだ。だが、生憎食堂にはない。精々咖啡と安物のパックがあるだけだ。今回、このウバに巡り合えた事を感謝している」

「……意外な趣味」

「うん、意外だね~」

 

男が紅茶を嗜むのは英国人だけだと思っているのだろうか?それはそれで心外だが、まぁ確かに珍しい部類なのだろうな。そして暫く雑談に花を咲かせながら待つと、店員がメニューを運びながら来た。

 

「お待たせしました。今からお並べします」

 

店員は手早く私達が選んだ料理、デザート、飲み物を並べていく。

 

「それでは、ごゆっくりどうぞ」

 

そして並べ終えた店員は一言営業スマイル共に届けたあと、去っていた。

 

「では、いただこう」

「いただきま~す」

「いただきます」

 

私達は食事の挨拶をしてそれぞれの料理、デザートを食べ始めた。

 

 

 

 

――@クルーズ:監視ポイント01、02――

 

 

「「ガッデーーームッ!!」」

 

『だからうっさいんですってアンタら』

 

帰ってきた瞬間、嫉妬に塗れているのは質が悪い。とでも言いたそうなα2。

 

『しっかし、中々どうして、何であんなに仲睦まじいのに付き合ってないんだか。推測ですが、何だかんだ言ってTatenasiとも良い感じでデートしてたんでしょう?』

「それは本人に自覚がないからな」

『お姫様が、ですか?』

「いや、王子様の方だ」

 

王子様がですか?とアーロンの言葉にジェイソンは疑問に思う。少なくともジェイソンは椿を鈍感男とは見ていない。プロフィールや普段の行動を見れば恋愛の機微には疎く無い筈、と考えている様だ。

 

『何故です?』

「彼奴は恋愛を知らない」

『恋愛を知らない?』

「そうだ。あれは見れば解る。恋愛経験は皆無だな」

『例えそうだとしても、流石に彼女達に抱いている気持ちにぐらい気付くのでは?』

 

ジェイソンは幾ら彼が孤児院で育ったとしてもそれはありえない、と言う。

 

「無い。もう一度言うが彼奴は無自覚にお姫様達を好いている」

 

然し、アーロンは断言した。これは彼の経験則からくるものだろうか?

 

『なんだか難しいですね』

「気付くのは王子様次第だ。そして気付く事で成長するだろうさ」

『親父の様な一言ですね』

「ふむ、それもそうか……では今日からビックパパとでも名乗るか」

 

アーロンはジェイソンの一言に冗談めかしに答えた。だが、その目は子を心配する親の目そのものである。

 

『止めて下さいよ、何ですかその伝説の傭兵のなりぞこないは。それに子供はいないでしょ?』

「失礼な奴め。いるさ、子供ぐらいは、な」

 

アーロンはそう言いながら優しく目を細めていた。

 

『へぇ、因みにお子さんはお幾つで?』

「今年で24だ。それ以上は教えん」

『聞きませんよ。ってそう言えば貴方は50過ぎでしたね』

 

かなり暴走していたので思わず三十代に思えるが、実はかなり歳を取っているのだ。そしてそれは川崎の裏部隊ではかなりの古参兵である事の裏返しでもある。

 

「あぁそうだ。だがまぁ気にするな。取り敢えずは――」

 

そこまでアーロンが言いかけたとき、通信が入った。

 

『此方HQ、緊急情報だ。警察の通信を傍受していたが、この近くに武装した強盗犯が街に紛れ込んだ。現在警察が追っているが、王子様に被害が及ばないとは言えない。α1は二名の部下を率いて王子様の近くに待機、α2は残りのメンバーを率いて騒ぎに乗じて動くかもしれない者達に対して備えろ。尚、強盗犯に対しては可能な限り現地の警察に任せる』

「数はどうなっている?」

 

アーロンはマリウスに詳細を求めた。

 

『数は3。リーダー格の者はサングラスをかけているとの事だ。そして強盗犯は銃器を所持している事が判明している。もし、王子様に直接害を被る場合は無力化しても構わないが、銃器の使用はなるべく控えろ、事後処理が面倒になるからな。できるな?』

 

『『「「「I.copy」」」』』

 

『では健闘を祈る』

 

そして通信が終った瞬間、アーロンは指示を出し始める。

 

「今聞いた通りだ。α3、4は私に付け。一般客として@クルーズに入る。2、5は周囲警戒だ。尚、今通信を聞流している6は2のサポートを行う様に。以上、散開」

 

アーロンの指示に全員が了承、それぞれが椿達の護衛の為に動き出す。

 

 




You.copy? I.copy!

はい、砂糖とギャグをぶち込もうとしたらこうなりました。

そして強盗犯の話は夏休みのアレですが、オリ主を入れたら正史とは異なっていきます。
この話もそんな流れの一つです。

次回はちょっとシリアス回、かも?
椿君、軽くトラウマになってるのでギャグでは済ませれないですはい。

そしてリアルが忙しいので更新が少し遅れます。ご了承ください。
それでは次回もお楽しみに!!

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