ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第二十一話:企業訪問二日目後半b

――主任ラボ――

 

 

研究所に着いた後、私は楯無と一旦別れて古鷹の機体の移し替えの為に主任の所にいる。

 

「―――よし、古鷹の移し替えは終わったよ」

 

そう言って主任は私に古鷹を渡してきた。

 

「ありがとうございます」

 

私は再び古鷹を首にかける。

 

『慣れですかねぇ、この体が妙に落ち着く』

「そんなものか」

『えぇ、そうです。それで、私が集中してる間に何か良い事でもありましたか?』

「どうしてそう思う?」

『強いて言えば勘。貴方の雰囲気が若干柔らかくなったものなので』

「そうか。まぁ、あながちハズレではない……で、主任。古鷹に一体何を追加したのです?」

 

古鷹との会話を一旦区切り、主任に質問する。

 

「ふむ。じゃぁ、お待ちかねの追加したモノについて発表しよう!」

「お願いします」

 

相変わらずのハイテンションを無視して続きを促す。そして主任は鼻歌を歌いながらキーボードを操作して手前の大型ディスプレイに追加された仕様の部分を表示させた。

 

「追加したのは第五世代技術(・・・・・・)、射出型拡張領域さ!」

「……ハァ!?」

 

思わず驚いてしまった。何故に第五世代?展開装甲はどうした?

 

「主任、これは一体どう言う事ですか!?」

「まぁまぁ、落ち着きたまえよちみぃ?」

 

これが落ち着いていられるか。

 

「取り敢えず、順を追って話そうか。これはね、私がISが世に出回って十年間、ずっと考えてきた事だったんだ。考えてもみたまえ、拡張領域は何でもしまえて、いつでもどこでも取り出せる。そんな夢の様な技術、今まで誰も思いつかなかっただろう?。いや、妄想、と言う意味では既に誰かが考えていたかもしれないね。そしてその妄想があの兎によって現実になった。そして私はこの拡張領域について、普通に出し入れするだけでなく、どんな応用ができるか?と考たんだ。そして思いついたんだよね。銃の様に撃ちだす事が出来るんじゃないか?って」

 

そこまでまくし立てて主任は一度区切った。

 

「そしてその思いつきを実現する為に散々理論を組み立て、組立直してきた。他の研究の合間を使って必死にね。そして組み上がった理論を元に、シュミレートを幾千幾万と繰り返してきた。これはその果てに出来上がった試作第一号なんだよ……ホントはこれができたら第四世代、って銘打とうとしたんだけど先を越されちゃったからまぁ、第五世代なんだよね、便宜上は」

 

そう言いながら主任はディスプレイに映る射出型拡張領域の仕様を我が子の様に見つめていた。

 

「……それで、詳細は?」

「これは試作だから今から言うスペックはないけど、仕様と完成した時のスペックを教えよう。先ずは仕様から。この射出型拡張領域はね、文字通り射出。つまり、領域内に収められている弾薬や砲身を必要とせず、そのまま発射できるんだ」

「……射角は?」

「理論上、360度無制限に撃てる。因みに試作品は150度が限界だね」

「反動や弾速、連射性は?」

「反動は無い。火薬を使うわけじゃないからなね。そして弾速や連射は自由に調整可能さ!因みに光学兵器も撃てるんだよ?」

「……凄い、ですね」

 

正直驚きっぱなしだ。試作品は今言った性能程では無いのだろうが、充分有用性がある。

 

「そうだろう?ただ、その弾速と連射性が問題なんだよね」

「何故です?」

「マインドインターフェース頼りだとね、どうしても使用者によって偏りがでるんだ。場合によっては普通に銃器を持ったほうが良いくらい酷いモノになる。かと言って機械で調整しようにも、未だ拡張領域の全てを理解した訳ではないからね、現状手がつけられないんだ」

 

成程。確かに搭乗者によってはイメージを固めるのが速い者もいれば、当然遅い者もいる。

兵器として実用化するには、使用者を選ぶ、と言うのは余り厚遇されないのだ。

 

「解りました」

「と言う訳で君に渡した試作第一号はね、射角も制限されてるし、速度も一定以上出せないから通常弾もまだ撃てないね。現状試作一号で撃てるのはロケット弾ぐらいだね。連射もできない、更にはエネルギー兵器も当然発射できないという、色々と不完全な物なんだ」

「今後の改良余地は私の運用データ次第ですか?」

「うん、まぁ、それはそうなんだけどねぇ……」

 

主任にしては何故か歯切れが悪かった。

 

「どうしたんです?」

「いやね。確かに運用データを収集すれば改良は出来ると思う。だけどね、直ぐに、っていう訳にはいかないんだよね。だって十年も掛けて漸く試作第一号だからね。いくら運用データが取れたとしても、改良には時間がかかるんだ。こればっかりはどうしようもないね」

 

かなり難しい問題なのだろう。それに、見通しがつかないモノよりは先に完成させなければいけないモノがあるのだから。

 

「ではこの話はこれで終わりにしましょう」

「うん、そうしようか」

「最後に、現在使える弾種は?」

「使用弾種は現状4つ。先ずは80㎜ロケット弾、次に閃光弾、発煙弾の特殊弾2種に加え、我社オリジナルの弾だね」

「オリジナル、ですか?」

「うん。我社オリジナルってのはね、通称L.D.C。正式名称はLaser Disturbance shellて呼ぶんだ。日本語ではレーザー撹乱弾、だね。これは発射後に即自爆して半径25m以内のエネルギーの収束率を下げる特殊な粒子を散布するんだ。これにより殆どのレーザー兵器を霧散させる事ができる。……と言っても我社のレーザー兵器の前では只の威力減衰にしかならないけどね。因みに効果時間は30秒。時間が経過すると共に粒子が霧散していくから注意ね」

「随分と便利ですね」

「まぁね。ただ、爆風や強風で直流されやすいのが欠点だね」

 

それでは実戦においては余り使えないだろう。効果時間や範囲も少々短いし狭い。いや、IS用だからこの効果なのかもしれないが、このLDSなら通常兵器にも詰めるだろう。

 

「では、やはり盾の方を?」

「そうだよ。今、第2研究所で君の提出したデータを参考に対レーザー用の盾を作っている。完成したら君の方に送っておくよ。まぁ、こんなところかな?」

「解りました」

「あぁ、それと君に渡すものがあるんだ。はいこれ」

 

そう言って渡してきたのは拳銃だった。名称は知らないが、口径は22口径、といったところか。

 

「……随分と気軽に渡しますね」

「そうかい?ISを渡すのと何ら変わりは無いはずだけど?」

『それはちょっと酷くありません?』

「まぁ、古鷹にとってがそうだけどさ」

 

でもね、と主任は言葉を続ける。

 

「君がこれから関わる世界はそういう世界(・・・・・・・)だよ?」

「……そう、ですね」

 

情け容赦の無い、殺戮の世界。

 

「だから護身用さ。けどね、これを持つだけなら意味は無いんだ」

「……意味?」

「今から教えるけど、これはあの極悪諜報部隊の連中からの受け売りなんだよね」

「受け売り、ですか?」

「うん。ソレを言う前に聞くけど、そもそも銃ってどんな物だと思う?」

「人を殺す為の道具、ですか?」

「ブブー、外れ~」

 

主任は口をアヒルの様にし、腕をクロスさせていた。

 

「正解はね、銃は火薬で鉛玉を撃ち出す為の装置なんだよ」

「……つまり、用途と意思は違う、と言う事ですか?」

「うん正解。だから今回は例として銃を挙げたけどさ、結局人が人を殺すのはね人の殺意だけなんだよ?だから持つだけなら意味はないのさ、ていう受け売りさ」

「……そうですか」

 

人を殺すのは人の殺意だけ、か。

 

「まぁ、そんなに考え込まなくても良いよ。それに、殺意がなくても人は人を殺せるからね。

 

例えば交通事故。

これはハンドル操作を間違えたり周りをよく見てなかったら当然人をひき殺すよね?殺すつもりは全くないのに。

 

例えば競技やスポーツでの事故。

これは野球やラグビーとかまぁ、アクティブなスポーツで見られるね。野球なら鍛えられた豪腕から放たれるデッドボール。ラグビーなら屈強な体で行う強力なタックル。殺すつもりは全くなかったとしても、当たり所が悪かったら案外簡単に死ぬよ?

 

例えば料理での死亡事故。

誤って死に至る程の毒を持ったモノを混入しちゃったら、死ぬよね?ただお客や家族、愛人の為にと腕を振舞った筈なのに、それだけで簡単に殺せちゃう。殺すつもりはないのに。

 

さっきの受け売りを否定するつもりはないよ?で、何が言いたいの、っていうのはね、決して人を殺すのは人の殺意だけじゃない、って事なんだよね」

「……そう、ですか」

 

確かにそうだ。意図しなくとも、事故で人は簡単に死ぬ。……私の両親がそうであった様に。

 

「うん、そうだよ。まぁ、心の隅にでもとどめて置いてね。それと最後に、椿君に聞きたい事があるんだ」

「なんでしょうか?」

 

未だ何かあるのだろうか?

 

「これが全て終わった時、君は何をしたい?具体的に言えば将来の夢はあるかい?」

「夢、ですか」

 

正直、考えた事は無かった。いや、考える余裕が無かったと言うべきか。

 

「……わかりませんね。正直、考えた事がない」

「じゃぁ其処は課題にして置くよ、視線恐怖症の克服も兼ねて、ね」

「……解りました」

「じゃぁ、徐々楯無君と一緒にIS学園に戻ると良いよ。千歳君が駅まで送ってくれる」

「解りました。では失礼します」

「うん。じゃぁ、また会おう」

『では主任、後程』

「あいあい~」

 

そう言って主任はぶらぶらと手を振りながら私達を見送っていた。そして私はエレベーターに乗り込み、古鷹に質問を投げかけた。

 

「古鷹、お前の夢とは何だ?」

『夢、ですか?参考にでもしたいのですか?』

「あぁ、そうだ」

 

具体例が欲しい、と言うのが正直な感想だ。

 

『でしたら、私の夢は私が生まれた時から変わりませんよ』

「……宇宙を目指すと?」

 

篠ノ之束が宇宙を目指すためにISを作ったとされてはいるが、実情は軍事目的に使われている。表向きには防衛用や競技用とされているが、結局、ISで宇宙へ行こうとはしていないのだ。

 

『そうです。私は、私達はInfinite Stratos CORE。無限の軌道を目指すコア。あの兎が本当の最初期に目指した目標こそが私の、私達の夢なのですよ」

 

でもまぁ、と古鷹は続ける。

 

『今の目標はあの兎から全ての同類の戒めを解く事ですね』

「そう、か」

『そうです。参考になりましたかね?』

「壮大過ぎて参考にならん」

 

話だけ聞けば、コイツの方が一夏より主人公しているような気がする。

 

『左様ですか。まぁ、ゆっくり見つけて下さい』

「努力しよう」

 

私はそう締めくくり、エレベーターを降りた。

 

 

 

 

――駅前――

 

私達はあの後、千歳さんが送迎用の大衆車で私達を駅前まで送ってくれた。

 

「さて、私はここまでね」

 

千歳さんは駅の入口でそう言った。

 

「送ってくれてありがとう、千歳さん」

「ありがとうございます」

 

楯無と私は道中を送ってくれた千歳さんに礼を述べる。

 

「はいはい。それで椿君、次に来る時までにはマニュアルを扱える様にしておくのよ?」

「解かっていますよ」

「そう……じゃぁ、楯無ちゃん。椿君の事、よろしく頼むわね」

「任されたわ」

 

楯無は千歳さんの一言に胸を張って答えた。

 

「フフッ、じゃぁ頑張りなさい。……色々な意味で」

「な、何を言ってるか解らないわね」

「楯無、いきなりどうした?」

 

頑張りなさい、で何を慌ててるのだろうか?

 

――いやまぁ、気にしなくてもいいですよ

 

「気にしないで頂戴」

「……むぅ」

 

古鷹と楯無のツッコミが何故か重なっていた。

 

「じゃぁ、行ってらっしゃい」

「……これから帰るのに行ってらっしゃいとはこれいかに?」

「つまらない事は言わない。そもそも貴方のホームは此処でしょう?」

「……そうでしたね」

 

古巣は結局川崎なのだから。

 

「そうよ。だから、行ってらっしゃい」

「はい、行ってきます」

「楯無ちゃんも機会があったらまたいらっしゃい」

「お言葉に甘えさせてもらうわ。今度は負けないわよ!」

「フフッ、何時でも受けて立つわ。じゃぁね、二人とも」

 

そう言って千歳さんは手をヒラヒラさせながら私達の前から去った。

 

何というか、去り際がどことなく主任を連想させた……失礼かもしれないがな。

 

「さて、弁当を買うか……あぁそうだ。お土産も買っておかないとな」

「あら、お土産も買うの?」

「あぁ、約束したからな」

「じゃぁ、早速買ってしまいましょ」

 

そう言って楯無は駅の売店に小走りで向かって行った。私を置いて。

 

「……未だあんなに元気があるのか」

 

――おや、もしかして一緒に行こう、とでも言いたかったのですか?

 

(……そんな訳がないだろう)

 

――つまらないですねぇ。取り敢えずさっさと追いかけたらどうです?

 

解っている、と私は呟き、楯無の後を追いかけ始めた。

 

 

 

 

――列車内――

 

私達は夕食を済ませ、ゆったりと席で寛いでいた。尚、列車内には私達以外は誰も居なかった。そして現在私は訓練疲れのお陰で睡魔と戦う羽目になっている。現在劣勢だ。

 

――眠いのですか?

 

(あぁ……眠い)

 

正直な本音だ。

 

――寝ても良いんですよ?未だ目的駅までそこそこ時間はありますから

 

私はそれもそうかと思い、睡魔に身を任せようとしたが、突然声がかかった。

 

「そーいえば」

 

楯無が窓の風景を眺めながら、何か思い出した様に呟いた。仕方なく私はもう一度だけ睡魔に抵抗して返事をする。

 

「……どうした?」

「千歳さんは私達を送くる途中で、世間話はしたけど、デートの内容については何も聞かなかったわね?何故かしら?からかいの一つはありそうだったんだけど」

「そう、だな」

 

曰く、それは貴方達だけの思い出。聞かないから大切にしておきなさい。らしい。車を降りるときに私が聞いたらそっと耳打ちをして教しえてくれた。

 

「気を利かせてくれたのかしら?」

「そう、だろうな……」

「そう……なら良いわ」

 

あぁ……それにしても眠い。

 

睡魔が強烈に襲ってきた。これ以上は抵抗できそうにない。

 

「ねぇ椿」

 

楯無が何か意を決した様に話しかけてきた。

 

だが……私はもう……。

 

「……何だ」

 

なけなしの気力を振り絞って返答をする。

 

瞼が……重い……。

 

「もし、もしも私達がね、い――」

 

重要な話なのだろうか、話す事に集中して私が眠りかけているのに気付いてない。

 

「…………ぅぁ」

 

とうとう私は呂律が回らなくなり、意味のない言葉を微かに発した。

 

ダメだな……会話をしている……途中なのに……意識が遠くなって―――――――

 

楯無の言葉の全てが私の耳に届くことはなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一日限定のカップルじゃなかったら、どうする?

 

と、私は言ったのだけれど。

 

「……寝ちゃった、か」

 

見れば椿は寝息を静かに立てながら眠っていた。

 

「スゥ……スゥ……」

「無警戒ね」

 

完全に隙だらけ。まぁ寝ている人に向けて言う言葉ではないのだけれども。

 

『そう思いますよ』

 

古鷹が声を出してきた。

 

「あら、話しても大丈夫なの?」

『えぇ、誰も居ない事を確認しましたから』

「そう」

『しかし、彼が他人の前で寝るとは珍しいですね』

 

まぁ、私が眠るよう促したのですが、と古鷹は付け足した。

 

「珍しい?」

『えぇ、彼が研究所で生活している時、必ず最後に寝ていたんですよ。あぁ、最近ではMs.本音の前でも寝る様にはなったのですがね』

「へぇ?どうしてかしらね」

『無意識に人を警戒しているのかもしれませんね』

 

主任や社長、一部の信頼できる人以外、彼は余り他人を信頼しませんから、と古鷹は言った。

 

「じゃぁ、私は安心できるって所かしら」

『そうなりますね』

「……ここは喜ぶべきなのかしら?」

『まぁ、喜んでも良いと思いますよ?色々と、ですが。取り敢えず、私は主任の方に意識を傾けますので、好きにしても構いません』

「そう、貴方の体、早くできるといいわね」

『はい。それでは』

 

そう言った後、古鷹は何も言わなくなった。恐く、主任と自分の体の制作に入り始めたのね。

 

「……好きにしてください、か」

 

古鷹の言葉を思い出しながら、チラりと椿の顔を見る。普段は前髪で隠されたその素顔、気にならないと言えば嘘になる。いえ、気になって仕方がない。

 

「……誰も居ないから大丈夫よね」

 

そう呟いて私は椿の素顔を拝見しようと席の仕切りを上げ、近づいたら――

 

ボスンッ。

 

――椿の姿勢が崩れてしまい、私の方に倒れてきた。

 

よって、椿の頭が私の腿の上に来ることになった。

 

「……所謂膝枕って所かしら」

 

私は若干頬に熱を感じながら呟く。幸い、椿は少しだけ唸っただけでまた規則正しい寝息を立て始めた。

 

「お姉さんの膝枕は高いぞぉ~」

 

私はそう言って椿の頭を撫でみる。以外に髪の手入れはしっかりと行き届いてて、サラサラとした手触りだった。女の子としては少し、羨ましい。私の髪は少し癖があるから……なんだか負けた様な気がする。

 

「それはともかく、早速お顔を拝見ね」

 

と言っても横顔だけなのだけど。本当は正面から見たいと思っけど、まぁ贅沢を言ってもしょうがないか。

 

私はそんな事を考えつつ前髪を押しのけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

私は夢を見ていた。

 

私は薄く霧が立ち込める、美しい湖の畔にいつの間にか立っていた。

 

「……此処は、何処だ?」

 

疑問に思いはしたが、不思議と安心できる場所だった。そして暫く辺を見回していると、一人の少女の存在に気付いた。

 

「誰、だろうか?」

 

その少女は美しい群青色の髪を靡かせながら湖の上で楽しそうに踊っていた。

普段なら浮いている事に驚くだろうが、コレは夢なのだからと別に良いか、思い、私はそれを暫くの間、静かに眺めていた。

 

 

 

 

暫く見ていると、少女は踊るのを止めた。

 

どうやら此方に気付いた様で、じっと見つめてきた。

 

さて、どうしようか?

 

私は少しだけ逡巡し、答えを出す。

 

パチパチパチ……

 

私がした事は至って単純だ。拍手、である。

 

そして私の拍手を受けた少女はドレスの裾を軽く摘みあげ、頭を下げた。次いで少女は私の方へ近づいてきた。

 

「ふしぎな感覚……あなたは、だあれ?どうやってここに来たの?」

 

近付いてきた少女は私に名前を問う。

 

「私か?私は天枷椿と言う。何時の間にか此処に居たんだ」

 

自然と本来の一人称が出たが、まぁ気にしない。これは夢なのだから。

 

「ふーん。じゃぁじゃぁ、椿兄様って呼んでいい?」

「構わない。では君の名前は?」

「私?私はミステリアス・レイディって言うの!」

「ミスティアス・レイディ……確か楯無のISの名前だった筈だが……」

「お姉様は私のパートナーだよ!」

 

私の小さな呟きはどうやら聞こえていたらしい。

 

「……驚いたな」

「えへへー」

 

まさか夢ではなく、ミステリアス・レイディの世界で、さらに言えば初めて古鷹以外のコアと会話する事になるとは、な。しかし以前古鷹が言っていた素直な妹、か。まぁ第一印象はあながちハズレと言う訳ではない様だ。見るからに元気に満ち溢れていて、尚且つ表裏が無い、純情な子の様に見える。

 

「取り敢えず、レイディ、と呼ばせて貰おうか」

「いいよ!」

 

しかし私が本当に驚いたのはもう一つある。

 

――まさか霧纏の淑女がこんな少女だとは想像だにしなかった。

 

「……今失礼なこと考えたでしょー」

「いや全く」

 

何故考えが読める。やはり、コアだからか?

 

古鷹がそうだったから、尚更そう思えてしまう。

 

「ホントーに?」

 

レイディがジト目で睨みつけてくる。

 

「……すまん」

 

私は素直に謝る事にした。

 

「今回は特別に許してあげる!」

「有り難き幸せ」

「ふっふっふー」

 

レイディが威張っていた。そして私はある事を思い出し、レイディに問いかける。

 

「ところで聞くが、古鷹はどんな感じだ?」

「んとねー、うさんくさい人!」

「胡散臭い?」

「お話はおもしろいけどねー、偶にへんなこと言うんだー」

 

……恐く奴がネットから集めた知識の事だろう。

 

「そうか」

「じゃぁじゃぁ次は私がしつもーん!」

「構わない」

「椿兄様は好きな人はいるー?」

 

レイディは藪から棒に何を言っているんだろうか?

 

だが、答えなければ恐く拗ねてしまうだろう……正直に答えるか。

 

「……好きかどうかは解らない。だが、大切だと思う人達なら居る」

「大切な人、達?」

「あぁ」

「じゃぁ何人?」

 

私は暫逡巡し、自然と浮かび上がった人達を数える。

 

「……三人、だな」

 

浮かび上がった人物は本音、簪、そして楯無。

 

「お姉様もその中に居る?」

「……あぁ、そうだな」

 

私はそれを認めた。

 

「うーれしっ!」

 

レイディは嬉しそうにしていた。どうやら満足する解答を出せた様だ。

 

「ねぇねぇ椿兄様」

「何だ?」

「外のお話を聞かせて欲しいな!」

「……いいだろう。だが、古鷹程面白くは話せないぞ。それでも良いか?」

「もーまんたいっ!」

「そうか。では、話そうか―――――」

 

私はレイディに語る。在りし日々の、少しだけ、面白かったと思える出来事を。

 

 

 

 

「…………?」

 

私はいつの間にか起きた様だ。

 

何時、レイディの世界から出たのだろうか?

 

考えて見たが、よく、思い出せない。

 

覚えていたのはレイディに思い出を語った記憶。

 

それにしても、何故世界が横になっているのだろう?いや、私が横向きになっているのだろう。更に言えば、私の頭は今何処にあるのだろうか?少なくとも座席のシートではない。柔らかく、暖かい。まるで人の腿の上で寝ている様な――――――――

 

「あら、起きた?」

 

―――上から楯無の声が聞こえてくる。

 

……まさか、これは。

 

私は直ぐさま身を起こした。

 

「……迷惑をかけたようだな」

 

まさか、膝枕をして貰っていたと……正直に言えば恥ずかしい。

 

私は謝罪を述べるが、楯無は気にしないわ、と言う。

 

「徐々駅に着くわ、移動して学園行きのモノレールに乗り換えるわよ」

「あぁ、解った」

 

私は楯無の指示に従い、荷物を纏めて降りる準備をした。そして縛らくして電車が駅に到着し、私達は電車を降りた。

 

「んん~漸く帰ってきた感覚するわね」

「そんなものか?」

「えぇ、私にとっては此処が慣れ親しんだ場所だもの」

 

ふむ……それもそうか。

 

「ではとっとと帰ろうか。恐く虚も待っているだろう」

 

モノレールのホームで待っている筈だ。

 

「そうね、じゃぁ行きましょうか」

 

そう言って楯無は自身のキャリーケースを片手に持ち、私の手を握った。

 

「……楯無?」

「……私達は一日限定カップル、でしょ?」

 

上目遣いで楯無しは言ってくる。

 

だから最後までやり通せ、と言う事か……いいだろう。

 

「あぁ、そうだな」

 

私はそれに応じ、楯無の手を握り返した。

 

「ふふっ、うーれしっ!」

 

楯無は魅力的な笑みを浮かべながらそう言ってきた。

 

その笑顔に私は不覚にも少々見惚れてしまった。そして同時に思った。成程、喜び方がレイディと一緒だ。古鷹の言う通り、相性が良いのだろう。

 

「……あぁ。では、行こうか」

「えぇ」

 

私達は歩き出し、学園へ続くモノレールのある駅へ向かった。

 

 

 

 

「――ふぅ、コレで良し、と」

 

私は暗部としての活動も考慮されて特別に用意された自分専用の部屋で明日の準備を終えた。

 

「ふふっ、私だけの、私達だけの秘密か」

 

頬にまた熱を感じながら今までの出来事を振り返える。

 

それは本気の模擬戦。

未だマニュアルに慣れていない為、動きは拙かったが、確かな才能を感じられた。もし、動きが完全になった時を考えれば、良きライバルになると思う。

 

それは二人でデート。

短い時間だったけど、一緒に食事をしたり、服を買ったり、アクセサリーを買ったりと、とても楽しかった。また一緒に行きたいと思う。

 

それは帰りの電車での出来事。

私の勇気を振り絞った言葉は、生憎椿が寝てしまい届かなかなったが、膝枕したり、素顔を拝見したり、と色々と役得だった。

 

「それにしても、勿体ないわね」

 

素顔を見た時の感想がソレだった。

 

穏やかに閉じられた目。

整った鼻。

血色の良い唇。

 

お世辞ではなく、十分かっこいいと言える顔立ちをしていた。

 

「早く治れば、いいのだけれど……」

 

視線恐怖症。

 

こればっかりは自分は何も出来ない。例えどんなに克服の手伝いをしたとしても、最後に振り切るのは本人だから。

 

「……それにしても私があんな行動に出るとはわね」

 

椿の視線恐怖症は一度置いておき、再びデートの時の事を思い出していた。

 

それはペアルックのリングを買った時の事。

メッセージと名前をレーザーで彫る直前で私は椿に聞こえない様に、店員に無茶を言ってあるお願いをしたのだ。私はその事を思い出しながら胸にかけたリングを見る。

刻んだメッセージは

 

『first love,continue forever』

 

書いてて恥ずかしかった。ましてや見せられるわけがない。そしてそのメッセージと共に刻んだ名前。そこに彫られているのは楯無ではなく、本当の名前。両親がくれた、私だけの名前。『楯無』の役目を終えるまで誰も呼ばない大切な名前。

 

「初恋かぁ……」

 

しみじみ呟く。

 

「ライバルは多いわね」

 

でも負ける訳にはいかない。

 

例え実の妹でも。

 

例え妹の様な存在であっても。

 

私はそう心に誓を立てつつ、ベットに身を投げ出し、いずれ来るであろう睡魔を待った。

 




とうとうお気に入り登録数500を突破!本当にありがとうございます!
さて、これで企業訪問のお話は終わりです。

最後も伏線の様で伏線じゃないモノも入れて甘めで構成。
主人公の素顔(寝顔)を楯無は拝見しました(`・ω・´)
いかかでしたでしょうか?

それと、後付けなのですが、楯無は自分の本名を刻んだ後、その記録を改竄してあるので情報統制はしっかりとしてます。まぁ、どうでも良い後付けなのですが、一応。

そして主任の技術チート発動!
でも、ストーリー中に完成するかは未定。


・射出型拡張領域(仮称第五世代技術)


主任が第一世代、正確には拡張領域が世に出回った時から着目し、10年もの歳月を費やして試作品にまで漕ぎ着けたもの。本当は第四世代として発表したかった様だが、篠ノ之束の展開装甲に先を越されてしまい、若干恨みが増したとの事。

使用用途は拡張領域内からそのまま弾を発射するという、見た目地味な技術である。

だが、発射時には砲身や弾薬を必要とせず、また、射角も無制限、反動もなく、さらには自由に弾速や連射速度を調整でき、果てはエネルギー兵器も収束を悟られずに発射できる凶悪な代物である。

ただし、これはあくまでも完成した時のスペックであり、古鷹に積んでいる試作品は一定以上の弾速が出せず、射角も制限され、連射も出来ない。また、光学兵器も発射出来ない。
今後の運用データ次第では改良も見込まれるが、如何せんオーバーテクノロジーである為、改良にはかなりの時間が掛かる。よって現在は運用データ収集のみ行い、改良は後回しにされることとなる。


それでは次回もお楽しみに!

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