ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第二十話:企業訪問二日目後半a

私は食堂の入口手前で立ち止まっている。

 

目標は暇そうにたむろっている楯無に一緒にお出かけを、世間一般ではデートと呼ばれる(らしい)ものをこれから申し込む事である。

 

だが、私はここに来て躊躇してしまっていた。

 

まぁ理由は解るだろう?

 

(……共に出かけよう、と言うだけなのだがな)

 

一度デートと認識してしまうと、どうにも踏み出せない。中々気恥ずかしいモノなのだ。察して欲しい。

 

(さて、どうしたものか)

 

そうは思ってみたが、考える時間は余りないだろう。time is money――時は金なり、である。全く、こんな時に己の肝が座っていない事がとても恨めしい。

 

(……覚悟を、決めるか。私は、自らの意思で決めたのだ)

 

ならば、実行せねばならない。

 

私は自らを奮い立たせ、楯無に近づく。

 

「……楯無」

「ん?あら、遅かったじゃない」

 

私が一声かけると、楯無は振り向いた。

 

「ふむふむ……中々似合ってる格好ね」

 

そして私の格好を見るやいないや、評価を下した。

 

「そう思うか?」

「えぇそうね。少なくともスーツよりはましよ」

 

失礼な。私としては自分はスーツの方が似合ってると思っていたのだがな。

 

「まぁ、お前も似合っていると思うぞ?……制服よりは」

 

楯無の現在の服装はペプラムブラウスと名も知らない花が描かれたロングスカートであり、彼女の水色の髪によく似合う、落ち着きのある服装だった。

 

……性格はこの際置いておこう。余談だが、この研究所では基本的に私服が許されている。白衣の下に私服を着ている研究員は結構いる。

 

まぁ、清潔さが必要な部署は制服を義務付けているが、少数なのだ。

 

「褒め言葉は受け取っておくわ」

 

皮肉返しは失敗した様だ。

 

「それで?そんなに気合の入っている格好をしてるだから、デートのお誘いにでも来たのかしら?」

「あぁ、そうだな。楯無、私とデートをしよう」

「そうよね。どうせ色気にきょ―――ほぇ?」

 

楯無は素っ頓狂な声を上げた。

 

……このまま押しきれるか?

 

「どうした?」

「椿、今なんて言ったの?」

「共に出かけよう、と言っただけなのだが?」

 

台詞は違うが、内容は間違ってない。

 

「本当は?」

 

……どうやら勢いのままでは上手くいかないらしい。

 

私は正直に言う事にした。

 

「……しよう、と言ったのだ」

「何?」

「だからな、楯無。私はデートをしよう、と言ったのだ……どう、だろうか?」

 

これ以上は余り言いたくない。余りにも恥ずかすぎる。

 

「……」

 

楯無は顔を真っ赤にしていた。

 

当然だろう、私はポーカーフェイスには自身があるつもりだったが、頬に熱さを感じる。恐く今の私も楯無同様に顔が赤くなっている筈だ。

 

それに、妙に胸が高鳴って仕方がない。一体、どうしたものか……。

 

「……差金は千歳さんね?仕向けられたでしょ」

 

楯無は一度持ち直し、仕向けた人物の名を言い当てる。

 

「確かに、そうだ」

「……やっぱり」

 

その言葉を聞いて楯無は残念そうにしていた。

 

「だが、仕向けられたから仕方なく行こう、と思ったのでは決してない」

「え?それって――「私は」」

 

楯無の言葉を遮り、話を続ける。

 

「私はな、楯無。君と一緒に街を巡り歩くのを望んだんだ。他の誰意思でもない私自身の意思で」

 

だから、と一言置いて告げる。

 

「共に行こう、楯無。私は君と共に残りの時間を過ごしたい」

「……」

 

楯無は真っ赤になりながら黙って聞いていた。……やはり、断られるのだろうか?

 

私は心中穏やかでなかった。

 

だが、楯無は、ゆっくりと私の望んだ答えを告げてくれた。

 

はちきれんばかりの笑みと共に。

 

「……うん。じゃぁ、行きましょう」

 

……良かった。

 

「……ありがとう。では、行こう、楯無」

「勿論椿の奢りよね?」

「当たり前だろう?これは所謂男の甲斐性の魅せ時、だからな」

「分かってるじゃな「あぁ、ちょっと待ってもらうわよ?」――千歳さん?」

 

私達はそう言いながら食堂を出ようとしたが、突然千歳さんが現れ、歩み止めさせた。

 

取り敢えず私は千歳さんに尋ねる。

 

「どうかしましたか?」

「椿君に渡し忘れてたわ。はいこれ」

 

そう言って渡したのは車の鍵だった。

 

「あぁ、そういえば足の事を忘れてましたね」

「えぇ、危うく私も忘れるところだったわ」

 

生憎、研究所の近くにはバス停も駅もないのだ。

まぁ、当然と言えば当然なのかもしれないが。

 

「車種は?」

「GranTurismo-R Black Edition」

 

高級車だった。本当に使っても良いのだろうか?

 

「良いのですか?」

「えぇ問題無いわ。貴方は普段目立たないんだから、もう少し派手にすべきよ」

 

そんなモノだろうか?一小市民である私には、高級車は流石に釣り合いが取れないと思うのだが……まぁ、今ぐらい、気にする必要はない、か。

 

「では有り難く使わせて貰います」

「但し、行き帰りだけに使いなさいよ?」

「解かっていますよ」

 

今回の目的は楯無と共に街を巡り歩く事なのだから。間違ってドライブデートが目的ではない。無論、それはそれで魅力的なのかもしれないが……今回はお預けだ。

 

(……お預け?)

 

私は何を言っているのだろうか……解らん。取り敢えず、置いておこう。

 

「では、行ってきます」

「行ってくるわ」

「行ってらっしゃい」

 

私と楯無は千歳さんにそう言って人員輸送エレベーターに乗り込んだ。

 

 

 

 

「気持ちいいわね~」

「そうだな」

 

窓を開けて景色を眺めながら呟く楯無に、私はGranTurismoを運転しながら答える。

 

そして楯無は話を続けてくる。

 

「そういえばね」

「何だ?」

「確認するけど、私達はこれからデートをするのよね?」

 

男女が共に出かけるのをデートと呼ぶのならな。

 

「まぁ、そうだな」

「じゃあ、これからデートする私達はカップルかしら?」

 

その一言に思わずハンドルに頭を打ち付けそうになった。バランスを崩さなかった自分を今褒めても悪くはない筈だ。

 

「危ないじゃない」

「喧しい。楯無、何故君はそう言う発想になるんだ……」

「い、いいから答えなさいよ」

 

そう言う楯無の頬は若干赤い。恥ずかしいのなら聞かないで欲しい私だって恥ずかしい……が、取り敢えず答えは出す。

 

「あ、あぁ。……私達はカップルだな、一日限定の」

「一日は余計よ」

「事実だ」

 

そう言うと楯無はぶー、と頬を膨らませながらジト目で睨んでくる。

 

何故そうなる。私は事実を言っただけだろうに。

 

「……椿は」

「どうした?」

 

楯無は再び問いかけてきた。今度は心配する様に声音を変えて。

 

「何故、視線恐怖症になってしまったの?」

 

……やはり調べていたか。まぁ、当然と言えば当然か。

 

「……恐れたから、だ」

 

一言だけ呟く。

 

「恐れた?」

「あぁ、だが詳しくは話せない。話したくは、ない」

 

私はこの事を人前で話せる程、心に余裕はない。それに、当時の私の年齢的にも色々と無理があるだから。あの時の私は3歳。あの年齢であの口調は、余りにも突拍子な話だから。

 

……最も、千歳さんには親族に原因がある、とだけは見抜かれたがな。

 

もし話せるとしても当事者の一人である、あの男の弁護士だけ。だが、彼は既に老衰で他界している。それを知ったのは高校2年生の時、新聞のお悔やみ欄に載っていたのだ。

 

弁護士を辞めたのは中学3年の時、遺産管理人の変更が届いてから聞いていたが、非常に惜しい人物だったと思う。故に私は誰にも話せない。話したくは、ないのだ。

 

「……そう、聞いて悪かったわね」

「いや、気にしなくてもいい。これは何時か解決しなければならない問題だ。そしてだ」

「そして?」

「これから私達は楽しみに行くのだろう?なら、辛気臭い話はコレで終わりにしよう」

「……そうね。えぇ、そうするわ」

 

若干暗い顔をしていたが、明るさを取り戻して再び風景を楽しみ始めていた。

 

 

 

 

1時間後

 

「さぁ、着いたぞ」

「そのようね」

 

私は有料駐車場に車を止めた。

 

「それで?これからの予定は考えているのかしら?」

「無論。だが先ずは腹ごしらえだ。」

「そういえばお昼は未だだったわね」

「あぁ、この近くに洒落た喫茶店がある。そこで済ませよう」

「解ったわ」

 

少し歩くと看板が見え、私は其処に向かった。

 

カラン、カラン――

 

私達が中に入ると、扉に付けられた来客を告げるベルが鳴り、店員が応対に出てくる。

 

「いらっしゃいませ、何名様でしょうか」

「二人です」

「解りました。ではテーブル席にご案内致します」

 

店員によって窓際のテーブルに案内された。そして私達は案内されたテーブルに向き合う様に座る。見る者から見ればお見合いに見え―――何を思っているのやら、私は。

 

「メニューは此方からどうぞ」

店員はコルクで縁取りされたメニューブックを私達に渡してくる。

 

「では、これからお冷とおしぼりをお持ち致します」

 

店員はそう言って去った。

 

「ふーむ……中々落ち着きがあって良い所ね」

 

楯無は年季が入り、古めかしい音楽が流れるこの独特の雰囲気を持った店内を見渡しながら言った。

 

因みに私は一度休暇を半ば強制的に(千歳さんに)取らされた時、この店を見つけ、この雰囲気を気に入ったのだ。とても落ち着ける良い場所である。た何時か来ようと思っていたが、まさかこんな形でソレが叶うとは思わなかった。

 

「あぁ、ここはかなり穴場の店でな」

 

休暇から帰って調べて見たのだが、此処は知る人ぞ知る名店らしい。偶々訪れた時に巡り会えたのだから、幸運と言えるだろう。

 

「へぇー」

 

楯無はそう呟き、手渡されたメニューを開く。

 

「さぁーて、何にしようかしら」

「まぁ、好きに選ぶといい」

 

私と楯無はそれぞれメニューを見ながら考え込む。

「お冷とおしぼりをお持ち致しました」

 

店員は手際よく並べていった。

 

「では、御注文が決まりましたら、お手元のベルで御呼びください」

「解りました」

「では、ごゆるりとお寛ぎ下さい」

 

暫くメニューを眺めていると、楯無が話しかけてきた。

 

「椿は決まった?」

「あぁ、決まった。楯無は決まったのか?」

「えぇ、この『店長特製オリジナルソースのナポリタン』と『オレンジジュース』よ」

「ほう、それか。因みに私は『プレミアムサンドウィッチ』と『ダージリン』だな」

「あら、以外に少食なのね?」

 

……そう言えば、昼食を取っている時、本音や簪、一夏にもそんな事を突っ込まれた事があったな。少なくないか?と。まぁ、私はそんな事はないんだがな。

 

「あぁ、昼はがっつり食べない。こうして軽食と飲み物で済ませる」

「へぇ、そうなんだ」

「うむ、そういう事だ。では、頼むぞ」

「解ったわ」

 

私は手元のベルを鳴らして店員を呼び寄せる。そして直ぐにに店員が駆け寄ってきた。

 

「御注文はお決まりでしょうか?」

「はい。店長特製オリジナルソースのナポリタン、プレミアムサンドウィッチ、ダージリン、オレンジジュースをそれぞれ一つづつでお願いします」

「かしこまりました。では、ご注文を繰り返します。店長特製オリジナルソースのナポリタンがお一つ、プレミアムサンドウィッチがお一つ、ダージリンがお一つ、オレンジジュースがお一つ。以上の品でよろしいでしょうか?」

 

店員は淀みなく読み上げ、再度確認をしてくる。

 

「はい」

「では、暫くお待ちください」

 

そう言って店員は私達のテーブルを後にした。

 

 

 

 

暫く楯無と雑談をしながら過ごしていると店員がカートで料理を運んで来た。

 

「お待たせしました。ナポリタンとオレンジジュースを注文したお客様は?」

「私よ」

「では、熱いので火傷に気おつけながらお召し上がり下さい」

 

そう言いながら店員は楯無の前にナポリタンとオレンジジュースを置いた。

 

 

「そして此方がサンドウィッチとダージリンになります」

 

複数のサンドウィッチと湯気の立つダージリンを私の手前に置いた。

 

「では、ごゆっくりおくつろぎ下さいませ」

 

そう言って店員は自分の持ち場へ戻って言った。

 

「じゃぁ、いただきます」

「いただきます」

 

楯無はフォークで麺を巻き取り、一口。そして私もサンドウィッチを咀嚼する。

 

「美味しいわね、このソースは一体何でできてるのかしら?」

「ソレを言ったら経営にならんだろう」

「それもそうね」

 

暫くの間、私達は黙々と食べ進めていく。

これ程落ち着いた雰囲気の場所なのだ、多くを語る必要は無いだろう。

 

 

 

 

「そういえばねぇ椿」

「どうした?」

 

食事の半ば、楯無が話し掛けてきた。

私はソレに対し一言応え、ダージリンを飲む。

 

「貴方は食堂でかんちゃんと本音に『あーん』したわよね?されたわよね?」

「……!?」

 

楯無の一言に思わず吹き出しそうになった。どうにかそれを耐え、一言だけ返す。

 

「っ……見ていたのか」

「えぇ、私がかんちゃんを観察しない日は無いわ」

 

おのれ露出狂のシスコンストーカーめ。

 

「それで、なのだけど」

「……まさか」

 

やれというのか?あの行為を。

 

「えぇ、そのまさかよ?カップルなのだから、拒否権があるとは思わないでね」

 

あれは本当に恥ずかしいのだが……まさか此処に来てまたやるとは思わなんだ。

 

「……解った」

 

逃げようにも逃げ道がない。苦渋の決断だった。

 

「素直でよろしい。それじゃぁ、……あーん」

 

そう言って楯無はフォークでナポリタンを絡め取り、私に差し出してくる。

どうやら先攻は楯無らしい。いや、どっちが先攻後攻なのかは私の知ったことではないが。

 

「……『あーん』」

 

私はソレを口に入れて咀嚼し、ゆっくりと味わう。

 

「お味は?」

「……あぁ、美味いな」

 

確かに美味いには美味い。だが恥ずかしすぎる。他に客が居ないとはいえ、羞恥プレイには変わりない。何なのだ。これを人前で出来るカップルの連中は。本当に末恐ろしい。

 

「じゃぁ、次は貴方の出番ね」

 

そう言って楯無はフォークを渡してくる。

 

「……あぁ」

 

私は楯無からフォークを受け取り、そしてナポリタンを絡め取り、絡め取ったソレを楯無の口許に運び、あの小っ恥ずかしい一言を言う。

 

「『あーん』」

「ちょっと、何で棒読みなのよ」

 

楯無がジト目で睨んできた。……くっ、注文の多い奴め。

 

「あーん」

「あむっ……美味しい♪」

 

楯無はソレを美味しそうに頬に手を当てながら食べていた。

まぁ、満足そうにしているのなら、それでいいかもしれないな。

羞恥心は置いておくのが前提ではあるが、な。

 

 

 

 

 

「さて……徐々行くか」

「えぇ、私も満足したわ」

 

食べさせ合いを終えてから私達は雑談を小一時間程していた。そして徐々頃合かと見て私は会計を済ませて店を出る。

 

「それで、今後の予定は?」

「少し歩けば大型のショッピングモールがある。そこで買い物と洒落こもう」

 

時間的にもソレで終いになるだろう。流石に午後だけだとやる事は限られる。

 

「そう、解ったわ」

 

私達は歩きながら目的地へ歩いていった。

 

 

 

 

――大型ショッピングモール――

 

「へぇ、結構混んでるのね」

「まぁ、この街で一番大きいショッピングモールだからな。休日になれば自然と人が集まる」

 

モール内を見回すと大勢の利用客達が思い思いに様々な店に足を運んでいた。そして仲睦まじいカップルも幾つか見受けられる。

 

……お熱いことだな。

 

「さて、先ず何処から見て回りたい?」

「んー、その前に♪」

 

楯無は何かを思いついた様な顔した。

 

「ん?どうし「えいっ」……」

 

その掛け声と共に楯無は私の腕を取り、抱き込んでくる。そして必然的に腕に母性の塊の感触がダイレクトに伝わってきた。

 

「……これは、どういうつもりだ?」

 

頬に熱を感じる……存外、私も初心らしい。

 

「これは、そう、はぐれないためよ!」

 

そう言いながらも頬を赤らめている。私だって恥ずかしいのだがな……。

 

「それに、私達はカップルで更に言えばデート中だから別に良いじゃない」

 

まぁ、楯無の主張は間違ってはいない。

 

……今日ぐらいは、身持ちを固くする必要はない、か。

 

「……絶対にはぐれるなよ?」

「勿論!」

 

楯無は笑顔で応じてきた。

 

全く、元気の良い返事な事だ。

 

私達は熱々カップル宜しくな状態で先ず、服のコーナーへ向かった。

 

 

 

 

「これなんてどう?」

「良いと思うぞ」

 

現在、楯無は思い思いに服を選んでは試着して私に見せてくる。

 

そして今はは以前の落ち着いた服とは違い、女子らしい――流行服とでも言うのだろうか?――服を試着している。内容はクリーム色のサイズが少し大きいニットに黒のレザースカートである。

 

まぁ、元が良いから何でも似合うのだがな。

 

「じゃぁこれは?」

 

今度は季節を先取りしたお洒落な夏服、といった感じである。淡い色合いのシャツには赤萼紫陽花が、そしてスカートの部分には向日葵が描かれていた。

 

「似合うと思うぞ」

「……ちょっとー」

「何だ?」

 

楯無が何か不満があるように何か言ってきた。

 

「さっきから『似合ってると思うぞ』とか『良いと思うぞ』しか言ってないじゃない。ちゃんと見てる?」

「……仕方がないだろう?私にファッションセンスを問われても困る」

 

それに、今回のこの洒落た服だって結局は千歳さんが前々から用意していた(らしい)ものなのだ。私の普段着は季節にあったものか、もしくは機能性重視のものしか選んでない。そんな私にファッションセンスを求めるのは土台無理があるというモノだ。

 

「それにしたって褒め方だって色々あるじゃないの」

 

本当に注文の多い奴だな。だが、な。

 

「こればっかりは無理だな。私は素直な感想しか言えん。言葉を飾るのは不得意でな」

 

偶に小っ恥ずかしい事を言ってしまうのだが、な。

 

「そ、そう……」

 

私の言葉に偽りが無いと見たのだろうか、頬を少し赤らめていた。

 

「それで、かなり試着いていたようだが、買いたい服は決まったか?」

「えぇそうよ」

「そうか、では早速会計を「まだよ」――何?」

 

未だ試着し足りないとでも言うのか。

 

「まだ貴方の服を買っていないわ」

 

どうやら私の服をコーディネートしてくれるらしい。

 

「要らんだろう。私はこれで十ぶ「ダメよ」……」

 

拒否権はないらしい。

 

「……解った。私を着せ替え人形でも何でも好きにするといい」

「じゃぁ早速選んでくるわ!」

 

そう言いって楯無は店内から私に似合うであろう服を探し始めた。

 

 

 

 

「それで、満足したか?」

 

現在、私達は片手に服の入った袋を持って手を繋ぎながら歩いている。そして新たに楯無に選んで貰った帽子(あの後服以外にも帽子を含めて幾つか買わされた)を被っている。

 

尚、楯無の手は暗部の人間だという割には柔らかく、繊細で暖かな手だった、とだけ言っておく。それ以上の感想は無い。

 

「えぇ、満足したわ」

「ふむ……次はアクセサリーでも見に行くか」

「賛成!……って、お金大丈夫なの?」

「生まれてこの方無駄使いをしたことのない私の財力を舐めるなよ?」

 

それに、千歳さん程でもないが私もまた川崎から結構な給料を貰っているのでな……と言っても、つい最近減給を食らってしまったのだが。まだ入社して2ヶ月も経たないのに……はぁ。

 

「そう、なら安心したわ」

「まぁ、そう言う事だ。さて、アクセサリーショップはあっちにある。」

 

私はアクセサリーショップのある方向に進路を変える。そして楯無は私に手を引かれながら、モール内を見回していた。

 

「しっかし、色々あるわね。品揃えが主要都市や学園の近くの街と余りに変わらないわ」

 

まぁ、店頭に置かれている物品を見れば解るだろう。

 

「そうだ。何故なら此処は川崎が投資したからな」

「そうなの?」

「あぁ、川崎はテストケースとしてこの街にこのショッピングモールを建てた様だからな」

「テストケース?一体何のかしら?」

「上の経営戦略の考えなんぞは皆目知らん。だが、周りを見る限りは少なくとも結果は成功していると言えるだろう?」

「そうね、これだけ客が来れば損にはならないでしょ」

 

私と楯無は歩きながら人並みを見渡す。皆活気に溢れているのが肌からも伝わってくる。この喧騒の中には一切の女尊男卑の気配は無く、とても良い場所と言えるだろう。

 

「さて、そんな会話をしている内にアクセサリーショップだ」

「あら、以外に近いのね」

「店の配置も計算済み、と言った所か」

「そのようね」

 

一体どうやって利用しやすい様に計算したのだろうか?まぁ、今はどうでも良いか。

 

「いらっしゃいませ、何かお探しでしょうか?」

 

そんな事を考えていると店員が応対に来た。

 

「楯無、お前はどんなアクセサリーを所望だ?」

「んー……そうね、ペアルックの物はどれかしら?」

「ペアルックですか、では此方に付いてきて下さい」

「解ったわ」

 

楯無は店員の後に付いていき、私もソレに続いた。

 

「此方になります。では、ごゆるりとお選び下さい」

「えぇ、案内してくれありがとう」

 

案内を終えた店員は私達にもう一度礼をし、持ち場に戻っていった。

 

「しかし、何故ペアルックにしようと思った?」

 

私は持ち場に戻っていった店員を見送りながら楯無に問う。

 

「寧ろ私とペアルックするのは嫌?」

「そんな訳ではないが……」

「じゃぁ良いじゃない。記念よ」

 

そう言いって楯無は品定めを始めた。

 

まぁ、私も選んでみようか。

 

そう思いながら私もアクセサリーを見始める。

 

革のブレスレットや銀のネックレス、組み合わせるとハートになる物、マジックリングetc……見れば本当に種類があった。それぞれに特徴があり、中々面白いモノである。

 

「迷うわねー」

「まぁ、どれもこれも甲乙付けがたいな」

「そうね」

 

さて、どうしたものか。本当に甲乙付けがたい。

 

そんな事を考えながら品定めをしていると、先程の店員が話しかけてきた。

 

「もし、お客様?」

「なんでしょうか?」

「差し出がましいかもしれませんが、此方はいかがでしょうか?」

 

そう言って店員が薦めてきたのは金と銀の首にかけるタイプのペアリングだった。因みに両方組み合わせるとハートの形をした凹みが出来あがる仕組である。

 

「これの特典は?」

「はい、此方のペアリングは現在、レーザー刻印が無料でできます。一言メッセージを書いてお互いに身に付けるのはいかがでしょうか?勿論お二人の名前も刻まれます」

 

ほう、中々面白い。一言メッセージか。

 

「へぇ、中々良いじゃない。それで、文字は別々に出来るの?」

「可能です」

 

お互いに好きなメッセージを、か。

 

「楯無、どう思う?」

「私は気に入ったわ」

 

なら問題はないだろう。私も気に入った。

 

「では、ソレにします」

「ありがとうございます。ではお会計後にメッセージの説明に入りますので、お会計を済ませたら、あちらの席でお待ちください」

「解りました」

 

私と楯無はペアリングを購入する為、会計窓口へ向かった。

 

 

 

 

「――説明は以上になります。ご不明な点はありませんでしょうか?」

「無いわ」

「あぁ、無いな」

 

私と楯無は頷いた。

 

「では、お手元の資料を参考に用紙の記入を進めて下さい。何か解らない点がありましたらいつでもお気軽に話し掛けて下さい」

 

そう言って店員は別の客の応対の為に戻っていった。

 

「椿は自分のリングになんて書くの?」

 

暫く書き進めていると不意に楯無が話しかけてきた

 

「ふむ……『Recollections of me and you (私と貴方の思い出)』、か?」

「ちょっと味気無いわねぇ」

「失礼な、そう言うお前はなんて書くのだ?」

 

私としてはかなりの力作だと思うのだがな。

 

「それは秘密よ」

「何故、其処に来て秘密にするのだ……」

「い、いいじゃない別に」

 

そう言いながら楯無は私に用紙を見せない様に隠してくる。

 

……余計に気になるのだが。そして何故頬を赤らめる。

 

「まぁ良い。それで、書き終えたな?」

「えぇ。もう呼んでも良いわ」

「では店員を呼ぼう」

 

私は店員を呼んだ。直ぐさま店員が駆けつけてくる。

 

「記入を終えたでしょうか?」

「はい」

 

私はそう言って用紙を渡す。

 

「では其方のお客様も――――」

 

そう言って楯無の用紙を回収しようとするが、楯無は店員に話しかけた。

 

「その事だけど、ちょっと良いかしら?」

「どうしましか?」

「えぇ、ちょっとね」

 

そう言って楯無は私に聞こえない様に店員と暫く話し込んでいた。

一体、何を話しているのだろうか?

 

「良いかしら?」

「勿論でございます」

 

店員は楯無の一言に笑顔で答えていた。

 

「では、3分程で仕上げますので少々お待ち下さい」

 

そう言って店員はカウンターの奥に行ってしまった。

 

「3分って遅いのかしら?それとも早いのかしら?」

「早い方だ。最も、店員が機械に文字を入力する時間も含むがな」

「へぇー」

 

そしてそれから3分程待った。

 

「お待たせしました。どうぞ」

 

そう言って私には銀のリングが渡された。

 

「次に、どうぞ」

「えぇ」

 

店員は私からは見えない位置で金のリングを楯無に渡していた。

 

「では、またのご利用をお待ちしています」

 

そう言って店員は頭を下げていた。

 

 

 

 

「ふぅ……終わったか」

「疲れたー」

 

私と楯無は現在ショッピングモールを出て有料駐車場に向かっている。

 

「買い物は思う存分堪能出来たようだな?」

「えぇ。でも欲を言えば夕食も済ませたかったわね」

「まぁ、それは仕方がないだろうな」

 

時間的にもいっぱいいっぱいなのでな。

 

「そうよねー」

「そして明日からまた学業再開だな」

「面倒くさいわね」

「サボるなよ?」

「解ってるわよ」

 

私達がそんな雑談をしていると何時の間にか駐車場に辿り着き、荷物をトランクに入れてからGranTurismoに乗り込み、発進した。

 

 

 

 

「……楽しかった?」

 

運転中に楯無が話し掛けてくる。

 

「無論だ」

 

これは紛れない私自身の本心からの答えである。

 

「そう」

 

楯無は私を見ながら言う。

 

「昔の私なら思いもしなかった経験だった」

 

両親を失って絶望してから、こうして充実した日々を過ごせるとは思っていなかった。だが、今こうして充実した一日を過ごす事ができた。だから、楽しいと思えた。

 

「……今までお出かけした事がないの?」

「そうとも言うな」

 

初めて家族で出かけようとしたら、事故で失ってしまったから。孤児院に居た時も、結局出掛けるのを拒否していたのだ。故に私は、誰かと一度も出かけた事がない。

 

「……ご両親を亡くして、辛くは無かったの?」

「辛かったさ。怒りもしたし、悲しみもしたし、嘆きもしたし、無力な自分を恨みもした」

 

だが、と言って、私は言葉を続ける。

 

「今は、とても楽しい。それで充分だ」

 

私は静かに微笑えみながら、更に言葉を続ける。

 

「だから、この一時を共に過ごしてくれたことを私は感謝している。――ありがとう」

「……そう」

 

楯無もまた静かに微笑んで夜景を楽しみ始めた。それから会話が続く事は無かったが、心地よい静寂だけが私達を満たした。

 




さて、初めてデート回とやらを書き上げました。
出来るだけ糖分全開にしようと頑張ってみましたが、どうでしょうか?
そして書き終えて思った事。

楯無視点、入れるべきだったか?と。

正直、書き直そうかと思いましたが、悩んだ挙句このまま投稿する事にしました。
今後もデート回の様なものを書く予定はあるので、今後の為にアドバイスをお願いします。

そして、お待ちかね(?)のアンケートの結果発表です!

1.ラウラをヒロインに入れる/4票
2.シャルをヒロインに入れる/8票
3.両方入れる/3票
4.どちらも入れない/10票

この結果により、ヒロイン勢はこのまま維持に決まりました。
ただし、シャルやラウラは何らかの形で関わらせていくので、お楽しみに。


ガッサン4256さん、つばささん、雪風冬人 弐式さん、蓮2さん、sakurasakuさん、エタンさん、ウォレンさん、バルサさん、蒼咲 若葉さん、赤介さん、天地境界さん、Phenomenonさん、fujitaさん、更識簪さん、白野威さん、、kingコングさん、xixさん、紅神 和也さん、Galilさん、伏羲さん、raiarutoさん、借金持ちの天秤座さん、けんちゃんさんご協力、ありがとうございました!

このペースと文章量で書き続けれるのは皆様が暇つぶしに覗いてくれるのとお気に入り登録をしてくれている。そして何よりも、感想を書いてくれるお陰です。本当に感謝感激です!
……内容の方は徐々にレベルアップさせていきます。ご期待(?)下さい!

それでは次回もお楽しみに!

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