ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

23 / 54
第一九話:企業訪問二日目前半

 

朝、私は主任に言われた通り楯無と共に朝の朝礼会の為に講堂へ向かった。

 

「それにしても朝礼会ねぇ」

「まぁ、面白いものが見れる。期待しておくといい」

 

暫くして開発部と研究部の職員が全員集まり、最後に主任がやってきて朝礼の為に壇上にあがり、職員全員の視線を受け止めた。

 

職員全員に視線を受け止めるその顔は、無精ひげがそられ、ボサボサの髪もしっかりと整えられており、緩みきった表情は一切ない。

 

「……」

 

主任はその瞳に強い意思を宿らせて壇上から私達をゆっくりと見回す。

 

その姿に以前の様な面影は一切見当たらなかった。

 

「……本当あの人が主任なの?」

「まぁ……真面目になればあれくらいはできる。楯無、改めて知るといい。主任は只の変態だけではなく、”天才”であるという事を」

 

そして主任は満を侍して口をいた。

 

「おはよう諸君。君達に伝えたいことがある。

君達は我らが川崎にとって、そして世界にとっても最も重要な計画に参加して貰らっている。それはあの天災と謳われた篠ノ之束を、我々科学者の信念に泥を塗った兎を越える為の計画だ。

私は今日この日、この場で改めて宣言しよう。

我らの美しき信念を取り戻すために、

誇りを取り戻すために、

 

私は篠ノ之束が作るISを、私と君達とで作るISを持って踏破するっ! 

 

君達と私は性別も、人種も国籍も異なるが、共に考え抜き、苦しみ、その果てに様々な作品を生み出してきた仲間である。共に夢を追いかける為に、そして共に抱く信念の為に考え抜いてきた、謂わば戦友と言っても過言ではないだろう。そしてそんな君達と私が共に手を取れば、この計画は必ずや成就する筈だ。

 

否、させてみせる。 否!させなければならないっ!

 

我々は誇るべき同士と手を取り合い、親しき友人達の為に英知を振り絞り そして愛すべき家族の為に未来を勝ち取らなければならない!

取り戻そう、科学者の誇りを!

 

勝ち取ろう、我々の技術をもって!

 

科学の発展とは、人類の進化そのものである!

さぁ諸君、奪われた我らの理想を、夢のカケラを取り戻そうっ!!」

 

『ワァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!』

 

 

大地を割らんばかりの雄叫びを上げ、職員達は歓喜した。

ある者は拳を天に付き上げ、またある者は仲間と手を取り合い、またある者は静かに胸に手を当てていた。此処に一つの大な結束ができた。

 

「………」

 

楯無は唖然としていた。まさかこれ程までになるとは思ってもいなかったのだろう。

 

「驚いたか?」

「え、えぇ……」

「あの人は只の変態じゃない。変態を束ねる天才な変態だ。故に人を率いる為の素質がある」

 

だからこそあの演説を悩むことも躊躇うこともなく言う事ができる。

自らの価値観で、自らの信念で、自らの誇りをもって話す事ができる。

だからこそ彼は”天才”であり”変態”なのだ。

 

「さて、私達も行くとしよう」

「解ったわ」

 

――私も仕事を始めます

 

(あぁ頼む)

 

古鷹は機体の設計の為に意識を向け、私達は他の職員達と共に地下へ向かうエレベーターに乗った。

 

 

 

 

「ふふふ、主任も中々気合が入っていたようね」

 

更衣室で着替えて訓練場に向かうと、既に着替えて待っていた千歳さんが待っていた。

 

「えぇ、それも今回は飛びっきりだ」

「それを主任の前で言ったらまた浪曼武装を使えって行ってくるわよ?」

「勿論言いませんよ」

 

あの人は『同情するなら金をくれ』、ではくて『賞賛するならコレを使え』、だからな。……まぁ、何を使わせるのかは知らなくてもいいだろう。色々と恐ろしい。

 

「まぁいいわ、じゃぁ今回の貴方の訓練だけど、模擬戦形式にするわ。勿論PICはマニュアルで」

 

さらりとトンデモない事を言ってきた。てっきり、操縦訓練の応用かと思っていたのだがな。

 

「……未だまともに動かせないのですが」

「だからこそよ、所謂荒療治って奴ね。射撃訓練の時もそうした筈だけど?貴方は物覚えは良し、何より一度モノにした感覚を忘れにくいんでしょう?」

 

確かにそうだが……。

 

「ですが流石にコレは……」

「ですがもヘチマもないわ、私と楯無ちゃんで交互に模擬戦をして貰うわ。勿論ある程度は手加減してあげるから、ドンと来なさい。」

 

どうやら逃げ場はないらしい。

 

「勿論古鷹のアシストは無しよ……と言っても今は主任の方に意識を回してるから言う必要は無いと思うけど」

「解かっていますよ。では今ある武装以外の物をとってきても?」

「構わないわ、最初は私が相手になるから、そのつもりで」

 

先ず最初の模擬戦相手は千歳さんの様だ。

 

そして武装格納庫から幾つかの武装を量子化させ、格納する。

 

「準備が終わりました」

「じゃぁ、初めようかしら」

 

千歳さんは武装を展開する。

 

L:77式汎用突撃銃

R:90式短機関銃

 

特殊武装:零式

 

私もまた武装を展開する。

 

L:HGTELC 収束モード

R:77式汎用突撃銃

 

「そうそう、私のプロデュースした武器はどうだったかしら?」

「文句なしですよ。初めて使用しても扱いやすい」

「そう……じゃぁ楯無ちゃん、合図お願い」

『解ったわ』

 

そして楯無は開始の合図であるブザーを鳴らした。

 

私は合図と同時に狙いを定め、HGTELCのトリガーを引く。

 

「狙いが分かり易すぎよ」

 

だが、軽く避けられ、お返しにとばかりに突撃銃と短機関銃の弾幕を貼ってくる。それを私は慣れていないマニュアル操作で転がる様に避けた。

 

「そんな回避じゃ後が続かないわよ」

 

回避先に合わせる様に2機の零式がその翼にもつ2門の12.7㎜機関砲で追撃を仕掛けてきた。

 

「っ!」

 

成す術もなく次々と被弾してしまう。

 

だが、このままやられている訳にはいかない、と自らを奮い立てて体勢を立て直し、HGTELRと突撃銃で千歳さんと零式に対して交互に弾幕を貼りつつ、腰にあるブースターを前方に向けて噴射しながら後退する。

 

「甘い甘い」

 

千歳さんはバレルロールをしながら距離を詰め、それと並行させながら零式をインメルマンターン、――縦方向にUターンする空戦機動で被弾を最小限にして距離を詰めてきた。

 

……相変わらず器用だ。だが、私は千歳さんが距離を詰めてくるのを待っていたのだ。

 

思考を加速させ、一瞬で武装を展開する。

 

L:HGTELC 拡散モードへ変更

R:77式汎用突撃銃からRDI Striker12へ

 

この際、零式は無視する。肉を斬らせて骨を断つ、だ。

 

私は拡散モードに変更させたHGTELCとStrikerの引き金を引いて――

 

「残念だったわね」

 

直撃コースの筈だった。

 

しかし、引き金を引く直前に千歳さんが瞬時加速で距離を零にしてハイキック。私はまともに対応できずに銃口を逸らされ、放たれた弾丸とエネルギーはあらぬ方向へと飛んでいってしまった。

 

「な――」

「驚かない」

 

回し蹴りの要領で放たれた二撃目の蹴りに体勢を崩された。

 

致命的な隙。

 

その致命的な隙を無視していた零式に左右から2門の12.7㎜機関砲で攻め立てられる。

 

「厄介な……!!」

 

私は弾幕を張り、僅かに距離を取るのに成功する。

 

このまま終わる訳にはいかない。

 

(……やるか)

 

私は両手の銃を手放し、ひと振りの刀を展開させた。

 

:L/R 零式戦術長刀〈三日月宗近〉

 

極限までに鍛えられた、ひと振りの美しい刀が現れる。川崎の最高傑作の一つ、天下五剣の名を冠するひと振りだ。切れ味は保証しよう。

 

剣術の心得が無い私は三日月宗近を単純に刺突する為に構え、セシリア戦で古鷹のアシストの元で使用した瞬時加速を思い出しながら瞬時加速を発動させ、貫かんとする。

 

「おっと、中々良い突きね、けど、それだけね」

 

至近距離で、しかも高速機動型である不知火の瞬時加速に反応して回避して見せた。そして千歳さんは振り向き様に腰のロケット弾を放つ。

 

「まだ!」

 

私は初めて自力で成功させた瞬時加速後に、素早く身を横向きにしてロケット弾の合間を縫う様に回避し、左手に再び突撃銃を展開。弾幕を張りながら突撃を開始する。

 

「good.その対応は評価してあげるわ。それじゃぁ、ご苦労様」

 

千歳さんはそう言いながら全て避け、気付かぬうちに側面を取っていた2機の零式と千歳さんが手に持つ2丁の銃が一斉に火を吹いた。

 

零式の合計4門の12.7㎜機関砲及び機首の7.7㎜機関砲、零式の胴体の下に取り付けられたスラックガン、そして手に持つ短機関銃と突撃銃、腰のロケット弾による絶大な火力によって、回避する事が叶わず、私はは爆炎に飲まれた。

 

 

 

 

「やはり、勝てませんか」

「そんなに気を落とさなくてもいいのよ?そこそこ食い下がれたじゃない。貴方の将来性は保証するわ。勿論、努力を続けたらの話だけど」

「ありがとうございます」

 

しかし、本当に化物級だな……手加減でこれほどか。本気を出したらこの人に勝てる豪の者は居るのだろうか?

 

「あら、案外私達が見ない所に結構いるんじゃないかしら?」

 

ナチュラルに心を読まないでください。

 

「取り敢えず参りました。降参です」

 

経過時間は……5分も経ってないな。流石に落ち込みそうになるな。

 

「ほら、そんなに落ち込まない。次もあるのだがら、色々考えなさい」

「解りました。次はもっと粘って見せますよ」

「そうしなさいな。じゃぁ次は楯無ちゃんとの模擬戦ね。さっさとシールドエネルギーを補給して来なさい」

「了解」

 

手早く補給を済ませ、訓練場に出る。

 

「さぁて椿、お姉さんと楽しく遊びましょ?」

「いいだろう、徹底的に付き合ってやる」

「あんまり激しくしちゃ嫌よ?」

「勝手に言ってろ」

 

お互いに軽口を叩き合う。

 

そして千歳さんによって開幕の合図が鳴り響いた。

 

今度は開幕と同時に突撃銃で目くらましの容量で弾幕を張りながら本命のHGTELRを放つ。

 

「当たらないわ」

 

だが其処は国家代表、軽く見切ってきた。

 

やはり即興の付け焼刃ではどうにもならないな。今後は最初の一手について考える必要があるだろう。

 

「今度はこっちから行くわよ?」

 

楯無は槍を正面に構え、内蔵されたガトリング砲を放ちながら突撃してくる。私はそれを危ういながらも避け、そして突撃も無理やり捻って躱す。

 

「まだまだっ!」

 

楯無は即座に反転、振り向き様に蛇腹剣を展開、そのまま斬りつけてくる。

 

幸い巻きつく事がなかったので、私はダメージを負いながら、至近距離から両手の武装を斉射し、一旦距離を取った。しかし、レーザーは避けられ、実弾は水のカーテンで防がれた。

 

「……厄介だなソレは」

「これがミステリアス・レイディのアクア・ナノマシンよ。水を自由に操れるの」

 

水を自由に操る、か。

 

「なら、蒸発させるか吹き飛ばせば良いだけの事」

 

L:HGTELR 拡散モードへ変更

R:77式汎用突撃銃からへ90㎜投擲銃へ変更

 

「やってみなさい」

「無論だとも」

 

私はグレネードを放つと同時に接近する。

 

「おっと」

 

楯無は上方に回避し、そしてガトリング砲を放つ。

私はその銃弾を敢えて避けることはせず、距離を詰める。

 

「この距離なら……!!」

 

外さん、と思ったが、蛇腹剣が何時の間にか私の足に巻き付いていた。そして楯無は私が引き金を引く前に引っ張った。それにより射撃の態勢を崩され、レーザーはあらぬ所へ向かっていった。

 

「残念でした」

 

そしてそのまま地面に叩き付けられる。

 

「っ……効くな」

「ふふっ、距離を詰めるのに集中し過ぎた様ね」

 

集中してる間に罠を掛けてきた、か。慣れないことを理由に注意を怠ってしまった。反省するべきだろう。そして、同じ轍は二度も踏むつもりはない。

 

「……良く、覚えておこう」

「そうね、そうしておきなさい。……所でここの空間は少し熱くない?」

「生憎全身装甲では解らん。空調は常に最適でね」

 

しかし、何故いきなり熱いと言いだした……?

 

「あら、そうなの」

 

何を企んでいる?考えろ、奴は水を自在に操る。

 

(……水……水蒸気?……まさか!?)

 

「取り敢えず知っておきなさい。アクア・ナノマシンにはこんな使い方があるのを」

 

拙い、と思いながら回避機動に移る。だが、行動に出るのは既に遅かった様だ。

 

「遅いわ」

 

楯無はそう言いながら指を鳴らした。

 

そしてその瞬間私の周辺が大爆発し、私は爆炎に飲まれた。

 

 

 

 

「……水蒸気爆発とは遠慮がない事だな」

 

爆煙が晴れたあと、私はそう感想を漏らす。

 

水蒸気爆発のお陰でシールドエネルギーが殆どない。

 

「降参だ」

 

二連続で爆発によってKOされた、か。

 

「今回は私の手札を見せただけ。次は普通にやるからその時はもっと粘って頂戴ね?」

「善処しよう」

 

このアクア・ナノマシンとやらの対処も後々考えなければ、な。

 

「さぁ、次は再び私の出番よ。さっさと補給してきなさい」

 

そして優香は直ぐに出てきて指示してくる。……正直助けて欲しい、これは厳しすぎる。何せインターバルが殆どないのだ。これは、集中力の限界も試されているのだろう。

 

「解りました」

 

その後お昼近くまで模擬戦が続いた。

 

 

 

 

――シャワールーム――

 

漸く訓練が終わった。

 

まぁ、結果は両名に対して全戦全敗。目に見えていた結果である。因みに千歳さんには秒殺を10回程された。正直心が折れそうだ。だが、それでも私は得た物やマニュアルの感覚を掴めたので、今後のIS運用に活かしたいと思っている。

 

そしてシャワーで体を洗い終え、いざ着替えようとしたらある事に気付いた。

 

「……服がない?」

 

いや、正確には自分の服の変わりに、私の物ではない外出用の服に変わっているのだ。一応確認の為に辺のロッカー開けてみたが何も無かった。つまりこれに着替えろ、と言うらしい。

 

「……流石に裸は御免被る」

 

仕方なく立てかけてあった外出用の服を着た。

 

因みに服装は以下の様になっている。

 

トップス:白のストライプリブ付き7分袖シャツ

インナー:黒の半袖カットソー

パンツ :デニム・ジーンズ

 

である。幸いサイズは丁度だった。いや、寧ろ私の為に用意していたのだろう。

 

そして休憩室に向かうとスーツ姿の千歳さんが居た。

 

「あら、中々似合ってるわよ?髪を上げたらもっとだけど」

「……犯人は貴方ですか。それと髪を上げるつもりは更々ありません」

「貴方が洒落っ気が無さすぎるのがいけないのよ?」

「午後は整備班の所で過ごそうとしたのですが」

 

故に特に服装は関係無い。

 

「騙して悪いけど、貴方にはこれから楯無ちゃんとデートをして貰うわ」

 

千歳さんは唐突におかしな事を言ってきた。

 

「……一体どう言う事です?」

 

そして何故よりにもよってデートなのだ。

 

「こういう事よ」

 

ノーモーションからいきなり距離を詰められ、前髪を上げられる。

そして必然的に千歳さんと直接視線が交わる事になる。

 

「っ!?はっ、っう、っく……がっ、は、はなっ、せ……!!」

 

激しい発作が起き、視界が歪んだ。

 

「……直そうとは思わないの?」

 

千歳さんは直ぐに髪を上げるのを止めた。

 

「ハァ…ハァ……それができたら、苦労は、しません」

 

幼少の頃より幾度となくカウンセリングは受けてきた。だが、結局治ることはなかった。どうしようもないのだ、コレは。

 

「貴方の視線恐怖症は恐れから来ているのは解っているわよね?」

「……はい」

 

恐く、私の事について既に殆ど調べ上げたのだろう。

 

「その恐れが何処から来たていかという事も」

「……拒絶される事に対する、恐れ」

 

解っているのだ、そんな事は。

 

「そう。貴方の視線恐怖症は拒絶に対する恐れから来ているわ。どうしてそうなったのか気になって調べてみたの。そしてその結果、貴方の経歴には不自然な所があった。主に身元保証人の所でね。そこで推測なのだけど、貴方、親族全員から拒絶されたのでしょう?」

「……そう、です」

 

正にその通りだった。千歳さんの推測に間違いはない。そして思い出すのは過去、両親の葬式が終った後の事である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『――それで、椿君の身元保証人についてですが……』

 

老いた男性弁護士が私の身元保証人について複数親族に対して説明をしていた。だが、私にとってそんな事はどうでも良かった。

 

また失ってしまったのだ。今度こそ幸せになれると思っていたのに。

 

呆気なく、目の前で、死んだのだ。

 

絶対に失いたくないと思っていたのにも関わらず。

 

私は自分を恨んだ。無力な自分を、恨んだ。自分は未だ幼かったから、では理由にならない。何も出来ないからでは免罪符にはならないのだ。初めは自責の念に囚われ、恨み、怒り、嘆いた。

 

そして私はいつしか無気力になっていた。

 

『……どうでもいい』

 

私は深いクマができ、充血し、光を失ったかの様な濁った瞳で言う。その時の私は何も考えてなかった。何も考えず、只、虚空を見つめていた。

 

『だけどね、椿君。君は未だ幼いから『だったら』……椿君?』

『だったら()を孤児院に連れていけば良い。そうすれば、簡単だ』

 

普段は決して言わない口調で弁護士に言う私。

 

私の保護者は、私の両親は、あの人達だけなのだから。それ以外は、嫌なのだ。それだけは、絶対に断る。だが、あの人達はもう帰ってこない。なら、私はもう、独りでよかったのだ。

 

そして弁護士は幼い子がこんなはっきり、それも冷え切った口調で言ってくるとは思はなかったのだろう。私の言葉を聞いた瞬間絶句していた。そして父と母の親族達も。

 

『な、なんなのこの子……』

『……本当に幼児なのか?』

『忌み子、か。だとしたらあの人達はそのせいで……』

『何よそれ、この子を預かったら私達まで死ぬの?だったらこっちこそお断りよ!』

 

私の口調、態度、雰囲気を目の当たりにして、口々に罵声を投げかけてくる。怒り、侮蔑、恐怖、嫌悪、そして拒絶の視線を向けてきた。

 

『…………』

 

私はソレを黙って見ていた。

 

只黙って、見ていた。

 

そして弁護士はその事態を慌てながら止めにかかる。

 

『み、皆さん落ち着いて!落ち着いて下さい!何もこんな幼い子にそこまで言わなくても――』

『黙れ!どちらにしろ私達はコイツの身元保証人になるつもりはない!』

『そうよ!こんな化物見たいな奴を預かるわけがないわ!』

 

っ……化物、か。……そうか、私は化物なのか。そう、なのだろうな

 

『…………ハハッ』

『『っ!?』』

『アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!!』

 

突然嗤いだした私に全員が驚き、距離を取り始めた。

 

あぁ、皆怖がっている、私の姿を、そして私の目を見ながら怖がっているよ。

 

あぁ、怖い、皆は私を化物だと思って怖がっている。

 

あぁ、怖い、私もこんな化け物見たいな自分自身が怖いよ。

 

あぁ、怖い、君達のその視線が怖い。

 

あぁ、怖い、私も君達のその視線が怖いよ。

 

あぁ、怖い、だから私は二度と視線を合せたくない。

 

あぁ、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い、怖い。

 

だから、だから―――

 

『―――さっさと此処から出て行けぇっ!!』

 

未だ幼い自分の喉では絶対に出せないようなドスの効いた声が私から出た。

そしてその一言に親族だった者達が蜘蛛を散らすように一斉に出て行った。

 

『……椿君』

 

しかし弁護士だけは残っていた。随分と骨がある人物である。

 

『……これで解ったでしょう?孤児院への手続きをお願いできますか?』

『……解りました』

 

弁護士はやむおえないとして頷いた。

 

『それと、この事は他言無用でお願いします』

『解っています。……では一旦貴方の実家に戻りましょう』

『はい……それと私には目を合わせないで下さい』

『それは、何故ですか?』

 

彼は疑問に思ったようだ。そして私はその疑問に答える。

 

『先程目を合わせた瞬間、私は息苦しくなった』

『……対人恐怖症。それも視線恐怖症、ですか』

『恐らくは。ですがそれで親族を訴えようとは思いません』

 

その一言に彼は驚いた。

 

『なっ!?明らかに彼らに過失が『良いのです』……』

『少なくとも私は恨んでいない。』

『ですがっ!!』

『私はもう、親族だった人達とは顔を合わせたくないのです』

『……っ。解り、ました』

 

そしてこの日、私は孤児院に預かられる事が決定した。

それと同時に、私は他人と直接目を合わせる事ができなくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それでも、どうしようもないです。本当に」

 

過去を振り返り、見直す事は簡単だ。だが、トラウマだけはどうしようもならない。どうしようもならないのだ。本当に。

 

「貴方が最初から拒絶されると思うからそうなるのよ。だからその前提を崩しなさい」

「……その為にデートをしろと?」

「ありたいていで言えばそうなるわね。でも、それだけじゃないわ」

「……それだけじゃ、ない?」

 

一体何があるというのだろうか。

 

「そうよ。過ぎ去った時間は二度と戻ってこないのよ?これから貴方は戦い続ける事になる。だから、今を大事に生きなさい。今まで出来なかったのでしょう?貴方は」

「……そう、ですね」

 

前世で私は両親の為に、と全てを費やしたお陰で心休まる時間などありはしなかった。現世もそうだ。両親を失ってから無気力に生きてきて、高校生になるまでの歳月を無駄にしてしまった。そして、今この時も理由をつけて大切な筈の一時を無駄にしようとしているのだ。

 

それは絶対に避けなければいけないだろう。いや、無駄にしたくない。

 

「ですが何故よりにもよってデートなのです?」

 

それは仲睦まじい男女がする事だろうに。それに、私は今の今までそう言った経験は一切無いのだ。否、恋愛も過去にすぐに終わった初恋の只一度きりであるのだ。

 

故に、全くもって理解できない。

 

「それは秘密よ」

「秘密って……」

 

訳が解らない。

 

「あら、それとも何?楯無ちゃんには興味がないのかしら?」

「そんな事はありません……興味は、あります」

「あら、意外に素直なのね」

 

こんなところでつまらない嘘はつかない。

 

「……貴方が言わせる様に仕向けたのでは?」

「そんな事よりもほら、さっさと楯無ちゃんの所に行って誘ってきなさい。今なら食堂で私達手持ち無沙汰に待ってる筈よ?」

 

……話を逸してきたか。まぁ良い、か。

 

「……楯無には、言ってないのですね」

「当たり前よ、男の子なんだから自分で誘いなさい」

「貴方が行け、と言ったのに随分と勝手ですね」

「あら、だったら貴方はこれから”仕方なく”楯無ちゃんとデートをするのかしら?」

 

まさか。

 

「そんな失礼な気持ちで誘える訳がないでしょう……ちゃんと誘いますよ。他の誰の意思でもない、自分の意思で」

「分かってるじゃない。じゃぁさっさと行ってきなさい。」

「解りました。では失礼します」

「はいはい、頑張りなさい」

 

私は千歳さんの心遣いに感謝しつつその場を後にした。

 

 

 

 

椿君が去った後、私は一言漏らした。

 

「そうそうさっきの回答だけど。それはね、男の子の傷ついた心を癒すのは何時だって女の子だからなのよ?」

 

心に傷を負った者は異性によって癒されるのが一番の適任だと思う。その逆も然り。私は彼の過去を全てを知る事は出来ないけど、断片的になら解る。

 

あの目。

 

あの死んだ生き物の様に光を失っている目が何を見てきたのかは容易に想像できる。だからこそあの目を見て私は判断する。

 

(椿君は親を失った後、本気で自分の感情を吐き出していない)

 

それは今も刻々と溜まっていってるのでしょう。一気に爆発したら、彼は彼のままでいられるのか?いや、恐く無理。

 

(生憎、私は感情を吐き出させる役じゃないのよね)

 

自分が適任でないのは解っている。だが、だからと言ってその役が楯無なのかは預かり知らぬ事。もしかしたら学園の方にも彼が気を許している人物がいるかもしれない。いや、居るのだろう。そんな素振りが何となくだが、伝わってきた。

 

「頑張りなさい、椿君」

 

過去に囚われ続けるだけの人生は、ただ辛いだけだろうから。

 

私はソレを知らない。知らないからこそ、その辛さを軽減させたいのだ。

 

これ以上苦しまないように、と。

 

私は最後にもう一言だけ、先程言った言葉を椿君が去った方向に向けて呟いた。

 




さて、設定も更新しました是非見ていって下さい。そして次回はなんとデート回!?
お邪魔虫無しの王道デートを予定しております。
甘ったるい展開に持っていけたらなぁと思っていたり。

今回は前半に主任が演説(色々手を加えてるけど元ネタわかるかな?)、半ばで楯無と千歳が椿をフルボッコ、そして後半がシリアスっぽくなりましたが、椿の過去についてはここで全て明かされました。どうやって克服させるかは投稿者の私の腕次第。

次回、アンケートの集計結果を発表します。

そして一八話の部分で専用機の完成時期を明記してたのですが、構想と合わなくなったので変更しています。

因みに投稿者のecmは恋愛経験皆無です。え?聞いてない?スイマセン……。

それでは次回もお楽しみに!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。