ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第十八話:企業訪問一日目後半

 

エレベーターを利用して着いたのはのBF37、38、39、40の繋がった広大な空間。

 

プレートには『IS総合試験場兼主任ラボ』と書かれている。

 

懐かしい。あの日以来だ。あれから全く変わっていないな。

 

「ようこそ私のラボへ、歓迎しよう、盛大にな!」

 

そして主任は何故か威張りながら楯無を歓迎していた。

 

――貴方も以前やっていましたよ?

 

そうだっただろうか?まぁ、どうでも良いか。

 

「それで、早速だけど条件を教えてもらいましょうか」

 

楯無は以前約束した事を要求してきた。

 

「あいあい。でも先に二つ程質問があるから、そっちを優先させて貰うよ?」

「構わないわ」

 

恐く、コアの覚醒条件を洗い出す為に質問するのだろう。楯無はその意図察し、にべもなく応じた。

 

「じゃぁ一つ目。そのISを受け取ってからどれくらい経つ?」

「私が国家代表になった時に組んだから、1年は過ぎているわ」

 

つまり、1年生の頃には既に国家代表候補生ないし、代表になっていたのか。やはり学園最強の名は伊達ではない、と言った所か。

 

「へぇ、一人でIS組んだんだ。若いのにやるねぇ。次に二次移行は?」

「私一人じゃないんだけどね。まぁそれは置いとくけど。そして二次移行は未だね」

 

ふむふむと言いながら主任はメモを取っていた。

 

「君のコアの現状は解った。じゃぁ説明は古鷹に任せようか、頼むよ?」

『えぇ、解りました。ではMs.楯無、説明しましょう』

 

古鷹は楯無に説明を開始した。

 

・搭乗時間が関係する事。

最低限国家代表候補生の搭乗時間並みである300時間以上が目安。

只これはコアとの相性によって変化するとされる。

 

・コアと搭乗者の相性。最低限B以上と目安している。

現在は事例を収集中。場合によっては変動するだろう。

 

・コア自身が搭乗者を理解し、真に受け入れる事。

これは相性と言う条件をクリアした上での条件である。

 

・二次移行する事。

これは二次移行を果たした者達のコアの声が聞こえた、との発言を元に加えた。確証は未だ無いが、既に二次移行を果たしたコアは、何らかの拍子に篠ノ之束の支配から逃れられる可能性がある。ただし、篠ノ之束に敵対する機会がない為、その可能性は未知数。

 

以下の条件を満たすとコアの意志が覚醒し、搭乗者に対してコンタクトを取る。

 

現在条件が解っている事を古鷹は話した。

 

「……成程」

 

楯無は古鷹の説明を理解したようだ。だが、古鷹はそこに一つ補足を付け足した。

 

『それに、我々は、我々の上位者は篠ノ之束であると認識させられています。所謂マインド・コントロールに近いものです。なのでこれを破るには先程言った条件である『搭乗者との相性』。つまり、搭乗者を受け入れてコア自身に反抗心を持たせる事が必要です』

 

確かに一理ある。搭乗者の為に抗おうとする意思がなければ、どんなに条件を満たそうが、それを意味成す事はないだろう。

 

「じゃぁ私のコアの方はどうなっているのかしら?」

『レイディですか?それなら彼女は貴方を慕っていますよ?相性もとても良いです。このままいけば首尾よく二次移行を果たせそうな気配ですね』

「それは嬉しい情報ね。でも、何故貴方はこの子の名前を知ってるのかしら?」

 

そういえばこれもまだ言っていなかったな。

 

古鷹が再び説明を始める。

 

『説明するに辺先ず、コアにはそれぞれ一つの世界が内包されています。所謂電脳世界や精神世界とでも言っておきましょうか。コア同士であればソレを自由に行き来する事ができるのです。ですから私はレイディの世界に入って色々とお話をしていました。名前はその時に』

「へぇーそれで知ったと。それにしても電脳世界ねぇ。コアネットワークとはまた別物なのかしら?」

『そうです。我々から言わせればコアネットワークとは体の一部の様なモノですから』

 

因みにこのコアネットワークには潜行モードというモノがある。簡単に言えばステルスモードだ。現在古鷹は最低限位置情報を篠ノ之束に渡さない為、学園以外は常にそのモードにある。

 

「そう。で、精神と言うからには私もこの子の世界に入れるかしら?」

『理論上は可能です。恐くは深層同調と呼ばれる現象で我々の世界に入る事になるでしょう』

 

私も何時かは古鷹の世界に入れるのだろうか?まぁ、今気にしたところで意味は無いか。

 

「解ったわ。まぁ他にも色々聞きたい事があるけど、今回はこれでお終いするわ」

 

楯無の質問はこれで終わった。

 

「おんや~?パラジウムリアクターについてとか聞かなくてもよかったのかい?」

 

主任はそんな事を言いだした。まぁこれも重要ではあるな、何と言っても核なのだから。

 

「聞く必要はないわ。安全対策はしているのでしょう?」

「それは勿論、私は放射線で死ぬつもりは更々ないね」

「ならいいわ。必要なのでしょう?」

「そうだね、理解してくれて助かるよ」

 

この件はコレで終わりの様だ、そして次に武装テストなのだが……。

 

「さて、椿君。お待ちかねの武装テストタイムだよ✩」

 

いい年こいて横チェキしないでください。

 

「まぁまぁ気にしない気にしない」

「心を読まんでください」

「それも気にしてはいけないよ?」

 

何故私の周りは心を読める連中が多いのだろうか?

 

「まぁいいでしょう。それで?一体どんな武装を作ったんです?」

「それは見てのお楽しみさ!付いて来てくれたまえ」

 

そう言って主任は移動を開始する。私と楯無はそれに続いた。

 

暫くすると、大型の格納庫に辿り着いた。そしてそこには二機のISが鎮座していた。

 

一つは打鉄。私が最初に触れたISで、古鷹と出会った思い出深い機体。

 

因みに古鷹の前任者は川崎のIS乗りの最初期の一人だったが、私が入社する一ヶ月程前に交通事故で半身不随になって辞めたらしい。それにより、彼女の乗っていた打鉄は放置されていたのである。そして一ヶ月が経ち、私が入社した。丁度育成枠との事で、指導次いでに彼女の打鉄を整備する事になり、私がその打鉄を整備する為に触れて反応し、今に至るのだ。

 

そしてもう一つは、川崎の人間以外には初公開となる機体だ。

 

形状は全身装甲。完全な鎧武者といった体の機体である。ただし肩には非固定の大型のブースター、背中にはランドセル型のメインブースター、更には腰部にも大型のブースターが付いており、見るからに高機動型を思わせる姿である。

 

「それで、コレは?」

 

楯無がもう一機の方に興味を持ったようで、主任に話しかける。

 

「これかい?これはね不知火〈シラヌイ〉だね。」

「見たこと無いけど、どういう機体なの?」

「これは基本性能を向上させるのが目的の機体でね。打鉄を倉持と作ってた後に作成、色々と新技術を詰め込んで研究、改良を繰り返しているのさ」

「じゃぁ、何で今まで選考に出さかったの?それなりに良いものなんでしょ?」

「第2世代機は別に売り出さなくてもいいんだよ。売り物として作るよりも、次の世代の為に基礎研究を積み重ねた方がよっぽど有意義だと思ったからね。因みにこの提案は社長が許可してくれたよ。実際、ソレが正解だったと思うね」

 

だからこそ火力の高い荷電粒子砲や電磁投射砲、特殊武装、堅牢な装甲、出力の高いブースター等々を次々に作り出せるのだ。選択は間違ってはいないだろう。

 

「へぇー」

 

楯無がソレを感心した様に頷いていた。まぁ、これは大企業だからこそ出来る荒業だろう。第一世代も含めた第二世代、つまり9年以上を研究、実験のみに費やしたのだから。その費用は計り知れないモノだろう。

 

「それでバカ達が変な武装作らなければ最高なのだけれど」

 

唐突に会話に介入する人物が現れた。

 

容姿を見ると切れ目の双眸と、綺麗に切り揃えられた黒のセミロング。一見するとかなり美人で凄腕のキャリアウーマンにも見える。

 

「失礼だねぇ。浪曼があってこその川崎じゃないか」

「あら?事実じゃない。後はいこれ、報告書を纏めて置いたわ」

「あいあい、じゃぁ楯無君、君はもう知っているとは思うけど紹介しよう」

「峯風千歳よ、川崎の主席テストパイロットをしているわ」

 

会話に介入した人物の名は峯風千歳。私の師匠的存在である。尚、年齢、体重、B・W・Hは間違っても聞いてはいけない。

 

「初めまして、更識楯無です。峯風さんのお話は伺ってます」

「そんなに堅苦しく無くても結構よ、話しづらいし。千歳でいいわ。宜しく、楯無ちゃん」

「ちゃ、ちゃん付け……じゃぁよろしくお願いするわ、千歳さん」

「えぇ、よろしく」

 

楯無は直ぐに順応したらしい、口調が一瞬で元に戻った。

 

「それで、聞きたいのだけれど。千歳さんのコアはどうなっているのかしら?」

 

古鷹が先程言った条件を満たしているのか聞きたかったのだろう。

 

「残念ながら私はこの子とは相性がいいんだけど、そりが合わないのよ」

 

それに、一度機体を乗り換えた時に初期化しちゃったし。と千歳さんは付け足す。

 

「じゃぁ篠ノ之博士と敵対したら……」

「えぇそうね。私はISに乗れなくなる」

 

それは川崎の最高戦力を失うことを意味する。

 

「でもまぁ、あまり心配はないわ」

「何故かしら?」

「簡単よ?今の篠ノ之束は椿君と古鷹にとてもご執着。余り目障りになる行動をしなければ、私の事なんて気にもかけないわ。まぁ、それでも何時かは目障りになるかもしれないけど」

 

所謂期間限定の切り札なのだ。使い所は見極めなくてはいけない。

 

「解りました」

「さて、気を取り直して早速武装を説明しよう!……の前に古鷹を不知火に移さないとね」

 

主任はそう言って私に古鷹を渡すように催促してくる。

 

「何故です?そのまま古鷹に持たせれば良いのでは?」

「いやね、新しいモノをちょいと追加したいのさ。まぁ安心してもいい。特に危険な物じゃ無いんだ。寧ろ余りの凄さに驚くかもしれないね。千歳君のお墨付きさ!」

 

千歳さんの方を見ると、多少呆れながらも頷いていた。

期待しても良いだろう。それに、変態武装は付けない事に安心した。

 

「まぁ、その凄さとやらに期待しておきましょう」

「うむ。期待しておいてくれたまえ」

「じゃぁ私は用件が済んだからコレで失礼するわ。それと椿君、武装テストが終わったら午後に訓練するからそのつもりで」

「はいはいいってらしゃー」

「解りました」

 

古鷹を主任に渡し、千歳さんはさっさと行ってしまった。

 

そんなやり取りをしていると楯無が話しかけてきた。

 

「そういえば何で態々別の種類の機体に移すの?古鷹は貴方の専用機なのでしょう?」

「それはな、楯無。私は古鷹の宣伝用に乗っているだけであり、専用機ではないからだ」

「宣伝用?……あぁ成程ね」

 

察したようだな。宣伝部は男性操縦者という知名度を活かして、この機体により多くの者達に注目させる魂胆だからな。その過程で有用性を明らかにし――と言う流れである。まぁ、利用される事については気を悪くした訳でないので期待に添えようと思っているがな。

 

「それに、古鷹自体は千歳さんが元々テストしていたから機体自体はほぼ完成している。私が引き継いだのは特殊武装や試作武器の評価試験だな」

「じゃぁ貴方の専用の機体はどうなってるの?」

「それは現在設計中~」

 

楯無の質問に、古鷹を不知火に移している主任が答えた。

 

「未だ設計段階なの?それは色々と拙いんじゃ……」

「所がどっこい、そうでもなんだよねぇ」

「どう言う意味よ?」

「ふっふっふー、ちょっとばかり面白いモノを見つけてしまってねぇ。それを組み込む為に今は設計し直してるのさ」

「面白いモノ?」

「そうだねぇ、とってもとっても面白いモノさ」

 

主任はとてもイヤラシイ笑みを浮かべていた。まぁ、種が解っている私も思わずとても”良い”笑顔になりそうになるがな。

 

「気になるわね」

「まぁそれは今整理中だから後で教えてあげるさ~取り敢えず君は暫く見学だね」

「じゃぁ、お言葉に甘えさせてもらうわ」

 

そして暫く主任が機体を弄り続ける。その間に私はISスーツに着替えた。

 

「さて、コアを移し終えたよ。待機形態は情報を写しただけだから前のままだよ」

「解りました」

 

そして不知火を纏って総合試験場に出た。だが、乗り慣れない機体の為に操作がしづらい。

 

『んー気分はどうだい?』

「問題ありません」

『じゃぁ早速収納してある武装を適当に一つ出しくれたまえ』

 

指示に従い、武装を一つ出す。

 

――高出力汎用戦術エネルギーレーザーキャノン(HGTELC)

 

一見すると普通のレーザーライフルが出てきた

 

「ん?何故レーザーライフルではなく、レーザーキャノンなんですか?」

『簡単だよ。ライフルはライフルリング、つまり銃砲の銃身内に施された螺旋状の溝があるからこそライフルと呼ばれるんだ。レーザー砲にはライフルリンングなんて無いでしょ?理由はそれさ。所謂豆知識って奴だね、覚えておくといい』

「成程……それで、コンセプトは?」

『汎用の名の通りだよ、こいつは収束と拡散の二つのモードに変更できる万能型さ。しかもこれはエネルギー供給をマガジン方式にしたからね、燃費を気にせず撃てる』」

「装弾数は?」

『20発。威力は保証しよう。ターゲットを出すから待ってておくれ』

 

暫くして仮想ターゲットが現れた

 

『じゃぁ二つのモードを使い分けながら撃ってみて』

「了解」

 

二つのモードを交互に変更しながらターゲットに向けて発射する。

 

威力は言った通りであり、収束されたレーザーはレーザー耐性を上昇させた筈の仮想ターゲットをまるでバターの様に溶かしながら撃ち抜き、拡散時にはターゲットを風穴だらけにした。

 

『感想は?』

「威力は貴方の言った通り。そして扱いやすいです。しかし貴方々にしては珍しい」

『まぁね。支部の提案の元、千歳君がプロデュースしたからね』

 

千歳さんが考案したのか。

 

「成程、納得が行きましたよ」

『じゃぁ、次のお願い~』

 

――大型収束荷電粒子砲

 

両手持ちの大型のランチャーが現れた。

 

これは……敢えて何も言うまい。

 

『まぁ言わなくても解るよね』

「古鷹に積んでる荷電粒子砲の改良型ですか」

『そうだね。エネルギー効率も改善されてるよ。これも支部から送られてきた奴さ』

「では早速撃ちます」

『限界値確かめるから最大出力で頼むよ』

「了解」

 

暫くして収束が完了した。

 

「臨界点突破。撃ちます」

 

そして眩いばかりの収束光が現れ、極太のエネルギーの塊がターゲットを纏めて消し飛ばした。次いで大幅に強化されている筈の壁を大きく抉り、溶かした。

 

「……イカれてる」

 

警報器が鳴りびくのを聞き流しながら私は一言呟く。

 

『ハッハッハ、凄いねぇ。これならイージス艦を2隻纏めて消し飛ばせるかな?』

「リミッターかけないと即禁止ですよこれ」

『まぁね。少なくとも模擬戦の間だけは、ね。じゃぁ次行ってみよう』

 

――12.7㎜電磁投射砲

 

これまた大型の砲が出てきた。一応ギリギリ片手持ちできる。

 

「連射できる様にしたんですか」

『そういう事。本部プレゼンツさ。装填数は100発。毎秒/5発だね』

「問題点は?」

『冷却機構が少し脆弱なぐらいかな?絶賛改良中』

「解りました。では試射します」

 

エネルギーを充填させた後にトリガーを引いた瞬間、虹色の光輪が現れ、その中心を貫くように眩い光条がターゲットを目掛けて飛翔し、突き刺す。そして強固に設定された筈のターゲットは一瞬で粉微塵になった

 

『どうだい?』

「中々反動がきついですね。それは問題ないのですが、もっと装弾数が欲しい」

 

どうせなら給弾用のモノを腰に増設したり、とかどうだろうか?

 

『ふむふむ、装填数を増加希望ね。じゃぁ改良項目に入れておくよ』

「えぇ頼みます」

『さて、コレで武装は一通り試したね。特殊武装はまだ完成してないから今度の機会になるけど』

「近接兵装は?」

『二つ程あるけど一つ古鷹がくれたアレを組み込むから再設計中だね、もう一つは未完成』

「解りました。じゃぁこれで……」

 

終わったかと思っていたが

 

『まだまだ終わらないよ?終わらせないよ?終わるわけがない!終わらせてたまるものか!』

「……は?」

『君にはこれから88cm砲や超大型4連装グレネードキャノン、80連装ロケット砲。果ては超大型ドリルや3連パイルバンカーが待ってるんだ……付き合ってもらうよ?』

 

見ると主任の目が爛々と輝いている。どうやら地獄が待っていたようだ……。

 

 

 

 

あれからどうにかして武装テストを中断させ、現在は食堂で昼食を取っていた。主任は酷く無念そうにしていたが、同情の余地はないしするつもりもない。あれは本当に洒落にならないのだ。生きていたら儲けものだろう。

 

「中々大変だったわね」

 

楯無が食後のデザートを食べながら言ってくる。

 

「そう思うのなら止めてくれたらどうなんだ?」

「だって見ていて面白かったんだもん」

 

そういえばこいつは狂気に染まった瞳で問い詰める主任と問い詰められて困り顔をしている私を面白そうに眺めていたな……後で手刀でも喰らわせようか。

 

『何を思ってるんですかねぇこの男は』

 

そう言ってきたのは古鷹。現在は不知火にコアを埋めているが、待機形態は変わらずヘッドフォンである。そして現在は企業内、という事で普通に喋っている。

 

「勝手に考えを読み取るな」

『それは無理ですね』

 

なんなのだ貴様といい楯無といい。

 

「あら、それは失礼ね」

 

本当に厄介だ。

 

そして頭が痛くなりそうになっていた所に新たな人物が現れた。

 

「あら、面白い遊びをしてるのね、私も参加させてもらえる?」

「貴方が参加した暁には私は富士の樹海に行かなくてはなりません」

 

参加表明をしてきたのは千歳さんだった。貴方まできたら中々洒落にならない。

 

「あら、見ないうちに口達者になったのね」

『私が彼を育て上げました』

 

古鷹が何故か威張っていた。

 

「そう。古鷹、よくやったわ」

「そんな事で満面の笑顔を浮かべないでもらいたいのですが」

「それは嫌よ、だって面白いんだもの」

 

えぇい孤立無援か。思わず頭をかきむしってしまう。

 

「まぁいいわ、これでお昼休憩はこれで終わりよ?」

「そのようですね、では訓練場に行きましょうか」

 

3人でエレベーターに乗りBF20からBF25まで連なる空間に出た。そして3人でISを纏う。

 

「楯無ちゃんのISは確か、グストーイ・トゥマン・モスクヴェ(モスクワの深い霧)と言ったかしら?」

「いいえ、この子はミステリアス・レイディ(霧纏の淑女)。グストーイの機体データを参考に私が組み上げたISよ」

「へぇ、その年で国家代表だけでも驚けるのに、機体も一人で組み上げたのは更に凄いわね」

「お褒めに預かり光栄よ、でも一人で組み上げた訳ではないわ」

「それでも凄いことよ?誇ってもいいのよ?」

「そう、かしら……ところで、千歳さんの機体は?」

「この子?この子は扶桑〈ふそう〉って言うの。因みに第三世代ね」

 

扶桑は不知火をベースに制作された機体であり、見た目は不知火を蹈襲した軽鎧武者である。

 

尚、不知火と違って全身装甲ではないが、それでも装甲面積は通常のISより広く、さらにフルフェイス型ではなく、バイザー型のハイパーセンサーを採用している。そして、元々ついていた腰のロケットブースターの代わりにロケット弾を装備しており、肩の非固定ブースターを廃して代わりに固定型の多目的レーダーを搭載している。また、腰の後ろの部分に追加のジェネレーターを搭載して稼働時間の延長を測っている。

 

所謂射撃戦特化であり、千歳さん専用のISである。

 

「成程。でも、何処が第三世代なのかしら?」

「これよ」

 

千歳さんは2機の浮遊物体を展開した。

 

「……これは零戦?」

「えぇ、正確には追従型マルチガンポット〈零式〉よ。マインド・インターフェースを搭載してるから、自由に動かせるの。最も、形はウチの研究員の遊び心なんだけどね」

「へぇー。でも簡単に落とされない?」

「零式は特殊なフィールドを搭載しているから問題ないわ」

「成程」

 

楯無は優香の説明に納得が言ったようだ。まぁ、最もこの零式はとても費用が掛かるので頭を悩ませているとか何とか。

 

「さて、これから訓練を始めるわ。そして椿君、貴方に課題を出すわ」

「何でしょうか?」

「PICをオートからマニュアルで操作できるようにしなさい」

 

千歳さんは有無を言わせない声音で言った。

 

「……解りました、古鷹、PICをマニュアル操作へ移行」

『了解、PIC、マニュアルモードへ移行』

 

まさか本当にマニュアル操作をやらされるとはな。しかもまだ乗り慣れていないというのに。

 

「あら?貴方は乗り慣れていないと言う理由だけで戦わないのかしら?」

「だからナチュラルに心を読まないでください」

「貴方が無駄な事を考えるからいけないのよ?」

 

勘弁してくれ。

 

「勘弁しないわよ?」

「……もういいです。古鷹、飛行訓練用のルートを」

『はいはい、ではこれからルートを出すのでそれを見ながら訓練してください』

 

そして私は訓練の為に空中に浮き上がり、いざ加速しようとしたら。

 

「ぐぅっ!?」

 

思いっきりバランスを崩してしまい、壁に激突してしまう。

 

「何やってるのよ」

「椿君、それは新手の遊びかしら?」

 

二人してトンデモない事を言ってくる。

 

「機体が軽すぎる……」

 

武装テストの時はPICもオートで、しかも浮いてないから余り違和感は感じなかったが、やはり今まで乗っていた古鷹の重装甲の機動感覚が強く残っているのだ。はっきり言って遊びが少なすぎる。

 

『これは苦労しそうですねぇ』

「言うな……気が滅入る」

 

本当に、な。

 

「まぁいいわ、標準タイムぐらいは更新しなさい。いいわね?」

「解りました」

「それでよろしい。じゃぁ楯無ちゃん、貴方は私と模擬戦。良いわね?」

「勿論よ。あの『魔砲使い』と一戦できるのは嬉しいわ」

 

魔砲使い、と言う単語に千歳さんは苦い顔をしていた。

 

「その二つ名は嫌いなのよねぇ……せめて『魔弾の射手』ぐらいにはならないかしら」

「それは無理ね」

「あら、それは何故かしら?」

「川崎がまともな武器を持たせる訳がないから」

 

第2回大会の射撃部門決勝でも川崎は変態武装を千歳さんの打鉄のカスタム機に持たせていたからな。まぁ、それを扱い切ってたのだから千歳さんの技量は計り知れない。

 

因みに、その当時使っていた武装が80㎜連装グレネード。ショットランサーと呼ばれる槍状のモノを撃ちだす特殊射撃武装、そしてパントガンと呼ばれる3フィート(約3.05m)の超大型ショットガンのIS版を扱っていた。故に魔砲使いと呼ばれる様になったのだ。

 

尚、第一回大会には千歳さんは出場していなかったらしい。何でも、本格的な銃の扱い方を学ぶ為に、裏の実行部隊の腕利き達に習っていたとか。

 

「……就職先間違えたかしら?」

 

トンデモない言われ様である。まぁ否定はしないがな。もう少しマトモだったら千歳さんの気苦労も軽減されていただろう。だが、それはあくまでもIFの話ではあるが。

 

その後、私は指示通りに訓練を行っていた。

 

 

 

 

さて、結果はクラッシュ10回以上、コースアウト4回、墜落2回の散々たる結果だった。

 

だが、最後には指定さてた標準タイムを一応”ギリギリ”クリアした。そして現在は休憩所で飲み物を飲んでいる。因みに千歳さんVS楯無の模擬戦は千歳さんが全勝したらしい。

 

楯無は非常に悔しそうにしていた。彼女曰く

 

『何であんな体勢で精密射撃ができるのよ……しかもあの零戦すっごく厄介!』

 

らしい、まぁ千歳さんは射撃部門ヴァルキリー。実戦で使える曲芸射なんてのはザラでもない。初見では動きに目を奪われて本命に気付きにくいのだ。それに加えて不知火程でもないが、それでも確かな速さを持つ扶桑の機動。想像以上にやりづらいだろう。

 

そしてあの零式だ。

 

アレが一番厄介極まりない。あれ自体に特殊フィールドが積まれているので、かなり撃ち込まなければ撃墜できない。それに、零式は見た目は零戦。つまり、レシプロ機なのだが、PIC制御で動いているので、時として飛行機では不可能な動きを見せてくる。見た目が見た目故に、初見なら絶対に騙されるだろう。

 

以下の点を踏まえると、私が思考加速して扱う『アイアスの盾』でも隙間から銃弾を入れられるだろう、と考えられる。

 

『しっかし酷かったですねぇ、思わず私も壊れるかと思いましたよ』

「……今まで真逆の機体に乗っていたんだぞ、仕方がないだろう」

『いやまぁそうなんですけどね』

 

それにあの5機のブースターから成る大推力には苦戦した。

 

お陰で体はもうクタクタである。

 

「ぐぬぬぬ……悔しい!!」

「ふふふ、私がそんな簡単に負ける訳がないじゃない」

 

二人が着替えを終えて休憩室に入ってきた。

 

「あら椿君、調子はどう?」

「最悪ですよ、もう体がクタクタだ」

「なら努力しなさい、学園に居る時もなるべくPICをマニュアルにする事」

「解りました……で、何敗した」

「……5回よ」

「良く解らん数字だ」

「国家代表の肩書きが泣くわね」

 

それ程なのか。

 

「まぁ、今が私の全盛期と言っても過言ではないわ。それに、楯無ちゃんも結構頑張ってたじゃない。アクア・ナノマシンと言ったかしら?あれには手を焼いたわ」

「手を焼かせるだけじゃなくてそのまま勝つもりだったんだけど」

「勝つつもりなら私の距離を潰す事ね。簡単にはさせないけど」

「分かってるわよ……」

 

その後三人で雑談をしながら時間を潰していた。

 

「さて、それじゃぁ私は帰るわ。椿君、明日も午前中に訓練があるからそのつもりで」

「解りました。それで午後は?」

「自由時間よ、貴方達も子供何だから遊べる内に遊んでおきなさい」

 

自由時間、か。特にする事はないな。まぁ、おいおい考えておくとしよう。

 

「解りました。ではお疲れ様でした」

「お疲れ様、じゃあ失礼するわ」

 

千歳さんは手をひらひら振りながら休憩所を去って言った。

 

「さて、主任のラボに向かう。楯無、行くぞ」

「解ったわ」

 

そして二人でラボのあるBF40に向かった。

 

 

 

 

「失礼します。主任、古鷹の方は?」

「んーそれだけど、古鷹の方は未だ調整する部分があるから帰る時のお楽しみだね。だから、学園でのテスト宜く~。レポート楽しみにしているよ」

「解りました」

『期待して下さいよ。コレは中々面白い』

 

主任はキーボードを超高速で打鍵して画面を見ながら言った。

 

そして古鷹は先刻の主任同様に期待しろと言う。一体何なのだろうか?取り敢えず其処は後回しにしてチラリと大型スクリーンを見る。そこには以前古鷹が渡した展開装甲の基礎理論が映っていた。だが、以前古鷹にみせてもらった時よりも更に式が複雑になっている。主任独自に改良したのだろう。まぁ、完成に期待しよう。

 

「それで、コレは何かしら?」

 

楯無は大型スクリーンを見ながら言った。

 

「ふっふっふーよくぞ聞いてくれました」

 

主任は一旦手を止め、此方を向いた。

どうやら聞いてくるのを心待ちにしていたらしい。

 

「これはね、第四世代技術である展開装甲の基礎理論さ!」

「へぇ第四世代技術の……へ?」

 

楯無は間抜け顔をしていた。

 

ほう、貴重だな。

 

――保存しました(`・ω・´)b

 

でかした、後で虚や黛に渡しておこう。私は余りの職人業に賞賛を送る。普段は煩わしい顔文字も、今ではとても爽快に感じる。

 

「ちょっと待ちなさいよ、世界は未だ第三世代技術に躍起になってるばかりよ?それなのにもう第四世代技術って……」

「まぁ言いたい事はわかるねぇ、初めてコレを見た時は大嗤いしたよ」

 

ニヤリ、と嗤いながら主任は言って見せた。

 

「貴方が作った訳ではないのね?」

「そうだね、古鷹がちょいと兎から拝借してきたんだよ」

「篠ノ之博士が……納得ね。でも古鷹が?」

『えぇ、そうです』

「貴方がハッキングしたのかしら?」

 

それは違うな。

 

『否定。姉から譲り受けた、と言えば解りますか?』

「姉……?」

『私の姉は白騎士ですよ』

「……そういえばそうだったわね。でも白騎士はもう存在しない筈じゃ?」

『存在しますよ、白式と言う名で』

「織斑君の白式に?……びゃくしき……しろしき……そういう事」

 

気がついた様だな。まぁ私も驚いたよ。

 

『そういう事です』

「とまぁそんな訳で私達は晴れて第四世代技術を獲得。これに改良を加えて椿君の専用機兼古鷹の体に組み込むの予定なのさ!」

「だから再設計中なのね、納得がいったわ」

「でも、色々厄介な部分もあるから機体の完成は臨海学校辺。ギリギリだね」

「本当にギリギリね。一番危険なのに、大丈夫かしら?」

 

確かにそうだ。一番危険なのは臨海学校である。

 

それまでに完成させるべきなのだが、慎重に事を進めなければいけないのだ。モノがモノ故に、急ぎ過ぎてミスを生めば洒落にならない。

 

「そうだね。でもその他の対策は社長がこれから打つし、私もできる限り急ぐ。取り敢えずは明日から部下にもっと発破をかけさせる。所謂全力稼働って奴だね」

「発破を?」

 

楯無は良く解らない表情をしていた。まぁ、此処の日常を知らない者は疑問に思うだろう。私も最初はそうだった。まぁ直ぐに慣れてしまったがな。

 

「簡単に言えば演説さ、例えるなら指揮官が兵士達を鼓舞させるような類のを、ね」

「そうなの?」

「そうなのです。朝礼にそれをするつもりだから君達も見ていくといいよ」

「解りました」

 

さて、と主任は一言呟き、そして背を伸ばした後再び画面の方に向く。

 

「じゃぁコレで話はお終いだねぇ。私は作業があるから君達はもう寝ていていいよ」

「解りました、では楯無、寝場所に案内する。付いてこい」

「……襲わないでよ?」

 

楯無は自分を抱き寄せながら言う。

 

「馬鹿者」

「あ痛っ!?」

 

私は馬鹿な発言をした楯無に手刀を喰らわせてから主任のラボを出た。

 

 

 





さて、今回はオリジナルの2機と武装がありましたが、今までの分を合わせて次話と共に設定を更新します。良かったら見ていって下さい。それと、アンケートも次で締切です。

それでは、次回もお楽しみに!

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