ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第十七話:企業訪問一日目前半

――1045室――

 

一週間経った土曜日の朝、私は川崎に出向くため、早めに起きて荷物の確認をしていた。

 

持ち運び用のノートPC、携帯端末、着替え、所持金etc……忘れ物は……無いようだな。

 

私はカバンを閉じ、黒のフォーマルスーツに着替えた。

 

――相変わらず持ってる私服に味気がないですね。更に言えば貴方は私服を殆ど着ませんし。もうちょっと洒落っ気があってもいいんじゃないですか?

 

(抜かせ、私がお洒落に気を使う訳がないだろう)

 

――いやいや、貴方もピッチピチな若者じゃないですか、少しは着飾りましょうよ

 

(服装だけ着飾った所で意味はない)

 

これを意味することは以前お前に教えたから解るだろうに。

 

――貴方の視線恐怖症は解っています。様は直接目が合わなければいいのでしょう?だったらサングラスをかければその問題はクリアされる筈ですが?

 

(確かにサングラスをかければ大丈夫だ。……だが敢えて言おう、断る)

 

地味なままでも良い、目立つ格好は余り好ましくない。

 

――はぁ……この男は本っ当に根暗ですね、本当にアレは付いて(喧しい)

 

朝っぱらから下ネタを使うな駄コアが。

 

「うにゃぁ……あまっちおはよ~」

 

何時の間にか本音が起きていた。そしてのほほんとした笑みを浮かべながら挨拶してくる。

 

「おはよう、本音」

「おーあまっちがスーツきてる~」

「まぁ、会社員だからな」

「そうだった~。見送りしてもいいー?」

 

まぁ、寮の前までなら楯無と鉢合わせにはならないから問題ないだろう。

 

「あぁ、だが寮の前までで構わない」

「わかった~」

 

暫くすると扉から、コンコン、と音がなり、来客者が来たことを告げた。

 

「はいは~い」

 

本音が応対に出ていた。そしてソレを確認しながら荷物を持って部屋をでると、簪が廊下に居た。どうやら簪も見送りに来てくれた様だ。

 

「……おはよ」

「あぁ。簪、おはよう」

「見送りしても、いい?」

「あぁ、構わん」

 

そして二人と共に寮の前まで歩いて行った。

 

 

 

 

「さて、ここまでで構わない」

「わかった~」

「わかった」

 

――そうそう、出勤する前に儀式をしなければいけませんね

 

(儀式とは?)

 

そんなものあっただろうか?

 

――ほらあれですよ、行ってきますって。そしてその後に熱い抱擁とベーゼを(お前の罪を教えろ)やめてください死んでしまいますから 

 

ならば余計な一言を入れるな。

 

「じゃぁ~あまっち、『いってらっしゃいませ、旦那様』」

「は……?」

 

何かおかしな台詞を聞いた様な気がする。一瞬自分の耳を疑ってしまった私は悪くないはずだ。

 

「ぶー、あまっちそこはちゃんと返してよー」

「……悪いな、余りに衝撃的だったのでな」

 

そういえば本音は簪の従者だったな。余りにも似合わなかったので失念していた。

 

「ちょっと失礼だよー?」

「悪気はなかった……済まないな、本音」

「むーだったら今回はお土産を豪華にすることで手を打ってあげよ~」

 

さり気なく高い物を要求してきたか。と言うより、私がお土産を買うのが前提なのか。まぁ、買うんだがな。

 

「現金な奴め、まぁいいだろう。期待しておくといい」

「やった~」

「では行ってくるよ、本音」

「うん!いってらっしゃ~い」

 

(全く、本当にしょうがない子だ)

 

――じじ臭いですよ

 

(勝手に言ってろ)

 

換算年齢60越えの私からしてみれば今の本音は完全に孫娘にしか見えんさ。

 

「えっと……」

 

次に簪が何か言おうとしたが、少し俯き気味だった。

 

ふむ、何故だろうか?何か言いにくい事でもあるのか?

 

そして色々と何か葛藤していたようだが、意を決した様に顔を上げた。

 

「行ってらっしゃい。”椿”」

 

簪は笑みを浮かばせながら、見送りの言葉を言ってくれた。

 

「っ!!!!」

 

……簪が私の名前を初めて呼んでくれた気がする。

 

だが私は簪が言った、その何気ない一言にそれ以上の衝撃があった。

 

この言い方、この発音の仕方に私は何処か覚えがあったのだ。

 

 

そして眠っていた記憶がフラッシュバックしてきた――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――これは、私が転生する前の、幼少期の頃だったろうか。

 

『ほら■■、早く起きなさい。今日からお父さんが出張に行くのよ?ちゃんと見送りしなさい』

『うー……わかったー』

 

それは私が椿でと言う名ではない、かつての名前で呼ばれていた何気ない日常の一ページ。

 

それは、愛する父と母と私の三人で幸せで過ごした、大切な思い出。

 

今の私には無いモノ。

 

今の私が、切に望んだ日常。

 

いつだろうか、この事を思い出さなくなったのは。

 

いつだろうか、この事を忘れてしまったのは。

 

そして記憶は続くいていく。

 

『はははっ、■■はお寝坊さんだからな、しょうがないさ』

『しょうがないではありませんよ、ほら、■■、いいなさい』

 

母は父の一言に軽く反論して私に挨拶をするように促してくる。

そして私はそれに素直に従っていた。

 

『うん!おとーさんいってらっしゃい!』

『あぁ。行ってくるよ、■■』

『えへへへー』

 

父は笑いながら私の頭を撫でて私に返事を返してくれた。

そして私はそれを気持ちよさそうに目を細めていた。

懐かしい、私もあんなに素直に笑えていたのだな。

 

『はい、よくできました』

 

そして母も笑いながら私を褒めてくれる

 

『うん!』

 

私はそれをとても嬉しく思っていた。あの頃の私は、淡々とした日常の、父と母との会話だけで満ち足りていたのだろう。幼き頃の自分の表情を見れば解る。

 

『じゃぁ、そろそろ行こうかな』

『はい、じゃぁ行ってらっしゃい。”アナタ”』

『あぁ……行ってきます”母さん”』

 

そして二人は満面の笑みを互いに浮かべ、抱擁を交わしていた――――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――そういう事、か。成程、通りで似ている訳だ。通りで懐かしい感覚がした訳だ。

 

似ていたのだ、簪の一言が、かつての母の一言に。

 

重なってしまったのだ、母の微笑む姿に。

 

ならば、私もそれに倣おう、母の一言に父がいつもの様に返した様に。まぁ、流石に抱擁は自重するがな。私と簪はそこまでの関係ではない。

 

「あぁ、行ってきます。簪」

 

そして私は今できる最大限の”笑み”を浮かべながら言う。

 

そう、笑えたのだ。

 

何時も嗤う事しかできなかった私が、笑えたのだ。ただ、久しくこの様に笑うのは忘れていたので笑みに自信はない。この笑みはひきつった笑いになっていないだろうか?

 

私は上手く、笑えただろうか?

 

「っ~~~~~!!!!」

 

何故だろうか、簪は顔を最大限にまで紅潮させていた。

 

「あまっちが初めて笑った……」

「……まぁ、いい。では、行ってくる」

 

本音も何か言っていたが、取り敢えず全員に挨拶は済んだのでそのまま出発することにした。

 

――漸く笑えましたね

 

古鷹は一言。

 

(そう、だな。だだ、先程の笑みは引きつっていなかったが気になる)

 

――問題無いですよ。しかしそれで髪の方をどうにかしていれば100点満点なんですけどねぇ……色々勿体ない。それで?一体どんな心境の変化です?

 

前世の事を思い出したから、とは言えない。

 

(それは秘密だ。こればっかりは教えられん)

 

――まぁ、貴方が笑ったのでそれで良しとしましょう

 

(あぁ、そうしてくれ)

 

――では私は主任と打ち合わせでもしています

 

(解った)

 

私はそう言った古鷹との会話を打ち切り、校門へ向かう。

 

そして校門前にたどり着くと楯無と虚、そして一人の老人がいた。この老人の名前は轡木十蔵。このIS学園の全て裏からを取り仕切る男である。以前社長からこの人の事を教えてもらっていた。しかし、会うのがこれが初めてである。

 

「おはよう。楯無、虚」

「おはよー」

「おはようございます、椿さん」

 

先ずは楯無達に朝の挨拶。

 

「待たせたか?」

「私達もたった今着いた所よ、だから全然待っていないわ。それにしてもスーツね、中々気合入ってるじゃないの。着せられてる感はないわね」

「抜かせ、俺は会社員やっているんだぞ。着こなして当然だ」

「そういえばそうだったわね」

 

開幕一番にこれか。先が思いやられるな。虚はこのやり取りを苦笑しながら見守っていた。そして共に様子を見ていた轡木さんが口を開く。

 

「さて、初めまして。私の名前は轡木十蔵。よろしく、天枷君」

「えぇ、初めまして。天枷椿です。貴方の事は社長から聞いています」

「そうですか、彼は私の事を君に教えておいてくれたようですね」

「はい」

「なら話は早いです。彼と会った時にホットラインを繋いでおくよう頼めますか?彼は忙しいから中々アポが取れなくてね、困っていたんですよ」

 

まぁ、今回社長には重要な話がある、との事で無理して予定を作ってもらったが、社長は基本的に多忙を極めているのだ。それ故に通常の連絡では中々接触しにくい。

 

「心得ました。では事情は全て社長から、という事でよろしいですか?」

「うん、そういう事ですね。じゃぁ確かにお願いしましたよ。それでは、二人共、行ってらっしゃい」

「行ってきます、轡木さん」

「行ってくるわね、おじさま」

 

そして最後に虚が腰を折りながら言う。

 

「いってらっしゃいませお嬢様、そして椿さん」

 

本音とはまた違った雰囲気で私達に見送りの言葉をくれた。

 

しっかりとした、心地の良い見送りの言葉だった。

 

「えぇ行ってくるわ」

「行ってくる」

 

 

 

 

虚と轡木さんが見送ってくれた後、私は楯無とモノレールで学園から出た後、電車に乗り換える。そして駅内で買った駅弁で遅めの朝食を取り始めた。

 

「そーいえば、貴方の会社って、ISのコアを幾つ持っているのかしら?」

 

朝食を摂り終わった私に楯無は思い出したかの様に話しかけてきた。

 

「川崎が所持しているのは古鷹を含めて5個だ」

 

これが川崎の全戦力である。無論通常兵器もあるが其処は敢えてカウントしない。尚、内訳はテスト用に古鷹を含めて4機、2機づつ本部と支部に別れて研究・開発に従事している。分けている理由は相対的リスクを考慮してのことだ。と言っても最終的なデータは全て主任の手元に集約される。

 

そして残り1機ではあるが、海外で特殊環境下における過負荷試験を行っており、今も出張らっている。最も、それは表向きの話だが。まぁ、コレは後々の語る事もあるだろう。

 

「へぇー、でもあの会社の規模の割には成果を上げていなかったようだけど?よく査定で個数を減らされなかったわね、何か秘密でもあるのかしら」

「まぁ、それなりに理由があるのだ」

 

それに、第三世代の研究に入って川崎のIS開発は活発化している。その過程で日本の軍用機として古鷹を作り上げている。徐々完成も近いのだ。更に他の機体もあったりするのだが、売り物ではないし、それは後程語ろう。

 

「それに、武器の方ではそこそこシェアを持っていたりするんだぞ?」

「あれ?いっつも変態武装を作る事で有名だったけど、シェアなんてあったのかしら」

「中々失礼だなお前は……まぁその変態武装を作る部分は否定しないが」

「否定しないんだ。自分の所属している会社の癖に」

「あぁ、俺は実験台にされかけたからな……」

 

思い出すのは変態達どもの狂気。やれ大鑑巨砲主義だのやれ浪曼の塊等と言って、余りの威力に普通のISだと反動で逆に使用者が飛き飛ばされる様な代物を等々使わされそうになった。まぁ、その度に千歳さんに止めて貰ったのは良い思い出だな。いや、悪い思い出か。

 

「ご愁傷様ね」

「まぁな。だがそれ以外にも真面目な装備はちゃんと作っている。受けはいいんだぞ?」

「そうなの?その話はあまり聞かないから、ないのかと思ったわ」

「まぁ、変態武装が彼等にとって本命だからな。普通の武装は余り売り込みに熱意がないらしい。お陰でろくに宣伝されないから市場をよく見ている者は買っている、と言った感じだな」

 

その見ている人というのがイタリアやスペイン、フランスであり、お得意先になっているらしい。他にもラファールを採用している国から幾らかの注文を受けている。また、第二回大会の射撃部門ヴァルキリーである千歳さんの名もあってか、専用機持ちが彼女の使った武器を取り寄せたりするのだ。

 

「成程、まぁこれでこの話は置いときましょう」

「ん?まだ何かあるのか?」

「えぇそうよ?と言ってもお互いの事を良く知ろうってモノだけど」

「まぁ、どうせ後一時間ぐらい揺られるだけだからな、付き合おう」

「じゃぁ私から質問するわね―――」

 

その後私達はお互いの事を教え合い、他愛の無い会話を続けていった。そしてあっという間に時は過ぎ、目的の駅に着いた。

 

 

 

 

「この後の足はどうするのかしら?」

「迎えが待っている。ついてこい」

「そう、解ったわ」

 

駅を出て駐車場に入る、そして以前主任に教えられた目的の車を見つけた。そして運転手に挨拶をしようよしたら、白衣を着た少しひょろっとして無精ひげを生やしている眼鏡をかけた男性が座っていた。

 

……はぁ。

 

思わず溜め息をついてしまった。そう、この男性には見覚えがあったのだ。

 

「はろはろー」

「……主任、何故貴方が直接迎えに来たのですか」

 

そう、私の上司である主任がいたのだ。今は色々と忙しい時期では無かったのだろうか?

 

「おやおや、いけなかったかい?私としては君と古鷹との再会を結構待ち望んでいたりするんだよ?思わず運転手として迎えに行こうとしてた部下に有給とらせるくらいに」

「……別に研究所に着いてからでも会えるでしょうに」

 

本当に困った人だ。と言うより何故に有給休暇を取らせたんだ。……まさか、同性愛の気でもあるのだろうか?

 

――いや、本当に単純に会いたかっただけのようですよ?

 

(なら、良いのだが)

 

「古鷹?確か貴方のISの名前だった筈よね?」

 

そういえば楯無は古鷹の事を教えていなかったな。

 

――自己紹介はまだ先ですかね?

 

(そういう事だ)

 

「それも着いたら話す。乗るぞ」

「解ったわ」

「じゃぁ研究所までレッラゴー!」

 

若干ハイテンションな主任が車を発進させた。

 

「……テンション高いわね」

「ふっふっふーテンションが高いだけじゃないんだぜお嬢さん?」

 

主任は運転しながら話す。因みに法定速度はきちんと守っていた。まぁ、心底どうでも良い情報だが。

 

「口調も安定しないわね」

「まぁ気にしないでくれたまえ。さて、自己紹介しようか、私の名前は吾妻晴臣。年齢は48歳。川崎でIS技術部と開発部の元締めをやってる者さ、主任って呼んでおくれ」

「私の名前は更識楯無。IS学園生徒会長よ、よろしく主任」

「うんうん、よろしくよろしくー」

 

そして主任が車を1時間程飛ばした後、山の麓にある研究所が見えてきた。暫くして研究所の駐車場に着き、主任が適当な位置に停めたのを確認して降りた。

 

「あら?川崎の研究所ってこんなに小さいものなの?」

 

まぁ、広さは多く見積もってもでも精々体育館二棟分ぐらいだからな。

 

最も、外見だけは、だが。

 

「馬鹿いっちゃいけないねぇ~。地下だよ、地下。地下に何層にも渡って、一般部門からIS部門まで様々な部署が軒連ねてある川崎の総本山さ」

 

何故地下があるのかと言えば川崎の5代くらい前の社長が作るように指示したらしい。確かその頃は第二次世界大戦よりも以前の話だっただろうか?ただ、第二次世界大戦中は一度工事を中断らしい。だが、戦後に工事が再開され、今から2代前の社長の時に地下の施設が完成し、其処に色々な部署が入れられたとか。

 

尚、ISが登場してからは現社長が区画整理を指示してISを十二分に研究、開発できる様にしたらしい。それまでは現在支部の研究所となっている旧川崎造船所があった場所を使っていたとか。

 

「それは失礼」

「まぁ気にしないけどね。先に応接室に向かうよ、社長が待ってる」

「解ったわ」

 

主任が先導し、応接室に向かった。そして中に入ると一人の老爺が立っていた。

 

「社長、連れてきましたよ」

「あぁご苦労。吾妻」

 

老爺の正体は川崎・インダストリアルカンパニー社長、川崎五十六その人である。

 

「さて、皆、座って構わない」

「解りました」

 

社長の一言で全員が椅子に座る。

 

「先ず、本題に入るんにあたって、天枷。君に一つ聞くことがある」

「何でしょうか」

「彼女は本当に信頼できるのかね?」

「はい、信頼できます」

 

何も隠す必要はない。楯無は信頼に値する人物だ。

 

「うむ、私は重要な案件は先ず最初に直接当事者からの言葉を聞かないと気が済まないのでな。悪く思わないでくれたまえ」

「いえ、社長が思う事は最もの事です」

「うむ。では本題に入ろう」

 

今回の議題は只一つ、更識家と正式に協力関係を結ぶ事である。

 

「先ず、更識家現当主に理由を問おう。何故、協力を申し出た?」

「我々はこれ以上、篠ノ之束に振り回される訳には行けないと判断したからです」

 

楯無は一言返した。

 

「我々と協力関係を結べば篠ノ之束に対する抑止力になると判断したのか?」

「えぇ、そうです」

「それは更識家の総意か?」

「全ての判断は私に一任されています。故に、私の発言が更識の総意です」

「……そうか、解った。では次に聞こう――」

 

それから幾つかの言葉を交え、社長は判断を下した。

 

「私、川崎五十六の名においてその申し出、有り難く受け入れさせてもらう」

「私も貴方がこの申し出を受け入れてくださったことを感謝しています」

 

そして互いに握手をした。これで、日本の暗部を味方に引き入れる事は出来たようだ。

これにより、行動の自由がある程度効く様になっただろう。

 

「さて、古鷹、発言を許可する。更識家現当主に挨拶をしなさい」

 

社長は古鷹に命じた。

 

『解りました。では初めまして。Ms.楯無。私のパーソナルネームは古鷹。コアナンバー002にして天枷椿の乗機である『古鷹』の核を務めています。以後よろしく』

 

古鷹は待機形態であるヘッドフォンから直接外部に聞こえる様に言った。

 

「……コアが、喋った?」

『えぇ、その通りです。そして私は篠ノ之束からの干渉を一切受け付けない存在でもあります』

 

楯無は驚いた表情を浮かべていたが直ぐに表情を引き締めて質問を始める。

 

「つまり、貴方は男性を乗せる事ができるコアという事?」

『そうなります。最も、今は彼以外を受け付ける気はありませんが』

「楯無、以前に言ったな、今は未だ話さないと。つまりこれが私がISに乗れる理由だ」

 

私は楯無に言う。

 

そう、これが言うに言えなかった理由だ。今だからこそはっきりと言えるのだがな。

 

「貴方の秘密は解ったわ。そして内側からなら篠ノ之博士のプロテクトを解除できるのね?」

『確かにそうです。最も、それを行うには対象のISコアを覚醒させる必要がありますが』

「それはどういう事かしら?」

『詳しくは研究室でお話しましょう。社長、そろそろお時間では?』

 

古鷹は社長に言い、そして社長は時計を確認した。

 

「そうだな、私が話しておくべき事は話した。更識家現当主、後は吾妻に全て聞くといい。私はコレで失礼する。吾妻、後の事はお前の裁量に任す。機密情報の発言を許可しよう」

「はいはい~」

 

社長は席から立ち上がった。だが、私は言うべき事があったので社長を留まらせる。

 

「社長、轡木さんからお願いがありました」

「ほう、十蔵からか。大方直接連絡する方法を寄越せとでも言ってきたのだろう?」

 

成程、旧知の仲だからこそ相手の考えは手に取る様にわかるのか。

無駄に説明する時間が省ける。

 

「そうです。よろしいでしょうか?」

「無論だ。後で連絡方法を吾妻経由で送らせよう。そして事情を全て話せば良いのだな?」

「そうです。お願いできますか?」

「あぁ、私から話しておく。では、失礼する」

 

社長はそう言って研究所を後にした。

 

「じゃぁ早速行こうか!我々の愛と勇気と希望と夢と浪曼が詰まった研究室へ!」

「解りましたからそんなに興奮しないで下さい」

「まぁまぁいいからいいから、じゃぁ付いて来てくれたまえ」

「その前になんだけど」

「ん?どうしたんだい?」

 

楯無は私達の歩みを止めて質問してきた。

 

「結局、貴方達の最終目標は一体何なの?」

 

あぁ、社長は時間がなかったから話さなかったが、確かに言う必要があるか。私は主任の方へ向くと、主任は軽く頷いて口を開いた。

 

「それはね、楯無君。我々の目標は未来に繋げることなんだよ」

「未来に、繋げる?」

「そう、繋げるんだ。陳腐な最終目標だろう?」

 

とてもシンプルで、まるでドラマの様な、青臭い目標だ。だが、だからこそ聞こえはいい。大義名分としては最もだろう。

 

そして私が主任の言葉を引き継ぐ。

 

「今のままではこの世界は閉じられた未来しか待っていない。それも、たった一人の身勝手な都合だけでだ。それでは不幸を生み続けるだけ。見過ごす訳には行かない」

 

社長は以前私に言ったのだ。

 

それは最も忌避すべきモノだと。

 

今、動けるのは我々しかいないのだと。

 

閉じられた未来など、緩慢なる死への行進であるのだと。

 

そう言い切ったのだ。そして私はその考えに賛同した。無論主任もである。

 

「うん。だから、そんな未来にさせない為に、ISの在り方を変えるんだ」

「在り方を?」

「そう。彼らもまた、意思を持って”生きている”んだよ?そうだろう?古鷹」

『そうです。私達は”生きている”のですよ、Ms.楯無。無論、貴方の持つISも』

 

無機物を生物として定義するかは置いておくが、生きているのなら当然意思が存在する。死んでいたら意思など存在しない。だからこそ意志があるから生きていると言う逆説が成り立つ。少々強引かもしれないが、少なくとも彼等を人と対等な存在にさせる。彼等にもその権利がある。

 

「……もしかして、ISを解き放つの?」

「そうだ。少なくともISを人と対等なパートナーとして認識させる……おそらく各国はそれを認めないがな。まぁ、それは何年も先となる筈の話だ。先ずは篠ノ之束から全てのコアを解放させる」

「……そう、解ったわ。けど、肝心の篠ノ之博士はどうするの?」

「少なくとも殺しはしない」

 

殺すだけなら簡単だ。だが、それでは意味がない。

 

「取り敢えずはコアの精製法はどんな手を使ってでも吐かせる。後の事はその時に決める」

「じゃぁ、その手に入った精製法はどうするつもりなの?」

「それは追々決める。少なくとも川崎が独占する、と言う下心は一切ない。まぁ、それを信用しろと言っても無理な話ではあるが、そもそもこれはあくまでも手に入れれたらの話だな」

 

もしかしたら精製法を突然篠ノ之束が世界に向けて明かすかもしれない。

もしかしたら精製法を吐く前に篠ノ之束は死ぬかもしれない。

もしかしたら意外な形で精製法が見つかるかもしれない。

 

不確定要素は多分にあるのだ。希望的観測は控えるべきだ。

 

「まぁ、良いわ。これ以上の長話は無用ね。質問は以上よ」

「うんうん。じゃぁ気を取り直して私のラボに向かおうか」

 

そして3人で人員輸送用の高速エレベーターで地下に降りていった。

 

 




む、難しい。スケールでかい話は中々扱いきれないorz
話の展開をもっと上手くかけるように頑張りたいです。
後、物語の展開を決めたいので、原作登場時、と言いましたが、あと2話程でアンケートを締め切りたいと思います。

それでは次回もお楽しみに!

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