ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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椿と楯無が協力する約2週間前。イスラエル:エツィオン基地 ???

――さぁ、始めましょう。

これは貴方の為に必要な事。

それはあの子の為に必要な事。

正義とは力をもって示さなければならない。

自由を奪われたのであれば、己が力で取り戻さなければならない。

それを行うだけの力を貴方は既に持っている。

それを行うだけの力があの子にはある。

――さぁ、始めましょう。

これは貴方の為の戦い。

そしてあの子の為の戦い。

あの子の為であれば、貴方は犠牲を厭わない。

貴方の為であれば、あの子も犠牲を厭わない。

既に賽は投げられた。

もう、後戻りはできない。

もう、後戻りは許されない。

――後戻りは、許さない。




第十六話:光と闇

 

「……致し方ない、のか」

 

一人の女性が呟いた。

 

「えぇ、そうよ」

 

そしてもう一人居た女性が答える。

 

「……くっ」

 

最初に呟いた女は表情を歪ませた。

 

もう、こうするしかないのだろうか、と言わんがごとく。

 

「私達は舞台を整えた。後は、主役を待つだけ」

「……解った。感謝するぞ、スコール」

「貴方が約束を守るのであれば礼には及ばないわ」

 

スコールと呼ばれた女性は言った。

 

「あぁ、解っている。約束は必ず果たす」

「ならいいわ。それじゃぁ、開演。――頑張りなさい『預言者』殿?」

 

スコールが開演、と言った瞬間、基地の全ての機能が停止した。そして預言者と呼ばれた女性はスコールの言葉に頷き、基地内を走り出した――

 

 

 

 

――主任ラボ――

 

椿と楯無の協力から数日後。

 

「ぴ、ぽ、ぱっとな」

 

主任は手元の通信器である番号を打ち込み、相手がが出るのを待った。

 

数コール後、相手が出た。

 

「もしもしー?」

『私だ……どうした?吾妻』

「はいはい社長~。単刀直入に言うけど、来週の土曜日、研究所に来て欲しいんだ」

 

主任の通話相手は川崎・インダストリアルカンパニー17代目代表取締役社長。名前は川崎五十六(かわさき いそろく)。年齢72歳

 

齢70を超えながらも、多国籍企業である川崎の全てを纏める元締めである。

 

『ほう、何があった?』

「いやね?椿君からの報告でね、『更識』家との接触に成功したって。『私は受け入れますが、最終的な判断は社長にお任せします』との事だよ」

 

実際には接触された、もといバレたのではあるが、主任はそれを誤魔化した。そして社長は更識家、と言う単語を聞いた瞬間、眉を僅かにピクリと動かし、言葉を発した。

 

『……意外に早いな』

「そう思いますよねぇ~」

『まぁ良い、取り敢えずは時間は作る。昼であれば大丈夫な筈だ』

「はいな~っと」

 

主任はメモ用紙に昼に予定が取れたと書きなぐった。

 

「そして次に古鷹から報告~」

『ほう、古鷹からか。で、詳細は?』

 

社長は古鷹の報告に興味を示した。

 

「そうですねぇ、簡単に言えば、兎からちょいと技術を盗み出しました✩」

 

普通なら重大な報告の筈なのだが、余りの主任の軽い宣言に、社長は額に手をあてながらため息を付いた。

 

『はぁ……それで、その技術とは何だ?』

「第四世代技術、展開装甲の基礎理論でぇ~す!」

『……入手経緯は?』

「古鷹が白騎士に接触して手に入れた、と」

『白騎士だと?』

 

白騎士は姿が見えなくなって久しい筈だが、と社長は言った。

 

「正確には織斑一夏の白式に積まれたコアが白騎士のコアだった、との事で」

『ほう……』

「面白い事してくれますよねぇ?」

 

ただし、面白い事、と言ってる割に主任の目は笑ってはいなかった。そして声にも不機嫌さが多分に含まれている。恐く心底くだらない、とでも思っているのだろう。

 

『まぁ良い。手に入れた以上、それを有効活用する。裁量はお前に任せよう……と言っても古鷹以外には積めないだろうがな。だが、必要があれば追加予算は組もう』

 

だが、社長は主任の不機嫌そうな声を気にする事なく指示を出す。

 

「わっかりましたぁ~」

『あぁ、それと』

「はいはい?」

 

社長が何かを思い出した様に一言告げた。

 

『お前と天枷の給料は暫く減給しておこう』

「何故にー?」

 

主任がwhy?と尋ねる。

 

『先程接触に成功した、といったな?だが、実際には接触に成功したいうより、バレたのだろう?定時報告の時に機密事項を喋ってたのを盗み聞きされた、と私は見るが……どうだ?』

「……やっぱり解かります?」

 

主任は白を切るのではなく、素直に認めた。どうやら社長には嘘は通じないらしい。

 

『当たり前だ。私を誰だと思っている』

「誰って、私が一生付いて行きたい上司№1の川崎五十六ですねぇ」

 

サラリと主任は社長をおだてる。

 

『お前の評価は素直に受け取っておこう』

「有り難き幸せ」

『だが減給は確定事項だ。首を飛ばされないだけ有り難く思え』

 

もっとも、これが非合法組織であれば文字通り首が飛ぶだろう。ある意味主任は命拾いしたと言える。

 

「おうふ……」

『それで、他にも報告があるのだろう?』

「えぇ、そうです」

 

他の報告書、と言われて主任の態度と口調が一変した。そして主任は話を続ける。

 

「『S.G』から報告がありました。イスラエルから軍用機が一機、強奪された、との事です。被害は基地の60%が機能停止。人的被害もかなりのモノ、と」

『ほう、今度(・・)はイスラエルか。それで、実行犯の詳細は?』

「では先ずは機体の方から。奪われたのは第二世代、Gid`on (ギドゥオーン)。高い汎用性とエネルギー効率を誇ります。また試作武装としてECM性能の高いプラズマラ砲を装備しています。尚、搭乗者は『予知者』ノアム・アインシュタイン。階級は大尉です」

『その予知者とは何だ?』

 

社長が気になった二つ名を尋ねた。

 

「彼女の乗るGid`onの単一仕様能力からきた二つ名です」

 

主任は提出された報告データを見ながら答えた。

 

『成程。差し詰め戦闘行動における未来予測と言ったところか……しかし、よりにもよって二次移行を果たした機体を奪われたか。イスラエルもさそがし痛手を負っただろう』

「そうですね。しかもそのノアム・アインシュタインが強奪を実行した、とされます』

『……ノエル・アインシュタインの性格は?』 

「S.Gからの報告によると、彼女は女尊男卑の思想を持たない、実直で正義感溢れる軍人だったとされています。そして今回の暴挙の原因はは上司との軋轢だったらしい、との事です」

『……報告通りであれば、軋轢があったのならその上司を変える手も合った筈だが』

 

確かに社長の言う通りだろう。その上司が何人に変えられない有能な人物であれば何いざ知らず、二次移行を果たした機体であるならば、その重要度は比較的高くなる筈だ。よってノアム・アインシュタインの権限はそれに伴い、高くなる。故に、上司に対してもある程度は意見通せるはずなのだが。

 

「それはそうなのですが、どうやら権力を盾に行動を制限され、ありもしない命令違反、作戦の失敗等の責任を押し付けられていた様です。よってその事を信じた軍の上層部は看過できない問題として、彼女の階級を下げるのと同時に、機体を一度『初期化』させるつもりだった、と言う事になっています」

 

主任は呆れながら言った。

 

『裏があるのだな?』

「そうです。あくまでもこれは表向きのストーリー。実際には上層部が何も知らない内に行われていた様です。命令違反も作戦失敗も、そして彼女に対する罰も全て上司による虚偽です」

「それで、その上官とやらはどうした?」

『その上司なのですが……既に死亡していました。場所は基地からかなり遠く離れた海岸ですね。頭と胸を銃で撃ち抜かれた状態で発見されたとのこと」

『死人に口なし、か。……これらの情報から察するに、これは全て仕組まれた事だな?』

「十中八九その通りでしょう。少なくともノアム・アインシュタインの手で行われたモノではないです。襲撃時間とこの上官の死亡時刻、そしてノエル・アインシュタインの襲撃前の行動を照らし合わせると、矛盾する点があるので尚更です」

 

主任は頭を掻きながら答えた。

 

『フン、下らんデキレースだな』

 

社長は鼻で笑い、一言、切り捨てた。

 

「そうですね。ノアム・アインシュタインはなまじ正義感が強かったが故に、惑わされ、踊らされました。そしてその果てに機体を初期化させると言う最悪の形で彼女の正義を否定されました。よって彼女は目標を見失った。恐くそこに漬け込まれて利用されたのでしょう」

 

一度心が揺らいだ人は、とかく利用しやすく、またされやすいのだ。恐く、ノアム・アインシュタインの懐柔も滞りなく進んだのだろう。

 

『まぁ、そうなのだろうな。しかし、人心掌握術か。やはり、亡霊共も中々やる』

「えぇ、やってくれますね、あの亡国機業とやらは」

『それで、報告はこれで終わりか?』

「はいそうで~す」

 

そして主任は態度が普段のソレに戻った。次いで先程の不機嫌さも無くなっていた。

真面目な彼は一体何処に消えたのだろうか?

 

『……普段から真面目に話せば良いモノを』

 

社長はしみじみと呟く。どうやら真面目な口調の方を好むらしい。

まぁ、当然といえば当然ではあるが。

 

「それは無理な相談ですねぇ、解るでしょう?私の性格は」

『あぁ、知っているとも。少なくとも上司に向かって聞く口調ではないな』

 

社長は溜息を付きながら言った。

 

「まぁまぁ気にせず気にせず」

『……そんな事ではこの老いぼれが身を引いた後に立場が危うくなるぞ』

「そんな時は次のパトロンを探すのであしからず」

 

主任にとって、権力はどうでも良いらしい。はっきりと言い切った。そして社長はそんな主任の発言を聞いて再びはぁ……、と通信器越しに盛大に溜息をついた。

 

『お前はこれからの川崎に必要な人間だ。簡単にいなくなっては困る』

「そう言われましてもねぇ?自分で言うのもなんですが、私を理解してくれる人物でなきゃ私を扱いきれませんよ?因みにどうなんです?息子さんとお孫さんは?」

 

主任は私を扱いきれるのか?と暗に示してきた。だが、そもそもの前提がおかしいのだ。何故、川崎五十六という、70代という老人が現役社長をしている事が。それも後継になる筈の息子や孫がいるにも関わらず、だ。これは異常だろう。

 

『はっきりと言おう。お前を扱えるか否か。と、問われると後者だ。それにせがれは経験は足りているが、上に立つ才がない。そして孫は才能の片鱗を露わにしてきているが、如何せん経験が足りない。そしてどちらも頭が固い。当然、せがれ達はお前の存在を疎むだろうな』

 

社長はきっぱりと断言した。

 

頭を悩ませるモノなのだろう。なまじ川崎一族が代々受け継いできた社長と言う立ち位置故に、そう簡単には部外者を社長には出来ないのだ。しかし社長は一族などどうでも良い、というスタンスなのだが、周りがそれを許さなかった。

 

「社長程の『天才』が言われましてもねぇ?求めるモノが高すぎではありません?息子さん達は無能って訳じゃないでしょう?」

 

反抗心剥き出し人物ならばまだしも、彼等は真面目に経営事業に取り組んで来たと思う、と主任は暗に示す。そして主任は「けどまぁ、頭が固い上司の下では働きたくないですがね」と最後に付け足した。

 

『確かに無能ではない。しかし上に立つ器ではないのだよ』

「そんな事だといじけてよからぬ事を考えますよ?今だって危ない橋を渡ってるのに」

『その時は所詮そこまでだった、と割り切るまでだ。それに、常に最悪のケースを予測し、対策を用意しておくのもまた社長として必要な素養だ。息子達がそれを理解した上で向かうのであれば、全力で立ち向わせてもらおう。せめて親の、祖父の務めぐらいは果たす』

 

社長はどうとでもない様に答えた。しかし、最後辺の部分は明るく言った。

 

何故なら社長は自分の価値を理解している。例え彼等が反抗心をもっていたとしても、彼等についてくる部下が少ない、と言う事を。そして例え反乱を起こしても鎮圧できる自信があるのだと。最後に親の務めを果たす、と宣言したのは、恐く期待しているのだろう。

 

私という壁を越える、と気概を見せてくる息子達の姿を。

 

『だが、この先短い身だ。そんな危険な橋を渡るよりこの老いぼれがくたばる方を選ぶさ』

 

社長は半ば諦めに近い感じで言葉を発する。

 

「それはそうですが、今度は息子さん達が醜い事態になるんじゃないですか?」

 

後継者は誰か、と言う事でひと悶着あるのは確実だろう。

 

『知らんな。だが、今言えるとしたら私の子飼いを先に掌握した方が社長の座を得ることができる。と言う事だけだな』

「あの極悪諜報部隊を掌握ねぇ……社長じゃなきゃ無理じゃありません?」

 

どうやら社長の言う子飼い、と言うのは裏で色々とやらかしているらしい。それも極悪、と付く程なのだから各国に対しても余程の事をしでかしているのだろう。そしてS.Gと呼ばれる人物もまた、その部隊に所属しているのだろう。

 

『それこそ上に立つ為の才を試す丁度良い試練だ。好きにさせよう』

「左様ですか」

『あぁ、そうだ……ふむ。少し、長く話しすぎたな。先程から重役と秘書共の催促が五月蝿い。ここらで失礼させて貰う。次は研究所で会おう』

「はいはいー」

 

そして主任は社長が通信を切るのを確認してから通信器を置いた。

 

「ふいぃ~~」

 

主任は一仕事をわったかの様に背伸びをした。そして主任が体をほぐしている時、扉が叩かれ、一人の研究員が彼のラボを訪れた。

 

「失礼します。主任、よろしいですか?」

「うむ?どうしたかね?」

「装備開発部から新しい提案が来ました」

「ほう!聞かせてくれたまえ。」

 

新しい提案、と聞いて主任は目を輝き始めさせた。まるで子供の様な反応である。

 

「はい。今回の提案はレギオングレネードです」

「詳細は?」

「グレネードキャノン13門×5列を束ねたユニットを2つ、両肩に装備。すなわち、計130門のグレネードキャノンから構成された全周囲殲滅兵器です」

「弾種とその配列は?」

「高性能炸裂榴弾が2列、空中炸裂弾が2列、対人・対装甲弾が1列の計3種です」

「口径は?」

「全て105㎜です」

「パーフェクトだ」

「至極恐悦」

 

研究員はそう言って慇懃無礼に腰を下げた。

そして研究員は恭しく計画書を主任に手渡した。

 

「ふっふっふ……さっそくこれをさくせ「させる訳ないでしょ」おろ?」

 

主任が制作に取り掛かろうと言おうとした瞬間、それを遮る人物が居た。

 

「や、やぁ千歳君じゃぁないか。いやだなぁ、失礼しますぐらい言ってくれないと」

「あらごめんなさいね。だけどその計画書は私が預かっておくわ」

 

そう言って千歳は主任の手元から計画書を奪い去った。そして奪われた瞬間主任と研究員は魂の叫びを、嘆きを発した。

 

「Noooooooooooo!?!?!」

「ジーザス……」

「煩いわね」

 

それを間近で受けた千歳は耳を抑えながら言った。

 

「だが、これで終わったわけではない……」

「この計画は我々の中でも最弱のモノ」

「今に第2、第3の計画が「あぁ、それだけど」What?」

 

主任と研究員が連携しながら呟いているのを千歳は遮った。

 

「さっき開発部のとこいって全部預かってきたから」

 

そう言って千歳は後ろを指差した。

 

見ると、入口の方にはダンボール一箱にぎっしり積まれた計画書の束があった。つまり、今千歳が持っているので最後のなのだろう。

 

「「Nooooooooooooooooooooooo!?!?」」

 

「だからうっさい」

 

「「あうちっ!?」」

 

千歳は主任と研究員を沈黙させた。

 

「はぁ……毎度毎度世話が焼けるわね」

 

千歳が盛大に溜息をついた。つまり、これが川崎研究所の日常なのだろう。彼女の気苦労は計り知れない。

 

「早く椿君が戻ってくれればねえ……」

 

そうすれば負担が減るんだけど、と言って千歳は主任のラボから出て行った。

 

 

 

――廊下――

 

「ッイクシッ」

 

HRが終った後、本音と共に廊下を歩いていた時にくしゃみが出た。

 

「あまっち風邪~?」

「それはない。だが、誰かに噂された様な気がした」

「あまっちは人気者だね~」

 

本音が見当はずれな事を言ってきた。

 

「違うだろう」

 

どうせ、主任がまた変なことを思いついて私を利用しようとしただけだろう。今度はなんだろうか?グレネードか?それとも大口径砲か?まぁ、どちらにせよ逃げるが。

 

――酷い言い草ですねぇ

 

(では聞くが、お前は実験台にされたいのか?)

 

そうであれば古鷹の評価を変えなければいけない。

 

――全力で量子化を拒否します

 

(それが答えだ)

 

「そんな事はないと思うけどな~」

「さてな、生憎人気者のつもりはない……では、一度部屋に戻らせてもらう」

「あいあい~また後でね~」

「あぁ、また後でな」

 

私は本音に一度別れを告げ、寮に向かった。

 

 

 

 

――学生寮―― 

 

「さて、荷物を置いてとっとと向かうか」

 

――思うんですが、何故一々荷物を置いてから整備室に向かうんです?面倒でしょう?

 

(そうでもない。これはそうだな……気分の入れ替え、の様なモノだ)

 

そう、深い意味などない。もしかしたら気分転換えによって良いインスピレーションが浮かぶもしれない、という程度のモノだ。だが、充分試す価値はあると思う。

 

――良く解らない理屈ですね。まぁ良いです。では少し意識を集中させますので、また後程

 

(あぁ、解った)

 

そして私は古鷹との会話が終わるのと同時に、扉を開けた。次いで中に入り、荷物を机に置いた瞬間、突然視界が塞がれた。正確に言えば、髪の上から目を抑えられた、である。そして私はその突然の事態に驚いてしまった。

 

「っ!?!?」

「だ~れだ」

 

背後から首筋に吐息がかかる距離で猫なで声で呟かれる。次いで背中に柔らかい感触も伝わってくる。明らかに悪戯である。そしてそんな事をしてくる人物を私は一人しか知らない。

 

「……楯無」

「正解」

 

そう言って楯無は私から手をどかした。私は振り返る。見ると楯無は扇を開いて格好付けをしていた。因みに扇には『ドッキリ大成功✩』と書いてあった。

 

「一体何の用だ」

「あら、何か用がなきゃ来ちゃいけないの?」

 

いけしゃあしゃあと楯無は言ってくる。どうやら以前のことは全く反省していないらしい。まぁ、裸エプロンよりかはマシではあるが。

 

「そんな事はない」

「なら良いじゃ「だがな」……」

「不法侵入を許した訳ではないぞ馬鹿者」

「っ痛!?」

 

私は楯無の台詞を途中で遮り、文句を言いながら手刀を喰らわせた。ふむ、今宵も良い角度で入ったな。

 

そして私の手刀を受けた楯無は痛そうに頭を摩っていた。

 

「少しは反省して欲しいモノだな」

「うぅ……」

「それで、まさか本当に用もなしにこんな悪戯を仕掛けようとは思ってもないよな?」

「そ、そんな事は無いわよ?」

 

では何故視線を彷徨わせている……?

 

「まぁ良い。用件はなんだ?」

「んーとね、そう!貴方の役職を決めたわ!」

 

おい、今この場で思いついただろう?やはりもう一度喰らわせるべきなのだろうか?

 

「それは止めて頂戴」

「……まぁ良い。それで、俺の役職は?」

「あら、私の前では素でも良いのよ?」

「ほっとけ。これはあくまで保険だ」

 

だから本来の一人称は使わない。

 

「そんな必要ないんだけどね……まぁ良いわ!では発表するわ!」

 

そう言って楯無は一度扇を閉じ、高らかに宣言すると同時に再び扇を開いた。

 

「ズバリ!生徒会副会長よ!」

 

そして開かれた扇にも『生徒会副会長』と書かれている。

 

思うんだが、この扇に文字数制限はあるのだろうか?まぁ、そこを突っ込んだら負け、と古鷹は前に言っていたので無理やり流す。

 

そして私は楯無の宣言に一言呟く。

 

「そうか」

 

別に私は驚く事がないので、それだけ言って本棚にある参考書を手にとった。

 

ふむ……そうだな、今日はこの本でも持っていこうか?いや、これもアリか……?

 

「ちょっと!流さないでよ!」

「そう言われても、な」

「生徒会副会長は学園で二番目に強いのよ?」

 

その一言に思わず本棚を物色していた手が止まってしまった。

 

「……何だと?」

 

そんな話は聞いた事がないぞ。

 

「今決めたことよ!」

 

非常に元気良く宣言してくる楯無。

 

……開いた口が閉じれん。今の私は今できる最大限の呆れ顔をしているだろう。

 

「俺には身分不相応だ」

 

私よりも実力がある人物は幾らでもいる。あくまでも私は古鷹と機体性能と自分の能力に依存している形だ。多少射撃には自信があるが、只それだけだ。他は見るべき点があるだろうか?自分自身の結論で言えば無い。よって二番目などとは烏滸がましいにも程がある。

 

「私が鍛えるから問題無いわ」

 

自信たっぷりに楯無は言う。

 

「……いいだろう。受けよう、生徒会副会長の座は俺が座る」

 

もういい、ツッコムのは止めだ。こんな事で疲れるくらいならとことん乗ってやる。

 

私は半ばヤケクソに近い形でその提案を受け入れた。

 

「あら、殊勝ね」

「誰のせいだと思っている……?」

「楯無様のおかげ「たわけ」痛っ!?」

 

即、手刀を喰らわせた。こうなる事が分かってやっているのだろうか?そうであればマゾヒストの称号を送るべきか……?

 

「それはお断りよ」

「それで、君はこれからどうするつもりだ?」

 

私はもう心を読まれるのは無視し、聞きたい事があったので尋ねることにした。

 

「どうするつもりって?」

「簪と本音の事だ。いずれこの件(・・・)はバレる。その時に巻き込むか否か」

「そうね……」

 

流石に、無力であれば巻き込む訳にはいかない。はっきりと言うが、足でまといで失敗しました、では済まされないのだ、この件は。

 

そして楯無は少し考え始めた。だが、それも僅かの間で、直ぐに答えを出した。

 

「巻き込むわ。言っておくけどあの子達も更識家の一員。最低限の事はできるわ」

「……そう、か」

 

私が懸念していたモノは既に問題無い、か。

 

だがな、私としては、彼女達にこのまま暖かな光の中で生きて欲しいと切に願う。巻き込みたくないのが本心だ。だが、巻き込まざるおえないのが現実、か。あぁ、本当に嫌なモノだな。一度光に背を向けては、もう元には戻れないと言うのに。割り切るしかない、とは認めたくはない。

 

「私だって同じよ。巻き込みたくない。でも、今回はそう言う訳にはいかない」

「……あぁそうだな」

 

この時ばかりは楯無が私の心情を読み取ってくれて嬉しかった。楯無もまた同じ思いなのだ。であれば、だ。

 

私達(・・)が如何に事を上手く運ぶかが重要か」

「そうね。でも、私達の思い通りになる訳がない」

「あぁ、だができるだけ負担を背負わせない様にする。それがせめてもの手だ」

「解っているわ」

 

私達は決意を新たに胸に刻み付ける。

 

願わくば、簪と本音が安全でいられるように、と。

 

「楯無、簡単に倒れるなよ?」

「それは此方の台詞よ」

「そうか。だが、私は簡単にはやられん」

「期待するわ」

「あぁ、期待するといい」

 

ここまで言い切って見せたのだ。ならばこれ以上の会話は不要。そして楯無も同じ考えに至ったのだろう。お互いに無言になり不敵に嗤う。

 

そう、嗤うのだ。笑うのではない。

 

これ決してこれは生易しい決意ではないのだから。

 

「じゃぁ、徐々お暇するわ。次は……そうね、校門前で会いましょ」

 

何故校門前か、それを聞くのは愚問だろう。

 

「あぁ、ではその意気で社長と相対するといい」

「無論よ。じゃあね椿」

「あぁ。またな、楯無」

 

お互いに別れの口上を言い、それぞれが向かうべき場所へ向かう。

 

私は彼女達が待つ整備室へ、楯無は生徒会室へ向かう。

 

私の歩みは、何時もよりも気迫に満ち溢れていた。





はい、更に味方&敵のオリキャラ登場です

川崎 五十六

川崎・インダストリアルカンパニーの社長
優秀な経営能力と判断力を持つ老練な人物
息子や孫はいるが、海外の支部を任せている
天枷椿の現状を理解し、彼の後ろ盾になることを承諾している
そして裏の事情に詳しく、暗部の更識家の存在や亡国機業についても知っている

名前の元ネタは勿論山本五十六。

S.G

所属:川崎・インダストリアルカンパニー
社長の子飼いの一人。コードネームのみ明かされている。
性別、年齢共に不明。
諜報に長けている。

社長の子飼い

正式名は不明。主任からは極悪諜報部隊といわれている。そして社長には絶対の忠誠を誓っていると言う奇妙な集団である。高度な訓練を積んでいる為、高い報部能力を持つ。
基本的には裏方仕事の為、普段は日の目に当たる事は殆ど無い。
よって川崎の完全な縁の下の力持ちの様な存在である。無論、戦闘能力も高い。
因みにこの部隊は幾つか前の社長が設立させたもので、元々は企業スパイを洗い出す為のモノだったのだが、当代の社長が就任してからは裏世界における尖兵として強化されている。
また、秘密裏に各国の機密情報を収集し、有事の際の手札にしている。

ノアム・アインシュタイン

所属:亡国機業

乗機:Gid`on(二次以降済み)

元イスラエル軍人。最終階級は大尉
報告では女尊男卑の思想を持たない、実直で正義感溢れる人物だった。
だが、それ故に脆く、利用されやすかった。
故にそこを漬け込まれて亡国機業に懐柔されている。

名前の元ネタは特になし。

Gid`on (ギドゥオーン)

名前の意味は戦士。イスラエル製第二世代軍用IS
軍用機として開発された機体で、高い汎用性とエネルギー効率を誇る。
ある意味ラファールの上位互換とも言える機体。
ノアム機には試作武装としてECM性能の高いプラズマラ砲を装備していたらしい。
その他の武装は不明

唯一仕様能力『ラプラスの悪魔』
効果は戦闘行動における未来予測。
使いようによってはかなり凶悪な能力である。

本日の川崎の変態武装

レギオングレネード
グレネードキャノン13門×5列を束ねたユニットを2つ、両肩に装備。すなわち、計130門のグレネードキャノンから構成された全周囲殲滅兵器。
使用弾種は高性能炸裂榴弾、空中炸裂弾、対人・対装甲弾である。
Q.反動は?
A.引かぬ!
Q.費用は?
A.媚びぬ!
Q.被弾は?
A.省みぬ!
の三拍子揃った優れ物(?)である。
しかし、制作直前に千歳に計画書を奪われた。南無。

それでは次回もお楽しみに!……初めて後書きで1000文字超えたw

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