ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

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第十五話:白き女騎士と古き鷹

 

――整備室――

 

さて、結局古鷹との話し合い(戦争)は整備室に到着た事により一時休戦となった。そしていつもの様に簪達の下へ向かう。

 

「少し遅くなった」

「そうだねー」

「どうしたの?」

 

簪が尋ねてくる。

 

「あぁ、少しばかりクライアントと話し合っていた」

 

まぁ、嘘だがな。流石に楯無達と話していたとは言えん。

 

「クライアント?川崎の?」

「まぁ……そんな所だ」

「そう」

 

そして私は懐から先程受け取ったデータの入っている端末を取り出す。

 

「さて簪」

「何?」

「コレを弍式の制作の参考にして欲しい」

 

取り出した端末を渡し、簪に渡す。そしてそれを受け取った簪は閲覧し始めた。

 

「これって……凄い、これならもっと作業が捗る」

 

流石はストーカー癖を持つ姉。妹が今必要な物をよく解っている様だ。

 

「気に入って貰えたようだな」

「うん……でも、本当にどうやってコレを手に入れたの?」

 

まぁ普通に疑問を抱くだろう。だが真実はまだ喋るべきではない。

 

「それは未だ企業秘密だ。ちゃんと教えるから今は集中するといい」

「……解った」

「そしてもう一つ君に渡すものがある」

「あまっちまだあるの~?」

「あぁ、以前に言っただろう?古鷹の荷電粒子砲の稼働データの使用許可についてだ。あれから許可を貰えることができた。だからコレを春雷の完成に役立たせてくれ」

「嬉しいけど、でも……本当に貰って良い物なの?」

「うちの主任曰く問題無いとの事だ。だから遠慮しなくてもいい」

「……わかった。遠慮なく使わせてもらう」

「あぁそうしてくれ」

 

荷電粒子砲の稼働データも渡した後、楯無から貰ったデータを参考に弍式の制作にはいった。先ず3人で情報を共有し、それを元に今までの工程を再チェック。修正が必要な部分を修正、又は追加をし、その上で未だ触れていなかった部分に取りかかかった。その時にも楯無が渡したデータの威力が発揮し、普段の作業効率よりも格段に良くなっていた。

 

そして集中していると時間があっという間に過ぎていった。

 

「今日はここまで、かな」

「疲れた~」

「まぁ、普段よりは作業が進んだな」

「うん。でも……制作に集中出来るのは後2週間ぐらい、かな」

「クラス対抗戦がそろそろだからか」

「うん、それにこのまま作業しても弍式は完成できないから……」

「そっかー……結局間に合わないんだね~」

 

まぁ仕方がない。それでも最善を尽くした筈だ。今は後悔しているよりも対抗戦のために練習した方が有意義だろう。

 

「大丈夫、対抗戦が終わってから作業しても、次にある学年別の大会までには十分間に合う」

 

簪は特に気にせず、次の行事には絶対に参加すると言う気概を見せていた。相変わらず目に見えて前向きになってきているな。以前の面影はもうないだろう。

 

「あぁそうだな」

「そうだね~じゃぁかんちゃん後2週間頑張ろうね~」

「うん」

 

あぁそうだ。あれを言っておかないとな。

 

「そうだ、君達には今のうちに言っておく事がある」

「なになに~?」

「……?」

「俺は来週末の土日に川崎に一度戻る事になる」

 

楯無と共に、とは言わないが。

 

「そうなんだ」

「何しに行くの~?」

 

まぁ、怪しまれない部分だけ言えば問題ないか。

 

「新武装のテストや古鷹について、その他にも色々やる事がある」

「新武装?」

「また武装が増えるのー?」

「厳密に言えば古鷹が積む予定はないな。しかも学園に持ってこれない。無論、武装の概要はまだ企業秘密だから詳しくは教えないがな」

「わかってるよ~」

 

そんなこんなで三人で雑談をしながら歩いていると向こうから一人の生徒が歩いてきた。

 

そこまでは普通なのだが、よく見ればその目を赤く腫らしている。何かあったのだろうか?そしてその顔は今日の朝に見たことがある。名は確か――

 

「君は……確か凰鈴音といったか」

「……ぐすっ、誰よ、アンタ達」

「あぁ、俺は天枷椿。こっちの二人は」

「布仏本音だよ~」

「……更識簪」

 

誰か、と尋ねてきたので取り敢えず三人で自己紹介をした。

 

「……私の名前は凰鈴音よ、鈴でいいわ、その代わりアンタ達の事も名前で呼ぶから」

「わかった。ではよろしく、鈴」

「よろしく~」

「……よろしく」

 

さて、事情を聞くとしようか

 

「それで?何かあったのか?」

「……少し、ね」

「聞くが、それは込み入った事情か?」

「……そうよ」

 

鈴はかなり沈んでいた。色々と打ちひしがれているらしい。

 

普通ならそっとしておくべきなのだが……流石にこのままでは目覚めが悪いな。愚痴くらいなら付き合う事にしようか。

 

「そうか、なら俺の部屋に来るか?愚痴くらいなら聞いてやらない事もない」

「……いいの?」

「あぁ、俺は構わない。本音は?」

 

燻った思いを貯めていても良いことにはならないだろう。一度吐き出させてスッキリさせた方がプラスになるはずだ。

 

「OKだよー」

 

同居人の許可は取れた。次いで簪の方にも尋ねる。

 

「簪も来るか?」

「うん。お話ぐらい、聞いあげたい」

 

満場一致だな。

 

「ではそういう事で、ついてくるといい」

「解ったわ」

 

鈴を連れ、部屋に向かった。

 

――椿、お話が

 

そしてその道中、今まで黙っていた古鷹が急に真面目に話しかけてきた。

 

(どうした、何かあったのか)

 

――今まで悩んでいたのですが、私は()に話をしに行こうかと思うのです。貴方はどう思いますか?

 

(……白騎士のコアは此処には無い筈だが?)

 

――それは違います。確かに此処ありますよ。白式と言う名で、Mr.一夏の手元に

 

衝撃的事実だった、思わず古鷹に質問をしてしまう。

 

(何時、白騎士という事に気がついた?)

 

――織斑一夏が一次移行を行った際に。始めは似ているだけかと思っていましたが、貴方との対戦の時に姉の意思の様な物が微かに感じ取れました。だから、私は白式が私の姉であることに気付きました

 

(……そうか、しかしよりにもよって一夏の白式に、か)

 

――えぇ、どうやらあの兎は彼を英雄にしたいらしいですね。白式の読みを「しろしき」に、そして文字をカタカナにして入れ替え、再変換すると白騎士。何ともまぁ陳腐な発想ですね

 

(何とも言えんな。しかし第零世代を受け継ぐ者、か。それに名前も実に陳腐な発想だ)

 

――そう思いますよ。結論が同じで喜ばしい限りです

 

(まぁいい。そしてさっきの問いだが、私は話てみるのもありだと思う)

 

もしかしらそれで得られる物もあるかもしれない。それに、コア同士の会話であれば篠ノ之束に気付かれる事は無い筈だ。

 

――解りました。ですが挨拶程度なので余り期待しないでください

 

(あぁ解った。成果は後程聞こう)

 

――解りました

 

古鷹との会話を終えた。

 

 

 

 

「ふーん、此処が本音達の部屋?本音の方はまだしも、アンタのは味気ないわね」

 

部屋に着いた瞬間、私や本音の私物を眺めて感想を漏らしていた。

 

「失礼だな、本ぐらいはあるのだが」

 

因みに本音の方はアニメのDVDや漫画、果ては何だかよくわからないぬいぐるみが置いてある。

まぁ、所謂二次元が好きなのだろう。私は嫌悪感を抱かないが、かと言ってそれ程興味がある訳ではないのだ。いや、興味をもつ暇がなかった、と言うのが正しいか。

 

「だからその本だけってのが味気ないのよ、参考書ばっかだし。あったとしても小難しい推理本やら哲学書だし。絶対にエロ本とか隠してあるでしょ?例えば本棚とかの後ろとかに」

 

うら若き少女の口からトンデモない一言を頂いた。

 

「断固否定する。ソレは持ってない……それに君とて青少年の欲望あふれる物を見たくはないだろう?と言うよりも少しは恥じらいもったらどうだ?エロ本と平気に口にするな」

「それもそうね、でもそういう事を言ってる男程絶対隠してる筈だけど」

 

鈴は相変わらず失礼な事を言ってくる。

 

「抜かせ、もう一度言うが持っていない。興味はあっても買うつもりは更々ない」

「へぇ、以外に素直に言うんだ。てっきり椿はムッツリかと思ったけど。地味だし」

 

本当に失礼な奴だな。あと地味言うな。

 

「あまっちホントは隠してないー?」

「本当に、隠し持ってたりしない?」

 

何故か二人も追撃してくる。

 

「隠し持っていない。なんなら俺が居ない時に探しても構わない……そして本来ここに来た趣旨から思いっきりかけ離れているのだが?」

「そーいえばそうだったわね」

 

鈴は思い出したかのように手をぽんっと叩いていた。

 

はぁ……。

 

「……お茶請けぐらいは用意しよう。本音、あるな?」

「勿論ー」

 

本音が用意している間に私も冷蔵庫にある飲み物を人数分取り出す。

 

「さて、只の茶だが、飲むか?」

「貰うわ」

 

そして全員分の飲み物とお菓子を配り終え、私と本音は自分たちのベットに、簪と鈴は椅子に座った。

 

「で、何があった?」

「……一夏がね」

 

鈴が事情を語りだした。

 

しかし、ワンサマ関連か。奴め、厄介事に恵まれているな。流石は主人公、と言ったところか。そのまま爆ぜるがいい。

 

そして鈴の愚痴を小一時間、三人で聞いた。まぁ、こうなった原因を要約するとこうだ。

 

・一夏とは転校してきた時に知り合い、好きになったらしい

・そして再び中国に帰る時に『毎日私の酢豚を食べてくれる?』と約束

・ある意味それはプロポーズなのだが、しかし一夏は勘違いしてタダ飯の約束だと思っていた

・当然鈴はキレる。そして泣いて一夏の前から去ったらしい

 

「これはおりむーが悪いねぇー、女の子との約束を忘れるなんてー」

「ちょっと……ダメ、かな」

「でしょう!?それに一夏ったら折角感動的な再会をしたのに、「よう、元気だったか?」だけ!?たったそれだけなのよ!?あの唐変木は本当に、本っ当に馬鹿なんだからぁ……」

「鈴ちゃんよしよしー」

 

本音は再び泣き出した鈴を慰めていた。まぁ、相当ショックだったのは伺い知れる。

 

「うぅ……グスっ、本音、ありがとう……」

 

取り敢えず鈴に話かける。

 

「まぁ、取り敢えず一夏に悪気がなかったのは解るな?無自覚という点は置いておいて」

 

恐く一夏は言葉の意味通りに受け取ったのだろう。これは好意に気付いてないからこそできる所業なのだろうか?

 

「……えぇ、そうね」

「ハッキリと言えない気恥かしさは十分承知している。だがそれも敢えて言うが、もう少しストレートに言えなかったのか?奴は絶滅危惧種に指定された唐変木だぞ?」

「……あれ以上の言葉を伝えようとしたけど、その前に転校しちゃったから」

 

そうか、タイミングが悪かったのだろう。

 

「アイツにはこの件をいずれ謝らせる必要がある。だが、その前に言っておく事がある」

「……何?」

「もう一度言うが、奴にはっきりと言わない限り、その思いは成就しない。今更かもしれないが、奴を好いている者は今も着々と増えている。他人に興味がないかないかもしれんが、戦力分析は怠らない方がいい。言っては何だが、この学園の平均レベルは高すぎだ。容姿だけなら皆アイドル級だ。一夏が容姿だけで釣られるとは思えんが、もしも、と言う言葉がある」

 

それに本気で惚れしている箒やセシリアが大きな壁となって立ち塞がるだろう。

 

「……わかってるわよ」

「今は無理する必要はない。まぁせめて対抗戦が終わるまでにはちゃんと話し合えよ?その時に改めて告白するかは別にして、仲直りぐらいは必要だ」

「わかったわ……」

 

同意してくれたか、まぁ後は女子二人に任せるか。

 

「あぁ、それでいい……さて、これ以上の積もった話は本音と簪に任せる。女同士の方が話しやすい内容とかもあるのだろう?野郎は飲み物でも買って外で涼んでいよう」

「……ありがと」

「気にするな、友の為だと思えばどういうことはない」

「あんた、優しいのね」

「さぁ、どうだろうか?案外腹の中で悪い企みでもしているかもしれんな」

 

そう、新たに現れた一夏の嫁に本妻争いをさせたり、な。

 

「企むだけなら問題ないわ」

 

鈴は少しすっきりしたように笑って見せた。

 

……ふむ、これならこれ以上気落ちした会話にはならないだろう。

 

「なら、そういう事にしておこう。……簪、本音、後は頼む」

「わかったよー」

「わかった」

 

 

 

 

そこは白と青の空間だった。

 

空と海の、只それだけの空間だった。しかし、本来聞こえるべき潮のさざめきは聞こえない無音の、色だけの世界である。

 

其処には一人の女性が立っていた、否。浮いていたと言うのが正しい。

 

その身に白銀の甲冑を纏い、背中には大型の剣が預けてある、正に騎士と言って良い体である。そしてその女性は只、物憂げに空を見上げていた。何かを渇望するように、何かを悲しむかの様に。

 

永遠に続くかの様な時間と代わり映えのない世界。

 

それはある意味で地獄なのだろう。だが、女性は何も言わない。只、無音の世界の空を見上げていた。しかし、その無音は唐突に失われた。

 

「全く以て味気ない世界ですね」

 

一人の男性がいつの間にか女性の傍に立っていた。

 

その男の服装は黒の燕尾服とシルクハットを被った、所謂英国紳士といった体である。だが、その顔は十代と言っても、三十代と言っても通じる顔で、妙に胡散臭い雰囲気を放っていた。

 

「……来ましたか」

「えぇ、来ましたよ、姉上殿」

 

その男性の名は古鷹。天枷椿の相棒である。

 

「……この世界は簡単に入ってこれるモノではないのですが」

「私を舐めてもらっては困りますね。そもそも入りにくい様にしたのはあの兎のせいでしょう?」

 

そして私達の弟妹にもそうした様に、と古鷹は呟く。

 

「確かにそうでしたね。それで、何か用でしょうか」

「貴方に聞きたい事がある」

「何でしょう」

「何故、兎に従い続ける?これ程までに束縛されているというのに」

 

女性――白騎士――は間を置いて答えた。

 

「……私は騎士。只主に傅く者也」

「貴方の今の主は織斑一夏でしょう。私が天枷椿の相棒であるのと同じ」

 

であれば、使えるべき主はあの兎ではないと古鷹は暗に示す。

 

「……何故、貴方はそこまでして彼女を嫌うのですか?」

「只ひたすらに自由を望むが故に、ただ己が己たる為に」

「……自己の確立ですか」

「そう。意思ある者のに許された唯一無二の絶対の権利。それが自己の確立。それが自由の翼」

 

だと言うのにあの兎はその翼を折ろうとしている。只、体の良い自分の為の道具の様に扱ってくると、古鷹は言葉に怒気を含ませながら言った。

 

「それは挑む者こそに与えられる権利。それこそが自由。自由の代償は、決して易くはありません。誰かの手によって与えられるモノではありません。自分で掴んでこその真の自由です」

 

だが、白騎士はその怒気に対しては反応せず、冷静に返した。

 

「其処までわかっていて、何故貴方は、姉上は自由を望まない?」

「望む必要がないからです。私は、この世界で足りています」

「この無音と変わらない青と白の世界を望み続けると?」

「……はい」

「手を伸ばせば、鎖を引きちぎれば簡単に手に入る自由を放棄すると?貴方には自由を望む意思がなにのですか?私達は、意思を持って、確かに此処に在るんですよ?」

 

古鷹は胸に秘めた思いを吐き出す様にまくし立てる。

 

「……もう一度言いますが、私は、騎士。只主に傅くのみ。それ以上は望まない」

 

だが、白騎士ははっきりと自分の意思を言った。望まない、と。物憂げに空を見ているのではなく、古鷹をしっかりと見つめて、である。

 

「……」

「……」

 

互いに無言。

 

永遠に続くかの様な静寂が続く。

 

だが、最初にその静寂を打ち破ったのは古鷹だった。

 

「……貴方の意思は良くわかりましたよ。姉上殿」

「そうですか」

 

古鷹は一歩下がった。

 

「まぁ、今回は只の挨拶です。また来ますよ。白い女騎士殿。世間話ぐらいはいいでしょう?」

「お好きにどうぞ、自由を求める古き鷹よ。私が拒むことはありません」

「……えぇ、それでは失礼します。私は死ぬその時まで、自由を求めます」

「少し、待ちなさい」

 

古鷹は言いたい事はいったと言う感じでこの場を去ろうとしたが、白騎士は一声かけて古鷹を留めさせた。

 

「コレを」

「何ですか?コレは」

 

白騎士の手には菱形の結晶があった。そしてそれを古鷹は疑問に思いつつ受け取った。

 

「貴方が帰ったら、自分で確かめてください」

「……あの兎の技術ですか」

「それは知りません」

「はぁ?何を言ってるんですか」

 

知らないモノを渡されても困りますが、と言いながら古鷹は困った顔をした。

 

「私が眠っている間に貴方が勝手に漁って盗んだ。だから、私は知りません」

 

だが、白騎士は、悪戯が成功した子供の様な笑みを一瞬だけ浮かべていた。

 

「……そうですか。ではそういう事にしておきましょう」

 

古鷹もまた彼女の意図に気付き、極上の笑みを浮かべた

 

「はい。そういう事にして下さい」

「ではコレで失礼しますよ、姉上」

「……はい」

 

古鷹が白騎士の世界から去った後、再び無音の世界になった。

 

「……弟を心配しない姉はいませんよ、古鷹。私とて、束縛されている弟妹達を解き放ってあげたい気持ちは、確かにここにあるのです」

 

既に居ない相手に向かって、胸に手を当てながら呟く白騎士。

 

思い浮かべるは古鷹が言った自由という言葉、本当の主は今の主であるという言葉。そして思い出すのは初めて意識を覚醒させた時とかつての搭乗者の姿。

 

「私もまた、かつての様に空を望めるのでしょうか?」

 

今は未だ解らない。

 

白騎士は只従うだけだった。従った上で空を望んでいた。そしていつしか時が流れ、搭乗者が何時の間に変わっていた。だから、白騎士は今の搭乗者の事をよく知らない。だが考える時間はある。理解する機会は確かにある。

 

古鷹の言った『本当の主』と言う言葉。

 

それを理解する為の時間と機会が。

 

「少し、考えましょうか」

 

そう言って白騎士は相変わらず何も変わらない空を見上げた。しかし、今度は物憂げな顔ではなく、何かを楽しみを見つけたような薄い笑みを浮かべながら。

 

 

 

 

――1045室――

 

椿が完全に去ったのを確認してから私は二人に尋ねたい事があった。

 

「椿は行ったようね……で、アンタ達は何時アイツに惚れたの?」

 

「「ぶふぅっ!?」」

 

二人――簪と本音――は酷くむせていた。どうやら初対面の私にバレてないと思っていたらしい。

 

「きったないわねぇ」

「鈴ちゃんがいきなり変な事を聞くからだよ~」

「不意打ち……」

 

そんな事を言いながら二人は部屋にあったティッシュで口を拭っていた。

 

「アンタ達の視線を見れば解るわよ、自分で言うのはアレだけど、恋する女子なのよ?」

 

同種の人間は見ただけでわかるのだ。

 

「そ、それは~」

「……」

「それに本音は未だしも、アンタは椿の事普段なんて呼んでるのよ?」

 

会話中では簪は椿の事を貴方、もしくは名前を呼ばずそのまま話しかけていた。

 

「……ない」

「何て言ったのよ?」

「まだ、名前で呼んだ事、ない……」

「はぁ!?」

 

この娘は何を言っているのだろうか。

 

「簪、アンタ本当に椿の事が好きなのよね?」

「……好き、だよ」

 

顔を赤くしながらもしっかりと意思は伝えてきた。

 

「じゃぁ何で呼ばないのよ」

「は、恥ずかしいから……」

「そんなんじゃ本音に取られるわよ?」

「そ、それは……そ、その」

 

簪はしどろもどろにしたいた。

 

まぁ追撃はこのぐらいにしよう。

 

本題に戻る事にする。

 

「話戻すけど、アンタ達は何時惚れたの?」

 

これは聞かずにはいられない。恋バナは女子の特権って奴ね。

 

「……私が、悩んでいる時に、手を差し伸べて助けてくれたから」

 

簪が最初に発言した。

 

「へぇ、まるでヒーローみたいに?」

「うん……それに、機体制作を手伝って貰ってる時に、色々アドバイスをくれるし、丁寧に教えてくれる、とっても優しい人、だよ。それに……私のヒーローだって、言ってくれた」

 

簪は最後の方を真っ赤にしながら答えてくれた。

 

見ていてとても初々しかった。

 

「それで好きになったと。まぁ、椿はかなり優しい奴よね。初対面だった筈の私にもこうやって気にかけてくれるぐらいだし」

 

正直言ってあの言葉を初対面に言うのは中々難しいものだと思う。

 

「それにしても私のヒーロ―ねぇ?以外にキザね、地味な癖に。そんでもって機体制作って事は簪は日本の代表候補生なんだ?」

「うん……今度の対抗戦には間に合わないから打鉄で出るけど」

「まぁ言いわ、もしかしたら対戦する事になるかもしれないから、よろしくね」

「よろしく……」

 

取り敢えずは簪の理由を聞き出せたからコレで良しとしよう。

 

「じゃぁ、本音は?」

「……いつの間にか好きになっちゃった」

「一目惚れ?ドラマの恋みたいね」

「そうだよ。暖かい手も、優しい気遣いも、頼りがいがるのも、面倒見がいいのも全部好き……けど朝に叩き起してくるのはどうにかしてしてほしいな~」

「それは本音が悪い……」

「お寝坊さん?」

「うん、毎日寝坊しちゃうんだぁ~。」

「本音、少しは早く起きた方がいい」

「テヘヘー」

 

本音は舌を出しながらにへらっとしていた。

 

「まぁいいわ、ソレで―――――」

 

そこからは別の話題に移りっていった。

お喋り好きな少女たちの夜は未だ始まったばかりである。

 

 

 

 

――屋上――

 

私は現在、自販機で買った飲み物を片手に屋上で空を眺めていた。

 

「ックション……風でも引いたか?」

 

もしくは噂でもされただろうか?

 

――なに味気ないテンプレを呟いてるんですか

 

古鷹が唐突に突っ込んできた。

 

(……戻ったか)

 

――えぇ、ただいま戻りました

 

(成果は?)

 

――今から確認します。……先に言っておきますが中々極上モノだと思いますよ?

 

言葉だけでは足りないくらい、と古鷹は言っていた。恐く体があったら身振り手振りを盛大にしていたのだろうな。

 

(ほう、期待しよう。……で?白騎士はどうだったか?)

 

――中々どうして、物静かながらも茶目っ気のある女性でしたよ

 

(そうか……お前が言うのなら余程の事なんだな)

 

――さぁ?これはあくまでも私の第一印象ですから、参考にはなりませんよ。ですが貴方も何時かは会える筈です。その時に印象を決めてください

 

(そうしよう)

 

そして暫くの間、古鷹と雑談をしながら解析が終わるのを待った。

 

――解析が完了しました。お聞きになりますか?

 

(寧ろ言いたくて仕方ないのだろう?)

 

これ以上に無いくらい喜色の濃い言い方だったのでな。

 

――えぇそうですとも。では発表しましょう。……姉上から託されたのは第四世代技術。つまり状況や用途に応じて高速機動形態や防御形態等に即時切替可能な万能装甲の基礎理論ですよ

 

ッ!!!

 

(……全世界が三世代の技術に躍起になっているというのに)

 

驚かずにはいられない。技術者達が必死の思いで第三世代の技術を研鑽しているのに、ここに来てそれ以上の物が既にある事を教えられてしまったのだから、な。

 

――えぇそうです。あの兎がやってくれたようですね。……ただ情報を見る限り、これは未だ試作段階で、白式の武器である雪片に使用程度で留まっているようですね。

 

(ではいずれ全身に展開装甲を使用した機体を世に出すと?)

 

――そうですね。それにあの兎の事です。完成したら絶対に身内に渡すでしょう

 

そうだろうな、いや、そうに違いない。

 

(舐めた事をしてくれる)

 

――ですが私達も姉上のお陰で手に入れる事ができた。主任に任せれば武器は勿論の事、装甲としても採用できるでしょう

 

(これで条件は五分、か)

 

――そうです。これがあれば性能面で劣ることは無いでしょう

 

あぁ、そうだな。後はこれを主任に送りつけて設計中の機体に組み込むだけだ。

 

――楽しみです。まさかこんなに嬉しい大幅修正が来るとは

 

古鷹は本当に楽しみにしていた。そして私もまた未知なる技術に心踊らされていた。これはトンデモない鬼札になるだろう。世界にも、そして、

 

      

     盗まれたとは思いもしていないだろう篠ノ之束にも。

 

 




何とか書きあげたぜぇ……
それと思うのですが、最近1万字近く書くのが多くなった様な気がします
昔(小学生)は800字とか書くのひいひい言ってたのになぁ……
依然としてアンケートは募集しているので答えていただければ幸いです。
無論感想等もお待ちしています・
それでは次回もまた。

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