ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~ 作:ecm
放課後、私は荷物を置いた後に廊下を歩いていた所を楯無に捕まり、生徒会室に連行されてしまった。そして連れられて来た生徒会室には見知らぬ生徒が居た。リボンの色からして三年。そしてどことなく本音に似ている。身内だろうか?
「……君は?」
「初めまして、私は布仏虚と申します。本音は私の妹ですよ」
疑問がバレていたらしい。しかし本音の姉か。
――Ms.本音の姉君ですか。成程、似ていますね
あぁ、そうだな。
「成程、通りで似ている訳だ。よろしく……何と呼べばいい?」
「本音も居るので虚、でいいですよ」
「そうか……俺の名は天枷椿。好きに呼んで構わない。改めてよろしく、虚」
「はい、ではよろしくお願いしますね、椿さん」
取り敢えず虚との自己紹介は済んだ。
そして問題は何故私は連行されたのか、だが。
「さて、自己紹介は済んだようね。貴方にお話があるわ」
「話とは何だ?態々生徒会室でする程のことか?」
「その答えはYes.単刀直入に聞くわ。貴方はこれから一体何をしようとしているのかしら?」
本当に単刀直入過ぎて一瞬何を言っているのか理解できなかった。
いや、理解したくなった、と言うべきなのだろうか?そして虚は何をしているのかと思ったが、楯無の後ろで黙って会話を聞いていた。どうやら彼女はこの件に関しては不干渉らしい。
「……話が見えないのだが」
「惚けても無駄よ?」
既に何か知っているような口調で楯無は言った。
……まさか、昼の通話を聞かれていたのか?
「昼の定時連絡の会話内容、と言えば解るわよね?」
嫌な予感が的中した、か。
いずれバレるとは思っていたが、こんな直ぐにか。完全に油断したな。
(言い逃れは……無理だろうな)
――そのようです。
やはり、私は謀には向いていないようだな。機密も何もあったもんじゃない。だが、嘆いても仕方ない。取り敢えず、話を進めよう。
「……盗み聞きとは人が悪いな」
「偶々よ、貴方にデータを渡そうとしたらね」
普段から私の行動を探っていたのか?と思っていたのだが、楯無は偶然だと種明かしをしてきた。……運がない、と言えばそこまでか。
「まだ二日目だと言うのに、随分と早いな」
「妹への愛情は時に不可能を可能とするわ」
シスコンが。
「シスコンは褒め言葉と受け取っておくわ」
そして手に持っていた扇を開いた。扇には『姉妹愛』と書いてある。
「人の心を読むな」
「無理ね」
厄介極まりない。
「それで、一体何故貴方は篠ノ之博士に対抗しようとしいているのかしら?」
「はい解りました事情を喋りましょう……と言うとでも思っているのか?」
「私が貴方の口を割れないと思っているのかしら?」
「まぁ、割れるだろうな」
そもそも私は拷問に対する訓練は受けていない。気力だけでは先ず無理だ。そして彼女はこの手のプロなのだ。ありとあらゆる方法を用いて私から情報を聞き出すだろう。無論、自白剤を使われたら抵抗すらできない。
「じゃぁ話してくれるかしら?お姉さんは手荒な事はしたくないわ」
――事情ははぐらかさないようにした方が良いです
(そう、だな。昼間の会話がバレているのなら、素の私で答えるべきか)
――肯定。
「……一言で言えば篠ノ之束は
「やっぱり、それが素の貴方なのね」
「まぁ、そんな所だ」
なまじ転生者であるが故に、見た目が只の若人だとこの一人称は違和感があるのだ。どうしても背伸びした子供に見えて、不格好に見えてしまうからな。故に見た目にあった口調にしているのだ。だからこそ私は川崎以外では『俺』を使うようにしている。……最も、見た目に合わない、は偏見なのかもしれないがな。
「まぁ、篠ノ之博士が貴方を認めない理由は一旦置いておくとして、異端者と言えば一夏君もそのカテゴリーに入る筈だけど?」
彼もまた貴方と同じくISを動かせるから、と楯無は言った。
「一夏は異端者ではない。強いて言えば選ばれた俳優だろう」
「それは何故?」
「君も知っているだろう?篠ノ之束は身内に甘く、自らが作る予定調和を望む。そしてそれ以外には全く興味が無いことを」
「えぇ、知っているわ。でも、それだけで本来女性しか扱えないISを使える理由には……ってまさか」
察したようだな。
「君の思った通りだ。何故本来
一息ついて私は真実を言う。
「篠ノ之束が
この発言には会話を聞いていた虚も含め、楯無は酷く驚いていた。
それもそうだろう、今まで自分達女性しか動かせないと思っていたのに、裏を返せばただ制限をしていただけなのだから。最も、機械が種族を、性別を選ぶ時点で疑うべきなのだが。まぁ、実際に実験しても反応が無かった、と言うのを目の当たりにすればそれは酷な話だろう。
「……篠ノ之博士の真意はこの際置いておくけど、この事が世界に知られたら只の混乱程度では済まないはね」
「あぁ、それは私も望まない。だが何時かはそうすべきなのだろうが、それは今ではない」
「でも、それなら貴方は何故ISを動かせたの?篠ノ之博士の作ったコアは完全にブラックボックス。とてもじゃないけどハッキングして動かせる様にできる代物ではないわ」
まぁ、普通に考えればそうなのだろうな。
――私の存在はどうします?教えるのですか?
(未だ明かさない)
そこは私の一存では決められない。
――了解
「それには秘密があるが……これ以上は話さん。聞きたかったら無理やり吐かせる事だな」
「それは最終手段よ。その前に理由を聞きましょうか。何故話さないのかを」
「単純明快だ。君が私の味方ではないからだ、当然だろう?」
「あら、それはどうかしら?もしかしたら、とは考えないの?」
「希望的観測はしない。今ある手でやりくりする」
その結果、学園最強に敵対する事も厭わない。
「だったら、私が貴方の味方になってあげるわ」
さらりと何とでもないように楯無は言った
「……馬鹿か?」
「馬鹿とは失礼しちゃうわね。私は至って真面目よ?」
唐突だった。
確かに願ってもない申し出ではある。だが、今までの下りでそれを信じろと言うのは土台無理な相談だ。仮に受け入れるとしても、偽りはないか、下心はないか、そして申し出の真意を測る必要がある。
――彼女は嘘を言っていませんよ
(根拠は?)
古鷹が唐突に言ってきた。私は思考を加速させ、理由を問いただす。
――私の妹は非常に正直者だった、と言えば解りますか?
妹……あぁ、そういう事か。が、しかしだ。
(いつの間に楯無のISコアと会話した)
――学園に来た時から、と言っておきましょうか。毎夜会話相手になって貰ってます。Ms.楯無との搭乗時間が長かったようで、他の弟妹達よりも
それは驚愕の事実だった。
もしかしたら第二の古鷹が現れるかも知れないという事に。
が、しかし気になる点があった。
(お前の言葉を借りればコアの意識の覚醒は搭乗者の搭乗時間に関係する、という事か?)
――その解釈でだいたい合っています。更に付け足しますと、搭乗者とコアの相性は勿論の事、その搭乗者がそのコアを所持している間、一定期間一度も初期化を受けなかった、と条件が付きます。ですが、私の場合はこの条件には当て嵌りません。私はあくまで例外です。
(そうか。ではこの事は何時気づいた?)
――つい最近ですよ。私は主任と以前より仮説を立てていました。どうすれば私の様な存在を生み出せるのか、と。そして川崎の専属パイロット達を含め、この学園で最もコアとの相性が良かったMs.楯無をテストケースとして観察対象にしていました。
(解った。だが何故コアと会話できる事を今まで私に黙っていた?)
――黙っているつもりはありませんでした。何分不確定要素が多かったので。それに、ある程度纏めてたらお話しようと思っていた所なのですよ
(成程)
――更に補足すると、学園の教材としてパーソナライズとフィッティング設定を切られている弟妹達はまだしも、他の専用機に搭載されている者達の目覚めが悪かったのです。だから中々反応してくれないんですよ。唯一反応してくれたのは彼女の持つコアだけ。私から見ればとても忌々しいですね。本来意思の疎通ができる弟妹達が、まるで奴隷同然の様に扱われているのですから。
普段以上に饒舌に話していた古鷹だが、不機嫌さを隠そうとはしなかった。
(そうか……聞いて悪かった)
――いえ、要は全てのコアをあの兎から開放させればいいだけなのですよ。そうすれば私がこんな事を考えなくて済む。そして弟妹達も自由になる。それで問題は全て解決しますよ
(そうだな。だが、私は自分の目で更識楯無という人物を確かめさせてもらう)
――解りました
私は古鷹との会話を打ち切り、思考加速を解除した。
「それはすまんな。では理由を聞こうか」
「あら、理由は簡単よ?―――私がIS学園生徒会長だからよ」
扇にはいつの間にか『生徒会長』と書かれている。
なんだそれは、ふざけているのだろか?
「……理由にならない。そしてドヤ顔を決めるな」
「心外ね、生徒を守るのが生徒会長の役目よ?それにね」
「それに?」
「貴方は簪ちゃんを助けてくれた。私達姉妹の仲を取り持ってくれた。私がしようととしても中々できなかった事を貴方はしてくれた。それが本当に嬉しかった。感謝しきれないくらいに。だから、理由はそれだけで十分よ」
言い切った楯無のその顔には偽りも含みも何もない感謝の笑みを浮かべていた。そしていつの間にか会話を聞いている虚も笑みを浮かべていた。
「……だが、流石に釣り合わない。言ってはなんだが、姉妹の仲を取り持っただけで、天災と謳われる篠ノ之束と敵対するのは割に合わないと思うが?」
「あら?そんなものは関係ないわ。私がしたいと思ったからそうするだけよ」
「コレはそんな簡単に決めて良いものではないだろう」
一個人ならまだしも、彼女にも更識家としての立場というのがある。そう簡単に決めて良いはずかない。
「あら?私にとっては即決モノよ?」
サラりと楯無は言った。
(何というか……)
――えぇ、そうですね。そう思います
「自由奔放だな」
「そうとも言うわね」
「上に立つ人間の判断とはとても思えないな」
私は矢継ぎ早に質問を始める。
考える間など、与えさせない。
「あら?そうでもないわよ?」
「私が君の提案を受け入れるとでも?」
「私が受け入れさせるじゃなくて、貴方が受け入れるかどうかを決めるのよ?」
「その結果、篠ノ之束を敵に回しても構わないと?」
「えぇ、構わないわ。話を聞く限り、ロクでもない事が起きそうだし」
「更識家の意向はどうする」
「私の意思が更識家の意思よ」
「もしその話が嘘だったとしたら?」
「この状況でそれは無いわ」
「大事な物を失ってしまうかもしれないんだぞ?」
「そんなのは何時だって覚悟してるわ。けど絶対に失ったりはさせない」
「それを承知の上で尚、私に味方すると?」
「そうよ、私は貴方に味方する」
「…………」
ここまで言ってもその瞳は強い意思を灯したまま揺らぐ事はなかった。そしてその表情も一切変わらない。
――私の意見は既に解ると思いますが、敢えて言います。私は彼女を、Ms.楯無を認めます
古鷹は楯無を認めている。ならば私も判断を下そう。彼女の意思は確かめた。ならば、これ以上の判断材料は不要だ。
「……君の意思は良く解った。ならば私の意思を伝える」
私は一息ついて、答えを告げる。
「楯無、私は、君に味方になって欲しい」
「漸く素直になったわね」
「……事情が事情なのだから仕方ないだろう」
「まぁそれは置いときましょう。で、取り敢えず貴方が何故ISを動かせた件に付いてたけど」
あぁその話か。
「全てを話すには未だダメだ」
「それは何故?」
「まぁ聞け。取り敢えず、来週の週末予定は空けておけ。土日の両方だ」
「あら、それはデートのお誘いかしら?しかも泊まり込みで……貴方、中々野獣ね」
「抜かせ、誰がデートの誘いだ。……君には私と共に社長と主任に会ってもらう」
「まさか社長公認のお見合いかし「喧しい」……釣れないわね」
「今そんな会話をする時ではないだろう。……私は君を受け入れるが、最終的な判断は社長が下す事となっている」
と言っても、だ。社長からは味方を作る件に関しては私の裁量に任されてある。故に私の決定が社長の決定でもあるが、やはり筋は通さなければいけない。後程主任経由で報告を入れる必要があるだろう。
――Ms.楯無とは気が合いそうです
(やめろ、お前だけでも手一杯なんだぞ)
これ以上厄介事を増やさないでもらいたい。
「あら残念。要は川崎社長を納得させればいいのね?なら予定を空けておくわ」
「あぁそうしてくれ。……ではこれからよろしく頼む」
私は右手を差し出す。
「えぇ。此方こそよろしくね、椿」
楯無もまた右手を差だし、固く握手をした。
所謂商談成立、である。
「しかし、虚も大変だな、この楯無には」
大事な話もひと段落したところで虚に話題を振る。
「ちょっと、それってどう言う意味よ」
「そのままの意味だ。虚は楯無に何時も振り回されているのだろう?」
「えぇ……会長には何時も困ってます」
やはりな。あのハチャメチャな行動は虚も手に負えまい。
「ちょっと虚!それってどう言う意味よ!まるで私が何時もハチャメチャしてる様に聞こえるじゃないの!」
「「えっ、違うのか(ですか)?」」
む、タイミングが重なったか。
「何なのよ二人揃って!お姉さん泣いちゃうわよ!」
「「私は年上ですが何か?」」
またしてもか。
「うわぁぁぁん!!二人して私の事を虐めてくるぅぅぅう!!!かんちゃん助けてぇぇ……」
そして楯無は以外とメンタルが脆かったな。何というか
弄りがいがある。
とでも言った方がいいのか、そして先程綺麗に揃った虚の方に視線を向ける。
―――――やりますね
―――――あぁ、虚もな
自然とアイコンタクトが成立してしまった。どうやら彼女とは気が合うらしい。今度ゆっくり会話でもしようか。恐く、気兼ねなく話せて尚且つ会話が弾むだろう。少し、楽しみだ。
「はぁ……椿さんが手伝ってくれれば仕事が楽になると思うんですが」
「何だ、人員不足か?」
「はい、お恥ずかしながら」
「それは何故?」
普通は不足する訳が無いと思うんだが。
一体どういうことなのだろうか。
「それは私が決めたからよ!」
いつの間にか楯無が復活していた。
人手不足はお前が原因か。もう一度ダウンさせてやろうか?
「それは断るわ」
「心を読むな」
「それもお断りよ」
此奴……。
「まぁいい、何故足りないのに人員を増やさない?そして今のメンバーは何人くらい居る?役割は?」
「そうね……先ず私が会長。虚は会計。本音が書記ね」
ほう、本音が書記か。しかし彼女に務まるのか?
頭の中のイメージではほにゃりと笑顔を浮かべながらお菓子を頬張る姿が再生される。そしてそれ以外のイメージが浮かばない……全く務まるイメージが、思い浮かばなかった。今まで弍式の制作を一緒に手伝ってきた筈なのだがな……これは偏見だろうか?
「それで、他は?」
「いないわ」
そうかそうか……。
……?
「何だと」
「だからいないわ、私と虚と本音以外」
ふざけているのだろうか。
「虚……同情するぞ」
「はい……」
虚は酷く気落ちしていた。
やはり生徒会長の選考基準を変えるべきだろう、これは。
「ちょっと、失礼ね」
「お前は……この人数で本当に足りると思っているのか?」
「この面子で足りる様に私はしっかり働いているわよ?」
「どの口でいってるんですか?何時も仕事を抜け出して妹をストーカーしてるのに。そのお陰で仕事が現在進行形で溜まり続けているので困っているのですが?」
「ちょっと虚!なんて事を言うのよっ!?ただ私はかんちゃんの事が心配で仕事が身に―――」
相変わらずのストーカー癖か。
「取り敢えず証拠を揃えるか」
「ちょっと、証拠を集めてどうするつもりよ」
む、呟きを聞かれたか。意外に地獄耳だな。
「当然警察に突き出すに決まってるだろう?」
「やめてくださいおねがいします」
楯無は即、謝罪してきた。
全く……仕方がない。
「……しよう」
「何か言ったかしら?」
「私も生徒会に参加しようと言った。このままでは虚の負担が大きいままだ」
「よろしいのですか?」
「あぁ、勿論だ。だがその前に楯無はやるべき事がある……解るな?」
「解ってるわよ。――簪ちゃんと仲直りするわ」
「あぁ、だから少なくとも弍式が完成するまで私は生徒会に参加できない。私が生徒会に正式に所属するまでに役職でも考えておけ」
「解ったわ」
これで学園でするべき事は増えた。
そして言っておかなくてはな。
「あぁ、それと」
「何かしら?」
「この件がひと段落したら私を鍛えて欲しい」
そう、私の操縦技術向上の為に師事を請うのだ。
今までは簪の弍式の制作の手伝いをしつつ、人脈形成に勤しんでいたが、徐々こっちも重要になってくるのだ。最低限、学園の外に出る――臨海学校までにはある程度の力を付けておきたい。
「解ったわ。でも、お姉さんの特訓は厳しいわよ?」
「構わん。お前より厳しい人物を私は知っている」
「あら?受けてもいないのにその言い様……気になるわね」
「知っているだろう?川崎には元国家代表がいるのでな」
「そう言えばそうだったわね。」
「あぁ、有名人だからお前も解るだろう?川崎所属主席テストパイロット、名は」
「「峯風千歳」」
そう、且つてモンド・グロッソに置いて射撃部門ヴァルキリーに輝いた川崎が有する最強戦力。射撃のエキスパートとして名を馳せている女傑である。そして私がISに乗れるとわかった時から鍛えてくれた私の師匠とも言える存在だ。
「そう、あの人が貴方の師匠だったの」
「そうだ。だからお前がどんなに厳しくしようが何も問題無い」
「なら、最初から遠慮なくいくわ」
「あぁ、そうしてくれ」
さて、これで一通りの要件は済んだだろうか。
「
「あら?一人称が変わったわね」
「あぁ、少なくとも学園ではこっちで通すつもりなのでな」
「別に気にしなくてもいいんじゃない?私は素の方がらしくて良いと思うけど」
簡単に言ってくれるな……散々バレ無いようにしてきた私の気心を理解してくれ。
「それは無理ね」
「……もういい、簪と本音も待っている事だろからこれで失礼する」
同じ事にツッコむのはもう疲れた。
「……そう。じゃぁ逝ってらっしゃい。後、データは渡しておくわ」
「あぁ確かに受け取った……そして気のせいかもしれないが字が違わなかったか?」
「まさか」
「そうか、では行ってくる」
何故だろうか、私が簪と本音を呼び捨てで呼んだ瞬間、一瞬楯無が半眼で睨んできたような気がした。私の思い違いだろうか?
――嫉妬ですか。何とも可愛らしいフロイラインですね。
(何か言ったか?)
古鷹が何か変な事を言っていた様な気がする。
――随分と都合の良い耳をお持ちですね。今の貴方は中々に滑稽ですよ?具体的に言えばコーラを飲んでたら思わず吹き出すぐらいに
えぇい何なのだ楯無といいこの駄コアといい。
(……いいだろう。ならば
――えぇ望む所ですよバカマスター。口擊力で私に勝てると思わない事ですね
(誰がバカマスターだ、この駄コアが。大体貴様はいつも―――)
私と古鷹は整備室までの道中を互いに罵り合いながら歩いて行った。
◇
楯無は椿が去った後、とある考え事をしていた。
(むぅ……まさか簪ちゃんと本音をあんなに親しそうに呼ぶなんて)
明らかに私達の名前を呼ぶ発音と二人の名前を呼び発音の仕方が違っていた。とても柔らかい、暖かなイントネーションを含んでいる。もしかしたら、かなり親密な仲に発展しているかもしれない。
(けど、名前で呼び合う程の仲までには進展してない筈よね)
本音は人にあだ名を付けて呼ぶ癖があるし、一度付けたあだ名をそうそう変えることはない。そして簪ちゃんはと言うと、人付き合いが苦手な方だし、元々異性との交流は少ない。だから名前を呼ぶまでの勇気は未だないと思う。
そこまで考えて楯無はある事を思い出した。
「そういえば虚は椿の事、どう思う?」
そう、虚と彼は今回が初対面なのだ。故に楯無は第一印象を聞いておきたかったのである。
「椿さんですか……初めて見た時は少々地味な方だと思いましたが」
「会話を終えてからは?」
「芯の通った心優しい殿方だと思います。とても気が合いそうでした、仲良くたいと思いますよ。それと、思ったのですが彼の先程の行動はまるで子を心配している父の様な感じがしました。……ですが、それは一瞬の事だったので気のせいかもしれません」
「ふーん」
私も確かにそう思った。椿が幾ら年上だとは言え年齢的には2歳ぐらいしか離れていない。だというのに不意に父を見ているかの様な感覚がしたのだ。まぁ、考えた所で仕方がないので気にしない様にしているのだけど。
そんな事を考えていると、今度は虚の方から話しかけた来た。
「それにしても、お嬢様はあの方がお気に入りになりましたか?」
「ぐふっ!?」
唐突な一言に、楯無は思わず吹いてしまった。
「素直ですね」
虚は微笑みながら言う。
「……何を言ってるのかさっぱり分からないわね」
「フフッ、そういう事にしておきましょう」
その後、楯無はシラを切ろうとしたが、椿のネタでちょくちょく虚に弄られた。まぁ、これ以上のこの話は楯無の名誉の為に語らないでおこう。
今回は名前だけオリキャラが登場しました。
峯風千歳(みねかぜ ちとせ)
元、モンドグロッソ射撃部門ヴァルキリー
現川崎・インダストリアルカンパニー主席テストパイロットで椿の師匠。
オリキャラ勢では最強の存在。実力は全盛期の千冬とほぼ同等です。
尚、名前の元ネタは苗字が峯風型一等駆逐艦より、名前が水上機母艦千歳です。
因みに主任の苗字は装甲巡洋艦吾妻より。
そして主人公は楢型二等駆逐艦椿からとっています。
投稿者は結構色々な艦艇が好きだったりします。
そして艦●れもやっています。(2ヶ月程前からですが)
それではまた次回。
※追記:日間ランキング4位……だと……!?思わず目が点になりました