ーInfinite Stratosー~Fill me your colors~   作:ecm

16 / 54
第十二話:パーティーと前進と

あの一件から数日経ったある朝。

 

ジー

 

「……」

 

私は現在、いつもの様にのほほんさんの寝顔を観察している。

 

まぁ、見てて癒されるのだ。仕方がないだろう?決して変態ではない筈だ……多分。

 

――いやまぁ、確かに彼女の寝顔に癒されるのは同意しますが、他にも彼女の良いところがあるでしょう?そこに癒しを求めましょうよ

 

(あるにはある。だが、私はこっちの方が都合が良い)

 

――なんですか、恥ずかし――あぁっ!?折れちゃう、折れちゃぅうぅうう!?!?

 

妙な事を口走っていた古鷹のマイクの部分に”ちょっと”だけ力を込めて黙らせる。

 

さて、本当はもっと堪能しても良かったのだが……徐々頃合か。

 

私は一息入れて何時もの様に豪快に布団を巻き上げる。

 

「今日も今日とて目覚めの良い朝だなっと」

「ふにゃぁ!?」

「おはよう、のほほんさん」

 

のほほんさんは奇妙な悲鳴を上げて飛び起きた。

 

「……まだ7時なのにひどいよ~」

「残念だったな。俺がルームメイトである以上、7時でもアウトだ」

「鬼ぃ~悪魔ぁ~」

 

そう言いながらのほほんさんは恨めしそうに見てくる。

 

「なら起きれる様に努力すれば良いだろう?さぁ、目覚めの良い起き方をしたのだからさっさと支度を済ませるといい」

「最悪の目覚めだけど準備してくる~」

 

――貴方に雀の涙程の慈悲があれば……

 

(抜かせ、私にはあるだろう?海よりも深い慈悲が)

 

生活習慣を乱さないという慈悲(?)が。

 

――もっと可愛いを愛でてください。甘やかすぐらいに、生活習慣を乱すぐらいに

 

(愛でつつも手を抜かないのがプロだ、と主任は言っていたな)

 

確かウーパールーパーを躾けながらそんな事を言っていた。

 

――……あの変態はウチの椿になんて事を教えやがるんですかねぇ

 

古鷹は何かをブツブツ呟いていたが、まぁ気にしない事にした。

 

そして暫く待っていると、制服に着替えたのほほんさんがトコトコ歩いてきた。

 

「あまっち、お待たせ~」

「宜しい、では早速――――」

 

行こうか、と言おうとした瞬間に来客者を告げるノックの音が響いた。

 

「はいは~い」

 

のほほんさんが応対に出た。そして誰かと何言か親しげに話している。

 

「あまっち~かんちゃんが来たよ~。一緒にご飯たべよ~だって~。」

 

私はそうか、と返事をしながら部屋から出る。

 

「お、おはよ」

「あぁ……おはよう」

 

あれから簪とは普通に話せる様になった。とは言っても若干のぎこちなさは残っていたが……まぁ、それ程問題にはならないだろう。時間がどうにかしてくれる筈だ。

 

「では、早速行くとしよう」

「うぃうぃ~」

「うん」

 

そして三人で歩いていると丁度一夏と箒が部屋から出てきた。

 

「おっ、おはよう!」

「おはよう」

「あぁ。おはよう一夏、箒」

「今から飯か?」

「そうだな」

「じゃぁ一緒に食おうぜ。のほほんさんと……え~と」

 

一夏は簪の方を見て言葉に詰まっていた。どうやら名前は思い出せないらしい。

 

……あぁ、そういえば一夏はセシリア戦の時に簪を見かけていたが話をした事は無かったな。

 

「……更識簪、だよ」

「更識さんね、俺は織斑一夏って言うんだ。よろしくな」

「よろしく、織斑君」

 

簪はかつて恨みを抱いていた一夏に更識と呼ばれた事に過剰反応せず、普通に返した。

 

……無理をしているようには見えない。楯無の言う通り、本当に成長した様だな。

 

――その様ですね

 

「って言う訳で一緒に飯食っても良いか?」

「大丈夫だよ~」

「大丈夫」

 

二人は一夏の提案に同意した。

 

「満場一致、か。では行くとしようか」

「おう」

 

そして5人の一行は一路食堂へ向かった。

 

 

 

 

――教室――

 

あれから5人で会話を弾ませながら食事を終え、現在はSHRまでのんびりしている。

 

「一夏」

「おっ椿、どうした?」

「気になったのだが、訓練の方はどんな塩梅だ?」

 

未だ訓練は始まったばかりではあるが、セシリアがいれば問題無いだろうと思っている。たが、やはり気になるのは確かなので状況を尋ねて見たのだ。

 

「あー、それなんだがな……」

 

一夏は気まずそうに言葉を濁した。

 

「何があった?」

「いや、ちょっと箒達の指導の仕方がな……」

「問題があると?」

「……そうだぜ」

 

一夏は私の言葉に素直に肯定した。

 

「具体的に話してみろ」

「あぁ―――――」

 

※箒の場合。台詞一部抜粋

 

『こう、ぎゅいんとして、どどーん、だ。一夏、解るだろう?』

 

※セシリアの場合。台詞一部(?)抜粋

 

『防御の時は右半身を斜め上前方に15°傾けて(以下省略)解りますわよね?一夏さん』

 

聞けば、終始こんな状態だったらしい。

 

「はぁ……」

 

溜息しか出ないな。

 

――おぉう、両極端ですねぇ

 

激しく同意だ。

 

「前途多難だな」

「こんな時に椿がいないのは辛いぜ……」

 

切実に、とでも思っているのだろうか?

 

「と言ってもな。前にも言ったが俺は先約で暫く手伝えない」

「そういやその手伝いってどれくらいの期間までなんだ?」

「まぁ、少なくともクラス対抗戦の2週間ぐらい前に一旦区切るな」

 

簪もまたクラス対抗戦の練習を疎かにする訳にはいかないだろう。よって区切りが良いのが丁度2週間ぐらい前、という事になる。

 

「で、対抗戦後にまた手伝う事になるだろう」

「マジか……」

 

一夏はがっくりと肩を落とした。……何故か酷く可哀想に見えるな。

 

「まぁ、その代わりと言ってはなんだが、こういう休み時間にならお前が解らなかった部分を解りやすく、且つ簡単なイメージを教えてやろう」

 

流石に、私も少しは手伝った方が良さそうだ。

 

「恩に着るぜ……」

「まぁ、努力しろよ?お前自身の目標の為に」

 

コイツは家族を守る、と言うご大層な理想を公衆の面前で宣言しているからな。そう、その家族が世界最強であるにも拘らずに、だ。まぁ、斬新な世界最強宣言だとは思うがな。

 

――ホント、正しく”主人公”、ですよねぇ

 

あぁ、全くな。

 

「勿論だぜ!」

「――皆さんおはようございます!」

「おはよう諸君。さて、SHRを始める。さっさと席に戻れ」

 

一夏が元気良く返事をした所で山田先生と織斑先生が共に来たのでこの会話はここで終いとなった。

 

「ではまた後でな」

「おう!」

 

そして私は一夏と短い掛け合いをして自分の席に戻った。

 

 

 

 

――操縦訓練――

 

「ではこれより、ISの基本的な飛行操縦を実践してもらう。織斑、オルコット、天枷、試しに飛んでみせろ」

 

織斑先生の指示で私達はISを展開する。だが、一夏は私とセシリアよりも展開に時間がかかっていた。

 

「織斑、もっと早くしろ。熟練したIS操縦者は展開まで一秒とかからないぞ」

 

(素人にこれは手厳しいな)

 

――そりゃぁ弟ですから

 

「しかし改めて拝見しますと無骨ですわね……」

「それにあまっちの機体は他よりもちょっと大きいよね~」

 

一夏は見慣れていたが他のクラスメイトは見慣れていないため、うんうんと頷いていた。

 

まぁ普通のISが約3mなのに対しこちらは約4m半。そして通常のISの様な流線型の部分装甲ではなく、角張った全身装甲である。言いたい事は解らなくもなかった。

 

「よし、飛べ」

 

織斑先生の指示にそれぞれが反応し、上昇していく。

順にオルコット、一夏、私だった。まぁ私の機体は鈍足なので仕方がない。

 

『どうしたスペック上の出力は白式の方が上だぞ。もっと速くしろ』

 

無難に一夏は上昇していたが、どうやらそれでも駄目らしい。

 

「基礎は椿に教えてもらったけど、まだあやふやな部分があるんだよなぁ」

 

一夏はぼやきながら頭を掻いてた。

 

「あら一夏さん。私が後で理論込みで説明して上げますがいかが?長くなりますが」

「長くなるなら説明はいらないぜ……」

 

げんなりとして一夏はセシリアの提案を断った。まぁ、一夏曰くセシリアの説明は長ったらしい様だからな。できるだけ避けたいのだろう。

 

「フフフ、それは残念ですわ」

 

対してセシリアは断られた事で気分を害した様子は無かった。

 

『一夏! いつまでそこにいる! 早く降りて来い!』

 

いきなり大音量の声が響いてきた。

 

どうやら箒が山田先生から通信器を強奪したようである。その証拠に隣で山田先生が涙目になっていた。

 

(行き過ぎた嫉妬は醜いと言うが)

 

――本妻の器量を見せつけれないのでしょうね

 

今の所セシリアが一夏に猛烈アピール中。対して箒は同室と言うアドバンテージがあるもののそれを活かしきれず現在劣勢。このまま行けばまさかの脱落、といったところか。

 

『全員、急降下と急停止をやって見せろ。目標は地表から十センチだ』

 

その指示はオルコットは兎も角にも、私と一夏にはかなり無茶な問題だった。

 

私は以前より川崎でISの訓練はしていたが、メインが射撃+戦闘だったので急降下と急停止は殆どやったことはないのである。やったとしても戦闘中の見よう見まね。そして古鷹の機体の仕様上、余り必要が無かったのも要因として加えられる。

 

故にもう一度言ってしまうが、急降下と急停止は無茶な課題である。経験不足の面でも、機体の面でも、だ。そして一夏に関して言えば(以下省略)である。

 

「了解です。それではお二人とも、お先に失礼しますわ」

 

セシリアそう言いながらは急降下と急停止をやってみせた。どうやら目標通りにいったらしく、織斑先生から評価をもらっていた。

 

「上手いもんだなぁ」

「アレをお前もやるんだぞ?」

「お前もだろ」

「勿論だとも。では次は俺が行こう」

「わかったぜ」

 

――サポートは?

 

(訓練なら必要ない)

 

獲物を見つけた鷹になったつもりで急降下を開始する。

 

鈍重な機体ではあるが、急降下であればそんな事は関係なかった。そして徐々に地表に近づくに連れて私は次のイメージを膨らませる。

 

大きく翼を広げ、その場に静止するイメージ。

 

そしてスッと止まりし、急停止が成功した。

 

「20センチだ。次はもっと詰めれるように精進しろ」

「はい」

 

結果は微妙だった。どうやら空間認識にまだまだズレがあるらしい。

 

――素人にしては上手くやったほうです。下手をすれば――

 

ズドォオオオオオオオオオオンンン!!!

 

古鷹がそこまで言ったところで轟音が響いた。

 

――母なる大地と情熱的なベーゼを交わす事になりますね

 

(あぁ全くその通りだな。精進しよう)

 

「馬鹿者、誰が激突しろと言った。グラウンドに穴を空けてどうする」

「す、スイマセン……」

 

案の定、一夏は織斑先生に叱られた。

 

「大丈夫ですか一夏さん、お怪我はなくて?」

「あ、ああ。大丈夫だけど……」

「そう。それは何よりですわ」

 

セシリアが一夏の気遣う態度を見せる。

 

そしてそれを遠目で見ていた箒はそれが面白くないらしく、一夏とセシリアをジト目で見つめていた。

 

「……ISを装備していて怪我をする訳ないだろう」

 

箒は独り言の様に呟いた。

 

――ここは心配して駆け寄るのが正解でしょうに

 

(変な所で臆病だな)

 

――同意。もっと積極的になればいいのですが

 

「まぁいい。織斑は後で埋めておけ」

 

織斑先生はそう言って次の指示を出し始めた。

 

「では織斑、次は武器を展開して見せろ。そのくらい自在にできるだろう」

「は、はい」

 

一夏は右手に集中し、白式の右手に雪片弐型を展開させた。

 

だが、雪片の展開まで一秒かかっていた。

 

「遅い。0.5秒で出せるようにしろ」

 

織斑先生は一夏に厳しい評価を下した。

 

(相変わらず厳しいことだな)

 

――ブラコンですから

 

機械だからこそ思考が読まれないから自由に言えるのだろう。私が言えば、もしくは思えばバレて殴られる可能性がある。全く、いい身分なことだ。

 

「次にオルコット。武装を展開して見せろ」

「分かりましたわ」

 

セシリアはそれに応じ、右手にスターライトMk-Ⅲを展開した。

 

展開までに一秒とも掛かってない。流石は代表候補生と言ったとことか。

 

「流石だな。しかし、横に向けて銃身を向けるのはやめろ。それで誰を撃つつもりだ?正面に展開できるようにイメージしろ」

「し、しかし、これはわたくしのイメージを固めるのに――――」

「直せ、いいな」

「……は、はい」

 

しかし、構えに問題があったたらしく、織斑先生よりありがたいお言葉を頂戴していた。

 

「次に天枷。やって見せろ」

「解りました」

 

(手始めに何を出そうか?)

 

武装が多いから少し、迷うな。

 

――アレ、出します?

 

アレか。いいだろう……。

 

能力を行使し、イメージを高速で描いていく。

 

165㎜多目的破砕・榴弾砲

 

それは銃というにはあまりにも大きすぎ、ぶ厚く、重く、そして大雑把すぎた。

まさに鉄塊とも言うべき大砲だった。

 

――ベルセル(黙っていろ)

 

この榴弾砲の使用用途は建築物や構造物に対して使用される工兵用であり、本来ならば弩級戦車が積む様な代物である。

 

もし、ISに向けて放った場合はどうなるだろうか?

 

まぁ、ISには絶対防御があるので流石に搭乗者が死亡する事はないが、即、気絶するだろう。ボクシング風に言えば一発KOだ。しかしそれは撃つまで敵が待ってくれたら、の話である。

 

余りの反動のせいでその場に止まって関節を固定しないと撃てないのだ、これは。

 

「デケェ……」

「……何ですのそれは」

「おぉ~」

 

一夏とセシリアは驚愕し、のほほんさんは目をキラキラさせていた。

 

「これはビルの様な建物や船のような構造物を吹き飛ばす(・・・・・)ための武装だ。曰く、川崎の自信作の一つだとか」

「そ、そうですか…」

 

セシリアはビルや船を吹き飛ばす、という部分に若干青ざめていた。

 

まぁ無理もない。だが、川崎には計画案だけならこれ以上のヤバいモノも転がっている。ただし、全て計画案の時点で社長によって潰されている。……秘密裏に作っていたりする事も偶にあるがな。

 

「……まぁ、速さに関しては問題ない。他にも武装があったな。それも同時に展開しろ」

「了解」

 

榴弾砲を収納し、もう一度思考を加速させてイメージを固める。

 

展開 

 

背部武装

R:120㎜滑腔砲 

L:8連装AIML

 

主武装 

R:KIKU  

L:.50Cal Beowulf Le16

 

特殊武装

『アイアスの盾』

 

「ふむ……武装の種類が全て違って、且つ展開時間も問題ない。諸君、今天枷が見せたのが良い例だ。最終的には皆できる様になってもらうので、これを見習うといい」

 

――まぁ、少しばかりズルをしていますが

 

(ズルではない。使うべきものは使う。これはその内の一つだ)

 

これは私の持論であるが、技術はさて置くとして、能力ならば行使してより慣らさなければならないと思っている。絶対に違う、と言う訳ではない筈だ。

 

――まぁ、そうですがね

 

そして授業が進んでいきチャイムが鳴り響いた。

 

「時間だな。ではこれで授業を終了する。織斑、その穴を埋めておけよ」

「は、はい……」

 

そして一夏以外は校舎に戻っていった。

 

 

 

 

 

――放課後の食堂――

 

『織斑君、クラス代表就任おめでとうっ!ついでに天枷さんも副代表おめでとうっ!』

 

「ついでとは何だついでとは」

 

――日頃の行いが裏目に(喧しい)

 

幾ら何でもこれは酷い。

 

確かに、余り表舞台に立たない立ち位置に甘んじているのだからしょうがないと言えばしょうがないのだが……もう一度言うがこれは酷い。

 

そして皆テンションが異様に高く、見れば一夏は若干ついていけないでいた。尚、一夏の周りには一夏にお近づきになりたい他のクラスの生徒もちらほら見受けられた。

 

「フヒヒー、あまっち気にしない気にしな~い」

 

のほほんさんは笑いながらそんなことを言ってくる。顔には私を弄りたい、と書いている様でもあった。

 

……少し解らせる必要があるか。

 

――何が始まるんです?

 

(第一次お仕置きタイムだ)

 

「のほほんさん……君は俺を怒らせた」

「ほえ?」

「お仕置きをしてやろう」

「おぉっ!?」

 

素早く間合いを詰めて両頬を摘み、伸ばす。

 

「や~め~れ~」

 

グイッグイッ

 

暫くの間餅々っとした頬を伸ばしてやった。

 

「ならば反省するといい」

 

私を弄ろうとした事に。

 

わひゃったはらはなひて(わかったからはなして)~」

 

そしてのほほんさんは降伏を申してきた。

 

「ならば明日の夜の間食は抜きにする事で手を打ってやろう」

 

取り敢えず頬を伸ばすのを止めて条件を出す。

 

「う~……わかった~」

「まぁ、俺を簡単に弄れるとは思わないことだ」

「あまっちの悪魔ぁ~鬼ぃ~」

 

頬をさすりながらそんな事を言ってきた。

 

何とでも言うがいい。それに弄るならこの100倍は弄り倒して見せろ。無論、弄られたままでいる訳もないが。

 

――貴方はいたいけな少女にさえ容赦がないのですか

 

(容赦する必要はない)

 

――いや、容赦しましょうよ。情状酌量余地はあるでしょうが

 

例え余地があっても容赦するつもりはない。罪は罪なのだ。故にそれ相応の制裁は必要である。

 

――はぁ……

 

そこで溜め息をつくな。

 

「本音、来たけど……って、何をやってるの……?」

 

新たな来客、もとい簪が来た。

 

「あぁ簪さんか。少しばかりお仕置きをしていただけだ」

「そ、そうなの……?」

「あぁそうだ。――だろう?のほほんさんよ」

「うぅ……そうだよ~」

 

のほほんさんは赤くなった頬をさすりながら同意した。

 

「そ、そう……でも、本当に私は此処に来てよかったの?」

 

簪は少し不安そうにしながら質問してきた。

 

……少しは内気が良い方向に向かった、と思ったが、未だそんな事を言ってるのか。

 

「良いも何も、他のクラスの人も来ているんだ。君一人増えたところで何も問題はない。だから遠慮せずに楽しむといい。その為に色々と準備していたようだからな。それに、君は後ろ向きになるのを止めるのだろう?なら先ずここから始めるといい」

「わかった」

「うむ。素直でよろしい」

 

元々一組の人だけでは食べきれない量の料理やお菓子、飲み物等があったのだ。

 

恐らく、最初から他の組の者も呼んでいたのだろう。騒ぐなら盛大に、と言ったところか。

 

そして暫く三人で他愛の無い世間話を続けた。尚、時の人となっている一夏は相変わらずもみくちゃにされ続けている。そしてセシリアと篠ノ之はそれを面白くない、と言った表情を滲ませていた。

 

まぁ、今回ばかりは何も手を貸すつもりはないがな。

 

暫くすると上級生の人が一夏の前に現れた。どうやら新聞部らしく、一夏や私に取材しに来たらしい。取り敢えず私は席を立ち、一夏の下へと向うことにした。そしてのほほんさんと簪は私の後をついてきた。

 

「はいはーい、新聞部でーす。話題の新入生、織斑一夏君に特別インタビューをしに来ました~!」

 

熱々の話題は絶対に逃がさない、といった雰囲気である。

 

「あ、私は二年の黛薫子。よろしくね。新聞部副部長やってまーす。はいこれ名刺」

「は、はぁ」

「ではではずばり織斑君!クラス代表になった感想を、どうぞ!」

 

ボイスレコーダーをずずいっと一夏に向け、無邪気な子供のように瞳を輝かせている。

 

「えーと……」

 

一夏はどうやらインタビューに乗り気ではないらしく、だかそれでも取り敢えずは答えようとしていた。

 

「まあ、なんというか、がんばります」

「えー。もっといいコメントちょうだいよ~。『俺に触るとヤケドするぜ』とか!」

「自分、不器用ですから」

「うわ、前時代的!」

 

……私にとっては前時代的ではないのだが。まぁ言ってもしょうがないが。

 

「一夏、せめて近接特化IS乗りらしく『寄らば斬る。寄らねば寄って斬る』ぐらいは言ったらどうだ?それではあまりにもつまらなすぎるぞ」

 

私は一夏に諭す様に語りかける。

 

「お、それいいね!使わせてもらうわ!」

 

会話を横で聞いていた黛が私の言った文句を採用してくれた。

 

「是非そうして貰いたい」

「なっ!?椿、勝手に変な事を言うなよ!?」

「心外だな。俺はお前の為を思って言っているんだぞ」

 

(最も、最終的には私の為になるのだが)

 

主に娯楽目的で。

 

――あらやだ腹黒い

 

何とでも言うがいい。

 

「それにあの謳い文句はカッコよくて良いだろう?」

「いや、確かにその通りだけどさ、これは俺の為にならない!」

「喧しい。お前が強くなれば問題ないのだ」

「そう簡単に言うなよ!?」

「協力はしているだろう?」

「そうだけどさ――」

 

一夏は何か言葉を続けていた様だが、これ以上は話しても無駄と判断した。よって私ははいはい、と流して置くことにした。

 

「さて、織斑君の分はこれでいいかな。次はオルコットさんだね」

「私、こういったコメントはあまり好きではありませんが、仕方ないですわね」

 

と言いつつも満更でもないようである。その証拠にいつもよりも髪のセットに気合が入っている。具体的に言えばロールの巻数が増えているのである。

 

素直になれば良いものを。

 

――ですな

 

「コホン、では先ずどうして私がクラス代表を辞退しようかと―――」

「あっ、長くなりそうだからいいや。写真だけ頂戴」

「さ、最後まで聞きなさい!」

「いいよ、適当に捏造するから。取り敢えず織斑君に惚れたからってことにしよう」

「なっ、な、ななっ……!?」

 

それは事実なのだが。そしてソレに反応した外野はざわざわと騒がしくなる。主にセシリアの過剰反応についての内容であるが。

 

「じゃぁ最後に天枷さん、いいかな?」

 

最後は私のようだ。

 

「お手柔らかに頼む」

「じゃぁ質問するけど、何で前髪を伸ばしてるの?」

「それは企業秘密であり国家機密だ。俺には守秘義務が課せられている」

「何で企業秘密や国家機密になるの!?逆に凄く気になるんだけど!?……ちょっとくらい教えてくれもいいんじゃないかな?」

「だが断る」

 

悪いが、視線恐怖症など面白いネタにはならない。

 

「むぅ……じゃぁ仕方ないわ。じゃぁ次の質問だけど――」

 

その後特に突拍子な質問はこなかった。なので少し考え、名案を思いついたので、それに沿いながら質問に答えていく。解答内容は至って簡単。

 

以前一夏本人から聞いた情報を元に一夏を持ち上げ、一夏を利用し、一夏を褒めちぎり、締めに一夏を犠牲にしたモノである。

 

……完璧だ。我が秘策、ここに成れり。

 

思わず自分で自分を褒めたいぐらいだった。

 

――貴方という人は……

 

「――という事だ」

「ふむふむ。ってこれ全部織斑君の個人情報じゃない!?」

「おや、気付いたのか」

「つ、椿!お前は何を勝手に言ってくれてるんだ!?」

「そっちの方が面白いからに決まっているだろう?」

 

口をニヤリと歪ませ、サムズアップしてみる。

 

「面白いと言う理由だけで色々と俺の個人情報が……」

 

一夏はガックシと膝を着き、撃沈していた。

 

「ア、アハハハハー」

 

黛は苦笑いしていたが私から得た情報は手放さないようである。ちゃっかりとした性格だ。

 

「じゃぁコレで質問は終わるとしてっと……最後に織斑君とオルコットさんと天枷さんで写真を取ろうと思うんだけど並んでくれるかな?」

「そ、その写真は直ぐに貰えますか?」

 

セシリアは一夏と写真を撮る、という事に凄く反応を示した。

 

「そりゃもちろん」

「そうですか。それなら、今すぐにでも着替えて―――」

「時間も押してるからダメ。はい、さっさと並ぶ」

 

そして一夏、セシリア、私の順で並ぶ。

 

まぁ、この位置取りは私なりの友人へのちょっとした配慮だ。それに被写体としてもバランスも取れてるだろう。そこそこ良い感じで写る事は出来るはずだ。

 

「じゃぁ撮るよー。35×51÷24は~?」

「74.375」

「え、えーと……って早!?」

「はい、正解」

 

一夏には悪いと思ったが、思考加速させて正解を出させてもらった。

 

まぁ、なんだ。精々その間抜け面を全生徒に晒すといい。

 

そしてシャッターが切られる。

 

「ってなんで全員入っているんだ?」

 

(……女性とは、時に恐ろしいモノだな)

 

驚いた事にその場にいた全員が一瞬で写真に収まっていたのだからな。それにいつの間にか簪やのほほんさんも私の横にいた。

 

気付く間もなかった。

 

思考加速してた筈なのに。ある種のホラーである。

 

――何時の時代も女は強かと言いますが?

 

(まぁ、否定はしないが……これは違うだろ)

 

――まぁ気にせずに

 

「貴方たちは……!」

「まーまーまー」

「だってオルコットさんだけにいい所取りなんてね~」

「これは皆の思い出にすべきだよねー」

 

『ねー』

 

セシリアが何かを言おうとしていたが一瞬で論破されていた。

 

 

 

 

あれから夜遅くまでパーティーは続けられ、結局十時を回った所で解散となった。尚、織斑先生からは今回は特別だ、とお目こぼしを貰っている。

 

そして現在私は寮の廊下の一角で簪とのほほんさんと話し合っていた。

 

「そう言えばね、あまっち」

「む?どうした」

 

のほほんさんが何かを思い出したように話しかけてきた。

 

「あまっちは~偶に私の事名前で呼んでるよね~?どうして~?」

「……私も、気になる。偶に呼び捨てで呼ぶから」

 

……その事か。

 

――どうするのです?

 

(お前は静観していろ)

 

――仕方がないですねぇ。今回は特別に黙っていますよ

 

何時もそうしておけば良いものを……。

 

そして古鷹は沈黙した。

 

「……いけなかったか?」

 

私は念のため、確認を取った。

 

「そんなんじゃないよ~?」

「フレンドリーで、良いと思う」

 

のほほんさんと簪はそれぞれ自分の考えを述べていった。

 

……どうやら気に障った、ということではないらしい。私は安堵(・・)した。

 

(安堵、した?)

 

何故私は安堵したのだろうか?彼女達に嫌われなかったから、なのか?

 

……解らない。例え今考えたところで恐く答えは出ないろう。思考を一度止める。

 

「あまっちが呼びたかったら呼んでもいいんだよー?」

「私も、いいよ?」

「……ふむ、追々考えさせてもらおうか」

 

二人は名前を呼ぶ事を許可してくれる。普段の私ならそれに同意するだろう。だが、私はそれに同意できなかった。何故だろうか?……やはり、解らない。

 

「考える程の事でもないんだけどなぁ~」

「私もそう思う」

「まぁ、そうなのだろうがな………」

 

二人はそうは言ってくるが、私は言葉を濁した。

 

「何か、あったの?」

 

簪は心配そうに声をかけてくる。

 

「無いといえば嘘になる……少し、考え事があるのでここで失礼する。お休み」

「お、おやすみ……」

「あまっち……」

 

二人は私の態度に動揺していた。だが、私はそれを気にすることなく、この場を去った。

 

 

 

 

――屋上――

 

(何故、だろうか)

 

先程からそればかり繰り返してばかりだ。

 

――随分と悩んでいますね、貴方は

 

古鷹は普段の胡散臭い口調を止め、真摯な口調に変わる。

 

(私が一度失ったモノ、と言えばいいのだろうか)

 

それは前世の親なる友人達、そして前世でも今世でも失ってしまった愛しき家族達。

 

二度と手に入るまいと思っていた大事なモノ。私が求めた、大事なモノ。

 

(私は、恐れているのか?)

 

再び手に入った時、また失ってしまうかもしれないという事に。

 

そんな苦痛はもう嫌だと、避けて、拒否してしまうぐらいに。

 

(私は、随分と臆病なのだな……痛みを恐る、か)

 

昔の私ならどうだったのだろうか?足掻いて見せただろうか?

 

――人は本来臆病な生き物です

 

古鷹は私の自虐的な考えに反論してきた。

 

――立ち止まっていても何も変わりません。痛みを恐れてはいけません。人は痛みを知って初めて前に進めるのですよ?そうする事で人はどんな時でも前に進んできたのですから。

 

古鷹は私に諭す様に語りかけた。

 

(私は、前に進めるほど強くはないんだ)

 

どんなに歳を重ねようとも、な。私は心が弱いのだ。どうしようもないくらいに。

 

――ならこれから強くなれば良いでしょう?簡単な事ですよ。貴方が一度失ったモノとやらを再び取り戻して、ね

 

古鷹はそれが答えである様に断言してきた。

 

(……再び取り戻す、か)

 

私はその言葉を胸の内で反芻する。

 

――えぇそうですとも。取り戻しましょう。微力なれど、力添えしますよ。何故なら私が貴方の

 

                 

                『相棒』ですから

 

 

古鷹は力強くそう言った。そしてそれは人を惹きつける様な、とてもインパクトのある一言だった。

 

少なくとも、私にはそう思えた。

 

(……お前が女だったら間違いなく惚れているな)

 

機械知性で、更に男である事が勿体ない。

 

――残念でしたね。生憎私はソッチの気はないのですよ

 

(言ってろ。お前の様な男なぞ、ソッチの気があっても掘らん)

 

――それは私の台詞ですよ……まぁ、これ以上は不毛ですか

 

(あぁそうだな……だが、今は未だ心の整理が追いつかない。私が前に進むには少し時間が掛かる)

 

もっとも、早くて明日に決断するべきモノもあるが。

 

――進む気になったのならそれで良いです。ではそろそろ戻りましょうか

 

あぁ、そうだな。

 

それから私はこれからの事を考えって部屋に戻った。

 

部屋で待っていたのほほんさんは先程の事は何も言わずに私におかえり、と言い、次にお休みと言って寝始めた。

 

それに私はただいま、と返し、お休みに対してはは何も言わず、彼女が寝静まるまで本を読んだ。そして暫くして既に寝ている彼女の方を向いて一言呟いた。

 

「お休み……」

 

本音、そして簪、と音には出さず口だけを動かして私はベットに潜り込む。

 

普段は思わず本人達の名前を呼んでしまうが、意識して呼ぶのは、未だ無理だ。だが、明日から私も少しだけ前に進もうと思う。だから、その時は君達を――――――

 

その先は意識が朦朧としてきて、何も考えられなかった。只深い闇に、だが不思議と心地よい闇に私は包まれていった。





ご意見、ご感想、心よりお待ちしています!

追記
なんか日間ランキングで37位になってた……ありがとうございます!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。